【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第8話 たまにはこんなのも悪くない

「ちょっとどういうことよ、ネギがダイグレン学園に!? 何であんな不良の巣窟にネギが行かないと行けないのよ!?」

 

ネギが僅かな期間だが、自分たちの担任から外れて他校へ行くことになった。

しかもただ他校へ行くだけでなく、行った先は麻帆良学園生徒なら知らぬものは居ない、悪評高い麻帆良ダイグレン学園だ。

ネギの本来の担当である3-Aの教室では、アスナを中心に生徒たちが大騒ぎだった。

 

「まったく、アスナさんの言うとおりですわ! あの純粋で真っ直ぐなネギ先生をあんなゴミ溜めのような場所に行かせるなんて、絶対に許しませんわ!」

「うん、このままじゃネギ君がイジメられるか、不良になっちゃうよ!」

「やだー! そんなの絶対ダメだよー!」

 

アスナに同調するように、委員長のあやかや、裕奈にまき絵などもギャーギャー文句を言い、クラスをはやし立てる。

 

「そ、そんな~、ネギ先生がイジメられるなんて・・・ねえ、夕映~~」

「のどか・・・・・・。確かに、これはどういう経緯があったにせよ、学園教師側の判断は絶対に間違ってるです」

「う~ん、しっかしあのネギ君がよりにもよって、あのダイグレン学園にとはね~。今頃メチャクチャ洗礼を受けてるかもね~」

 

不安を煽るようなハルナの言葉に、アスナたちはグッと立ち上がる。

 

「冗談じゃないわよ、今すぐ連れ戻してやろうじゃない!」

「アスナさんの言うとおりですわ! 今すぐダイグレン学園に乗り込んで、ネギ先生を奪還ですわ! とりあえず雪広家の特殊部隊も配置させるよう命じなければ。ネギ先生に、もし何かが合った場合は即刻ダイグレン学園を廃校にするだけでなく、不良を殲滅しますわ!」

 

ネギを救おうと過剰なまでに炎を燃やすアスナとあやか。

しかし、周りの者たちは、ネギを救いたいという気持ちがあるが、少し頷くのに躊躇ってた。

 

「でもアスナ~、不良の学校だよ? 私たちが乗り込んで、何されるか分からないよ~」

 

まき絵が皆の思ったことを代弁した。

 

「そうだね~、不良の巣窟に私たちが乗り込んだら、何されるか分からないよ」

「それって・・・エ・・・エッチなこととか?」

「それだけじゃないよ。ヤクザと繋がってるかもしれないし、売り飛ばされるとか、働かされるとか・・・」

「ええーー! そんなの嫌だよ~~!」

 

不安で顔を見合わせるクラスメートたちだが、アスナには関係ない。

 

「何言ってんのよ、そんな学校なら尚のこと救いに行かなきゃダメじゃない!」

 

そして、これまでネギと深く係わり合いのあった生徒たちも同じ。

 

「わ、私も!」

「のどかが行くのでしたら・・・私も・・・」

「せや。ネギ君を助けられるんはウチらだけやからな。ウチも行くで」

「お嬢様・・・何があっても私が必ずお守りします」

 

全身に刀やら弓矢やら槍やらお札やら、ありとあらゆる装備で完全武装した刹那が燃えていた。

 

「せ、せっちゃん・・・鬼退治やないんやから」

「いいえ。これでも足りないくらいです。麻帆良学園の暗黒街とまで呼ばれる場所へ行くのですから」 

「ふむ、では拙者らも手を貸そう」

「ネギ坊主は私の弟子アル。弟子のピンチを救うのも師匠の役目アル」

 

次々とネギ奪還のために動き出すクラスメートを見て、躊躇いがちだった他の生徒たちも、意を決してうなずいた。

さあ、出撃だ。

しかしその時、クラスメートの鳴滝双子姉妹が、教室に重大ニュースを持ち込んだ。

 

「みんなーー、大変だよーー!」

「麻帆良ダイグレン学園の不良が、中央駅前で大乱闘してるらしいよーーー!」

 

そいつらこそ、正に妥当しなければならぬ不良。

 

 

「「「「「「「「「「なにいいい!?」」」」」」」」」」

 

 

それを聴いた瞬間、アスナはいち早く教室から飛び出した。

 

「こーしちゃ居られないわ!」

「あ、アスナさん!? ええ~い、皆さん、私たちもアスナさんに続きますわ! ダイグレン学園と徹底交戦ですわ!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおォォォ!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

何でドッジボールなのかと問われても、シモンたちには答えられない。

所詮は10歳の少年が勝手に言い出したことだからだ。

しかしその勝手な少年の言葉には熱さを感じた。真剣に自分たちのためを思ってくれる心が篭っていた。

 

「いくよ、みんな」

「ああ。これで応えなくちゃ男じゃねえ!」

「おう、そうだそうだ!」

「ちょっと~、私は女なんだけど?」

「そう言ってるが、随分いい顔してるじゃねえか」

「あら、そうかしら?」

 

元々彼らの息はピッタリだった。世間一般のチームワークというのとは少し違うが、仲間同士の絆というものは確かに感じていた。

それが彼らの強みでもあり、それがここに来て更に強固なものへと変わった気がした。

 

「皆さん・・・がんばって・・・」

 

ネギは両手を合わせて、ハラハラしながら決着の瞬間を待つ。

自分の言いたいことをすべて言った今となっては、もう自分に出来ることは見守ることだけだ。

ネギの願いを聞き入れたにタカミチにガンドルフィーニも新田も、ただ黙ってその瞬間を待つ。

どちらが意地を通すのか。世間一般では価値のないものかも知れぬが、その意地の証明こそが不良である彼らの存在価値なのだから。

 

「ふっ、不良の意地があるのなら、私にもドッジボール部の誇りがある! これで終わらせるわ!!」

 

英子がボールを高らかにあげ、太陽を背に飛び上がる。

 

「あれはさっきの!?」

「カミナに当てた技よ!」

 

上がったダイグレン学園の士気をぶち壊すかのごとく、英子は渾身の力を込めてダイグレン学園に放とうとする。

 

「太陽拳!!」

 

だが、太陽の逆光を利用したその技を、この男が逆に利用する。

 

「僕が相手だ!」

「ロシウ!?」

 

これまでまったく出番の無かったロシウが前へ出た。

不良や問題に常に頭を悩ませていた彼だが、ネギの言葉に心を動かされ、彼も前へ出る。

 

「ふっ、正面に立つとは無謀よ!」

「それはどうですかね!」

「なに!?」

 

ロシウは若者でありながら悩み多い。そのストレスが作り出した広いおでこを、太陽を背に飛ぶ英子に向ける。

 

「ロシウフラッシュ!!」

「なっ、太陽の光がおでこに反射して!?」

 

何と逆光を利用した英子に対して、ロシウは太陽の反射を利用した。

その効果は絶大で、飛び上がった英子は思わず目を瞑ってしまい、ボールの威力は格段に弱まった。

 

「この天井の無い広い空の下! お日様に背を向けてどうするというんですか!」

 

少し間抜けかもしれないが、ロシウの機転がチームのピンチを救う。

そして威力の弱まったボールを、ニアが正面からキャッチした。

 

「やりましたよ、ロシウ!」

「流石ニアさん、よく取ってくれました!」

「やっぱ色々なスポーツやってただけあって、運動神経がいいわね!」

 

ボールをキャッチしたニアは、仲間に喜びの表情を見せ、そのまま相手に向かって思いっきり投げた。

 

「たああ!」

「うぐっ!? ・・・くそっ、やられちまったね」

「アディーネ!? まずいぞい。数が減らされた」

「私だって、シモンと・・・皆さんと一緒に戦うのです!」

 

細腕のか弱い女の子に見えて、運動神経の良いニアが投げたボールはアディーネに当たり、相手の人数を更に減らした。

これで数的にはダイグレン学園が圧倒的有利になる。

だが自分の陣地に転がるボールを拾い、英子は吼える。

 

「まだまだ! ドッジボールは最後の一人が居なくなるまで、勝負は分からないのよ!」

 

太陽拳を破られた英子だが、彼女の技はまだ尽きない。

体を目いっぱい捻らせて、最初に出した技を放つ。

 

「トルネードスピンショット!!」

 

螺旋の軌道を描いたボールが、ニアに襲い掛かる。

このスピードと威力は、さすがのニアでも受け止めることは出来ない。

しかし、だからこそ男たちは黙っていない。

 

「ニアちゃんは渡さねえ!」

「レディーを守るのは男の役目!」

 

キッドとアイラックがトルネードスピンショットからニアを横から庇って、ダブルヒットを食らってしまう。

 

「キッド! アイラック!」

「ふっ・・・やられちまったな。おい・・・シモン! 俺たちと違って、お前はレディーを泣かせるなよな」

「絶対に・・・ニアを守れよ!」

 

全てを出し切ったような表情を見せ、キッドとアイラックが外野へ移動する。

 

「ふっ、しぶといわね。でもまだまだ私たちの攻撃は終わらないわ」

「ちッ、ボールが外野まで転がりやがった。なんて威力だ。まだ奴らのボールだぞ!」

 

一気に二人を減らし、ここが勝負どころだと見て、英子も勝負を掛ける。

 

「ビビ! しい! トライアングルアタックよ!」

「分かったわ、英子!」

「了解!」

 

外野に居るブルマーズの二人が頷き、その瞬間から三人の間で高速のパス回しが始まった。

 

「なっ、速いわ!?」

「トライアングルだと? どんな陣形だ!?」

「いえ、惑わされてはダメです。ただの三角形です!」

 

バカばっかの不良たちの中で、ロシウがトライアングルアタックの正体を叫ぶが、分かったからといってどうすることもできない。

 

「はい、一人アウト!」

「うぐっ、・・・しまった・・・」

 

パスの速さについていけず、後ろを取られたロシウがあっさりと当てられアウトになる。

弾かれたボールはそのまま再び相手の陣地に転がり、すかさずトライアングルアタックが繰り返される。

 

「ま、まじいぞ!? こりゃ~、ピンチって奴だ! だが、負けるわけにはいかねえ!」

 

臆せず吼えるキタンたちだが、所詮強がりに過ぎない。英子もこれでこのまま決着をつける気である。

 

(ドッジボールは人数が減ったほうがコートの中を自由に走り回れる分、使える人間が残ったら面倒になるわ。そう考えると先に当てるべきなのは・・・あの二人!)

 

英子は瞳を光らせて、運動神経の良いヨーコとニアに狙いを定める。

 

「ビビ!」

「OK!」

 

味方からパスを要求し、英子はその場で回転しながらパスボールにキャッチして、そのままダイレクトで相手を狙う。

溜めの隙を無くしたために、相手も構える準備が無い。

 

「ダイレクト・トルネードスピンアタック!!」

 

反動を利用して威力を何倍にもあげたボールが向かう先にはニアが居る。

ニアも覚悟を決めて正面から受け止めようとする。

 

「ニアは・・・俺が守る!!」

「ッ!? シモン、ダメ!」

 

ニアを庇うようにシモンが立ちはだかる。

しかしその瞬間、今度はシモンを守るように、二人の男が飛び出した。

 

「うおお、トルネードがどうした!!」

「俺たちの暴風のほうがよっぽどデケーぞ!!」

「なっ!?」

「そんな!?」

 

ジョーガンとバリンボーだ。

二人はシモンとニアを守るために自らを犠牲にした。

 

「くっ・・・まだまだァ!!」

「やべえ、ボールはまだ敵のものだ!」

「その子がダメなら、そっちを狙わせてもらうわ!」

 

英子は再びボールを受け取り、ニアではなくヨーコに狙いを定める。

ヨーコもかかって来いと相手に気迫をぶつけるが、先ほどのボールを止められる自信など無い。

だが今度は・・・

 

「俺たちの絆、テメエごときに喰いつく尽くせるかァ!!」

「うらああ!」

「なっ、キタン!? ゾーシイ!?」

 

キタンとゾーシイがヨーコを庇った。

 

「バカ、何てことすんのよ!」

「へっ、すまねえな。こいつはただの我がままだ」

「ちっ・・・ここまでしか来れなかったか」

 

嵐のような怒涛の攻撃を喰らい、大勢の仲間がアウトになった。

 

「くっ・・・やってくれるわね・・・」

 

後に残されたのは、シモン、ヨーコ、ニアの三人だけだった。

静まり返るダイグレン学園。

一度はネギとシモンの言葉で持ち直した彼らだったが、とうとう数的にも相手に逆転されてしまった。

 

「皆さん・・・シモンさん・・・ニアさん・・・ヨーコさん・・・」

 

全ての決着は内野の三人に託された。ネギは祈るように三人を見る。

 

「どうやら決着がつきそうですね」

「うん、彼らもがんばったけど、流石に英子君たちが相手じゃきついね」

 

テッペリン学院というより、麻帆良ドッジ部の底力を見せられたと、ガンドルフィーニやタカミチも惜しかったなと呟き、既に勝敗は決したと思っていた。

内野は3人。対するテッペリン学院は4人で、更にボールはテッペリン学院側。後は時間の問題だと、誰もが思っていた。

 

しかし、英子やチミルフたちはこれで終わったとは思っていない。

 

 

「ウルスラの・・・」

「ええ、分かっているわ。彼らの目を見れば一目瞭然よ」

 

仲間の犠牲により、生き残った彼らがこのまま黙って終わるはずは無い。シモンたちの目がそう語っていた。

誰も諦めちゃ居ない。

だが・・・

 

「でも・・・意地だけで、全てがまかり通るほど甘くは無いわ! これで終わりよ!」

 

英子は再び体を捻る。その捻りは、先ほどまでより更に捻っているように見える。

 

「これが風速最大限!! マックス・スピン・トルネードショットよ!!」

 

ボールがトルネードのような暴風となり、全てを終わらせるために放たれる。

これで終わりか? 

奴らの意地はこれまでか? 

だが、外野に居るダイグレン学園の瞳はまだ光を失って無い。

 

「見せてやれ、兄弟。トルネードだかスピンだか知らねえが、お前の魂を。お前が一体誰なのかをな」

 

カミナは珍しく静かにボソッと呟いた。

そもそもこれまで大声で常にうるさく騒いでいたカミナが、味方がこれだけやられているというのに一言も発していなかった。

それは諦めたからではない。知っているからだ。

自分が外野に行って落ち込みかけた仲間たちを鼓舞し、ようやく覚醒した弟分の力を知っているからだ。

 

「いけ、シモン!!」

 

英子のボールがシモンに襲い掛かる。

この瞬間、シモンはまるで世界の全てがスローモーションになったような感覚の中で、螺旋を描いて迫るボールを見た。

 

(このままじゃダメだ。それにこんなに凄い威力なら、ニアもヨーコもまとめて当てられてちゃう。だから、俺が何とかしなくちゃいけないんだ)

 

シモンは意識をボールの軌道と回転に集中させる。

 

(ボールの正面に立つんじゃダメだ・・・回転に逆らわないように・・・包み込むように・・・)

 

シモンはゆっくりと手をボールに差し出し、そしてあろうことか、ボールを手で包み込むように、そして螺旋を描くボールの軌道に自身の体を乗せ、自分もボールごと一緒に回転する。

シモンはボールを持ったまま、威力に逆らわずにその場で一回転し、その反動を利用してボールを相手に向かって手を離した。

 

「なっ!? 私の必殺ショットをいなして弾き返した!?」

「なんと!?」

「くけえ!?」

 

何かが起こるかもしれないと予想はしていた。

だが、それがこんな結果になって返ってくるとは思わなかった。

大技の後で硬直して動けぬ英子に・・・

 

「しまっ!?」

 

驚きのあまりに反応の遅れたグアームとシトマンドラに・・・

 

「しもうた!?」

「くけええ!?」

 

これぞ伝説のトリプルヒット。

 

「バカな、トリプルヒットなど、私でも数えるほどしか見たこと無いわ! ・・・・ッ!? ボールの威力がまだ残っている!?」

 

英子は驚愕する。そして螺旋を描くボールの威力はまだ衰えていない。そのまま残るチミルフに向かって飛び込んだ。

 

「それだぜ、兄弟! そいつが・・・ドリルがお前の魂だ! テメエのドリルは、壁を全部ブチ破るまで止まらねえ! お前のドリルで天を突け!!」

 

チミルフは逃げずに正面から螺旋を描いて突き進むボールの前に立つ。だが、一回転、ニ回転と、その回転力は衰えるどころか更に増し、その螺旋の力がついに壁をぶち破る。

 

「いけえええええ!!」

「ぬおおおおおおおお!?」

 

最後の一人のチミルフまでアウトになったのだった。

あまりの力に皆が声を失ってしまった。タカミチも思わずタバコをポロッと落としてしまった。

 

「そんな・・・・・・ドッジボール歴10年・・・初めて見ました。トリプルヒットを超える幻の・・・・クアドラプルヒット・・・」

 

その瞬間、伝説が生まれた。

 

 

「「「「「うおおおおおおおお!!」」」」」

 

 

奇跡の反撃に麻帆良中央駅前に歓声が舞う。

 

「やるじゃねえか、シモン!」

「流石だ兄弟!」

「見たか、これが俺たちの10倍返しだ!!」

 

外野に行かされた仲間たちがここぞとばかりに大声を張り上げる。

いや、彼らだけでなく、ネギもタカミチもガンドルフィーニも、そして新田ですら今目の前で起こった奇跡の技に、ゾクリと体を震わせ、興奮が収まらなかった。

そして、興奮していたのは彼らだけでない。

 

「すげえ! 何だよ今の技!」

「ダイグレン学園のあいつスゲエ!」

「いいぞー! ダイグレン学園!!」

 

それは、見知らぬ者たちの歓声だった。

 

「えっ・・・」

「お、・・・おお・・・これは・・・」

 

ドッジボールに集中しすぎて全員気がつかなかった。

何といつの間にか授業が終わり、既に休み時間となった生徒たちで、ドッジボールのコートの周りは人で埋め尽くされていた。

 

「ネギーーーー!!」

「ネギ先生、ご無事ですかーーーッ!」

「来たで、ネギくーーん!」

 

そして、その人ごみを掻き分けて、アスナたち3-Aの生徒たちまでここに居た。

 

「ア、 アスナさん!? それに皆さんまで、どうしてここに!?」

「何言ってんのよ、あんたがダイグレン学園で研修なんて聞いたから、皆で助けに行こうとしたんじゃない。それより、なんなのよも~、喧嘩してるって聞いたのに、ドッジボールなんかして何考えてんのよ!?」

「心配したアル!」

「だが、杞憂のようでござったな」

「まあ、先生ですからね」

 

ネギが心配で仕方なかったクラスメートたちは、直ぐにネギに怪我が無いか体をあちこち触ったり、叩いたり、とにかく囲んでもみくちゃにした。

 

「あらら、なんだかすごいことになってるわね」

「すごいです。皆、今のシモンや皆さんの活躍をちゃんと見ていてくれたのです!」

 

いつの間にか学園中の注目を集めてしまったダイグレン学園。

その視線はこれまで嫌悪や侮蔑で見られていた視線とは違う。

 

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・・」

 

シモンは全ての力を出し切ったように、腰を下ろして呆然とこの光景を眺めていた。

カミナたちはどこかうれしそうに、どこか気恥ずかしそうに周りを見渡す。

そんな光景を見せられて、そしてこれだけ完敗すれば完全に闘志が萎えてしまったチミルフは、小さく笑ってコートを出てシモンの元へ行く。

 

「助っ人を使ってこのザマだ。これ以上は恥の上塗りじゃろう。ワシらの負けだ。理事長にはそう伝えておこう」

「えっ?」

「ワシらではダイグレン学園からニア様を連れ出すのは不可能だとな」

 

どこかスッキリしたような表情だ。ヴィラルもシトマンドラもアディーネも仕方が無いと苦笑した。

 

「ニア様・・・これがニア様の答えと思っていいのですな?」

「はい。そしていつか必ず私の口からお父様に認めてもらいます」

 

シモンに抱き付いているニアは、しっかりとした口調で告げる。

もうこれ以上は無理だろうと、チミルフたちも折れてしまった。

 

「ウルスラの・・・これで良いか?」

「・・・ふっ、・・・あんなものを見せられては仕方ないわ。大人しく負けを認めるわ」

 

勝敗が決し、相手が敗北を認めた。

その瞬間、再び麻帆良学園中央駅前で大歓声が沸きあがり、外野へ行った仲間たちもシモンとニアの下へ走った。

 

「うおっしゃあああああああああ! やったぜシモン! 男を見せたな!」

「俺はお前もやる男じゃねえかと思ってたんだよ!」

「ニアを絶対に離すなよな! 見せてもらったぜ、愛の力をな!」

「もう二人でチューしろ!」

「いいえ、いっそのことこの場で結婚しちゃいなさいよ!」

 

全力を出し切って疲れ果てたシモンを仲間たちはもみくちゃにし、何度も叩いて、挙句の果てには胴上げまでしている。

しかしその中にカミナは居ない。

 

「カミナ、あんたはシモンの所に行かないの?」

「ヨーコ? ・・・ああ。言葉なんていらねえ。俺もあいつも全部分かってるからな」

 

カミナはただ、少し離れたところから、男を上げた弟分にうれしそうに笑ってた。

 

「まま、待ってくれよみんな~」

「シモン、チューです。チューをしましょう!」

「ニアも待てって、勝ったのは俺だけ力じゃないだろ? お礼を言う人が他にいるじゃないか」

 

仲間たちに囲まれているシモンは、疲れた体で無理やりその場から飛び出した。

そしてゆっくりと3-Aの少女たちに囲まれているネギの下へ行く。

 

「な、何よ・・・あんた・・・」

「えっ、・・・あっ、・・・いや・・・その・・・」

「アスナさん、待ってください。シモンさんたちは、悪い人じゃありません」

 

アスナを筆頭に、あやかや裕奈、刹那たちまでシモンをギロッと睨む。

 

「あのさ・・・その・・・俺・・・・」

 

相手は中学生の女の子たちだが、その実力は超人クラス。

妙な圧迫感に圧されて、先ほどまでのかっこよかったシモンがどこかへ行き、再びおどおどとしてしまった。

 

(楓・・・)

(うむ・・・刹那こそ・・・)

 

対してアスナたちは喧嘩が始まるかも知れぬと予感しながら警戒心を高め、いつでも飛び出せる準備をしている。

だが、そんな彼女たちの予感とはまったく予想外の行動にシモンは出た。

 

「あの、・・・先生ありがとう!」

 

「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」

 

不良軍団の一人が、ネギに向かって頭を下げて礼をした。

アスナたちも驚いて言葉を失ってしまった。

 

「その・・・先生が無茶してくれたから・・・俺もみんなも勝てたし、ニアを守ることが出来た。だから・・・先生・・・本当にありがとう」

 

ネギも最初は言葉を失った。

だが、徐々にシモンが言った言葉が分かり、その瞬間は子供らしくニッコリと笑ってシモンの手を取った。

 

「いいえ! だって僕・・・今は臨時ですけど、ダイグレン学園の教師ですから!」

 

シモンとネギの会話を聞きながら、アスナたちも呆然とした状態から徐々にため息をつきだし、何やら自分たちの思っていたこととは違う展開で、要らない心配だったのではないかと苦笑した。

そして二人のやり取りをヨーコたちも眺めて同じように笑っていた。

その後は良く覚えていない。

ネギも生徒たちと一緒に鬼の説教を延々と聞かされていた。

皆とハニカンで笑顔にならないように必死だったが、気を抜けば笑ってしまうぐらい、この一日はネギにとって素晴らしいものに感じていた。

ただ、全てを言い終えた新田やタカミチたちがネギやシモンたちに向かって「結構、熱いじゃないか」と言ってくれたことは、よく覚えていた。

 

そして、翌朝・・・・

 

 

 

 

「それでは・・・出席を取ります・・・・・」

 

次の日ネギは、再びうな垂れていた。

昨日は全てうまくいったかのように思えたのだが、一夜明けて教室に来てみると、早朝のホームルームに出席していたのはロシウ、シモン、ニアの三名だけだった。

 

「う・・・ううう~~~」

 

そう簡単には甘くいかなかったのか? 

ネギは少し悲しそうに顔をうつむかせた。

だが、その時教室の外からギャーギャーとうるさい声が聞こえた。

 

「だ~~、大体ホームルームって何時からなんだよ! 一回も出たことね~から分かんねーよ」

「もう、せっかく時間通りに起こしたんだから、兄ちゃん起きろよな~」

「つうか、な~んでヨーコが俺んちに起こしにくるんだよ」

「だってあんた絶対に寝坊するでしょうが!」

「眠い・・・・」

「だ~、やっぱこのまま帰っちまおうかな~」

「やっぱ慣れねえことはするもんじゃねえな~」

 

一人二人の声ではない。

10人近くの学生の声が教室の外から聞こえてきた。

 

「・・・えっ?」

 

まさかと思って顔を上げる。

すると、教室の扉を手で開けてきたカミナが顔を出し、続いてヨーコや昨日のドッジボールのメンバーたちが全員登校してきた。

 

「あの~・・・みなさん・・・ち・・・遅刻です・・・」

 

ネギは再び顔を俯かせた。

 

「なにい!? だから面倒くせえって言ったんだよ!」 

「どーせ遅刻するんならパチンコ行けば良かったよ」

「タバコ買い忘れた・・・」

「朝飯食えなかったぞーーー!」

「食えなかった食えなかった食えなかった!」

「も~、昨日はダーリンと愛し合う回数減らしてたのに、意味ないじゃなーい」

「アニメ・・・見てくればよかった」

 

遅刻を宣告された不良たちはブーブーと文句を垂れる。

だが、そんな彼らの行動に、ネギは何故か涙が浮かび上がった。

そしてその涙を必死に誤魔化しながら満面の笑みを浮かべて叫んだ。

 

「え~い、今日は出血大サービスです! 後5分遅れたらダメでしたが今日は僕、特別に許しちゃいます!!」

 

少しずつだがたった一日で変わり始めた。

昨日は途中から自分が教師としての評価がダメだったら教師を辞めなければいけないという事をすっかり忘れてしまっていた。

しかしだからこそ、ウソ偽りの無い言葉が口から出て、皆の心を動かしたのかもしれない。

まだまだ普通の生徒たちとは言いがたい問題児ばかりだが、ネギは今日はとてもうれしい気持ちで朝から過ごせることになった。

 

「それでは、ホームルームを始めます。皆さん、席についてください。それとニアさんはシモンさんを好きなのは分かりますが、席を離してちゃんと座ってください」

 

そんなネギを見て、シモンは少しネギが眩しく見えた。

自分には出来ない。

仲間もカミナもニアも居なければ、きっと昨日も自分は何も出来なかった。

しかしネギはたった一人で奮闘し、皆の心を動かしたのだ。

俺も負けていられない。

自分も変わりたい。

そう思って、教壇の前に立つネギを見ていたのだった。

 


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