時は少し遡り、武偵高生たちの夕食会場。
「おいしー!」
理子が鯛の刺身を食べて歓声を上げる。
温泉に入った(男女で時間が湧けられていたことに武藤は涙を流していた)後、浴衣に着替えて、宴会会場で夕食を食べている。夕食のメニューは海の幸、山の幸をふんだんに使った豪華料理に、昼間に俺とレキが釣った魚も料理してもらった。そのときにレキと釣りしていたことが流無にばれて絞められたが・・・。
ウツボのお造り、タイの刺身と湯引き等など。見た目もいい出来だ。
「酒やー!もっと酒を持ってこーい!」
「もっと飲むぞー!」
「あははははっ!」
ついでに教師たちも出来上がっていた。昼間あれだけ飲んだのにまだまだ入るようだ。
「はい、キンちゃん。お刺身」
「お、悪いな」
白雪はキンジに給仕まがいなことしている。
「意外と生でもおいしいわね」
最初は刺身に抵抗を見せていたアリアも問題なく食べており、他の全員も食事を楽しんでいた。
「・・・もぐもぐ」
レキは例の不思議な食べ方でひょいひょい口に運んでいく。
「イカそうめんは良い・・・」
神楽はイカ料理にご満悦。
「おいしいでござる!昼間のお肉に続きこんなにおいしいものを食べられるとは!」
貧乏でいつも食事に苦労しているらしい風魔は涙を流している。
まあ、言うなれば相変わらず、俺たちは騒がしいながらも楽しんでいた。
それにしても、こういうときは必ずと言っていいほど理子とテンションを上げている流無がさっきから大人しい。
どうしたのかと、隣に座っている流無を見てみると・・・。
「コクコク・・・」
ジュースを飲んでいた。だが、様子が変だ。目がだんだん据わってきている。
この光景を俺は前に見たことがあったような気がする。
俺は何時だったか、と記憶をたどっていると、
「プハァ・・・」
ジュースを飲み終えた流無が、
「このジュースもう一杯ぃ!にゃははははっ!」
と、笑い始めた。おい、まさか――!
俺は流無の持っていたコップを手に持ってきて匂いを嗅ぐと、最悪の予想が当たった。
「やっぱり、酒だ、と」
目の前が真っ暗になりそうになった。なにせ、流無は酒を飲むと。
「蘭豹!わらしものむー!」
「おう、飲めや飲めや!ってそれはワイの酒じゃー!?」
暴走するからだ。
「いいじゃないの~。アハハッ!!」
「良くないわ!ワイは自分の酒が飲まれるのが何より嫌なんや!」
「心がせま~い。にゃはははっ!」
そう、あれはおっさんとの修業時代。
「いいから返せや!」
「や~だよ、らんらん」
誤って流無がおっさんの酒を飲んでしまい、
「なっ!?」
「しってるよ~、『らんらん』っていうハンドルネームで出会い系サイトに登録しているんだって~?」
「蒼神!どこでそれを、っは!?」
確か、コップ一杯だったかな。特にアルコール濃度は高くなかったはずだ。それだけで、酔いまくって暴走したのだ。収めるのに苦労したな。おっさんは笑っているだけだったし。
「にゃはは~!墓穴を掘った~!」
「おんどりゃああああ!!もう許さへんでぇ!」
ドウッ!!
蘭豹が愛銃、M500をぶっ放した音が響く。この落雷でも落ちたかのような銃声をするM500は世界最大級の拳銃であだ名は『象殺し』と言われる。こんな化け物拳銃を平然とぶっ放す蘭豹もやばいが、それを笑顔で避ける流無もすごい。
というか、着弾した壁が吹き飛んだけど大丈夫なのか?
「しかも、趣味蘭に読書って書いているんでしょ?パチスロ攻略本しか読んでないくせに~。歳も18ってサバ読み~。にゃははははははっ!」
ドウッ!!ドウッ!!!
さらに蘭豹が乱射するけど、それすらも躱していく流無。ネコ笑いしながら。
俺たちは恐ろしくて避難している。
だってみんな蘭豹の恐怖は知っているから。こぼれた料理が降りかかってきても気にしない。だって命は大事だから。
あ、綴と高天原先生は笑っているけど。
「にゃはは、ぶっ!?」
あ、蘭豹が一瞬で流無に近づいてアイアンクローをかました。流石にもう終わったな。
「記憶を消し去れやああああ!!!」
そのまま、思いっきり振りかぶって投げた。
ふすまを数枚突き破って奥の方に消えていく流無の姿。
「・・・お前ら」
ビクッ!?
「・・・何も聞いてないよなあ?」
『何も聞いていません!』
全員、正座で即答。二度目だが、命は大事にしなくちゃいけないんだ。
「・・・八神」
「はっ!」
「拾って風呂に放り込んで来い」
「了解いたしました!」
俺はすぐに流無の消えた方に走って行った。
そして、時は今に戻る。
「と、いうわけです。ご迷惑をおかけました」
俺は織斑先生に事情(命にかかわることは伏せた。全力で伏せた)を話し、更識さんを巻き込んで倒れていた流無を抱えて(お姫様抱っこ。IS学園の生徒たちは目を輝かせている)謝罪をする。
「そうか。分かった。だが、あまり騒ぎを起こさないでくれ。こちらも生徒たちを抑えねばならない」
すみません。それ無理です。
「では、戻ります」
俺は流無を温泉に放り込むべく、出て行った。
温泉に浸せば、アルコールも抜けるだろうからな。
「ふぅ~、生き返る」
流無をアリアたちに任せた俺は男湯に入っていた。
今の時間は通常通り、男湯と女湯で分かれている。
さっきの騒動で料理を頭からかぶったりした俺たちはもう一度入り直しているのだが、武藤と不知火はさっさと出て行ってしまった。キンジは再び修羅場に突入して足止めを食らっていたな。
アイツもそろそろ腹を決めたほうがいいと思う。
見ていて、かなりやきもきするんだよな。
そりゃ、あいつが自分の体質のせいで女を避けてきたのは知っているが、いつかは――。
「ん?和麻だけか?武藤たちは?」
おっと、ちょうど件の本人が入ってきた。
「さっさと出て行った」
「そうか」
風呂に入ってくるキンジ。
俺は話を振ることにする。
「なあ、キンジ――」
「う~、頭がくらくらする」
「しょうがないわよ。あれだけ吹き飛ばされたんだから」
私は温泉の休憩室で横になっている。隣にいるのはアリアちゃんだ。
「にしても、あんたにあんな一面があるなんてね」
「お酒を飲んだらああなっちゃうのよ。しかも記憶が残っているから
思い返すだけで体が震えてくる。あの蘭豹先生をからかうなんて。
「それにしてもキンジのやつ遅いわね」
「・・・・」
一度聞いてみようかな。
「ね~、アリアちゃ~ん」
「ん?」
「キンジ君の事好き~~?」
「なっ、なななんあなな?!何言ってんの!?」
ぶわあああっという感じで赤面するアリアちゃん。相変わらず初初しいのう。
「いや~、だってキンジ君が理子ちゃんや白雪ちゃんと一緒にいる時って必ず怒って混ざっていくじゃない?あれってどう見ても好きな人を取られたくないっていうやきもちよ?」
「ちっ、ちちちち、違う違う違う!!キンジは私のパートナーだから!それに武偵をダメにする闇、金、女の内の女から守るために!」
必死になって否定していくアリアちゃん。でも、真っ赤な顔が隠せていないから意味ないわよ。
「アリアちゃん」
「こ、こここ今度は何!?」
「キンジ君はかっこいいよ」
あ~こんなこと言ったら和麻が嫉妬しちゃうかな。
「キンジ君は仲間には優しいし、いざという時は頼りになる。それは和麻も言っていたわ。『俺じゃキンジに勝てないこともある』ってさ。なんかアニメの主人公みたいなところあるんだよね。キンジ君って」
女の子には特別優しいけど、と付け加えておく。
「・・・」
私の言葉と雰囲気にアリアちゃんは静かに聞いてくれる。
「だからなのかな。いろんな女の子がキンジ君を好きになっていくんだよね。白雪ちゃんに理子ちゃん、風魔ちゃん。他にも
「・・・それは知っているわよ。あいつなんだかんだでみんなの中心にいるし」
そこのところはアリアちゃんもわかっているのか素直に肯定する。
「キンジ君はとある事情で女の子のことがよくわかっていないから、さらに
ヒステリアモード時の自分を嫌っているから、そうならないために女の子に関してのことは極力避けているって聞いたからね。
いつか平気でただのプレゼントの指輪をプロポーズの時の婚約指輪みたいに、薬指にはめたりとかしそうだわ。
「だから、もしキンジ君に自分を見てほしいならもっと素直になった方がいいわよ」
「素直に・・・ってだから私は別にキンジの事なんか!」
私は起き上がって赤面しながら否定するアリアちゃんに近づく。だいぶお酒も抜けてきたしね。
そして、アリアちゃんの頭を抱き寄せる。
「あっ・・・」
「キンジ君を手放したくないなら、もっとそばにいてほしいなら、自分の気持ちをぶつけてみなさい。それはとても難しくて、怖いことかもしれないけれど、勇気を出して本気でぶつかって」
私はアリアちゃんの頭をなでながらそう言う。
今はまだ、自分の気持ちを素直にできない不器用なこの子の、助けになることを祈って。
(どうしよう・・・)
更識簪は困っていた。
その手に握られているのは武偵高の生徒手帳。
先ほどの騒動の時に、流無の浴衣から転がり落ち、簪の所にあった物だった。
それを少し調べた後、簪は本人に返すために流無を探していた。
それで温泉の休憩スペースで見つけたのだが――
(出ていけそうにない・・・)
アリアと流無の雰囲気はとても介入できるようなものではない。
それに、その姿はまるで仲のいい姉妹のようで―――それを見る簪の心に痛みが走る。
なまじ、流無が簪の姉に・・・。
「おや~ん?何をしているのかな?」
「!?」
いきなり後ろから聞こえた声に、簪は振りむこうとするが、
(う、動けない!?)
自分の体を見てみると、白い腕と金色の長い髪が拘束していた。
唯一動かせそうな首を回して後ろを見てみると、
「・・・峰、理子・・・リュパン4世・・・」
「あっれ~?くふふっ理子のこと知っているんだ~。流石は更識家の当主候補さま」
くふふっ、と笑顔を浮かべる理子。
そんな理子を無言で睨みながら、自身の指にはめられたクリスタルの指輪、専用機『打鉄弐式』をいつでも展開して拘束を抜けられるようにする簪。
「別に君をどうこうしようってわけじゃないよ。ただね~ライバルの邪魔はしたくないだけ」
「・・・」
「それにしても、ルーちゃんも憎いことするよね~。アリアにアドバイスするなんて。まあ、対等な条件での勝負は望むところだけど」
「・・・勝負?」
「うんうん~。アリアとりこりんはキーくんを巡って日々勝負しているのだ♪」
だ・か・ら、と理子は続ける。
「対等な勝負こそ望むところ。絶対にキンジは奪ってやる」
いきなり、裏理子の口調、態度になった理子に簪は少し気圧される。
「その手帳は私が渡してやる。だから帰りな」
しゅるりと拘束が外れ、理子は離れ、簪の手から手帳を抜き取る。
簪は理子の方を見て、もう一度、アリアを抱きしめる流無の方を見た後、部屋に戻ろうとする。
「ああ、そうだ。お前の姉だけど」
理子の続けられた言葉に簪は足を止める。
「少なくともイ・ウーにいた私は知らないね」
その言葉を聞いた簪は再び歩いて行った。
こうして夜は過ぎていく。
夏の夜空のもと一時の平穏を過ごす彼ら。
そんな彼らを巻き込む運命の時は刻一刻と迫る。
まもなく訪れる。
それは――――――終わりにして全ての始まり。
これにて平穏?は終了です。次回は遂にお待ちかねのあれです。
それから簪の所属クラスですが4組に変更しました。やはりバランスが悪いと思ったので。
それから各方面でいろいろ言われているIS八巻ですが、私としてはまあ、いいかなと思います。
確かに一夏のラッキースケベが天元突破していますが、そんなことは今更。それになんか鈍感ではなく、気恥ずかしくて逃げている感じだと思いますし。
極めつけに会長を意識してきた描写があり、少しは改善されたのかなと思っています。
あと、アメリカがかかわってきたのはうれしいですね。
アリアのアメリカの機関とも絡ませられますから。