一方通行が異世界からくるそうですよ?   作:宇佐木時麻

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会談

 コミュニティ”サウザンドアイズ”のとある屋敷。その一室である和室で一方通行(アクセラレータ)と白夜叉は対峙していた。

 

「ほれ、茶でもいるか? まあ、少しゆっくりしていけ」

「いらねェ」

「おんし、世間話とかする気まったくないのう」

「…………」

 

 白夜叉は呵々と笑うが、一方通行は黙ったままだ。その様子に女性店員は警戒を怠らずギフトカードを片手に警戒する。

 何せ、相手はサウザンドアイズの警戒網を易々と抜けてここまで来たのだ。これがコミュニティ内の誰かの案内でここまで来ていれば話は別なのだが、彼がここに来たという知らせは目の前にいるのにまだ来ていない。つまり、まだ誰も気づいていないのだ。幾らサウザンドアイズが戦闘特化のコミュニティではないにしろ、深夜の警戒は当然行っている。それでもなお気づけないほどの隠密性を持っているのだから、警戒しないはずがない。

 当然、一方通行もその警戒する視線に気づいていた。だが、そんなもの眼中にないと言わんばかりに白夜叉を見据え、話を進める。

 

「単刀直入に訊きたい。元の世界に戻る方法。オマエは知ってンだろ?」

「ほう。しかし何故だ? ここに来ているからにはあの手紙を受け取ったのだろう? 覚悟はできておったはずだが」

「……手紙?」

 

 一瞬なんのことだが分からなかったが、最初十六夜たちと出会った時にそのような会話をしていたことを思い出した。

 

「俺はそんな手紙貰った覚えはねェ」

「ふむ……もしや、寝ながら開きでもしたのか? 意識がないから強制的にこちらに飛ばされたか」

「…………」

 

 白夜叉は冗談のつもりで笑っていたが、生憎一方通行にとっては笑えない冗談だ。最後に覚えているのは黄金の光に突っ込んでいったこと。つまりあの後一方通行には意識がない状態だった。その状態で手紙が出現し、風などで開かれて強制的に――――なんて、笑えない冗談にもほどがある。

 

「それで、何故戻りたいと思うのだ?」

「……それをどォしてオマエに言わなきゃならねェ」

「流石に理由もなしに戻すワケにもいかん。それとも何だ? 人に言えぬやましいことなのか?」

「……チッ」

 

 一方通行は舌打ちをすると、心底嫌そうに告げた。

 

「……戻らなければならねェ場所がある。帰らなければならねェ場所がある。ただそれだけだ」

 

 約束した。誰かにしたのではない、自分自身に誓った約束。ヒーローに任せるのではなく、自分の手で守りたいと願った。それが自分には不釣り合いなことだとしても、その幻想を護るためならばどんなことだってすると決めたのだ。

 すべては帰るために。あの騒がしくとも幸福だったあの日々に戻るため。

 一方通行は止まらない。ただ前に進み続ける。

 

「……ほう」

 

 語る一方通行を見て、白夜叉は愉快そうに笑った。彼の浮かべる表情が先程とは違い、余りにも穏やかな表情を浮かべていたからだ。これには店員も驚愕を顕にしていた。

 おそらく、それほど大切な場所だったのだろう。自分のすべてを掛けて守りたいと思えるほど。

 

「それで、どうやったら元の世界に戻れるンだ?」

 

 しかし、一瞬で一方通行は普段通りの仏頂面に戻り、白夜叉を睨み付ける。それに対し、白夜叉はふむ、と頷き、

 

「……教えない、と言ったらどうする?」

「白夜叉様!?」

 

 挑発するような笑みを浮かべながら告げる白夜叉に対し、店員は驚愕する。そんなことを言えば、

 

「――――そのときは力ずくにでも聞き出すまでだ」

 

 瞬間、極限の殺意が彼女たちに放たれた。

 

「――――!」

 

 その殺意に、店員は死の恐怖をした。ただの人間が放てるものとは思えないほどの殺意。どれほどの地獄を見ればその齢でこれほどの殺意を放てるようになるのか。

 一方通行は首のチョーカーに触れながら、静かに殺気を放つ。チョーカー型電極バッテリーの電力は能力使用可能状態に切り替えればあと一分もないだろう。もう少し時間が経過すれば彼は何の思考も出来ない木偶の棒に早変わりだろう。

 それでもなお、一方通行は一歩も引かない。たとえ次の瞬間思考が出来なくなるとしても、彼は逃げない。

 

「…………」

 

 白夜叉はそのような一方通行を見つめ、静かに頷くと、

 

 

 

「――――頭に乗るなよ、小僧」

 

 

 

 刹那――――星の殺意が一方通行を襲った。

 

「――――!」

 

 息が出来ない。身体は動かない。冷や汗が止まらない。

 ――――殺される。

 百万通りの死を連想した。これは人間が耐えれるものではない。彼が放った殺気など、これに比べれば滓当然だ。圧倒的な殺意に、今すぐ舌を噛んで自殺したくなる。

 ある意味、死は救いだ。この恐怖から逃れられるのならば何だってしよう。謝って許されるならば土下座でも何でもしよう。

 生き物ならば誰もが持つ本能的恐怖。それを、

 

 

 

「――――それがどうした」

 

 

 

 一方通行は捻じ伏せた。

 己の本能に理性が凌駕する。恐怖を狂気で塗りつぶし、一方通行はまともな人間ならば自殺を選択するほどの殺気を前に、真正面から対峙する。

 

「……ほう。顔色一つ変えんとは、見事」

 

 ふと、白夜叉が放っていた殺気が霧散した。直後、息を吐き出したのは店員のほうだった。

 

「白夜叉様! 一体なにを……!」

「すまんの。どうしても試しておきたかったのだ。もしこやつが何の覚悟も出来ておらぬ若造ならば、少々仕置きが必要だろう? だが……」

 

 白夜叉の視線が目前の彼に移る。一方通行はその視線に睨み返す。

 

「覚悟は、あるようだの」

「……それで、教えてくれるンだろうな。戻り方を」

「ふむ、よかろう。教えてやろう」

 

 と、そこで白夜叉の表情が変わる。

 具体的にいえば、悪巧みをするような。

 

「しかし、戻るためにも多くの制約があっての。それらがなければおんしを元の世界に返すことは出来ぬ」

「……何?」

「黒ウサギ達もおんしらを呼ぶために様々なギフトを消費した。さて、おんしはどうする? 一から一人で集めるとすればおそらく五年は掛かるぞ」

「…………」

 

 一方通行は無言のまま思考する。

 五年。

 それは余りにも長すぎる時間だ。それだけ時間が経てばおそらく一方通行は死亡したと世間で判断されるし、何よりそれまで彼女を待たせることになる。それに絶対バッテリーが持つはずがない。

 だからこそ、一方通行は苦渋の選択をする。

 

「それで、オマエは俺になにを求めていやがる」

 

 私なにか企んでいます、といわんばかりの表情を浮かべる白夜叉に尋ねる。白夜叉はそれに対し待ってましたといった様子で笑い、

 

「おんし、私と取引をせんか?」

「……それはつまり、オマエのコミュニティに入れってコトか?」

「そうではない。そんなことをすれば黒ウサギから嫌われるからの。私が言いたいのは、私がおんしに依頼し、それをおんしが成功させればそれなりのモノを渡そう。ギブ&テイクというワケだ。悪い話ではあるまい」

「…………」

 

 確かに悪い話ではない。一人では情報探しから時間を取るし、それを見つけるのに更に時間が掛かる。それに比べれば破格の条件だろう。

 

「……結局、俺は誰かに繋がれる運命ってワケか」

「む、なんか言ったかの」

「別に。いいぜ、その話乗った」

 

 一方通行は承諾した。目的のためならば、己の安いプライドなど簡単に捨ててやろう。

 

「交渉成立だの。ならばほれ、受け取るがよい」

 

 白夜叉はパンパンと柏手を打ち、直後、一方通行の前に光り輝くグレーのカードが顕れた。ギフトネーム”一方通行(アクセラレータ)”と記されたそれは彼の手のひらにすっぽり収まった。

 

「それと、これは報酬の前払いだ。受け取るといい」

 

 もう一度白夜叉は両手を叩き、今度は光を放つ丸い球体が顕れた。その球体はゆっくり浮遊すると、一方通行のチョーカーの中に入り込んでいった。

 

「今のはなンだ?」

「それは”機械仕掛けの妖精(フェアリー・エクス・マキナ)”というギフトでの。物体に憑りついてその物体の最高状態を維持するというモノだ。見たところ、そのチョーカーはおんしの行動をサポートしておるが、そのエネルギーがほとんど尽きかけておる。だが、そのギフトがあればエネルギーが溜まっていくというワケだ」

「……なンだと?」

 

 試しにチョーカー型バッテリーの電力を測ってみると、確かに少しずつだが電力が充電されている。つまり、今のところ最大の問題であった電力切れの思考停止という問題は解消されたということだ。

 

「……礼は言わねェぞ」

「構わぬ。その分仕事をして貰うがな。それよりも、どうやらそのギフトを使ってもどうやら最もエネルギーの消費が激しい状態になるとどうしてもエネルギーを消費してしまうことになるらしい。持って三〇分といったところか」

「構わねェ。むしろ僥倖ってところだ」

 

 能力使用可能時間は今までと変わらない。それに更に通常状態に切り替えておけば自動充電機能付きだ。むしろ良くなっている。

 これで話は終わりだ、という様に一方通行は立ち上がり、襖を開けて来た場所から立ち去ろうとする。

 その直前、襖を開けたまま、一方通行は振り返らず白夜叉に尋ねた。

 

「一つ聞きたい。どォして俺と取引しようなンて考えた? もし俺がオマエのトコの店員を人質に取って脅すような真似をしたのかもしれねェのに」

「なんだ、そんなことか」

 

 白夜叉は何の躊躇いもなく、思ったことを口にする。

 

「おんし、黒ウサギたちの前では聞かなかっただろう? 聞けば黒ウサギが悲しむと気づいておったから。その思いやる気持ちがあるなら、大丈夫だと思ったのだ」

「……そンな理由じゃねェよ」

「ふむ、ならば今度はこちらから一つ聞きたい。どうしてあの時聞かなかった?」

 

 その問いに一方通行は僅かに振り返り、横顔を見せ、

 

「……別に。ただ喚かれるのが面倒臭かっただけだ」

 

 そう告げると同時に、旋風が白夜叉達に襲い掛かった。風がやみ、もう一度そこに視線を向けるが、そこにあったのは小さな足跡だけだった。

 

「……ふむ」

 

 白夜叉はそれを眺めた後、一息吐き、

 

「これが噂のツンデレというヤツか」

「白夜叉様。最後でシリアスが崩壊してます」

 

 

 

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