シスターズ・デート
八月上旬の土曜日。
夏真っ盛りというのにふさわしい快晴の空のもと、多くの人で賑わう場所がある。
それが今月になってオープンしたばかりのウォーターワールドという巨大プールのあるテーマパークだ。
その前で私、更識簪は一人で佇んでいる。
服装は涼しい感じの薄いキャミソールで、内気な私としてはかなり大胆。
でも、今日は思いっきりおめかししたかった。
だって、今日私は。
「お~い!簪ちゃーん」
「あっ!」
こっちに手を振りながらやってきたのは、長い水色の髪をなびかせた私のお姉ちゃん。
名前は――
「路上で喧嘩していた不良グループにちょっとお灸をすえていたら遅れちゃった☆」
「だからって引きずってこないで!」
東京武偵高の二年生、蒼神流無。
専攻:
ランク:S
超偵
異能:玄蒼色金
二つ名:蒼の月姫ルナ、魔槍の姫
「いやーごめんごめん。交番ってこの近くだしさ、連絡しようにも携帯の電源が充電したはずなのに充電されてなくって。待たせるのも悪いって思って先に言いに行こうと」
「もう、いい」
あの後、お姉ちゃんが引きずってきた不良たち(二十人くらいかな?)を交番に預けてウォーターワールドに入場。
水着に着替えた後、オープンカフェみたいなところでジュースを頼んで飲んでいる。
今日はお姉ちゃんが退院したお祝いにどこか遊びに行くことになって、虚さんが入場券を手配してくれた。
お姉ちゃんも二つ返事でOKしてくれた。
そんなわけで、私たちは今日この日に約二年ぶりとなる姉妹でのお出かけ。
「それにしても」
「?」
お姉ちゃんが私をじっと見てくる。
「簪ちゃん、背伸びたわよね」
「二年も、経つから」
「そう。そうよね。あれから二年か……」
どこか遠い目でいうお姉ちゃん。
「お姉ちゃんは、あまり変わらないよね。背」
「はぅ!?」
思ったことを言ってみたら胸を抑えてうずくまるお姉ちゃん。
そう、お姉ちゃんは二年前と違って瞳の色とかいろいろ変わったところもあるけれど、背だけはあまり変わっていない。今の私より少し高いくらい。
「しょうがないじゃない。玄蒼色金のせいであまり成長しなくなっちゃったんだし」
少し顔を上げて私を半目で見ながら、すねたように言うお姉ちゃん。
玄蒼色金のことは病院で二人っきりになった時に、教えてもらった。
正直、
でも、そんな私にお姉ちゃんは「大丈夫」って言って頭を撫でてくれた。
その時の笑顔は、とても優しい感じがして癒されたと思う。
「変わったと言えば、簪ちゃんも性格が少し変わったわよね。前より前向きになったっていうか」
「それを言うなら、お姉ちゃんも。前は私の前だと、無駄に背伸びしていたと思う」
「まあ、あのころは立派なお姉ちゃんでいたいと思っていたしね」
若かったわー、とカラカラと笑い飛ばすお姉ちゃん。
今でも十分若いと思うけど、と思ったけれど言わない。
「昔はそうだったけれど、今はあなたに私のすべてを見てほしいから。これが私、蒼神流無だってね。大体、あんなことがあった後に無駄に“立派なお姉ちゃん”ぶることに意味ないでしょ?」
「ふふっ、確かに。あの時のお姉ちゃん、私の前でまるで幼稚園児みたいに泣いてた」
「あー、それはひどくない?幼稚園児ってー」
「ふふっ」
しばらく二人でそんな感じで話していると、園内放送が響き渡った。
『では!本日のメインイベント!水上ペアタッグ障害物レースは午後一時より開始いたします!参加ご希望の方は十二時までにフロントまでお越しください。優勝賞品はなんと!沖縄への四泊五日の旅です!しかも何人でもご招待できます!』
「へえ」
放送を聞いたお姉ちゃんの蒼い目がキラーンと光った。
多分、私の目も光ったかも。
「さあ!第一回ウォーターワールド水上ペアタッグ障害物レース、開幕です!」
アナウンスを聞きながらしっかりを体をほぐす。泳ぐときの鉄則ね。
それにしても、簪ちゃんの水着姿なんて小学生以来で、改めてみるととってもかわいい。私、理性が耐えられるかしら。
「さて、簪ちゃん。優勝狙うならまず最初に確認しておくことがあるんだけど」
「うん」
「私の全力についてこられる?」
そう、今の私の身体能力はもろもろの事情で水の上を普通に走ったりできる。
そんな私に、果たして簪ちゃんがついてこられるのかしら?
「お姉ちゃんこそ、私についてこられる?」
「あら。言うようになったじゃない」
不敵に胸を張る簪ちゃんを見る限り、心配は杞憂みたいね。……張れるほど胸はないけれど。
「てい」
「あう!?」
考えが読まれた!?なかなか鋭い手刀ね。
『では!再度ルールの確認です。この50メートル四方の巨大プール!その中央の島に渡り、フラッグを取ったペアが優勝です!なお、コースはご覧のとおり円を描くようにして中央の島へと続いています。その途中に設置された障害は、基本的にペアでなければ抜けられないようになっています!つまり!二人の愛称と友情が試されるということです!』
「ん~ショートカットは無理そうね」
「泳いでいくのも、無理そう」
「手加減無しなら一気に行けるけれど」
主に気とか超能力とか駆使すれば。
「自重して」
「は~い」
『さあ、いよいよレース開始です!位置について、よーい……』
パァンッ!という乾いたピストル音ともに私たちは駆け出す!
「「「「きゃああああ!!?」」」」
足払いを仕掛けてきた左右のペア四人の足を、逆に蹴飛ばして!
「あははは!!私たちを蹴落とそうなんて100年早いのよ!」
そのまま突っ走って先頭組の仲間入りを果たす。
ほかの参加者は、生真面目にレースを走る組と妨害組に分かれているけれど、私たちがいきなり目立つようなことをしたから、妨害が集中してきた。
だがしかし!
この程度の妨害でどうにかなる私たち姉妹じゃないわ!
「あっはっは!無駄無駄無駄ぁ!!」
「お姉ちゃん、まんま悪役」
『なんとなんと!姉妹でご参加の蒼神・更識ペア。高校生とは思えない身体能力でほかのペアの妨害を跳ね除けています!二人は何か特別な訓練でもしているのでしょうか!?』
襲い掛かってくる選手たちを走る速度を緩めることなく、蹴飛ばし投げ飛ばす。この程度、昔の地獄の修行や蘭豹の暴虐の嵐に比べれば軽い!
それとね、簪ちゃん。
私と一緒になって選手を蹴落としているあなたが言ってもね~。しかも、簪ちゃん頭から落としているじゃない。
走りながら、前を走る選手も蹴落としていく。
すると、前を走っていたペアの一組がこっちを向いて向かってきた。どうやら私たちを先に潰すことにしたようだ。
「ここから先はいかせるかああ!」
「私たちをなめんじゃないわよ!」
『おおっと!お二人はご存じ、先のオリンピックでレスリングで金メダル、柔道で銀メダルを取った木崎・岸本ペアだ!怒涛の快進撃を続ける二人に向かっていきます!』
確かに鍛え上げられた見事な筋肉ね。でも――!
「ふっ」
「なっ!?」
レスリングの人は簪ちゃんの柔術で力のベクトルを狂わされて落下。
「はあああああ!!!!!」
「きゃああああ!!?」
柔道の人は私の掌底の威力を受け流すことができずに吹き飛ばされる。
まさに『柔よく剛を制し、剛よく柔を断つ』ね。
そのままレースを走る私たち。
でも、まさかの見知った顔がいた。
「ん?」
「げっ!?なんであんた達がここにいんのよ!?」
なんと、IS学園のセシリア・オルコットに凰鈴音じゃないの。
私たち四人は走りながら対峙する。
「二人も、優勝品狙い?」
「そうですわ!優勝賞品の旅行券は私がもらいますの」
「絶対にあんた達には渡さないわよ!」
そう言いながら、私たちにとび蹴りを放つ二人。ゴールはもう目の前だから決着をつけるということなんでしょうね。
ふはは、でもそんなもの効かないわ!
必要最低限の動きで二人のけりを躱すと、蹴り返しをお見舞いする。
「「ふぎゃ!?」」
「あっはっは!優勝は私たちのものよ!」
あとは島まで突っ切るのみ!
「させるか!」
鈴音ちゃんの声に、後ろを振り返ると、なんと彼女が飛んでいた。
相方の顔を踏んづけて。
「うわぁ」
「痛そうね」
でもね。
「簪ちゃん!」
「うん!」
簪ちゃんはすぐさま両手で踏み台を作り、私はその上に飛び乗る。
「「はあああああっ!!!!」」
そのまま私は飛び上がり、
「ぷぎゃ!?」
鈴音ちゃんの頭を踏みつける。
鈴音ちゃんはそのままプールに落下していった。
「取った!」
そして、フラッグは簪ちゃんがとった。
『見事な連携でレースを制した蒼神・更識ペアの優勝です!』
「やったわね!簪ちゃん!」
「うん!」
私たちは優勝した喜びをかみしめる。
でも、そんな癒しのひと時を邪魔する無粋な輩が。
「今日という今日は許しませんわ!この私の顔を足で踏んでおきながら負けるだなんて!鈴さん!」
「うるさい!やるっていうなら容赦しないわよ!」
なんと、ISを展開して喧嘩を始めたのだ。
でも、こんなところで暴れられたらまずいわね。ここはIS競技用のアリーナじゃないんだし、流れ弾でも客席に向かったら。
うん、とりあえず。
「簪ちゃん。あれ出してくれない?」
「あれ?」
「うん」
私がそういうと、簪ちゃんは首をかしげていたけれど、すぐに何のことかわかったのか指にはめた指輪、簪ちゃんのIS《氷凰》の待機形態から量子変換しておいてもらった私の持ち物を取り出す。
武偵は常在戦場、いざという時のために頼んでおいて正解だったわ。
取り出したのは、蒼い色彩の
魔槍・蒼霞閃
三つに分けて収納していたそれをもとの槍に直して、くるりと回す。
そして、切っ先を戦闘中の二人に向ける。
「頭を冷やしなさい」
プールの水がうねりを上げて、まるで木の蔓のように伸びていく。
「な、何!?」
「一体なんですの!?」
そのまま水は二人にからみつき、その動きを封じようとする。
以前の私の
「「!?」」
そのまま二人を水で絡め取って動きを封じ、そのまま係員に引き渡す。私が武偵高の生徒だというと、納得して感謝された。
まあ、このままじゃプールが壊されていたかもしれないしね。
あと、旅行券ゲット!
「いや~楽しかったわね」
「うん」
ハプニングもあったけれど、割と楽しかったウォーターパーク。
その帰り道に、このあたりで人気の『@クルーズ』というファミレスでお茶をしている。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
店員さんがやってきたから注文をしようとすると、
「「「ん?」」」
ものすごく見覚えがあった。
っていうか執事服を着たIS学園のシャルロット・デュノアちゃんだった。
「簪ちゃん。あなたの同級生って」
「言わないで上げようお姉ちゃん。きっとデュノアさんにもいたたまれない事情が」
「二人は一体何を勘違いしているのかな!?」
「「冗談冗談」」
「おい。何をしているシャルロット」
「「え?」」
今度はメイド服を着た黒うさぎ隊隊長。
「まさか二人ってできているの?」
「そういえばいつも一緒にいたような」
「できてないよ!」
「?」
ふむ。シャルロットちゃんで遊ぶの意外と面白いわね。
何はともあれ注文をした私たちは料理が車でたわいもない話をして過ごした。
でも、そんなときに事件は起こった。
「全員動くんじゃねえ!」
ドアをけ破って三人の男たちがなだれ込んできた。
全員ジャンバーにジーパン、顔には覆面でその手には銃を持っていて、札束があふれているバッグまで背負っている。
まるで一昔前の漫画とかに出てきた定番の強盗スタイルで、実際に強盗だった。
『あー犯人に告ぐ。君たちは完全に包囲されている。今すぐにおとなしく投降しなさい。田舎のお袋さんも泣いているぞ。繰り返す――』
「……なんか」
「……警察の対応も」
「……古い」
「……っていうかお袋さんって」
まさか、こんな一昔前の刑事ドラマみたいな場面に遭遇するなんて。
ある種の感動を覚えるわね。
「あ、兄貴。どうするんです?このままじゃ俺たち」
「狼狽えるんじゃねえ!俺たちには人質がいるんdぶげらっ!?」
「あ、あnぶぎゃああ!?」
「いや、もう付き合いきれないし」
なんかこの後のやり取りも想像できたし、時間も押しているからさっさとかたをつけようと私は行動に出た。
まずは席から立ち上がって縮地で兄貴(仮)に近づいて顎に掌底を食らわせる。
そのまま裏拳で子分その一を吹き飛ばす。
「て、てめぇ!?おとなしくしろ!」
残った一人がその手に持ったショットガンを向けてくる。
武偵制度が広まったことで、日本でも銃器類を手に入れやすくなっているのよね。
まあ――
「構えが全然なっていないけれどね」
「ぐぼっ!?」
射線から体をそらしながら一瞬で近づいてショットガンに手を添える。
そのままバラバラに分解していく。
敵を無力化するために、こういう武器解体の技術は更識でも武偵高でも習得済みよ。
そして、片手で分解しながらもう片ほうの手で拳を打ち込む。
鳩尾に打ち込んだ拳から気弾を放ったら男は白目をむいて倒れる。
「武偵です。強盗の現行犯で逮捕します」
懐から手錠を取り出しながらそう言う。ま、聞こえていないか。
「いろいろあったわね」
「うん。いろいろあった」
強盗犯たちを警察に引き渡した後、私たちは公園でクレープを食べながら沈む夕日を眺める。
ただの休日のはずだったのに、なんでこんなにいろいろあったのかしらね。
「でも」
「うん?」
チョコレートクレープを食べながら、簪ちゃんはにっこりと笑う。
「久しぶりに、お姉ちゃんと遊べて、すごく楽しかった」
「うん。私も楽しかったわ」
こうして、私たちの夏休みの休日が過ぎて行った。