一方通行が異世界からくるそうですよ?   作:宇佐木時麻

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問題児たちとの出会い

 一方通行が初めに見たのは広い青空だった。

 どこまでも続く綺麗な空。彼はその光景をボンヤリと、何も思考しないまま眺めている。

 分からない、何も理解できない、どうすればいいのか考えられない。

 

(たしか、俺はーーーー)

 

 直前の記憶を思い出そうとした時、首筋辺りからカチッ、と奇妙な音が響く。その音について疑問を持った瞬間、

 

 上空4000メートルから落下していた一方通行は、下にあった湖に墜落し、同時に彼の意識は完全に覚醒した。

 

 

 

   ☆☆☆

 

 

 

「クソッたれ……」

 

 水を吸って重くなった服を引きずりながら、一方通行は憎々しげに舌打ちした。

 最悪の気分だ。今の彼は眠っている最中に問答無用で水をぶっかけられたに等しい。第三次世界大戦での精神面の成長がなければぶちキレてもおかしくないレベルだった。

 とりあえずその件については保留にして、辺りを見回す。

 

(どこだここは? 一体全体どォなってやがる)

 

 記憶が正しければ、彼はつい先程までロシアの雪原にいたはずだ。しかし辺りに見えるのはそれの正反対である熱帯を連想させる生い茂った森だった。気温も暑く、着込んでいた白が基調とされる冬服を脱いでも構わないほどに。

 珍しく、学園都市最高の頭脳を持つ一方通行でも現状を把握できていない。とりあえず、彼と同じように落ちてきたであろう三人と一匹を見る。

 

『ニャー、ニャーニャーニャー!?』

「……大丈夫?」

「し、信じられないわ! まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぞコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

「……。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

「俺は問題ない」

「そう。身勝手ね」

(なンか、面倒臭そうなヤツらだなァ……)

 

 暗部の『グループ』と同じくらいキャラが濃そうな連中に、一方通行は思わず頭を掻く。面倒事は避けたいが、少なくとも一方通行よりは事情を知っていそうだ。情報収集のためにも、彼は未だ言い争うをしている集団に近づいて行く。

 

「まず間違いないだろうけど、一応確認しておくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずは“オマエ“って呼び方を訂正して。――私は久遠飛鳥(くどうあすか)よ。以後気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

春日部耀(かすかべよう)。以下同文」

「そう。よろしく春日部さん。ところで、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜(さかまきいざよい)です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と容量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様。――んで、その俺より目付きが悪くてセロリみたいなお前は?」

 

 三人の中で唯一の男性であるヘッドホンをした少年、十六夜に声をかけられ、残り二人と一匹の視線が一方通行に向かう。

 

「……一方通行(アクセラレータ)だ」

 

 十六夜の言い分に少し苛立つが、情報を得るためにも仕方なく己の名を名乗る。すると女性二名が彼の名前に疑問を持ったのか、首を傾げた。

 

「……アクセラレータ?」

「それ、偽名かしら? 白髪紅眼というのは珍しいと思うけど、貴方顔立ちからして東洋人でしょ?」

「好きに判断しろ。それよりも手紙ってのはなンだ? それとここがどこだが知ってンのか?」

 

 一方通行の問いに三人は驚いた。ここがどこなのかは知らないが、手紙については三人とも知っていて当然だった。何故ならその手紙に呼び出されてここにいるのだから。

 

「貴方……手紙を見なかったの? あの密室投書の手紙を」

「へえ、お嬢様のトコはそんなんだったのかよ。俺は風で飛んできたけどな」

「私は空から……らしい」

「知らねェな。少なくともそンな愉快な手紙なンざ見てねェ」

 

 直前の覚えている記憶。それは一人の少女が泣いている姿。

 

「チッ、クソッたれ……」

 

 あの後どうなったのか。自分は彼女を守れたのか。一方通行の中に様々な感情が込み上げてくるが、何とかそれらを抑える。

 

(とりあえず、事情を知ってるヤツから話を聞くとしかねェな……)

 

 ()()()()()()()()()になるかもしれないが、仕方ないだろう。

 という訳で、

 

「――仕方がねえな。こうなったら、そこに隠れている奴にでも話を聞くか?」

 

 十六夜の呟きと同時に、四人(+一匹)の視線が不自然に膨れ上がった草影に向けられる。同時にビクン‼ と明らかに何かが蠢いたように草影が震えた。

 

「なんだ、貴方たちも気づいていたの?」

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ? そっちの猫を抱いてる奴も気づいていたんだろ?」

「風上に立たれたら嫌でもわかる。……一方通行は?」

「あン? ……あンなド素人の気配、分かって当然だろォが」

「……へえ? 面白いなお前」

 

 一方通行は実は初めからこの場に五人いるのは知っていた。いくら姿を隠していたとしても、気配が消えてなければ裏の人間なら誰でも気づく。その発言に十六夜が何らかの興味を持ったようだが、一方通行は無視することにした。

 すると、四人の敵意が籠った冷ややかな視線に観念したのか、スクッ、とそれは立ち上がる。

 

 

 

 うさぎ耳を頭から生やした少女がそこにいた。

 

 

 

「…………、」

 

 絶句。一方通行の視線はうさぎ耳を凝視している。一方、黒ウサギはやや怯えながら、

 

「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼は天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

 

 その問いに、四人は同時に答える。

 

「断る」

「却下」

「お断りします」

(あのうさぎ耳、まさかサイボーグとして動物の耳をつけることによって広域からの聴覚情報を取得できるっていうあの研究のヤツかァ? もォ完成してたってのかァ。クソッたれが、都市伝説だとばかり思ってたンだが、まさか外でもォ実践されてるとはなァ)

 

 訂正、三人だった。

 黒ウサギは一方通行の様子がおかしい事に気づき、声をかける。

 

「あの、どうかしましたか?」

「……んァ? なンか言ったか?」

 

 さらに訂正。そもそも一方通行は黒ウサギの話を一切聞いていなかった。

 

「あ、ハハハ……」

 

 思わずバンザーイ、とお手上げのポーズをとる黒ウサギ。すると、春日部耀は不思議そうに黒ウサギの横に立ち、彼女のウサ耳をガシッ! と根っこから鷲掴み、

 

「えい」

「フギャ!」

 

 腰に見事な回転をかけ、引っこ抜く勢いで力いっぱい引っ張った。

 

「ちょ、ちょちょちょっとお待ちを! いきなり問答無用で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

「好奇心の為せる業」

「自由すぎるにも程があります!」

「へえ? そのウサ耳って本物なのかよ」

「……。じゃあ私も」

「ちょ、ちょっと待――!」

 

 右からは十六夜、左からは飛鳥と両方からウサ耳を力いっぱい引っ張られた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊した。

 そんな彼らを見て、一方通行は一言。

 

「面倒臭ェ……」

 

 どうやら詳しい話を聞くにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

 

 

   ☆☆☆

 

 

 

「――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

「いいからさっさと進めろ」

 

 あれから一時間後。ようやく話が聞ける状況になったため、半ば意識を飛ばしていた一方通行(アクセラレータ)はやっと眼を開けた。その瞳にはやっとかァと(だる)そうに細められている。

 彼と同じように大人しくなった三人を見て、黒ウサギは気を取り直すために一度咳払いをして、

 

「それではいいですか、御四人様。定例文で言いますよ? 言いますよ? さあ、言います! ようこそ“箱庭の世界”へ! 我々は御四人様にギフトを与えられた者だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召喚いたしました!」

「……“箱庭の世界”だァ?」

 

 ピクリ、と一方通行の目元が震える。その言い方ではまるで、この世界が別世界だと言っているような。そんな彼の思考とは裏腹に、話は進んでいく。

 

「ギフトゲーム?」

「そうです! 既に気づいていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその“恩恵”を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

(待て)

 

 黒ウサギは、ナニを言っている? 箱庭の世界? 造られたステージ?

 それは、

 

「……おい、一つイイか?」

「はい、何でしょうか?」

 

 黒ウサギはわらっている。それが、一方通行には悪魔の微笑みに見えた。

 

「ココは……なンだ?」

「こちらはあなた方がいた世界とは違う、“異世界”なのでございます! 皆様方が住んでいた世界とは切り離された、まったく異なる世界なのだと御考え下さい」

 

(――――、。)

 

 一瞬、一方通行の心臓は完全に止まっていた。

 異世界。

 一方通行がいた世界とは異なる世界。元の世界とは切り離された別の世界。

 それはつまり、

 

 

 

『ずっと一緒にいたいよ、ってミサカはミサカはお願いしてみる』

 

 

 

 彼女との、永遠の別れ。

 

「――――ッ!!!!」

 

 あまりのショックに、一方通行は後頭部を金属バットで殴られたような衝撃が伝わる。何も思考できない。黒ウサギと三人の会話が高性能な脳に記憶されていくが、一方通行は呆然と(うつむ)いたままだった。

 すべてが闇に包まれる寸前、ふと彼は疑問を抱いた。

 

(待てよ? じゃあなンであのクソガキからの電波が届いてやがる)

 

 一方通行の首筋にはチョーカー型電極があり、とある事情で彼は本来なら立つことも、話すこともままならない状態だ。しかし、ある者達に代理演算を任せる事で彼はこうして人並みの行動を、更には本来の能力を使用することもできる。しかしそれは、彼女の電波が届いて初めて可能となる。

 もしここが黒ウサギの言うとおり異世界ならば、彼女の電波は届かないはすだ。

 その事実に一方通行が悩んでるその時、今まで話を無言で聞いていた十六夜がいきなり立ち上がった。

 

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

「……どういった質問です? ルールですか? ゲームそのものですか?」

「そんなのは()()()()()()腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは……たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 

 十六夜は辺りを見回し、その全てを見て、再び黒ウサギを見る。

 何もかもを見下ろすような視線で、不敵に口を歪め、

 

 

 

「この世界は……面白いか?」

 

 

 

 それは、強者の声。奪われるのではなく、奪う者だけが放てる覇気。十六夜はその独特の雰囲気を何も意識せず放っていた。

 

「――――」

 

 他の女性二名も無言で返事を待つ。一方通行も同じく黒ウサギを見る。

 それらの視線を受け、黒ウサギは満面の笑みで答えた。

 

「――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

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