問題児の一章を沢山投稿しているエステバリスです。飽き性とか言わないでください。
今回は新たなチャレンジ、をテーマとさせていただきます。なので新人みたいなヘマをしてしまうかもしれませんが……それでもよろしければ、人類の理も異世界から来るそうですが。をよろしくお願いします。
何もない空間。虚無。いや、正確に言うならば男が一人いる。
男の網膜に映るのは空間ではなく、世界。色鮮やかに塗り尽くされた至って普通な地球と呼ばれる惑星だ。
色鮮やか、という割りには海の青以外に色がない。
この世界に大地はないのだ。一昔前、とある事件によって海面が爆発的に上昇し、山すらも海に沈むほど、自然の
常識という観念が変わってしまった……
「今日も至って平穏……この調子で往けば三百年後には海は星の手から離れる」
事実だった。男は始まりの時もその目で世界の変貌する様を見て、その後緩やかに上昇する海抜もゆったりと見つめていた。
この世界は雨が降らない。本来雲がある場所も海の一部となり、標高からして寒いのにそうした理由で湿りきっているなど、生活するには最悪の一言に尽きる。
「人は生きることにはとことん貪欲だ。人類が"バビロンの園"と呼称する人造による島、あるいは船の存在からそれは明らかである」
そう呟きながら網膜には先程とは違う映像、海の上に浮かぶ鉄の島が映る。
人だ。総勢百数人、かなり多い方だ。
果たしてこのまま緩やかに穹の果てへと向かって往けば、人類はどうなるのだろうか。適応して進化を遂げる?それとも為す術なく絶える?
前者であれば世界を造った者達をさぞや喜ばせることだろう。なにせ自分達が造った地球という箱庭から、生物という子供が飛び出す。云わば門出なのだから。
男は願わくばこの星の果てにあるものが輝かしい未来に満ちた物であることを願う。そうすることが、否。そうであることが男の存在価値だからだ。
「………、異常事態、発生」
そしてただまた傍観を決め込もうとした時だ、この空間に綻びが生まれた。
起きた、と言ってもそれは有り得ない事だ。この空間は外部からのアクセスは一切不可能。男が自ずからアクセスするしか、この空間が外部と繋がることはないのだから。
が、実際に起きている。男はとうとう起こってしまったか、とさして気にしていないようなことを考える。
「……"セントラル・エデン"に告げる。繰り返す、"セントラル・エデン"。こちら"マーク"。ゲイズエリアの崩壊を確認。発生原因は不明、私の消息も不明となる可能性が大きいと判断。これより私の収集した情報の譲渡を開始する」
男は返答を待たずに、足とほぼ同じ高さの場所に手を当てる。地面と形容するものは存在しないが、身体を屈めると効率がいいだけに過ぎない。
時間に換算すると十秒経たずして作業は終わった。だがそれと同時に男の身体をあるはずのない重力が襲う。この空間がその役目を果たせなくなっているとわかる。
━━━死ぬな、これは。
他人事のように呟いた。男はまだ未来が少しだけでも残っているあの地球が名残惜しそうに手を伸ばし、重力の海に吸い込まれて行った。
男がその世界の景色で最後に見たものは、蒼穹へと羽ばたく人々の姿だったような気がして、男は鉄面皮を崩して、世界から消えた。
◆◇◆
━━━なんだ、これは?
身体を切り裂くような質感を感じる。これを質感と読んでいいのかは男にはわからないが、そういうことなのだろう。
━━━それならば、ここは?
下に目を向けると大地が広がっている。過去の情報から総合的に加味すると、恐らく空。標高は二千メートルほどと判断できる。
「……有り体に言うと、これが落ちるというものか」
じゃあアレはなんだ、これはなんだと手を伸ばす。覚えている、アレは森。そして下にあるのは湖。そして私と共に落下しているのは人間と、猫か。
猫はあの件で絶滅したはずだが、それに森や湖、果ては山があるということも腑に落ちない。だが落ちている間にも男の頭の中には目まぐるしく情報が往き来している。
「……箱庭。神話や人類史の英傑らが招かれる神魔の遊技場。しかし箱庭とは、因果な名だ」
神々の課した運命から抜け出した英傑達が、神の造る箱庭に囚われるとは。
その言葉は口に出さなかった。何故だかわからないが、それを口にする気はなかった。
「そうだ、空中遊泳というものを試してみよう。何れはあの世界の彼らもできるであろう事だったな」
マイペースに男は覚束ない動作で、映像で見ていた"クロール"なる動きを真似る。難しい、と思いつつも男の身体は中に浮いているかのように滑空を始める。
「そうか、この風を掴むのが肝要か……慣れないな、生物は慣れという概念があるが、まさか私にも作用するとは━━━」
言葉の続きは紡がれなかった。滑空し出したと思ったら思案に耽り出したのだ。空を飛ぶということはその時点で中断され、男はその場で落下し、地面に真っ赤な柘榴を咲かせた。
(これが血で、これが痛み……なるほど、確かにこれは耐えがたい。肉体とは不便なものだな)
ぼうっと考えていると、ザバザバと男と共に落下した、湖へと落ちた三人が上がってきた。
「……オイ、コイツ大丈夫か」
「残念ながら死んでるわね、これ」
「御愁傷様」
なるほど、悼まれているのか。見ず知らずの自分を悼むなど相当な物好きだ。が━━━運が良かったようだ。
男はまるで寝起きのように起き上がった。その失血量は明らかに致死量だというのに、何事もなかったかのように起き上がったのだ。
「心配痛み入る。だがこの通り、私は生きているのでそれは杞憂だと失礼ながら言わせてもらおう」
当然のように頭を下げて来る。三人は流石に自分達の感性がおかしいのかと思ってしまうほど自然で、呆気にとられている。
「……とりあえず聞くが、オマエラも例の手紙を受け取ったのか?」
「……え、ええ。でも、その……オマエ、というのをやめてくださるかしら。私には
二人ともあまりのインパクトになんて始めればいいのかわからず、手探りのような感覚で自己紹介をし出した。
「……
茶髪の少女は特に文面からはそんな気はとれないが、若干声が上ずっている。困惑しているのは目に見える。
「そ、そう。よろしく春日部さん。それで金髪の貴方は」
「……俺は
もうなんて話せばいいのかわからない。当の本人以外の三人はそれぞれの性格が垣間見えても、はっきりわかるような挨拶をしないことがその証拠……と言えるのだろうか。
「よろしく……じゃあ最後に、不思議な蒼い髪をした貴方は」
「……蒼?銀に見えるぜ、俺には」
「ターコイズに見える」
三人の意見が衝突する。だがまぁ、男は自分が呼ばれているのを理解しているため、大して気にも止めない様子で答える。
「私のことか?それならば申し訳ないが、私にはおおよそ名前と呼べるものはない」
「名前、ないの?」
「ない。だがそうだな……私に名を求めるならば
「……そう、よろしく、劉磨さん」
「よろしく頼む、久遠女史」
こうして終始男、亜玖のマイペースさに振り回されて四人の挨拶は終わった。
そしてそんな光景を眺めていた人影が一つ……
(う、うわぁ……なんかもう色々とこの段階でアウトな人がいらっしゃるんですが……もしかして召喚するの、間違えましたかね……)
彼女、黒ウサギは四人の様子を観察して短く嘆息をついた。
彼、劉磨 亜玖の残念すぎるマイペースさを目の当たりにして"本来呼んだ人数が三人である"ことが頭から離れながら。
本来この倍くらい書きたかったんですが、不思議系自体ほぼ書いたことないので少しずつ慣らす、というカタチで文字数を増やしていくと思います……。
それでは、また次回。