【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第73話 焔ファイヤー 

私の名前は『焔』。

完全なる世界(コズモエンテレケイア)のメンバーの一人にして、フェイト様の従者の一人。

幼い頃、魔法世界の内戦で家族を亡くし、死に行く運命であった私を拾ってくださったのがフェイト様だ。

それまでは貧しさと不幸で光り無き人生を歩んできた私にとって、フェイト様との出会いが私の全てを変えてくださった。

普通の人たちが与えられるものをフェイト様は私に与えてくださった。

温かい食事。新しい衣服。少しのおめかし。

だが、その普通が私には涙が出るほどの幸福であった。

しかし・・・

 

――学校・・・ですか?

 

――うん。アリアドネーの女学校。全寮制の入学書類だ。これからはそこで生活をするんだ。

 

――ど、・・・どうして・・・ですか?

 

――僕には成すべき事がある。そこに君を連れては行けない。だからお別れだ。君は普通の人たちと同じように過ごし、そして幸せになってくれ。

 

 

あの瞬間に私は、あれほど求めていた「普通」という幸福の価値観が全て変わった。

フェイト様の言葉に逆らったのは、あの時が初めてだ。

この方とお別れになる・・・

それを思っただけで、私はこれまでの全てを投げ出してでも受け入れたくなかった。

 

――嫌です!!!!

 

正直あの時は、自分でも何を叫んでいたか分からない。

ただ、「大義」とか「正義」とか大層なことを言い、フェイト様のお役に立ちたい。私にも手伝わせてくださいとすがった事だけは覚えている。

今にして思えばどうということはない。ただ、フェイト様の側にいたいだけだった。

あの方と共に生きたい。あの方の横に並びたい。あの方のために役立ちたい。あの方のために死のう。

こんなこと、フェイト様には一生言えない。もし言ったら不純な私を失望してしまうだろう。

ただ、それでも私は一生生き方を変えない。

例えフェイト様が・・・・

 

「ジョーガン、バリンボー、鍋の中に入れるのは食べられるものだけだぞ。前回のように誤って鍋の中に紙皿を入れるような事故を起こさないように!」

「「お、おう」」

「ニア! 鍋の中に入れるのは出来ればタレやソースがついていない料理にしてくれたまえ! 君がお手製のタレやソースを使った料理を入れたいのは分かるが、鍋の汁と融合してとんでもないことになる!!」

「はい。残念です」

「キタン! そこにあるのは闇鍋で当たり用の唐揚げなどだ! つまみ食いしないように!」

「い、いいじゃねえかよ一個ぐらい」

「セクストゥム! 氷は絶対入れてはいけないからね!」

「・・・・・・・・ぷい・・・」

 

そう・・・例えフェイト様が・・・エプロン姿で頭に三角巾を巻いて・・・闇鍋奉行をしようとしていたとしても・・・・

 

「焔くん、ペットボトルと紙コップをセットしてくれるかい?」

「ッッッッッッ!!!!???」

「ほ、焔くん!? 全身が発火しているよ!? のぼせたのかい?」

 

真っ白いフリフリエプロンのフェイト様・・・ニアという女のエプロンを借りているらしいが・・・頭に三角巾まで巻いて衛生を気にするフェイト様・・・なんと可愛らしい・・・

私は今まで見たこともないフェイト様の新たな姿に興奮して思わず自分の体が燃えてしまった。

ちなみに私の能力は炎。人体発火などは朝飯前。自分の体を炎化することもできる。

しかしこんなところでしてしまうとは、はしたない。減点一だ。

しかしあれだ、うん。フェイト様のクールで凛々しい姿は幼い頃から何度も見てきたが、こんな可愛らしい一面を見られるとはやはり転校してきて良かった。

アンスパ博士には感謝しなくてはならない。

 

「焔くん、しっかりしたまえ、この非常識だらけのメンバーの中で唯一の常識人でもある貴重な君にここで倒れてもらうわけにはいかない」

 

アンスパ博士によれば、私たちが旧世界で存在を具現化するには私たちの魔法を制限する必要があるため、今の私たちはあまり魔法を使えない体になっているらしい。

思わず力を使って私は倒れた。まさかこれほど消耗が激しいとは・・・

そんな私をフェイト様が抱き起こす。

抱き起こ・・・・

 

「ブーーーーーッ!!!!!」

「焔くん!?」

 

倒れている私を抱き起こし!? あっ、私の後頭部がフェイト様のお膝の上に!? しかもお顔が近いですフェイト様!!

ちょっと私が不忠を働いて首を少しだけ伸ばせばフェイト様の神聖なる唇に私のが届いてしまわれます。

ですからそれほど真剣な眼差しで私を見つめないでください。

私の中で悪魔が囁いてしまいます。

ああ、フェイト様。どうしてあなたはフェイト様なのでしょうか。

いや、ダメだ。この気持ちを悟られるわけにはいかない。私はフェイト様の従者。配下だ。駒だ。駒が主に対して不純な想いを抱いてはならない。

例えあなたを・・・好きになったと・・・好きに・・・好き・・・好き・・・スキスキスキスキ・・・キス?

 

「ッッッッッッッ!!!???」

 

その瞬間、炎は炎の精霊と融合したのだった。

 

「焔くん!?」

「ど、どうした!? ホムラが燃えたぞ!? 手品か!? 一発芸か!?」

「誰かー水―っ!?」

「出番よ、セクストゥム!」

 

あわや寮の食堂が燃え上がる大惨事が起こるところであったのだった。

セクストゥムの消火活動が無ければどうなっていたことか・・・

 

「ただいまーッ!!」

「フェイト様、スーパーで食べ物とおかしと面白い材料も買ってきました!」

「寮の近くでなかなか大きくて便利なお店でした。今後重宝します」

「・・・・ホムラ・・・どうした?」

 

色々とハプニングがある中で、人数があまりにも多いということで買い出しに言っていたキヨウや暦たちが帰ってきた。

大勢で行ったにも関わらず両手では抱えきれないほどの量に、みながうれしそうに歓声を上げる。

 

「野郎共、喜べ! 俺様セレクションで当たりに大ハズレを含めたイカした食材買ってきたぜ!」

「ちょっと、カミナ。あんた何買ってきたの? 一応私たちも簡単とはいえ料理したもの入れるんだから、台無しにするような物いれるんじゃないわよ?」

「ったく、ヨーコ、空気を読めよな。つっても、何を買ったかは言わねーけどな! んっ? どうやらフェイ公たちも準備はいいようだな! それじゃあ、さっさと電気消して材料のぶち込み開始と行こうじゃねえか!!」

 

一緒に買い物に行っていたカミナも既に準備万端の様子にご満悦。

闇鍋開始を今か今かと待ちかまえている。

 

「へへ、カミナ~、俺らも部屋にあったもんを持ってきたぜ!」

「メンタマ飛び出して腰抜かすなよな~」

「レディたちに果たして耐えられるかな?」

 

ゾーシイ、キッド、アイラックを始め、寮の自分の部屋にあるものを用意した連中もスタンバイ完了。

そもそも闇鍋は全員各自で内緒に材料を持ち寄り、鍋の中にぶち込んで食べるのが習わしだが、さすがに人数が多いのと、カミナたちが全員部屋にあるものを用意しただけの鍋にしたらとんでもないことになるというフェイトの考えから、部屋で用意してきた組、食堂で調理する組、買い出し組の三チームに分けた。

部屋で用意してきた組は、キタン、ジョーガン、バリンボー、キッド、アイラック、シモン。

寮の食堂の冷蔵庫にあった材料を調理したのが、ニア、フェイト、ヨーコ、焔、セクストゥム、ロシウ、キノン、超鈴音。

買い出し組が、カミナ、ネギ、デュナミス、キヨウ、キヤル、栞、調、暦、環、のメンバーであった。

 

「ふふ、僕も今日は無礼講ということで、おもしろい食材いっぱい買っちゃいましたからね」

「シモンよ。貴様のもだえ苦しむ姿が思い浮かぶな」

「えええ~~! ネギ先生もデュナミスも、ちゃんと食べられるものを買ったんだよね!?」

 

ちょっと悪戯小僧のように笑うネギとガチで悪意に満ちた笑みを浮かべるデュナミスにビビるシモン。

 

「笑い事ではない・・・これは戦争だ・・・かつて辛酸を舐めた僕だからこそ分かる」

 

何故か、これから世界最強クラスの魔法使いとでも戦うかのように気を引き締めるフェイト。

 

 

「みなさん。お鍋の後はデザートに私がゼリーを作りましたので、楽しみにして下さいね」

 

「「「「「「「「ニ、ニア特製のゼリーッ!? よりにもよって何が入っているのかが一番分かりにくい!?」」」」」」」」」」

 

 

デザートを用意したと微笑むニアの発言に恐怖に満ちた表情を浮かべるダイグレン学園の一同。

 

「きゃー! 私、鍋という文化は初めてです! それをフェイト様と一緒に体験できるなんてうれしいです!」

「みんなで一つの鍋にそれぞれの箸を入れるなんてあまり衛生的ではありませんが、郷に入ってはですね」

「私は気にせんです」

「う~ん、でも、フェイト様とならいいけど・・・他の男性方がそれぞれ口付けた箸を鍋に入れられるのはやはり抵抗が・・・」

 

初鍋の文化に抵抗とワクワクを見せるフェイトガールズ。

 

「ふふ、私お手製のロシアンルーレット天心料理も混ぜたネ! ・・・・・・って、私も何故こんなノリノリカ」

 

色々あって故郷に帰れなくなったが、今を楽しむことにした超鈴音。

様々な感情が交錯する中、ついに第二回闇鍋大会を開始する。

だが、そんな中で鍋よりもあることに気になって仕方ない少女が居た。

それが人体発火のトラブルからようやく気を取り戻した焔であった。

 

(ふう・・・ようやく落ち着いてきた・・・まったく、フェイト様の前でなんという不祥事を・・・以後気を付けなければ・・・)

 

みっともない所をよりにもよって敬愛する主に見られたことに恥じらう焔。

だが一方で、今の自分のフェイトの中での立ち位置が気になった。

 

(フェイト様は私をどう思われただろうか・・・失望? それとも嫌われ・・・いや、フェイト様はお優しい。嫌いになられることは・・・しかし・・・私は・・・嫌われるよりも・・・あなたに失望される方が怖い・・・)

 

私にとってフェイト様は全てと言っても言い過ぎではない。

別に私はフェイト様のその・・・こいび・・・まあ、そこまで私も愚か者ではない。

ただ、野心はある。それはフェイト様の右腕になることだ。そう、フェイト様一番の臣下になりたい。

言い換えてみれば、フェイト様の最も近い場所で共にありたいということだ。そのために私は日々の鍛錬を怠ったりはしなかった。

しかしそれも簡単ではない。私と同じようにフェイト様を慕う者は多くいるからだ。

例えばだ・・・

 

「ちょっと、ジョーガン、バリンボー! もし変な食材を入れたら許しませんわよ!!」

「うっ・・・おう、そんな怒るな!」

「そうだ! 怒るな! 怒るな! 怒るな!」

 

あそこで自分よりも遙かに大きい二人相手にお母さんのように叱っている栞だ。

 

ゲス・・・あっ、間違えた・・・栞・・・

 

彼女は我々の中で最初にフェイト様に拾われ、一番長くいた。それゆえ信頼も高い。

詳しくは知らないが、彼女と彼女の姉との出会いがフェイト様の中で何かを変えたという話を聞いたことがある。

顔も私のような好戦的な女と違い、女の子らしい。

正直なところ、栞が一番の強敵だと思っていた。

だが、本日その評価が覆った。なぜなら、今日の教室で彼女はフェイト様の近くの席を外してしまった。

そのことを正直私は内心で喜んだ。

栞もフェイト様を慕っているが、このようなところで運を掴めない者は脱落したと言っていいだろう。

栞などもはや恐れるに足らん。ならば、やはり警戒すべきはあの子たちだろう。

 

「君たち。この鍋は過酷な戦いになるだろう。だが、僕は願う。君たちが・・・無事でいることを・・・」

「もう、フェイト様、そんなに心配されてどうされたんですか! お顔が暗いですよ!」

「そもそも何故、鍋で戦いなのでしょうか?」

「私、好き嫌いしないで残さず食べるですよ?」

 

 

私たちの中で一番自分の気持ちを表に出す子だ。

猫族のハーフなだけあって、気を許さぬ相手にはツンケンするが、フェイト様のように心を許した相手にはデレデレに甘える。

それゆえ、時折うらやま・・・馴れ馴れしいぐらいにフェイト様にスキンシップするところがある。

だが、どこか子供っぽく、フェイト様が彼女を見つめる眼差しも歳の離れた妹か、もしくは娘を見るような親の目をしている。

ただ、それゆえフェイト様が時折和むような表情をされるので、注意が必要だ。

 

 

調

 

現在、我々従者の中で私が一番強敵だと思っているのは彼女だ。

その美しく長い髪、そしてそのサラサラ度は、私のように普段炎を全身に浴びて髪が痛んでいる者には出せない心地よさだ。

容姿も我々の中で一番美しく、可憐で清楚さも感じる。

そしてこの進化した現代社会に置いて、多種多様な下着が存在する中で彼女は純白の白を常に装着しているという、ある意味王道を貫いている。

ただ、ヴァイオリンを持つ姿はとても優雅で絵になるが、演奏は下手くそなのが少しマイナスではある。

 

 

 

彼女も強敵だ。だって、いつもおパンツを穿いていない。

 

(やはり冷静に仲間を分析してみてもみな強敵だ・・・だが、今はもうそれだけではない)

 

そう、今までは同じ従者である彼女たちだけを警戒していれば良かった。

だが、今は違う。こうして転校してきた学園都市には案の定、女子があちらこちらに溢れている。

 

(フェイト様から・・・ということは無いだろうが、邪魔な女たちが今後フェイト様に群がる可能性は非常に高い。何故ならフェイト様は宇宙一格好いいからな・・・)

 

そうなると、今この場はどうなっている?

いくら新しい友達が増えると言って喜んでいる場合ではない。

焔は鍋の回りに紙皿と箸を持ち、ゾロゾロと集まりだしたクラスメートに注目する。

 

(まずは、彼女だ!)

 

瞳の奥を燃やして必死に状況を分析する彼女の目に最初に映ったのは、ヨーコだった。

 

 

ヨーコ

 

このクラスに入ってまず一番印象的な女性はなんといっても彼女だ。

とにかくお尻とお胸がヤバイ。女の私でもうらやましいと思えるぐらいのプロポーションだ。

おまけに男子にも女子にもオープンな性格で、非常に気さくだ。

フェイト様が誘惑されないか心配だが・・・

 

「ちょっ、カミナ!? ちょっと買い出しし過ぎじゃない? どっからお金出てんのよ?」

「なーっはっはっは、デュナさんが親睦のためにと一万出してくれた!」

「んのアホー! なんで歓迎する人からお金を徴収してんのよ!?」

 

ふむ。優しく面倒見のいいヨーコも、あのカミナを相手にするとどうも口調がキツイ。だが女の私には分かる。ヨーコの本心が。

だからカミナが居る限り、ヨーコは私が張り合う相手ではないだろう。

つまり、遠慮なく友達になれるということだ。

さて、続いてはあの二人だ。

 

「シモン! 今日も私の作った料理を当ててくださいね」

「あの・・・マスター・・・私の・・・調理したものも・・・」

 

ニア。

 

ハッキリ言おう。私はこんなに可愛い少女がこの世に居たのかと疑ってしまった。

だからこそうれしかった。もしこの少女がシモンを好きでなければ、私は絶対に勝てないと戦う前から思っていただろう。

ただ、彼女は以前フェイト様から送られたプリクラにも写っていたように、フェイト様と同じ部活。

最低限の注意は必要だ・・・・

 

 

セクストゥム

 

フェイト様の妹のようなアーウェルンクス。たまにフェイト様に叱られたりしている。

だが、この女は完全にシモンにくっついてるので問題なし。

アウト・オブ・ガンチューだ。

 

以上の点から、この二人には敵意をむき出す必要はないだろう。むしろフェイト様とよくよく関わりのある二人だ。

是非とも仲良くする必要があることは間違いないだろう。

 

「あーあ、こんなんだったらダーリンも呼べばよかったかな~」

「なんだよ、おねーちゃん。これ以上カップル増やしたってつまんねーよ。な~、キノン?」

「えっ、えっ、えっ!? そんな、私は別にまだロシウとは手ぐらいしかッ!?」

 

良かった。この三姉妹も多分大丈夫だろう。彼女たちも問題ない。

 

 

キヨウ

 

既にダイグレン学園の教員であるダヤッカという人と結婚をしているらしい。

しかもニアのように言い張っているのではなく、ちゃんと籍も入れているという。

だが、それゆえ一番安全。というよりも、むしろ今後の相談を・・・

 

 

キヤル

ちょっと口調は汚いが、元気いっぱいの明るい笑顔が印象的だ。

噂では歌がうまくて、アイドルを目指しているとか・・・

恋愛に興味が無いのか、男の影は見えない。

一応警戒はしておくべきだと思う。

 

 

キノン

彼女はロシウが好きなのだろう。バレバレだ。

ただ、休み時間に話を聞く限り変な噂もある。

彼女の持ち物に薄い本があり、シモン×フェイトと書かれていた。

中身を見ようとしたら勢いよく取り上げられたが、なんだったのだろう・・・

 

 

そして最後は我々と同じ今日転校した彼女。

 

「ふふん、今では五月に調理主任を任せたとはいえ、超包子を創設したのはこの私ネ。中国四千年リュウマオシンすら卒倒するような至高の料理から、この世のものとも思えぬゲテモノまで見せてくれるネ」

 

超鈴音。

 

こいつだけは良く分からん。

ただ、たまにフェイト様と影でコソコソ話す姿を見かける。

聞けばこの女が作った部活にフェイト様は入られたそうだ。

まだ表だって調査できんが、決して私は油断しない。

 

「ふむ・・・」

 

私は一同見渡して、少し落ち着いた。

冷静に分析してみて、ダイグレン学園は魅力的な女子も多いが、彼女たちと私が敵対することはほとんどないだろう。

誰もが既に好きな男が居るので、警戒する必要もないし、むしろ堂々と友達になっても良いと思える。

一部警戒が必要かも知れないが、その彼女たちより自分の方がフェイト様の近い場所にいる自信はあった。

良かった・・・

私は心の底から安堵した。

彼女たちがフェイト様に色目を使うことは無さそうだし、何より仲間たち以外で同世代の女の子と仲良くなれるのだ。

これまでそんな生活を送ったことがないから、私はこれからの生活に少しワクワクした。

そして何より・・・

 

「そんな真剣な顔で睨んでどうしたんだい、焔くん」

「フェ、フェイト様!?」

 

ビックリした。クラスメートを真剣に分析していたために、背後にいたフェイト様に気づかなかった。

 

「あ、あの、私は別にライバルがいないかなどを調べたりなどは!?」

「・・・・? 何を言ってるんだい?」

 

ああ・・・しまった・・・動揺してしまった。フェイト様がまた瞳を細めて首を傾げておられる。

いかん・・・クラスメートや仲間がどうとか以前にそもそも私の方に問題があるのだ・・・

仲間たちに比べて私には何がある?

栞のように可愛らしさもない。

暦のように甘えたり、天真爛漫でもいられない。

調のように清楚さもない。

環のようにノーパンでは居られない。あっ・・・でも私が本気の戦闘状態になると炎化して服が燃えて全裸になるが・・・でも私はヨーコのようなプロポーションもない。

偽物の大義だけを振りかざし・・・仲間に嫉妬し・・・どれほど鍛錬しても強さではフェイト様やデュナミス様の足元にも及ばない中途半端。

私には何も・・・

 

「焔くん・・・今日は・・・いや・・・ここに居る者たちと居るときだけは君も肩の力を抜きたまえ」

「・・・え・・・・」

 

そんな私の肩にフェイト様が優しく手を置いて、騒がしいクラスメートたちには誰にも聞こえないぐらいの声で、私だけにそう告げて下さった。

 

「フェイト様・・・」

「焔くん。君がいつでもそうやってマジメにみんなをまとめてくれていたからこそ、僕も安心していられたんだ」

「フェ、フェイト様・・・・」

「でもね、これから嫌でも知ることになる。彼らと一緒にいるときはどんな真剣な思考も馬鹿らしくなるから」

 

私はその時、確かに見た。

フェイト様がとても穏やかに微笑んだ瞬間を・・・

そもそも私は当初、フェイト様の許可もなくこの学園に来たことを怒られると思っていた。

なのに・・・

 

「あの・・・フェイト様・・・怒っていないのですか?」

「何をだい?」

「私たちが勝手なことをして・・・」

 

そうだ、聞きたかった。

学校でも学園祭でもゆっくり話をする時間がなかった。

だからこそ聞いてみたかった。

こんなことをして、フェイト様に呆れられていないか・・・

 

「呆れているよ」

「・・・・・・・・・・・・え・・・・・」

「こんなとんでもないことをして・・・僕に報告もなく勝手をして・・・そんな君たちに感心してしまった自分自身にね」

 

一瞬、私は心臓が止まりそうになった。

 

「焔くん・・・この学園ではこういうときにこう言うらしい。細かいことは気にすんな・・・とね。それに、むしろ僕の方が君たちに怒られていると思ったよ。君たちをほったらかしにしていて・・・」

 

「そ、そんな!? 私たちがフェイト様を怒るなど、神や悪魔に脅されようともあるはずがありません!」

「・・・そうか・・・」

 

だって・・・フェイト様が・・・

 

「ありがとう。焔くん。そう言ってくれて僕の心も軽くなった。君たちが来てくれて良かったよ」

 

優しく私の頭を撫でて下さった・・・

その時私は、興奮して自分の体が燃えるなどという不祥事は起こさなかった。

だた、涙の方が零れそうになった。

自分たちは駒でいい。兵隊で良い。そう思っていた。

偽りの大義でも、この方のために命を落とすなら本望であった。

見返りなど・・・いらなかったのに・・・

だからこそ私は改めて誓おう。

もう、仲間やクラスメートがどうとかを気にしない。

こんな私にすら、ありがとうと言っていただけたのだ。

これ以上に何を望むのだ?

 

「はい! フェイト様、一生お仕えいたします!」

 

例え大義は偽りでも、この気持ちに偽りはない。私は胸を張ってその言葉を口にしたのだった。

 

「マスター・・・あの・・・私の調理した・・・・・・食材を是非・・・・・」

 

そう、私はもう回りの女子がどうとかなど気にしない。

ん? セクストゥムがオズオズと恥ずかしそうにシモンの服の裾を掴んで何かを言っているが、ハハ、心に余裕が出来たからだろうか。

実に微笑ましい光景に私の心は和んだ。

だが・・・

 

「待ちたまえ、セクストゥム。君に料理の能力はインストールされていないだろう。そんな君の調理したものなどをシモンに食べさせるな」

 

あれ? 何故か先ほどまで私の隣にいたフェイト様がいつの間にかセクストゥムの肩を掴んで不機嫌そうだ。

 

「シモン、こう言ってはなんだが調理能力を所持していないセクストゥムの作った物を食べてもお腹を壊す。ここは僕の作ったムール貝の・・・」

「・・・・・・・・・・む・・・・」

 

ガシャーン!!

セクストゥムが振り払うような形でフェイトの作った料理をひっくり返した。

 

「・・・手が滑りました・・・申し訳ありません、兄さま」

「なっ!? 貴様、わざとだろう! 絶対にわざとひっくり返したな!」

「いいえ、滑りました」

「いいや、わざとだ! まったく、食材もタダではないのだよ!?」

「いいえ。さて、マスター。兄さまの用意した物が無くなりましたので、やはりここは私の・・・」

「ま、待て! シモン、僕の作った物はまだあるから安心したまえ。今朝取り寄せた牡蠣の――――――」

 

・・・・・・あれ? フェイト様? なぜセクストゥムに張り合うように・・・

あれ・・・? ひょっとして私が最も警戒しなければならないのはクラスの『女子』ではなく・・・・・・・・・

こうして闇鍋大会がスタートするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃・・・

部屋の電気を消しても空気は明るいダイグレン学園の闇鍋パーティー実施中の時・・・

部屋の電気がついているのに暗く重苦しい重圧が学園長室に溢れていた。

学園長室の主である学園長は頭を抱えながら机に頭を突っ伏して、「なんてこった・・・」と項垂れている。

 

「デュナミス・・・フェイト・・・色々トラブルもあったけど、どうにか魔法協会は言いくるめられ、ネギ君の研修ももうすぐ終わるというのに・・・・・・まさか・・・このような・・・」

 

学園長の前で、学園の広域指導員である高畑・T・タカミチは一枚の紙を見ながらワナワナと震えていた。

 

「うむ・・・ネギ君が以前出された課題。ダイグレン学園の中間テストの追試試験を全員がクリアすること・・・あれを見事に乗り越えて、もうネギ君には教育委員会からツッコまれることはないと・・・そう思っておったんじゃが・・・」

 

戦えば学園最強の二人だが、この時ばかりは一枚の紙に頭を抱えていた。

 

「なんちゅーことじゃ。最後の最後に、こんな試練を出すとはの~」

 

そこには、教育委員会の判子が押された紙に、『厳命』と書かれていた。

 

 

『ネギ・スプリングフィールド。以下の者を研修終了前に担当クラスの進路希望調査・指導を行い、調査結果を委員会に提出せよ』

 

 

普通の教師にはなんてことのない問題だろう。

だが、残念ながら普通の教師と普通の学校の生徒でないからこそ、タカミチたちは頭を抱えていた。

 

 

「まあ、教師は勉強だけ教えればいいというものではないからのう。ましてや高校生などには将来の進路の教育なども非常に重要じゃ。もう義務教育も終わっておるしのう。委員会の言い分も筋が通っておるが・・・」

 

「じゅ・・・十歳のネギ君に・・・・・・あの・・・ダイグレン学園の生徒たち相手に・・・」

 

「うむ。よりにもよってあのダイグレン学園のじゃ」

 

 

調査の結果を委員会に提出しろ。それは、回収した結果をただ単純に提出するだけではダメだ。

現時点の生徒たちの思いや考え、指針をしっかりと見極め、現時点での相談やアドバイスを行った上で導き出した結果を提出しなければならない。

特にダイグレン学園のようにほとんどの者が大学に進学しないような学園では、漠然に進学とか書くだけではダメだ。

就職を希望するにしても、職も多種多様。専門知識のいるような分野に進みたいのであれば、その下準備も必要。それに基づいた進路指導なども行わなければならない。

ましてや現在のような経済不況の中で安易に就職というのも簡単ではない。

まだ学年は一年とはいえ、高校生たちには既に将来への道筋を漠然とでもいいので思い描いていてもらったほうが良い。

だがしかし・・・・・

 

 

「し、進路調査・・・・? しんろ・・ちょうさ・・・・まさかネギ君に・・・・・・ダイグレン学園の進路指導をしろと・・・」

 

「・・・・・・・ウム・・・それで、委員会に提出しろと・・・・どないせえっちゅうねん」

 

 

今を全力で楽しむ。ある意味では間違っていないかも知れないが、あのダイグレン学園を相手にマジメに進路指導して結果をまとめて提出しろなど、結果が怖くて仕方ない。

タカミチは思わずゾッとした。

 

「そ、そうだ、ちなみにダイグレン学園の子が過去に出した進路希望調査カードか何かありますか?」

「うむ。リーロン校長に何枚か見せてもらった。それが、これじゃ」

 

何年も留年しまくってるカミナたちだ。過去には何を書いたのだろうと、タカミチが慌てて学園長から受け取って見る。

そこには大学進学や就職希望などの記入欄があるが・・・

 

 

「え~・・・神野カミナ・・・・・・希望進路・・・・狭い日本には住み飽きた。俺は世界を、そして地球を飛び出し、あの月までだって行ってやる・・・・・・・?」

 

 

・・・・・・?

 

「りゅ・・・留学したいということでしょうか? それとも宇宙飛行士になりたいとか・・・」

 

何とか好意的に解釈しようとしたタカミチだが、学園長は無言で首を横に振った。

 

 

「タカミチよ。想像してみい。今年はそのカミナくんたちを加えて、更にはフェイト・アーウェルンクスなど、進路希望に何を書くかも分からん連中もおる! もし、造物主の復活とか世界征服とか書かれてみい! ワシらはどう言い訳すればよいのじゃ!」

 

「ええ・・・それに今回のシモン君と超鈴音くんの監督不届きで、ネギ君は減給処分もくらって少し評価を落としている・・・・・・・ネギ君・・・これは・・・」

 

 

そう、ネギの研修終了まであと僅か。

今ここに、ネギ・スプリングフィールドの教師生活を懸けた、麻帆良ダイグレン学園での最後の仕事が始まるのだった。

 

 


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