遊戯王デュエルモンスターズ 遊技島のサバイバルデスゲーム   作:とある遊戯王プレイヤー

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不協和音

「うおらぁぁ!」

 

 闇の広がり出した浜辺の洞穴に、獣の如き咆哮が轟いた。

 同時にズドン、と水中に飛び込んだ木杭が、魚影を刺し貫く。

 

 水面に広がる鮮血、ばしゃばしゃと尚も抵抗する大魚に、Tシャツ、トランクス一丁という姿のユウとオガタは杭を必死に押さえ対抗した。

 

「オッサァァン絶対離すんじゃねーぞ! 今夜のメシだかんなぁ!」

 

「分かってる! ユウくんこそしっかり持っとけオラァ!」

 

 右に左にと杭に衝撃が加わる。

 これは大物に違いない。二人を動かすのは極限の食欲のみ。

 

 間も無く漁(といえるものではないが)を開始して三時間が経過しようかという頃だ。

 ようやく得た、千載一遇のチャンス。

 二人がこれ程まで声を張り上げるのも無理からぬ事だった。

 

 だんだんと手応えが小さくなっている。

 もう少しだ。もう少し……

 

 やがて、一切の抵抗が消えた。

 

「お、おい、仕留めたか?」

 

「知らねーが、手応えはねえな。オッサン、ちょいと水ン中見てきてくれ。オレは杭押さえとくから」

 

「ざけんなよ、こういうときは若者が確認すると相場が決まってるんだ。ホレ、行けよ若者」

 

「いやいや、押さえとくの重労働だろ? オッサン、腰は大丈夫かぁ~? ジジイに無茶させちゃダメだし、黙って潜れハゲ」

 

「本音駄々漏れじてるよ!? チッ、しかたないねえオッサンが潜るよ。いいか、大人は嫌な事でも積極的にこなさなきゃダメなのよ。俺は大人だかんな、いらん争いしてて獲物を逃しちゃいけないしと思って――」

 

「説教はいいからさぁ! ほらッ!」

 

「いいかテメェもいずれオッサンになるぞ! そしたら俺の言ってる意味分かっぞ! いつまでも若くねえぞ!」

 

 と愚痴愚痴言いながらも、顔を水につけるオガタ。

 デュエルディスクの嵌まった左手は、水から浮かしている為に妙な姿勢となっている。

 

(ううっ…シャツがびっしょびしょだ…)

 

 そう思い目を開けた直後、魚の怨念こもった目が彼を睨んでいた。

 

「ごぼっ!?」

 

 だが、文字通りの死んだ魚の目でもあった。

 新鮮だから迫力が違ったのだ。

 

 杭は見事に大魚を刺し貫き、水底へと突き刺さって縫い付けている。

 

(うわぁグロっ…なんつーか、ごめんな……)

 

 と、思わずオガタも思った程だ。

 そして慎重にそいつをツン、とつつく。

 するとビクッ、と一瞬反応はしたものの、それだけだった。

 

「ぶはっ! オッケーよ。奴さん、くたばってる。苦しそうだからさっさと引き揚げてやってくれ」

 

「あいよっ。そらぁぁ!」

 

 ざぱああん、と引き揚げられた杭の先には銀色鮮やかな魚が一匹、無惨な姿をさらしていた。

 

「おっしゃあ! 鮭だぜサケ、フレークじゃない本物の鮭なんだぜ!」

 

「しっかしオッサン、こいつ鮭にしちゃあデカ過ぎね? なんか別の魚じゃ――」

 

「はっはぁ~ン、さてはユウ君、切り身じゃない鮭を見たことないね? 大丈夫、本物を見た俺が言うんだから間違いねえって!」

 

 キャッキャと獲物を仕留めて有頂天な二人に「静かに! 迂闊に騒がないで」と声が掛かった。

 二人は騒ぐのをピタリとやめ、声の方に向き直る。

 

 陸からそう言ったのはアミだった。

 彼女は、普段と違いコートや上着を脱いでいて、黒のアンダーウェアと、ショートパンツだけというラフな姿だった。

 

 その普段の厚着とのギャップに、言葉を失う男達。

 図らずも二人の目は、彼女の、同じ部分を見ていた。

 

「……何かしら?」

 

「あ、いや、その、ね?」

 

 オガタが、視線を泳がせ言葉を探すが、ユウはきっぱりとこう言った。

 

「アミ、お前かなり着痩せするタイプなんだなぁ」

 

「えっ?」

 

 不意打ちを受けた様な表情を晒すアミ。

 

「や、でっけえ乳してんなぁって。マジで牛みてぇ――」

 

 そんな失言、最後まで言い終えられる訳が無かった。

 アミが一瞬でユウの懐に滑り込むと、がら空きの腹部に拳を叩き込んだからだ。

 

 鈍い音が響くと、ユウはその場に「ぐぇ……」と声なき声を漏らしながら崩れ落ちた。

 

「な゛、な゛にしやが……」

 

「サイテーね」

 

 衝撃で魚はべしゃんと地面に落ちた。

 腹をさすりながら顔を上げたユウは見た。限り無く無表情に違い、憤怒の形相というヤツを。

 

 そして止めておけば良いのに、彼は尚も口を開く。

 

「ほ、誉めたンだぞ……」

 

「それはありがとう。あんなのが誉め言葉なら、貴方には原始時代が相応しいわね」

 

 アミはそう吐き捨てると、悶絶する彼を見下ろした。

 

「ぐっ……くそアマぁぁ……」

 

「止めとけユウ、今のは完全にお前が悪い」

 

 オガタが半ばあきれながら呟く。

 

「そもそも女性を誉めるなら、もっと然り気無くエレガントに行かねーとな」

 

「あぁん女性だぁ!? そもそもアイツ女かぁ? 女ならもっと可愛げみせ――」

 

 オガタの、咄嗟に口を塞ぐファインプレー。

 

「わーわー!! 黙れ、これ以上要らんこと言うな馬鹿野郎! アミちゃん、何でもないからね!」

 

「――むぐぐっ、じゃあオッサン、参考までに然り気無くエレガントな誉め方して、ヤツを笑わせてみろよ。どーせテメェもオレと同じ感想だったんだろ、あぁ? 鼻の下伸びてんぞ!」

 

「あ……えっと……」

 

 オガタは思った。無理だ、と。

 空気がそれを許さないのだ。

 どうやったら、こんな張りつめた空気を一変させられるというのだ。

 

「す、スタイルいいね、アミちゃん♪」

 

「セクハラよオジサマ?」

 

「すませんっしたぁぁー!」

 

「下らない事で騒いでないで、ご飯にするわよ。さっさと獲物を持ってきなさい」

 

 アミはそう吐き捨てると、くるりと踵をかえした。

 

「……ふぅん、それがエレガントなやり方ねぇ?」

 

「黙れ。ああなった女性にゃあ、なにやってもダメなんだよ。頼むからお前はもうちいっとデリカシーを身に付けてくれ」

 

 大魚を拾い上げながらオガタもアミに続いた。

 

 

 

 

 

 

――パチパチ、と炎が暗闇に揺らめく。

 それを囲う三人の男女は無言のままだった。

 

 普段から和気あいあいとしている訳ではないが、今は明らかに空気は張りつめている。

 互いに敢えて声をかけていないのだ。

 

 中でも異様なオーラを纏うアミは、心臓でも一突きにするかの様に、魚に木串を突き刺した。

 そのまま、頭から尾までを貫かれた憐れな魚を直火で炙る。

 丸焼きにするつもりだろう。

 

「ハッ、どっちが原始時代だか……」

 

 荒い調理風景に、ユウはボソリと呟く。

 

「何か言った?」

 

「何もぉ~?」

 

「あ、そ、そういや俺ってさ、昔漁師のバイトやっててね、魚さばいた事あんのよ!」

 

 緊張に耐えかねてか、オガタが他愛ない話を始めた。

 しかしこの場に於いては逆効果だった。

 

「ふぅん、スゲェじゃねえか。じゃあそいつを素手でさばくのかオッサン」

 

「いやぁ~はは…道具が居るね」

 

「丸焼きでいいじゃない」

 

 完全に墓穴を掘ったオガタだったが、助け船は直ぐ様に現れた。

 彼はここぞ、という時の運はいいのだ。

 

「あ、あの、私がさばきましょうか~?」

 

「「「誰!?」」」

 

 そこに現れたのは、学校の制服らしいものを身に付けた少女だった。

 この場に似つかわしくない存在なのは間違いない。

 

「何だテメェ! どっから出た!?」

 

 ユウがそう言い、デュエルディスクを構える。アミもそうだ。

 

「え、きゃっ…」

 

 しかしオガタは違った。

 

「待て待て君達さぁ! こんな子がプレイヤーな訳ないじゃん。ごめんね~君、大丈夫?」

 

「は、はい、大丈夫、です」

 

「この島に居るってこたぁプレイヤーだろうが! ホラ、ディスクしてんじゃねーか! 目的はなんだコラァ!」

 

「止めろって! だからオメーはデリカシーが無いっていうんだ。君、何でこんな所に?」

 

 オガタが優しく問い掛けると、少女は瞳を潤ませながら語った。

 

「それが……分からないんですぅ。気が付いたらこんな所に連れてこられてて、怪物には襲われるしぃ、親切な人が居なかったらとっくに私なんて死んでて……」

 

「その親切な人ってのはどうなったんだい?」

 

「私を逃がす為に、ゾンビに、うぅ、うぇ……」

 

「…そっか。怖かったな。よしよし安心して、俺達は君の味方だから」

 

 と、オガタは少女の肩にポン、と手を置いた。

 

「あ、ありがとうございますぅ。おじさん、優しい人なんですね」

 

「いいや。ただ、困ってる女の子を見過ごせなかっただけの、しがないオッサンさ」

 

「お~いオッサン、まぁた鼻の下伸びてんぞ」

 

「伸びてねえよ! いい加減にしろ!」

 

「……それで? 良い匂いと明かりが見えたからここまで来た、といったところかしら?」

 

 話が進まないからか、アミが言った。

 少女は頬を赤くし俯きがちに「はい」と答える。

 

「で、でも、ただで貰おうなんて思ってません! 料理は得意なんで、手伝わせて下さい!」

 

「あぁ、残念ながら道具が無くてさ…断念したトコなんだよ」

 

「ああ、安心して下さい。私さっきコレ拾ったんです」

 

 彼女が取り出したのは食事用ナイフだった。

 ステンレス製の様で、錆はない。

 

 彼女はそれを使い、するすると大魚をさばき切り身にして、串を通すと焼いた。

 パチパチと良い音をたてて焼けるそれは、嫌でも食欲を掻き立てる。

 差し出されたそれを、胃袋へと即座に投入する男衆。

 

 

「うめぇ! なんだコレ!? ただ切って焼いただけなのに!?」

 

「どれ……うん、うまい。あれだな、丸焼きにしなくて良かったぜ。文明の味だなぁ」

 

 その発言は、あまりにタイミングが悪かった。

 

「――ごちそうさま」

 

 そう言ってアミは立ち上がると、洞穴の出入り口に向かって歩き出した。

 

「あれ、アミちゃんどこに――」

 

 と、オガタが彼女に声を掛けようとした。

 しかし途中で問答無用に遮られた。

 

 一瞬、オガタは視線で心臓を射貫かれた様な錯覚を覚えたのだ。

 殺意にも似た何かが、振り返った彼女から駄々漏れしている。

 

「何か? オジサマ」

 

「あ……あ、いやっ、な、なんでも……」

 

 出ていったアミの背を、オガタはただ、見送るしかなかった。

 制服の少女がその背を見て一瞬、笑っていたのを誰も気付けなかった。




【神龍ピュアリフィケーション・ドラゴン】

 レベル12、融合、光属性、ドラゴン族、効果モンスター
 SSL白光龍エリプシスドラゴン + SsD黒血龍アクシスクドラゴン
 ATK4500 DEF4000

 このカードは上記のモンスターをフィールドからエクストラデッキに戻した場合のみ特殊召喚できる。このカードは「SS(シャイニーソルジャー)」「Ss(シャドウサーバント)」カードとしても扱う。①:このカードが特殊召喚に成功した場合、次の相手のターン終了時まで、このカードは自身の効果以外の効果を受けない。②:墓地の「SS」モンスターを2体まで除外して発動できる。このカードはこのターン、通常の攻撃に加えて、この効果で除外したカードの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。③:このカードが墓地に送られた場合、墓地の「SS」モンスター1体を特殊召喚できる。


 ユウのデッキにおいて、切り札といえるモンスター。効果を受けない状態での最大3回攻撃の破壊力は凄まじいものがある。出す条件の厳しさに見合ったモンスターであろう。
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