状況を整理する。
まず、犯人の人数は不明。武装、手口もしかり。不明な点が多すぎる。
それに対して、こっちは人材では一国の特殊部隊と比較しても遜色ないのだが、いかんせん装備が整っていない。
拳銃や刃物の類はこの飛行機に乗る際に、休日ということもあって預けてある。例外は金属探知機にも引っかからなかった流無の蒼霞閃……の柄の二つのパーツである。これは短い棍としてなら武器になるだろう。そして、簪のISもある。緊急事態だから展開しても大目に見てもらえるはずだ。あとは、俺の体の中に収納しているシャーリーこと蒼穹覇王と遥香の陰陽術。
武器が少ないうえに、流無以外はこの飛行機の中じゃ使いにくいものばかりだ。
したがって必然的に肉弾戦で犯人を沈めなくちゃいけない。のだが、その際に重要になってくるのは犯人たちの装備だ。
『9mm拳銃に9mm機関拳銃。まんま自衛隊装備か……』
『なんか横流し品って言う感じプンプンね。しかも素人丸出し』
ファーストクラスに入ってきた二人組の女がその手に持っている装備を見て、俺たちは犯人グループが素人であると予想を立てる。
9mm拳銃に機関拳銃は、どちらも日本の自衛隊で使用されている装備で、自衛隊にコネがあれば意外と手に入れやすかったりする。例えなくても、武偵法の導入で銃に関する規制が緩んだ今では、闇市なんかで結構出回っているものなのだ。しかも、扱いやすい。機関拳銃なんて、正確にものを撃ちぬくよりも、至近距離で撃ちまくって相手をハチの巣にすることのほうが得意であり、素人にはぴったりだ。
加えて、入ってきた二人の構えがなっていない。反動をしっかり押さえることができないような構えで歩いている。
『さて、どうする?』
俺は犯人二人に気が付かれないように、流無たちとマバタキ信号で相談をする。不審なことはしていないと装うためにジュースやお菓子、ゲームをしながら。
『犯人の規模がわからないと動けないわ。風で探って』
『無理』
流無に即答すると、飲んでいたジュースを思いっきり吹いた。
そのジュースはそのまま―――簪の3○Sに。
「……」
「……」
なんか、姉妹の間で、ものすごく冷めた空気が流れ始めた。
具体的には流無が怯え、簪が顔をうつむかせている。
やがて、簪が顔を上げると流無がその冷めきった目に「ヒィッ!?」と小声で悲鳴を上げ、簪が数回マバタキ信号をして、それに流無が全力で首を縦に振ることで何とか収まった。
何を言われたのか気になるが、詮索しないほうがいいだろう。
簪が3D○を拭いている間に、俺は何で風の精霊を介した探査ができないのか説明をする。
まあ、そんな難しいことではない。
ただ、俺が力を御しきれていないだけだ。
俺は何もしていなくても膨大な数の精霊を従えているのだが、いかんせん制御に難がある。そんな状態で風の精霊と精神をリンクすれば、際限なくその範囲を拡大させ、いらない情報まで頭の中に流れ込んできてしまう。
そうなれば、脳がその情報を処理しきれずオーバーヒートしてしまう。
実際、これをやってしばらく悶えていたくらいだ。しかも、その結果得られた情報はあまりないというありさま。
『というわけだ』
『『『『『使えない(ですね)(ね~)』』』』』
説明を終えた俺にみんなは厳しかった。
そして、その瞬間、ビジネスクラスへと通じる扉が……吹き飛んだ。
「で、その後、どうなったんだ?」
数日後、俺は退院したキンジに何が起こったのか説明していた。
「ん~何でも流無の実家の人たちが勝手に護衛についていたみたいでな。全員エコノミークラスにいたんだが、事件が起こった瞬間に即行動開始。すぐさま犯人グループの規模や配置を探り当てて、鎮圧したらしい」
そう。この事件を解決したのは俺達でも、たまたま乗り合わせた勇気ある民間人たちでもなく、更識家お抱えの「風宮部隊」と「矢代部隊」だった。
全員自腹で俺たちの護衛をしていたらしいのだが、どんだけ過保護なんだよお前ら。
ファーストクラスに部隊長の風宮と矢代がドアをけ破って突入してきたときは唖然としたわ。
その勢いのまま犯人二人を沈めて、流無と簪に無事を確認していたけれど、二人に思いっきりぶっ飛ばされていたな。
「まあ、何とかなったんだしよかったんじゃないのか?」
「よくねえよ。むしろここからが大変だった」
「とりあえず、お前たちの家のバカ部隊のおかげで犯人の鎮圧はできたな」
未だにバカ(風宮)をぼこっている水色姉妹を横目に見つつ、布仏姉妹と馬鹿につき合わされた矢代に、それとなく話しかけると三人そろって目をそらされた。
まあ、そうだよな。
「う、ぅぅ」
おっと、どうやら一人目を覚ましかけているな。ここは尋問と行きますか。
「お前らの目的はなんだ?」
「だ、誰が言う、ものか」
「なら話してもらおうかしら」
俺の後ろから制裁を終わらせた流無が現れた。
手についた赤い何かを拭きながら。
……まかせよ。
しばらくお待ちください。
「聞き出した目的は何でも、日本政府に女性優遇制度の導入と武偵制度の撤廃を要求することみたい」
すっきりした顔で聞き出した情報を語る流無。
何があったのかは気にしない。
例え、後ろでびくびく痙攣しながら涙と鼻水を流している犯人がいても気にしない。
何はともあれ、犯人たちの要求は至極納得できるようなものだった。
ISによる女性の地位を底上げしようという運動は存在するし、そのために男に活躍の場を与えている武偵制度をなかったことにしようとする。
最近では増えてきている犯行動機だ。
それはともかく、どうしようもない事態が進行している。
最初、こいつらが犯行に乗り出した際の衝撃。
どうやらあれはこの飛行機のエンジンを爆破させた衝撃だったらしい。
墜落の危機だった。
「それって春先に俺とアリアが巻き込まれたハイジャックみたいな感じじゃないか」
「ああ。しかも、爆破されたエンジンもお前たちの時と同じだ」
しかも。その際の衝撃で機長と副機長が頭を打ったらしく昏倒していた。
キンジの時は、ヒステリアモードのおかげですぐに操作方法を理解でき、そのまま着陸させたのだが、俺たちのメンツの中でそんなことができるやつはいなかった。
改めて考えると、ヒステリアモードもチートだよな。
「で、そこでダメもとで機内に飛行機の操縦経験者がいないかアナウンスしたんだよ」
「おいおい。そんなことしたら大混乱になるだろ」
確かに。
ハイジャック犯の犯行予告の後、そんなアナウンスをすれば運転に支障が生じてしまったことを感づかれて、パニックになってしまう。
だが、そのリスクを侵してでもそうするしか選択肢がなかった。
そして、あいつが現れたんだ。
「アナウンスを聞いてきたんだが、力になれるかもしれないぜ」
いかにも軽い感じで操縦室に入ってきたのは、さっきトイレで飛行機酔いの女性を介抱していたやつだった。
アロハシャツで入ってきたそいつに、操縦室のなかで何とか飛行を維持していた矢代と、機長と副機長を介抱していた俺たちは驚く。
「じゃ少し見せてもらいましょうか」
驚く俺たちをしり目にそいつは矢代の隣の操縦席に座り、操縦かんを握る。しばらく目をつむっていたが、やがて眼を見開くと慣れた手つきで計器をいじり、操縦かんをきる。その手つきはまるで熟練のパイロットだ。
「おい。少しまずいことになったぜ」
アロハシャツ(仮)の動作に驚いていた俺たちに、少し焦ったような声で話し始める。
「さっきエンジンを爆破されたせいで飛行が維持できなくなっている。これ以上無理させればエンジンがオーバーヒートを起こすぜ。どこかに不時着させるしかないな」
「……ここから一番近い
「今調べている……あった」
アロハシャツと矢代が無線を使い、周囲の空港に呼びかける中、ようやく見つけたのか矢代が声を上げる。
「関西国際空港。そこしかないわね」
この飛行機は東京から大阪に向かうはずだったのだから、そこが妥当か。
「だが問題があるぜ」
「問題?」
「今のエンジンで生み出している浮力じゃ、気流の関係でどっちみちここから近い
アロハシャツの言葉に全員が絶句する。それはつまり、燃料漏れを起こしているということだ。
「……気流が変われば何とかなるんだな?」
そんな中、俺は無線機を準備する。
この状況で、なんとか不時着させる方法を俺は思いついた。
「ああ。そうだが」
「なら俺が何とかする。無線でお前が指示を出してくれ」
言葉も少なく、俺は操縦室を飛び出そうとする。
「まって!和麻あなた」
「ああ。ここは
「……私も行く」
「簪ちゃん!?」
俺の隣に簪も並ぶ。
「私が《氷凰》で下から支えれば、少しはマシになる」
簪も俺の風術を知っているから何をしようとしているのか察したようだ。
そう、俺はこれからシャーリーズに乗り、機体の外に飛び出し、周囲の気流を操作する。
これだけでかい機体の周りの気流を操るんだから、制御して抑える必要なんてないしな。
加えて簪がISで機体を支えて、補助してくれれば何とかなる。
それは流無もわかっているはずだが、流無の目には心配と不安が浮かんでいる。
そんな流無の前に簪が進み出て、
「大丈夫。私も更識の女だから。」
「か、簪ちゃ~ん!!」
そう意気込んで、流無を元気づける。
流無は自信たっぷりに言い切った簪の成長に涙を流して抱き着く。
ひとしきり、抱き着いた後二人は離れてそれぞれ自分にできることをやることにする。
それは他のメンバーも同様で、布仏姉妹と遥香は更識の部隊の人たちと乗客を落ち着かせにいき、矢代はアロハシャツのサポート。
そして、俺も自分のできることをやりにく。
とりあえず、機内の外に出ることのできそうな場所に簪と向かい、穴をあけて機外に脱出しなければ。
「おい。お前さん」
「なんだ?」
出ていく俺に声をかけるアロハシャツ。
「頼んだぜ」
その言葉に、俺は短く、しかし、はっきりと答える。
「ああ。そっちも頼んだぜ」
「で、全員で何とか協力して無事に着陸できたとさ」
「…大変だったな」
「ああ。おかげで沖縄には行けなかった」
事件の後片付けや報告なんかで沖縄旅行はパァになっちまった。もっとも、代わりに大阪から東京までのんびりドライブの旅を楽しんだけどな。
……あの後の夜に俺と流無はとんでもない目にあったのだが。
「それにしても何者だったんだ?そのアロハシャツ」
「さてな。だけど、そのうち会えるような気がするんだよな」
日本某所。
そこは数十分前まで、数十人もの女性たちが自分たちの組織、《明け色の女神》の活動を行っていた施設だったのだが、今では瓦礫の山になっていた。
「終わったか?」
瓦礫の中を歩む、四人の男女。そのうちの一人、ジンヤが問う。
「おう。ここにいた屑たちの活動資金は残らずいただいたぜ」
「すごいわね。裏金の割合が87%って、どんだけ後ろ暗いことしてきたのかしら」
その問いに答えたのはレヴィと未来。
レヴィはその両手にべレッタM92Fとオートマグを構えた
「おい。ここにリーダーがいたぞ」
そう言い、IS《サイレント・ゼフィルス》を纏ったマドカが血だらけの女を放り投げる。
顎をつぶされ、体中に重傷を負った女、その毛先に触れたジンヤはすぐさま自分の超能力を発動させる。
「蛭川四図眼(ヒルカワ・シズメ)。ジャーナリストを副業としながら、女性の地位を上げる活動を白騎士事件から続けている、典型的な女尊男卑主義者か。うわお、こいつとことん醜い差別思考だ」
触れた対象の情報を読み取る
それこそがジンヤの超能力。その力で、飛行機の操縦かんに残された思念から操縦方法を読み取り、飛行機を操縦して見せたのだ。
そして、今度は蛭川の思念を読み取ったのだが、もはやそれは最悪だった。
・人の批判記事を書くのが得意、しかも悪質で読者が読みたがるような物を書く。
・武偵を嫌っていて、実はキンジの兄、アリアの母親の批判記事を書いたのも蛭川。
・目つきが悪いと言いがかりを言って男性の弱みを握って言いなりにさせる。
・男性を味方する女性も生きる資格は無いと言う上に笑いながら人を撃つ、人の思いを踏みにじるド外道。むしろ、吐き気を催す邪悪である。
など等……
「どうする?」
「こいつはだめだ。生かしておいても反省する気はないな。というわけで」
ジンヤは懐から愛用のコルト・シングル・アクション・アーミーというリボルバー式の拳銃を取り出す。
それを見た蛭川は何かを必死に喚きたてようとするのだが、あいにく顎が外れているのでそれは意味をなさない。
「死ね」
後日、《明け色の女神》の本拠地が特定されたが、そこはすでに瓦礫の山で、その中心に腐った死体が放置されていた。
いや、ハイジャック難しかった。本当はもっとがっつり書きたかったけれどあまり長引かせるのもなんだったので。
ホントはあまり人は殺したくなかったのですが、とある方から蛭川というどうしようもない屑の設定をもらいまして、またこういう血なまぐさい場面も必要かなと思い、書いてみました。
ファントム組は二学期編から本格参戦です。
あと、旅行中に和麻と流無に何が起こったのかはR―18のほうでいずれ書きたいと思います
次回は……合宿&肝試しイベントに行きます。