【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第96話 何の前触れもなく現れるのは勘弁しろし

雲一つない晴天。

季節はほぼ夏になるが、この暑さは気温だけが理由ではない。

通常の学校の半分ぐらいの大きさしかない狭いグラウンド。

ヒビや腐食が進み、補修の跡ばかりが目立つ建物。その入口にはサビで消えかかった文字で、「アダイ園」と書かれていた。

そこは、理由があって両親と住めなくなった身寄りのない子供たちの家。

普段は建物や場の雰囲気は薄暗く、近隣からも物静かな施設と呼ばれていた。

だが、この施設は今日に限り、今までにないぐらいの騒がしさと熱気に包まれていた。

祭りの熱気と祭囃子の騒がしさだ。

 

 

「うーらっしゃい! ジャンボフランクフルト、ギガフランクフルト、天元突破ギガフランクフルト、今なら一本300円! アダイのガキどもは全部タダだ!」

 

「おーっほっほっほ、子供たちはこちらにどうぞ! 私の幼い頃の古着1000着、サイズの合うものは自由に持って行って構いませんわ! 教室を一つ借りて試着できるようにしていますわ!」

 

「五月! 超包子特性まん、20個追加アル!」

 

「うむ、幼子たちよ、集まるでござる。今からヌシらに忍術教室を開くでござる。これをうまく学べば、今日のうちに下忍になることも可能。ほら、小太郎も手伝うでござる」

 

「みなさーん、たーんと召し上がれ」

 

「ねえねえ、あっちでデュナミス先生が影を使った手品をやってるって! 見に行こうよ!」

 

「おい、あっちでチアガール部がパフォーマンスやるってよ。シャッターチャンスだぞ!」

 

「軍事研究部、整列! これは、訓練ではない! 繰り返す、これは訓練ではない!」

 

「さあ、スーパードッヂの時間ですわ! 炎の闘球児たちよ、集いなさい!」

 

「おかーさん、あのお洋服、欲しい!」

 

「ほーう、子供向けの祭りかと思えば、麻雀大会をやるのか。腕試しで出てみるかな」

 

 

施設を囲うブロック塀沿いに立ち並ぶ屋台。手作りの舞台。それは、グラウンドをはみ出し、施設の門の外にまで広がっていた。

グラウンドの中央には簡易な椅子とテーブルが並び、休憩したり飲食をしたりできるようになっている。

それ以外は祭りの主催者側と、祭りに訪れた一般客で、アダイ園は大勢の人々で溢れかえっていた。

 

「わー、すごい! さすがダイグレン学園じゃん! 祭りをやらせれば無敵!」

「学園祭とは違って、こっちはこっちで面白そうだよね」

 

大盛況の祭りをアダイ園の門の前で驚く。ネギの生徒たちで、今日はただの客として訪れた、裕奈、亜子、アキラ、まき絵たち。

最初はもう少し質素なお祭りを予想していただけに、この普通のお祭りとなんら遜色ないクオリティーには脱帽した。

また、中にはダイグレン学園だけでなく、彼女たちのクラスメートたちも祭りの主催者側で協力していた。その働き振りもまた見事なものであった。

 

 

「あら、可愛らしい。こちらのドレスはあなたにとても似合いますわ! まるでお姫様のようですわ! きっとこのドレスはあなたと出会うのをずっと待っていたのですわ!」

 

「ねえ、お姉ちゃん、これ着ていい?」

 

「はい? もちろんですわ。でも・・・そうですわね、あなたはどちらかというとこちらの明るい色の方が似合うと思いますわ? ほら、サイズもピッタリ!」

 

「あー、これ可愛い! 私、これにする!」

 

 

家が裕福なだけあって、幼い頃からの衣類を何千着も持っていた、雪広あやか。彼女は自分の古着を子供たちにお下がりとして提供しようと、自力で古着屋台を出店していた。

最初は古着ではなく、新品の服を揃えて配ろうとも思っていたが、それでは金の力を使って人には嫌味に捉えられると判断し、彼女は古着屋にした。

馬鹿そうに見えて、意外と気を使え、汗水流しながら子供達と戯れるその姿に、亜子たちは感心した。

 

「えー、まずはチャクラの練り方を教えるでござる。そのためにはチャクラの知識を・・・」

「いや、楓ねーちゃん、皆ポカンとしとるやん。こうゆうんは、頭より体で覚えた方がええやろ?」

「ねえねえ、早くブンシンノジュツやってよー!」

 

子供たちの人だかりで円ができ、その中心では忍者姿の楓と小太郎が、忍者教室を開いていた。

ドロンのポーズで、漫才のようなやり取りをしながらも、術はしっかりとしているため、子供たちは目を輝かせている。

 

「ほーら、坊やたち、こっち向いてー、笑ってー、よし!」

 

その腕に、「記録係」という腕章をつけて、いつも以上に走り回って祭りの様子を写している朝倉。

 

「茶々丸、肉まんが無くなりかけているアル! 五月が、本店の倉庫から予備を持ってきてほしいって言ってるアル!」

「分かりました。三十秒以内に往復します」

 

学園一の人気屋台、超包子の出張サービス。

いつも大盛況で忙しいことにも慣れている彼女たちだが、今日はいつも以上に忙しい。

その理由は、いつも働いている四葉五月、古、茶々丸の他にもう一人本来は人がいるのだが、その人物は今日だけは超包子で働いていなかったからだ。

その人物は別にやることがあったために、働けなかったのだが、その人物は・・・・

 

「ぬあああああああああああああああああああああああ! フェイトガールズが居なければ、アイドルグループのライブ出来ないネ!!」

 

大量の写真やポスターの山の中で大泣きしていた。

 

「そんなッ!? こうしてフィギュア、グッズ、ブロマイドなどを大々的に準備して一儲けしようと思たのに、本人が居なければ全然意味ナイネ!?」

 

今日は手作り舞台で、超のプロデュースするアイドルグループのデビューライブのはずだった。

しかし、本番当日になってメンバーが全然来ていないことに、超はこれまでの苦労を思い出してマジ泣きだった。

人は言う。超の泣いている姿を、こんな形で見るとは思わなかったと。

だが、それでも相手はあの超鈴音。転んでもただでは起きない。

彼女は瞳を光らせ、涙を振り払いながら、首を回す。

 

「こうなったら、あの人に頑張ってもらうしか・・・・コラコラどこへ行くネ、フェイトさん♪」

 

超は悪魔のような笑顔で、その場からコッソリ立ち去ろうとする、ある人物の服の襟を後ろから掴んだ。

その人物の名は、フェイト。

 

「待て! 襟首を掴むな! 君の考えは分かっている。僕は絶対に嫌だからね!」

 

それでもジタバタして逃げようとするフェイトだが逃がさない。

 

「フェイトさん。あれを見るネ!」

 

超がフェイトの肩に手を回して指さす。

その先には、大盛り上がりの祭りの中で、何故か輪に入らずに遠くから黙って見ている子供たちが居た。

施設の子供たちだ。

 

「あの子達に笑顔を与えたいという気持ちはないカ?」

「だ、だからって、何で僕が!?」

「僕が? 違うネ。僕『も』ヨ。カミナさんやヨーコさんたちは、各々この祭りの準備、そして今も盛り上げるために走り回っているヨ」

 

軽快な手際で屋台の焼きそばや焼き鳥を捌いていくキタンたち。

ビキニ姿で男性客を虜にしながら写真を撮られているヨーコ。同じく白いワンピースの水着のニア。

施設の子供たちの手を掴んで無理矢理祭りに投げ込むカミナ。

いつも怠惰なグレン学園も、この日ばかりはイキイキとしている。

 

「そう、何もやっていないのはフェイトさんだけヨ?」

「ぐっ・・・」

 

確かに、準備もそれほど手伝っていないし、今もこうして何もやっていないのは・・・

 

「そ、そうだ! テオドラ皇女とセクストゥムも何もやっては・・・」

 

一縷の望みに賭けて、何もしていなさそうな二人を探す。しかし・・・

 

「ぬはははは、ヘラス帝国の食材を存分に使った、ヘラスもんじゃ焼きじゃ! さあ、めんこい童たちよ! もう二度と食べられるかもしれぬ食材に、今こそ飛びつくのじゃ!」

 

褐色肌。輝く汗と流れる金髪。額にタオルを巻いて、どこか活発さを感じられる。

服装も胸元の少し開いたTシャツに、デニムのショート。そして白いエプロン

とても普段はドレスを纏っている皇女とは思えない。気のいい屋台の姉ちゃんになっているテオドラ。

しかし、どこか神々しさを感じさせ、そのギャップが人を惹き付けていた。

 

「天然水・・・アーウェルンク水を無料配布中」

 

テオドラと同じラフな格好。

参加者が屋台の料理を食べるために設置されたスペースを駆け回って、紙コップに入ったオリジナル水を置いていくセクストゥム。

 

「のう、セクよ! そちらに団体二十名追加じゃ! 水の用意をたのむぞい!」

「コク」

「ぬはは、勤労勤労♪ あー、忙しいのう!」

 

見事なコンビネーションで屋台を切り盛りする二人。

その屋台にはそそられた男たちが長蛇の列を作っていた。

 

「姉ちゃん! ヘラスもんじゃを三つ! ついでにスマイル!」

「セクちゃん、水のおかわり! ついでくれた尚嬉しい!」

 

目の前の光景に目が点になる、フェイト。一番役に立たないと思っていた二人は、大勢の客を引き寄せて勤労に励んでいた。

 

「二人ともよく働いているネ」

「・・・・・・・・ああ・・・・・・」

「フェイトさん♪」

「・・・・・・・」

 

笑顔で肩をポンと叩く。そして一言。

 

「働けネ」

「・・・・・」

 

フェイトは無言。しかし超は勝手に話しを勧める。

まずは、キヤルを呼ぶ。キヤルは即決オッケーを出す。

抵抗はしないが、自分の力で歩く気力も無くしたフェイトが超とキヤルに運ばれていく。

普段は遊びまくるダイグレン学園が、今日に限っては祭りを盛り上げるためにそれぞれが役割を果たしていたために、何もしないということが許されなかった。

無理やり連れて行かれるフェイトも含めて、この祭りの状況に亜子たちも笑顔が絶えない。

 

「あはははは、フェイトくんも気の毒やなー、今日に限ってみんな働いとるから」

「でも、働いているのに、なんかみんな楽しそう」

「だね」

「ねえねえ、私たちも早く行こ! ネギ君も来てるかもしれないしー!」

「そうだね、みんなには悪いけど、私たちも今日はただ純粋に楽しもう」

「あっ、じゃあ、さっそく私はヘラスもんじゃ買ってくる! ついでにそのまま、デュナミス先生とかいう人を見に行こうよ!」

 

人に祭りを楽しませるには自分が楽しまなくてはならない。本心では、ただ馬鹿騒ぎしたいだけで始まった祭りかもしれないが、こうして客として訪れた自分たちも自然と楽しくなってしまう以上、ダイグレン学園の勝ちだと思えた。

だがしかし、それでも完全な勝利とは言えなかった。それは、亜子達は気づいていなかったが、祭りを盛り上げようとするカミナたちは嫌でも気づいていた。

 

「オラァ、ギミー、ダリー、お前ら何イスに座って休んでんだよ! もっと楽しんでこいよ!」

 

祭りの喧騒の中を走り回っていたカミナは、休憩スペースに設けられたイスに座って何もしない、ギミーとダリーのもとへと行き、二人を無理やり立たせようとする。

だが、二人も少し迷惑そうな顔をして、カミナに掴まれた手を振り払おうとする。

 

「いや、俺たちは準備で疲れてるし。今日は、チビたちが楽しめばそれでいいし」

「ばっかやろう! デカが楽しんで初めてチビが楽しくなるんだよ! デカの楽しんでるのを見て、チビはその背中を見て自分もそうなろうとするんだよ!」

「ちょっ、カミナさん、私たちだって子供じゃないんですから。私もギミーも頃合を見て、後で回ったりしますから」

「何言ってやがる! いつ回るか? 今だろ!」

「なんか予備校の先生みたいですね」

 

だが、ギミーとダリーの施設年長者の二人が祭りを一歩離れた所から見ているためなのか、今日の主役とも言えるアダイの子供たちも祭りの輪の中に入って行きにくそうである。

確かに祭りは盛り上がっているが、それはあくまで来場している一般客や出店している協力者たちだけであった。

 

「あら、そちらのお嬢ちゃん、見てないでこちらにいらっしゃい! お洋服、たくさんありますわ! 私がコーディネートしてさしあげますわ?」

「えっ・・・あ、い、いい・・・です・・・」

「あっ、ちょ、お待ちになっ・・・あら?」

 

スタートダッシュは良かったかもしれないが、店を出店している者たちは、徐々に違和感を覚え始めた。

やる気満々の、あやかのやる気が簡単に空回ったように、

 

「なあ、俺が残像拳・・・やのうて、分身の術教えたるから、来いて」

「・・・私・・・別に忍者になりたくないもん・・・」

「ええかー、チャクラの練かたは・・・って、おう、コラ、ちょと待てッ!?」

 

主催側のテンションに対して、子供たちのテンションは真逆の状態だった。

 

 

「ほら、撮るよー! 笑って笑ってー・・・って、ほら、ねえ笑ってって! スマイルスマイル! や、ほら、楽しいなーとか、もっと笑顔にね!」

 

「さあ、小僧どもよ、我らテッペリン学園がプレゼンツするこの最新型最先端技術導入のプリクラの説明をって、いい加減に聞けーーー!」

 

「どうかしら。アダイの子供たちVS希望する子供達で、スーパードッヂボール対決は!・・・あら? 坊やたち、どうしたのかし・・・・ま、待ちなさい、今から試合をやるって、ちょ、どうしたのよ!?」

 

「だーかーらー、配の読み方はそうじゃねえって言ってんだろ? やる気ねーのか? 全然、麻雀打てねえぞ!? もっかい教え・・・タ、タイムタイム、怒ってねーって、泣くなって!?」

 

 

そう、どれだけ誘っても、僕はいい、私はいい。やらない。できない。軽い拒絶というか、壁のようなものがアダイの子供たちにできていた。

どこか沈んだ表情。あまり祭りそのものに興味がなさそう。そんな様子だ。

 

 

「ったく、ここまでやっても辛気くせーとは、さすがだぜ。俺とシモンが施設に居たころより酷くなってやがる」

 

「まあ、・・・仕方ないっすよ。昨日も園長先生、熱あってずっとベッドだったし、みんな気がかりなんでしょ」

 

「いや、そりゃ分かってるけどよ。なんつーか、それで楽しまねえとか、それこそジジイが悲しむだろうがよ。言ったじゃねえか。なんでもかんでも、ジジイを理由にしてんじゃねえって」

 

 

肝心なやつらに笑顔が見れない。中々手ごわい相手に、カミナも複雑そうに頭をかいた。

 

「あー、カミナさん。こんにちは! 盛り上がってますね!」

「ん? おお、センコーじゃねえかよ! よく来たな!」

「来ますよー、当たり前じゃないですか」

 

頭を悩ますカミナのもとへ、一般客として祭りに顔を出したネギが挨拶してきた。

いつものような、教師のスーツ姿ではなく、今日はTシャツに七分丈というラフな格好。

年相応の十歳の子供にしか見えなかった。

 

「センコー? ああ、ひょっとしてその子が、有名な子供先生ですか? ロシウが言ってた」

「ほ・・・本当に子供だったんだ・・・」

「おうよ! 俺たちダイグレン学園が認める、漢の中の漢教師よ!」

「あっ、みなさんがロシウさんの居た施設の方たちですね。初めまして、ネギ・スプリングフィールドと申します。ロシウさんにはいつも助けていただいてます」

 

どこからどう見ても礼儀正しい幼い子供にしか見えない。

ネギのことは天才少年という噂だけは聞いているが、この子供が本当にロシウやカミナが認める教師なのかと、二人は疑いの眼差しでジーッとネギを観察した。

すると、挨拶も早々に、ネギは会話の流れでそのまま二人が聞かれたくないことに触れることになった。

 

「お二人は、中学生ですか?」

「まあ、中三っすけど」

「それなら来年は高校生ですね? 進学はどうするんですか? やっぱり、ロシウさんやカミナさんと同じダイグレン学園に?」

「えっ・・・あっ・・・」

「?」

 

ネギの何気ない質問に口ごもる、ギミーとダリー。その会話にカミナも反応し、二人の答えに耳を傾ける。

何か変なことを聞いたかと、ネギが首をかしげると、ギミーは数日前にカミナと話した時と同じことを言った。

 

「やっ、俺もダリーも・・・高校は行かなくてもいいかなって・・・・」

「えっ? そうなんですか? えっと・・・それは、何か他にやりたいことがあるとか・・・」

「いや、そうじゃなくって・・・えっと、なんて言えばいいかな・・・その園長先生が・・・」

 

そこで、カミナは全てを聞き終える前に体が動いていた。

乱暴にギミーの胸ぐらを掴み、

 

「おい、だからジジイを理由にしてんじゃ―――――」

 

だが、その言葉を言い終わる前に事態は少し変わる。

 

「マオシャ、ダメだよ」

「うるさいのう、ナキム。こいつら一回しばいとかんと、つけあがろうもん!」

「やーい、やーい、弱虫ナキムに凶暴マオシャー、二人の結婚式はいつですかー」

「ヒューヒュー! チューしろー!」

 

それは、突如聞こえてきた幼い子供の弱々しい声と、幼い勝気な少女の声と、幼い子供のイタズラめいた声から始まった。

 

「あん? なんだありゃ?」

「あれ・・・・あの子達はこの前の・・・」

 

弱気な少年を庇うように、イジメっ子たちを睨みつける少女。

その光景を見て余計にからかうイジメっ子のような子供たち。

ある意味、幼い子供たちの典型的な光景とも言えた。

 

「お! お前、これダーグヒーローマスクマンの劇の無料チケットじゃろ!」

「あっ、か、返せよ! それは、僕たちアダイの子供だけが貰えたんだ!」

「うっさい、お前たちだけ不公平じゃ。俺らによこさんか」

「お前ら、それナキムに返さんか!」

「へへっ、やった。これで俺もダークヒーローマスクマンの劇を特等席で、しかもタダで見れる」

「だから返せって! それは、園長先生が僕たちに楽しんで来いって言って渡してくれたんだぞ!」

「馬鹿じゃのう。ダークヒーローマスクマンはお前のような泣き虫のシャバい奴が見たって無意味なんじゃ!」

「な、なんだと!」

「へへ、悔しかったら力づくで取ってみい。それか、園長先生にもう一枚もらえばよかろう!」

 

子供たちに人気の劇のチケット。アダイの子供たちだけ特別に与えられたチケットをワルガキたちに取り上げられ、ナキムは涙腺を潤ませながらも必死に取り返そうとする。

だが、ワルガキたちは集団でチケットをパスして回しながら、ナキムに返さない。

 

「ナキムくんに、マオシャちゃん?」

「ナキム!? ったく、またあのワルガキたち、またナキムをイジメて!」

「ちょっ、おいおい、ギミー!? ガキのジャレ合いだぞ?」

「冗談じゃない! あいつらは、いつもいつも同じことをやってるんすよ! ここらで、一度ガツンと言ってやらないと」

 

ナキムとマオシャを知っているネギ。そして、ナキムもまたアダイの子供であることから、ギミーやダリーにとっては家族同然の子供。

ナキムがイジメられているのを見て、走って止めに行こうとする。

だが、その時だった。

 

 

「不思議なものだ。力があっても無くても、人はこうも分かり合えぬのだから。千年が、二千年が、そうやって人類は歴史を繰り返してきた」

 

 

今日は祭りといっても、麻帆良祭の時とは違って仮装やコスプレをしている客は居ない。

いや、仮に居たとしてもこれは絶対に目立つ。

顔と全身が隠れるぐらい深いフードのついたローブを羽織っているその人物は、まるで幽霊のようだった。

何の前触れも無く現れたソレは、ポカンとするナキムたちの間に入って彼らを見下ろす。

 

「小さき命よ、何故泣く?」

「えっ・・・な、なに?」

「小さき命よ、何故怒る?」

「な、なんじゃおまえ!?」

「小さき命よ、何故嘲笑う?」

「な・・・なんなんじゃ!」

 

見るからに異質。その存在に、ネギたちも一瞬目を奪われた。

 

「私はかつてこの世界に救いは無いと悟った。だから私は天を目指し、新たなる世界を創造した。神と称えられ、始祖と呼ばれ、世界は繁栄したが、それでも人は変わらなかった。新世界でも、旧世界でも、いつまでも争いが終わることはなかった」

 

何を言っている? だが、ネギやナキムたちは何も言えなかった。

言葉が出ない。足が動かない。そしてこの異質の存在が放つ存在感は何だ?

 

「あ・・・あ・・・うあ・・・・」

「ひっ・・・」

 

ナキムも勝気なマオシャも、イジメっ子たちも、わけがわからぬまま、突如現れたソレの存在感に圧倒されて腰を抜かした。

分からない。敵意はない。ただ、問いかけているだけだ。その言葉の端々にどこか失望の感情を交えながら。

 

「ちょっと、あなた一体何なんですか?」

 

何者か? 正体を伺うように、ネギが尋ねる。

 

すると、その者はネギに視線を向け、再び言葉を発する。

 

 

「このような、まだ何色にも染まっていない幼子たちですら分かり合えぬ。それは、あと千年経っても変わらぬであろう。そして、もう時間もない。既に崩壊は迫っている。だが、全てがゼロになることに希望も救もない。だからこそ、私は全てを救うための方法は一つしかないと判断した。それこそが、『完全なる世界』だ。そう、矛盾だ。これだけ醜く不可解な『ヒト』という種を、それでも私は捨てきれぬのだから」

 

「ちょっ、あなたは・・・一体・・・」

 

「少年よ。君は先ほどそちらの者たちが進学しない理由を理解できなかったな? 何故だ? 人は分かり合えぬ種。分かり合えぬのに、何故分かろうという無駄な行動を取る?」

 

「えっ・・・はっ? えっ?」

 

「何故だ? 私は何千年も同じ葛藤をし、十年ぶりに目覚めた今でも同じ疑問を抱き続ける。どの英雄も、どの勇者も、どの魔法使いも結局は『人』。私の欲しかった答えを誰も示さなかった。今回も所詮同じではないかと疑念を抱く」

 

 

深い絶望にも似た感情が見え隠れしている。彼の言葉が何を言っているのかは誰も分からない。分からないからこそ、理解も否定もすることもできない。

分からないからこそ、彼の問に対する返答が誰にも出来なかった。

そして、事態はさらにややこしいことになる。

 

「だが、それでも黙って私についてきたのだから、興味と僅かな期待があるのではないか?」

 

また何者かが現れた。

 

 

「お前は言ったな。人は分かり合うのは難しいが、この世界での人々は分かり合える未来に進んでいると」

 

「そうだ。そして、私はこの世界ならばお前の計画以外ないと思っていた救いの道が、無限に広がっていると見た。私はそれに賭けたい。だからお前も知るべきなのだ」

 

「ふっ、それでいきなり見せられた光景がコレでは、希望も薄いではないか」

 

 

そして彼もまた異質。全身を黒一色に包み、手足も顔も覆われている。

 

「ひいいいいいいいい!?」

 

そんな怪しいものがまた一人増えたのだから、当然子供たちは恐怖で怯える。

 

「ちょっ、あんたら何なんすか? 子供たちが怖がってるじゃないか!」

「そ、そうです! ナキム、マオシャ、あなたたちもこっちに来て!」

 

さすがにギミーたちも、いつまでも呆けていられずに、子供たちを彼らから遠ざけようとする。

すると怪しさ満載の二人組だが、黒ずくめの方は、自分たちは怪しくないと訴えるように両手を振る。

 

「安心しろ、アダイの子達。我々はただ純粋に祭りを楽しみに来ただけだ」

「そんなこと言って、怪しすぎるじゃないですか! 顔を出してください!」

 

詰め寄るダリー。すると、その肩をカミナが止めた。

 

「まあ、待てよ、ダリー」

「カミナさん!?」

「確かに怪しい奴だが、危ない奴じゃねえ」

 

こんな怪しすぎる連中に、何を言っているのだ? そう皆が思ったが、カミナは前へ出て、二人組の前に立つ。

そして、声を掛ける。

 

「いよう、アンスパ。テメェも来たのかよ。それとも・・・昔の呼び方がいいか? キシムのおっちゃん」

「こんにちは、カミナ君。そして、私のことはアンスパで構わない。もはや私にシモンの父を名乗る資格はないのだから」

 

そう、それはあの男だった。

カミナの言葉に、その男は緊張感を緩めて和やかに挨拶する。

 

 

「色々面倒をかけたね。君にもシモンにも」

 

「あん? なんだよそりゃ、んなもん忘れちまったよ。俺はいつまでも過去を根に持たねえ。その根をぶった切って、ひたすら前へ進むカミナ様だ! 俺が切らねえ根っこは、俺が俺であるための根っこで十分よォ!」

 

「やはり君は変わらない」

 

「おうよ、俺は成長するけど変わらねえ。俺もシモンもな!」

 

「こっちのシモンは今どこいるか分からねえけど、そのうち来るだろ。ただ・・・・・・『あっち』のシモンはどうだ?」

 

「さあな。どうなったか。どうなるのか。それを知りたいのは私の方だよ」

 

「まっ、シモンなら何も問題ねえって分かってるけどよ」

 

「・・・・・・そうだな・・・」

 

 

そう、カミナはこの怪しい人物を知っていた。その名はアンスパ。正体は、シモンの父親だった。

だが、そのことを知らないネギやギミーたちは二人が知り合いであったことに戸惑いを隠せなかったが、すぐに納得した。

確かにカミナの知り合いならこんな怪しい奴の一人や二人ぐらい居てもおかしくないだろうと。

しかし、その時、いつも豪快にバカ丸出しのカミナが、何故か今だけは少し複雑そうな、そしてどこか昔を懐かしんでいるかのような笑顔に見えた。

 

「まっ、来たんなら気合入れて楽しんでけよ。んで、アンスパ。そのマント野郎はお前の友達か?」

「ん? まあ、旧友だな」

 

そう言って、アンスパは半身になって黒マントの人物を前へ誘う。

黒マントの人物はゆっくりと前へ出るが、どれだけ近づいてもそのフードの下の素顔だけは見えない。

だが、彼はカミナ、そしてネギを一瞬だけ見て、再び口を開く。

 

 

「会いたかったよ・・・カミナ・・・・・・そして、ネギ・スプリングフィールド・・・」

 

「えっ、俺?」

 

「僕!?」

 

 

意外な言葉に驚く二人。すると、黒マントはあたりをキョロキョロして何かを探す。

 

 

「まあ、会いたかったのは、お前たち二人だけではないがな。堀田の息子にして、かつて私の前に現れたシモン・・・・・・そして・・・・・・」

 

 

その時、ガシャンと大きな音が聞こえた。

音の聞こえた方向へ振り返ると、フェイトが、超がプロデュースしたアイドルグループの大量のグッズを地面に盛大にぶちまけていた。

だが、フェイトはそれを拾おうとしない。それどころか、その視線を黒マントの人物から全くそらさず、全身を激しく震わせていた。

 

 

「・・・・・・・・・なぜ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぜ・・・・・・・ここに・・・・い、いつ・・・封印から・・・・・・・・」

 

 

狼狽えるフェイトは、カミナたちも何度か見てきたが、今回のは種類が違う。

戸惑いどころではない。深刻さのこもった衝撃を受けている様子だ。

そして、

 

 

「おい、テルティウムよ、シモンを見なかったか? あやつ、結局本番になるまで一度も劇の練習もせずに、一体どこに・・・・・・・・なっ!!!???」

 

「兄様。もし、マスターの居場所を隠しているようでしたら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!!???」

 

 

初めて麻帆良に現れた時と同じ、マスクを装着した状態のデュナミスと、屋台の衣装姿のセクストゥムが、祭り当日になっても未だに現れないシモンを探しに、フェイトを訪ねに来たのだが、この光景は彼らですら絶句した。

 

 

「そう・・・お前たちにも会いたかったぞ。テルティウム・・・いや、今はフェイトだったか? そして、セクストゥム・・・・・・・・で、何故お前まで居るのだ? デュナミスよ」

 

 

フェイト、デュナミス、セクストゥムは一言も言葉を発することができなかった。

いま自分たちが目にしているのは、誰かの悪ふざけか? 幻想か? それとも現実か? その全てを確かめられずに、ただそこに立ち尽くすだけだった。

ただ、どうしてこんな状況になっているか分からないフェイトが絞り出した唯一の一言は、デュナミスもセクストゥムもまったく同じ思いを感じている一言だった。

 

「なぜ・・・・・・・・・・・・・・・マスター・・・・」

 

なぜここに? いつここに? 様々な疑問だけしか思い浮かばなかったが、それも無理のないこと。

 

「未だにシモンの隣にいたか。どうやら、お前に関する賭けは、堀田の勝ちだったようだな」

 

今ここに、フェイトたちの生みの親であり、世界崩壊を企む組織、完全なる世界の黒幕が参上したのだった。

 

 


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