緋弾のアリア×IS 緋と蒼の協奏曲   作:竜羽

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最強の敵

しばらく流無は泣いていたがやがて泣き止み立ち上がった。

その顔には、もう悲しみは浮かんでいなかったがやはり無理しているのだろう。なんとなくわかってしまう。しかし、それを指摘したところで何ができるわけでもない。これは流無の問題なのだから。

キンジとアリアを呼び寄せて、互いに何があったのか情報交換する。

キンジはイ・ウーの甲板でシャーロックと戦った際、カナことキンジの兄さんが負傷してしまったが、キンジは兄の激励を受けて内部に突入。シャーロックとアリアを追っていたのだがこの大聖堂の様な部屋でアリアとなんやかんやで一騎打ち。俺と刀奈みたいな感じで戦闘を繰り広げ、俺と流無みたいな言葉のやり取りで、シャーロックの言葉で心が傾きかけていたアリアを取り返したということだった。

ついでに俺も何があったのか二人に語ったのだが、

 

「もうお前は人外決定だろ」

 

「あんたはどこに向かおうとしているのよ」

 

という失礼極まりないことを言われた。泣くぞ、こら。

で、流無はというと、

 

「う~ん。何なのかしらね?この槍」

 

くるくると三叉槍を弄んでいた。

それはいつの間にか流無の傍らにあった物で、蒼い柄に槍先のところに濃蒼色の宝石が埋まっている。刃の部分は透き通るような水色で、かなりの業物だ。

 

「流無の武器は無いんだし、それを持っていったらどうだ?アリア、この先にいるんだろ?シャーロックは」

 

キンジの言葉にアリアは頷く。

 

「なら、さっさと行こうぜ。あいつには聞きたいことがいろいろあるしな」

 

俺はそう言って立ち上がろうとするが、力が入らず崩れ落ちてしまった。

 

「ちょ、和麻大丈夫!?」

 

流無が慌てて駆け寄って、俺を抱える。くそっ、やっぱりダメか。

 

「大丈夫じゃないな。キンジ」

 

俺はキンジを呼ぶ。

 

「はっきり言うが、俺はもう戦えない」

 

そう。俺はさっきの刀奈との戦闘でほとんどの力を使ってしまった。

聖痕(スティグマ)の発動と蒼風之剣神(そうかのつるぎかみ)。

この二つは俺の力をほとんど使い果たす。

聖痕は超越存在である精霊王の力を人間の身体で行使し、しかも蒼穹覇王を融合させて、更なる力を使う剣神(つるぎかみ)は体にとてつもない負担がかかる。さっきから頭痛がやばいのと精霊たちの声が聞こえない。多分、膨大過ぎる精霊との同調(リンク)をしたことで、これ以上負担をかけないように脳が自動的に情報を遮断しているんだろう。体も疲労感がやばい。立つのも無理みたいだ。

加えて、シャーリーも俺の中で力を使い果たして寝ているみたいだ。この分だと蒼穹覇王も使えない。

そのことを全員に言うと、納得してもらえた。

これで戦えるのは、ヒステリアモードが未だ継続中とみられるキンジと、戦いの疲労はあるものの戦う余力の余っている流無だけだ。アリアは…今回は仕方ない。

で、奥に進むことになったんだが、

 

「なんでお前におぶってもらっているんだ?」

 

「いいじゃないの。これくらい」

 

歩くのもしんどい俺は流無におぶってもらいながら奥に進みました。

 

 

 

聖堂にあった奥に続く扉へ入ると、だんだん近未来的な雰囲気の通路になってきた。

しかも、その先にあった隔壁に描かれたマークを見て俺たちは息をのむ。

ラジオハザード――放射性物質に対する注意喚起のマークだ。

このボストーク号は原潜だから覚悟はしていたが、こうして目の当たりにすると緊張する。心なしか、俺を抱える流無も強張っているな。

音も無く、その隔壁が開き、意を決して俺たちは中に入る。

その中の光景に、俺たちは本気で絶句した。

中にはいくつもの巨大な柱のようにそびえ立つICBMがあったのだ。

 

ICBM――Intercontinental ballistic missile。

 

ボタンを押せば、世界中のどこにでも届くと言われる大陸弾道ミサイルだ。

こいつにかかればISだろうがなんだろうが木端微塵にされる。

そんなやばい代物が見えるだけで8本はあるな。

どんな国、例えISを多く所持している国だろうがやり方によっては、たった一日で壊滅させることができる。

その存在に軽くびびりながらも奥に向かって歩いていくと、アリアがあたりをきょろきょろと見始める。いや、アリアだけじゃない。流無もさっきから落ち着きなくあたりを見回している。

 

「どういうことよ。…私はここを、知っているわ」

 

「何だって?」

 

「私も。私もこの部屋を見たことがある」

 

「既視感…デジャヴじゃないのか?二人とも」

 

俺は流無の言葉に、眉を寄せる。そして、どうゆうわけかアリアも同じことをキンジに言っている。

 

「違うわ。私は確かにここを見たことがある。そして…和麻。私はあなたに会った」

 

「私もここでキンジに会った。間違いないわ」

 

二人の言葉に、俺とキンジはさらに混乱するが、流れ始めた音楽――モーツァルトの『魔笛』の歌劇(オペラ)に意識を切り替える。

そして、ICBMの影から一人の男がその姿を見せる。

 

シャーロック・ホームズ。

 

世界最高の頭脳を持ち、世界最強の力を持つ名探偵。

 

「音楽とは――」

 

シャーロックは戦闘態勢を取る俺たちを気にも留めずに、落ち着いた声で話し始める。

 

「音楽とは、僕らが繰り広げる戦いという混沌と対照的な、和やかな調和と甘美な陶酔を描く。このレコードが終わるころには、きっと戦いも終わっているだろうね」

 

コツコツと足音を鳴らしながら歩くシャーロック。その手には太めの金属製のステッキを持っており、やはりその様子からは只者ではない風格がにじみ出ている。

 

「流無。もう大丈夫だ。おろせ」

 

俺はある程度回復してきたので、流無におろすよう言うと、流無も俺を背中から降ろす。まだ戦闘ができるほどじゃないが、風の精霊たちの声も聞こえる。

蒼風も二、三回くらいなら使えそうだ。

シャーリーは、まだ俺の中で眠っているみたいだな。

 

「四人とも、いよいよ終幕(クライマックス)、解決編という顔をしているけれど、それは間違いだよ。僕は一つの記号――『序曲の終止線(プレリユート・フィーネ)』にすぎないのだからね」

 

「序曲だと……?」

 

「そう。僕との戦いは、君達四人。アリア君とキンジ君、そして流無君と和麻君の奏でる緋と蒼の協奏曲の――ほんの序曲に過ぎない。長く激しく、そして美しい旋律のね。ところで、同士討ち(フォーリング・アウト)はどうだったかい?流無君と和麻君は少し違ったけれど、カナ君が僕たちにしかけようとした罠の味は?」

 

同士討ち(フォーリング・アウト)か。確かに俺と流無は少し違うけれど、あの戦いで俺は疲労困憊だ。

キンジとアリアも銃弾がもうほとんど無いみたいだし、もしそれが狙いならしてやられたことになるが、どうにもおかしいな。シャーロックほどの男がそんなことのためにあんな手の込んだことをしたっていうのか?

俺が少し疑問に思っている間に、アリアがシャーロックの前に出て話し始める。

アリアはシャーロックに命じられない限り、銃を向けることはできないと言い、二丁のガバメントを床に置く。そして、自分がやっと見つけたパートナーであるキンジと共に、シャーロックに立ち向かうと言った。

おそらく、そこにはとてつもない葛藤があったのだろうということが、伝わってきた。

そして、今度は流無が前に出る。その手に持った三叉槍を、アリアとは逆にシャーロックに向けながら。

 

「私としては、無法者の組織のリーダーであるあなたを逮捕することにためらう理由は無いわ。あなたを捕まえていろいろ教えてもらいます。私の事、そして刀奈のことを!」

 

刀奈のことを言う時、少し感情的な声を出したが、シャーロックに対し、まったく物怖じせず言い切った態度に俺の口がにやけるのを感じる。

そして、シャーロックも二人の言葉に満足そうな笑みを浮かべた。

 

「いいんだよ、アリア君。君が僕に立ち向かうということは、君が心の中の僕という存在を乗り越え、キンジ君という特別な存在と共にあることを決意したということだからね。まさに愛の証明ということだ。そして――」

 

今度は流無と俺の方に顔を向けるシャーロック。その顔に浮かんでいるのも満足げな笑みだ。

 

「流無君。君は愛する人の言葉で、失意の中から立ち上がり以前よりも強い意志を持った。例え、僕という強大な敵を前にしても揺るがない意思を。その意志を手に入れることができたのも、和麻君との愛の証明だと、僕は思うよ。

君たちは子供だが、立派な男と女だ。僕は一世紀以上生きてきたが、女心というものを未だに理解できない。しかし、僕の経験から思うに、女というものはどれだけ男からひどい目にあわされてもとことんまで男を憎みきれるものじゃない。ISという、女性しか使えない強大な兵器が現れても、この世界が女尊男卑に染まらなかったことがその証明だと僕は思うよ。そして、例え銃を向けあい、刃をぶつけ合ったとしても、必ず収まるべきところに収まり、より強固に結びつくものなのさ」

 

「それで?結局何が言いたいんだ?」

 

俺はシャーロックの言葉に思わず口を出してしまう。でも、おそらく俺以外の三人もシャーロックの回りくどい言葉に疑問を覚えているのだろうからな。

そして、シャーロックは俺たちを嘲笑うかのように言う。

 

 

 

「ははっ――全て、僕の推理通りだよ」

 

 

 

その言葉に、俺も、キンジも、流無もキレた。

飛び出したのは、キンジと流無。俺はシャーロックと戦えないアリアの前に出る。

ハッキリ言って、今の俺にシャーロックと戦うのは、荷が重い。できるのはアリアの前に出て、隙があれば援護し、攻撃の余波が来れば受け流すことだけだからな。

まずは、流無が三叉槍を突き出すがそれはステッキに防がれる。

金属音を響かせながら、二人は鍔迫り合いをする。

流無が両手で、しかも全力で突きだしているのに、シャーロックは片手で受け止め、しかも余裕だ。

 

「無理はしない方がいいよ。君だって刀奈君が和麻君と戦っていたときの疲労感は残っているはずだ」

 

「それでも…それでも、やらなきゃいけないのよ!」

 

鍔迫り合いをしているシャーロックの右手の方に、キンジがバタフライナイフを振りかぶりながら迫る。

うまい。これなら、シャーロックも左手で防ぐことはできない。

 

「ふむ」

 

しかし、シャーロックは少しの足さばきで重心をゆるやかに移動させて、キンジの前に流無の身体が行くようにする。

当然、流無を傷つけるわけにもいかないので、キンジは攻撃をやめる。

その瞬間に、シャーロックの身体から紫電が走り、雷球が現れる。

シャーロックの持つ数多の超能力の一つだ。

それにぎょっとした流無とキンジは、距離を取ろうとするが時すでに遅く、雷球に二人は吹き飛ばされる。

そして、シャーロックも大きく飛び退る。

 

「感情に囚われてはいけないよ」

 

余裕しゃくしゃくの態度で話す、シャーロックに対し、二人は何とか起き上がる。

しかし、キンジはともかく流無は今のでかなり力を奪われたみたいだ。

 

「さて。僕はこれまで150年以上にわたり、世界中の凶悪かつ、強靭な怪人たちを数多仕留めてきた。対して、君たちはたかだか17年ほどの時を生きてきた子供だ。その間に過酷な鍛錬を積んでいようと、それは僕の経験に全く及ばない。そんな未熟な君たちが、本気で僕と戦うのかい?」

 

キンジはバタフライナイフを構えながらシャーロックを睨み付け、流無もゆっくりと体を起こしながらも水球を自分の周りに発生させ、眼光は鋭くシャーロックを射ぬく。

かく言う俺も、流石に二本構える余裕はないので水蓮だけを構えて戦闘態勢を取る。

 

「ああ。俺は確かに偉大な名探偵様から見たら未熟な餓鬼だろうさ。はっきり言ってここにいる四人の中でも一番弱い。でもな、自分の仲間が、女が手ぇ出されて黙っていられるほど、大人しくも無いんだよ!」

 

「友達、姉妹、愛する人との日々を乱して散々弄んだ相手を、私は許さない。例え、それがあなたの様な偉人でも!」

 

「俺の前に立ちふさがり、大事なもんを奪うやつは老若男女等しくぶちのめす。ただ、それだけだ。そこに未熟だとかそんなことは、関係無え!」

 

「ふふっ。すばらしいよキンジ君にとっては仲間、その中でもアリア君がとても大切なんだね。大変結構なことだよ。そして、流無君と和麻君も、なかなかのベストカップルだ」

 

からかうような表情をしながらシャーロックは、纏っていたコートを脱ぐ。

 

「僕は強者として君たちに警告したけれど、それほどの意思を持って挑むというのなら、もう無粋なことは言わない」

 

『魔笛』をBGMに、シャーロックは再度ステッキを持ち上げる。

 

「いいのか?銃じゃなくて。二人は知らないが、俺は老人相手でも手は抜かないぜ」

 

「私も右に同じよ」

 

「以下同文」

 

キンジはベレッタを抜き、流無は水を矢のような形にして、更に水を召喚する。

 

「銃も、あとで二発だけ使わせてもらうよ。そして、その二つの銃弾は僕の『緋色の研究』にピリオドを打つ、重要な銃弾になると推理している」

 

『緋色の研究』?何のことかはわからないが、やつが俺たちをナメているのなら好都合だ。

 

「さあ、始めようか。君たちの言うとおり決闘に、敬老精神など不要だ」

 

そう言うと、シャーロックはステッキを勢いよく床に叩きつける。

すると、ステッキを粉々になり、中から一振りの刀が現れた。

あれは、使い込まれて細くなっているが、多分スクラマ・サクスだ。

大昔にヨーロッパで造られた、強靭な片手剣だ。

 

「この刀の銘は聞かない方がいいよ。これは女王陛下から借り受けた大英帝国の至宝でね。刃向ったことが知れたら君たちの一族が、末代まで誹りを受ける恐れがあるからね」

 

「興味ないな。どうせ、エクスカリバーとかラグナロクとかだろ」

 

いや、キンジ。流石にそれはゲームのやりすぎ。

 

「驚いたね。何でわかったんだい。君には名探偵の素質があるよキンジ君。僕が保証しよう」

 

「え!?マジで!?」

 

思わず声をあげてしまった。いや、デュランダルがあるんだからありか?

 

「さて。それでははじめようか」

 

シャーロックはそう言うと、再び雷球を生み出し、それだけじゃなく奴の周囲に霧が立ち込め始め、小型の竜巻が生まれた。

 

「まずは、これから君たちが戦うであろう難敵たちの技を予習させてあげるよ。なにせ、僕は『教授(プロフェシオン)』――古い仇敵と同じ名前で呼ばれているのだからね」

 

最後に、シャーロックは自身の身体を灼熱の炎で包む。

 

「来たまえ」

 

「言われるまでも無い!」

 

シャーロックに向かって、キンジが疾走し、流無が水の矢を放ち、俺も蒼風を発動させた。

ここに、最強の敵との戦いが、本格的に始まった。

 

 

 

 




シャーロックとの戦い、ついに始まりました。
はたして、四人は勝てるのでしょうか?

次回「神の炎」

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