【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
海の向こうには多くの世界があった。
遙か昔の人類は、海の向こうに多くの出会いと浪漫を求めて旅立った。そんな彼らの積み重ねが今の私たちの世界となっている。
しかし、昔の人間はここまで考えていただろうか? 海の向こうどころではない。星の海の向こうには無限とも呼べる世界が広がっていた。
下から見上げるしか出来なかった輝く星の数々が今では、四方八方に見える。
地球儀でしか見たこと無かった地球は、本当に青かった。
この光景を夢見た宇宙飛行士候補がかつて何人居たのだろう? そんな彼らを差し置いて、こんな世界に来るのは申し訳ない気がする。
でも、この感動の前にはそれも薄れた。
日本が見える。
それだけではなく、日本から飛行機で何十時間もかけなくちゃたどり着けない場所も、ここからなら短く見える。
日本から離れた場所にある国。あそこは、この間ニュースで紛争があった場所だ。
無限に宇宙は広がるのに、私たち人間はあの小さな国同士で争っている。
もし、あそこで争っている人たちにこの光景を直に見せてあげたらどうなるのだろう? 私は柄にもなく・・・
「エメエラルドオーーー!!」
「ちょっと、シモンさん! 人がこのスターオーシャンに感動しているとこに俗物根性丸出しの声を上げないでよ!」
「だって、大気圏を抜けたら、何だかすごい静かなんだもん。こー、気合を入れないと」
「気合と俗物は別だって言ってんのよー!」
星の海原に浸っていたアスナは、泥臭い気合いで雄叫びを上げるシモンたちに気分をぶちこわされた。
「もー、アスナも怒らんで。シモンさんたちの目的はドラゴンさんなんやから」
「何言ってんのよ、木乃香! 宇宙よ!? ノリとはいえ宇宙に来ちゃったのよ!? 人類浪漫の最終生産地よ!? もっと感動することがいっぱいあんでしょうが!?」
「ははは、アスナさんの気持ちも分かります。私も裏の仕事をしておりますので、魔法の国や魔界などの噂は聞いています。しかし宇宙なんて・・・なんでしょう。壮大というか・・・もう、言葉には表せませんね」
「でしょー! 私たち、今地球から飛び出してんのよ!? 銀河系第三惑星地球から飛び出してんのよ!? もー。ワクワクとかそういうレベルじゃないわよ!」
ツッコミたいことは腐るほどあった。そもそも、何で月にドラゴンが居るんだ? そもそも、シモンの父親は何者なのか? ってか、何で私たちまで行くんだよ。とか数限りない。
しかし、この無限の闇が広がる宇宙に飛び出しただけで、アスナは爆発しそうになったツッコミどころが全て頭から抜けた。
どこまでも壮大で、どこまでも自由で、そして果てしない宇宙の旅に、細かいことなどどうでもよくなった。
「なーんか、もうここまで来ちゃったんだもん。何でも来いって感じよ! シモンさん、ドラゴンと戦闘になったら手伝うからね!」
「はい。私もです。そして、必ずプロポーズを成功させてくださいね」
ワクワクが押さえきれず、アスナと刹那はストレッチと素振りを始めた。今なら、何でも来い。何にだって勝てる。そんな気分だった。
「ああ、ありがとう! 俺、がんばるよ」
プチアークグレン。堀田博士の隠れアジトから盗んだ宇宙船だ。
大きさ自体は、旅客機よりも遥かに小さい。だが、数名で乗るには十分すぎる大きさだった。
機内には、今シモンたちがいるブリッジの他には、予備のパーツやメンテナンス用の器具が入っていると思われる倉庫。
乗組員全員が集まれるようなミーティングルームに食堂、数名分のベッドとシャワーの付いた個室など、生活環境には申し分ない設備が整っていた。
まさかここまで整った宇宙船を、麻帆良で発見できるとは誰も思わなかった。
それを所持していたシモンの父親について、アスナたちも非常に興味深かったが、今は初めての宇宙にテンションが高まっていた。
「あっ・・・でも、ドラゴン倒すってどうするん? 今、この宇宙船は重力とか酸素とか整っとるけど、ウチら宇宙空間に出た瞬間に死んでまうやろ? 宇宙服とかあるん?」
目を輝かせて張り切るアスナたちの傍らで、木乃香の誰もが思う疑問を口にした。
すると、焔は胸を張って答えた。
「その点なら心配いらんぞ、近衛木乃香。我々。完全なる世界のメンバーは理由があって宇宙での知識もある。そして、生身の者が宇宙空間に出る方法も心得ている」
それは、宇宙には無知のアスナにも信じられない内容だった。裏世界に詳しい刹那も驚いていた。
「はああああ!? ちょっ、焔ちゃん、ほんとなの!? だって、テレビで見てたらみんな宇宙飛行士は大きい宇宙服着てるじゃん!?」
「あれは、一般人向けに公開されているだけだ。真に鍛えられた宇宙飛行士はとある手段を使い、生身で宇宙空間に出ている。あまり、テレビなどで公開されている情報だけが真実だと思わないことだ」
「えっ・・・・ちょっ、ちょっと待ってよ・・・それならその手段って・・・」
公開されている情報だけを信じるな。それは、魔法という世界に触れてアスナも思うようになったことだ。
だが、誰にでも「そんなことまであるはずがない」という頭の中での線引きがある。
魔法の世界を知っても宇宙の世界はまったくの未知であったために、アスナも驚くしかなかった。
「方法は簡単だ。自分の肉体を魔法や気を纏わせ、その環境に適応できるようにすればいい。感卦法なら更にいい」
それは、実に身近で意外な方法であった。
「はっ!?」
「そもそも感卦法や闇の魔法などは、我ら完全なる世界の主でもある、『始まりの魔法使い』が宇宙へ行くために開発した手段でもある」
始まりの魔法使い? そういえば、そもそも完全なる世界って何だ?
まずは、アスナたちはそこから既に疑問なのである。
だが今はそれよりも・・・
「ねえ・・・焔ちゃんたち・・・・何でそうやって・・・・何で何だか重要そうな真実をサラッと日常会話で話すのよ!? いきなりすぎて反応に困んのよ!! っていうか、『始まりの魔法使い』とか何なのよ!? 人類で一番最初に宇宙に行ったのはガガなんとかさんでしょ!?」
「な、何故知らんのだ? 貴方の祖先でもあるというのに」
「知らないわよ! ってか、だからそうやってサラっと言わないでってば! 受け止め切れないから!」
重要そうなネタバレがポロポロ出過ぎて、アスナも最早どれに対して反応すればいいのかも分からなくなってきた。
「うーん、せっちゃんは何か知らん? って、何でせっちゃん頭かかえとるん!?」
「か・・・完全なる世界・・・始まりの魔法使い・・・アスナさんの祖先? な、なんなんでしょう・・・真実を知ってしまったら、誰かに消されてしまうぐらいの世界最大トップシークレットに触れてしまったような感覚は・・・」
世界や歴史の裏側の真実に、覚悟も心の準備も無く告げられてばかりで、何だか段々どうでもよくなってきた。
「は~、もういいわ。そこらへんの話はネギとかが居ないと何にも分かんないし。それより、今は感卦法とかっていうやつよね。悪いけど私、そんなのできないわよ?」
「いえ、アスナさんは武道大会で・・・と言っても、やはり難しいですね。出来たとしても常時それを纏うことなど何年も訓練しないと無理でしょう。ちょっと気が緩んで解けた瞬間に死んでしまいますからね」
「あ~、こんなことなら学園祭終わってからそういう修行でもすれば良かった~。剣道だけは刹那さんと修行できてるけどさ」
とにかく、衝撃の事実は今は置いておこう。
問題は目の前の問題。宇宙船に乗ってノリで宇宙まで来たはいいものの、宇宙空間に生身で出ることは死を意味する。
見たところ、この宇宙船には宇宙服のようなものは存在していない。何の準備もなしに来るような場所ではないのである。
だというのに・・・
「あっ、でもさっきこんなの見つけたよ?」
シモンが、手のひらに収まるぐらいの大きさの、丸いケースを取り出した。ワックスやクリームなどが入ってそうなケースには、こう書かれてあった。
「えーっと、『ギャラクシークリーム』。開発者・堀田キシム・神野ジョー。『これを体に塗ると生身で宇宙に出られるよ♪』だってさ」
「「「どこのドラえモンだ!!??」」」
なんか、大丈夫そうだった。
「とにかく、シモン。我々は愛する人のためならどこまでも想い続け、何だってやり通してしまおうというあなたを尊敬する。絶対にドラゴンを倒し、エメラルドを手に入れ、ニアへの溢れんばかりの想いをぶつけるんだ」
「当たり前だ。俺を誰だと思っている!」
細かいことなど、愛の前には不要だ。いつもはゴチャゴチャ考えるシモンも、今日は考えなかった。
ただまっすぐ、宇宙に浮かぶ丸い月だけを見据えていたのだった。
そんな、ニアのことしか考えないシモンを見て、フェイトガールズたちも、何だか表情がトロンとしていた。
「いいな~、ニアは。好きな人からプロポーズされるんだもん。しかも、初恋だよね~」
「ええ。憧れますね。想い人から心のこもった贈り物・・・素敵ですね・・・」
言ったのは暦と調だ。その意見には、他の娘たちも同じだった。
「もし・・・フェイト様に・・・」
「ば、馬鹿、恐れ多いぞ、暦!」
「い、いいじゃん、焔。想像するぐらいは別に・・・焔だって憧れるくせにさ~」
「うっ・・・そ、それは・・・まあ、思わなくはないとはいいきれないわけだが・・・」
これからプロポーズしようと意気込んでいるシモンを見て、何だかニアが羨ましかった。
「ふーん、何だか暦ちゃんたちは揃って恋する乙女って感じね。やっぱ、フェイトが好きなのね~」
「「「「「///////////////////」」」」」
「あはは、顔真っ赤や~、かわええなー、焔ちゃんたち」
「よっぽどフェイトのことを慕っているのですね」
声に出さずとも表情を見れば分かる。何だか微笑ましかった。
「ねえねえ、せっかくだし、フェイトとの馴れ初めとか教えてよ。完全なる何とかとか、始まりの魔法がどうのとかじゃなく、私ら学生の会話って言ったら恋バナが定番なんだから!」
「えっ、フェイト様の?」
「うん。こう言っちゃなんだけど、私やネギとかフェイトとの出会いは最悪だったのよ。嫌味ったらしい無口なガキって感じでさー。あっ、でも今は意外と情に熱くて人間臭いイイやつってのは分かってるんだけど、焔ちゃんたちが出会った頃はどうだったのかな~って」
「あっ、ウチも聞きたいえ!」
「そうですね。よほど、運命的な出会いだったのでしょうね。そうでなければ、それほど強い想いにはならないでしょうし」
木乃香も恋愛には疎い刹那も少し気になった。
フェイトガールズはそれぞれモジモジしながら、「あなたから」「暦から」「焔が話してよ」と恥ずかしそうに誰かを先に言わせようとしていた。
「もう、照れちゃって可愛いわね~! ほらほら、旅は長いんだから、全員まとめて洗いざらい吐いてもらうからね~!」
アスナも嬉々としていた。
まるで、修学旅行のようなノリだった。普段は内に秘めるはずの恋バナも、宇宙に来ればどこかオープンになった。
だが・・・
「私は特殊な能力を持った村で育っていました。その能力を国などから重宝されているうちは良かったのですが、脅威に思った人間たちに村を襲撃され、姉を殺されました。そして、私もまた同じように殺される・・・そう、思った私の前に現れ、命を救ってくださったのがフェイト様でした」
「この私の角は、万病に聞く妙薬とされ、闇の世界では高値で取引されます。欲に狂った人間たちに追い回され・・・恐怖で怯え・・・非道な笑みを浮かべて私を追い詰めていく人間たち・・・しかし・・・そこでフェイト様が現れて・・・」
「大戦後の紛争は、私から村を・・・家を・・・片目を・・・そして父様と母様を奪った・・・全てを奪われ、そして失い、絶望だけが残って生きる気力も残っていなかった私の前にフェイト様が・・・」
栞、調、焔の順。
三人とも語るも涙、しかしフェイトを語る時だけはウットリとしている。
悲しみの過去も、フェイトの出会いを想えば運命だと、むしろ誇らしげだった。
暦と環も何だか似たような話だった。
「あっ・・・そ~~~~~~~お~~~~~~う。良かったわね~・・・フェイトに出会えて」
汗まみれでドン引きのアスナ。
思ったより重かった。
こんな重い恋バナは人生で初めてだった。ズーンと重い空気を背負いながら、アスナと木乃香と刹那はただ引きつった表情のまま、そう言うことしかできなかった。