【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
もうじき元の女子校の教師に戻るネギ。
そのネギに今までの感謝を込めて計画しているお別れ会に、ビッグサプライズを用意できた。
アリカとネギの再会をすぐにでもさせてやりたく、あとは当初の目的を達成さえさせれば、すぐにでも地球へ戻ろう。シモンたちはそう思っていた。
しかし・・・
「エメラルドドラゴンが月にじゃと? 誰じゃ、そんなデマを申したのは」
「「「「「えっ・・・・・・・・・・・・」」」」」
月での生活数年というベテランが、アッサリとシモンたち本来の目的を打ち砕いた。
「「「「「ギロッ!!」」」」」
「・・・・・・・・・・・」
一同、鋭い瞳で環を睨む。
「ちょっとちょっとー! せっかく月まで来たのに、ドラゴン居ないじゃないのよー!」
「大した確証もなくノリで来てみたものの、空振りとは・・・シャレになりませんね」
「環のバカー!」
「うちら何しにここまできたん?」
環は素知らぬ顔で口笛を吹いて誤魔化すが、後頭部に汗をかいているのが分かる。
「お、おかしい・・・確かに十年ぐらい前からそういう目撃情報が・・・」
「そもそも誰がそんな情報を流したのですか!?」
「りゅ、竜族の中でそういう・・・」
「月で子作りするぐらいの月生活大ベテランの方に全否定されたではありませんの!?」
月にエメラルドドラゴンが居る。
アリカとの再会で少し予定がズレたものの、当初の目的を果たして地球へ帰ろうとしたが、それも崩れた。
偽物の太陽の日差しを浴びて、砂浜の感触を確かめながら海の水を蹴り上げた。
「ふふ、しかしプロポーズか。ようやく、シモンとニアが結ばれるか」
「でも、まだ成功したわけじゃないから・・・それに指輪だってまだ・・・」
「良いではないか。重要なのは言葉や物より心じゃ。ただ、抱きしめてもらえれば女は本望じゃ」
「・・・・・・・・・・・・」
「なんじゃ、シモン・・・・いや、ヌシらもそのように目を細めてどうした?」
「「「「「べつに~、ごちそーさまです」」」」」
エメラルドドラゴンが居ないことで、何のために月にまで来たのか分からなくなったシモンたちの落胆は激しかった。
一方で、無表情なのに雰囲気はウキウキしているアリカと、テンションに差があった。
「そうじゃ、シモンよ。先ほどの携帯電話とやらの写真をもう一度見せてくれぬか?」
「えっ・・・また?」
「よ、よいではないか・・・その・・・何度でも見たいと思っても・・・」
シモン、少し溜息つきながらポケットから携帯電話を取り出して、データーフォルダから一枚の写真を取り出す。
それは、ダイグレン学園のみんなや、ネギと一緒に取った写真。
ネギの顔だけアップにして、アリカに差し出すと、アリカは全身を震わせながら携帯を受け取った。
「なっ!? 天使じゃと!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「な、なんじゃ、この賢く利口そうでありながらも、愛らしさまで兼ね備えた、天に愛されたかのような幼子は!? 神々のリーサルウエポンか!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「はっ・・・よく見ると・・・私の息子か・・・・・・そ、そうか、これがネギか・・・」
シモンたち、白けた表情でアリカを見る。
アリカは、百年の恋すら覚めるぐらいデレ~っとしていた。
「ねえ、これでこのやりとり何回目だっけ?」
「4回目」
息子の写メを見せてから、アリカはずっとこんな様子。
画像データの息子にデレデレしまくりだった。
「あ~、しかし心配じゃ。このようにめんこい子を世のおなごが放っておかぬであろう。しかし、十歳じゃからまだ早いであろうし・・・あ~、ネギを妬んだ何者かにイジメられてはいないであろうか・・・」
最初はただのバカップルだと思っていたが、もはやそれを通り超えたバカ親っぷりだった。
「ねえ、刹那さん。このバカ親に、アンタの息子は色んな女の服脱がせまくって、キスしてるとか教えてあげようか?」
「はは、アスナさん、アリカ様に意地悪ですね」
「なんかねー、イラつくのよねー、何でかしら?」
「アスナー、そらー、やきもちやない?」
「やきもち?」
「だって、アリカさんとネギくんが会ったら、ネギ君はアリカさんにベッタリやろー? ウチらの部屋にも住まなくなるやろうし、ネギ君を取られてまうからやない?」
「はあああああああ!? 誰が、あんな奴を!?」
「そういえば、アスナさんは真剣に先ほどアリカさんを怒っていましたね。やはり、ネギ先生のパートナーですから・・・」
「もー、そんなんじゃないんだってば! あんな麻雀ばっかの雀狂ガキなんかねー!」
確かに、ネギが麻帆良に来てからの付き合いのアスナ。
色々と手をやかれもしたが、共に様々なことを乗り越えて時を重ねていった二人は、他の者たちとは違う関係性だった。
それが親愛か母性か恋かは別にしても、これからネギがアリカにべったりになれば、面倒を見てきたアスナが面白く思わないのも不思議ではないと、木乃香たちは勝手に思いこんだ。
「ふふ、シモンよ、子供とはよいものじゃな」
「はは、そうだね」
「ニアもいずれ子を産むであろう。その時は、私とナギのような過ちを犯すでないぞ?」
「ああ。そうだね。俺も親と暮らせなかった時間が長かったから・・・だから・・・そのぶん俺は子供と一緒にいるよ」
シモンにアドバイスをして、再び携帯の画面にデレーっとするアリカ。
時折、カッコつけたクールな表情をしたりするが、まったくしまりがない。
昔のアリカはもう居なくなってしまったんだなと、シモンは時の流れを感慨深く感じた。
「そういえば、シモンよ。ニアを選んだことは分かったが、綾波はどうしたのじゃ?」
「えっ!?」
「ニアを選んだということは、選ばれなかった者も居るということになろう。じゃが、それでもヌシらの絆を思うと、綾波が気になっての」
言えない。
その、綾波フェイの正体がかつてナギとアリカが戦ったテルティウムだということを。
自分のクラスに転校してきて、ネギの生徒であることを。
「じゃが、気を付けろ? 私の宿敵、完全なる世界のデュナミスは綾波フェイに完全に心奪われた。その執念は並大抵のものではないかもしれぬ。そして、何故かシモンに異常なまでに殺意と恨みを抱いておった」
「あ・・・あ~・・・そ、そうだね」
「既にニアを選んだとはいえ、綾波もヌシには大切な者であろう? しっかりと守ってやるのじゃ」
言えない。
そのデュナミスとはとっくに再会して、激闘の末に今では麻帆良の教師になってること。
お前の息子と結構仲のいい同僚だと言えない。
「ふふ、そういえば、今のヌシには不用かと思うが、ヌシらと犯罪組織・黒い猟犬(カニス・ニゲル)との二十年前の戦いは聞いておる。あれ以来、テオドラ皇女はヌシに心奪われておったぞ?」
「はは、テ、テオね・・・」
「もし、あれ以来一度も会っておらんのなら、一度私と共に会いにゆかぬか?」
言えない。
とっくに会ってます。
テオは転校してきてます。
デュナミスともフェイトとも、結構今では仲良いことを。
「あれから十年・・・タカミチたちが居るとはいえ、完全なる世界はまだ滅んでいないであろう。戦いはまだ続いているのかも知れぬ」
アリカ、仮初めの水平線を見つめて、どこか決意をした目。
「息子と会う。それに勝る幸福はない。じゃが、戦いはまだ終わってはおらぬ。悠久の時より受け継がれてきた宿命を断ち切るまではな。・・・気を引き締めねばな・・・」
言えない。
その完全なる世界のメンバーフルキャストで麻帆良に居ると。
全員ネギのクラスに居るんだと。
「「「「「・・・・・・・・・ドキドキ・・・・・・・・・」」」」」
言えない。
ちなみに、この場に居る焔たちは完全なる世界のメンバーですよと。
焔たちはハラハラしながら、アリカから視線を逸らした。
「もーやめ! ドラゴン居ないんだし、さっさと地球に帰ろ!」
アスナは手を叩いて場を締める。
目的のものはないのだから、いつまでもここに居ても仕方ないだろうと。
確かにその通りである。
「そうだよね。あ~、でも、指輪は本当にどうしよう」
やっぱりちゃんと働いて指輪を購入するしかないかと思いながら、シモンたちは地表へ出ようとした。
しかし、その時だ。
この幻想空間を強烈な揺れが襲った。
「なっ!? じ、地震か!?」
「はあ? つ、月で? ・・・で、でもデカイわ!?」
「な、なんじゃこれは!? 私も初めてじゃぞ、これほどの揺れは」
突如起こった地震。しかし、その揺れはただ事ではない。
徐々に揺れが大きくなり、まるで大きなものが上から下へと降りてくるように音が響いていた。
「なにかが来ますわ!」
一同、天井を見上げる。仮初の青空と雲と太陽だ。
すると、その空の中心に巨大なヒビが入った。
「な、なんなのよ!?」
巨大なヒビはやがて、空と雲を四方に崩壊させて、それは元の月の瓦礫と化して崩落した。
降り注ぐ月の瓦礫とともに、巨大な何かが落ちてきた。
それは、大きな土煙を巻き上げ、墜落とともに海に巨大な波しぶきを上げた。
「えっ・・・・・・・・・・・・・・!?」
「なっ!?」
「う、・・・うそ・・・」
仮想空間に突如墜落してきた謎の物体。それは大きく蠢き、それだけでなく思わず目を覆ってしまうほど眩い光を放っていた。
巨大な波がナギハウスを襲い、浜辺に立っていたシモンやアスナたちはずぶ濡れになった。だが、それを気にする様子はない。彼らは顎が外れんばかりに口を開いて驚いていた。
「ド・・・ドラゴン・・・」
そう、ドラゴンだ。
自分たちの身長の十倍以上で見上げるほどの巨大さで、しかも美しいまでの光を放つ姿だ。
風貌はとても王道的。生のドラゴンをほとんど見たことのないアスナたちでも一目で分かるほどの分かりやすさ。力強く太い両足。地球の獣とは比べ物にならない巨大な鉤爪。
その胴体は爛々と輝く宝石のようだった。
「っ・・・バ、バカな・・・宝石竜の一体・・・エメラルドドラゴン・・・」
信じられぬと呟くアリカ。だが、今彼女が口にした名前が、シモンたちの「まさか」という気持ちを確信に変えた。
「「「「「「ホントにいたよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!??」」」」」
居ない。そう断言したアリカの言葉を一瞬で覆す存在が、目の前に現れたのだった。
「どど、どうすんのよ・・・な、なんなのよ、こいつは!」
「はー・・・エメラルドのドラゴン・・・ほんまにおったんや・・・」
「ッ、京都のスクナよりは小さいが・・・しかし、この内面から感じられる圧迫感は・・・」
アスナたちなど、お伽噺でしか見たこともないドラゴンを目の前に圧倒された。
「ほ、本当に現れてしまい・・・くっ、お嬢様、下がってください!」
「え、せっちゃん、戦うん!?」
「いや、しかしこのままでは危険・・・」
「環、竜語で何か話せませんの!?」
「だ、だめ・・・さっきから波長を流しているけど、この竜は・・・私とは何かが違う・・・竜だけど竜じゃない」
警戒態勢に入る刹那や焔たち。だが、このあとはどうすればいいのか分からない。
こちらから攻撃を仕掛けるべきか。それとも様子を見るべきか。
当のドラゴンは現れたものの、シモンたちを見下ろすだけで動かない。
獲物を選別しているのか? 自分たちに警戒しているのか? 刹那たちはドラゴンの僅かな動作に最大限の警戒を見せる。
すると、次の瞬間だった。
ドラゴンが巨大な口を開けて鋭い牙を見せた時、誰もが予想もしていなかった事が起こった。
「時折こうして様子を伺いにくるものじゃな」
―――――――!?
シモンたちは思わず顔を見合わせる。
「ね、ねえ・・・今さ・・・」
「き、聞き間違いじゃないの?」
そんな馬鹿なことが・・・そう思ったシモンたちだったが、再びドラゴンが口を閉開させた。
「何の前触れも無く封印を解かれるとは・・・いや、あれから十年経った今年は、妙に世界が大きく動き出したな・・・」
間違いない。
「しゃ・・・しゃべった・・・ドラゴンが・・・」
エメラルド色に輝くドラゴンは、少女のような声で老婆のような口調で言葉を発した。
一応、環も竜族ではあるが、ここまで完全なるドラゴンが人間の言葉を話すなど思いもよらなかった。
すると、アリカがドラゴンの声を聞いてハッとした。
「その声は・・・アマテル・・・・」
「「「「「えっ!!??」」」」」
アリカの話しに出てきた、創造主の娘・アマテル。
この目の前の竜が、ソレだと言うのか?
「・・・・・・そうじゃ・・・十年ぶりじゃな、アリカよ・・・」
「ほ、本当に・・・本当に貴様が・・・」
「そう、我こそは創造主の娘・アマテル。人類最後の希望じゃ」
ドラゴンの口角が釣り上がる。完全に笑っているように見えた。
「ウソ・・・墓所の主が・・・」
「えっ、えっ、墓所の主って、あの『墓守人の宮殿』に居て、たまにフェイト様と内緒話とかしている!?」
「そんな!? 確か、フェイト様の話では墓所の主は『墓守人の宮殿』より外では活動できないはず!」
「それも、なんでドラゴンの姿で!?」
「っ、でも、それじゃあ、こいつが・・・こいつがネギからお母さんを引き剥がした!?」
小型の人工太陽を完全に覆い隠し、ナギハウスは大きな影に覆われる。
そのドラゴンが浜辺に降り立つだけで波が立つ。
現れたドラゴンは値踏みするようにシモンたちを一見する。そして、その視線がアスナに向いたとき、興味深そうな呟きを発した。
「なるほどな。黄昏の姫御子・・・アスナ・・・我が末裔が居ったか。アリカの封印を解除できたのも納得じゃ」
「は・・・わ、私?」
「更に、テルティウムの女たちが螺旋の一族と共に居るとはな」
テルティウム。フェイトの名前が出てきた。やはり、この女もフェイトたちの仲間なのだろうか。
シモンが焔たちの様子を伺う。しかし・・・
「「「「「そんな・・・フェイト様の女・・・ポッ・・・」」」」」
「照れてる場合じゃないでしょ!? 結局、このドラゴンは・・・そして、アマテルって何者なの!?」
緊張感があまり無い様子だった。
しかし、そんなやり取りをしているシモンたちを見て、アマテルはどこか感嘆したような声を漏らした。
「螺旋の男・シモンじゃな? 貴様のことは我が父・・・造物主も気にしておった」
「造物主!? じゃあ、こいつはあいつの・・・!?」
「賭は聞いておる。どうやら、堀田博士の勝ちのようじゃな」
賭け? まさか、造物主とシモンに接点があり、賭けなどをしているなど聞いたことが無かった。
「どういうことなのよ、シモンさん!」
「シモン・・・あなたは、マスターと会ったことがあるというのですか!?」
「それって、さっきのタイムスリップの話し? じゃあ・・・賭けって・・・」
「シモンよ。そなた・・・どういうことじゃ?」
賭け。そう言われてシモンも思い出す。かつて造物主と会った時の話し。
―――私はお前に世界も未来も託せぬが・・・アーウェルンクスはお前に託そう。赤毛の魔法使いが世界と未来を救うかもしれぬ者なら、お前は何かを変えるかもしれぬ者。いずれ会う日を楽しみにしている
「ああ。覚えているさ」
自然と笑みが零れた。
フェイトは自分たちの前から居なくなるかもしれない。
フェイトやセクストゥムは自分たちの手に負える存在ではない。
かつて造物主はそう言った。
―――いずれお前の時代で会う日が来るであろう。その時、お前の隣にアーウェルンクスが居なければ、堀田の賭けは負けたのだと笑ってやろう
シモンたちは何かを変える者。堀田博士はそんなシモンたちに未来を託した。
もし、堀田博士の賭け通りなら、シモンたちならアーウェルンクスの運命すら変えられる。
それを確かめるために、造物主はシモンにフェイトとセクストゥムを託した。
「フェイトも、セクストゥムも、今でも、そしてこれからも、俺たちダイグレン学園の仲間だ!!」
胸を叩いて堂々とシモンは言う。
「今はもう、フェイトもセクストゥムも、そして焔たちやデュナミスが居ない学校生活なんて考えられないよ。毎日が、すごく楽しいよ」
「そうか・・・なかなか魔法世界にテルティウムたちが帰還しなかったのはそういうわけか・・・」
「ああ。お前たちが何を企んでいるかは分からない。でも、フェイトやデュナミスたちはもう、完全なる何とかなんて組織じゃない。ダイグレン学園のフェイトたちだ!」
シモンだけではない。違う学校のアスナたちも、そして同じ学校の焔たちだって分かっている。
そんなの当たり前だ。彼女たちの顔もそう言っていた。
「ま・・・待つのじゃ、シモン・・・今、幻聴なのかとてつもない会話を聞いたような・・・・」
ただし、アリカだけは違う。
「ア、アーウェルンクスや・・・デュナミスじゃと・・・それにその娘たちまで完全なる世界だとか・・・」
アリカは口元を引きつらせながら、「久々起きたから耳が詰まったか?」と耳を軽く叩く。
確かにそう思っても仕方ないだろう。かつて世界を巻き込む大戦争の渦中に居たアリカ。
その最大の宿敵にして、多くの悲しみを生み出した憎むべき怨敵である完全なる世界。
「完全なる世界のメンバーが・・・シモンの・・・仲間じゃと?」
少なくとも、彼女が起きていた時代からは全く予想もしていなかったことだろう。
しかし、それこそが今の時代での常識。むしろ、シモンにとってはフェイトたちがナギたちの敵だったというのが信じられないぐらいだ。
一体、完全なる世界が過去に何をやったのか。どういう連中なのか。アリカはそれをシモンたちは知っているのか戸惑ってしまった。
だが、そんなアリカの気持ちを察した刹那が苦笑する。
「王女。数ヶ月前、我々は京都へ修学旅行に行った際、アーウェルンクスに攻撃を受け、お嬢様も誘拐されました。ネギ先生も・・・戦闘で多少の負傷も・・・」
「ッ、・・・ならば、何故!?」
「はい。そのフェイトが転校生として麻帆良に来たとき、私も、高畑先生も、学園長も、他の魔法先生や生徒たちも、そしてネギ先生ですら殺気立ちました。しかし・・・」
刹那はおかしくて笑ってしまった。自分も今のアリカのような反応だった。
最も親しい友でもある木乃香を攫い、アスナやネギに危害を加えたフェイトをどうして受け入れられるのか。
いつフェイトが本性を出してもいいように、常に刀を常備して警戒していた。
しかし、今はどうだ?
「私は学びました。人の過去は消せない。罪も軽くなるわけでもありません。しかし、人は変わることが出来るのだと」
人は変わることが出来る?
実に単純な言葉だ。
だが、本当にそうなのか? 人は簡単に変わることが出来るのか?
「あ、ありえぬ・・・信じられぬ・・・大義のために世界を丸ごと消滅させようとした・・・完全なる世界が・・・人がそんなに簡単に変わるなど信じられぬ」
人は本当にそう簡単に変わることができるのか?
疑いと戸惑いで困惑するアリカを見て、アスナはちょっとイタズラを思いついてニヤリと笑った。
「おほん! え~、月移住一日目!!」
軽く咳払いをして・・・
「え~っと・・・『家具は少なくて構わぬ。殺風景の方が何かと落ち着くのでな。しかし、寝台が一つしかないのも困る。ナギを床に寝かせれば問題ないかもしれぬが、いつまでもそれでは気の毒かもしれぬ。じゃが、一緒に寝たいのか? などと不埒で自惚れた発言をするナギのバカ面を見てその気持ちは失せた』・・・」
「・・・ん?」
「月移住一ヶ月後!『ようやくナギが一緒の寝台で寝ることを了承しおった。確かに初日に拒否したのは私だが・・・大体ナギも寝台が狭いから嫌などと、どんな理由じゃ・・・狭いからこそ・・・その・・・良いのではないか・・・くっつけるし・・・』・・・だ、そうよ!!」
―――ズッガシャーン!!!!
アリカがズッコケて海に頭を強く打ち付けた。
「な、まままま、なぜななななななな!!??」
「はい、その一週間後! 『やはり裁縫は難しい。ナギに内緒でこの殺風景でつまらぬ部屋の模様を変えてやろうと思ったが、ハートマークがうまくいかぬ。しかし、私がこのような作業で悪戦苦闘するとは・・・ナギめ、何が魔法学校中退であまり魔法を使えないじゃ。貴様はとてつもない魔法使いじゃ。私に・・・恋の魔法をかけたのじゃから』・・・あーはいはい、そーいうことらしいです」
「アスナキサマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!??」
「そーねー、アリカさん。私も人がそんなに簡単に変わるなど信じられぬ(キリッ)。なーんてね♪」
アリカ。海の中に落ちていた石に額を打ち付けて流血。しかし、その血を一切拭かずに唸る。
もう、血なのかそれとも恥ずかしいからなのか分からぬほど顔を真っ赤に沸騰させている。
「何故それをそなたが所持しておる!?」
覇気を込めて相手を圧倒するようなプレッシャーを発するアリカ。
まるで親の敵を見るような殺意を込めた瞳でアスナを睨む。
しかし、今はもう誰も恐いとは思わなかった。
「アリカさんが寝てた棺の上に置いてあったの。見ろってことかなーって」
「な、何故じゃ!? それは、鍵付き魔法結界付きの金庫で厳重に閉まっておいたはずじゃ!?」
アスナは日記帳をヒラヒラとさせていた。
すると、意外な人物が口を挟んだ。
「私が置いた」
「アマテル!?」
「私はお前の保存状態を伺いに、たまにここに来ては暇潰しにそれを読んでおった。前回来た時に片づけ忘れた」
「な、なんじゃと!?」
「ちなみに、アスナよ。1990年8月辺りは傑作じゃ」
「えっ、ほんと!?」
「やめぬか!!」
「なになに? えー、今日から朝の日課として、寝ているナギの布団に潜り込み、ナギのナニのエクスカリバーを口でくわブフウウウウウーーーー!!??」
「地獄に落されたいか、アスナァッ!!」
「あああー!? アスナが鼻血ブーで自爆して、アリカさんが閻魔大王みたいに!?」
意外にもアマテルがアスナの悪ふざけに便乗した。
「これは知っておるか? アリカ作詞作曲ラブソング『創世のラブエリオン』じゃ」
「やあめえぬうかああ!!」
「一万光年と二千光年前まで愛してる♪」
「シモン、許可する! ドリルでアマテルに風穴を開けるのじゃ! デュナミスとの戦いでやったミックス・アップで倒すのじゃ」
「そう言われても・・・」
ドリルでズタズタにしろ。風穴を開けろ。臓腑をぶちまけさせろ。
血涙を流しながら訴えるアリカだが、シモンはどうも調子が出ない。
おちょくりまくるアマテルの態度に、アリカは怒り心頭だった。
しかし、アマテルもあくまで不敵に笑う。
「ふっ、大義を忘れた色ボケ女に成り下がった貴様に、何の興味もない。ただ、その肉体をストックとして持っておきたかっただけに過ぎぬ」
「黙れ! この私を愚弄する気か?」
「失望したくもなる。このように残念な女になってしまった貴様は、見るに絶えぬ!」
その時、アマテルはドラゴンの巨大な口を開ける。開けた口には光のエネルギーが徐々に収縮されていき、一気に放たれる。
「ッ!?」
「危ない!?」
まるでレーザー光線のように放たれた、ドラゴンブレス。一直線に突き進んだ、ブレスはナギハウスに直撃し、炎上させる。
「貴様! 私とナギの思い出の家を!」
「だから言ったであろう? 大義を忘れて甘ったれた過去にすがる貴様は、ただの愚か者じゃ」
ナギハウスが燃える。それは、世界中が敵となり、逃げ続け、ようやくたどり着いた愛すべき者との安らぎの場所。
楽しかったこと、時には喧嘩もした、激しく愛を確かめ合ったこともある。戦いと苦悩の日々の中で見つけた二人だけの幸福が、無残にも崩れ去ろうとしていた。
アリカはアマテルの非情な行いに、怒りと悲しみに満ちた表情で、膝から崩れ落ちた。
だが、その時、彼女たちは動いた。
「大丈夫!」
「この火はどうすることもできませんが・・・せめて!」
「せめて二人の・・・大好きな人と過ごしたっていう証拠だけは絶対に守って見せる!」
アスナや焔たちは燃え盛るナギハウスに、炎も恐れずに飛び込んだ。
何故、そんなことを? 決まっている。彼女たちは恋をしているから、アリカの悲しみを理解し、そしてアマテルの行動が許せず、体が勝手に動いていた。
彼女たちの行動に驚くアリカ。しかし、驚きの表情が、徐々に赤面に変わっていく。
「ほら、せめて思い出だけでも持ち出したわ!」
「アリカ姫、これだけあれば大丈夫でしょう!」
息を切らして、少しだけ鼻に煤が付いて汚れているが、満面の笑みを浮かべる少女たち。
普通なら、涙を流して感謝するところだが・・・
「YES NO 枕!」
「ペアカップ、ペアスリッパ!」
「ハートマークの手編みセーターとマフラー!」
「愛をつづったポエムとラブレター!」
「アリカ姫作詞作曲のラブソング!」
「エロエロランジェリー類とコスプレ衣装!」
「日記帳・アリカの新妻だいありー全冊!」
「「「「「これしか・・・これしか持ち出せなかったです」」」」」
「ヌシらは私をそこまでイジメたいか!?」
今となっては、綺麗さっぱり燃えて消え去ってしまっていた方が良かったのでは? と、アリカは思ってしまった。
だが、アマテルの嫌がらせは終わらない。
「そのラブソングの中の・・・未完の曲、『恋の宇宙開発・ラブマテリアル』も傑作じゃ」
「や、やめええええぬうううかあああああ!」
「宇宙に広がるラブマテリアル~」
アマテルドラゴン。アリカを挑発するかのように小躍りしながらアリカ作曲を熱唱。
「アリカ・・・ドンマイ・・・」
「わ、分かった。信じよう! アーウェルンクスも完全なる世界も変わったのだと信じよう! 私が色ボケ女になったことも認めよう! それでよいか! それで満足か!」
アリカは会心の一撃をくらった。
ようやく長い眠りから覚めたというのに、今すぐ死にそうなぐらい絶望に満ちた表情でうずくまっていた。
だが、刹那の言っていた「人は変わる」ということや、アマテルの「色ボケ女」という言葉が、まさかこのような形で証明されるとは、アリカ自身も思わなかった。