緋弾のアリア×IS 緋と蒼の協奏曲   作:竜羽

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目覚めの風

目を覚ましたらウサギ地獄だった。

何を言いたいのかわからないだろうが、そうとしか表現できないんだ。

あの後、『太陽の船』で兄さんを倒して、海に放り投げだされて意識を失った俺は車輪科(ロジ)の休憩室に寝かされていた。

そして、隣でパイプ椅子に座って看病していた白雪に、向いていたウサギリンゴを、

 

「キンちゃんキンちゃん!桟橋に倒れているのを見た時は、本当に心配したんだよー!目が覚めて・・・ほんとに、よかったぁ・・・ふぇ、ふえぇ・・・。キンちゃん!まずは栄養を取ろう!食べて食べて!!」

 

と、泣きながら口に突っ込まれたんだ。本当に窒息するかと思った。なんか最近ウサギで居思い出ないぞ。

そして、壁の時計に目をやると朝の七時を指していた。

アリアが撃たれたのは昨日の午後六時。兄さんの話が本当なら、アリアの命はあと11時間しかない。

急ごうとするけれど、アリアの居場所がわからなくていらだつ俺の耳に、

 

「アリアは・・・海にいる」

 

白雪のつぶやきが耳に入った。

 

「――海?」

 

「占ったの。アリアがどこにいるのか」

 

「東経43度19分、北緯155度03分。太平洋、ウルップ島沖の公海。理子がアリアの服にこっそり仕込んでおいたGPSも同じことを言っているよ。キーくん」

 

俺とも白雪とも違う声に振り向くと――

ドアのそばに、ポケットPCを振って見せる理子が立っていた。

なぜか右目にハート形の眼帯を付けて、ナース服を着て。

 

「目が覚めたか。遠山。良かった」

 

さらに扉からは、松葉杖をついたジャンヌが入ってきた。

二人に促されて俺と白雪は、車輪科(ロジ)を階下に降りていく。

 

「カナから、私たちに電話があった。イ・ウーでのカナは、私と理子の上司だった。私たちはカナを敬愛している。だからどんな協力でもする、と伝えたのだが・・・カナは3つの事しかしゃべらなかった。アリアがパトラに攫われたこと。お前にイ・ウーの話をしたことと、その内容。そして、私もにわかには信じられなかったが・・・お前に自分が破れたこと」

 

兄さん・・・。

正直、自分が何をして、どうやって勝ったのか、よくわかっていない。

あの時に俺の中で目覚めた何か。

もう一度、あれをやれと言われてもできる自信はないけれど、兄さんは俺にかけてくれたんだ。

 

その後、ジャンヌと理子からパトラのことを聞きながら車輪科(ロジ)を進む。

パトラは、名前から察することができるかもしれないがクレオパトラの子孫らしい。

昆虫のスカラベを使い魔にして、相手に呪いをかけることもできるらしい。実際、理子とジャンヌも呪いをかけられて、理子は右目に眼疾を患い、ジャンヌは右足を痛めた。

その言葉に俺の頭には一つの光景が浮かんだ。

研修の前日に行った七夕祭りでアリアの浴衣の中に虫が入り込んだ。今思い出せばあの虫もスカラベで、その呪いでアリアの水上バイクはエンストを起こしたんだろう。

パトラは誇大妄想の気があるらしく、自分が『クレオパトラ7世』の生まれ変わりと称し、生まれながらの覇王(ファラオ)と思い込んでいて、『教授』が死んだら自分がイ・ウーのリーダーになり、世界征服をして自分の王国を築くつもりらしい。

理子とジャンヌもそんなパトラがイ・ウーのリーダーになることはいやらしい。

話しているうちに、俺たちはエレベーターで車輪科(ロジ)のドックに向かう。

 

 

 

エレベーターホールにはハイマキとレキが座っていた。

俺たちの姿を見たレキは立ち上がり、傍らに置いてあったアタッシュケースを持つ。

 

「キンジさん。キンジさんはアリアさんを救出しに行くのですね」

 

「――仲間がやられて、黙っていられるかよ」

 

それに、アリアがやられたのは俺が油断していたせいでもあるしな。

 

「では、これを」

 

レキが渡してきたアタッシュケースには、強襲科(アサルト)時代に俺が使っていたB装備とベレッタ・キンジモデル。そして、兄さんにもらったバタフライナイフが、きちんと磨かれて収まっていた。

ありがたい。これで武偵ひとり分の働きができる。

 

「銃ですが、かなり部品交換されています。前の銃は内部が溶解して二度と使い物にならなかったのですが、装備科(アムド)の文さんが直してくれました」

 

「そうか」

 

多分最後の銃弾、銃弾加速(ブラスト)のせいだろう。ヒステリアモードの視力で見た限り、あれは炎を爆発させて、その後も推進力で加速させていた。一歩間違えれば銃が爆発しちまうな。

 

「これも、キンジさんの上着のポケットに入っていました」

 

レキが取り出して渡してきたのは――兄さんがパトラから渡されていた砂時計。

特殊なつくりをしていて、常に砂が上から下に落ちるようになっている。砂は・・・もう半分も落ちている。

おそらくこれが、アリアが生きていられる時間――タイムリミットだ。

兄さんは俺にこれを託してくれた。

――やってみろ、キンジ。

そう言う意味なのか、兄さん。

 

「お前はいかないのか?レキ」

 

レキはアリアと結構中が良いので聞いてみるとフルフルと首を振った。

 

「一緒に行くのは白雪さんが適任です。ご本人も希望されています。それに私にはやるべきことがあります」

 

「なんだ?やるべきことって?」

 

「風が教えてくれたのです――もうすぐ、時が来ます」

 

「時?」

 

レキの言葉に俺が首をかしげた瞬間、

 

「師匠!」

 

と言う声がしたので、振り返ってみるとそこには

 

「風魔!?」

 

俺の戦妹の風魔がいた。

いや、風魔だけじゃない。

その後ろにはアリアの戦妹の間宮あかりに、間宮のアミカ・グループの佐々木志乃、火野ライカ、島麒麟ほか武偵高の生徒たちだ。

間宮達以外の生徒は、よく見たら強襲科(アサルト)の死ね死ね団や、今年の春にバスジャックで助けた奴らじゃないか。

 

「拙者たち、師匠のお見送りに来たでござる」

 

「アリア先輩を、必ず助けてきてください!」

 

「星伽先輩の事も守ってくださいね!」

 

「先輩!しっかりやってきてくださいっす!」

 

「キンジ!武偵はやられたらやり返すもんだぜ!」

 

「目にものみせてやれ!」

 

「ファイトです!遠山先輩」

 

『通信機からすみません、中空知です。私も遠山君たちのご武運を祈っています』

 

『同じく通信機からのレイズだ。まあ、あんまり気負いすぎるなよ。でも帰ってこ~い』

 

みんな・・・。

思わず涙が出そうになるのをこらえる。

 

「ああ、行ってくるぜ」

 

俺は理子からアリアの防弾制服を受け取って、海につながっている車輪科(ロジ)のドックに向かった。

武偵高のみんなの声援を背中に浴びながら、必ず武偵高(ここ)にアリアと帰ってくることを胸に刻みつけながら。

 

 

 

その後、キンジと白雪は、ジャンヌたちが武偵高に潜入するときに使った、超スピードを出す魚雷を改造した乗り物『オルクス』に乗り込み、レキ、理子、ジャンヌ、武藤、不知火、武偵高生たちが見送る中、アリア救出に出撃した。

 

「――風が、呼んでいますね」

 

そして、レキは踵を返して、歩いて行った。向かう先は――

 

 

 

更識簪は思う。

なぜこんなことになったのだろうかと。

自分は退院した数日後、IS学園の一学期終業式に出席し、その後の昼下がりにその足で武偵病院に入院している姉の恋人(まあ、厳密には違うのだが)である八神和麻が入院している武偵病院に従者の四人と共に向かっていた。

いまだ自分がどうしたいのか、何をすべきなのかはわからないが少しでも前に進もうと、あの三人の強い少女たちに会って話したことで思えた。

そのためにも、自分自身の誓いみたいなものを立てようと、一度和麻の見舞いに行こうと思ったのだが・・・

 

「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」

 

なぜか、簪たちの後ろにIS学園の一年生専用機もちたちがいる。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

その後ろには付き添いとして、教師の織斑千冬と山田真耶もいるのだが、はっきり言って無茶苦茶気まずい。

さっきから無言なのだ。

移動中はまあ、少しは会話があったのだが武偵病院に近づくにつれて無言になっていったのだ。

そもそも、簪たちと彼らが鉢合わせたのは完全に偶然だったのだが、行先が同じなので自然と一緒に行くことになり、いろいろ負い目がある彼らはテンションを下げまくっているということなのである。もう、なんか黒い瘴気?の様なものを纏っている感じ。

 

「(簪ちゃん。ものすごく居心地悪いんだけど)」

 

簪に結華が近寄って耳打ちする。

 

「(それには激しく同意。けれど、かといって追い返せない)」

 

まあ、ここまで落ち込んでいる人たちに「気まずいから離れて」などと言える人はかなり非情だろう。

 

「(命令されればすぐに追い返しますよ)」

 

いや、ここにその非情な人間がいた。その名は風宮祐人。簪の懐刀であり、ひそかに思いを寄せながらも告白できないヘタレである。

 

「(だめ)」

 

「(・・・了解)」

 

そんなこんなで彼女たちは武偵病院にやって来た。

入った瞬間、彼女たちにものすごい視線が集中する。

簪たちはIS学園からそのまま来たため、制服のままなのだ。故に病院にいた武偵達はすぐに彼女たちがIS学園の生徒だと分かったのだが・・・その視線ははっきり言って歓迎しているようなものではない。

中には睨み付けている者もいれば、今にも拳銃を抜きかねない殺気を飛ばす者までいる。

それも当然だと簪は思う。

なにせ、先日の臨海学校の事件で明らかにIS学園側に非があるにもかかわらず、世間では武偵が批難されたのだ。それは少なからず武偵達の活動に支障をきたした。そして、ここは武偵専門の病院。自分たちがどんな視線を向けられるかなど――

簪たちは受付で和麻の病室を聞き、そこに向かう。

すると、その途中で――

 

「あ」

 

ヘッドフォンを着けた、翡翠色の髪が特徴の少女レキに出会った。

レキは武偵高でキンジ達を見送った後、すぐさま武偵病院に戻ってきたのだ。ちなみに、時刻はもう昼の1時である。

簪たちはレキに話しかけようとするが、レキは簪たちの方を少し見た後、スタスタと歩いて行った。

その後を慌ててついて行った簪たちは、彼女がとある病室に入っていくのを見て、それが和麻の病室だと分かると、同じく静かに入っていった。

 

 

 

中に入った簪たちはその光景に目を疑った。

なにせ、一人部屋の病室には見舞いの品(刀の砥石や武偵高饅頭)に、大量の花束(ノコギリソウ。花言葉は戦い)で溢れかえっていたのだ。花束にいたっては葬式の棺桶の中じゃね?っていうくらい置いてあり、軽くいやがらせみたいになっているが・・・。

そのなかで、和麻はベッドの上で点滴を受けながら眠っていた。

そばのパイプ椅子にはレキが座っていた。

レキは簪たちが入ってきても何の反応を示さない。

 

「和麻さん」

 

そして、レキは話し始める。

 

「アリアさんが攫われました」

 

その内容に簪たちは驚く。しかし、やはり何の反応も示さず淡々と話すレキ。

 

「キンジさんは、アリアさんを助けるために砂礫の魔女の元に向かいました」

 

まるで、和麻の心に語りかけるように、レキの声だけが病室に響く。

 

「あなたは、立ち上がらないのですか?」

 

それは、まるで歌のように、

 

「あなたは剣」

 

詩のように

 

「あなたは風」

 

祈りのように

 

「自由気ままに蒼穹を舞う、孤高の風の剣」

 

響いていく。

 

「目覚めてください。最強の――風術師として――」

 

そして、時は――来た。

 

最初に気が付いたのは誰だろうか。

気が付けば、風が吹いていた。

病室という限定された空間ではありえない、風が吹き始める。

それはどこまでも穏やかで、優しく、心地いい風。

 

「・・・レキ」

 

「はい」

 

「とりあえず、何かカロリーのある物」

 

「では、カロリーメイトチーズ味を」

 

 

 

武偵高のドッグから発進した『オルクス』は時速300キロという、嘘か本当かわからない超高速で海を進んでいく。

その中で、ホワイトチョコレートの様な保存食を白雪と食べながら、パトラの戦闘力を推測する。

パトラはG推定25――世界最強の魔女(マツギ)の一人で、ピラミッド型の建物があれば無尽蔵に魔力を扱えるらしい。

白雪やジャンヌを普通の鉄砲に例えると、パトラは砲弾の尽きない選書の様なもの。

そんな奴からアリアを助けられるのか、不安になったが俺は見送ってくれた武偵高のみんなや、俺にかけてくれた兄さんのことを思い出して、不安を振り払う。

 

やがて、発進してから10時間。

GPSが指し示す海域まで来たところで、周囲に巨大な物体の反応があった。

不審に思いデジタル潜望鏡を使うと、なんとシロナガスクジラの群れがいたのだ。

その光景に驚きながらも、クジラたちの間をかき分けて進むと・・・クジラたちの潮吹きが作りだした霧の向こうから――

なんということだ。

あれは、あの船は――!!

 

「・・・ア・・・アンベリール号・・・!」

 

何度も写真を見た、去年の12月に浦賀沖で沈没し、兄さんが失踪した豪華客船が・・・サルベージされて幽霊船のように浮いていたのだった。

かなりの改装が施されており、巨大なピラミッドを増築され、前方に砂でできた陸のような部分を増設されていた。もう船とは言えないな。

わかる。あれはパトラの『無限魔力』の魔法陣に違いない。

 

「これ・・・かなりアレンジされているけど、古代エジプトの神殿を模している。しかも、全部、魔力で造ってる。クジラたちも魔力で呼び寄せているんだよ。魚雷なんかで攻撃された時に盾にしようとしているんだよ。きっと」

 

白雪の言葉に俺は眉を寄せる。

このデカい建築物が全部魔力か。

このピラミッドを壊すことは、今の俺たちには無理だ。唯一壊せそうな和麻もいない。

無限魔力のパトラ。今までで一番の強敵になりそうだ。

俺たちは浮上して、アンベリール号に漂着。

ピラミッドの前に立っていたパトラの像の足の間を進んで、ピラミッドの入り口らしきトンネルに向かう。

防弾ベストのポーチから取り出した砂時計を見てみると、もう砂は、ほとんど落ちていた。

腕時計で確認した、アリアの命のタイムリミットは――僅か24分――!

 

 




次回予告
決意を固めてアリアの救出に出発したキンジと白雪。
二人の目の前に現れたのは、沈没したはずのアンベリール号。それはパトラによって作り替えられ、巨大な魔法陣となっていた。
その中では無限の魔力を操れるパトラにキンジと白雪は追いつめられていく。
絶体絶命の二人の元に現れたのは――カナと和麻――!
圧倒的な力でパトラを圧倒する二人に、さらには遥香まで参戦する。
激突する兄と妹の戦いは意外な結末に――!

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