緋弾のアリア×IS 緋と蒼の協奏曲   作:竜羽

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五章 緋と蒼の覚醒
立ち上がれ


7月11日。

都内のとある大学病院。

その前でにらみ合う少女たちがいた。

 

「・・・何であんたたちがここにいるの?」

 

「それは私のセリフだよ」

 

「りこりんを尾行するなんて、ぷんぷんがおーだぞっ」

 

東京武偵高校の制服に身を包んだ神埼・H・アリア、星伽白雪、峰・理子・リュパン4世。

英日仏の美少女達にして、東京武偵高校の実力派生徒たちだ。

三人の手にはそれぞれ花やお菓子、フルーツなどがあり、誰かの見舞いに来たのは明らかだった。

 

「尾行なんてしてないわよ!私はここに用があるから来たのっ!」

 

アリアががうっと犬歯をむき出しながら吠える。

 

「私だってここに用があるんです!」

 

白雪もここに刀があれば斬りかかりかねない気迫だ。もっとも今の彼女は愛刀のイロカネアヤメは実家に取り上げられたため、持っていないが。

 

「まあまあ、みんな気が立っているのは分かるけどさ~。流石にりこりんもここでドンパチやるのはどうかと思うよ?」

 

理子の言うとおり、病院の前で銃や刃物を振り回すのはよくない。

至極まともなことを理子は言ったのだが、それを聞いたアリアと白雪は目を見開き、

 

「「理子(さん)がまともなことを言った!?」」

 

「二人ともひどいよ!!」

 

二人のあんまりな反応にビエエエエンッとガチ泣きする理子。

まあ、普段の彼女を知っていれば当然かもしれないが・・・。

 

「はいはい、解ったから」

 

「演技はそれくらいにして」

 

「・・・チッ」

 

二人が呆れて言うと、理子はピタリと泣き止む。

まあ、理子のおかげでつんつんした空気はなくなった。

 

「ま、あんたたちが誰を見舞いに来たのかはわかっているけど、どうやって調べたの?」

 

アリアの問いかけに、

 

「占い」

 

「レイちゃん!」

 

と二人は応える。

ちなみにレイちゃんとはレイズのことだ。

 

その後、三人は話をしながらも病院に入って行った。

 

 

 

アリアたちが入って行った病院の一室に更識簪は入院していた。

入院と言っても怪我は大したことはなく、ほとんど治りかけている。

簪以外の負傷した生徒たちは治療を終えた後、IS学園の医療室送りとなり療養している。

 

「・・・お・・姉ちゃん・・・・行かないで・・・・ごめんな・・・さい」

 

簪だけがここにいるのは、今の彼女は精神的にも衰弱しており、現に今もベッドの上でうなされている。

簪の家である更識家はかなり特殊な家柄であるが故に敵も多く、また先日の臨海学校での出来事から大混乱に陥っている。

その隙をついて、よからぬ輩が簪に手を出すかもしれないので手配された病院の、特別な病室で横になっていた。

 

「簪様」

 

そんな簪の隣に付き添っているのは、簪の従者である本音と、眼鏡をかけ長い髪を三つ編みにまとめた本音の姉、布仏虚(のほとけうつほ)である。

本音は簪の手を握りながらベッドに突っ伏して寝ており、そんな二歳年下の妹を虚はやさしく見守りながら、うなされている簪の身を案じる。

虚は更識姉妹の楯無の幼馴染であり、楯無の従者だったのだ。

しかし、楯無の訃報が伝えられたときはショックのため数週間も寝込んでいた彼女だが、先日の流無の報告を受けた際は鬼気迫る気迫で彼女の情報を集めたほど、主人のことを思っている。

 

「・・・お嬢様・・・なぜなのですか。なんで・・・!」

 

しかし、その主人思いであるが故に、今回の楯無のことで簪並に大きなショックを受けていた。

楯無が生きていたのはうれしい。しかし、報告と打鉄弐式の記録にあった楯無は国際的な犯罪組織集団に所属し、さらには溺愛していたはずの妹、簪を痛めつけた。

 

「もう・・・私の知るお嬢様はいないのですか?」

 

あまりに虚が知る楯無とはかけ離れた行動に、虚はつらそうにうつむく。その時、

 

「「失礼します」」

 

病室の扉が叩かれると、一組の男女が入ってきた。

男子の方は紺色の髪に瞳は青みがかっており、かなり整った顔をしている。しかも、体つきはかなりしっかりしており、鍛えていることがわかる。

女子の方は大和撫子を彷彿とさせる黒い髪に茶色の目をした美少女。

二人は名前を風宮祐人(かざみやゆうと)、矢代結華(やしろゆか)という。

二人とも虚、本音と同じく更識家に仕える者である。特に祐人は簪の懐刀と言われるほどだ。結華もIS学園の生徒で簪と同じ1年4組に所属している。

 

「簪様の様子は大丈夫ですか?虚さん」

 

祐人が心配そうに虚に尋ねる。

 

「ええ、容体に別状はありません。しかし・・・」

 

ベッドの上で簪はなおもうなされている。

それを見た祐人は拳をきつく握りしめる。

一方、結華はそんな簪を見て、

 

「簪ちゃん・・・こうなったら」

 

何かを決意したような表情で簪に近づき、その唇を簪の唇に合わせようとする。要するにキスである。

 

「何しようとしてんだ、お前は!?」

 

そんな結華を祐人は慌てて羽交い絞めにして止める。

 

「何ってキスよ!眠り姫を起こすのは何時だってキスなのよ!?」

 

「妄想も大概にしろ!」

 

「何よ!いつまでたっても告白できないヘタレなくせに!」

 

「なっ!?だ、だだだだ誰がへタレだ!!」

 

ギャーギャー騒ぐ二人。ちなみに、祐人は簪に―――(シークレット)である。

 

「騒がしいですよ、二人とも」

 

虚が注意するが、二人は騒ぐのをやめない。というか軽く暴れはじめた。

虚もさすがに放っておけなくなり、二人ともベッドから離そうとする。が――

 

「え?」

 

「お?」

 

「あ?」

 

何が起こったのか簡潔に説明する。

 

虚が二人に手を伸ばす。

結華が暴れたため、二人が少し体勢を崩す。

伸ばした虚の手が祐人の背中に当たる。

祐人が倒れ、当然羽交い絞めにされていた結華も倒れそうになるが、とっさに体をひねって受け身を取ろうとする。

しかし、そのまま倒れた先には簪が――

 

以上、状況報告終了。

そして、結果報告。

 

「「ああああ!!??」」

 

結華と簪の唇が重なりました。まさにミラクル!

 

「お前何してんだよ!?」

 

慌てて、結華を引き離す祐人。

一方の結華は、

 

「か、簪ちゃんとの口づけ・・・もう・・・死んでもいい」

 

なんか、陶酔していた。

この言動からもわかる通り、結華は更識姉妹、特に簪が大好きである。

 

「ふふっ、これで簪ちゃんの目も覚める・・・」

 

「そんなことあるわけが――」

 

「こ・・こは?」

 

「「本当に目覚めた!?」」

 

うっすらと目を開けて、言葉を紡いだ簪を見て祐人だけでなく、虚も叫んだ。

 

それから、本音も目覚めて簪に抱きついたり、どさくさに紛れて結華も抱きつき、虚と祐人の二人も涙を流したり、それはもううるさかったので看護婦さんに怒られました。

病院では静かにしましょう。例え緊急事態だとしてもほどほどに。

 

 

 

「――以上があの後のことです」

 

祐人が簪に、事件の顛末を語る。虚と結華も補足しながら説明していく。

 

「・・・そう」

 

それに対し簪は、ベッドの上で上体を起こしながら聞く。

 

「八神和麻武偵は現在武偵病院に運び込まれていますが、数日たった今でも意識は回復していません」

 

それは当然かもしれない。和麻の蒼之神風は、使用した後はとてつもない負担が体に襲い掛かる。

四月の合宿でも使用後には一週間も寝込んだのだ。

 

全ての報告を聞き終わった簪は顔をうつむけてポツリポツリとこぼし始める。

 

「・・・結局、私は、ダメなままだ」

 

「簪様・・・」

 

そんな簪の姿に祐人たちは、言葉をかけることができなくなる。

 

「私は・・・何のために強くなったんだろう。・・・お姉ちゃんを越えようと、お姉ちゃんの分まで私がやらないと・・・そう思っていたのに・・・」

 

無言の病室に、簪の声だけが流れる

 

「でも、・・・私はお姉ちゃんに追いつくことすらできなかった。ううん、ホントは分かっていた。追いつくなんて考えていた時点で、私は、ダメだったんだ」

 

追いつくと言っておきながら、姉と同じことしかしなかった。

それは結局、姉の物まねでしかない。

それでは、姉にしかできないことをしようとしてうまくいかないのも当然だ。

 

「私が、もっとお姉ちゃんと向き合っていれば・・・こんなことにはならなかったのに・・・」

 

姉にしかできないことがあるように、簪にしかできないことがある。

そのことに、早く気が付けていれば何かが変わっていたかもしれない。

 

「簪様、それは違う。まだやりなおs「違わないし、やり直せないよ!」!?」

 

祐人はなんとか簪を励まそうとするが、簪は大声で叫ぶ。

 

「もう、遅いよ。お姉ちゃんはもう帰ってこないし、私は、私は――!」

 

やがて、その声は震え、簪の目からは涙が流れ始める。

誰も、本音さえ声を掛けることができない中、ドアをノックする音が響く。

虚が入ることを促すとドアが開く。

 

「失礼するわ」

 

そして、入ってきたのは、

 

「また、辛気臭い雰囲気ね」

 

「お邪魔します」

 

「ヤッホ~♪」

 

アリア、白雪、理子の三人だった。

 

 

 

まあ、予想していた通りだけど落ち込んでいるわね、この子。ほんとに流無の妹なのかしら?

 

「一応、お見舞いに来たわ」

 

「・・・ありがとう、ございます」

 

私と白雪、理子が眼鏡をかけた人に持ってきたお見舞いを渡す。

 

「・・・あの」

 

「何かしら?」

 

「あなた達は、お姉ちゃん・・・流無さんのお友達、なのですか?」

 

「ふっふ~ん、その通りだよ!りこりんとルーちゃんは親友同士!出会った瞬間には通じ合えていたほどのね!」

 

理子が喜々として答える。まったく、ここは病室なのに。

 

「私もよく相談に乗ってもらっていたかな。流無ちゃんっていつも人をからかっているけど、真剣な時はちゃんと相手になってくれるから」

 

白雪の言葉には同意するわね。私も旅館で―――気持ちよかったわね。

・・・っは!?何を思い出しているのよ、わたしは!?

 

「そう・・・ですか」

 

また、うつむいちゃったわね、この子。周りの人たちもどうすればいいのかわかっていないみたいだし。

 

「私には――」

 

白雪がゆっくりと話始める。白雪がいてくれてホントよかったかも。

正直、私じゃこういうときなんて言えばうまく伝えられるかわからない。

理子もこのことは相性が悪いだろうし、和麻のほうに行っているレキはもちろん論外。

 

「私には六人の妹がいます」

 

白雪の静かだけど、はっきりとした声にこの場にいる全員が聞きいる。この時ばかりは理子も静かね。

 

「本当の妹、義理の妹みんないろんな子たちだけど、いい子たちばかりです。たまにいたずらもしますけど。

そして、私はそんな妹たちが本当に大切です。

この話を流無ちゃんにしたら何て言ったと思います?」

 

その時の白雪はやさしく微笑んでいた。

 

「『私もそんなかわいい妹が欲しい』って言っていました」

 

その言葉を聞いて、この子はさらに顔をうつむかせる。

大方、自分にそんな資格はないとでも思っているのかしらね。

 

「今のあなたに何を言っても意味はないのかもしれません。でも、あなたはまだちゃんとお姉さんと向き合いましたか?確かに、あんなことになってしまって見捨てられたと思うのは仕方がないのかもしれません。ですが、これだけは断言できます」

 

白雪は一度息を吸い込むと、凛々しい顔をこの部屋にいる私たち以外の五人全員に向ける。

武偵高の生徒会長にふさわしい貫禄があるわ。

 

「妹のことを本気で嫌う姉はいない」

 

「「「「「・・・」」」」」

 

「私が言えるのはこれだけです。失礼します」

 

白雪が立ったのを皮切りに、私たちは病室を出る。

っと、私も――

 

「私にも妹がいるけど、あの子のことを本気で嫌ったことはないわ。生意気だけどね」

 

ついでに理子も、

 

「お前がどうしようが勝手だが、このまま立ち上がることもしないのか?それじゃただの負け犬だぞ?」

 

またきついことを言うわね。現に男なんか睨んでいるし。

 

まあ、これからどうするかはあの子次第ね。

 

次は、あのバカキンジのところね。

 

 

 

夕方の武偵高の屋上。そこで俺はフェンス越しに夕日を見つめている。

俺の手には数日前の新聞がある。

そこには研修での事件を取り上げている。

そこに書いてあるのは、俺たち、武偵を批難するような内容が書いてある。

もっとも、この報道をした会社はもうつぶれているけど。

でも、そんなことはどうでもいい。

俺はこれと似たようなことを知っている。

冬休みの兄さんの事件だ。

あの時は、乗客を全員助けたのに兄さんは世間から無能の烙印を押された。

今回も、俺たちはあの状況で最善を尽くした。

護衛対象のIS学園生徒は、怪我を負ったけど全員無事だ。しかも、その怪我もあいつらの命令無視と言う自業自得。

その戦闘で俺たちは襲い掛かってきた敵を食い止め、全員傷つき、流無にいたってはさらわれた。

それなのに、世間は俺たちを批難した。

どうしろっていうんだよ。

あいつらが勝手に命令違反をして。

俺たちが止めたのに出て行って。

その責任が俺たちにあるだと?ふざけるなよ。どうやってISを止めろっていうんだよ。

しかも、流無にいたっては傷を負いながらも生徒を、自分の妹を護ってさらわれたみたいなものなんだぞ。

なんで、何でこんなことを言われなきゃならないんだよ。

フェンスを握っていた手に無意識に力が入っていくのがわかる。

 

「やっぱり、武偵なんか、正義の味方なんか、損な役回りじゃないか――!」

 

兄さんの時だってそうだ。

武偵なんて、体張って、命を投げ出して死んでも後ろ指を指される。

そんなことに、意味なんてあるのかよ。

 

「確かにそんな役割かもね」

 

俺のひとりごとにあるはずのない返答する声が聞こえて、俺は声の主を確かめるために振り替える。

いや、振り返る必要なんてない。

この特徴的なアニメ声に、風に乗って流れてくる甘酸っぱいクチナシの香りは、俺の知る限り一人しかいない。

 

「・・・アリア」

 

「まったく、辛気臭い顔をしているわね」

 

俺の相棒、アリアだ。

 

「確かに、武偵は損な役回りね。それは認めるわ」

 

「聞いてたのかよ」

 

「聞こえたのよ。まったく、少しは周りに気を付けなさい」

 

トコトコ俺の隣に歩いて来たアリアはフェンスにもたれる。風がアリアの髪をなでるたびに、俺の所にクチナシのいい香りが届く。

 

「ねえ、そういえば、私ってママのこと話したじゃない。でも、あんたの事って知らないのよね」

 

「なんだいきなり。今までそんなこと気にもしていなかったじゃないか」

 

「そ、それはそうだけど!パートナーとして私だけ知っているっていうのは不公平と言うか・・・その・・・流無にもパートナーの・・・ごにょごにょ」

 

最後の方がよく聞こえなかったが、流無がかかわっているのか?

 

「俺の事なんて知ってどうするんだ?」

 

俺が聞くとアリアは顔を赤くして

 

「べ、別に!あんたのことを知ったほうが白雪や理子に追いつけるって流無に言われたわけじゃないわよ!」

 

そこまで言った後、ハッとしたように口を押えるが、やがて観念したのか口を開く。

 

「流無に聞いたことがあったのよ。あんたがなんで武偵をやめようとしているのか。流無は答えてくれなかったわ」

 

まあ、俺が口止めしていたし、流無は、それから和麻もこういうことはべらべらしゃべるようなやつじゃないからな。

 

「でも、白雪や理子も知っているって言っていたから聞きに行ったけど、やっぱり教えてくれなくて。レイズにも突っぱねられたわ」

 

白雪も去年の兄さんの事件は知っている。

理子はイ・ウーにいたんだから当然知っているんだろうな。

レイズは言わずもがな。そもそもあの事件で兄さんを批難したマスコミを黙らせた張本人だしな。今回の事件もあいつがやったんだろう。

 

「それで、パートナーなのに私だけ知らないっていうのが、なんだか、ものすごく嫌になって」

 

アリアはいつもの勝気な態度をひそめて、指をいじりながらボソボソと言う。そのしぐさに、不意にかわいいなんて思ってしまった。

それにしても言うべきなのか?

兄さんのことをしゃべったら、その先の事、兄さんが生きていてカナだってことも、言ってしまいそうになりそうだけど。

ちらりとアリアを見る。

 

「・・・う~」

 

顔を真っ赤にして、それでも俺の顔を恐る恐るチラチラ見ている姿は、本気でかわいいと思う。

 

『キンジ』

 

不意に、あの温泉で和麻に言われたことが頭をよぎる。

 

『お前が自分の体質を嫌っていることは知っている。だが、いつまでも逃げられるなんてことはない。いつかは、お前のことを本気で思ってくれている奴と向き合わなくちゃいけない時が来る。その時、お前は立ち向かわなくちゃいけなくなる。お前自身と、お前を本気で愛してくれる奴と。今は分からなくていいさ。でもな、自分のことを言い訳にして逃げるなんてことは絶対にするなよ。相手の本気の思いには答えてやれ』

 

今のアリアは俺に真剣に、本気で向かい合ってくれている。

なら、いいかもしれないな。

 

「わかった」

 

「え?」

 

「話すよ。俺の事、俺の――兄さんのことを」

 

俺はアリアに話した。

兄さんの事。

去年の冬にシージャックで乗客全員を助けて命を落としたこと。

それを世間は「事件を未然に防げなかった無能な武偵」と批難したこと。

俺がそのことで武偵っていう存在に、世間の無常さに失望したこと。

流石に、兄さんとカナの関係のことは話さなかったけど、アリアは最後までしっかり聞いてくれた。

 

「――そう、だったんだ。・・・ごめんね」

 

「何を謝っているんだ?」

 

「前に、あんたが武偵をやめる理由を、聞いてもいないのに大したことないなんて言っちゃって」

 

ああ、あのバスジャックの後の事か。

 

「あんたも、苦しんだのよね。お兄さんが死んじゃって。なのに、私・・・。本当にごめんなさい」

 

そう言ってアリアは俺に頭を下げてきた。

いつものアリアらしくない行動に思わず俺は目を見開く。

 

「別にいいさ。俺が言わなかったんだし」

 

「それでも、あんたの気持ちを踏みにじったことには変わらないわ」

 

なんだかな。普段は傍若無人のガキみたいなやつなのに。こういうときはしっかりしているというか。貴族の家柄らしいよな。

 

「それを聞いたうえで、あんたに少し、嫌なことを言うかもしれないけど」

 

少しアリアはためらうように、口ごもった後、俺の目をしっかりと見据えて、

 

「あんた――――悔しくないの?」

 

「え?」

 

「私も、あんたと似たような思いをしたことがあるわ。ママが武偵殺しとして捕まったとき、マスコミはママのことを残虐な殺人鬼とか、血も涙もない女とか好き勝手言っていたわ」

 

それは、当然かもしれない。

アリアの母親、神埼かなえさんに着せられた罪は、どれも重犯罪と呼べるようなものばかりだ。マスコミにとっては格好のネタになるだろう。

 

「それを見た私は、とても悔しかった。ママのことをそんなふうに言うやつらがとても憎かった。絶対、ママの冤罪を晴らして、こいつらに謝らせてやるって思ったわ」

 

アリアの性格らしいな。

 

「それで、あんたは悔しくなかったの?お兄さんの優秀さを世間に証明してやりたいって思わなかったの?」

 

そんなこと、考えたことなかったかもしれない。

ただ、ただ、失望の思いしかなかった。でも、

 

「でも、俺にそんなことはできない。そもそも、俺が武偵になろうと思ったのだって、100パーセント、自分の意志だったかも怪しいんだ」

 

「どうして?」

 

「・・・俺の家は、アリア、お前と同じように、昔から代々、正義の味方をしてきたんだ。俺もその末裔として、そう言う存在になる、それが当たり前な気がして流されていた気がするんだ」

 

でも、俺は兄さんの事件で武偵をやめようと決心して、この間のカナとの再会でその気持ちが強くなってしまった。

優しかったカナ、兄さんが言った言葉。

 

――アリアを殺しましょう――

 

虫も殺さないくらい優しかった兄さんが、人間を、それも同じ武偵のアリアを殺そうなんて言い出すなんて・・・。

あの人は変わってしまった。

何があったのかなんて、俺には見当もつかない。

でも、それには武偵っていう仕事の闇がかかわっている気がする。そして、それは間違いない。

そうならないために、俺は武偵なんてやめるべきなんだ。

 

 

――本当に?

 

 

「そう、あんたの家もいろいろあるんだ」

 

「まあ、な」

 

まさか、こんなに自分の思いを口にするなんて。少し驚きだ。

 

「でもさ」

 

アリアは俺の前にまで来て、その小さな手で俺の顔を掴むと、引き寄せる。

な、なかなか強い力だな。さすがSランク武偵。

 

「――このままでいいの?」

 

「え?」

 

「確かに、武偵高(ここ)にいるのはあんたの意思じゃないかもしれない。でも、あんたが依頼(クエスト)を達成した時、あんたに感謝してくれた人がいたはずよ」

 

「それは、まあ」

 

ハイジャックの時とか、助けた乗客にお礼を言われたこともあったっけ。

 

「だったら、意味はある。流された結果かもしれないけど、その人達を助けたのは紛れも無いあんたの意思。それは誇るべきなのよ」

 

おいおい、今日は一体どうしたんだ?あのアリアが俺をここまで褒めるなんて。

 

「――忘れないで。例え流された結果だとしても、あんたの力を必要としている人がいることを。それに応えるかどうかはあんた次第。でも、後悔だけはしてはいけないわ」

 

そこまで言うと、アリアは俺の顔から手を放して、背を向ける。

 

「これからどうするかは、あんたの自由。でも、私は攫われた仲間を、傷ついた仲間の仇をとる。武偵としても、友達としても、神埼・H・アリアとしても私はそう決めた」

 

攫われた、流無。傷ついた和麻・・・。俺のことを去年から気にかけてくれていた二人。

 

「7月7日の七夕祭りであんた、私に付き合ってくれるっていったけどさ。これは私の完全な私情。無理に付き合う必要もないわ。でも、後悔だけはしないでね」

 

そう言い残すと、アリアは出て行った。

 

「は、はははっ、わけわかんねえよ。アリア、お前とりあえず、言いたいこと言っただけだろ?全然つながっていないし、脈絡なさすぎだって」

 

まったく、コミュ症の癖に何なれないことをしてんだよ。同じコミュ症の俺が言うことじゃねえけどさ。

でも、解ったよ。俺を励まそうとしていることが。よく、解った。

もう一度夕陽を見る。

その色は赤い、緋色に輝いていてそれが少しアリアの髪の色に被る。

それを見ながら、思う。

もう一度、カナと、兄さんと話をしてみよう。それからでも、遅くはないかもしれないのだから。

 

 

 

遥かなる蒼穹。

すべてが彼の者に満たされた空間。

そこはすべてが彼の者その者。

そこに置いては、俺みたいな人間はただの脆弱な存在だ。自分を保つことすら難しい。

もうどれくらいになるだろうか。

ここで――

 

「次」

 

「うおおおおお!!??」

 

槍を持った白髪の女の子に、殺されかけているのは。

 

「どんどん、逝く」

 

「『いく』の文字がなんか違う気がするぞ!?」

 

「気のせい」

 

「うわああああ!!?」

 

チクショウ、何でこんなことになったんだ?

いきなり、目が覚めたら風の精霊王がいるところに、精神だけ来て、試練を受けろとか言われて、現れた白髪に蒼い目をした女の子が槍を手に襲い掛かってきた。しかも、その槍から撃ち出される風の攻撃は、俺の蒼之神風並だし。

 

人生っていうのは何が起こるのかわからない、予測不能な事象っていうのがある。

 

俺の持論がまさに的中した。

 

俺はこれからどうなるのだろうか?

 

「よそ見、ダメ」

 

「ぎゃあああああ!!??」

 

 

 

 

余談。

 

「キンちゃんを慰めるのは私の役目だったのに!?」

 

「まさか、りこりんを出し抜くなんて、アリアのくせに生意気だぞ!」

 

「ちょ、あんたたちいい加減やめなさい!」

 

鎖鎌に、銃を持った巫女さんとゴスロリ少女に追い掛け回される、ピンクツインテールのちびっこが叫びながら武偵高の周りを走り回っていたということを、キンジは知らない。

 

 

 




五章開幕。
なかなか難しかったです。キンジとアリアの所なんか何書きたいんだろうって何度も思って書き直ししましたし。・・・大丈夫ですよね?

なんか、前回の投稿でお気に入りが大きく減ったのですが、そんなに気に入らなかったのだろうかと少しへこんだ。・・・せめて悪い点は教えてほしいです。

今回登場したオリキャラ二人はeibroさんから頂いたキャラです。

風宮祐人(かざみやゆうと)
16歳
容姿:紺色の髪に細マッチョ一歩手前。瞳は青みがかっていてカナに劣るがイケメン。通っている学校が私服なため、常に防刃・防弾製のシャツとジーンズを着ている。

簪たちと同じ中学に入学。学校生活を送りながらも、簪たちを見守り、更識家の訓練を受けていた。
普通の言動ではタメ口や敬語を使うが、キレると誰彼構わずにタメ口であり、辺り構わず破壊する(もちろん、ある程度の理性は働いているので仲間には当たる確率が低い)。戦闘だけじゃなく、技術関連に関しても相当な腕前を持ち、その腕前は簪の専用機開発を手伝えるほど。原作より簪の打鉄弐式が完成するのが早いのは、祐人がすぐに倉持技研の篝火ホタルノを脅して、マルチロックオン・システムなどのデータの基盤を届けたから。その時の様子をホタルノはこう語る「阿修羅だったなー。初めて見たよ」。
二人っきり(虚と本音だけでも)の時は簪と呼びますが、周りに人がいれば様付けで呼ぶ。楯無は呼び捨て。


矢代結華
十五歳
容姿:大和撫子を彷彿とさせる黒い髪。目は茶色。胸は楯無に劣るがデカめなので簪に目の敵にされている。
更識家に仕える人間の一人で、年も同じなので簪とよく一緒にいる一年四組の所属するIS学園の生徒。
だが実際は覆面と変声機で声を変えて裏の仕事をしており、簪の負担を和らげようと努力している人間の一人。
更識姉妹―――特に簪が大好きであり、胸を揉むなどしている。特に簪をからかった人間や罵倒している人間には厳しいが、立場を悪くするのを知っているのでIS学園に入学してからはしていないが、裏では五寸釘を打っている。ちなみにだが、倉持技研には関係ない祐人を行かせているが、裏では興奮剤を渡していた。


こんな感じです。設定は後々変更するかもしれませんが。

それでは、次回も頑張ります。
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