【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第74話 なりてえもんはなんだ?

「マスター。進路調査とは何でしょうか?」

「シモン。進路調査とは、どこへ向かう方角を書けば良いのでしょうか?」

「違う違う。進路調査っていうのは、将来進む道をどう考えているのかを調べる事だよ」

「そうなのですか? ならばシモン、一緒に一枚の紙で書きましょう。私とシモンが進む道は一緒ですから」

「いや、それはまったく意味ないから!」

「あの・・・マスター・・・もしよろしければ・・・私も同じ紙にマスターと・・・」

「セクストゥムも真に受けないでよ! それぞれ配られた紙に自分の進路を書かないと意味ないから! 黒ニアも変なオーラ出さないで!?」

 

進路。

それは誰もが決して避けられぬ道である。

その道にゴールはなく、障害だって大きい。

子供の時には色々な道が未来へと続いていた。しかし大人になるに連れてその道が減り、狭くなっていく。

高校生。まだ高校生ととることも、もう高校生ととることもできる。

彼らも少しずつだけだが自分の進むべき道を段々考える時期に入ってきた。

なろうと思えば何にだってなれるというのは、無責任な者の言葉だ。

誰もがなろうと思ってなれるのなら、誰だって泣いたり苦労したりしないからだ。

 

「進路か~」

 

机に肘付いて一枚の紙に目を細めて考え込む生徒の名は、宇津和ヨーコ。

体育以外の成績は壊滅的だが、スタイル抜群のダイグレン学園の有名人の一人。

その類い稀ない運動神経で、学園中の運動部の助っ人にかり出されるほどだ。

性格は勝ち気であるが、男でも女でも分け隔てなく付き合えるので友達も多い。

人並みに恋愛事にも興味はあり、現在一人、気になっているクラスメートがいる。青髪の番長だ。

特に問題ない学園生活を送っている彼女だが、ただ一つ今の彼女を悩ませているものがあった。

それが、白紙の進路希望調査カードだ。

 

(何を書けばいいんだかね~。私の頭で進学も厳しいし、無理して大学行ってまでやりたいこともないし・・・あーあ、みんなは何て書くのかしら)

 

シャーペンをクルクル回しながら悩むヨーコ。

他の人の具体例をと思い、近くの席に居る友の進路調査カードを見た。

すると・・・

 

 

神野カミナ

第一志望進路 : 狭い地球には―――

 

 

「あれは無いわ」

 

 

参考にしようとしたのが間違いだった。

ヨーコはすぐに他の者の書いている者を見ようとするが・・・

 

 

「待てよ? 今の時代なら坊やじゃなくて、咲を・・・」

 

 

ゾーシイ

進路:雀聖

 

 

「俺の胃袋は宇宙よりでっけーぞ!」

 

「おう、でっけーぞ! でっけーぞ!」

 

 

ジョーガン及びバリンボー

進路:大食い王

 

 

「やっぱり・・・そろそろよねー♪」

 

 

キヨウ

進路:まずは一人目を生む

 

 

「黒ニア、他にありますか? ・・・ええ・・・書くべき項目は山ほどありますが、最終就職先としては構わないでしょう」

 

 

ニア及び黒ニア

進路:主婦及びテッペリン財団を乗っ取る

 

 

「って、俺は何でこんな恥ずかしいことを書いてるんだよー!」

 

 

シモン

進路:好きな子を幸せにしたい

 

 

「ふっ、未来へ帰れなくなった私の野望など、もはやこれを置いて他にないネ!」

 

 

超鈴音

進路:世界征服

 

 

「今更僕に将来など・・・でも・・・」

 

 

フェイト

進路:世界を救う

 

 

「・・・・・・・マスター・・・」

 

 

セクストゥム

進路:立派なサーヴァント

 

 

「ふん、進路? そんな生温いものではない。これは私の道だ!」

 

 

進路:フェイト様の右腕

 

 

「焔・・・それを進路っていうんじゃないかな?」

 

 

進路:お嫁さん

 

 

「私は、多くを望まんデス。ささやかな望みデス」

 

 

進路:可愛い下着を着てみたい

 

 

・・・そこでヨーコはひっくり返りそうになった。

 

「ど、どいつもこいつも・・・」

 

多分カミナとかは例年通りなのだろうが、ここまでふざけているのか本気なのか、とにかく滅茶苦茶だとは思わなかった。

 

(やっぱ将来とか進路とか、今の私たちじゃ何も分かんないわよね~)

 

ヨーコも何だか真剣に考えるのがバカらしくなってきた気がした。

自分もテキトーに書いて出そうとした。

だが、その時気づいた。

このクラスで、数人だけ真面目な顔で進路調査カードに向かい合い、ペンを走らせている者たちがいることに。

 

(ん? ・・・ロシウ・・・キノン、キヤル、・・・真剣な顔して何を書いてるのかしら?)

 

少し遠いのと、どこか恥ずかしそうにして彼らが紙を手で隠しながら書いているため、何を書いているかがイマイチ分からない。

 

「さあ、みなさん! もうすぐ提出ですけどちゃんと書けましたか?」

「書いた奴はさっさと我らに提出しろ。キサマらの野望がどのようなものか、じっくりと見せてもらおう」

 

そこで、ネギとデュナミスが手を叩いてクラスに伝えた。

 

(おっと。人が何を書こうが、どうでもいいわよね。私もちょちょいとテキトーに書いて出そー)

 

ビクッとなったヨーコが慌てて姿勢を正して、自分もさっさと何かを書いて提出しようと思い、テキトーにペンを動かそうとした。

 

「はーっはっはっは、勿論だぜ先公! だが、困ったことに俺の進路はこの紙切れ一枚じゃとても説明しきれねえがな!」

「いえ、ちゃんと枠内に収まるように書いてくださいよ、カミナさん!」

「バカ野郎! 男の進む道を枠に囚われてどうする! 男なら、枠からはみ出してこその野望だろうが! それだけ俺はデッケー男になるってことよ!」

「お願いです! 普通に就職とか進学とかを書いてくださーい! 他にやりたいことがあったとしたら、明確に!」

 

元々マジメにこういうのをやれというのが彼らには難しかった。カミナたちのバカなやり方に、いつも通りに困り果てるネギ。

 

「シモンは何を書きましたか?」

「えっ、あっ、だ、ダメだよ覗いたら」

「むー、何故ですか。私の進路はシモンと同じ道。どうせすぐに知ることになるのですよ?」

「だだ、ダメだったらー」

 

まあ、この二人はいつもと同じ・・・

 

「マスター・・・あの、私も一緒に・・・」

「だめです」

「ニアさ・・・黒ニア様・・・」

「セクストゥム。だめです」

 

同じというわけでもなかった。しかし、もう勝手にやっててくれという感じだ。

 

「あー、将来の目標書いたら燃えてきたな。おい、キタン。帰りに打ってこーぜ」

「いいねー。この前の負けを取り返さねえとな」

「俺も行くぞ。終わったらラーメン屋だ」

「フェイト様! 私は己の野望は必ず実現させます! で、フェイト様は何を書いたんですか?」

「別に。マジメに書いたが・・・いや、超鈴音、君は何をサラっと『世界征服』などとふざけたことを書いている」

「いや、フェイトさんも似たりよったりだと思うガ・・・」

 

ヨーコもこの様子なら特にマジメに考える必要もないなと思い、就職か進学かをテキトーに書くか、ウケ狙いを書くかを考えた。

だが、その時だった。

 

「失礼します」

 

何者かが教室に入ってきた。

 

「やれやれ。いつ来てもここは相変わらずですね」

 

その人物に、カミナたちは立ち上がり表情が強張る。

 

「げっ、テメエは!?」

「教育委員会の!?」

 

カミナたちは知っている。だが、ネギやデュナミス、そしてフェイトたちはその人物を知らなかった。

 

「あ、あの~、まだホームルーム中ですけど、どちら様ですか?」

 

ネギが顔色を伺いながらその人物に尋ねる。

スーツを着た、マッシュルーム頭でメガネを掛けた男。

 

「突然の訪問、失礼致します。私、教育委員会のギンブレーと申します。この度は、抜き打ちでこのクラスの様子を監督に来ました」

「えっ、えええええ!?」

 

男の名前はギンブレー。

教育委員会の人間だった。

 

「あ、あの、抜き打ちで監督って、僕何かしました? このクラスはとくに問題なんてなかったと思いますけど!?」

「そうだそうだ!」

「俺たちゃ最近、喧嘩もしてねーし、授業にも出てるんだぞ!」

 

ギンブレーの登場に戸惑うネギに、明らかに不満そうな生徒たち。

するとギンブレーは、生徒たちに鋭い視線を投げかけた。

 

 

「ほう。つい最近にも停学者を一人出したと聞きましたが? カミナくんと並ぶ大問題児、堀田シモン君。よく平気な顔で登校できますね」

 

「「「「「「「「「うっ・・・・・・」」」」」」」」」」

 

「まったく、近衛学園長の寛大すぎる配慮がなければどうなっていたことか。だが、流石にこれ以上は我々教育委員会も見過ごせません。生徒も生徒なら、教師も教師。この問題だらけの学園は、他の真面目に勉学に勤しむ生徒たちの害でしかない」

 

 

容赦ないギンブレーの物言いに、ダイグレン学園の生徒たちの表情がどんどんイラついていく。

 

「誰だこの男・・・超、知ってるかい?」

「教育委員会でダイグレン学園を目の敵にしている男ネ。教育委員会でも独自の勢力を持つ規律ガチガチ派、『銀部会』の代表ネ」

「何だか嫌味な人だな~・・・って、セクストゥム、何してるの!?」

「あの男、マスターを侮辱しましたので、削除しようと」

「にゃにゃ! ダメだよ! フェイト様がまた怒るよー!」

 

敵意、侮蔑の態度丸出しのギンブレー。

教室の中の空気もギスギスして、どこか一色触発の空気である。

 

「ギンブレー、待ってくれよ。俺は確かに停学になった。みんなにもいっぱい迷惑を掛けた。でも、みんなのことまでバカにするのは許さないぞ!」

「堀田シモン君。別に今に始まった事ではありません。募り募ったモノが口から出てしまうのですよ。君の学園祭で起こした惨状を聞くと、今でも私は退学にしてやりたいぐらいですよ」

「うっ、くそ・・・」

 

言葉が出ないシモン。ギンブレーを切り裂こうとしているセクストゥムを焔たちは必死に取り押さえていた。

 

 

「けっ、何が問題だ。俺たちの常識をお前らで計るんじゃねえ」

 

「むっ、カミナ君ですか」

 

「今回、シモンがやった問題なんざ、俺たちからすれば小せえことだ。それこそ俺たちには何の問題もねえ!」

 

「ほう・・・小さい問題だと?」

 

「おうよ。学園祭でシモンがした事と言えば、ハゲヒゲ親父を半殺しにして、ニアとぶっちゅうして、武道会会場中を巻き込む大乱闘をして、セクとイチャこらして、ロボット軍団引き連れて学園で大暴れして生徒たちをパンツ一丁にして、デュナ先公をボッコボコにしたぐらいじゃねえかよ!」

 

「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」

 

「本当によく退学しませんでしたね」

 

「だーはっはっは、そーいやそうだ。よっ、さすがは俺の弟分なだけあるぜ!」

 

「兄貴! 何にもフォローになってないよ!」

 

 

なんもフォローになってねえ。豪快に笑うカミナにツッコんだ。

 

「やれやれ。まあ、暴力事件に関しては生徒やロージェノム氏本人から状況に関して説明がありましたし、被害にあった者は訴えていませんので、それについてだけを強く責める事はできませんが、君は他にも不純異性交遊という重大な過ちを犯しているではないですか」

 

学生に付いて回る不祥事の一つ。暴力事件以外に、シモンは不純異性交遊という嫌疑が掛けられていた。

だが、シモンは顔を真っ赤にしながらも否定する。

 

「ななな、何言ってるんだよ! おれ、そ、そりゃ、ちょっと、キキキ、キスくらいはしたけど・・・それ以上のことなんてしてないよ!」

「ほう。では、婚前交渉はしていないと」

「し、してないよ! なあ、ニア?」

 

同意を求めて振り返ると、そこにはニアではなく、難しい顔で腕組みしている黒ニアがいた。

 

「く、黒・・・ニア・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「な、何で黙ってるんだよ! し、してないだろ? してないよね? 俺たちはまだ何もしていないよね!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

何故か、額に汗を掻いて無言になる黒ニア。その反応に衝撃が走る。

 

「あの・・・焔・・・婚前交渉とは何でしょう?」

「え、ええええ!? ちょ、セクストゥム、な、何故私に聞く!?」

「いえ、不純異性交遊と婚前交渉・・・言葉は知っていますが、意味が良く分からないので・・・」

 

何の話題なのかがイマイチよく分からないセクストゥムの問に、焔は顔を真っ赤にさせながらも彼女の耳元でボソボソと話す。

 

「つ、つまりね・・・ごにょごにょごにょ」

「分かりました。つまり、マスターと交わるということですね?」

「こら! せっかく小声で教えたのに、口に出すな!」

「しかし、マスターと交わるという行為なら、私も既に二回ほど・・・(注・シモンのシモンインパクトで、螺旋の力を送り込んでセクストゥムを起動、パワーアップさせたとき)」

 

そして、教室が再び荒れた。

 

「誰か! 黒ニアを止めろ!」

「ちょっ、フェイトさんまで急にどうしたネ!?」

「止めるな、超。僕は今、出来損ないのアーウェルンクスを処分するだけだ!」

「ほぢゅわああああああああ!!!!」

「デュナ先生を取り押さえろ!」

「どど、どうしたんですか、デュナミス先生!?」

 

結局この騒がしいペースと光景に逆戻り。

ギンブレーは深く溜息を吐かずにはいられなかった。

 

(やれやれ、まともに相手をしてはダメですね。いつも彼らのペースに乱されるのですから)

 

カミナたちとマジメに話をしてもバカバカしくなるだけ。

冷めた溜息だけ吐いて、ギンブレーは相手にしないようにした。

 

「それまでにしてください。もう、十分でしょう」

 

すると、その空気の中で手を挙げたのはこの男だった。

 

「シモンさんはちゃんと処分を受けています。カミナさんたちも問題は起こしても、着実に更生の兆しが見えています。そして、そのキッカケを作ったのがネギ先生でもあります。あまり、我々の学校をバカにしないでいただきたい」

 

それは、毅然とした態度で告げるロシウだった。

すると、ロシウにギンブレーも態度を変えた。

 

「これはこれは、ロシウさんではないですか。相変わらず全国学力試験などでは優秀な成績を収めているようで」

「それはどうも」

「しかし、私は君のことも理解できませんね。これまで私や教育委員会から、他校への編入の薦めや海外留学の誘いもあったでしょう。それなのに、あなたのような優秀な生徒がどうしていつまでもこの学園に?」

 

ギンブレーの言葉に、クラスがハッとなった。

 

「君は高校入試では体調を崩して、やむをえずこの学校に入学したのではなかったのですか?」

 

その事にはキタンたちも驚いた。

 

「おい、ロシウ! それは本当かよ」

「お前、いつも転校してーとか言ってたじゃねえかよ」

 

何故ならロシウはいつも、この学園に入ったことを嘆いて、他校の編入試験があればすぐにでも転校すると豪語していた。

だが、今のギンブレーの言葉が本当だとしたら、ロシウにはいつでもダイグレン学園から他の学校に転校することが出来たのである。

ましてやロシウのように真面目で成績優秀者なら、それこそ相応のレベルの学校にも行くことが出来たのである。

だが、ロシウはしなかった。できなかったのではなく、自らの意思でしなかったのである。

何故か?

 

「そんなこと・・・言わせないでください」

 

どこか切なげにソッポ向くロシウ。クラスメートたちはハッとなった。

 

「なるほどね・・・」

 

フェイトが呟いた。

 

「ロシウは病気になってしまったんだね。ダイグレン学園という猛毒に犯され、そして感染してしまった」

「随分スカしてるガ・・・・・・それ、フェイトさんが言える立場カ? それならあなたは超重症患者ヨ」

 

だが、フェイトの言うとおりである。いや、ある意味フェイトだからこそロシウの心情を理解できるのかも知れない。

いつの間にか、居心地の良いこの学園から離れられなくなってしまった。

 

「やれやれ、才能の無駄遣いをなさるのですね」

 

ロシウの言葉を聞いて、ギンブレーはどこか失望したような溜息を吐いた。

そしてそのままロシウの机まで歩み寄り、彼の机の上にある進路調査カードを取り、読み上げる

 

「ほう。法学部への進学希望ですか。目指すのは、弁護士ですか? 官僚ですか? それとも国連ですか? あなたなら、それを目指すに相応しい環境を手に入れられるというのに、それを放棄するのですか?」

「なっ、勝手に人の進路に口出ししないでいただきたい!」

 

怒ったロシウはギンブレーから進路調査カードを取り返す。

だが、ギンブレーはそのまま他の生徒へと歩み寄る。

 

「ふむ、黒野キノンさん。あなたもロシウさんほどではないにしても、成績は優秀。目標は大学進学で、文学部志望。けっこうなことです。健闘を祈りますよ。ただし、第二志望の同人作家というのはいただけませんね。修正なさい」

「ちょっ、見ないでください!」

「ですが、他の生徒たちはどうでしょう?」

 

淡々とキノンの進路カードを読み上げた後、ギンブレーは次々と生徒たちの進路カードを読み上げていく。

 

 

「進路・・・海賊王・・・ハーレム王・・・大和撫子、大食いチャンピオン、フェイト様の右腕等々・・・あなたたちは高校生をナメているのですか? 就職、もしくは進学する気もない者たちの掃き溜めとなるぐらいなら早急に学校をやめなさい。高校は義務教育ではないのですから」

 

「「「「「「「「「「な・・・・なんだとこのマッシュルーム頭が!!??」」」」」」」」」」

 

 

ギンブレーの容赦ない言葉に怒り心頭の生徒たち。

言われていることは間違っていないとはいえ、元々不良の彼らに納得できるはずもなく、机を蹴り飛ばし喧嘩腰に立ち上がる。

 

「あ、あのお! みなさん、ダメです落ち着いてください!」

「ふむ・・・なかなか学生というのも難儀なのだな」

「デュナミス先生も止めてくださいよー」

 

喧噪渦巻くクラス。

すると・・・

 

「おや、何を隠しているのです? 黒野キヤルさん」

「な、なんでもねえよ!」

 

キヤルが焦って机に覆い被さって、進路調査カードを隠そうとする。

だが、ギンブレーは容赦なく取り上げた。

するとそこには・・・

 

「志望進路・・・アイドル?」

 

アイドル。キヤルの進路にはそう書かれていた。

 

「ア、 アイドル?」

「キヤルさんの・・・進路が?」

 

キヤルの進路を知らなかった者は呆気にとられ、逆に知っていた者たちは「やっぱりな」と指を鳴らした。

 

「いいじゃん、いいじゃん。あんたってば、昔からそうだったもんね! この際、今流行のアイドルユニットみたいに、私たちも立ち上げる?」

「もーう、お姉ちゃんもそんなからかわないの。ねえ、お兄ちゃん?」

「いや、俺は良いと思うぜ! むしろ、俺の自慢の妹たちが姉妹でデビューなんてもんになったら、俺の鼻が高いってもんだ!」

「鉄の三姉妹ってか? それなら、むしろもっと大勢で組んだ方がいいんじゃねーのか?」

「だな、幸いこのクラスにゃ女の比率が急激に増えた。三姉妹、ヨーコにニアにフェイトガールズに超にセクちゃんやフェイト」

「正に、麻帆良・・・いや、MHR48だ!」

「いや、待ちたまえ。何故僕がエントリーされている」

「うーむ、それはおしかたネ。そういう企画があるなら超包子がスポンサーになって、学園祭で披露できたヨ。肉まんに握手券を入れれば・・・」

「それじゃあ、センターを誰に・・・」

 

アイドルという話題で盛り上がるクラスメートたち。

だが、拳を握りしめながら言葉を発せずに立ちつくすキヤルに、ギンブレーは嘲笑の籠もった溜息を吐いた。

 

「進路がアイドル。ふざけたことですね」

 

その瞬間、キヤルは前へ乗り出した。

その表情は、顔を真っ赤にしながらも真剣な表情でギンブレーを睨み付ける。

それは、キタンたちのように自分たちを侮辱されたからの怒りではない。

夢を侮辱されたからの怒りである。

 

「ふざけんじゃねえ、そして、俺はふざけてなんかねーよ。それは本気のことなんだ!!」

 

机を強く叩きつけるキヤル。

アイドル・・・キヤルのその夢を知っていた者、知らなかった者は様々。

しかし、ここまで真剣な眼差しで自分の夢を語るキヤルは、みなにも初めてだった。

 

「アイドルが本気? ・・・・ふっ」

 

しかし、ギンブレーは鼻で笑った。

 

「真剣であるのなら、更に悪い。幼稚園児でもないのに、そんな夢を未だに見るとは」

「な、なんだと!」

「まあ、今はそういうのがブームになっている時代。大方それに影響されて便乗しようという気ですかね? その程度の認識でなろうと思っているのなら、悲惨な未来しか待っていないと思いますけどね」

 

メガネのズレを指で直しながら、どこか見下したような口調で話すギンブレー。

キヤルは顔を真っ赤にしながらも、拳を悔しそうに力強く握っている。

そして、このような物言いに我慢できるダイグレン学園の生徒たちでもない。

だが、キヤルよりも我慢できずに先に動き出したのは・・・

 

「おい、ギンブレー・・・さっきから黙って聞いてれば・・・」

 

妹をバカにされたキタン・・・・ではない。

 

「キヤルはね~子供の時からその夢を・・・」

 

姉のキヨウ・・・でもない。

 

「ギンブレー。テメエ、俺らの仲間の・・・」

 

学園番長のカミナ・・・でもなかった。

本人でも、兄姉でも、番長でも、仲間でもない。

ギンブレーの発言に真っ先に声を張り上げたのは・・・

 

 

 

「いい加減にしてください!!」

 

 

―――――!?

 

 

ネギだった。

しかも、普段温厚で怒ることのないネギ。しかしこの日は違った。

張り上げた声には明らかに怒気が混じっていた。

これに驚いたのは、ギンブレーだけではない。

カミナやキタン、ヨーコたちも。静観していたデュナミスやフェイトたちも少し驚いてビクッとなった。

 

 

「ギンブレーさん。キヤルさんの進路指導は僕がします! 人の夢を真剣に聞かず、向き合わず、考えもしないあなたに、僕の生徒の指導なんかさせません!!」

 

 

教室が静まりかえった。

将来も何も、社会のこともよく分からない十歳児の子供が何を・・・などとは誰も言わなかった。

あまりに驚いて、怒鳴ろうとしていたキヤルたちもポカンとしてしまった。

 


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