IS インフィニットストラトス 〜Awakening The Devastator〜 作:クローサー
「ふふふ…なんだかんだで今まで吸えてなかったが、漸く吸えるぞ」
その煙草は、以前エルジアの報酬として受け取ったエルジア製の天然煙草。彼女としては早く吸ってみたかったのだが、中々そうする機会が無かったのだ。しかし、今日遂にその1本目を吸う時が来た。それが喜ばしいのか、箒の表情は満面の笑みだ。
「さて…」
煙草を口に咥え、ライターで先端に火を付ける。
「──ッ!!」
煙草の煙を吸い、肺に送り込む。その瞬間、箒の目が見開かれた。
「フー…ッ、フフフフフ」
箒は今辿り着いた事実に、煙草を口から離して肺から煙を追い出した後、堪らず笑い出す。
そして。
「…不味過ぎるにも程があるだろうが」
エルジア製天然煙草の不味さと怒りに、右手にあった煙草がへし折れ、地面に落ちた。
単に箒の好みに合わなかったのか、それとも元から不味いのか、はたまたその両方か。真相は今も分からない。
第一話
ウィルキア勢力圏内、A-0921要塞都市。
ウィルキアの駐留軍が多数配備されたそこは、閉塞されながらも都市部には人々の活気があった。
人々が行き交う道路の中に、篠ノ之箒はいた。
「…」
セレンと真改は別の場所におり、彼女は今1人だ。その口には、先端に火が付けられたウィルキア製の合成煙草が咥えている。
何故箒がここにいるかと言うと、喫煙者にとっては必須アイテムである煙草の購入の為だ。箒はウィルキアで作られているウィルキア製の煙草を好んでおり、嫌いな合成煙草もウィルキア製だけは好んで吸っている。
というのも、天然煙草は一度に購入出来る数が少ないのに加え、極めて高額な為に買い辛い。その為、富があるヘビースモーカーでも合成煙草と天然煙草を吸う割合は8:2くらいだ。しかし、合成煙草の多くは不評を買っている。理由は〝不味い〟、この一言に尽きる。しかし、ウィルキアが生産する合成煙草は、普通の合成煙草よりも高額な分、質が高い。その為、ウィルキア勢力圏内の喫煙者や傭兵等には好評なのだ。もちろん箒もその1人であり、手持ちの合成煙草は全てウィルキア製である。ただ、一回一回の購入する数が半端ではないが。
間も無く、箒が常連にしている煙草専門店が見えた。口に咥えていた煙草の灰を落とし、そのまま入店。
店内の壁にはガラスケースに入れられて整理された大量の煙草があり、それぞれの値段の札が置かれている。
「おう、お前か」
「久しぶりだ、主人」
カウンターで煙草の選別を行っていた30代後半の男が箒に気付いて声を掛け、箒もそれに応える。
「いつもの奴か?」
「それと、これを買い取って欲しい」
そう言って、箒は懐から小さな箱を取り出し、カウンターに置く。
「こいつは?」
「エルジア製の天然煙草、未開封のままだ」
「エルジア?そんなもんよく手に入れたな。しかもこいつぁ、俺の聞いた話じゃ2400ドル以上の代物だぞ」
「依頼の成功報酬に紛れ込んでいてな。1本吸ってみたが、私の好みではなかった。それで、相場は?」
「エルジアの天然ってなると〜…そうだな、6000ドルはどうだ?」
「…そんなにするのか?」
「エルジア製の天然煙草は皆無って言っても良いくらい入ってこねぇからな。希少性も考慮したらこんなもんだろ。それで、買う煙草の種類と数は?その分を引いた金を渡す」
「いつものを100箱だ」
「そんじゃ700ドルだから…5300ドルと煙草を用意してくるから待ってな」
カウンターの奥に主人が引っ込み、札束と煙草を用意している間、箒は口に咥えている合成煙草の煙を肺に送り込み、じっくりと味わってゆっくりと吐き出す。
数分後、主人が3つの札束と大量の煙草ケースが入った籠を持って来た。
「5300ドルと、いつものだ」
「すまないな」
カウンターに置かれたそれらを、箒は両手で触り、カメーリアの拡張領域に仕舞い込む。そして、煙草が入れられていた籠を再び取り出してた。
それを尻目に、主人は箒から買い取ったエルジア製天然煙草のケースを大事そうに持っている。
「フッフッフッ…あいつならこれを必ず高く買い取ってくれる。楽しみだぜ」
「それでは、また来る」
「おう、今後ともよろしく」
目的を果たした箒は店から出て、少し歩いた場所で短い煙草を捨てて踏み消し、新たな煙草を吸い始める。
そして、路地を曲がった所で箒は足を止めた。
箒の視線の先にいるのは、ウィルキア戦闘服を纏った、ツインテールの小柄な女性。
「…よく此処に私がいると分かったな」
「色んな意味で有名だからね、あんた。裏じゃ偶に情報が転がり込んでくるわよ」
「それもそうだろう、私の首には莫大な懸賞金が掛かってる。これを誰も狙わない筈が無い」
「6万7千ドル…1人に掛けられるレベルじゃないわよ、〝箒〟」
「分かってるさ、〝鈴〟」
それは短い会話。しかし、2人の時間になるには十二分過ぎた。
彼女の名は、〝鳳 鈴音〟。ウィルキア第7地方第204A精鋭部隊隊長、懸賞金7万4千ドルの首を持つ、ウィルキアが育て上げし鉄砲玉。
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「まさかお前が、今ではウィルキア精鋭部隊の隊長になってるとはな」
「こっちは死なない程度に死ぬ気で戦ってただけなんだけどねぇ…部隊指揮とかやってられるかっての」
6年ぶりの再会となった箒と鈴。2人は今、鈴が乗ってきたMT改造型軍用車〝ハンヴィーM1151〟に乗ってA-0921要塞都市から出て、北北西へ向かっていた。水平線の先まで広がる砂の大地は方向感覚を狂わせる為、設置されている方位磁石が頼り。
砂の大地は静かに、しかし確実に車体を揺らしてゆく。
余談ではあるが、箒は屋根の出入り口を開け、当然かのように先程購入した新しい合成煙草を吸っている。
「それで、何で私に接触を?」
「別に理由は無いわよ?ちょっとした休暇を貰った時に偶々あんたの情報が転がり込んで来たから、会いに来ただけ」
「…フットワークの軽さは健在か」
「それが私の取り柄の一つだからね…ねぇ、あいつらはどうなってんの?」
「…真也、千冬さん、楯無さんは行方知らず。セシリアは第三次世界大戦で死んだ。ボーデヴィッヒとシャルロットなら分かる。ボーデヴィッヒは……私が殺した」
その言葉に、思わず鈴は視線を一瞬箒に向ける。
「……………そう。あいつの最期は、どうだった?」
「何らかの装置でも組み込まれたのか、イカれてたよ。最早、私達の記憶に残っている〝ラウラ・ボーデヴィッヒ〟は死んでいた……」
「シャルロットは?」
「生きている。いつかきっと、お前も会えるさ。敵同士となってだろうが……」
「………そっか」
「…随分反応が薄くなったな」
「この6年間、昨日隣にいた奴が死ぬなんてのは日常茶判事よ。慣れたくなくても慣れるっての、こんな世界じゃね」
「全くだな」
それ以降の会話は途切れ、エンジン音、車体が揺れる音、外から聞こえる風の音が車内を支配する。
「……そうだ。せっかく会えたし、一つ教えてあげる。ここ最近、黒い未確認の超高性能ACがやたらと目撃されててね……あんたのトコの白いのによく似た黒いのを探してる真っ最中なの。その機体、もしかしたら……」
「……もしかしたら、か」
「小耳に挟んだ話じゃ、人の人格ぶっ壊すシステム作ってる奴もいるみたいだし……縋るには、小さいけれどね……」
「…元から期待はしていない。
「…ホント、反吐が出そうな世界ね。クソ過ぎて反吐が戻る位に」
「反吐が出るだけでも、お前はまだ幸せだ」
箒は合成煙草を携帯灰皿の中に入れ、密封。
「…ところで、気付いてるか?」
「後方2000mちょい、大型トラックと荷台付きの車の
「どうする?」
「そうね〜…振り切っても良いけど、見逃すと後々面倒くさそうだし。何より──」
言葉を一旦閉ざして箒に視線を移すと、八重歯が光る獰猛な笑みを見せた。
「こういう戦いも、一度やってみたかったのよね」
「…全く、そういう所は6年前から変わっていない。いや、寧ろ酷くなったな」
「うっさい」
そんな様子の鈴に箒は呆れた声を出すが、同時に少し嬉しそうな様子をも思わせる。
「
「M249軽機関銃。射界全方位、1マガジン200発、発射速度は分間850発。装填してるマガジンと予備を合わせると6マガジン1200発。装甲は小火器程度なら余裕。12.7mmとか持ってこられたら話は別だけど」
「充分だな…初弾は装填済みか?」
「まだ。5km先にそれなりの規模の廃墟があるから、そこまでかっ飛ばす。舌噛まないでよ」
そう言って右手でシフトレバーを掴み、加速の準備をする鈴。
箒は前部座席と後部座席の間にある屋根への出入り口から身を乗り出し、M249軽機関銃のコッキングレバーを引き、初弾装填。グリップを握り、両親指を発射ボタンに添えて構える。
「そんじゃ、行くわよ!!」
そして、シフトレバーを操作して3ギアから4ギアに移行。僅かな振動が走り、稼働ギアが追加。ギア変換が完了すると同時にアクセルを踏み切り、エンジンが雄叫びを上げて更に加速する。