学年別タッグトーナメントは順調に進んだ。
その間、襲撃など起こるはずもなく俺達も特に何もすることはなかった。
「レキ、たまには別の物でも食べたらどうだ」
「・・・そういえばカロリーメイトしか食べているとこしか見ていませんね」
トーナメント最終日の前日。
明日行われるのは全学年の準決勝と決勝戦だ。
夕食に向かう途中でレキにあった俺はそのまま一緒に食堂に向かった。で、そこに黒崎もいて、共に並んで俺は、注文した醤油ラーメン特盛を頼みながらカロリーメイトを取り出しているレキに質問したのだ。
「これで十分です」
「食事っていうのは栄養を取るだけじゃない。いろいろ味を楽しむものなんだぞ?」
「いや、食事ってのは生きるためでしょう。チンタラ食べている暇なんかありませんし」
「黙ってろ軍人」
「失礼な。俺としては間違ったこと言っていません」
色々あったんだろうが、今は黙っていろ。
というか
「お前、いつからレキがカロリーメイトしか食べないって知っていた?」
何回か食事を共にしたということになる。
「いや、最近会話とかしていて・・・会話と言っても、カロリーメイトや、狙撃とかについてですが・・・」
「そうか・・・」
「八神さんは、カロリーメイト、チョコ味なんですね」
「お前は?」
「チーズ味です」
「何だ、レキと同じか」
「ええ・・・チーズ味について、トラウmゴホンゴホン。・・・もとい素晴らしさをさらに語られましたよ」
「・・・・・」
そういえば、数日前にカロリーメイトは、チョコ味か、チーズ味かレキと議論したな。最終的にメープル味で決着がついたが。
様子から見るに、延々とチーズ味について語られたのだろう。
「・・・決めました」
「「!」」
すると今の今までレキはしばらく考えていたのか、そう発言。
「和麻さんと同じものを」
「・・・食えるのか?」
ドンッという音と共に置かれる器。
「これを」
俺が頼んだ醤油ラーメン特盛だった。
特盛というか、とにかくでかかった。
人の頭半分はあるんじゃないかと思うほどデカかった。なんで、こんなラーメンがIS学園にあるのだろうか?
「はい。かまいません」
「ハハ、まあ女子で平らげた人は見たことはありませんね」
「というと?」
「俺は完食しました。味噌味ですが」
「・・・太らないか?」
「普段からかなりの量食べているように言わないでくれません?今日のはまだ動くからですよ」
ちなみに黒崎はカツカレー大盛り。
そしてそのまま俺と同じラーメンを頼んだレキは、周りの生徒が唖然としている中3人で席に座った。細腕のレキはラーメンをうまく持てなかったので代わりに俺が運んだ。
「では、いただきます」
「いただきます」
そんなこんなで、俺たち男子はそれぞれ食べる。
「いただきます」
レキも割り箸を割って食べ始めるのだが、一瞬レキの目がピカッって光って見えたぞ?
レキは麺を一本つまむとその先端を小さな口でくわえた。
そして、ちゅるる・・・るるる・・・
食べる。
麺だけを。
一本食べ終わると間髪入れずに新しい麺をくわえる。
そして、ちゅるる・・・
食べる。
何とも不思議な光景だった。
途切れることなく麺を一本一本食べていく。
ラーメンって、ここまで少ない動作で食べれるものだったんだな。
俺だけでなくほかの生徒も唖然としている中、レキは五分ほどですべての面を食べてしまった。
続けて、レキは具を箸でつまみ――
ひょい。
ぱく。
具のメンマを食べた。
ひょい。
ぱく。
ひょい。
ぱく。
そのまま、チャーシュー、ナルト、ネギ・・・
具をどんどん食べて行った。これも休みなく。
そして、再び五分ほどで具を全部食べてしまった。
これには生徒だけでなく、食堂のおばちゃんも唖然としている。
最後に、スープを飲もうとしたのだが、うまく持ち上げられず、俺が一緒に持ち上げてやると、その小さな口を器にちょんと付けて・・・
んく。
んく・・・んく。
スープを飲み始めた。これも休みなく。
だ、大丈夫なのか?レキよ。
俺が内心びくびくしているなか、レキは遂にスープを飲み干した。
「ご馳走様でした」
小さくレキがそう言った瞬間、食堂が拍手に包まれた。
「すごいな・・・って、八神さん・・・!」
「ん?なんだ黒崎?」
「・・・いくらなんでも見とれすぎですよ。それ、食べきれるんですか?」
「!!」
レキが食べる様子をずっと見ていたため、俺のラーメンはすでに伸びていた。
黒崎はレキが食している間も食べていたらしく、すでに食べ終わっている。ちくしょう。
「ふむ・・・次は黒崎さんが頼んだのを頼みますかね」
『!?』
「冗談です」
びっくりした・・・。まだ食うのかと思ったぞ。
「・・・って、口より手動かしたほうがいいですよ八神さん!どんどん麺が汁吸ってます!」
「だあ!やべぇ!!」
黒崎の指摘で、俺はすぐさま麺をすする。
うっ・・
「ゲホ、ゲホッ!」
「むせるほど急がないでくださいよ」
「大丈夫ですか?」
くっ・・・俺としたことが。
「では、私は先に戻ります。ハイマキにも餌をやらなくてはいけないので」
「俺も自主練があるので」
そう言って2人とも俺を置いていく。いや、食わなかった俺が悪いけども・・・。
レキ・・・お前は謎だらけだが、一番の謎は、なんであんなに食べたのに体形が変わらないんだ?胃の中にブラックホールでもあるのか?
俺がレキの驚くべき一面を知り、食いすぎで苦しい夜を経験した後の朝。
気功術を鍛えてから新陳代謝が上がっているので、腹痛もすぐに回復した俺は警備のために神楽を伴って試合の行われるアリーナを回っている。
「こうして見るとここが兵器の扱い方を教える場所だと思えんな」
神楽が客席を見ながらそう呟く。
「確かにな。もっともここで教えるのは競技用のISに関してだ。兵器として扱うISはまた別なんだろ」
「・・・」
「気に入らないか?なんの覚悟もなく
黙った神楽に俺はそう問いかける。
「はい。オレ達は常に命の危険と隣り合わせとなることを意識して銃や剣、兵器を使って学んでいる。だが、ここの生徒にはそれがない」
神楽の言葉、それに俺は何も返さない。
神楽の言葉は真実だ。
だが、それによって今の世界は見せかけの安定を保っている。
世界中から集めた才女に対し、兵器の扱いを教えるなどと宣伝すれば、武偵高みたいに教育観点からの理解を得ることができない。しかし、IS操縦者は育成する必要がある。そのための苦肉の策だったのだろう。
それを思うと神楽の言葉も肯定できない。弊害として危機感を養いにくくなってしまっているとしても
黒崎もその辺は言っていた。自分の組織では、堂々とそういうことを学ばせることをやっているが、それを周りの各国からはよく思われていないと。
データを独占されるというのが、ほとんどらしいが、しかしそうでもしないと才女に、IS操縦者の危険を回避させるための自衛ができないと。それについてはISを展開していない状態も含まれている。
例え専用機を持っていようともそれを使う前に身動きを封じられては太刀打ちできないと。だからそれを少しでも回避するために組織で訓練させているらしい。
生徒としてか、兵士として育てるか。IS操縦者の育て方が分かれてるな。
そんな俺たちに声をかけてくるものがいた。
「ほう。ただの雇われ者かと思えば、一応理解しているようだな」
ラウラ・ボーデヴィッヒだった。
「なんだ?お前はもうすぐ試合だろう」
神楽が目を細めながらラウラを睨む。
「ふん。すぐに行く。それよりも貴様はなぜ私を敵視する?私と貴様の考えは似ている」
「そんなことは簡単だ。お前の目が気に入らない」
「なに?」
「すべてを見下しているその目。力こそすべてだと信じて疑わない目だ。それが気に入らない」
「何を言っている。力こそがすべてだ。力が無ければ、強くなければ意味などない。貴様も、あの男もそれがなぜ分からない?」
おそらく黒崎のことだな。
「――やはり、お前とはそりが合わない。力を強さと直結させている。私はそんな愚かなものに成り下がるつもりは毛頭ない」
「愚かだと?!」
「ああ、所詮貴様は力を見せびらかす子供と大差ない」
「貴様!?」
ボーデヴィッヒは激昂して神楽に掴みかかって来るが神楽はその腕をつかむ。
そのまま、ひねりあげボーデヴィッヒが掴まれていない手で取りだそうとしたナイフを叩き落とす。
さらに、傘から仕込み刀を抜こうとする――ところで俺が神楽の襟の後ろを掴み持ち上げる。
「いい加減にしろ、神楽。俺たちの仕事を忘れるな。武偵憲章二条を忘れたか?」
俺が殺気を出しながらそう言うと、神楽は気まずそうに眼をそらす。
武偵憲章二条――依頼人との契約は絶対守れ。
俺たちの依頼はここの警備だ。
今の神楽の行動はそれとかけ離れている。
「うっ、分かりました」
刀を収めた神楽を下す。
ちなみに、ボーデヴィッヒは床に倒れていたが、今は立ち上がって睨みつけてくる。まあ、そんなに怖くないが。
「行くぞ」
「はい」
俺が神楽と共に行こうとすると、
「待て!まだ――」
『続きまして、一年生の準決勝第一試合を始めます。出場する選手は準備をして、アリーナに急いでください』
見計らったようなタイミングだな。
準決勝第一試合。
それは織斑・シャルルペアとボーデヴィッヒ・篠ノ之ペアの試合だ。
「くっ」
ボーデヴィッヒは忌々しげにこちらを見た後、去って行った。
それから、十分後。
ボーデヴィッヒを挑発したことに対する説教を神楽に終えた俺は、試合を眺めながら警戒を続ける。
アリーナでは専用機を身に纏った織斑とシャルル、ボーデヴィッヒと篠ノ之が向かい合っている。篠ノ之だけ訓練機の打鉄だったか?を纏っているが。
『それでは試合を開始してください』
アナウンスと同時に織斑がボーデヴィッヒに特攻をしかける。
だが、俺はその瞬間、風の探査網に反応を見つけた。
場所は――
「真上だと!?」
瞬間、アリーナの上空に衝撃が走り、エネルギーシールドを破壊。
何かが四人の間に落ちてきた。
その衝撃に砂煙が舞い、織斑は吹き飛ばされたが何とか体勢を立て直し、他の三人も警戒をする。
やがて、砂煙が晴れると、落ちてきたものがあらわになる。
ISより一回り大きい体。
二本の角。
首はなく、体の真ん中にある大きな口。
炎のごとく紅い体。
体に比べれば小さいが、力強く太い手足。片手には巨大な鉄斧を携えている。
そんな、馬鹿な!?何で、何であれがこんなところに――
「前鬼」
混乱している俺の耳にその声は聞こえた。
「修験道の開祖、役小角(えんのおづの)により従えられ、後に大陰陽師、阿倍晴明(あべのせいめい)に使役されたと伝えられる最強の式神――」
「何者だ!?」
神楽がしゃべり続ける相手に対し、仕込み刀を抜刀して構える。
対して相手は平然としている。
「こんなこと、言われるまでもないよね?」
「――ああ、そうだな」
俺はゆっくりと相手に目を向ける。
艶やかな黒髪は夜の様な優しい雰囲気を連想させ、その金色の瞳は見る者すべてを虜にするような輝きを放っている、全体的にはおっとりとした印象を与える少女。変装のためなのかIS学園の制服を着ている、彼女の名前は――
「――遥香」
「はい♪愛するおにーちゃん☆」
♪と☆の併用はどうだと思うぞ、マイシスター。
土御門遥香さん。
「お、おにーちゃん!?師匠の妹さん!?」
神楽が俺たちのやり取りを見て驚愕の声をあげる。
「あらあら?まさか、この子、おにーちゃんの後輩さんですか?
「ああ、そうだ」
「へ~、だったら私の妹みたいなものですね!かわいいな~」
「かっ、かわっ!?ふざけるな!」
神楽が顔を赤くして、刀を振り回す。そんな様子を見ても笑顔のままの遥香。
「遥香。なんでお前がここにいる?第一、あれは土御門の――」
「違いますよ」
「何?」
あの式神、前鬼は土御門家が代々保管、使役してきたもののはず。
「土御門家なんてもうありませんよ。イ・ウーが潰しちゃいました。今ではあの子は私のものだよ?おにーちゃん♪」
「な、なんだと?」
潰された?土御門が?
「うんうん!昔、おにーちゃんをいじめたやつらはみーんな!イ・ウーのみんなが殺してくれたよ!」
死んだのか?土御門家のやつらが全員?
「そうそう。だから、安心していいよ。これでもう、私とおにーちゃんを引き離すものはないんだよ!だからさあ、おにーちゃん」
遥香は、顔色一つ変えずに自分の一族が皆殺しにされたと語った遥香は、俺に向かって手を伸ばし――
「一緒に行こうよ。この世の天国、イ・ウーに♪今度こそ、ずっと一緒だよ☆」
だから、併用はどうかと思うぜ?マイシスター・・・