夏休みの半ば。
流無の実家から武偵高の学生寮に戻った俺は、いまだ入院中であるキンジのいない部屋でソファーに寝っころがってのんびりしていた。
けがの具合だったらキンジといい勝負であるのだが、幸か不幸かおっさんとの修行で気の操作による回復術を身に着けているため、通常よりも早く退院できた。
キンジにも早く退院できるようにと、いろいろ施したから明後日には退院できるはずだ。
時刻は朝の十時少し前。
横になりながら俺は自分のこと、正確には自分の力のことを考える。
契約した時は、いろいろせっぱつまっていたからさほど気にならなかったが、先日実家を(文字通り)吹き飛ばした時に気が付いたことがある。
精霊王と契約したことで、今までとはけた違いの精霊を操れるようになったのだが、いかんせん力の制御が甘いということだ。
気を少しでも緩めれば、制御を誤り、無用な破壊をまき散らしてしまいそうになるのだ。風は四大精霊でもっとも力が弱いが、精霊王と契約した
人殺しがご法度の武偵としては、制御できなければ不便極まりない。
どんなに力が大きく、強くても、万能ではない。
確かな心をもって制御し、適切な場面で、適切な使い方ができるようになって、初めて力は自分自身の物となり、それがやがて強さになる。
だから、この夏休みという時間を使って制御できるようにならなくてはいけないのだ。
うんうん、と真面目なことを考えながら今後の修行プランを練っていたら、部屋のドアが開く音がして、
「ドーン♪」
「ぐはぁ!?」
何かが飛び乗ってきた。
視界の端に水色の髪が移ったので正体はすぐにわかった。
流無だ。
服装は私服だが、太ももと背中には蒼霞閃とD・Eを装備している。
「そうだ、沖縄に行こう!」
「……は?」
いきなり現れた流無は、俺に乗りながらそう言った。
沖縄?京都じゃなくて?
首をかしげる俺をよそに、さっさと俺の上から降りた流無は俺の部屋に侵入する。
何がなんなのかわからなかったがリビングを出ると、玄関には旅行用のキャリーケースをもった流無の従者である布仏とシスターズ(遥香、簪、本音)がいた。
いや、ほんとに何?
(「さあ?」)
自分の中の眷属精霊と一緒に再度首をかしげる俺をよそに、準備は着々と進んでいった。
そんなこんなでやってきた羽田空港のロビー。
いい加減どういうことなのだと問い詰めたところ、先日遊びに行ったウィーターパークで参加した障害物レースで優勝した景品の沖縄旅行に出かけるとのことだった。
当初は身内だけで行くつもりで、旅行会社にもそう連絡したのだが、流無の母親の葵さんと爺さんが急な用事で行けなくなってしまった。だったら俺と遥香を誘っていこうということになり急遽、女子寮に引っ越していた遥香を捕まえ、旅行に行くことの了承を得、そのままの勢いで俺たちの部屋まで来て身支度をして、連れてこられたというわけだ。
「いきなり、ごめん」
俺に頭を下げながら申し訳なさそういう簪。どうにもいきなり連れ出したことに負い目を感じているようだ。
「いや、別にいいぜ。俺も暇だったし。沖縄も一回行ってみたいと思っていたから渡りに船だ」
「お義兄ちゃんが、そういうなら」
先日の実家訪問から、俺は簪からお義兄ちゃんと呼ばれている。遥香と何やら怪しげな会話をしていた彼女だが、特に変わった様子は見られない。
「……四人部屋を…とってあるって。お姉ちゃんと、私と、お義兄ちゃんと、遥香ちゃん…………四人で、一緒に……ふふふっ」
顔を染めて手で覆っているけれど、変わったところはない……よな?
一方、俺を連れ出した張本人の流無は、空港の売店で人数分の機内弁当を買っている。その隣には一人の女子が一緒にいる。
メガネをかけた三つ編みで、委員長という言葉がこの上なく似合う彼女は、流無の専属従者である布仏虚。
最近まで、主人である流無が行方不明だった彼女だが、流無が見つかってからは従者としてバリバリ働いているそうだ。流無曰く、このままでは武偵高に転入しかねない勢いだとか。……ここからみる限りじゃおとなしいのに。
初めて会ったときは、流無のことでいろいろ感謝された。ただ……流無との関係についてしつこく問いただされた。しかも、主に肉体関係。
いきなり頬を染めてものすごい気迫で聞いてくるから、正直怖かった。
そんなこともあったが、この人とは仲良くしていきたいと思っている。流無のことを真剣に考えてくれるし。
ただ、質問が終わってから思いっきり眼鏡越しで睨まれたんだけれど。しかも、舌打ち付。そのあとも、会うたびになんか睨まれる。
できれば仲良くしたいのだけれど。
「へいへい旦那~」
くいくいと袖を引っ張られて、横を向くと、そこには布仏本音、虚の妹がいた。
こいつ夏なのに長い袖を着ている。
暑くないのだろうか?
「そろそろ時間でっせ~」
「え?」
周りを見てみると、ほかのやつらはいない。
「お~い!早く~」
搭乗口への通路から流無が呼んでいる声が聞こえたから、そっちへ向かう。ただ、
「お~らくちんらくちん~」
何で、布仏妹をおぶらなくちゃいかけないんだ!?
なんやかんやで搭乗した飛行機。
座っているのはファーストクラスだ。
仮にも名家である更識家の令嬢たちがエコノミークラスというのはどうだというので、ファーストクラスを陣取ったのだ。
初めて乗ったが広いな。
飛行機の席っていうのはものすごく狭いっていうイメージしかなかったが、流石ファースト。ジュースまで完備されている。
で、いま俺達がファーストクラスで何をしているかというと、
「ドロー4よ!」
「ドロー2で、返す」
「俺もドロー2」
「残念ですね。私もドロー2です」
「申し訳ありません、お嬢様。ドロー4です」
「じゅ、十四枚も!?」
U○Oをやっていた。
今は仕掛けた流無が全員から手痛いしっぺ返しを受けている。ちなみに、布仏妹は寝ている。
「これで上がりだ」
ついでに今のドロー2で俺は上がりだった。
「うぅ~こんなに手札がいっぱい~」
流無が悔しそうにしているのを見て、全員がほほ笑む。
なんだかんだ言って全員楽しんでいるみたいでよかった。
「少しトイレ行ってくる」
「いってらっしゃーい。……これ!」
○NOの続きを楽しげにしている声を後ろに聞きながら、俺はトイレに向かう。
ファーストクラスを出て、ビジネスクラスとの中間にあるトイレに入ろうとすると、先客がいた。
「うえええぇぇぇぇ!!」
「大丈夫か?レヴィ」
「あ、ああ、少し楽に、うううううううぅぅぅ」
「全然なってないぜ。こりゃ、まだかかるな」
「す、済まないな。ジンヤ」
「何、気にすんな」
茶髪にアロハシャツを着た少年が、赤い色がかかった茶髪の女を介抱していた。どうやら、女のほうが飛行機酔いをしてしまったらしい。
「ここ、いいか?」
彼らは洗面所の前にいたので、トイレに入る前に一言断っておく。
「ん?ああ、悪いな。気にせず入ってくれ」
少年は俺を見つけると、片手で女性の背中をさすりながら答える。しかし、こいつかなりいい体つきをしている。薄いシャツの上からでもわかるくらい鍛えこまれている。しかも、無駄な筋肉が全くない、言うなれば戦うために鍛え上げられたかのような体つきだ。
「ああ。それと、大変だな」
「まあ、いつものことなんだぜい。お気遣い、サンキューだ」
「おええええええぇぇぇぇ!!」
どうやら、また酔いが襲い掛かってきたようで、女性がもう一度洗面所に向かう。
乗り物酔いって、大変なんだな。
トイレを済ませた後、二人はまだやっていたので、持っていた酔い止め薬を渡すとものすごく感謝された。
何で持っていたかって?
メンバーのうちの誰かがよったら大変だからだよ。まあ、全員大丈夫だったから杞憂だったけれどな。
戻ってみたら、全員でモン○ン3rd・NEOをやっていた。
と、思ったら新作のモン○ン4・Burstだった。
もともとのソフトの発売がまだなのだが、プロモーション映像を見ただけでなんとなく作ってみたらできちゃったというソフトだ。
まだまだ未完成の品なので出回っていないのだが、平賀さんとの伝手で俺と流無は手に入れた。
平賀さんたちとしてもプレイデータがほしいとのことで、何本もくれたのだ。
俺もさっそく集団プレイに混ざろうとしたその時――!
ドオオォォォンンン!!!!
「きゃあああああ!!?」
「な、なんなんだああ!!?」
爆発音が響き、機体が大きく振動。隣のビジネスクラスからは悲鳴が聞こえてくる。
俺達は曲がりなりにもこういうことには慣れている。
俺と流無:武偵。人外のシャーロックとの戦闘経験あり。
簪:日本の代表候補生。専用機を持ち、更識の訓練も受けている。
布仏姉妹:更識家の従者。訓練の経験あり。
遥香:元犯罪組織所属のテロリスト陰陽師。
改めて確認してみるとすごい組み合わせだな。
互いに状況整理をしていると、機内放送が入った。
『あーあー、機内の庶民たちに告げる。我々はISによる女性の地位向上を図る崇高なる組織《明け色の女神》だ。この飛行機は我々が占拠した。日本政府が我々の要求を飲めば諸君たちは速やかに解放されるので安心してほしい』
どうやら、俺たちはハイジャックに会ってしまったようだ。
「ねえ。私たちってなんで行く先々でこうなるのかしら?」
「俺が知りたい。とりあえず、何とかするしかないな」
顔をひきつらせながら聞いてくる流無に、俺はそっけなく返す。
起こってしまったものは起こってしまったんだ。受け入れて、対処するしかない。
「それってあきらめろってことよね?」
「そうともいうな」
さて、夏休みは一時返上だ。
お仕事の時間と行くか。
これ解決したら
和麻たちが動こうと準備している中、ビジネスクラスでは四人の男女が相談していた。
「よりにもよって久しぶりの休日に、なんなんだよこれは」
どこか苛立ちを含んだ声を漏らすのは、先ほど和麻と出会った少年、ジンヤ。
「まさか、こんなところでも屑が出てくるとはなあ。やるか?」
鋭い眼光を光らせるのは、酔いまくっていた女性、レヴィ。今は和麻の持っていた酔い止め薬のおかげでいつもの調子に戻っている。今にも懐に隠してある自身の得物を抜き出しそうだ。
「ふん。私はどうでもいい」
怒気を滲み出す二人とは対照的に、我関せずといった風に返す一人の少女。しかし、そんな少女の隣に座っていたもう一人のゴシック風のドレス(ゴスロリ)を着た少女がそっけない返事をした少女に笑いながら話しかける。
「あら。マドカったらそんなこと言いながら、結局はジンヤのために動くわよね。そんなにジンヤが大好き?」
からかうような言葉に、からかわれた少女、マドカは少しあわてる。
「なっ!わ、私はジンヤのことなど!」
「そんなこといいながら、未来もジンヤにぞっこんじゃねえの?」
マドカをからかおうとするゴスロリ少女、未来だが、レヴィからのまさかの攻撃(口撃)を受ける。
「なっ!?私は、あのその……ごにょごにょ」
未来はそれに顔を赤くしてジンヤのほうをちらちらと見て、ドレスについている猫耳フードを深くかぶる。
そんな仲間たちのいつも通りのやり取りを見ながら、ジンヤは指示を出す。
「はあ。何はともあれ、しばらくは様子見と情報収集だぜ」
その言葉に全員が頷く。
ジンヤ、レベッカ・二ヴァンス、霧隠未来(きりがくれみらい)、そして…織斑マドカ。
彼らはとある組織の構成員で休暇を過ごしていた。
その組織の名前は――
奇しくもハイジャックされた飛行機に乗り合わせた、和麻たち更識家勢力+αとジンヤたち
奇妙な
いつもより短かったですけれど、今回はここまでです。
沖縄に行くと思ったか?ばかめ、タイトル詐欺だ!あ、ごめんなさい。石投げないで。
いや、だってそんなすんなりと行けるわけないじゃん。和麻たちだし。
今回登場した
次回はハイジャック犯フルボッコにしたいです。
それでは。