【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「どんな天才や英雄でも、たった一人では世界を変えられぬ。だが、天才や英雄がたった一人でも欠けたらどうなる? たった一人では変えられぬのに、たった一人欠けただけでは何もできなくなるのか?」
その者は、水面下にずっと潜んでいたがようやく動き出した。
「シモン・・・お前ひとりだけでは世界は変えられない。お前はそれを仲間で乗り切るだろうが、その仲間はどうだ? お前の仲間はお前一人欠けたらどうなるのだ?」
彼の目の前には、仲良く寄り添い合いながら眠りにつくシモンとニアが居た。
彼は優しくシモンの頭を一度撫でようとしたが、途中でやめる。
代わりにその掌に緑色に輝く光を凝縮させ、その光をシモンに向ける。
「さあ、20年前と同じように私の心に風穴を開けてみるがよい。あの時の選択が正しかったのか・・・今度は同じ時代で証明して見せろ」
光がシモンを包んだとき、麻帆良学園祭最終日の最後の戦いが幕を開けることになるのだった。
何が何だかわからない。
天才少年のネギの思考が追い付かない。
「猫耳メイド服のフェイトに、フェイトによく似た女の子? ・・・何が・・・どうなっているの?」
もはや超がどうとか、問題児がどうとか、とにかく学園祭期間中にネギが抱えている問題など全てが小さい事のように思えた。
「あの・・・ネギ先生? 高畑先生や学園長からは何か?」
「いいえ、何も」
「肝心なところでそれでござるか・・・」
ネギ同様に、完全武闘派の刹那と楓ですら一歩後ずさりする。
目の前の二人の底知れぬ強さと、フェイトの何だかよく分からないが人を馬鹿にしたような姿に戦意を削がれてしまった。
「・・・フェイト・・・君が女の子の恰好をするのはいい。人の趣味はそれぞれだ」
「は、はい・・・というか・・・その・・・あれだな・・・」
「うむ・・・めんこいでござるな」
「いや、そんな温かみの混じった憐れんだ目で見なくても!?」
ネギの疑問は刹那と楓も同じ。
「その・・・同じ部活同士の君と超さんがどうしてこんなことをしたのかは分からない。ちゃんとその理由は教えてもらう。でもその前に・・・」
とにかく超とフェイトの仲たがいもそうだが、フェイトのやけに似合う女装もそうだが、やはり一番気になるのは当然このこと。
「その子は一体誰なの?」
後ろで「うんうん」と頷く刹那と楓。何と答えるべきかとフェイトが頭を抱えていると、指をさされたセクストゥムが勝手に喋りだした。
「私はマスターに使える水のアーウェルンクス、セクストゥムです」
その名に、緊張が走る。
「水の!?」
「アーウェルンクス?」
「・・・マ、マスター?」
なんだかすごそうだが、一瞬の間をおいてネギたちは叫ぶ。
「「「・・・で、結局それは何なんだ!?」」」
一体何のことを言っているのだろう? 情報が少なすぎてネギたちでは把握しきれない。
「私はマスターの命により、フェイト・アーウェルンクスという名の兄様を連れ去りに来ました」
「マ、マスター・・・ですか? あなたは、誰かのパートナーだって言うんですか? って、兄様!? フェイトの妹!?」
「あ・・・いや、そういうわけじゃ・・・」
一体誰だ? この謎に包まれ、そしてまるで底の知れぬ実力を内に秘めた者を裏で糸を引く人物は?
「マスター・シモンこそ、私の唯一無二の主です」
「「「はあッ!?」」」
シモンがマスター。
魔法とは無縁の世界に居たはずのシモンがどうして?
「って、シモンさん!? 何でシモンさんが・・・」
さらに、武道大会以来、麻帆良学園都市公認となった恋人のニア、そしてシモンに近づくものには容赦ない黒ニアが許したのか?
「しかもこんな可愛い人がパートナーだなんて、黒ニアさんはどうしているんですか!?」
ネギがシモンと会っていなかった時間は、武道大会から数時間程度しか経っていない。
「シモンさんは何やってるんですか!?」
「あの人は、昼間はあれほどニアさんとの愛を叫んでいたのに」
「う、浮気でござるか? いや、ネギ坊主の仮契約とやらと同じ扱いになるのならあながち浮気とも・・・う~む」
「い、いえ楓さん! 僕と違ってシモンさんとニアさんは完全なる両思いなんですよ? 僕の場合とは少し違うような・・・」
「しかし、ネギ先生。この女が嘘をついているとも・・・っていうかフェイト・アーウェルンクスのこの格好といい、ダイグレン学園はこの数時間で何をやらかしたのでしょうか」
まさか20年前の魔法世界で、歴史に残らないものの伝説級の戦いを繰り広げてきたなどとも言えない。
何か全てをうまくごまかす方法は無い物かとフェイトが頭を抱えると、空気の読み方も知らないセクストゥムが先に動き出した。
「1・・・2・・・3名の排除・・・」
「「「へっ?」」」
「ま、まずい!? 逃げるんだ、ネギ君! 桜咲刹那!」
だが、もう遅い。
「マスターの任務遂行の妨げとなるあなた方を排除いたします」
セクストゥムはネギたちを障害とみなして力を振るう。
「来ます、ネギ先生!?」
「えっ!? なんでですか!? って、その、暴力は良くないと思いますよ!?」
「そうは言ってられぬでござる。フェイトクラスの実力者と思い、当たらねば!」
本来この時点で、ネギたちのすべきことは、逃げることであった。
「神鳴流・・・」
「楓忍法・・・」
「雷華・・・」
だが、なまじ実力と勇猛さがあるがゆえに、応戦態勢を取ってしまう。
そしてネギたちは知る。
最強クラスの力を持つセクストゥムの前に、ネギたちの力など児戯に等しかったということを。
「ながれなさい」
「「「ッ!?」」」
一瞬だった。
「水泡水龍弾」
まるで鉄砲水のような大量の水がセクストゥムから放たれた。その水流は龍の形となり咆哮し、三人の手練れを一瞬で押し流した。
「ネギ君!?」
そして彼女は容赦と言う言葉すら知らない。
「うわあああああああああァ!? なななな、なんて!?」
「ネギ先生!? ぐ、・・・な、楓ェ!」
「バカな!?」
抗うどころか、為すすべなく流される三人。
このままではどこまでも流されると思ったネギたちは、魔力、そして気を解放して無理やり水の中から飛び出して、建物の屋上に避難する。
「く、信じられぬでござる! これまで見たどの水遁忍術とも比べ物にならぬ!? しかも、水のないところでこれほどの!?」
上から見下ろしてみると、セクストゥムはフェイトよりもはるかに冷たい瞳で睨んでくる。その冷たさにゾクリとさせられる。
「ぶ、無事ですか!?」
「ええ・・・なんとか・・・」
「しかし、これは・・・」
三人はこの一撃だけで全てを悟る。
「楓・・・なんとかなるか?」
「・・・無理でござる。それにあの者、本気を出せばまだまだこんなものではないはずでござる」
この女は格が違うと。
「フェイト!? 一体どうなってるんだ! この君に似ている女の子! そして超さんを倒した君! 君たちはこの学園で何をしようとしているんだ!」
ネギは震え上がる。
これまではダイグレン学園という個性あふれる者たちの中に潜んでいたフェイトが、ついに水面下から顔を出した。
超という手におえない問題児をどうしようかと思っていた矢先に、その超すら圧倒するフェイト。
そして今目の前にはフェイトに似て、桁外れの力を持つ女まで居るのだ。
この学園で何を企んでいる? そういう不安を抱いても仕方のないことであった。
「え・・・・いや、そんなこと言われても」
しかし、フェイトも困った。
何をしようも何も、何もしないで立ち去るつもりだっただけに、フェイトは返答に困った。
だが、フェイトがそうであろうと、周りがそう思わない。
「フェイト・アーウェルンクス! 貴様は京都で我々と対峙した。お嬢様の誘拐に関わったお前を、私は本来許しはしなかった。だが、貴様は変わった。ダイグレン学園に通いだし、私は貴様の人間らしさを知り、気づけば貴様に対する憎しみは薄れていた! なのになぜだ! シモンさんたちと共に過ごした貴様は楽しそうだった! それを・・・それをどうしてこんなことを!?」
刹那も苦しそうに叫んでいる。まるで信じていたものに裏切られたような感覚。
フェイトは「ん?」と思った。
(まて・・・これは何だかマズイ展開じゃないか? 何だか激しく誤解されているような気がする。まるで今まで仲の良かった人物が、実は潜入してきた敵のスパイだったとバラされて、それまで仲の良かった友たちが信じたくないと叫んでいるような展開に見える・・・・)
正にその通りだった。
「拙者も同じでござる! フェイト殿・・・武道大会で誰よりも先にシモン殿を助けに行ったのは誰でござった!? あれが嘘だとは絶対に言わせぬでござる!」
糸目で普段ボーっとしている楓ですら熱を込めて怒っているような気がする。
「ま、待ちたまえ! 今君たちに攻撃したのはセクストゥムじゃないか! 僕ではないぞ?」
「では、その子は貴様にとって一体何なんだ!? 何よりも貴様自身も超さんを傷つけたではないか!」
「あれは、超がただ気に食わなかっただけだ!」
「気に食わないという理由で、超さんを!?」
「とりあえず刀をしまえ、桜咲刹那! 超と僕の間には人には口出しできない物がイロイロとあるんだ! そして、セクストゥムに関しては一切僕に責任はないぞ!」
「き、貴様・・・この期に及んでそのような無責任な発言を・・・」
「ほ、本当だ! 大体セクストゥムのマスターはシモンで! って・・・あ・・・」
思わず叫んでしまったフェイトは、自分の失言に気付いた。
案の定、刹那たちも固まっている。
「シモンさん・・・そうだ・・・シモンさん!」
「い、いえ・・・ネギ先生、シモンさんは何も関係ないような・・・」
「いや、しかし刹那・・・シモン殿は超と関わりはあるでござる。当然、フェイトとも。何故なら彼らは・・・」
「そうか、同じ部活!?」
シモン。そこに全ての謎を解くカギがあるかのごとく勘違いしたネギたちは、ハッとなる。
「さきほども・・・あの女は、自分のマスターがシモン殿だと・・・」
「そうだ、あの人はシモンさんのご命令だって。それじゃあ、裏で糸を引いているのは・・・シモンさん?」
バラバラになったピースを填めていくかのごとく、推理するネギたち。
「くっ・・・どうやら、超殿の件と今回のこと・・・張り巡らされた深い何かが動いているようでござるな」
「いや、そこの忍者! 冷静に何をとてつもないことを!?」
「シモンさんが只者でないことは知っていた。そうだ、フェイトだけでなくあの超さんもシモンさんとの交友があった。学園祭で暗躍していた超さん・・・その超さんを今この場で手をかけたフェイト・・・そしてこのセクストゥムという子・・・全てがドリ研部・・・そしてシモンさんに繋がっている!」
ネギたちはまるで衝撃的な事実を知ったかのようにガタガタ震えている。
「そうだよ。大体あのフェイトがこんな女装を自らするなんて考えられない・・・もし、このセクストゥムさんと同じように、フェイトすら裏で操る者が居たとしたら・・・まさか・・・」
「あっ、いや・・・僕の女装に関してはシモンたちの所為では・・・」
「そ、それじゃあ! フェイトたちを操って、超さんにまで手をかけたのは・・・この黒幕は・・・この黒幕は!」
「って、マテマテ! さすがにそれは勘違い過ぎる!」
まるで迷探偵ばりの推理をしていくネギ。フェイトが必死に止めようとするが、ネギはブツブツと言っては、頭を左右に振る。
「ち、違う! そんなはずはない! シモンさんが・・・そんなこと、僕は信じない! あの人は、愛する人のために命を賭ける人。その姿に僕も教師としてではなく、男として多くを学んだじゃないか!」
「いや、うん。それで正しいんだ! そんなシモンが悪の組織のボスのような推理は大外れだから!」
ネギはダイグレン学園でわずかながらに教鞭を振るっていたゆえに、シモンもネギにとっては生徒だった。
「超さんは、この学園祭で何かを企んでいた。魔法先生たちもそれは注目していた。でも、その超さんを・・・さらに裏で操っている黒幕が居て・・・用済みになった超さんを・・・いや、ありえない! そんなはずはない!」
シモンは、最初はカミナという男の後ろに隠れているイメージだったが、今日の武道大会で見せたその姿は、今まで出会った男たちの中でも特に男らしさを感じ、教師でありながらネギもその背中に感動した。
そんなシモンが・・・
「ネギ坊主! 気をしっかり保つでござる!」
「ネギ先生・・・ありえないものを除外していき・・・残ったものがどれほど信じられなくても・・・それが真実なのだと思います」
「シャーロック・ホームズのつもりか桜咲刹那!?」
「マスターのために障害となるあなた方を排除」
「セクストゥム! 君はちょっともう、黙ってろ!」
なんだか何も関係のないシモンが全ての黒幕的な役割になろうとしている。
「だからなんでそうなるんだ!? もう、この際だけど僕の女装はただの不運の重なり! 超とのケンカはただのノリ! セクストゥムはただシモンのことが好きなだけ! 超の計画にシモンは関係ない! 結構省略したが、それが全ての真実だ!」
もはや恒例となったフェイトの口癖が、ダイグレン学園たち以外相手に出てしまった。
っていうか、あっちにこっちにツッコみを入れ過ぎて、フェイトも疲れた。
「女装は・・・後で詳しく聞くけど・・・」
「なんでだい!?」
「フェイト・・・その、今の話は信じていいんだね?」
不可解な点が多すぎる。だが、ネギの短いながらの教師生活で抱いた信念は、生徒を信じて応援することだ。
例えどれほど疑い深くとも、生徒であるフェイトがそう言うのなら信じたい。
ネギの想いに、フェイトはホッとしたような溜息をついて頷く。
「僕のことは別に信じなくてもいい。でも、シモンは何も悪くない。君の信じたとおり、彼はまったくの無害なおと・・・こ・・・」
っと、その時に、この場を最大に混乱させる事態が発生した。
「兄様」
「っ!?」
セクストゥムが叫び、フェイトも感じ取る。
上空から迫る気配に。
「離れろ、ネギ先生!!」
「ネギ君!」
巨大な光の柱。それは、拳。
気で極限まで高められた拳の柱が、天よりフェイトに降り注いだ。
「今度は何なんだ」
「兄様・・・怪我は・・・」
「大丈夫、当たっていない。ただの威嚇だ。相手も僕に当てるつもりは無かったらしい・・・しかし・・・」
フェイトたちの前には、普段はニコニコと生徒にも優しいタカミチが真剣な表情で。
「やあ、こんばんわ」
「高畑・T・タカミチ・・・」
同じく魔法先生のガンドルフィーに、グラサン先生、瀬流彦、葛葉刀子など、フェイトは初めて見たが麻帆良の魔法先生がこの場を取り囲むように現れたのだった。