遊戯王デュエルモンスターズ 遊技島のサバイバルデスゲーム 作:とある遊戯王プレイヤー
――『貴女の事はずっと見てきた。ようやく貴女に声が届いた』
堕天使は、息も絶え絶えの私に言った。
彼女らの翼は確かに漆黒の禍々しいものだったかも知れない。
それでも。
全てを失った私に差した、一筋の光だった。
『私達が、貴女を導いてあげる』
差し出された手。
アタシは逡巡しながらも…彼女の手を取った。
ひやりとした、冷たい手だった。
しかし…灯火の消えかけたアタシには、温かな手だった――
――「エリプシス・ドラゴンの効果を発動! コイツがフィールドに現れた時、相手フィールドの全ての表側表示カードの効果を無効にする!」
白光龍の名に相応しく、白銀の光を放つエリプシス・ドラゴン。
その光は相手フィールドの堕天使らを包み、その能力を奪ってゆく。
「させないわぁ、ルシフェルの効果発動、1000ライフポイントを支払い、墓地の堕天使イシュタムを守備表示で特殊召喚!」
ルシア LP4300 → 3300
堕天使イシュタム DEF2900
その後、光はルシフェル、イシュタム、失楽の堕天使の能力を無力化した。
「これでルシフェルの能力が無くなったァ! テメェのモンスターは対象に取れるってワケだ…リザードマンの効果発動ォ! ルシフェルを対象に取って、破壊する!」
ルシフェルは存在するだけで、フィールドの天使族モンスターを対象に取れなくする。
効果が無効になった今、こうしてリザードマンで対象に取り破壊する事が出来る。
「まだよ…フィールドの堕天使が破壊される場合、手札から【堕天使テスカトリポカ】を墓地に送り破壊を防ぐ…ルシフェルはやらせないわ」
テスカトリポカが身代わりとなり、ルシフェルは健在。
例え効果が失われたとて、圧倒的な攻撃力はそのままである。
「残念だったわねぇ。アタシのモンスターは無傷よぉ」
「…いいや、決めてやるぜ! オレは、手札を1枚捨てて、チューナーモンスター【SSショートダガー】を手札から特殊召喚! リザードマンとショートダガーでシンクロ召喚! 【SSIホワイト・ラミア】! そしてホワイト・ラミアとフォーチュン・テラーを墓地に送り…現れろ【SsD黒血龍アクシスク・ドラゴン】!!」
白光龍と黒血龍、2体のドラゴンがフィールドに揃う。
咆哮したドラゴンらが、光が、闇が交わり、溶け合ってゆく。
《再び私を使うか、マナカ ユウ》
頭の中に、直接声が響いた。
「ああ…テメェの力を貸せ! オレはエリプシス・ドラゴンとアクシスク・ドラゴンの2体をエクストラデッキに戻し――」
『何だ…この力の高まりは…!?』
ルシフェルが、これから起こる何事かを理解したかのように身構える。
大気が震える様に感じていた。
ソリッドビジョンの空に、雲を突き抜けた2体のドラゴンの軌跡が渦を巻き、やがて溶け合う。
「降臨しやがれ!」
一つとなった力は有り余る光を解放し、地表へと突き刺さる様に降り注いだ。
光のヴェールの向こう側に、それは降臨していた。
「神龍ピュアリフィケーション・ドラゴン!!」
光が消える。
姿を現したのは、光と闇…それらを肉体に織り込んだ混沌の神。
神龍ピュアリフィケーション・ドラゴン
【レベル12、光属性、ドラゴン族、ATK4500】
「攻撃力…4500、そう。これがボウヤの切り札ってワケねぇ?」
「だな。ピュアリフィケーション・ドラゴンは特殊召喚されてから次のターン終了まで自身以外の効果を受け付けねぇ…そして、墓地からストームメイカーとショートダガーを除外し、2回の追加攻撃を可能にする!」
「つまり…合計3回の攻撃…」
「そうだ! バトル! 薙ぎ払え、ピュアリフィケーション・ドラゴン!」
『くっ…小僧!! いいだろう。この勝負は我等の負け…ならば、恥ついでに我が主に伝えて欲しい…我等は今も常に主と共にある、とな!!』
ルシフェルが言う。
「知るかァ! んな事はなァ、テメェで伝えやがれ!!」
ユウはそう言うと、神龍による攻撃を開始した。
「ピュアリフィケーション・ドラゴンで攻撃!!」
神龍の口から放たれたブレス、そして翼から放たれた無数の闇の礫が混ざり合い…ルシアの堕天使らを焼き払った。
ピュアリフィケーション ATK4500 − 黎明の堕天使ルシフェル ATK4000 = 500
ルシア LP3300 → 2800
ATK4500 − 失楽の堕天使 ATK1600 = 2900
ルシア LP2800 → 0
デュエルは終わった。
ルシアはただ、フィールドに漂う攻撃の余波を眺めていた。
最期に残った、堕天使らの、イシュタムのソリッドビジョンが、消えてゆく。
だが――
『私達は、今でも貴女と共にあるわ』
「…!?」
それが、消えかけた彼女の声だったのかは分からない。
でも確かにルシアには聴こえた。
たったそれだけの短い言葉であったが…
デュエルディスクが折り畳まれ、スリープ状態へと戻った。
直後に先へと進む扉が開く。
これを行けば、いよいよ最期の戦いとなるのだ。
ルシアにはもう、勝敗などどうでも良かった。
彼女はもう俯くのをやめた。天を仰ぎ…滲んだ景色、コンクリートが剥き出しの天井を、ただ見ていた。
「ルシアさんよォ、オレは先に行くぜ」
「ええ…」
「……あ、あのよ、もしかしたらだがな? ルシフェルが言ってたかも知れねー事なんだがよ」
と、ユウが切り出そうとしたが、ルシアは
「いいのよ」と遮る。
「どうせ…あのヒトの事だし、あそこでああしろ、こうしろ、だの、情けないな主よ、とか言ってたんでしょう? ふふ、分かっているわ…これからは私が、自分で聞くから」
そう言い、ルシアはユウを見据えた。
憑き物が落ちたかのような晴れやかな、微笑を浮かべている。
「そうかよ。ならそうしてやりな」
「勿論よ…ねえボウヤ、あなたの名前は?」
そういえばまだ名乗っていなかったな、とユウは思い、直ぐ様
「ユウだ。マナカ ユウ」
と返事した。
「ふふ、マナカ ユウね、分かった。また逢いましょうユウ。次こそは完全に堕としてアゲルわぁ」
「ワリィがテメェの相手は骨が折れそうだ。ま、デュエルくれぇならいつでも付き合うぜ」
そう言ってしまった結果、後の彼が後悔する羽目になってしまうのは、また別の話である。
そして今度こそユウは、扉の先へと進む。
最後にルシアを一瞥した。
彼女は手を振っていた。
その隣や、彼女の後方には、堕天使らが居た。
まるで1枚の絵画が如く、美しい情景であった。
「ハッ…過保護な連中だ」
扉が閉ざされた。
――蛇足となるかもしれないが。
イシュタムとは、マヤ神話に登場する自殺を司る女神のことを言う。
かつての当該文明においては、自殺という行為は、聖職者や生贄、戦死者と並び、楽園へと導かれる名誉ある死に方であるという考え方があったそうだ。
自ら旅立とうとしたルシアの前に、イシュタムが現れたのも偶然ではないのかもしれない。
そして…もしかしたら、旅立ちそうな人物を見守る、心優しい存在であったのかも…これらは所詮、想像の域を出ないが。
――『ここまでようこそ、マナカ ユウさん。ここを過ぎれば最期のデュエルが待っております。デッキ調整などはお済みですか?』
扉の前に待機していたプレイヤーキラー、アルレキーノが恭しく頭を下げながら言った。
「テメェか、ご苦労なこった…この先のヤツに勝てば、オレは晴れて自由の身になるって事でいいんだよな?」
『ええ。その通りでございます。ただし敗北なさった時は、ちょっとしたご褒美しか貰えませんがね』
「ご褒美? 菓子でも貰えンのか?」
『ハハハ、御冗談を。トーナメントに残られた方々皆にお渡ししているものですよ。残念賞とでも言いましょうか…まあ詳細はご敗北されてからお伝えしますよ』
「ならオレには一生分かんねぇな。ま、オレはいいんだが、アンタらはどうなんだ?」
『どう、とは? 質問の意図を理解しかねますが』
「テメェのお仲間が言ってたぜ。アンタらはカードの精霊、みたいなものだってな。だったらテメェにも帰る場所くれぇあんだろ?」
ユウの言葉が余程意外だったのか、アルレキーノは初めてポカンとした、呆けた様な顔を浮かべ、続けて笑い出した。
『ハッハッハッ、アーッハッハッハ、成程? 私達をカードの精霊とかいうモノと思ってらっしゃると…まあ、ある意味ではそうかも知れませんがねぇ、技術の結晶たる私達が精霊とは――いやはや、気の利いた皮肉にしてもあんまりだ』
それは彼が、初めて見せた生の感情であったと思う。
笑い飛ばしてはいるが、どこか嫌味な…怒りさえ感じるリアクションであった。
『オホン……申し訳ありませんねぇ。私としたことが、役目を忘れてついお喋りに興じてしまいました。マナカ ユウ様、お先にどうぞ』
「テメェらが何企んでのか知らねェが、ろくでもない事ァ、オレのカンケーないトコでやってくれ」
頭を下げるアルレキーノの横を通り、最期の扉を通過するユウ。
扉は厳重に施錠される。
頭を上げたアルレキーノの顔には、どこまでも虚無な…人形の様な無表情が張り付いていた。
【SS(シャイニーソルジャー)アドバンスド・サイキッカー】
レベル5、光属性、サイキック族、効果モンスター
ATK0 DEF1900
このカード名の①、②の効果は1ターンに1度しか発動できない。①:このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの攻撃力が一番低いモンスター1体のコントロールを得る②:このカードが特殊召喚されている場合、自分のメインフェイズに発動できる。EXデッキから【SS】Xモンスター1体を選び、このカードの上に重ねてX召喚扱いで特殊召喚する。
アドバンス召喚時の効果は対象に取らないコントロール奪取と強力であるが、②の効果もまた、展開に重要な役目をする。ただしレベルが5である為、別途特殊召喚手段を用意する手間がある。