IS インフィニットストラトス 〜Awakening The Devastator〜   作:クローサー

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序章
プロローグ


人が次第に朽ちゆくように、国も、世界もいつかは滅びゆく。

 

緑の大地と美しい蒼の空によって覆われた地球は、最早その影さえも無く。

 

8割の自然と生態系が消失して砂の大地が世界を覆い。重度の環境汚染によって地上から蒼の空を見上げる事は、もう出来ない。

 

地球上に存在する全ての国家は崩壊。世界各地で生存競争が起こり、己の明日の為に、他人の明日を奪い合う生き地獄。そんな生き地獄を生き残り、新たな支配体制を築き上げたのは、後に〝三大勢力〟と呼ばれるようになる3つの巨大組織。

 

その組織の名は、〝エルジア〟、〝ウィルキア〟、〝ニルバーナ〟。生き残った人類の殆どが彼らの勢力圏内(庇護化)に入り込み、彼らの新たな支配体制〝パックス・ロマーナ(強国による押しつけの平和)〟に従い、残された土地に押し込まれる事で平和を手に入れた。

 

しかし戦争(闘争)は終わらない。世界を支配した三大勢力は三つ巴の世界大戦を勃発。AC(アーマードコア)を中心とした、誰にでも操れる量産兵器が、瀕死の世界を、人類を蹂躙する。だが、決着は付かない。三大勢力のパワーバランスは均衡し、戦線は膠着した。

 

支配された人々は、誰もがそんな戦争から逃げ出したいと思っていた。しかし彼らの元を離れて生きる術は無し。一歩外に出れば、そこに人間の尊厳など存在しない。2日でと経たずに屍と化し、忘れ去られるだろう。

 

人々は逃げる事を諦め、三大勢力の駒として生き続ける事を選び始めた。だが、それは仕方ない事でもあるだろう。それ以外に生きる選択肢はほぼほぼ皆無に等しく、あったとしても、それは地獄のような日々を送る事になるのだから。

 

しかし、それを覚悟で三大勢力に反発し、〝自由〟を求めた人々もいる。

 

〝自由〟を求めた彼らの大半は、三大勢力の戦争に介入する事で〝報酬(金と食料)〟を得て、荒れ果てた大地に生きる〝傭兵〟となり、賭ける。

 

二つに一つの大ギャンブル。掛け金は己の命、仲間の命、己の全て、仲間の全て。回数は命の灯火が灯る限り無限大。勝ち残り続ければ〝自由〟を手に入れ、一度でも負ければゲームオーバー()

 

そんな博打なギャンブルを勝ち続け、世界最強の傭兵組織に登りつめた者達がいた。

 

この物語は、彼女達を焦点に語るとしよう────

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

旧カザフスタン領。

砂の大地が広がり、鉛色の空が広がる其処は今、地獄と化していた。

 

『チッ、カバーを頼む!!』

『こちら防衛隊04!!損害が30%を突破!!援護を要請ッ、2時方向に敵増援!!』

『防衛隊23、現地に到着!!攻撃を開始する!!』

『包囲された!?何とか突破を…ッ、回避し──』

『マズイ、防衛隊07が壊滅した!!食い破られるぞ!!』

 

各所から戦火が上がり、戦塵が広がってゆく中を突き進む、幾多の二足歩行の機械、〝AC(アーマードコア)〟。其れ等は不恰好で堅牢であり、無骨。美しさなど微塵も存在せず、ただ人間を殺す為だけの兵器。

違う点は片方が赤、もう片方が青に装甲が染められている事か。装甲の色の差異によって敵味方を判別しているようだ。

 

優勢を運ぶのは青に染められたAC群、ウィルキア。一方、防戦を強いられているのは、赤に染められたAC群、エルジア。戦力差もウィルキアに完全に傾いている。

 

HQ(司令部)、第2地点が破られた!!このままだと押し潰される、一時後退の許可を!!』

『──こちら司令部、全部隊に通達!!後退は許可出来ません!!何としてもウィルキアの侵攻を食い止めて下さい!!150秒後に増援が到着予定!!』

『了解──だぁクソ、弾切れだ!!ナナ、マガジン余ってるか!?──わあった、援護しろ!!奴等に強烈な一撃をかましてやらぁ!!』

『ったくもう!!!!HQ、コッチは150秒保つかどうかさえギリギリよ!?もっと急がせられない!?』

『増援の奴等も全力で来てるに決まってるだろうが馬鹿野郎!!愚痴る暇あんなら弾切れしない程度に撃ちまくれ!!エルジアの根性を奴等に見せつけろ!!』

 

しかし、エルジアの強みは〝電光石火の如き速さの攻撃速度(アタックスピード)〟。一度勢いに乗る事が出来れば、その勢いは鉄砲水のように敵を飲み込んで行く。

そしてそれが一番発揮されやすい状況(逆境)が、今だ。

 

『ッ、マズイ!!全部隊、エルジアに勢いが付いてきたぞ!!』

『なら押し返すまでだ!!第307B、第532A分隊、撃ぇ!!』

 

だが、それをウィルキアが黙って見ている筈も無い。甲高い砲音が聞こえたと感じた瞬間、ウィルキアの後方から10数発の大口径の〝APFSDS弾(装弾筒付翼安定徹甲弾)〟が飛来。数発は外れるが、残りはACの堅牢な装甲を貫通し、パイロットを死に至らせた。

 

『クソッタレ、スナイパーが居るぞ!!絶対に足を止めるな!!』

 

その時。

 

 

 

 

『エルジア全部隊に連絡。こちら〝ORCA〟、20秒後にウィルキア後方より参戦する。攻撃に巻き込まれない様に留意せよ』

 

 

 

 

□□□□□

 

 

エルジアとウィルキアの衝突地点より、10km先の上空。そこに、彼女達はいた。彼女達はアーマードコアを纏い、超低空を音速で飛行していた。

 

「さて、依頼内容の再確認をするわよ。今回の依頼主(クライアントオーナー)はエルジア。内容は旧カザフスタン領で発生している戦闘に介入し、ウィルキアを撃退、追撃して殲滅せよ。まぁ、よくある内容ね」

 

1機は白く、美しい翼を広げた天使。

 

「全く、エルジアは人使いが粗いな…これだから武力抵抗してくるのも出てくるんだ」

 

1機は紅く、赤い粒子の尾を引く戦士。

 

「……作戦は……?」

 

1機は淡く、しかしアンバランスな色調をした、必殺の剣を持つ戦士。

 

「ウィルキアの背後を突き、散開して叩き潰す」

 

彼女達は、傭兵組織のメンバー。総数、僅か〝3人〟。されど、その戦闘能力は1人1人が一個中隊(AC250機)と同等であり、総合で一個大隊(AC1000機)と同等と評される最強の傭兵組織。

 

「そろそろね…『エルジア全部隊に連絡。こちら〝ORCA〟、20秒後にウィルキア後方より参戦する。攻撃に巻き込まれない様に留意せよ』行くわよ、箒、真改」

「ああ!!」

「……応……」

 

その名は〝ORCA〟。かつての第三次世界大戦の知られざる調停者。

かつて存在した誇り高き思想は今、無意味と化した。しかしそれでも尚、平和の為に戦い続ける。それが例え偽りの平和であっても。例えそれが、ほんの淡い光であったとしても。

彼女達は、戦い続ける。その先に、救いが無いとしても。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

────この世界は変わった。あの出来事をきっかけに。

 

 

────この世界は変わった。世界各地で戦争が起こり、平和というものは消え去ってしまった。

 

 

────この世界は変わった。国家は滅び、生存競争を末に三大勢力が世界を支配した。

 

 

────この世界は変わった。今も尚戦争は続き、人類はその数を徐々に減らしている。

 

 

────この世界は変わった。ISは時代遅れとなり、その姿を消した。

 

 

────この世界は変わった。決して止まる事の無い、負のスパイラルは軋みさえしてくれない。

 

 

「ふ───ッ!!!!」

 

背後からウィルキアを突いて散開、セレンの先制攻撃に混乱。その隙を突いて(篠ノ之箒)は真っ直ぐ突撃。そして、振り返ろうとした1機の敵機を叩き斬る。

三大勢力が使用しているアーマードコアは歩兵が扱う攻撃ではその装甲に傷一つ付かず、同じタイプのアーマードコアでも大型火器でない限りは一撃死はあまり無い。だが、私の愛機であるインフィニット・アーマード・コア(IAC)、〝カメーリア〟の前では紙同然。

カメーリアは、死神事変で中破した紅椿を、私自身で改造したフルスクラッチ機。アーマードコアの特色を取り入れたカメーリアはより速く、より強く、より柔軟になった。

 

「────ッ!!」

 

叩き斬った空裂の紅い刃が、上半身と下半身が泣き別れになった相手の身体から離れるのを見る暇も無く、次の標的に雨月から朱い光波を飛ばし、数メートル離れていた敵機を仕留め、背部の展開装甲を自立稼働。私達に気付いたウィルキアはすぐに攻撃したが、私に届く事は無い。自立稼働した背部展開装甲から2枚のシールドが展開し、前方からの銃弾を受け止めた。範囲外の銃弾は、プライマル・アーマーとシールドエネルギー、そして全身装甲で充分。

此処で防御から攻撃に転じる。一気にブーストを最大に吹かし、踊る、踊る、踊る。

私が起こした乱舞によって、次々とアーマードコアが破壊され、人間がいとも容易く命を落としていく。逃げる、降伏、命乞い、そんなのは一切関係無い。

セレンから通達された作戦は〝散開し、叩き潰す〟。そこに情け容赦は無用。そんな物をかければ、情けをかけた者の代わりに私が死ぬ。ならば私が生きる為に他人を殺そう。100人が生きる為なら、99人を殺そう。人類が1秒でも長く生き続ける為に。1人でも多く、1秒でも多くの平和をもたらす為に。

 

生きる為に人を殺す、守る為に人を殺す。こんな矛盾があるのだろうか。否、あってはいけない。しかし、最早それを修正する事は誰も出来ない。修正する方法が無いのだから。

だからこそ、人類は殺し続ける。己の為に人を殺し、殺しているから己も殺される、どうしようもなく荒廃したこの世界で。

 

 

────嗚呼、懐かしい。

 

 

6年前まであった、あの平和な日々が酷く懐かしい。あの神社で過ごした日々が、酷く懐かしい。ただ純粋に篠ノ之流を極めていた自分が、酷く懐かしい。小さい頃一夏と姉さんと過ごした、あの日々が酷く懐かしい。

IS学園での日々が懐かしい。セシリア・オルコットの瀟洒な姿が懐かしい。鳳 鈴音の勝気な姿が懐かしい。ラウラ・ボーデヴィッヒの冷酷な姿が懐かしい。シャルロット・デュノアの可愛らしい姿が懐かしい。布仏本音のマイペースな姿が懐かしい。山田真耶のドジな姿が懐かしい。織斑千冬の厳格な姿が懐かしい。織斑真也の懸命な姿が懐かしい。

懐かしい、懐かしい、懐かしい。ありとあらゆる思い出が懐かしい。だが、2度と皆で会う事など出来ない。それどころか、敵として出逢う可能性さえあるのだ。

それに────

 

 

「箒」

 

 

ふと、私の耳に仲間の声が聞こえた。振り返れば、アーマードコアを待機状態にし、私を心配してるような表情で見る仲間(セレン)の姿。

…どうやら、私の悪い癖が出てたようだ。極稀にではあるが一度スイッチが入ってしまうと、頭では戦闘とは関係無い事を考えているのに、身体は戦闘を続ける。直そうとは思っているのだが、どうすれば良いのか…

 

「…すまない、もう大丈夫だ。少しだけ、良いか?」

「ええ」

 

状況的に、無事に依頼は終わったのだろう。私はカメーリアを解除し、懐から煙草(タバコ)とライターを取り出して煙草を咥え、先端に火をつける。

…うむ。美味い。

 

「フー…」

 

今の御時世、嗜好品でさえも貴重品だ。だが合成して作られた煙草は、正直吸えた物ではない。単純に不味い。吸うなら天然品1択だ。

しかし、天然品は凄まじく高い。12本入りの箱1個で17ドル6セント。これを3年前まで存在した日本円に換算すれば〝17万6千円〟。1ドルで1万円の計算だ。私が吸っているこの1本でさえ、約1万5千円の価値がある。

生産数も極めて少ないから、1本1本を大切に味わう必要がある。その代わりと言っては何だが、より旨味が増しているような気がしないでもない。

 

「…吸うか?」

「遠慮しとくわ」

 

…まぁ当然か。酒ならともかく、セレンが煙草を吸うのは中々想像出来ない。

彼女は、近くにあった廃墟の天井に腰掛けている。真改は先に帰還しているのだろう。

こうして私の我儘を言えるのも、今ではセレンと真改、それともう1人しかいない。傭兵である事もあるが、私達の首には三大勢力から懸賞金が懸けられている。

傭兵が懸けられる平均的な金額は6千ドル。それに対し、私が6万7千ドル、真改が7万5千ドル、リーダーのセレンが7万8千ドル。総額22万ドル。これが、ORCAに懸けられた懸賞金。

他の傭兵組織や暗殺者に常時狙われる身である以上、信頼出来るのは極一部。中でも完全な信頼を置いているのが3人だけだ。

 

「…」

 

…妙な事を考え過ぎたな。折角の天然煙草が不味くなる、これ以上は止めておこう。

天然煙草の味に、静かになった戦場に漂う大量の血の匂い。この2つが混ざった味が、私の1番の嗜好品だ。

狂っているのは自覚している。私以外に、こんな味を理解出来るのは中々いないだろうからな。だが、狂っていなければやってられないものだ。

 

む…そろそろフィルターに着くな。煙草は1本の喫煙が出来る時間が短いのが欠点だ。しかし時間がある葉巻は私には合わん。

すっかり短くなった煙草を火がついたまま放り捨てる。消さなくても周囲は砂地、死体に辿り着く前に燃え消える。

 

「行こう」

「ええ」

 

私とセレンは同時に愛機を展開し、上空へと旅立つ。

 

さて、エルジアから報酬を貰うとしよう。

…そういえば、報酬の中にエルジア製天然煙草2箱24本があったな。何気にエルジアの天然煙草を手に入れるのは初めてだ。1本200ドルの価値、早速味わせて貰うとするか。

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