「御二人様はお馬鹿なのですか!? いいえ、お馬鹿です!!」
「ヤハハハ」
「チッ」
激戦の最中。突如現れた淡い緋色に染まった髪の黒ウサギに止められ、一方通行と十六夜は現在進行形で説教を受けていた。とっいっても二人ともまったく反省していないが。
黒ウサギの説教は続く。
「だいたい、何をやらかせばここまで森林破壊をなせるのですか! 森の賢者様方からは『止めてくれ』と土下座なんてされ、焦って来てみれば蛇神様は伸びていて、更に御二人様は周囲の事などお構い無しでお暴れになられて! 何がありましたらこんな嵐が来たような災害地になるのですか!!」
「あの蛇野郎をブッ飛ばしたのはコイツだ」
「森をぶっこわしてたのはこいつだぜ?」
「「……あァッ?」」
「ケンカはお止めてくださいと言ってるでしょうがこの問題児様方がっ!!」
バシン! とどこから取り出したのか、黒ウサギのハリセンが二人の頭に炸裂する。それで二人はしぶしぶ睨み合うのを止めた。
ツッコミで息を切らしながら、黒ウサギは思案する。
(これはどうやら一癖どころか十癖ぐらいある問題児様のようですが……実力は本物のようですね。人類最高クラスのギフト保持者……もしかしたら、私達のコミュニティ再建も、夢じゃなくなるかもしれません!)
二人の実力はまだ見ていないが、これほどの傷跡を大地に残すほどの力。きっととてつもないギフトに違いない。
後は、この二人が仲良くなってくれれば――
「……あれ? 十六夜さん、一方通行さんはどちらへ?」
ふと思考の海から戻って顔を上げて見れば、目の前には十六夜しかいなかった。……その不自然に伸ばされた手が少し気になるが……。
「チッ、あと少しで胸とか脚とかに届いたってのによ……」
「? 何かおっしゃいましたか?」
「何でもねえよ。アイツなら、ほら」
初めの方がよく聞こえなかったが、十六夜はクイッと顎を向ける。そこにはやはり一方通行と先程目を覚ました蛇神がいた。
『な、何だ小僧! 我に何の用だ!!』
「……」
地上に上がった蛇神は声は強気だが、どこか小動物を連想させる雰囲気を纏っていた。逆に、一方通行は静かに眺めるだけ。
「おい、そこのウサ耳」
「ウサ耳⁉ いえ、確かに私はウサギですけど……何でしょうか?」
一方通行は顔色を変えず、
「コイツの鱗全て剥がして売ればいくらになる?」
ピシッ、と空気が凍る。主に蛇神のだが。
それを聞いて、黒ウサギのすることはただ一つ。
「――何を考えていやがりますかこの問題児様はァァああああああああああ‼」
パシン‼ と再び心地良い音が空に響き渡った。
☆☆☆
「まったく、一方通行さんは言ってもいい冗談と悪い冗談がありますよ。まあ、そのおかげでこんな大きな水樹の苗が手に入ったのですが」
(冗談じゃなかったンだがなァ……)
キャハー! と小躍りしながら喜ぶ黒ウサギを横目で見ながら、一方通行は心で呟いた。実際綺麗な鱗だったので、専門の人に売れば高値がつくと思ったからだ。
ちなみに蛇神はそんな一方通行の本気にきづいたのか、震えながら“水樹の苗”というギフトをくれた。所詮この世界は弱肉強食である。
「さあ御二人様、私達のコミュニティへご案内します♪」
両手を広げ、受け入れるように黒ウサギは満面の笑みを浮かべた。どんな相手でも虜にする笑顔。そんな表情で言われれば誰でも頷いてしまうだろう。
だが、
「待てよ」
今まてま無言だった十六夜が黒ウサギの前に立った。
「丁度いい。ここにいるのは大体の事情を把握している奴だけだ。なら、いい加減隠し事は止めようぜ、黒ウサギ?」
「……なんのことです? 黒ウサギが何か気に障る事でも」
「そんな言い分はどうでもいいんだよ。黒ウサギ、俺が聞きてえのは
「……ッ‼」
黒ウサギの顔が僅かに強張る。黒ウサギが動揺しているのが丸わかりだった。
それと同時に、一方通行も驚いていた。
(コイツ……このタイミングでだと?)
コミュニティに問題があり、それを黒ウサギが隠そうとしていたのは一方通行も気付いていた。本当はもしこのまま黒ウサギが何もコミュニティについて話さなければ、一方通行はさりげなく黒ウサギ達の元から離れるつもりでいた。
十六夜の方を見る。彼の眼は“お前も聞きたかっただろ?”と告げているように感じて一方通行は思わず舌打ちする。
「そ、それは……」
「まどろっこしいのは止めようぜ。これは俺の勘だが、黒ウサギのコミュニティは弱小のチームか、もしくは訳あって衰退しているチームか何かじゃねえのか? だから俺達は組織を強化するために呼び出された。そう考えれば今の行動や、俺がコミュニティに入るのを拒否した時に本気で怒ったなのも合点がいく――どうよ? 100点満点だろ?」
「っ……!」
黒ウサギの端正な顔が歪む。苦しそうに、その事実にきづかれなかったように。
「ほら、早く本当の事を包み隠さず話した方がイイぜ? じゃねえと、全てが手遅れになるかもな」
チラ、と十六夜の視線が一瞬一方通行を捉える。どうやら、十六夜には一方通行の行動が読まれているようだ。
「……チッ」
「……話せば、協力していただけますか?」
「ああ。
十六夜は笑いながら答えたが、眼だけは笑っていなかった。その瞳は真剣そのもの。それを見て、黒ウサギはしばらく思案した後、観念したようにため息を吐いた。
「……分かりました。この黒ウサギ、全てを語らせてもらいます」
「…………」
一方通行や十六夜が静かに見つめる中、黒ウサギの説明が続く。
「まず私達のコミュニティには名乗るべき“名”がありません。よって呼ばれる時は名前の無いその他大勢、“ノーネーム”という蔑称で称されます。次に私達にはコミュニティの誇りである旗印もありません。この旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っています。そしてトドメに、中核を成す仲間達は一人も残っていません。もっとぶっちゃけてしまえばゲームに参加できるだけのギフトを持っているのは一二二人中、黒ウサギとジン坊っちゃんだけで、後は十歳以下の子供ばかりなのですヨ!」
「最悪だな」
「もう崖っぷちだな!」
「ホントですねー♪」
最悪だった。考える中でも最悪の状況。なるほど、確かにそんな状況ならば十六夜達にいなくなってほしくないのは分かる。
まあ、
(……だからなンだってンだ)
例え彼女のコミュニティが最悪な状況だとしても、一方通行には関係のない話だ。
「で? どうしてそうなったんだ?」
「それは……奪われたのです。全てを、箱庭を襲う最大の天災――魔王に」
黒ウサギの暗い声が周囲に響く。やがてそれは、彼女の本心を叫ばせる。
「お願いします。茨の道ではあります。けど、私達は仲間が帰る場所を守りつつ、コミュニティを再建し……何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには十六夜さんや一方通行さん達のような強力な力を持つプレイヤーを頼るほかありません! どうかその強力な力、我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか……!?」
深く頭を下げて黒ウサギは懇願する。それを見て、二人の反応は対極だった。
「――断る」
「――いいな、それ」
一方通行は否定し、十六夜は肯定した。
「――……ッ‼ な、何でですか一方通行さん‼」
否定した一方通行に寄り詰め、黒ウサギは理由を問うために肩を掴もうと手を伸ばす。
それを、
「オマエ、何様だ」
一方通行は容赦なくその手を弾いた。
血のように赤く、氷のように冷え切った瞳が黒ウサギを睨む。気づけば、黒ウサギは無意識の内に一歩
「あ、
「自分の都合が悪ィことは隠して、無理矢理自分のトコへ引きずりこもォとして、あげくの果てにコチラの意見全部無視して協力しろだァ? ふざけてンのかオマエ」
一方通行にとって黒ウサギのコミュニティなどどうなろうが知ったことではなかった。彼の最優先事項は元の世界へ戻る方法を見つける事なのだ。それに、そのような弱小コミュニティに入れば本来の目的の足手まといにしかならない。
「付き合ってられねェンだよ。俺は俺の好きにやらせてもらうぞ」
一方通行はそれだけ伝えると、一人別の場所へ向かうために足を踏み出す。
だが、
「……数々のご無礼、お詫びもうします。ですから、どうかお願いします……‼」
彼の後ろ。そこで、今にも泣き出しそうな声で黒ウサギは一方通行に土下座をしていた。
「――――、」
一方通行には分からない。何故、そこまでするのか。十六夜ほどの戦力がいるのなら、一方通行は必要ないはずだ。なのに、何故、彼女は泣きそうになりながらもこんな自分に頭を下げるのか。
つまり、それほど大切に思っているのだ。彼女のコミュニティを。
例えどんなことをしてもコミュニティを守りたい。その思いは確かに一方通行に届いていた。
「…………チッ」
一方通行は苛々しく舌打ちした。黒ウサギにでも、十六夜にでもない。こんな馬鹿げた説得で心を動かされそうになっている自分自身に対して。
歩き出した脚を止め、一方通行は振り返らずに告げる。
「……交換条件だ、黒ウサギ」
「えーーーー」
頭を上げる黒ウサギ。一方通行は頭を掻きながら、面倒臭そうに、
「俺はオマエ等に協力してやる。その代わり、オマエ等は俺の目的に協力しろ。それが条件だ」
自分で言っておいて、何言ってやがると思った。こういう善行はあの
黒ウサギはしばしの間茫然として、
「そ、それを守れば私達のコミュニティに入ってくれるんですね!?」
「あァ」
「――――」
黒ウサギはしばらくの間、ブルブルと身体を震わせて、
「ありがとうございます――――ッ‼‼」
突如、一方通行に抱き付いてきた。
「なァっ!? く、離れやがれウサ耳! うっとォしいッ‼」
「きゃーきゃーきゃー♪」
「ハハハハ!」
一方通行は叫ぶ。
黒ウサギは喜ぶ。
十六夜は笑う。
森林の中だと言うのに、彼らは賑やかだった。