【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第70話 ヒロインたち最大のライバルは主人公の兄!?

「スカルブレイク!!」

「兄貴の想い爆発斬りッ!!」

 

カミナはシモンにだけは負けられない・・・

 

「どうしたカミナ!! 俺はまだまだ速く動けるぞ!」

「く~、手が痺れるぜ。やるな、シモン!」

「いつまでその強がりを言えると思うなよ!」

「どうかな? 俺は強がりを本当にしちまう男だからな!!」

 

たしかに渡り・・・いや、同等以上にやり合っているかもしれない。

互いに防御せずに一撃必殺の技をぶつけ合う二人。

フェイントや駆け引きなど一切無く、一撃一撃に全力を尽くして相手とぶつけ合う。

しかし最初は互角の打ち合いも、段々とぶつかり合う間隔が短くなり、やがては高速のドリルと刀の斬り合い刺し合いになり、その速度が常人の目では追えぬほどにまで達していく。

それはシモンにとっては魔法世界での経験を踏まえれば慣れた世界。

しかしカミナはどうだ? 多少の喧嘩慣れはあるだろうが、彼には普通の不良たちとしか喧嘩の経験はないはずである。

だが・・・

 

「・・・な、なに!?」

「はっはー、どうしたシモン! 俺もまだまだ速く動けるぜ! 気合いだ!」

 

カミナが十分にシモンの戦闘レベルに対応できている。それどころか負けじと打ち込み返している。

 

「な、なに!? シモンはまだしも、カミナまで!? あの高速の打ち合いに対応している!?」

 

フェイトも目を見張った。

魔法世界での経験でシモンの力も多少なりとも理解している。

デュナミスやアンスパなどの実力者とやり合ったシモン相手に、カミナが押している?

 

「す、すごい、カミナさん!?」

「なによ、普通にすごいじゃない!? ね、ねえ、ネギ! ダイグレン学園の番長ってただの馬鹿じゃないの!?」

「い、いえ・・・アスナさん・・・それは言い過ぎ・・・しかし確かに出来る・・・戦い慣れている。どう思う、楓」

「う~む、刹那の言うとおり、戦い・・・喧嘩・・・いや、実戦に慣れていると見えるでござる。だが・・・」

「う~む、やるのう。タカミチ・・・知っとったのか?」

「い、いえ・・・学園長・・・僕も・・・これほどとは・・・」

 

カミナのソレは、学園でも指折りの実力者たちから見ても唸らせるほどのものだった。

だが、同時にどこか腑に落ちないものであった。

カミナの力の源だ。

何故なら、カミナは魔法使いではない、普通の人間だからだ。

しかし結局周りがどれほど騒ごうとも本人は・・・

 

「だーはっはっはっはっは! 気合だ!」

 

だそうである。

 

「チッ・・・いい加減に・・・」

 

だが、その時だった。

 

「いい加減に・・・しやがれえええええええええええええ!!!!」

「つおっ!?」

 

シモンが力づくでドリルを突き立てる。

カミナはそのドリルを刃の腹で受け止めたが、勢いのあまりに激しく吹き飛ばされた。

 

「カミナッ!?」

「カミナさんッ!」

「うおっ、シモンの野郎がカミナを!?」

 

カミナの猛攻にシモンは押し切られなかった。

これにはヨーコたちも驚いた。

すると、転がって打撲の痛みに少々顔を歪めながら立ち上がろうとするカミナに、シモンは地面にドリルを強く突き立てて叫ぶ。

 

「気合だなんだってのは、まやかしだ!!!!」

 

シモンの叫びに空気が揺れた。

 

「あんたはいつもいつも思い違いをしている!! そんなもんだけで全て解決するんなら・・・俺もグレンラガンもさっきは負けたりしなかった! あんなデュナミスとかいう変態野郎なんかに負けなかった!!」

 

そう、先ほどシモンは負けた。

 

「気合いとか魂とか、そんな曖昧なもんで強くなれたら苦労しねーんだよ! いつもお前はそうやって誤魔化してるんだよ! 今のあんただって、どうせアンスパが発明した武器のおかげだ!」

 

他者を圧倒する兵器と兵力を一つにして強大な力を振るったというのに負けたシモン。

当のデュナミス本人は気絶し、今こうして立っているのはシモンだ。

しかし、勝者がデュナミスで敗者がシモンであることなど誰の目から見ても明らかだった。

だが・・・

 

「じゃあ、そいつの気合がお前を上回ったんだろうが」

「な、なにッ!?」

 

カミナは、しれっと答えた。

シモンが負けたということは、シモンと戦った相手の気合が勝っていたのだと。

 

「そのとおりかもね・・・まあ、デュナミスは気合というより・・・・・積もり積もった思いだけど・・・」

 

フェイトの言うとおり、デュナミスの思いの丈はそれはもう凄まじいものであった。

それがシモンの気合やら思いの強さに劣っていたなどと断じてない。

だからこそ、カミナは意見を曲げない。

 

「つおらああああああああ!!!!」

「ぐっ、まだッ!?」

 

立ち上がったカミナが再び刀でシモンを弾き飛ばす。

 

 

「気合だけじゃ超えられねえだ? シモン、何言ってやがる。そもそも俺に気合で何だって乗り越えられるってことを証明してくれたのはお前だろうが!!」

 

「ッ・・・」

 

「そう、ガキの頃から何度でもよ!」

 

 

カミナがもはや刀で斬るのではなく、殴る。

 

「ッ!?」

 

まるで叩きつけるかのようなその威力に、シモンは圧倒される。

 

「うおらァ!」

「こいつっ!?」

 

また一撃。

さらに一打。

もはや刀の使い方などなっていない。剣道有段者などから見ればチンピラの喧嘩そのものだ。

しかしチンピラで上等。カミナは不良だからだ。

そしてその一見ただの乱暴なだけの一撃一打はちゃんと、シモンに響いていた。

 

(バカな・・・俺のドリルがいちいち弾かれる・・・こいつ、どこにこんなに力が!)

 

折れない心。

自身をどこまでも信じぬいやまない、不滅の闘争心。

 

(くそ・・・なんなんだよ、いつもいつも・・・こいつはどこからこんな力が・・・)

 

気合い? それにしてもだ。

 

(なんでこいつはいつも!? たまにスゴイ強い奴や明らかに人数の多い奴らと喧嘩する時もそうだ! こうやって・・・)

 

このカミナの心を支えている物は一体何なのだ?

 

(何が・・・何がこいつをここまで支えてるんだよ!?)

 

シモンだけではない。この場にいる誰もが同じことを感じていただろう。

 

だが、実はそんな周りとは裏腹にカミナ本人は・・・

 

(うおおお、やべえ、ちょっと気ィぬいたらぶっ刺されそうだな! ほんと、ツエーな・・・シモン・・・)

 

実はカミナとてそれほど余裕があるわけではないのであった。

盛大に、そして豪快な笑い声を上げているが、体と共に精神もギリギリのところまで来ていた。

 

(へっ、マジで強えーな、シモン。やさぐれてこのレベルだ。大事なモンを守るために本気になった時のお前はどんだけ強いんだろうな。だがよ・・・)

 

カミナも分かっている。

今のシモンは本当のシモンの力ではない。

大事な物、仲間、信念、そしてニア。それらを守ると断固たる決意を持って戦地へ赴くシモンの底力を、カミナはこの世の誰よりも理解している。

だからこそ、今も結構実はキツイ自分だが、折れるわけにはいかない。

 

(お前もこうやって越えて来たんだよな。叩きのめされ、傷ついて、それでも歯を食いしばって気合いで乗り越えてきたんだよな・・・てめえの・・・限界って奴をな!!)

 

それどころか、どんなに心の火が消えそうになっても何度でも燃え上がるのだ。

 

―――――――!!!!

 

「ッ!?」

 

「うるあああああああああああああああ!!」

 

 

カミナの渾身の一振りが、シモンが繰り出したドリルごとなぎ飛ばした。

 

「す、すごい、カミナさん!?」

「バカな、まだ膂力が上がるというのかッ!?」

 

この既に全力かと思われたところに、カミナにはまだ力が残っている。

その光景を遠目で眺めていたアンスパは、ただ一人口元に笑みを浮かべて呟いた。

 

「まあ、当然といえば当然。ニアよりも誰よりも・・・子供の頃からシモンの側にいたのは誰か・・・シモンと共に壁を乗り越えることで、誰よりもシモンと共に合体とミックス・アップで高められたのは誰か・・・」

 

まるで、その時をずっと待っていたかのようにアンスパは呟いた。

 

「やさぐれたシモンは、もはやどこまでもひねくれた心しか出さない。しかし、やさぐれていて、ひねくれた心しか出さないというのも、立派な心をさらけ出すということだ。そんなシモンに全力で心をさらけ出して付き合えるのは、この世でカミナ君とニア・テッペリンだけだ」

 

そう、遠慮しないで不満をぶちまけるというのは、立派な心を曝け出すこと。

ならばそんなシモン相手だろうと心を自分も曝け出して対峙できるのは誰か?

ぶつかり合えるのは誰か? ましてや拳を交えられるのは誰か?

 

「倫理、論理、理屈、道理、あらゆる常識が縛る中、その全てを打ち壊して人の心を立ち上がらせる男・・・魔力の才能でも螺旋の才能でもない・・・心の才能を持つ君こそが必要なんだ」

 

そんなもの、カミナしか居ない。

 

「超えていける・・・ネギ・スプリングフィールドとフェイト・アーウェルンクスだけではない。・・・シモンとカミナ君。この二人が必要なんだ」

 

アンスパは独り言だが、確かにハッキリと呟いたのだった。

 

「俺はもう強くなったんだ! 多くの実戦を経て、俺はあんたを遙かに越えているん―――」

「どりゃああああああああああああああああ!!!!」

 

もはや、打ち合いすらままならない。

カミナの剣にシモンのドリルは弾かれる一方だった。

打ち合い不能。

そして、いずれは防御すらできなくなっていくであろう。

 

「燃える兄貴の拳骨斬りッ!!!!」

「つうあッ!?」

 

ただの渾身の一降りを真上から振り下ろしただけの技。

しかし単純であればあるほど、むしろカミナはその方が攻撃の威力は上がる。

シモンはカミナと戦うなら、カウンターなどの技術的な技を発揮できる絶好の相手だと思っていた。

実際にカミナのこういう技は、「おいしい」と技術が優れている者は思うだろう。

威力は大きい半面、大雑把で隙も多いからだ。

だが、実際にカミナの刃を目の前にして、同じことはなかなか言えない。

 

(ちくしょう、ダメだ! あんなもん、カウンターに失敗したらとんでもないことになる!)

 

幾多の激戦でドリルで突っ込むだけではなく、相手の力を利用するカウンターを身につけたシモンだが、今のシモンにそれを放つことは出来ない。

それはタイミングがどうとかの問題ではない。

リスクを恐れずに命すら投げ出す勇気と覚悟。

 

(くそ~、ダメだ! 飛び込めない!)

 

今のやさぐれたシモンにそのハートが無い。

今の全身全霊のカミナに飛び込めるだけのハートが、今のシモンには決定的に欠けているのであった。

 

「どうした、シモン。ビビッてんのか?」

「な、なんだと!? 俺を誰だと思っている!」

 

腰の引けたシモンの心を見透かしているかのように、カミナがほくそ笑んだ。

その笑みにシモンは苛つきながら反論する。

だが・・・

 

「お前が誰だか、俺が一番よく知ってるよ」

「黙れ! 俺はもうあんたが知ってる俺じゃないんだ! 俺はとっくにあんたの知ってる俺を超えたんだ!」

「いいや、知ってる! ニアだろうがヨーコだろうがフェイトだろうがそれは譲らねえ! それだけは譲れねえんだよ!」

 

いちいち聞いていられるか! シモンは首を振って、カミナに飛び込む。

それは破れかぶれだ。

しかしこれに対して、何とカミナは避けようともしない。

何故なら・・・

 

「いっ!?」

 

「「「「「「「「「うそっ!!!!???? ド、ドリルを素手で掴んだァァァァァァァ!!!!????」」」」」」」」」」

 

「ハッハッハ! 必殺男のやせ我慢! 歯ァ食いしばってのドリル鷲掴み!!」

 

何と、カミナはシモンのドリルを素手で、しかも片手で掴み取った。

 

「こ、この、離せ!!」

 

ドリルの回転すら力づくで抑えられた。

 

「し、信じらんない!? 回ってるドリルを素手で掴んだ!?」

「って、見てるだけで、いてえええええええ!? ち、血がッ!?」

「ひい!?」

「バ、バカ・・・回転しているドリルなんかを素手でつかんだりするから・・・手から・・・血が・・・」

 

誰もが目を背けたくなったり、ゾッとする光景だ。

シモンのドリルにカミナの手のひらから流れた血が垂れていく。もはや、今のカミナの手のひらの惨状はとてもではないが見たくもない。

そして、いつまでもドリルを掴まれているシモンは無理やりカミナの腕からドリルを離そうとする。

だが、それはビクともしないのだった。

 

「シモンさんが先ほど言っていたことは何も間違ったことじゃない」

 

この兄弟喧嘩に誰もが目を奪われる中、その冷静な眼差しで状況を分析するのは、ネギの生徒の龍宮。

何食わぬ顔で現れた彼女に気づいた超鈴音は若干ボケっとした。

 

「お、おろ・・・龍宮さん・・・いつの間に・・・っていうか何やってるヨ」

「何をって・・・お前が魔法を世界にバラす計画のための用心棒として私を雇ったのに、作戦が始まるどころか始まる前に全て破綻してしまったうえに、碌にお前からも連絡がなかったのでどうすればいいのかとさ迷っていたところだ」

「あっ・・・・・・・・・忙しくて忘れてたヨ・・・メンゴ・・・」

「まったく・・・にしても、エラいことになっているな」

 

超に肩を竦めてため息つきながら、もう一度シモンとカミナの二人を見る龍宮。その頬には、若干汗が流れていた。

 

「シモンさん・・・彼は言ったね。気合だなんだはまやかしだ・・・それだけで全てを超えられるわけはないと。それは真実だよ・・・なぜなら、それが現実だからだ」

 

現実・・・彼女が口にするその単語は若干重かった。

 

「くだらぬ情やクールになりきれない頭は目的達成の足を引っ張る・・・・・・勿論、気持ちの有る無しは重要かもしれんが、強者に馬鹿が馬鹿なまま勝てるなどあってはならない。シモンさんとロージェノムの試合の時のように、あんなにバカ正直に突っ込んでくる敵を逃げずに堂々と正面から迎え撃つ親切な敵など現実には居ない・・・」

 

それは自分自身の歩んできた人生で学んできたことか、それとも彼女の心得なのかは分からない。

しかしそんなことを口にしながらも、わけが分からないとばかりに呆れてため息付く。

 

「なのになぜ・・・・・・あの、カミナという男はあそこまで強いのだ?」

 

龍宮の考え方に同意見なものは、この学園にはそれなりに居た。

勿論、気持ちも大切だろう。しかし気持ちだけで乗り越えられるのなら、誰だって苦労はしない。

タカミチや刹那や楓。フェイトの従者の少女たちや、これまでダイグレン団と関わりが深くなったフェイトですらそれは否定しない。

なのになぜ、カミナは気持ちだけでここまで出来るのか?

 

(ぐっ・・・なんでだよ!? いつもいつもこいつはどこからこんな力が!?)

 

カミナに掴まれたドリルを引き抜こうとする。だが、その手をカミナは決して離しはしない。

それどころか、シモンのドリルが徐々にカミナの握力でひび割れてきた。

 

「な、なんで!? なんで!?」

 

もはやシモンに冷静に物事を考えられる精神は無かった。

ただ、既に知り尽くしていたと思ったカミナという男の底知れぬ「何か」にただただ体が震え上がった。

 

「分かんねー・・・そんなツラだな・・・シモン」

「だ、黙れ・・・」

 

その時、カミナは薄く笑みを浮かべながら、シモンに問う。

 

「なあシモン、俺は誰だ!」

 

俺を誰だと思ってやがる!

それがこの男の口癖だった。

時には人を呆れさせ、馬鹿に思われ、しかし肝心なときには心を熱くさせてくれた。

しかしここに来て、誰もが本当に問いたくなった。

お前は本当に何者なのかと。

 

「あっ? カミナだろ。今更それがどうした!」

 

そうだ、こいつはカミナだ。それ以上でもそれ以下でもないはずだ。シモンがそう叫ぼうとしたら、カミナは更にドリルを掴んだ腕に力を入れていった。

 

 

「俺はな、シモン。ダイグレン学園の番長とか、不撓不屈の鬼リーダーとか最強の不良とか・・・色んな肩書き持ってる俺だが、唯一一個だけ絶対に譲れねーもんがある」

 

「ド、ドリルが!? く、砕けてく・・・な、なんだ、なんなんだよ!?」

 

「俺にとってはその肩書きがこの世で最も譲れねえ誇りだ。だからこそ、そいつを脅かされるようなことになりゃー、相手がお前でも、いや、お前だからこそ負けられねー」

 

 

何なんだ!?

お前は一体何者だ!?

ダイグレン学園の番長?

麻帆良一の不良?

不撓不屈の無法者?

鬼リーダー?

 

「何度でも言う。シモン、俺を誰だと思ってやがる!」

「なんなんだ、なんなんだよ、お前は!?」

 

その答えはカミナが何者かを答えるにはこれ以上無いものであったかもしれない。

 

「俺はお前のアニキだよ!!」

「ッ!!??」

 

それがカミナという男がカミナであるという存在証明できる、カミナの誇る肩書きであった。

 

 

「この肩書きがあるかぎり、俺は絶対に負けられねー! ガキの頃から俺はずっとお前の背中を見てきた! お前に何度だって助けられた! だからこそ、俺はお前に笑われねえ男であること。お前のアニキであり続けること。それが俺の誇りだ!」

 

「なっ・・・なに!?」

 

「俺なんかお前のアニキじゃねえだ? ふざけんじゃねえよ。そんなこと、俺が許さねえよ! なあ、兄弟!」

 

 

その時なぜか、ドリルでいつも壁を粉々に砕いていたはずのシモンの何かが崩れたような気がした。

 

「う・・・うそだ・・・」

 

ガタガタとシモンは震え出した。

今、カミナが言った言葉は何だったのかを何度も何度も頭の中で繰り返す。

しかし、それは到底信じられぬものであった。

 

「あんたが・・・俺の背中を見ていた・・・嘘だ・・・嘘だ・・・あんたはいつだって俺より先に前へ行っていた。そんなあんたが後にいる俺の背中を見れるはずがない!」

 

子供のときからずっとカミナは上ばっかり見て、誰よりも先へ進んでいた。

そんなカミナが、いつもノロノロしていた自分の背中を見てくれた?

そんなはずはない! そう首を横に振ろうとしたシモン。

だが、そんなはずはあったのだ。

 

 

「何を言ってやがる、シモン。俺が立ち止まりそうになったときはいつも・・・お前が俺を追い抜いて俺を再び走らせてくれたんだろうが!!」

 

「ッ!? 俺・・・キ・・・を・・・走らせた・・・」

 

 

今更・・・何を・・・

シモンは頭を抱えて必死になって否定しようとする。

 

「違う・・・俺は・・・カミナが・・・・・・・・・・・・・もう・・・アニ・・・が・・・・・・・・あんたが誇れる弟じゃない・・・」

 

そうだ、自分は誰かに誇られるような人間じゃない。

だというのに・・・

 

「バカやろう。誇れねえ奴を相手に、こうして本気になれるわけねーだろうがよ! この傷と、俺様と、あいつらがその証拠だ!」

 

カミナは自分を、そして後ろを指し示した。

 

 

「この程度のバカが何だ? この程度のバカでお前を見放すような野郎は、俺たちダイグレン学園の大馬鹿野郎たちの中には一人もいねえ! 細かいこと気にすんな。俺たちを誰だと思ってやがる!」

 

 

今まで散々侮蔑の視線ばかりをぶつけられたのに、その中でも麻帆良ダイグレン学園の制服を着た者たちだけは、「やれやれ」と呆れた感じではあるものの、そこにシモンに敵意を向けたり見下したり、ましてや見放したような瞳をしているものは一人もいなかった。

 

「勝手にオレらの絆ァ、切った気になってんじゃねえェェェェェ!!!!」

「ッッッッ!!??」

 

意図的にシモンはその時、歯を食いしばった。

言われたわけではなく、自然と体がそうしていた。

振り抜かれた血だらけのカミナの拳がシモンの頬を打ち抜いた。

 

「ああ・・・そうだよ・・・・・・・俺は今まで・・・・なんてことを・・・」

 

殴られたシモンは、ズキズキと頬が傷んだが、どこか心地の良い痛みだった。

 

「・・・・・・・・・アニキ・・・・・・・・俺は・・・なんてことをしたんだ・・・俺は・・・俺は・・・アニキ・・・」

 

殴ったカミナはフッと笑う。

 

「おう、俺はお前の永遠のアニキ分! カミナだ!」

 

その得意満面の笑と頬を伝う痛みが、深い闇にとらわれたシモンの心を完全に晴らしたのだった。

 

 

「デュナミスのような力でも、ニアやフェイトのような説得でも解けなかったシモンの洗脳も心をぶつけることで解いたか・・・見事だよ・・・カミナ君」

 

 

遠くからは何もかもに満足をしたかのような、アンスパの呟き。

そして・・・・

 

 

 

 

目覚めたシモンには・・・

 

 

 

 

一連の出来事に対する学園からの処分が言い渡されるのであった。

 

 


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