海から天に向かって大きく飛び上がる。高く、高く。夜空に浮かぶ星を目指す勢いで。
しかし、身体が水から完全に出てくる前に上へと進む推進力は失われ、また海へと戻っていく。だが、諦めない。何度海面に全身が叩きつけられても深く潜って勢いを付けて海面から飛び出す。
私には足が無い。魚のような尾びれはあるけど魚ではない。人という生き物に似た上半身があっても人ではない。そんな中途半端な存在。
えらが無く肺で呼吸するから海には長い間いられないし、火傷してしまうから乾燥した陸にも行けない。だからいつも一人ぼっち。
そんな私にも夢があった。それは私と同じように肺で呼吸するのにもかかわらずずっと長い間海の中にいられる大きな仲間。鯨だ。
彼らは今の私と同じように海面から飛び上がり天を目指している。いつか天までたどり着けば星になれるのだという。夜鷹という鳥がこの間も星になれたらしい。
星というのは私達の中では一種のステータスである。特に夜鷹のように私と同じような一人で生きるしかない存在は星になる以外にその存在を残すことは出来ないのだ。
いつの日にか起きる洪水の時まで、私たち異端は生きられないから。
「…………今夜も駄目だった」
東の空が白んできた。今日も水面から飛び上がるのが精いっぱいで私の目指すあの崖の上までは飛び上がれない。
空はあまりにも遠く、私なんかじゃ到底届かない存在に見えた。
数十年の時を経て、私はいろんな知識を身に付けた。日課の水面ジャンプはついに崖の上まで届くようになった。そして崖の上で見つけたものがある。それはリンゴという禁断の果実だ。
私にしてみればただの赤い実でしかないけれどあれを食べれば何かの力が身に付くかもしれない。水面ジャンプで速攻取ってこよう。
水中から全身を使って泳ぎ、崖の上に身体が落ちる。
「キャア!」
陸という海よりも固く水分が奪われる場所に体が叩きつけられる。
「ううっ……痛いよう」
どうやら体から血が出てしまっているらしい。こんなに傷を作ったのは初めてだ。
それでも星になるための知恵を手に入れるためにずりずりと這いずりながら木に向かう。
どんどん奪われる水分。身体が水を求めている。燃えるように熱い。
「諦めちゃダメ!リンゴは確か水が多いはずだから!」
痺れる体に鞭を打ってリンゴの木の下にたどり着いた。しかしそこには
「なんで?なんでこんなところにスポンジのかけらが落ちているのよ!?」
こんな所に落としているなんて!誰かの悪意を感じるわ!
大急ぎで意図的なかけらがばらまかれている場所を抜ける。木にしがみついて登り必死でリンゴをもぎ取る。
「やった!」
すぐに乾いた体に癒しを与えるためにがむしゃらにリンゴにかぶりつく。その直後、天から声が聞こえてきた。
「愚かな魚人よ、そなたは手を付けてはいけないものに手を出した。罰として全身の力を奪い一生死なぬ体にしてくれる」
「そんな!?」
天の声が聞こえなくなったと同時に私の体に力が入らなくなる。そして私はなすすべもなく意図的にちりばめられたスポンジのかけらに落下した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
全身が乾燥し皮がひび割れて血が流れる。その血が乾いた全身に染みて燃え上がるような熱さと肌を貫く痛みに襲われる。
いっそ死んでしまえた方が楽なくらいの拷問だ。死ねないために体は再生し続け血が流れそれを端からスポンジが吸い上げていく。終わることのないループに私の心が砕ける時だった。
「なっ大丈夫かい?君」
誰かの……人間の声がした。目もとうに枯れて見えなくなった私にはそれがどういう人なのかを知ることは出来ない。
しかし、今ここで彼が来たのは救いだった。彼に私は願いを言った。
「海まで運んで……」
私の必死さが伝わったのだろう。彼が私を持ち上げた。
「ギィィィィィ!!」
ここでまたしても痛みが走るが必死に歯を食いしばる。あと少しで救われる。
「じゃあ、さようなら」
人間が私に別れの言葉を告げる。そして宙に投げ出される感覚が続いた。
そして長い永遠にも近いような引っ張られる感覚が続いた後に、私は―――。
時間が足りずここで終了。しかし後は読者様が考えるシーンだけでした。
彼女は海に落ちて呼吸が出来ずに苦しむのか、星まで昇っていって息苦しさに喘ぐのか、と。