一方通行が異世界からくるそうですよ?   作:宇佐木時麻

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白き夜の魔王

「な、なんであの短時間に“フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備している時間もお金もありません!」「一体どういう心算があってのことです!」

 

 

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」

 

 

 

「黙らっしゃい!!」

「……選択早まったかもしンねェな」

「ヤハハハ!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「では皆さん、ギフト鑑定をしに“サウザンドアイズ”の下へ行きましょう!」

 

日が暮れた頃。互いの情報交換を終えた後、噴水広場の腰掛けでノーネーム御一行が一息吐いていると、突然黒ウサギが切り出した。

 

「“サウザンドアイズ”? コミュニティの名前か? それにギフト鑑定ってのは?」

「YES。“サウザンドアイズ”は特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティで、箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。ギフト鑑定というのはその名前の通り、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」

 

ね? と同意を求める黒ウサギに、問題児三人は複雑な表情で返した。そしてただ一人、一方通行だけは顔色を何一つ変えることなく、そっと目蓋を閉じる。

 

(くっだらねェ……)

 

起源がどうだとか、初まりは何だったとか、一方通行にとってそれは心底どうでも良い事だった。初まりが何にせよ、ここまで選んできたのは一方通行自身だ。たとえ一方通行の能力の起源が護る力だったとしても、その力を傷付けるものとして使ったのは変わらない事実だ。

“もしも”などという幻想など存在しない。在るのは今まで選んで積み上げてきた現実のみ。

 

「? どうかなさいましたか?」

「別に。何でもねェよ」

 

怪訝そうに尋ねてくる黒ウサギに一方通行は素っ気なく返し、先に向かおうとしている三人の後を追い掛けるために杖を突きながら歩き出した。

 

「というか、時間帯大丈夫なンだろうな? 行って開いてませンとか笑い話にもならねェぞ」

 

などと、呟きを残しながら。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

そして。

 

「お帰りください御客様。うちは時間外営業はやっていません」

「まさかの待ったをかける前に!? しかも閉店五分前で!」

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

「クレーマーの方ですか? 文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です、出禁」

「二回も言った!? これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!!」

(……どォしてこォなった)

 

現状がこれである。

閉店直前になんとか間に合った御一行だったが、そこで行く手を塞いだのが“サウザンドアイズ”の店員である割烹着姿の女性だった。

えっ、御客様は神様? 何言ってるの、馬鹿なの、死ぬの? と言わんばかりのクール&ドライの眼差しで黒ウサギ達の入店を拒否。それに激怒した黒ウサギ達が文句を言っている、というのが今までの流れだ。

喚く黒ウサギに対し、店員の反応は冷たい。

 

「なるほど、“箱庭の貴族”であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

「…………ぅ」

 

喚いていた口がピタリと閉じ、黒ウサギは冷や汗を流す。現在黒ウサギが属するコミュニティには“名”と“旗印”がなく、“サウザンドアイズ”は“ノーネーム”の入店を拒否している。もしこの事がバレれば、本当に出禁になる恐れがある。

しかし、このまま黙っている訳にもいかない。全員の視線が集中する最中、黒ウサギは心底悔しそうに小声で呟いて、

 

「わ、私達、には……」

 

 

 

「――ああもう良い、オマエは黙ってろ馬鹿ウサギ」

 

 

 

 突如後ろから伸びてきた白い手に口を塞がれ、話すのを強制的に中断させられた。

 

「モゴモガッ!? (馬鹿ウサギッ!?)」

「一つ訊くが、時間帯通りなら誰でも入店を許可されンだな」

「え、ええ。それが営業時間内なら……」

 

 黒ウサギの事を華麗にスルーしながら、一方通行は店員に尋ねる。そんな一方通行の様子が意外だったのか、店員は少々しどろもどろになりながらも返答する。

 そォか、と一方通行は呟いて、

 

「ならとっとと馬鹿ウサギが言っていた居住区画とかに行くぞ。ここには後日来ればいい話だろォが」

 

 黒ウサギの口元から手を離し、身を翻した。

 当然、一方通行に食らいつく二人。

 

「どういうつもりかしら、一方通行君。貴方あんな風に一方的に言われて悔しくないの?」

「プハッ! そ、そうですよってか馬鹿ウサギって何ですか!? もしかして私のことですか!!」

「うるせェ」

「「あぅっ!」」

 

 ピシッ、と容赦ないチョップが黒ウサギと飛鳥の頭部に直撃する。悶絶する二人を見て、一方通行はやれやれとため息を吐いた。

 

「オマエ、俺達の現状を分かってンのか? 俺達は今日喚び出された新参者で、向こうは超大手の商業コミュニティ。いきなり敵を作るような真似をして、オマエは何がしてェンだ。それと、不利だと分かってンなら引け。そンな事すら分かンねェならオマエなンざ馬鹿ウサギで十分だ」

「「ぅぅ…………っ」」

 

 頭を叩かれて冷静になったのか、二人とも頭を抑えながら渋々一方通行に従った。一方通行を先頭に、彼らは“サウザンドアイズ”の店から離れていく。

 

「う〜〜っ、明日にはギフトゲームがありますのに……こんな調子で大丈夫でしょうか?」

「あら、黒ウサギは私達があんな悪党如きに負けるとでも?」

「……黒ウサギは心配しすぎ」

「むしろどうして御二人様はそんなに落ち着いていらっしゃるのですが!? 始めてのギフトゲームなのですからもう少し慌ててもよろしいと思うのですが!」

「おいおい黒ウサギ、少なくともこの二人はオマエが喚んだ者たちだぜ? だったら“平凡”な訳ねえだろ」

(……というか、何で俺がこンな子守りみてェな真似してンだ?)

 

 後ろから訊こえてくる会話に耳を傾けながら、一方通行は内心呟く。自分のような人間がこんな事をするなど、あまりに分不相応ではないか。少なくとも、過去の自分からでは想像できない。

 

「…………」

 

 変わっていっているのだろうか、自分も。

 少なくとも、昔よりは。

 

「……くだらねェ」

 

 そう吐き捨てるように呟く。無駄な思考だ、と一方通行は己に向かって毒吐いた。

だからだろうか。

 

「む、何だお主ら、帰るのか?」

 

 目前に立っていた少女の接近に気付けなかったのは。

 

「あァ?」

 

 目の前に佇む少女に、一方通行は視線を向ける。およそ十歳前後ぐらいだろう。着物を着込んだ白髪の少女で、その瞳はらんらんと黄金に輝いている。その堂々たる姿は様になっていた。

 目前に佇む少女を一目して、一方通行は疑問に思う。

 

(このガキ……いつからここにいた?)

 

 考え事をしていたとは言え、一方通行は深い闇の中で生きてきた人間だ。人の気配には敏感で、ある程度ならば見なくてもだいたいの位置は把握できる。その自分が手を伸ばせば届く位置にまで接近するのに気付けなかった。

 まるで、その存在を認識できなかったように。

 

(いや、考え過ぎか。平和ボケでもしてンだろ、クソッたれ)

 

 自分の考えを否定するように頭を振り、少女を睨む。少女は一方通行の前に立ち塞がっているため、前に進めない。

 

「邪魔だ、ガキ」

 

 故に一方通行は深く考えず、障害物となっている少女を退かそうとその肩を掴み、

 

 ――瞬間。途方もない悪寒が彼の身体を貫いた。

 

「――――ッ!?」

 

 それは恐怖。生物の魂に刻まれた原初の感情が一方通行に襲いかかる。

 次元が違う。

 格が違う。

 住む世界が違う。

 バッ! と一方通行は手を離し、驚愕に染まった瞳で少女を見る。一方、そんな驚愕の瞳で見られた少女はというと、

 

「……ほうっ」

 

 笑っていた。

 少女の外見とは正反対の大人びた笑み。けれどそれに不自然な様子は感じられず、むしろこの笑みこそ少女に似合っていた。

 少女は笑う。己の正体を漠然と感じ取った少年に、思わず笑みを深める。力量の差を感じ取り、その絶対的な差を感じて尚少女を睨みつける少年の勇敢さに、敬意を称するほどだった。

 そして、

 

「? どうかなされましたか……って白夜叉様!? どうして白夜叉様が――」

「いぃぃぃぃやほぉぉぉぉ! 久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」

「って白夜叉様!? そんな全速力で何故こちらに向かってきゃあァァッ!」

「あ、黒ウサギ達が水路に落ちた」

「というか、誰なのかしあの娘……」

「おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか? なら俺も別バージョンで是非頼む。有料でも可」

「ありません、やりません」

 

 一方通行の背後から騒がしい声が聞こえる。しかし一方通行は振り返らず、ただその場で震えていた。

 

「――――」

 

 一方通行は動けない。震えている、震えている、本当に震えている。

 だって。

 何故なら。

 

 

 

 ようやく、元の世界に帰る術を知っているかもしれない人物と出会うことが出来たのだから。

 

 

 

「――く、は」

 

 だから、一方通行は歓喜に震えていた。

口が裂ける。歓喜で哄笑が溢れ出しそうになるのを必死に抑える。皆に勘付かれてはならない。ここで気付かれたら数少ないチャンスを失ってしまう。

 考えろ。どうすれば奴と一対一の状況に持ち込める。

 

(まずは状況作りか……まったく、面倒臭せェな)

 

 心の中でそう呟きながらも、一方通行は笑っていた。ようやく掴んだ手掛かりに。見えてきたルートに。

 一方通行は躊躇しない。善悪を超越した彼は、ただ己の目的のために行動する。

 ……例えそれが、黒ウサギ達を悲しませるものだとしても。

 

 

 

   ☆☆☆

 

 

 

 そうして。

 白夜叉とノーネーム御一行の会談、ギフトゲーム、ギフトカードの贈呈、その全てが終わり、彼らは別れた。

 

「……よろしかったのですか?」

「む、何がだ?」

 

 白夜叉の私室。注がれたお茶を飲む白夜叉に対して、店員は尋ねる。

 

「あの白髪の少年……一方通行という少年にギフトカードを与えなくて」

「仕方あるまい、あやつは私の挑戦を受けなかったのだから。私もギフトゲームを受けぬ者に賞品を与える訳にもいかぬ」

 

 そう、白夜叉との会談の時。一方通行だけは決闘にも挑戦にも応じなかった。会談中は何も話さず、ただ何かを待つように、ジッと白夜叉を赤い瞳で見つめていた。

 店員はそれを聞いて俯き、

 

「まあ、そうですが……」

「ふむ、お主がそんなに他人に気をかけるとは珍しいの……もしや、惚れたか?」

「なっ!? 何故そうなるのですか! 私はただ単純に気になっただけです‼」

「ふふ、冗談だ。本気にするではない」

 

 怒りか恥ずかしさか、赤くなった顔で反論する店員に対し、白夜叉はケラケラと笑う。

 そして、ポツリと呟いた。

 

「それに、私の予想が正しければもうすぐだろう」

「え?」

 

 それは一体どういう意味なのか、白夜叉に尋ねようとして、

 

 

 

 ジャリッ、と。

 白夜叉の庭から、誰かの足音が鳴った。

 

 

 

「ッ!?」

 

 突然の音に驚愕する店員。しかしすぐに意識を切り替え、白夜叉を守るために武器を取り出そうとギフトカードを掴み、

 

「よい、下がれ」

 

 しかし、それは白夜叉によって中断された。

 

「ですが白夜叉様!」

「なに、心配するでない。おそらく私の客だ」

 

 客? と疑問を浮かべている間に侵入者の足音はどんどん近づいて、部屋の障子が開かれる。

 その侵入者の姿を見て、白夜叉はやはりといった様子でニヤリと笑う。

 そして、一言。

 

「遅かったではないか、小僧」

 

 

 

「――話がある、白夜叉」

 

 

 

 白熱し白濁し発狂した声。

 学園都市最強の超能力者、一方通行がそこにいた。




次回予告。



崩壊する秩序。現れた新たな魔王。

「がァァああああああッ!!」

「十六夜さん!」

激戦するノーネーム御一行。対する敵は、無限に進化し続ける怪物。

「くっ! この数、キリがないわ!」

「駄目、このカブトムシとは意思疎通が出来ない……!」

『口高オーダーを確認。「作戦行動に支障をきたす要因を残らず撃破しろ」……認識、排除』
『排除』
『排除』
『排除』

崩壊していく街で、それは嗤う。『ヒト』の枠を超えてしまった科学の怪物は、笑い続ける。

「気が付いたら異世界ってのは驚いたが、箱庭だったか? ここは良い、最高だ。まだ俺の知らないものがたくさんある。理解できる。もっともっともっともっともっと、俺は強くなれる」

食らう。
神を魔王を森羅万象三千大千世界の悉く全てを喰らい尽くす。無限に進化し続ける怪物は、もはや箱庭の脅威と化していた。



「なぁ。ーーーー俺の『未元物質』は、この世界でどこまで通用するんだ?」



『科学の魔王』ーーーー垣根帝督との永き闘いが今、始まる。



嘘です☆
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