緋弾のアリア×IS 緋と蒼の協奏曲   作:竜羽

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和解・覚醒・そして・・・

風の神器『蒼穹覇王』から撃ち出したのは風の塊。

何のひねりも無い、ただの風の槍を二、三本撃ち出した。

しかし、その風は今まで俺が操っていた風とは全く違う。

練り上げた気を、揺るがなき意思を風の精霊に伝え、極限まで力を高めた圧倒的な力を持った風だ。

 

名を、神風・蒼風(そうか)

 

蒼之神風のような、単に威力を底上げしたものではない。

込められた力も、意思も、思いも何もかもが桁違いに上がっている。

その理由として、風の精霊王の神器を媒介に力を増幅しているというのもあるが、一番の理由は俺の勘違い(・・・)が解消されたからだろう。

今まで、俺は風術を精霊というエネルギーを使って風を操る、同化する異能と思っていた。事実、おっさんもそれを否定しなかったしな。

だが、風の精霊王との謁見とあの空間での試練から、俺は真実を知った。

精霊とは、世界そのものであり、意思を持っているのだ。

意思を持つ者を無理やり従わせるなど、非効率的すぎる。

だから、風をもっと感じることにした。

彼らの意識に耳を澄ませ、声を聴く。

そうすることで、より簡単に、より楽に風と意識を同調できるようになった。

おかげで、あまり疲れ無くなったし、強くなれた。

その果て、極めた先が神風。

自分の気の色に染まった風だ。

 

「そんな・・・うそ」

 

さて、式神を一瞬で吹き飛ばされたマイシスター、遥香だが、

 

「っ!まだ!まだです!!」

 

いつまでも呆けていない。いるわけがない。

 

「これが、私の本気!遥香のとっておきです!」

 

遥香が地面に手を付けると、急激に周囲の温度が下がり始める。

ぱきぱきと、凍りつき始めている。

キンジ達は、いない。

俺が式神たちを吹き飛ばした瞬間、流砂が起こり、下の階層に流されていったみたいだ。

 

「今のおにーちゃんの力はまさに絶大。私を完全に超えています。だったら!」

 

どんどん下がっていく部屋の気温。もう氷点下まで下がっている。

冷気がピラミッド内部をどんどん包んでいく。

俺の足さえも、凍りついた。動けない。

この速さで下がり続ければ、いずれ――

 

「永遠に、一緒にいよう。もうはなれないで、おにーちゃん」

 

遥香は、涙を流しながらそう言う。

その涙さえも、凍りつき、空気中の水分と一緒にダイヤモンドダストとなって舞い始める。

 

「――絶対零度の式(アブソリュート・ゼロ)――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチンっ

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

遥香が呆けたような声を出す。

 

「はいはい。もうここまでだ」

 

俺はあきれたような声を出しながら、一歩を踏み出す(・・・・・・・)

 

「なんで?なんで、私たちは、生きているの?」

 

「そりゃ、俺が解除したからな」

 

遥香の切札。

絶対零度の式(アブソリュート・ゼロ)

周囲の気温を下げ、氷点下273.15度の全てが凍てつく絶対零度へといざなう。

それは術者も巻き込んだ自爆の術式だった。

本来はそんな術式じゃないのだが、遥香が自分をまきこんだ自爆技に改造したんだろうな。

 

俺と心中するために。

 

だけどな、俺はそんな気はさらさらないんだ。

俺は死ぬのが一番嫌いだ。

そして、お前も――

 

「お前も死なせない。なにせ、俺のたった一人の妹なのだから」

 

俺は呆けて座り込んでいる遥香の所にゆっくりと近づく。

俺がしたことは単純だ。

指を鳴らした瞬間、冷気を操っただけ。

なにせ、冷気は冷たい空気。ならば、風を、空気を統べる俺に操れない道理はない。

俺自身は風の結界で、真空をつくりだせば冷気は防げるし、遥香の周りを温めてやれば大丈夫。

そうやって防ぎながら、俺やカナが開けた穴から外へと冷気を逃がす。

 

「あ・・・」

 

呆けていた遥香の前に立つと、俺は蒼穹覇王を傍らに置きながらしゃがみこむ。

そして、俺は遥香の身体を思いっきり抱きしめた。

 

「ふぇ?お、おにーちゃ」

 

「――ごめんな」

 

顔を赤くして、少しあわてる遥香をぎゅううっと抱きしめる。

 

「黙っていなくなってごめんな。帰って来たのに、お前に会いに行かなくて、ごめん。そして――お前を一人にしてごめん」

 

ただ、ただ俺は繰り返す。

ごめん――と。

あの日、勘当を言い渡された日。

せめて、遥香に一目会って、何か話していれば、何かが変わったかもしれない。

遥香の思いが、ゆがんでしまうことなんてなかったかもしれない。

 

「もう、お前の前からいなくなったりしない。例え、いなくなったとしても、必ず帰ってくる・残念ながら兄妹の関係を超えることはできないけど、そんなことしなくてもいいんだ」

 

ゆっくりと、遥香の頭を撫でながら、その黒髪を愛おしげに撫でながら俺は言葉を紡ぐ。

 

「だから、帰ろう。お前も一緒に、武偵高に」

 

「――ホント?おにーちゃん」

 

「ああ」

 

「もう、いなくならない?」

 

「ああ」

 

「ちゃんと――帰ってくる?」

 

「ああ」

 

「おにーちゃん・・・」

 

「遥香」

 

「おにーちゃん・・・!」

 

「遥香。お前のおにーちゃんは、約束は必ず守るぞ」

 

「おにーちゃあああああんん!!」

 

それからしばらく、遥香は俺の腕の中で泣き続けた。

泣きながらも遥香の顔には、憑き物が落ちたみたいな晴れやかな笑顔が浮かんでいた。

 

(「みせつけてくれるじゃない」)

 

だまれ、そこ。雰囲気壊すな。

 

 

 

さて、笑いながら泣きついてくる遥香をあやしながら、風を通してキンジ達の様子を見る。

流砂に流されたキンジは・・・なぜか棺の中に入っているみたいだった。

ミイラ取りがミイラになっているじゃねえか。

心の中で頭を抱えていたら、

ずずんっ・・・

爆発音のような音が聞こえ、ピラミッド全体が揺れた。

 

「なんだ?」

 

「たぶん、パトラさんです」

 

俺の呟きに遥香が応える。

 

「この船を沈没させるつもりなのでしょう」

 

なるほど。カナと戦って、勝ち目がないと分かったから自沈させようってことか。

だが、悪いことばかりじゃない。

今の振動でふたが少し上がり、棺の中からアリアとキンジが這い出してきたのが見えた。

だが、まずいな。二人の所にパトラがやって来た。

キンジはベレッタをフルオートで撃つが、砂金の盾に阻まれてしまう。

このままじゃ――

しかし、もう遅い。

パトラはその手に持った狙撃銃・WA2000の照準をアリアに定め・・・撃った。

 

キンジはそれをかばう。

 

回避は――不可能だ。俺の援護も無理だ。今からじゃ音速で飛ぶ弾丸に対処できない。

 

キンジも対処できない。

 

丸裸のアリアもだ。

 

そして、キンジはアリアを背中で押し飛ばすようにして、真後ろにひっくり返った。

キンジは頭部を――撃たれた。

 

――キンジ・・・!いやっ、いや・・・いやああああ!!――

 

アリアの叫びが、聞こえる。

慟哭が、悲しみの声が風に乗って伝わってくる。

 

―――――キ ン ジ ぃ――――!!!!!!!!

 

ここまで聞こえてきた、アリアの絶叫。

その声に遥香も、何が起きたのか察し、表情を曇らせる。

 

だが、

 

「――!」

 

俺は感じた。

なんだ?

この感じは。

風が警鐘を鳴らしている。

風の精霊が、俺に逃げろと告げる。

彼らに意思はあるのだが、自我と呼べるものはない。しかし、そんな彼らが警告をするというのは、尋常じゃない事態だ。

 

「シャーリーズ!」

 

(「わかっているわ!」)

 

蒼穹覇王は即座に姿を蒼い鳳に変えて、俺と遥香を掴んで飛び立つ。

そのまま、ピラミッドの壁をぶち破り、外の海上に出た瞬間――

 

――――――――――――――――――――――!

 

光が弾けた。

それは、まるで燃え盛る太陽の様な緋色の光が、超新星爆発のように弾け、俺たちの視界を塗りつぶしていく。

 

パシュウウウウウウウウウウウウウウッ――――!

 

爆発音でも銃声音でもない音が響き、ピラミッドの上部は、何もなくなっていた。

音も無く、熱も無く、何の衝撃も、風の揺らぎも無く。

 

――消滅させられていた――

 

あの、緋色の光によって。

それを俺と遥香は、シャーリーズの足に捕まりながら、呆然と見つめていた。

 

 

 

しばらく、兄妹そろって呆然としていたがいつまでもそうしている訳にもいかないので、ピラミッドから出てきたアリアたちに合流する。

驚くべきことにキンジは生きていた。

なんでもとっさに銃弾を噛んで(・・・)止めていたらしい。お前も大概チートになってきたな。

で、

 

「初めまして皆さん。カズマの眷属のシャーリーといいます。気軽にシャーリーと呼んでくださいね」

 

シャーリーの自己紹介をすることにした。

ちなみに、キンジの話によるとあの緋色の光を放ったらしいアリアは、武偵高の夏制服に着替えている。

パトラはキンジ達が入っていた棺になぜか閉じ込められていた。

ぎゃあぎゃあ騒いでいたが、カナが話しかけると大人しくなってしまった。まさか、パトラって・・・

 

「け、眷属?」

 

「はい。わたくはカズマの僕なのです。この身の全てを和麻に捧げなくてはいけないのです」

 

「おい、誤解を招くような言い方をするな」

 

アリアがなんか睨んでいるぞ。

このままシャーリーに任せるのはいろいろまずそうなので、俺が説明する。

 

「こいつは精霊王からもらった神器、蒼穹覇王に宿っている精霊王の直属眷属だ。本来ならこんなふうに人間らしい感情は持ち合わせていないんだが、神器を生み出す際に俺の魂を少し混ぜ合わせたから、こんな感じになったんだ」

 

あの槍、虚空閃でもよかったんだが、やっぱ俺に槍は似合わないから造り直してもらった。その時に、この方法を提案されてOKしたんだよな。

っていうか、その白い髪の女の子が精霊王だったんだよな~。

なんか、俺が蒼風を出したら、いきなりそれまでの無口キャラを変えてきた。あれには呆けてしまったな・・・。

 

「た、魂って、大丈夫なのかよ!」

 

キンジが少しあわてて聞いてくる。

 

「大丈夫だ。別にそれで寿命が縮んだりしない。それにそのおかげでこいつとは回線(パス)が繋がっていて互いの状況を把握できるし、俺の命令をタイムラグなしで伝達できる。戦闘のサポートもしてくれるといいことだらけだぞ」

 

俺の言葉でほっとするキンジ。見てみれば、遥香、アリア、白雪も同じ表情をしている。

 

「あのおっきな鳥になるのもその子の力なの?」

 

白雪が小さく挙手をして質問してくる。

 

「あれはシャーリーの能力じゃないな。精霊獣の応用だ」

 

精霊獣とは、精霊の一群を仮想人格に制御させて、一個の生物に見立てて使い魔のように使役する、精霊魔術と儀式魔術の融合によって生み出された「魔術武器」のことだ。

仮想人格に精霊の制御を分担させるので、術者の本来以上の力を持たせることもできる。

もっとも、精霊を術者が直接統御するのではないため、下された命令を実行するまで僅かなタイムラグが存在する、細かい指示ができないなどのデメリットもあるが、

 

「仮想人格の代わりにシャーリーの意識を核にしているから、デメリットが全くない。それがあの蒼き鳳、シャーリーズだ」

 

白雪が納得した後、今度はカナが手を上げる。その手にデカい大鎌を持っている。なんでも三つ編みの中に分解して隠していたらしい。それがあの流無を吹き飛ばした正体だったのか。

 

「あの神器、蒼穹覇王ってどんな力があるのかしら?」

 

「基本的に俺の力を増幅したりすることかな。あとは、風に分解して形状を自由自在に変化させることができる」

 

俺はシャーリーに蒼穹覇王になってもらい、元々の刀の形態から槍、鎌、斧なんかになってもらった。

全員面白そうに見ている。

 

「まあ、こんなところか」

 

さて、これからどうしたものか。

シャーリーズで戻ろうにも、この人数じゃ定員オーバーだし、武藤たちが迎えに来るのを気長に待つかな。

と、俺とキンジが一息ついたとき。

 

カナが「ハッ」として、海の方を振り向いた。

 

「・・・・・!」

 

そのまま無言で、何かを探し始めるカナ。一体どうしたのかといぶかしんでいると、

 

「キンジ・・・逃げなさいっ!」

 

と、叫んだ。

その動揺ぶりに俺たちは訳も分からずにいると、

 

「まさか・・・おにーちゃん!今すぐシャーリーズを!」

 

遥香まで慌て始めた。

そして、俺も感じた。

さっきの緋色の光。あれに近い感覚が全身を駆け巡る。

 

何かが来る。とてつもない、何かが――!

 

ず・・・

ずずずず・・・

 

大洋が揺れる。

アンベリール号が、いな、海が震える。

 

「あそこ!」

 

こういう緊急時に勇猛さを発揮するアリアは指をさす。

その先、数百メートルほど先の海の上が、持ち上がっている!?

 

っざあああああああああああああああああ!!!!!

 

やがて海水を滝のように流しながら現れたのは、30mのシロナガスクジラのさらに十倍もの大きさはあろうかという、巨大な黒金の塊だった。

その波浪がアンベリール号を木の葉のように揺らし、俺は遥香を抱きかかえながら、振り落とされないようにしがみつく。

黒光りするその、明らかに人工物だと思われるそれは、アンベリール号の前でターンする。

そして、目にした。その物体の横に書かれた『伊U』の文字。

それを見て、俺は確信した。そして、それはキンジも同じだろう。

 

()』――それは、かつて日本で使われていた潜水艦を示す暗号名。

 

U(ウー)』――これもまた、ドイツで使われていた潜水艦のコードネーム。

 

これは、潜水艦だ。

 

()U(ウー)の正体は――この馬鹿でかい潜水艦だったんだ!

 

全長3000m以上はあろうかというこの潜水艦。俺は見覚えがある。

これは武藤が平賀さんと作っていた潜水艦――

 

「ボストーク号・・・!」

 

キンジのつぶやきの通り、史上最大の原子力潜水艦だ!

だが、なぜそんなものがここに?

 

「そう。これは、かつてボストーク号と呼ばれていた・・・戦略ミサイル搭載型・原子力潜水艦」

 

カナが俺たちに聞こえるように話し始め、それに遥香が続ける。

 

「この潜水艦は、沈んだと言われているけれど、そうじゃないのです。盗まれたの。史上最高の頭脳を持つ、『教授(プロフェシオン)』に・・・!」

 

停止した原潜。

その艦橋に、一人の男が立っている。

 

「『教授(プロフェシオン)』・・・やめてください!この子達と――戦わないで!」

 

「お願いします!『教授(プロフェシオン)』!!」

 

カナが俺たちを護るように舳先の前に出て、遥香が叫んだ瞬間――

 

ビシュッ!

 

カナが、吹き飛ばされた。

今のは、カナの銃技、『不可視の銃弾(インヴイジビレ)』だ。

しかみ、カナはさっき、鮮血を出していた。

つまり防弾制服を破った。

だとしたら、あいつはあの技を、狙撃銃でやってのけたってことだ。

俺はその男を見る。

 

ひょろ長い、痩せた身体。

 

鷲鼻に、角張った顎。

 

右手には古風なパイプを持ち、左手にはステッキをついている。

 

その姿を完全に把握した瞬間、俺は愕然とした。

信じられない。あり得ない。

そんな言葉が頭の中で繰り返されるが――現実だ。

間違いなく、本物の威圧感を持って、その男は、今、ここに、若々し姿で存在している。

 

「・・・曾、おじい様・・・!?」

 

アリアの曽祖父。

 

シャーロック・ホームズ1世は!

 

 

 

 




これにて、五章は終わりです。

次章予告
ついに現れた『教授(プロフェシオン)』。その正体は、シャーロック・ホームズその人だった――!
そんな中、更識楯無も姿を現す。
キンジに銃を向けるアリア。
和麻と激しい空中戦を繰り広げる楯無。
閉ざされていく流無の心。
駆け付ける簪たち。
避けられない運命。
彼らの前に立ちはだかるのはすべてを予知する力――『条理予知(コグニス)』。
キンジと和麻たちの運命は?
和麻は流無を救うことはできるのか?
楯無の真意とは?
二年前のあの日、更識家当主の彼女に何があったのか?

今、全ての謎が明らかになる。

しかし、それはまだまだ、終わりの始まり・・・。

次章「序曲の終止線(プレリュート・フィーネ)
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