【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第98話 完全なる世界の家族会議

世界を左右させるVIPたちの超会談。

しかし、そんなもん知ったこっちゃねえとばかりに、ダイグレン学園の生徒たちの熱は加熱されていく。

 

「おうこら、テッペリン学園の毛むくじゃらども、なんなんだよテメエらの出し物はよ!」

「なんだとはなんだ!? テッペリン財団総帥であるロージェノム様が私財を投資して制作した、3Dプリクラだ。古今東西南北天地魔界、あらゆる次元に死角なし! このクオリティ、毛穴の奥まで思い知るがいい!」

「あのハゲヒゲ親父、ニアと撮りたいためだけにポケットマネーで開発したってのかよ・・・」

 

ダイグレン学園と犬猿の仲であるテッペリン学園も、相変わらず喧嘩腰ではあるが、ちゃんと祭りに協力しており、意外と義理堅いのだが、それでもやはり肩を組んで仲良くというわけにはいかない。

キタン達はテッペリン学園のヴィラルといつものように言い争っていた。

 

「つうか、テメエらプリクラが出しものとか、楽をしすぎじゃねえか! これを何台か置いてるだけでお前らの仕事終わりじゃねえかよ!」

「何を言う! 我らには金では変えられぬ重大な使命がある! それを知らずして、貴様らの物差しで語るな!」

「重大な使命だ~?」

 

重大な使命という言葉を口にして、力強い瞳を向けるヴィラル。

何かを決意した男の瞳だ。その瞳に圧倒されて一瞬たじろぐキタン達。

ヴィラルが背負った使命とは・・・

 

「ニアよ・・・・・・・・・・約束したではないか・・・・・・・プリクラを一緒に撮ってくれると・・・」

「記憶にございません。何故、縁を切ったあなたとそのようなことを?」

「ぬあ、ニ、ニア!? いや、黒ニアよ、それはあんまりではないか! 学園祭の時に、ワシと約束したではないか!? しかも縁を切ったじゃと!? ワシは切っとらんぞ! 結局、シモンとの交際も苦渋の決断の末に認めたではないか!」

「そもそも、あなたが認めなくても関係ないのです。私とシモンは宇宙を敵に回しても夫婦になる運命。あなたの許可など、価値観としてはゼロに等しい」

「はぐわっ!?」

「それに、今日は両親と暮らせなくなった施設の子供たちへ向けたイベントです。その中で、仮にも元父と元娘で仲良くプリクラ? あなたには人の心が理解できないのですね」

「何を言うか!? お前こそ、父の気持ちも愛も分かっていないではないか!?」

 

白いワンピースの水着姿で接客する黒ニアと涙ながらに話しかける、ロージェノム。

その威厳も尊厳も風格も全て台無しにしながらも、ロージェノムは愛するニアとプリクラを撮りたいと訴えるものの、ニアは即拒否の態度を取り続けた。

 

「おいたわしい・・・ロージェノム様の心の傷・・・なんと深くつらいことか・・・・だから俺は決めたのだ! ロージェノム様の命運を変えてみせると! 必ずや、ニア様とのプリクラを実現してみせると!!」 

 

ヴィラルは走る。己の使命を全うさせるために。

 

「ニアさまーーーー、ロージェノム様のお気持ちもご理解下さい! ロージェノム様もあの学園祭からもずっとニア様を見守り続けておりました! 確かに途中、テオドラという女性とセクストゥムという者や綾波フェイという者をシモンとくっつけて、ニア様と別れさせようと工作したこともありましたが、それは父の純粋な嫉妬と捉えてもよろし、ぶへあうおうあ!?」

 

己の使命を宣言し、ロージェノムをフォローすべくニアの元へ駆けだしたヴィラルだが、一瞬で黒ニアのコークスクリューパンチでブッ飛ばされた。

 

「そうですか・・・テオドラとセクストゥムの寮の部屋がいつまでも用意されず、仕方ないからという理由で、何故かシモンの部屋に二人とも住むことになり、そのまま出て行かないという不思議なことがありましたが、それはやはりお父様の仕業でしたか・・・」

「い、いや、それは・・・いえ、それは全てロージェノム様の指示ではなく、この私が自分の判断で勝手に工作したことです!」

「なるほど、あくまでお父様を庇うのですか・・・それなら、テオドラがいつもセクシーでスケスケのランジェリーを着てシモンの部屋をうろついていることに対抗しようと、私が通販で取り寄せた勝負下着・・・いえ、戦争下着が全て紛失していたことがありましたが・・・」

「あっ、それはけしからんという理由でロージェノム様が直接部屋に侵入して没収――――――」

 

その瞬間、泣きじゃくっていたロージェノムにトドメとばかりに、ニアの回し蹴りが炸裂した。

 

「では最後に・・・・・・」

「ひ、ひいい!?」

「私はシモンのお小遣いから、パソコンの履歴やフォルダも全てチェックしていますが・・・・・・所持金や検索履歴からも、シモンが入手したとは思えない、大量のいかがわしい本やDVDが部屋から発見されました。恐らく、私とシモンを喧嘩させたい誰かの仕業だとは思いましたが・・・・・・・」

「ちち、誓って自分ではありません!」

「・・・・・・・・・・何故か巨乳お姉さん系のジャンルしかありませんでしたが・・・・・・・・私へのあてつけですか? テオドラのフォローですか?」

「わ、私は何も知りません!?」

「・・・・・・・・・・・・・絶対的絶望を・・・」

「全てはロロ、ロージェノム様の指示です! サー!」

 

黒ニアは、ダウンしたロージェノムに、ダメ押しとばかりに顔面を踏みつけた。

鬼。悪魔。残虐につきる黒ニアの残酷さに、さすがのダイグレン学園の面々も引き気味だ。

例え、実の親子だったとしても、分かりあえないことだってあるのだと示す光景だった。

 

「ちょっとちょっと、黒ニアー、やり過ぎじゃない?」

「いいえ、私とシモンを引き裂こうとする者は何ものも許さないだけです」

「ったく。最近ライバルが増えてイライラすんのは分かるけど、もっと余裕もったら? 表のニアは全然動じてないじゃない。正妻の余裕って奴?」

「いいえ、ニアが余裕すぎるからいけないのです。勿論、シモンのことは信じていますが、シモンのドリルだって男の子です」

「や、そうだけど・・・・ほら、見てよ子供たちを。怯えてるじゃない」

 

ヨーコが苦笑しながら指し示す先には、ナキムやマオシャに他の子供たちがガタガタと震えていた。

造物主、アンスパ、そしてこの黒ニアといい、短時間で恐るべき存在を目の当たりにしたのだ。子供たちを喜ばすどころか、逆に怯えてしまっていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

黒ニアは無言で子供たちをジーッと見つめる。

その無表情の冷たい視線が恐怖を更に加速させる。

一方で黒ニアも、ヨーコに指摘されて自分の今置かれている状況をどうすべきか悩んだ挙句、

 

「はい、ギガフランクフルトですよ~、みなさん、たーんと召し上がれ!」

 

諦めて表のニアにバトンタッチした。

だが、ニアが二重人格だと知らない子供たちからすれば、先ほど自身の父親や男子生徒を殴って蹴って踏み潰した残虐な女が、いきなり花のように可愛らしい笑顔を見せるのは、手のひらを返したような表情を見せられたようで、逆にもっと怖くなった。

 

 

「「「「ひいいいいい!!??」」」」

 

「あら? フランクフルトはお嫌いでしたか?」

 

 

恐怖に怯えて一瞬で逃げ出す子供たち。

状況を把握できないニアは、「う~ん」と軽く小首を傾げて、子供たちの背中を見ていた。

 

「あーあ、やっちゃった・・・」

 

逃げ出した子供たちを見て、ヨーコも溜息を吐いた。

ダイグレン学園の中でも、もっとも人受けがいいであろうニアにも、このようなことも起こる。

逃げ出した子供達といい、未だに心の底から笑顔ともいえない施設の子供たちの様子を見ていると、どうもうまくいかないものだと、ヨーコは少し頭を抱えた。

 

「ヨーコさん、どうしましょう。一般のお客さんたちには売れていますけど、肝心の子供たちには売れていません

「そーねー・・・うまくいかないわねー。もともと、施設の子供たちを楽しませるお祭りなのに、気づけば楽しんでるのって、私たちだけかもしれないわね」

 

本来の趣旨は祭りを盛り上げることではない。

元々暗い雰囲気のアダイの子供たちを全員明るく楽しませることが目的だ。

だが、祭り自体は確かに盛り上がっているが、本来の目的を考えると、少し引っ掛かりがあるのも事実だった。

 

「そんなことはありません。子供たちも喜んでいると思いますよ? ただ、園長先生の体調が優れないことが、気になっているんだと思いますよ」

「ロシウ? 園長先生って、マギン園長でしょ? そういえば、カミナもマギン園長の体調が悪いって言ってたわね。そんなに悪いの?」

「いえ、そこまでは。ですが、園長先生ももう歳ですから・・・みなもこの施設や、園長先生、それに自分たちの将来について色々と気になっていることが多いんでしょう。でも、お祭りはお祭りで喜んでいると思いますよ?」

「そうなんだ・・・・」

 

アダイ出身のロシウが屋台の裏方作業の仕事を一段落させて、冷静に祭りの状況を眺めてそう言った。

ロシウの言葉で少しだけホッとしたヨーコ。だが、それでもやはり気になってしまう。

 

「ねえ・・・カミナは・・・この状況をどうしようとしているのかな?」

「カミナさんですか?」

「うん。あいつは、言ってたじゃない?」

 

―――くれーくそガキ共が暗くなる間もねえぐらいに盛り上げてやろうぜ!

 

「このままじゃ、今日お祭りが終わっても、明日はまた元通りよ? あいつは、どうやってあの子たちに上を向かせようとしているのかな」

 

自分で情けないと思いつつも、ヨーコはやはり心の中でカミナに頼ってしまう。

このまま終わってしまえば、結局なにも変わらないのではないか? だが、自分にこれ以上何が出来るのだ?

家族を失い、親代わりに育ててもらっている人の体調、将来への不安、それらを今の自分に取り除いてあげることはできない。

しかし、自分にはできないが、カミナならどうするのか? ヨーコは自然と周りを見渡してカミナを探す。

そして・・・

 

(シモン・・・あんたもよ・・・あんた、今なにやってんのよ?)

 

カミナと同じぐらいヨーコが信頼する仲間、シモン。

いつもカミナの無茶苦茶な無理を通して、道理を引っ込めてしまうのは、彼が居たからだ。

しかし、そのシモンが何故か未だに現れない。連絡もない。みな、シモンなら大丈夫だろうと大して心配しない。

勿論、ヨーコだって信じている。

だが、やはりここにシモンが居ないことには、何も始まらないのではないかと不安に思ってしまうのだった。

すると、

 

 

―――ピン!

 

「あたっ」

 

――ムニュ!

 

「なっ!?」

 

 

ロシウのデコがデコピンで弾かれ、ヨーコのお尻が鷲掴みされた。

 

「ったく、まーたお前らはダイグレン学園のクセに小難しく考えやがって」

 

カミナだった。

 

「カ、カミナさん!?」

「んの、スケベやろう!」

「おっと。元気あるじゃねーか。下向いてんじゃねえよ」

 

相変わらず、ガキみたいな顔をしてケラケラ笑うカミナ。

ヨーコの鉄拳をひょいひょい交わしながら、からかう。

 

「ったく、あんたどうしたの? ギミーとかダリーとか大丈夫なの? それと、なんかゴチャゴチャ飲食スペースであったみたいだけど」

「おう、なんかよくわかんねーゴチャゴチャした話ばっかでよくワカンネーから、フケてきた」

「ふーん。でもあれ・・・アンスパにザジだっけ? それに、先生や高畑にデュナミス先生にセクにテオに超。・・・それと、よく見る金髪のちっちゃい女の子に・・・誰? あのマントの人。また変な奴が現れたわね」

 

グラウンドの中央に位置する飲食スペースで、何やら祭りとは不釣合いな雰囲気を醸し出す奇妙な集団が大きな和を作って、何かを話しているようだ。

その様子から、仲の良いグループで集まったりしているわけではなさそうだ。

そこに居る一人一人の表情、空気、全てが真剣そのものだった。

 

 

 

四人がけの丸テーブルがいくつも合体し、気づけば十人以上の重鎮たちが円を作って互を向き合っていた。

 

「善意の押し売りで、人と分かり合おうなど、甘いことだ。家族も仲間も友も、結局は自分以外の人間だ。つまり他人だ。だからこそ、自分の理想とする、自分が幸福と思う、自分を中心とした『完全なる世界』。誰にでも平等に与えられる争いのない世界。命の数だけの世界。全てのものに安らぎを与える夢と理想の実現。それさえあれば、無理に他人と分かり合おうとする必要などないだろう。どうせ、分かり合えぬのだから」

 

その中で、造物主は一人己の思想を迷いなく告げる。

その場にいる誰もが反論することも口を挟むこともしない。

ただ、黙って造物主の想いを聞いていた。

 

「そう、人は真に分かり合えぬ。だから、お前たちも私の考えを分かる気はないであろう? だからこそ、大戦は起こったのだから」

 

そう。反論しないからといって、納得しているわけではない。

それは、ここに居る誰もが同じ。

かつての大戦を思い出したのだろうか、タカミチやテオドラの瞳は闘争心がむき出しだ。

そして、

 

 

「・・・・・・・・・・・だが、自分が作った人形までもが意思を持ち、私を否定するとは思わなかったがな」

 

「「「っ!?」」」

 

「そう緊張するな。お前たちが私や魔法世界を忘れて、今を生きることを咎める気はない。ただ、確認だけはしておきたいと思ってな」

 

 

一瞬だけ、造物主の圧迫感が増した。そして、その視線がこの場にいる者たちの中の三人に向けられる。

 

「・・・セクストゥムよ」

「・・・はい・・・」

「お前は私をマスターと呼ぶ必要などない。お前のマスターは、シモンであろう? だが、これだけは答えよ。・・・どうだ・・・。今、幸福か? 」

「はい。マスターの傍に居ると、満たされます」

「そうか・・・」

 

かつて、造物主が己の計画実現のために造り上げた、人形。セクストゥム・・・

 

「デュナミス」

「はっ!」

「お前までここに居るとは思わなかった。しかも、麻帆良で私が封印されているというのに、それを忘れていたかのように日々を過ごしていたとは」

「・・・返す言葉もありません・・・」

「ふっ、まあよい。幸福かどうかは別にして、お前も私に気が回らないほど日々が充実していたのであろう。お前は二十年前のシモンとの出会いから、バグなのか、どうなってしまうのか私にも分からぬほどおかしくなったからな」

 

デュナミス・・・

そして、

 

「問題は・・・お前だ、フェイトよ」

 

造物主の視線がフェイトに止まった。

その瞬間、一層重く、強く、押しつぶすかのようなプレッシャーがフェイトに襲いかかった。

 

「ッ!?」

「二十年前、お前と話した時を覚えているか?」

「・・・・・はい・・・・」

「お前も、デュナミスもセクストゥムも、もはや人形ではない。心を持ち、感情を持ち、意思を持ち、人となった。そして私が、人となったお前の望み、そして何のために生きるのかを聞いたとき、こう答えたな・・・」

 

―――大切な人たちの明日を守るため・・・・・彼らがいつまでも・・・バカみたいに笑っていられる世界を守るため。そのために・・・そのために僕は生まれてきたんだ!

 

「・・・はい、覚えています」

 

その会話を聞いたとき、誰もが驚いた。

タカミチやテオドラなど、かつてフェイトの敵だったものたちは当然、超やザジにネギもフェイトをよく知る者たちは、フェイトがかつてそのような熱の篭った仲間への想いを口にしたことに、胸が打たれた。

そして、

 

「それを聞いたとき、お前は私の意思を継がないまでも、それでも私の示す方法を実行すると思っていた。お前の仲間はあくまでこの世界のシモンたち。だからこそ、彼らを守るためにも、魔法世界を封じなければならないと。たとえどのような非難を受けようとも」

 

造物主の言葉に、フェイトはただ黙って頷いていた。何故なら、それは紛れもない事実だったからだ。

実際にフェイトは、かつて魔法世界にタイムスリップした際に、シモンやニアたちの存在の重さに気づき、仲間を守りたいと思ったからこそ余計に自分の信念を貫こうとした。

時を見て、皆の前から去り、永遠に別れようとも思っていた。

だが、それでも今でもここに居る。それは、別れのタイミングを逃したからか? 名残惜しくなったからか? そうではない。

 

「マスター・・・僕も最初はそのつもりでした。どんなに自分が汚れても、どれだけ罵られても、彼らを守ることが出来るのならそれでいい。僕はそう思っていました。でも、違いました。僕は、みんなを見くびっていた。そんなおしつけがましい未来を彼らは何一つ望んでいなかった」

「・・・そうだ・・・押し付けがましい善意を迷惑に思うように、おしつけがましい未来も誰も望まぬ。それは私もかつての戦で学び、理解している。だが、ならどうする?」 

 

甘い理想など許さない。誤魔化すことも許さない。

 

「お前は、私が掲げた計画を今でも支持するか? 実行する気はあるか?」

「僕は・・・・・・・もう・・・しません」

「なら、どうする気だ? 時間はもうないのだぞ? あの世界は崩壊を迎え、この世界と生存をかけた領土争い、世界を巻き込む滅びの危機は目の前に迫っているのだぞ? まさか、危機感まで忘れたとは言わぬであろう?」

 

ただ、答えを出せと、造物主は言う

だが、正直なところ、フェイトは今の時点で造物主を納得させるだけの答えは持っていなかった。

造物主のやり方をもう支持しない。

 

「僕は・・・」

 

ならば、今の時点で言えることは?

 

「皆とどうにかしてみせます。もし明日世界が滅ぶとしたら、彼らはその滅びそのものを滅ぼそうとする。彼らは最後まで諦めない。だから、僕も諦めないことにします」

 

そこに明確な代案などはなかった。甘い戯言と言えばそれまでだ。

少なくとも造物主が納得できる答えとは言えなかった。

 

「やれやれ。己を偽らずに生きよとは言ったが・・・・・・それがお前の生きる道か」

 

案の定、造物主からは呆れたような深い溜息がもれた。

 

「ならば・・・・・・・・・・・・仮にこの場で私を敵に回したとしても、後悔はないということだな?」

 

フェイトだけに向けられていたプレッシャーが、空間を埋め、その場の席に座っていた者たち全員が感じ取った。

やる気か? 誰もがすぐにでも飛び出せるように臨戦態勢に入ろうとする。

ただ、一人を除いて・・・

 

「ちょっと待ってください! 話がまったくよくわかりませんけど、家族で喧嘩はいけないと思います! フェイトもライさんも、もっと仲良くしましょう! 大体、今のフェイトは何も呆れられるようなことを言ったとは思えません! 自分ひとりでは出来ないことを、信頼出来る仲間たちとともに乗り越える。そうやって、無理を可能にしようとしているってことじゃないですか! それの何がダメなんですか?」

 

ネギ。

正直、何故みながギスギスしていて、場の空気が重いのかが全く理解できていない、そして事情をまったく知らない一人である。

 

「これ、ネギ!?」

「まままま、待ちたまえ、ネギ君!?」

「ネギ坊主が造物主をライさんて・・・・どういうことネ」

「話の腰をおるなー!」

「坊や、貴様この者が一体どういう者か全く知らんのか!?」

 

当然全員激焦り。慌てて止めようとする。

もし、僅かに造物主が怒りを感じ、それこそ戦闘になってしまったら、この場所が大惨事どころの話ではない。

麻帆良の半壊、いや、世界の危機に直結する。

怒ったか? 皆が造物主の様子を伺う。

だが、ネギは更に続ける。

 

「だいたい、フェイトがあなたの知っているフェイトとどれだけかけ離れたかは知りません。でも、僕が最初に出会ったころのフェイトと比べれば、目は輝いていると思います。すごい、毎日をイキイキとしていると思います」

「ネギ・・・くん・・・」

「ちゃんと、今のフェイトを見てあげてください! 人と人とは分かり合えない? なら、分かろうとしてあげてください!」

 

まるで、子育てを放棄した親に叱っている教師のような説教。

子供が何千年も生きている造物主に説教するなど、実に奇妙な光景なのだが・・・

 

 

(((((((なんか、話の論点が結構違っていないか?)))))))

 

 

なんだか、話の流れが斜め上に行って、色々とネギも勘違いしているのではないかと感じた。

だが、一同絶句している中で、造物主だけは違った印象を受けたようだ。

 

「そなたは、シモンと同じことを言う」

「えっ・・・シモンさん?」

「ああ、分かっているとも。今のフェイトのことは、面構えを見えれば一目瞭然だ」

 

造物主は、一言も反論せず、ただネギの言葉に深く頷いた。これには、誰もが驚きを隠せなかった。

さらに、

 

「分かっているさ。私は人と人が永久に理解し合えないと諦め、力づくで計画を実行しようとしたが、結果的に力づくでその大義は破られた。力で押し通そうとした道理を力で叩き潰された以上、もはや私に大義を語る資格などないのだろう」

「造物主・・・あなたは・・・・」

「安心するが良い。もう、私は・・・・・・既に負けているのだ。あの赤毛の魔法使いにな。その私の意思を継ぐはずだったフェイトたちが、たとえ私に逆らってでも別の道を歩むと決めた以上、これ以上何が出来るというのだ」

「ちょっと待て・・・まさか貴様は!?」

「そうだ、エヴァンジェリンよ。もう、完全なる世界の野望は完全に潰えた。お前たちの勝ちだ」

 

その言葉に、まったく嘘を感じ取ることは出来なかった。

 

「造物主よ、そなたはそれで良いのか?」

「ああ、その通りだ、テオドラ皇女よ。私のやり方を力で拒否したのだ。そなたらは、そなたらのやり方で未来を変えてみろ。できるものならな」

 

何千年も存在し続け、常に世界と人類と生命と未来を背負い続け、気が遠くなるほどの苦悩の日々を過ごしてきたであろう、造物主。

だが、今その肩の荷が全て降りたのか、実にアッサリと己の役目が終わったことを宣言した。

 

「・・・まさか、こんな形で・・・二十年も前から続いていた因縁が・・・今日断ち切られるとは・・・」

「不服か? 高畑・T・タカミチ」

「・・・・・何とも言えない。僕の師匠や世話になった人たち、それに大勢の人達が、かつてあなたとの戦いで命を落とした。・・・自分の無力に嘆いて死に物狂いで力を追い求めたこともあった・・・、それがこんな形で決着と言われても、素直に喜べない自分が居るのも事実です」

 

タカミチは、何とも言いようがない複雑な表情で己の今の気持ちを告白する。

そうだ。造物主の存在により、多くの者が人生を狂わされ、大切な人達も失った。

そう簡単に割り切れないというのも事実だ。

だが、

 

「だけど、これで僕たちの戦いが終わり、その荷をネギ君たちに背負わせないで済むのなら・・・・・・きっと、師匠たちも笑ってくれるだろう。それに・・・・・・」

 

造物主を許すことはできない。気を許すこともできない。仲良くすることも難しいだろう。

しかし、フェイトとデュナミスを見ると、タカミチは思わず笑ってしまった。

 

「絶対に油断しないと決めていたのに・・・・今では、彼らが居るのも当たり前になってしまいましたからね」

 

それは、その場にいた誰もがそうだった。

 

「なはは、そーじゃな。妾はデュナミスの生徒になって、フェイトとは同じ部活仲間でライバルで、セクとは既にマブダチじゃからな。もはや、未来はどうなるか分からんもんじゃ」

「そうネ。私もどんなとんでもない歴史の歪みになってしまたかと思たが、ここまで来たらもはや未来は白紙ネ。少なくとも、未来から来た私でも、この世界の未来はまったく予想できないネ」

「我々魔界も、彼らに賭けてみたいと思っています。それが、政治や世界を抜きにして、シモンさんたちと出会って決めた私の意思でもあります」

「おい、私は何も納得はしないぞ? 造物主・・・貴様にだって殺意が無いわけではないぞ? だが・・・・・・ナギに出会ったことや・・・・まあ、この学園に居ることも・・・私の人生もそれほど悪いものでもない」

 

あまりにもあっけない幕切れ。それぞれの人生を狂わせた戦いの結末が実にアッサリと迎えられた。

それをおかしいと思う反面、何故か皆の表情には自然と笑みが溢れていった。

人と人は分かり合えない。だからこそ、誰に理解されなかったとしても造物主は己のやり方を貫こうとした。

だが、その分かり合えないという人と人同士、かつて命を賭けて争ったフェイトやデュナミスたちはいつの間にか自分たちの中で欠かせない存在になっている。

人と人は分かり合えないかもしれないが、変わることは出来る。だからこそ、この世界の未来にも希望が見えてきたと、誰もが思った。

そして、

 

「今日、私がここに来たのは、答えを見るためだ。十年前から受け継がれた新たなる風。あの男の息子。そして、シモンとカミナにお前たちを筆頭に、真に一つになろうとしている。それが本当なのかどうか、この目で確かめさせてもらおう」

 

造物主は、復活した今、何為に現れたのか。それは、行方を見届けるためだ。

 

「堀田博士。お前は、この世界ならば、甘い戯言の夢を実現できるかもしれないと言ったな? そしてお前はそれに賭けようとしていると」

「うむ」

「だから、私も見極めよう。それをな」

 

自分を拒絶した者たちの進もうとしている未来がどうなるかを、最後まで見届ける。

それが、彼の今の目的であり、責任だった。

 

「ああ。我々は、信じて見届けようではないか」

 

そして、造物主はその目に焼き付けることになる。

もうじき現れる螺旋の男がもたらす、歴史の分岐点。

目の前で、愛が世界を変える光景を。

 


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