【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「主の命令をただ忠実にこなす。そのためだけに我々もアーウェルンクスも作られた人形なのだよ」
シモンは耳をふさぎたくなった。そんなことは知りたくない。
知りたくない。知りたくなかった。だが、どうしても真実を知った今、以前のフェイトの表情が思い浮かぶ。
――僕は君たちとは違う
「ヤメロ・・・」
――ふっ、・・・友達・・・ね・・・それこそくだらない。僕にはそんなものは必要ない。欲しいとも思わない
「もう・・・やめろ・・・」
――・・・そうだ・・・僕は魔法使いだ
「あいつは・・・そんな奴じゃ・・・」
――そして僕は先ほどの紅き翼(アラルブラ)と何十年にも渡って対立する組織の幹部だ。さっきの攻撃は、僕の情報を知られたくないから・・・ただ、それだけだよ
「違う・・・あいつは・・」
――どうだい、驚いたかい? しかも僕はただの魔法使いじゃない。その気になれば僕は先ほどの彼らと同等に戦える力を持ち、君たちの首を一瞬で跳ね飛ばすことも・・・世界を滅ぼすことも可能だ・・・
「あいつは!」
否定したくとも、点と点が全て繋がってしまった。
あの時のフェイト。この時のフェイト。気にしないと言ってその時は流していたが、フェイトの違和感が全て今繋がってしまったのだった。
人形。世界を滅ぼす主に造られ、ただ命令を忠実にこなすだけの人形。
それが・・・
それが・・・
――ねえ、シモン・・・・聞きたい事があるんだけど、いいかい?
「・・・あっ・・・・」
――もし・・・僕も・・・君の前から何も言わずに立ち去ったら・・・・・・君は力ずくで連れ戻しに来てくれるのかい?
「ッ!?」
思い出した・・・
「そうだ・・・そうだったんだ・・・」
シモンは顔を上げた。
「どうした? 何か随分と取り乱している様子だったが?」
シモンの動揺にデュナミスは首を傾げた。だが、動揺は僅か。シモンはすぐに力強い瞳となって立ち上がった。
そしてシモンは・・・
「デュナミス・・・たとえ・・・お前や、そのアーウェルンクスシリーズが造られた存在だったとしても・・・」
「ん?」
「・・・俺は人形だなんて絶対に思わない」
「ッ!?」
全てを知ってなお、その言葉を自信満々に言った。
「・・・ぷっ・・・はははははははは、これは傑作だ。我々が人形じゃない? そもそもアーウェルンクスシリーズをよく知りもしないお前が何を言っているのだ?」
デュナミスの言葉は最もだった。しかし、デュナミスは知らない。シモンとアーウェルンクス。二人が奇妙な縁の末、力強い絆で結ばれていたことを。
「そうだ。人形なんかじゃない。例え元はどうあれ、俺の知るアーウェルンクスって奴は、俺にとっては大切な仲間だ!!」
「・・・お前は・・・何を言っているのだ?」
デュナミスは知らない。シモンが未来からやって来た者だということを。だが、シモンはそれでも構わずに言う。
「だってそうだろ! 人形が・・・闇鍋をするか?」
「・・・なに?」
「人形が学校のテストを皆でやるか? 人形が部活に入るか? 役職をするか? 歓迎会をするか? プリクラを撮るか? サバイバルゲームをするか? 一緒に学園祭をするか?」
「お前は・・・何を・・・」
「自信を無くしたクラスメートを奮い立たせるか!? 人の恋路を応援するか!? 身を張ってでも誰かを助けてくれるのか!」
「だから貴様は何を言っているというのだ!?」
思い出す。たしかにフェイトは人形臭いところがあるかもしれない。
でも、誰よりも人間臭いところを感じさせる奴でもあった。
そう、思い出がいっぱいありすぎる。フェイトの人間らしいところなど、いくらでも思いつく。
「たしかに命令を受けていたかもしれない・・・でも・・・俺たちと過ごして共に一緒に居たのは、命令でもなんでもない。全部、あいつの意思だ! 一緒に戦ってくれたのは、あいつの心だ!」
だからこそ、人形扱いするデュナミスに叫ぶ。
「あいつは俺たちの仲間だ! 人形だなんて言うんじゃねえよ! あいつは・・・あいつだ! ダイグレン学園、ドリ研部所属の俺の親友だ!!」
シモンの叫び。それはこの時代に居る誰にも理解できない言葉だろう。
だが、シモンは叫ぶ。そして、フェイトを受け入れる。例えフェイトが何者であろうと受け入れる。
――バカだよ・・・君は・・・たったそれだけで・・・自分がどれほどの凶悪犯罪者を受け入れようとしているのか分かっているのかい?
「良く分からんが、貴様はプリームムと面識でもあるのか? まあ、奴に友など居るとは思えんが、そもそもお前が友だと叫んでいる者の正体が分かって、そう言っているのか?」
デュナミスの言葉とかつてのフェイトの言葉が重なる。あの時と同じ言葉を、今は10倍の気持ちを込めてシモンは言う。
「そんなもん、魔法使いじゃない俺には関係ない。友達になれるかどうかは、俺が決める!!」
デュナミスに。この組織に。そしてシモンは己自身にその言葉を言い聞かせたのだった。
ようやく知った友の真実。それをシモンは、今こそすべて受け入れたのだった。
「ふふふふ、はははははははははははは!! なんとも滑稽な話ではないか! まさか、アーウェルンクスシリーズを捕まえて友達とは、くくくく」
デュナミスはこれでもかと笑った。バカにしているかのようにシモンを嘲笑った。
「ふん、しかし貴様がプリームムと知り合いとはな。まあ、後で聞くとしよう。どうせ奴のことだ。貴様のことは何とも思っていないはず」
プリームムではない。シモンの友の名は、フェイト・アーウェルンクスだ。
「今・・・分かった。俺にできること」
「ふん、できること? 何ができる! くははははは、貴様にできることと言えばただ一つ! さっさと死んで、我等の大義の邪魔をしないことに他ならない!」
話が終わり、ようやくデュナミスが再び襲い掛かって来た。
するとシモンはブツブツと何かを呟きながら、目をカッと見開き、拳が砕けるほど思いっきりデュナミスを殴り飛ばした。
「ぬあああ!? こ、こんな力が・・・まだ」
殴られたデュナミスが顔を上げる。するとそこには、デュナミスの背筋を初めて凍らせるほど、気迫に満ちたシモンが居たのだった。
「お前らがあいつの仲間だなんて認めない。あいつを人として扱わないあいつの居場所なんか、俺がぶっ壊してやる!」
「ん・・・ぐっ・・・・貴様・・・・」
「そして元の世界に帰ったら、あいつに言ってやるんだ。お前の真実なんかで、俺たちは変わったりなんかしない。俺たちをいつまでも見くびるんじゃないってな!」
その時、デュナミスは全身の鳥肌が立った。
(バ、バカな・・・ドリルもなくして、満身創痍なこの男が一瞬私より・・・)
また・・・いや、更にあふれるシモンの内なる力。
(この男・・・一体・・・・ぐっ・・・バカな、この私が・・・・何を恐れるというのだ!)
デュナミスは、恐れは気のせいだと、身を奮い立たせてシモンに向かう。
「何もできるものか! 仲間もドリルもなくした貴様が、何を成すというのだ!」
「ドリルなら・・・ある!」
「なに!?」
「この胸の中にあるのが、俺のドリルなんだよ!」
「ッ!?」
デュナミスの腹部が貫かれた。
何も持っていなかったはずのシモンの手。
だが、気づけばシモンの腕がドリルになっていた。
「バ、バカな!?」
デュナミスの腹部には、ドリルで貫かれた穴が痛々しく刻まれた。
「俺はあいつに言ってやる! お前の居場所は俺たちのそばだ! お前はずっと一緒に居ていいんだぞってな!」
「ぐっ・・・なにを・・・」
「お前たちに俺たちの大切な仲間は渡すもんか!」
どうやって? 何が起こった? そのデュナミスの疑問は誰にも答えられない。
何故なら、シモン本人もよく分かっていないからだ。ただ、気合でドリルを出したという答えしかない。
だから、どれだけデュナミスが頭を悩ませても無意味だった。
「デュナミス。決着をつけてやるぞ!!」
「なっ!? まだ上がるというのか!? この光り輝くエネルギーは一体なんだ!?」
シモンの腕のドリルが激しく回転する。
その回転のスピードがみるみる上昇し、そのたびにシモンの身に纏う光の輝きが増していくように見える。
デュナミスも。そしてこの状況を眺めているアルも、自分たちの目の前に居る男は、ひょっとするととんでもない人物だったのではないかと、今になって思うようになった。
「いくぞ!」
「これはまずい! 退避を!?」
シモンが高速回転のドリルを掲げて走り出した。
デュナミスは肌でその威力を予想できた。くらったら絶対にダメだと、直感で分かった。
完全に回避の態勢をしていたデュナミスは、寸前のところでシモンのドリルを回避した。
「ちっ!」
「ふっ、そんなものに付き合ってられるか!」
攻撃を回避されたシモンは、その勢いが止まらずどんどん部屋の奥へと進んでしまう。
勢いが付きすぎたそのドリルの先に・・・
「あっ・・・とっ、止まらない!?」
「お、おい貴様・・・その先は・・・って、ちょっと待てえええええ!!」
そのドリルの先に、アーウェルンクスシリーズの棺が置いてあるというのに。
「ああああああああああああああああああ!!!!」
――ぐしゃあああああああん!!
シモンのドリルが、アーウェルンクスシリーズの棺の一つに突き刺さった瞬間だった。
「あ・・・・・」
さっきまでのシリアスモードから、シモンは一気に青ざめた。
「ちょっ、おまっ・・・きさま・・・なんということを!?」
デュナミスもパニくった。
「ど、どうしよう!? ドリルが刺さっちゃったよ!?」
「早く抜かぬか!?」
「どうしよう!? なか大丈夫かな!?」
「お、おそらくは。大体それはマスター以外に開けられぬし、特殊な魔力でしか起動できぬ。だから大丈夫だとは思うが・・・」
この時は敵も味方も忘れてシモンとデュナミスは大慌てした。
貴重なアーウェルンクスシリーズの封印されている棺にドリルをぶっ刺されるなど予想もしなかったデュナミス。
友が眠っているかもしれない棺にドリルをぶっ刺してしまったシモン。
二人は互いを見合い、そーっとそーっと、ドリルを棺から抜いた。
すると・・・
「ぬっ!?」
「バ、バカな!?」
ぷしゅーっと音を立てて、何と棺が開いたのだった。
「バ、バカな!? 鍵もなしに開けるだと!? バカな、この男も我が主と同じ、世界創生並みの力を持っているというのか!?」
デュナミスの言葉、今はどうでも良かった。
とにかく扉が開いてしまった。
もしこの中身がフェイトだった場合、本来の歴史では20年後に会うはずだったシモンとフェイトがこの場で会ってしまったら、歴史はとんでもないことになってしまう。
シモンは恐る恐る箱の中に視線をやる。
すると中からは・・・
「・・・あれ?」
少し予想の斜め上行く者が出てきた。
「・・・君は・・・まさか・・・フェイト・・・じゃ・・・ない・・・」
フェイトと同じような服を着ている。ただ、中から出てきた者はフェイトではなかった。
髪の長さも違うし何より・・・・
「お・・・女の子?」
胸のふくらみがあった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
箱の中から出てきたフェイトによく似た女の子。
初めてシモンが黒ニアと出会った時。初めてフェイトと出会った時。その時を思い出させるようなクールで何を考えているか分からない瞳。
彼女はシモンをジーッと見ながら、ついに口を開く。
「あなたが・・・・・・・・・・」
「な、なんだ?」
「あなたが私のマスターですか?」
・・・・・・・・・・・・・
「それじゃあ、フェイトじゃなくて、Fateだよ!? って・・・俺は何を言ってるんだ!?」
あまりの予想もしない言葉に一瞬変なツッコみを入れてしまったシモン。
「がっ・・・・・・・あがっ・・・・・が・・・あがっ・・・・」
デュナミスは口を開けたまま、固まってしまっていた。
何かを言っているようだが、驚愕の表情のままで、何を言っているのか分からない。
すると、デュナミスとシモンの混乱を無視して、現れた彼女はシモンの頬に触れる。
「なっ・・・なにすんだよ!?」
「エネルギー反応感知、エネルギー成分一致。あなたを私のマスターとして承認いたします」
「・・・・・・えっ?」
話が勝手に進んでいく。彼女はただ淡々とシモンに目を見開き、呟いた。
「インプリンティング(刷り込み)開始します」
「えっ!?」
そして勝手に進んだ話は、ついに取り返しのつかないことになってしまった。
「あの・・・・君は・・・」
彼女は急に、シモンの前に片膝を突き、まったく抑揚のない声で答えた。
「初めまして。私は水のアーウェルンクスを拝命、名は『セクストゥム』。生涯あなたにお仕えいたします」
「いや・・・あの・・・・」
「あなたの望むことはなんなりと『マイ・マスター』」
「・・・・・・・・・・えっ・・・・・」
もう、取り返しがつかなかった。
「どこの、そらのおとしものだよ!?」
とりあえずツッコんでみたけど、もう遅かった。
なんやかんやでシモンは・・・・
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
とんでもない物を手に入れてしまったのだった。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、よりにもよってソレをォォォォォォ!? シモォォォォォォォォンッ!! おまっ・・・おまっ・・・なんばしよっと!?」
ようやくハッとなったデュナミスは血涙を流しながら、言葉遣いも忘れて叫んでいた。
「意外な・・・展開ですね・・・」
アルの冷静なツッコみは、誰にも届かなかった。
世界樹広場でシモンの帰りを待つダイグレン学園の仲間たち。
彼らは目の前で楽しそうなお祭り騒ぎに加わることなく、シモンが帰ってくるまでその場から離れなかった。
余談だが、世界樹広場の近くはこの時、特殊な魔力が働いていて、告白すれば120パーセント成功するというすごい力があったらしいが、ダイグレン学園が世界樹広場に屯っているせいで、告白ポイントとして使用する生徒が極端に減ったのが後の調査で分かった。
「それにしてもよ~、フェイトの女装は可愛かったよな~」
シモンを待つまでの話題作りで、キヤルがフェイトの女装について話し出した。
「なんだい、急に?」
「だってさ~」
「確かに。あれはあれで、すげーインパクトだった」
「そうそう。フェイトって女装が趣味だったの?」
その話題に身を乗り出す一同。フェイトはプイッと顔を背けて無視した。
(まったく・・・別に僕だって好きであんな恰好したわけじゃ・・・)
その時、ふとあることを思い出した。
(女装・・・女・・・そういえば・・・・)
そのふと思い出したことが、どれほどタイムリーなのかをフェイトはまだ気づいていなかった。
(確か女性型のアーウェルンクスもあったらしいけど、20年前の大戦の騒ぎで消失したという話を聞いたな。ただ、その話題をデュナミスの前ですると無言になったけど・・・・・まあ、関係ないか・・・)
関係大有りだった。