【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第99話 上を向いて歩け

ようやく日が僅かに沈み始めて、空が少し赤らんできた。

朝から通してやっていたのだから、そろそろ疲れが見え始めてもいい頃だろうが、決してそんなことはなかった。

むしろ、「祭りはまだまだこれからだ!」とばかりに疲れを見せない人々で、アダイは溢れていた。

 

「よっしゃー、みんなーお待たせー! みんなのアイドル! マジカルアイドルスター・キヤル参上だぞー!!」

 

ピンクと白の色が入った、フリフリの衣装。首元には真っ赤な大きい蝶ネクタイ。

そして真っ赤な大きいリボンを頭に乗せ、マイク片手に叫ぶ女生徒。

祭りのためだけに用意された手作りの舞台。

しかし、その手作りの舞台には、多くの観客たちを魅了する二人組が祭りの熱気を更に盛り上げた。

 

「みみ・・・みんなの・・・みんなのドリーム、ママ、マジカルアイドルスター・フェイ・・・さ、参上!」

 

青と白の色が入った、キャルと同じタイプの色違いの服。

だが、唯一違うのは、その頭にはリボンではなく猫耳が生えており、スカートのお尻からは猫の長い尻尾が伸びていた。

顔を赤らめて、セリフもトチりながらの綾波フェイ。

だが、それに対するブーイングはなく、むしろ余計に祭りに火をつけた。

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお、綾波ィィィィィィィィィィッッッ!!!!」

「うおおおおお、キヤルちゃあああああああああああああああああああんん!!!!」

「くわ、くわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

「兄様。PV率がとてつもなく上昇しています」

「うわっ、超カワイイ! 顔ちっちゃい! 肌も白くてキレ~」

「あ、あいつ、もうなんでもありやな・・・」

「小太郎。デュナミス殿には墓の下まで秘密にしておくでござるよ」

「キヤルウウウウウ! お前の成長、兄ちゃん感動したぞ!」

「キヤルッ、フェイと~じゃなくって、フェイ! 二人共しっかりね!」

「うーむ、ダイグレン学園も侮れぬ。こんな最終兵器がおったとは。我らテッペリンにはアディーネのようなスケバンしか・・・」

「あんだ~、チミルフ。あんた、あんなキャピキャピしたのがいいってのかい?」

「かわ、かわいすぎるだろ! あんなのフツー惚れるって! 綾波フェイは俺の嫁!」

「ってか、デュナミス先生・・・学園生活の中で今が一番輝いてる・・・・」

「フェイトー、キヤルさーん、とーっても可愛いですよ」

 

男も女も入り混じった大歓声。舞台のキヤルは満面の笑み。両手を広げてジャンプしながら皆に答える。

フェイは顔を深く俯かせながらも、横に倒したピースを目元にもっていき、小さく「イェイ」とだけ呟く。

しかし、その声はしっかりとマイクで拾われていた。

それだけで男たちの心は鷲掴みされた。

 

「デュナミス先生、配置につきました!」

「よし、上出来だ! いいか! 今日は、超鈴音プロデュース、『マジカルアイドルスターズ』のデビュー公演だ! デビューなだけに緊張しているであろう彼女たちを、我々がフォローするのだ!」

「はい! 総員、準備しろ! これは訓練ではない!」

 

「「「「「了解ッ!!」」」」」

 

 

アダイの子供たちのための祭り? のはずが、舞台の最前列には、何故か頭に『ふぇい』と書かれたハチマキを巻いたデュナミスを先頭に立ち、その後ろには横並びで同じように「きやる」や「ふぇい」とそれぞれ名前の入ったハチマキを巻いた男たちが十人以上立っている。

そして、デュナミスや男たちの両手にはペンライト。

 

「いっくぜー、みんな! 一曲目はこれだ! キヤルと~」

「フェイの」

「マジカルタイムだ! いっくよー!」

 

曲が流れる。

決して迫力のあるドラムやギターではないが、軽快で可愛らしいリズム。

そのリズムに合わせて、デュナミスを初めとする男たちがペンライトをくるくる回し、自身も体を機敏に動かしながら踊り始めた。

 

 

「「きゃるーん!!」」

 

「「「「「きやるううううううううううううううううううううん!!」」」」」

 

 

小さな野外コンサートが、一瞬の内に大歓声が巻き起こる。

可愛らしいダンスと心に来る仕草で、大勢の客を魅了するキヤル。

誰もが驚く程、圧倒的な歌唱力を披露し、聴く者を見惚れさせてしまう綾波。

大勢の観客の大爆笑を誘う、デュナミスを初めとするファンクラブのヲタ芸。

観客たちも気づけば両拳を突き上げて、リズムに合わせて飛び跳ねる。

 

「まあ、本当に可愛らしいですわ」

「うおおお、撮りまくらないと!」

「でも、本当に可愛いよねー・・・ってハルナ!? ユエッ、ハルナが~」

「のどか、どうしたですか・・・って、何を鼻血出して倒れてるですか!?」

「さ、最強・・・フェイちゃん・・・もう、決定! 今年の夏コミはこれしかない!」

「あははは、でもすごいなー。ウチも美砂たちと学園祭でライブやったけど、こんなにすごくはならんかったからなー」

「やっ、これはもう特別でしょ」

「ほら、亜子、アキラ、ボーッとしてないで私たちもみんなと手拍子手拍子!」

「裕奈ノリノリだねー」

 

ネギの生徒たちもこれには驚きながらも、まるで本物のアイドルを目にしたかのように笑みを浮かべ、観客でごった返しているステージ周りにそのまま飛び込んで、一緒になって盛り上がる。

気づけば皆、それぞれ手に持っていた焼き鳥の串や使い終わった紙皿や紙コップが手から離れ、一緒に飛びながら手を叩いていた。

その空気を作り出しているのが、キヤルとあのフェイト。これには、流石の彼らも驚いた。

 

「フェイト・アーウェルンクスがあんなに歌と踊りが上手いとは思わなかった。というより、もはや完全に突き抜けたな」

「まあ、それもそうだが・・・・デュナミスがあんなに気持ち悪い技を使えるとはな・・・少し引くな・・・」

 

舞台から少し離れた飲食スペースで、コーヒーをすすり、コンサートライブを見ながら、堀田博士と造物主は何とも言えない複雑な気持ちを呟いた。

 

「ぬははははは、いいぞー、フェイ! キヤル! とてもめんこいぞ! それと、デュナミスキモいぞ! ぬはははは!」

「ぼ、僕の師匠は・・・・あんなやつらに・・・ははは・・・もう、怒る気も完全に失せたね。僕もCDとグッズを買おうかな」

「おい、造物主・・・あれは本当にバグではないのか?」

「うん、うん、うん! すばらしいネ、二人共。ひょっとしたら未来に私が帰らなかったのは、これを未来に残すためだたのかもしれないネ」

「多分、あれなら魔界の魔族も熱狂しますね」

「ライさん! ほら、フェイト、すっごい可愛いですよね!」

 

かつてのわだかまりが完全に無くなったとは言えないが、それでも今は同じ祭りを楽しむ客として、テオドラ、タカミチ、エヴァンジェリン、超鈴音、ザジ、そしてネギも一緒になって声援を送る。

ここまで突き抜けたら、争う気すら完全に失せる。

今は私怨も忘れ、ただ祭りの空気に酔っていたのだった。

 

 

「「~~~~♫♫♫」」

 

「「「「「ハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイ!!!!」」」」」

 

「「ブイ!!」」

 

「「「「ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!!」」」」

 

 

リズムに合わせた手拍子、キヤルとフェイの名をひたすら叫ぶ歓声、その熱気の渦が激しく、この瞬間には多くの屋台も仕事をやめて一緒になって盛り上がっている。

だが・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・そこで何をしている?」

 

 

造物主が前を向いたまま声を掛ける。

誰に向けて言っているのか分からず、ネギがあたりをキョロキョロ見渡すと、自分たちの後ろ。

施設のグランドの隅のブランコや砂場や滑り台などの遊具を椅子にして座っている子供たちがいた。

周りはこれほど盛り上がっているのに、やけに冷めた様子だった。

 

「あっ、ギミーさん、ダリーさん、どうしたんですか?」

 

ネギが子供たちの顔を見ると、それは全員アダイの子供達だった。

ただ、コンサートから遠く離れた場所で、何もせずにぼーっとしている。

 

「別に。疲れたんで休んでるんだけど」

「これこれ、何を若造がジジイのようなことを言うておる。せっかくヌシらは特等席で見れるのじゃ。行ってくればよかろう」

「えっ、あっ、別にいいですよ。私たちもちょっと疲れちゃいましたし」

 

テオドラも、冷めた子供たちに声をかけるが、返ってきたのは本当に冷め切った言葉だった。

大盛り上りを見せるコンサートから離れて、遠慮しながらただ眺めているだけのギミーとダリー。

その後ろには、ナキムや他の子供たちも、ただボーッと前のステージを見ていた。

 

「ナキムくん、どうしたんですか? あれが終わったら、いよいよダークヒーローマスクマンの登場ですよ? 僕と一緒に前へ見に行きませんか?」

 

ネギがニッコリと微笑み、屈んでナキムに手を差し出す。

だが、ナキムはその手を握ることなく、ただプイッと横を向いた。

 

「学校の奴らが・・・ダークヒーローマスクマンは、僕みたいな弱い奴が見ていいものじゃないって・・・・」

「えっ? もう、そんなわけないじゃないですかー。むしろ、デュナミス先生は是非見に来てくださいって言ってたじゃないですか」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「ねえ、他の皆さんも行きましょうよ! ギミーさんとダリーさんもお願いしますよ。ね?」

 

ネギはアダイの子供たちに、こんな離れた場所にいないで祭りの中心に行って、一緒に楽しもうと諭す。

だが、ナキムをはじめ、ギミーもダリーも他の子供たちも前へ進まなかった。

そして、

 

「ねえ、ダリーお姉ちゃん。園長先生って、もう元気になったの?」

 

子供たちは笑顔どころか、むしろ悲しんだ表情のまま、年長のギミーとダリーの腰にしがみついた。

その子達に、ギミーとダリーは何も声かけられず、ただ黙って子供たちの頭を撫でた。

 

「ごめんなさい、もう七時前で遅いし、園長先生もそろそろお腹すいてるかもしれないし、私はもう中に入りますね」

「あっ、俺もそうする」

 

すると、ダリーとギミーは、子供たちを連れて祭りに飛び込むどころか、むしろその場から立ち去って中に戻ろうとしている。

この行動には、ネギたちは思わず慌てた。

 

「ちょっ、ちょっと! どうしたんですか? みなさんの気持ちも分かりますけど、まだ夏だから外も明るいし、もう少し居てもいいじゃないですか。園長先生の様子を見に行くのは大切ですけど、また戻ってくればいいじゃないですか」

 

そう、ネギの言うとおり、マギン園長の体調が悪いとはいえ、それは四六時中看病しなくてはならいないほどのものではない。

少し様子を見て、また戻ってくればいいだけの話だ。何故なら、祭りは施設の中で行われているからだ、

そう、ダリーとギミーのやろうとしていることは口実だ。本当は、ただ帰りたくなっただけだ。

 

「やっ。やっぱいいすよ。チビ達も、祭りは楽しかったかもしれないけど、やっぱ園長先生が心配みたいだし」

「私たちにとって、園長先生が親代わりだから。早く元気になってもらいたいし・・・」

 

遠慮がちにやんわりと断ろうとしているが、そこには明確な拒否がこもっていた。

勿論、ギミーとダリーや子供たちの気持ちは分かる。だが、ネギはどうしても納得できなかった。

 

「いい加減にしないか、みんな」

 

その時、彼らを叱るような声が聞こえた。

振り返ると、そこにはロシウがいた。

 

「ロシウ・・・」

「そんなに心配なら、園長先生の看病は僕がします。だから、君たちも今日だけは難しいことを考えないで、お祭りを楽しみなさい」

 

さあ、これで問題はないだろう? ロシウはそう子供たちに告げるが、それでも子供たちは俯いたまま動こうとはしなかった。

 

「・・・今日一日見ていました・・・ずっとそんな顔をして、何を考えているのですか? 君たちにそんな顔をしてもらっても、園長先生は喜びませんよ?」

 

それでも無言の子供たち。一体、何がダメなんだ? 何がそんなに不安なのだ? ロシウは問いただす。

すると、

 

「ロシウみたいに頭良くてしっかりしてる奴には分かんないよ。俺らが今どんな気持ちか」

「ギミー、それはどういうことだい?」

「俺たちはいつまでもここに居られればそれで良いって言ってんの」

 

ギミーが不貞腐れたように発した言葉に、ロシウの眉が動いた。

だが、それに同調するようにダリーも頷く。

 

「私たちは、もうすぐここを出ていかなくちゃいけない。でも、どうしていいかなんて何も分からない。園長先生に相談したくても今は・・・」

「ダリー・・・」

「ギミー兄ちゃん。ダリーお姉ちゃん。二人共来年には施設を出ちゃうの? 僕やだよ・・・また一人になっちゃう・・・ずっと一緒に居たいよ」

「君たちまで・・・」

「ロシウ。ロシウが施設卒業したときは園長先生も元気だったから良かったけど、正直・・・・今の俺たちは祭りどころじゃないんだよ・・・・すごい悪いけどさ・・・」

 

将来への不安。家族を失った経験があるからこそ、園長の体調の不安。いま自分たちが置かれている状況の不安。

その多くの不安が支配し、子供たちは皆、今日一日心から笑っていることはなかった。

その人生には同情できないこともない。だが、

 

「ふっ、惨めなガキどもめ。そうやっていつまでも傷を舐め合っている気か? くだらんな」

 

エヴァが子供たちに呆れたかのように、厳しい言葉を浴びせた。

 

「待つんだ、エヴァ。この子達の気持ちも・・・」

「甘やかすな、タカミチ。どうせ人間はいつか死ぬ。お前たちもいつかこの場所から出て行く。だが、それは当たり前のことなんだ。それも分からんのか?」

「エヴァ!」

 

子供たちにハッパをかけようとするエヴァだが、それでも子供たちは俯いたままだ。

ギミーもダリーも、エヴァの言葉が正しいことは分かっている。

だが、だからこそ不安であり、顔を上げられなかった。

その様子を見て、造物主は僅かに溜息を吐きながら、隣にいる堀田博士に尋ねる。

 

「堀田博士よ。お前はシモンがいくつの頃に姿を消した?」

「片手で数えられるぐらいだったか・・・その後は、施設に入った。カミナくんもそれぐらいだ」

「ふっ、ならばこの子らと同じ境遇か。だが・・・それでも随分と違う歩み方をしたものだな」

 

シモンとカミナ。二人共この子達と似たような境遇を歩んできたが、まったく違う。

二人共、先のことを不安にしたりせず、今を懸命に生きている。

 

「境遇は同じでも、まったく違う。そんな者同士が互を分かり合うのは無理なのかもしれぬ・・・」

「・・・・さあ、どうであろうな・・・」

「やはり、人と人が分かり合うというのは、これほどまで難しいことなのだな」

 

ロシウには分からない。そしてネギにも分からない。自分たちの気持ちなんて分からない。

そう言ってしまえば、それまでだ。お互い違うのだから、自分たちのことをゴチャゴチャ言うな。

まるでそう言っているかのような、アダイの子供たちの様子に、ネギもロシウも複雑で切ない気持ちでいっぱいだった。

すぐそばでは、何もかもを忘れてコンサートが盛り上がっているというのに、全く対極の空気を醸し出していた。

 

 

「よっしゃーーーーーーーーーー! みんな、ありがとなーーーーーーーー!」

 

「・・・・・・・・・もう、僕はどうしてこうなった・・・・・・」

 

 

「「「「「「「「「「イェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!!!」」」」」」」」」」

 

 

その間にもコンサートは終わりに近づき、祭りもようやく終盤に差し掛かっていた。

流石に、ほぼ夏なだけあって、あれだけ盛り上がって飛び跳ねていれば、みんな汗が止まらない。しかしその流れる汗を、誰もが嬉しそうに拭っている。

 

「うおおおお、あれが、あれが俺の妹だ! テメェら、エロい目で見るなよな!」

「必死だな、キタン」

「どっちかなんて選べねえ!」

「二人ともー、可愛かったわよ!」

「つうか、アンコールだ、アンコール!」

 

曲が終わっても静まり返ることはない。

観客はむしろ手拍子を叩いてアンコールを求めて、より一層盛り上がりを見せる。

照れた様子でヤル気満々のキヤル。「まだ終わらないのか」と絶望気味の綾波フェイ。

「俺はまだまだ踊れる」とばかりに瞳を燃やすデュナミス。

全員まだ終わる気はなさそうだ。キヤルが手を上げて、曲がもう一度鳴り始めようとした。

だが、その時だった。

 

「オラアアアアアア、盛り上がりが足んねーんじゃねーか!!」

 

キヤルとフェイの舞台に勝手によじ登り、マイク片手に観客に向けて大声で叫ぶカミナが現れた。

 

「ちょっと、カミナ! なに、でしゃばってんのよ!」

「こらあ、ダイグレン学園、いくら同じ学校だからってそれは卑怯だぞ!」

「フェイちゃんから離れろ!」

「ぶーぶー、ひっこめー!」

 

お前なんか呼んでいない。勝手に舞台に乗って、観客を煽るカミナにブーイングが巻き起こる。

クラスメートたちも、相変わらずあのバカは何を考えているんだ? そんな様子だ。

だが、

 

「バカ野郎! テメェら程度の声援だけじゃあ、俺らダイグレン学園の祭りの熱気は天元突破しねえんだよ!」

 

カミナは悪びれない。腕組んで上から観客全員に挑発的な言葉を投げつけた。

 

「何が天元突破じゃ。どれだけ声出してると思ってんだ!」

「そうよそうよ! ひっこめー!」

「私たちは最高にアゲアゲだってばー!」

 

観客も、誰もが自分たちは最高に盛り上がっていると反論。

今更カミナは何を言っているのか?

だが、そう思ったとき、ステージのカミナは遠くを指差す。

 

「いいや、足りねーな。そう。だから足りねー分は、お前らがやるんだよ!」

 

カミナが指差す方向。観客も一斉にその指先がどこを指しているのか、振り返ってみる。

 

「えっ・・・・・」

 

するとそこには、離れた場所でこのコンサートを見ていた、アダイの子供たちが居た。

そう、カミナは、観客ではなく、アダイの子供達に向けて言葉を発していた。

 

「どうした、オメーら。気合が足んねーぞ! いつまでもそんなに暗くなってんだよ」

 

その瞬間、あれだけ盛り上がりを見せていた祭りの騒ぎが、一瞬で静まり返り、辺りが静寂に包まれる。

ステージのキヤルとフェイも、ただ黙ってカミナの言葉を聞いていた。

すると、その問いかけに、ギミーとダリーが申し訳なさそうに、一歩前へ出る。

 

「仕方ないですよ」

「はっ?」

「そりゃあ、祭りは楽しかったと思うけど・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

ギミーが言葉を選びながらも、カミナに言う。

 

「ギミーの言うとおりですよ、カミナさん。今日は皆さんには本当に感謝しますけど、でも、今日がいくら楽しかったと言っても、それで私たちの明日が何か変わるわけじゃないですし」

 

ダリーも、そしてアダイの子供たちもみな同じような表情をしている。

確かに今日は楽しかったかもしれない。皆の心遣いもありがたかったかもしれない。でも、それはあくまで今日だけの話。

自分たちはまた、今日とは違い、昨日までと同じ明日がまた始まる。

体調不良が続く親代わりの園長。施設卒業を目前に控え、将来を不安がるギミーとダリー。

年長者の兄貴分や姉貴分まで離れ離れになり、別れや孤独を味合わなければならない幼い子たち。

明日も結局同じ。だから、仕方ない。そうギミーたちは言った。

その言葉に、祭りに来ていた者たちや、店を出していた者たちも、何も言えずに言葉を失った。

 

「あー・・・・・・・」

 

カミナは頭を掻いた。「何故そんな風に思う?」ギミーたちの考えが、彼にはまるで理解できなかったからだ。

 

「お前らな、いつまでも自分が下向いていていいと思ってんじゃねえぞ?」

 

カミナも同じ境遇を過ごした。

親と一緒に暮らせず、施設で育った。

だが、同じ境遇でも、彼らの気持ちがカミナには理解できなかった。

 

「ギミー。お前は前、ここ以外で友達とかそんな欲しいわけじゃねえって言ったな。いらねえわけじゃねーだろ。できねえだけだろ!」

「ッ・・・」

「ダリー、お前は自分たちの明日が変わるわけじゃねえって言ったな。変わらねーんじゃねえよ。変えようとしねえだけだろ! お前はジジイに明日を変えてもらうつもりかよ。テメエの明日を変えるのは誰の役目だと思ってやがる!」

「・・・それは・・・」

「他の奴らもだ。いつまで道草食ってやがる! 一度も飛び出さず、勝たねえ、行かねえ、挑まねえ、前も向かねえ、満たされねえ、ねえねえづくしでいいと思ってんのかよ!」

 

それは、ギミーとダリーだけに向けられた言葉ではない。

二人と同じように俯いているアダイの子供たちにも向けられた言葉である。

 

「ジジイは何でお前らの面倒見てんだよ! お前らに親が居なくて可哀想だからじゃねえよ! 親が居なくたって関係ねえ。ここを飛び出しても、自分たちの力で今日よりマシ明日を手にしていけるようになって欲しいからじゃねえのかよ!」

 

カミナは言う。お前たちの考えやその表情は、お前たちの大好きな園長への裏切りだと。

その言葉に、一言も反論することができず、ただ、ギミーとダリーは俯いた。

 

「カミナさん・・・」

 

ロシウもまた、この施設の卒業生だった。

そして、自分もまたギミーやダリーたちと何も変わらない考えや表情をしていた。

だから、ロシウだけはギミーたちの気持ちがよく分かった。

でも、昔の自分もそうだったかもしれないが、今の自分は違う。

ステージの上で大声を張り上げるカミナと同じように、ロシウも子供たちに向けて声をかける。

 

「ギミー、ダリー、みんな。僕もみんなもいつまでも特別なんかじゃないんだ。僕たちが味わった悲しみや孤独は、この世の中にはありふれているんだ」

「ロシウ・・・・」

「みんな、よく考えるんだ。僕には、そして同じような境遇のカミナさんやシモンさん、そして・・・・・・ここに居るネギ先生には、こんなに大勢の仲間が居ます。今日よりいい明日を過ごそうと、毎日を懸命に生きています。同じような境遇なのに、みんなと彼らの何が違うのかが分かりませんか?」

 

何が違う? そう言われてギミーたちは押し黙る。

カミナと自分たちは何が違うのか。性格? 機会? 状況? いや、答えはもっと根本なもの。

 

「僕からもいいですか?」

 

その時、カミナ、ロシウに続いて、ネギが前へ出た。その行動にネギの生徒たちも驚く。

だが、ロシウは大して驚きもせず、むしろ「お願いします」と、ネギを招いた。

そして、ネギはカミナのような熱の入った言葉でも、ロシウのような冷静な言葉でもなく、ただ優しく問いかけるように彼らに話しかける。

 

「今を楽しまない理由を、親や施設の所為にしてはいけないと思います」

 

ネギも同じだった。今の自分の状況に、言い訳をするなと。

 

「みなさん。僕には夢があります。その夢を追いかけるには、いつかはこの学園から旅立つ時が来ます。それは、カミナさんやシモンさんたちも同じです。みんなも・・・ダイグレン学園を卒業する時が来ます」

 

ギミーもダリーも、他のアダイの子供たちも。いや、それだけではない。

今のネギの言葉は、この祭りに参加している者たち全員の心に響き渡った。

 

「誰だって、いつまでも自分にとって都合がいい居心地のいい場所は続きません。でも、先のことばかり不安がっていてどうするんですか! みんなだって、やりたいことやなりたい自分、夢とかあるはずですよ!」

 

もうすぐ施設を卒業し、その先を不安に思うギミーとダリー。

留年しまくっていつまでたっても学園から卒業しないカミナたち。だが、結局彼らもいつかは卒業をする日が来る。

そう、誰もがいつまでも同じ場所にいる訳ではない。

ネギの言葉に、ネギもいつかはこの学園から去るという意志が感じ取れ、ネギの生徒たちもどこか寂しそうにその言葉を聞いていた。

 

「明日は変わらない? いいえ、変えられますよ。人の心なんて、自分で変わろうとすれば一分で変わります。心が変われば自分のやること、思うこと、見えている世界の全て変わります。だから、明日は変わらないなんて言わないで、変えてやりましょう!」

 

人は変わる。

先のことばかり不安がっていてどうするのだ?

その言葉は、アダイの子達だけではない。

ただ黙ってその言葉を聞いていた、造物主や堀田博士たちの心にも何かを感じ取らせた。

 

「ナキムくん。明日なんて、変えようと思えば変えられるんだよ? 親がいなくたって、関係ない」

 

ネギはナキムに微笑む。ナキムは、なんと言葉を返していいか分からなかった。

ただ、どうしていいか分からず、ズボンの裾をギュッと握り、唇を噛み締めた。

 

「いつまでも狭いとこに閉じこもって、家族同士で下向いてどうすんだ! テメェの道すら掘らねえで、突き進みもしねえで、壁と天井に囲まれた世界でくすぶって。漢なら、そいつを突き破って飛び出して明日を掴んでみろよな!」

 

カミナは再び叫ぶ。いつまでも閉じこもっているなと、激を飛ばす。

でも、それでもアダイの子達は一歩を踏み出せない。

言葉だけではダメなのだ。

例え、それがどれだけ正しい言葉だったとしても、それだけで踏み出せる不安ではないからだ。

だが、

 

 

「当たり前だ!!!!」

 

 

力強い声が、施設中に響き渡った。一同一斉に声のした方に振り返る。

するとそこには、やけにボロボロの格好をして、傷がいくつも見え隠れしている男と女たちが、門から入ってきていた。

 


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