『汚泥と』じゃありません
質問攻めから解放されたあと、2人は縁側で打ち合わせもかねて雑談を交わした
ややこしい話になってしまったということもあり、珍しく喧嘩無しで雑談できた
なんで必死にペンダントを探してたのか聞かれ、女々しいと言われる覚悟で楽はペンダントについて話した
10年前に女の子と約束して、それ以来肌身離さずに持っていると
最後まで黙って話を聞いていた千棘は意外にも
『そういうの素敵だと思うわよ?』
と楽の思いを肯定した
【そんな過去の事を引っ張ってるのは男らしくない】と言われる覚悟をしていた楽は不覚にもドキッとしてしまった
翌日、楽はいつも通り組員の朝食を用意しようと、台所に向かっている途中で竜に呼び止められる
家の前まで千棘が来ているとのことだ
何事かと思い玄関を出ると、そこにはひきつった笑顔の千棘がいた
『おはよう一条君、さっそくだけどデートしない?』
おそらく後ろにたっているクロードの謀(はかりごと)だろう
おそらくは、デートさせて化けの皮を剥いでやろうという魂胆なのだろう
『奇遇だなぁ、見たい映画があったから誘おうと思ってたんだよ、動物モノの映画なんだけど興味無いかな?』
言葉とは裏腹に、クラスメイトに見つかるリスクが生じるということもさることながら、貴重な休日と小遣いを浪費させたくない楽は断りたい気持ちでいっぱいだった
『アンタって詐欺師なの?よくでまかせがポンポン出るわね』
『抗争を止めるためなら閻魔に舌を抜かれる覚悟だ、二枚舌だから一枚くらい平気だしな』
千棘の嫌味をしょうもないジョークで返す楽
後ろから見る分にはそうでもないだろうが、一緒に歩く2人の表情を見ればとてもデートには見えないだろう
ちなみに解散して各自、その辺で時間を潰して家に帰るという作戦は不可能である
何故なら両組織の連中が尾行しているからである、しかも大勢
楽は転んでもただでは起きないたくましさを持っているので、このデートをプラスにしようと目論む
もし小咲と付き合えた場合、どんなデートにするか前々から楽は考えていた
どうせなら千棘で試してやろうと思い、まずはお洒落なカフェに連れていく
しかし、千棘が店員に聞こえるレベルでコーヒーと値段にケチをつけて台無しになる
小咲ならこんなことにはならないから大丈夫だと気を取り直して、次は食事に行く
ここでも女受けしそうな小洒落た店を選ぶ楽だが、千棘は焼肉屋を希望する
この時点で台無しだが、小咲がこういう店を選ぶ可能性もあると考え千棘の意見をくみ取る(そもそもこういう時、男は逆らわないものだという持論がある)
結果として台無しになった、千棘は成人男性の倍以上をガツガツと平らげた
しかも肉にケチをつけながら
怒りよりも哀れみを覚えた
コイツは女として欠けているものがあると
次は予定通り映画館にいく
動物モノが見たいと主張する楽だが
『アンタ、映画の趣味までそんなにナヨナヨしてんの!?』
と馬鹿にされる
ちなみに千棘が推してきたのはバリバリのアクションものである
偽デートということもあり、恋愛モノで落ち着いた
ご察しのとおり、千棘は速攻で寝た
最早隠れる気もないヤーさん達は手をつなぐように煽ってくる
ヤクザとギャングは【キスをするべきだ】【それはまだ早い】という論争を繰り広げる
クロードはわざとらしく銃をガチャっといわせる
どうでもいいがヤクザとギャングが大勢で恋愛映画の会場に入るというのは中々シュールな光景である
仕方なく手を繋ごうとする楽だが寝ぼけた千棘の蹴りでぶっ飛ぶ
映画館を出た後、当然喧嘩する2人
尾行してる連中も余計なことをしたかもしれないと、ソワソワしだす
【やってられるか!】と立ち去る千棘
珍しく同意見の楽はすぐには追わなかった
しかし、このまま解散してはメガネ(クロード)にますます怪しまれると思いしぶしぶ後を追う
追いついたはいいものの、千棘がガラの悪い男達に絡まれていた
千棘が持ち前の腕力で不良をぶっとばす寸前に楽が間に入る
『いやー、すみませんね!コイツ日本語不慣れなもんでして!失礼しまーす!』
そう言って千棘の手をひいてその場を足早に去る
あんな冴えない男が彼氏かよという言葉を背に受けつつも歩みを止めない
『女の子助けてヒーロー気取り?バッカじゃないの?あんな奴ら私1人でも・・・』
『んな事言ってんじゃねえ!殴る相手くらい選べってんだよ!あんな殴る価値もねえ奴ら殴るってのは自分も同レベルだって認めてるようなもんだ!だせぇことしてんじゃねえ!』
悪態をつく千棘に対し、食い気味に説教する楽
本気で自分のことを考えてくれている楽に対して思うところはあるが、素直になれない千棘は反発する
バツの悪さもあってかトイレに向かう千棘
苦労の耐えない楽はうなだれる
『はぁ・・・初デートは小野寺が良かったなぁ・・・』
『え?』
独り言を言ったつもりが誰かに聞き返され慌てて顔をあげる楽
独り言を聞かれただけでも恥ずかしいが、よりによってその相手は・・・
『お、小野寺?』