緋弾のアリア×IS 緋と蒼の協奏曲   作:竜羽

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六章 序曲の終止線
ベルセと炎術


「カナ!――カナ!」

 

キンジが倒れたカナに駆け寄り、必死に呼びかける。

カナは左胸から血を流しているのがここからでもわかり、確実に心臓を撃たれている。

武偵高の制服は例え、ライフル弾でも防ぐがおそらく使われたのはA(アンチ)―TNK弾。

理論上は開発可能とされながらも、国際的に禁止された装甲貫通弾(アーマーピアス)だ。

 

「どけ!キンジ!」

 

震える手でアリアの白銀と漆黒のガバメントを渡すカナに俺は駆けより、気を流し込む。

キンジはアリアに伏せるように呼びかけるが、アリアは放心状態だ。

それはそうだろう。

なにせ、目の前に現れたイ・ウーのリーダーがアリアの曽祖父、シャーロック・ホームズ1世、その人だったのだから。

しかも、イ・ウーの正体が広大な海に潜む原子力潜水艦だったなんて。

急展開過ぎて俺の頭もついていけなくなってきたぜ。

 

カナの治療に集中しながらも、俺は感じた。

何かがここに迫ってきているのを。

しかし、時遅く、船底から突き上げたような激震がアンベリール号を襲った。

 

「きゃあああ!!?」

 

「白雪!」

 

白雪の悲鳴に、キンジの焦った声。

 

「キンジ!一体何があった!?」

 

「魚雷だ!一瞬見えただけだが・・・おそらくMk(マーク)60対艦魚雷(シックスティ)だ!イ・ウーが撃ちやがったんだ!」

 

そりゃ弾道ミサイルを装備しているような潜水艦だ。魚雷くらいあってもおかしくないよな。

キンジは白雪に救命ボートを下すよう命じていると、

 

「キンイチ!」

 

今の衝撃で柩の蓋が開いてしまったのか、パトラが出てきてカナの治療をしている俺の方に駆け寄ってきた。

 

「キンイチ、ああ、キンイチ・・・!」

 

そして、俺が手当てをしている手の横に同じように手を当てると、青白く光りはじめる。

それは、俺と同じく何らかの魔法でカナの痛みを和らげようとしているのだろう。

っていうか今気が付いたのだが・・・

 

「あんた、男だったんだな」

 

「今更かよ!?」

 

キンジ。お前今までどこに俺が気が付く要素があったよ。

内心呆れていると、アンベリール号がまた大きく揺れた。

そっちを見てみると――来た。

アンベリール号に海面下で接舷したらしい、ボストーク号を伝ってやってくるシャーロック。

イ・ウーのリーダーにして、一世紀前のイギリスの英雄・シャーロック・ホームズ。

アンベリール号の舳先は先ほどの魚雷で火災を起こしている。その中を、なんとダイヤモンドダストを纏って歩いて来た。

それは銀氷の魔女・ジャンヌが使っていた魔術。

それを使い、ついに彼は現れた。

 

対峙して、ここまで近づいてわかった。

こいつは手強い・・・なんてもんじゃない。

今までのイ・ウーの話しからすると、シャーロックはくイ・ウーで、あらゆる超人たちの能力を写し、その果てに彼ら全員の能力を得た。

そして、それだけじゃない。

風が教えてくれる。シャーロックが俺の、同類だと。

シャーロックは、俺と同じなんだと――!

 

「――もう逢える頃だと、推理していたよ(・・・・・・・)

 

飲み込まれる。

たった一言で、格の違いを理解してしまう。

 

「――卓越した推理は、予知に近づいていく。僕はそれを『条理予知(コグニス)』と呼んでいるがね。つまり僕はこれを全て、予め知っていたのだ。だからカナ君・・・いや、遠山金一君。君の胸の内も推理できていた」

 

カナにそう告げるシャーロック。

カナはそれに対し、声にならない声で応える。

風が拾ったその言葉は、『そうかよ』――

 

「さて、遠山キンジ君。八神和麻君。君たちも僕のことは知っているだろう。いや、こう思うことは決して傲慢ではないということを理解してほしい。なにせ、僕という男は、嫌というほど本や映画で取り上げられているのだからね。でも、可笑しなことに――僕は君たちに、こう言わなければならない。今ここには、僕を紹介してくれそうな人が一人もいないのだからね」

 

回りくどい言い方だな。

 

「――初めまして。僕は、シャーロック・ホームズだ」

 

名乗った。

名乗り終えたシャーロックは、今度は呆然としていたアリアの方を向く。

 

「アリア君」

 

呼ばれたアリアは、ビクッと体を伸ばし、目を合わせる。

 

「時代は移っていくけれど、君はいつまでも同じだ。ホームズ家の淑女に伝わる髪型を、君はきちんと守ってくれている。それは、僕が君の曾お婆さんに命じたんだ。いつか君が現れることを推理していたからね」

 

そのまま、アリアにゆっくりと近づいていく。

キンジはベレッタの銃口を上げようとし、俺は

 

「シャーリー!」

 

「分かっているわ!」

 

蒼穹覇王を構える。が、

 

「――用心しないといけないよ。鋭い刃物を弄んでいると、いつかはその手に怪我をすることになるのだからね」

 

俺たちの方を視ずに放った、その警告にキンジは止まってしまう。

だが、

 

「風牙!」

 

精霊王と比べれば、この程度、どうということはない!

蒼穹覇王から放たれた風の斬撃は、今までの風牙とは比べ物にならない速さと威力でシャーロックに迫るが――

 

「―-やはり君は臆さなかったね。推理どおりだよ」

 

突如、シャーロックの身体を炎が包み込み、風牙を飲み込みかき消す。

 

「炎術・・・」

 

俺は確信を込めて呟く。

今のは、俺の風術と同じ精霊魔術。

炎の精霊を媒介に、超常の現象を起こす古の力。

 

「そう。僕は炎術師でもあるのだよ」

 

肯定しやがった。

すると、シャーロックは俺の方に手を向けて灼熱の業火球を放った。

 

「ちっ!」

 

炎術と風術。

この二つがぶつかれば、負けるのは風術だ。

炎と風では持っているエネルギーが違いすぎる。

俺はその火球をよけるが、

 

「君の相手は僕ではない。――彼女だよ」

 

瞬間、俺の後ろの海面が爆発したように弾け、中から何かが飛び出し俺を掴みあげた。

 

「がっ!?」

 

そのまま、俺は持ち上げられていき空へ上昇していく。

 

(シャーリー!)

 

(「わかっているわ!」)

 

俺は蒼穹覇王を投げる。

俺の手を離れた蒼穹覇王はすぐさま精霊獣、シャーリーズとなり俺を掴んでいたやつに襲い掛かる。

すると、そいつはすぐに手を放して俺から離れる。

俺はシャーリーズの上に飛び乗り、相手に向き合う。

 

「結構なめた真似してくれるじゃないか。更識楯無?」

 

俺がにやりとわらながら言うと、相手、霧纏の姫君(ミステリアズ・プリンセス)を纏った更識楯無もにやりと笑いながら、

 

「いいじゃないの。ここならだれも手出しできないのだし」

 

といった。

 

「それと訂正しなさい。今の私は更識じゃない。ましてや楯無なんて名前でもない。私の名前は――刀奈(かたな)よ」

 

楯無、いや刀奈はまるで自分の存在を刻み付けるように言い放つ。

 

刀奈(かたな)か。良い名前じゃないか」

 

俺は背中に隠していた、風斬と水蓮を抜いてシャーリーズの上で構える。

 

「ふふ、ありがとう。そう言われたのはずいぶん久しぶりだわ」

 

「ああ、まさにお前にぴったりだ。曇りも無く、特に何も飾っていないのに美しく、目的のために何者にも動じずに存在する。まさに刀だ。だが・・・」

 

俺は日本の刀をクロスさせて、力をためる。

 

「流無もいい名前だと思うんだよ。流されることの無い、揺るがなき心。流れる水のせせらぎのごとく、癒される」

 

「あら、惚気話?」

 

「ああ、長い間逢っていないもんでね。だから――」

 

風よ染まれ。

蒼く蒼く――輝け!

 

「逢わせてもらうぜ!」

 

神風・蒼風――重刃(カサネヤイバ)

 

「やってごらんなさい!」

 

放たれた蒼い十字の風の刃を刀奈は呼び出したランスで受ける。

俺の技の中で高い速度と命中精度を誇る重刃(カサネヤイバ)を防ぐとは・・・こりゃすぐには片付きそうにない。

そっちはそっちで頑張ってくれよ、キンジ。

 

 

 

「アリア君。僕は――君を後継者として迎えに来たんだ」

 

和麻が掴みあげられて、空に飛んで行ったのを一瞥したシャーロックはアリアに言い放った。

 

「おいで。そうすれば、君の母親は助かる」

 

まずい、今の言葉でアリアの心は、シャーロックの方に傾いた!

そして、そのままアリアを抱え上げる。よく流無が和麻にせがんでいた、お姫様抱っこで。

 

「さあ、行こう。君のイ・ウーだ」

 

行くな。

 

アリアは、シャーロックに抵抗しなかった。

 

行くな。

 

シャーロックは理子が髪を動かす時に使うのと同じタイプの超能力で、コートを動かしふわりと浮かび上がる。

 

行くな、行くな!

 

心の底から尊敬しているシャーロックに称賛され、後継者と呼ばれたこと。

 

行くな、行くな、行くな!!

 

そして、無実の罪で囚われている母親、神埼かなえさんを助けるとまで言われて、

 

「行くなぁ!アリア!」

 

逆らう理由を失ってしまったんだ。

 

「アリア!!」

 

遠ざかっていくシャーロック。

ジャンヌの超能力で生み出した流氷を伝い、イ・ウーに戻っていく。

俺はこの状況に歯ぎしりする。

仲間を奪われた。

二回目だ。

あの時、流無が攫われた時は何もできなかった。

そして、今度も。

アリアが、パートナーが、攫われた、奪われた――!

 

「―――― ア リ ア ァ ァ ァ ――――!!!!!!」

 

絶叫。

慟哭。

怒り。

赫怒!

それらを解き放った瞬間――

 

――――ドクンッ―――

 

身体の中心・中央に焼け付くような感覚が巡った。

それだけじゃない。

熱い。

身体がどんどん熱くなっていく――!

 

「キンジ」

 

後ろから聞こえた声に、俺が振り向くと兄さんが心臓から血を流しながらも経っていた。

その鋭い目つきに、俺は驚く。

兄さんは――再びヒステリアモードになっていた。

 

「キンジ。覚えておけ。HSS―ヒステリアモードには、成熟や状況に応じた派生形がある。今の俺は、ヒステリア・アゴニザンテ――別名を、死に際(ダイイング)ヒステリア。瀕死の重傷を負った男は、死ぬ間際に子孫を残そうとする。これは、その本能を利用して発現させるヒステリアモードなのだ」

 

知らなかった。ヒステリアモードにそんな秘密があったなんて。

でも、兄さん。

それは、命と引き換えのヒステリアモードってことじゃないか!

 

「そんな顔をするなキンジ。これは好機なのだ。シャーロックは日本船籍のこの船の上で未成年者略取の罪を犯した。今この時こそが、シャーロック・ホームズを合法的に現行犯逮捕できる、唯一無二の好機!

覚えておけ。好機の一瞬は、無為な一生に勝る・・・!」

 

あんたは、そうまでして、そんな破れた心臓で、文字通りの最後の力を振り絞って。

立ち向かうのか。

自分の信じた『義』のために・・・!

 

「『義』などではない」

 

「え?」

 

「キンジ。お前の大切な人を取り戻すためだ。なにせ、俺の義妹候補なのだからな」

 

兄さん・・・あんたって人は!

 

「そして、キンジ。俺はさっきのお前の声で確信した。お前の今のヒステリアモードもまた、普通のヒステリアモードではない」

 

何・・・だって?

 

「通常のヒステリアモードは、ヒステリア・ノルマーレ。女を護るヒステリアモードだ。だが、お前は目の前でほかの男に自分の女を奪われたことで、ヒステリア・ベルセ――女を奪う(・・)ヒステリアモードに変化しつつある!」

 

・・・!

 

「気を付けろ。ベルセは自分以外の男に対する憎悪や嫉妬といった悪感情が加わる危険なものだ。戦闘力はヒステリア・ノルマーレの1.7倍にまで増大するが、思考が攻撃一辺倒になるという諸刃の剣。しかも、その状態は不安定に明滅し――初めてでは制御が難しいだろう」

 

ベルセ・・・そこまでのものなのか。

 

「そして、今のお前なら聞こえるはずだ。お前の怒りに呼応している者たちの声を!耳を澄ませ、そして聞け!――炎の精霊たちの声を!」

 

精霊?

 

「キンジ、お前は――炎術師だ!」

 

炎術師?

 

「烈火のごとく嚇怒に呼応して、お前の周りに集う精霊の声を聴け!」

 

言われた通り、俺は目を閉じて感じる。

 

―――・・・・・・・!!――――

 

ああ、聞こえる。

 

俺の怒りに、うれしそうにしている。

 

声が。

 

これが、精霊――!

 

目を見開いた俺は、もう一度――

 

「オ、オオオオオオオオオォォォォ!!!」

 

天空に向かって咆哮すると、俺の身体が炎に包まれた。

すげえ。

炎に包まれているのに、全然熱くない。

 

「行くぞキンジ。シャーロックを、イ・ウーを逮捕しに行く!合わせろ」

 

兄さん!?

兄さんは、今まで、俺とパートナーを組んでくれたことはなかった。

実力差があり過ぎて、足手まといだと。

でも、今、兄さんはハッキリ言った。

 

合わせろ、と。

 

「シャーロックは一人では倒せない。だが、俺とお前。ヒステリアモードの二人掛かりと、お前の炎術があれば、可能性はある!」

 

武偵がパートナーを組むとき、双方の合意が求められる。

兄さんは俺に――ともに戦う合意を求めている。

 

報いたい・・・!

 

「・・・行くぞ、キンジ!まずはアリアを救助(セーブ)し――」

 

「シャーロック・ホームズを逮捕する!了解だぜ、兄さん!」

 

俺たちは跳躍した。

 

ヒステリアモードの全身全霊で!

 

 

 




キリがいいのでここまでです。
次回、激闘開始
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