才能が欲しい
休日返上デートを終えた楽と千棘はその夜、身内から質問攻めにあった
幼少から見守ってきたのだ、初デートが気になるのは当然といえば当然だが、もう少し配慮があってもよいのではないだろうか
家での平穏はなくなったが、せめて学校での平穏は守り抜こう
そう決心する二人であった
だがしかし…
『ラブラブカップルが登校してきたぞー!』ワー
教室に入った途端、クラス中の皆が騒ぎ立てる
予想外の出来事に硬直する二人
聞くところによると、クラスの男子二人にデートを見られていたようだ
その男子から集に連絡がいき、集からクラス全員に連絡がいったらしい
バラしたのが小咲でないことに安心しつつも、楽は集にヘッドロック、否、チョークスリーパーをかける
落ちそうな集にかまうことなく、クラスメイト達は二人に質問攻めをする
大盛り上がりのクラスメイト達であるが、ほんの一部は違った
小咲は苦笑い、彼女の親友の宮本(みやもと)るりは仏頂面、どてらは何か物申したそうな顔、集は死にそう
誤解を解こうとする楽だったが、窓の外にいる不審者に気づいてビクッとする
千棘のお付きであるクロードが木の上でクラスの様子を覗いていたのだ
断腸の思いでラブラブカップルであることを認める楽
クラス中がヒートアップする中、楽が小咲の方を見ると目が合った
誤解なんだと目で訴えるが、小咲はニッコリと微笑む
完全に誤解している顔だ
休み時間もクロードの監視は続き、訂正しにいくチャンスがない
休み時間に窓の外と小咲を見てうずうずしている楽を見て、事情をなんとなく察したどてらは助け舟を出す
クロードの監視は楽と千棘に集中しており、他のクラスメイトの動きなどいちいち見ていないし、会話など最初から聞こえはしない
どてらは目立たぬ動きで小咲のもとへ行く
『小野寺さん、ちょっといいかな』
『え?あ、どてら君…どうしたの?』
どてら単体で話しかけてくることは珍しいので小咲は少し戸惑う
『楽は多分、貴女に言いたい事ある』
『え…?い、一条君が?私に』
『ここじゃ言えないみたいだ、昼休み2階の階段の踊り場に行ってくれないかな』
『う、うん、わかった』
窓から覗くことができないところに小野寺と楽を行かせるという魂胆だ
そして楽にはメールで伝える
さすがのクロードも楽の携帯の画面までは見ることができないだろう
昼休み早々に教室を出る楽
クロードが楽の監視にいけないように、どてらは千棘のもとに向かう
『ちょっといいかな、桐崎さん』
『えっと…アンタは…』
『楽の親友の土寺ってもんだけどさ、一つだけ聞きたいことが』
千棘に馴れ馴れしく声をかけているどてらを見て、クロードは楽のことなど放置して千棘の監視に集中する
『なんだあの男は…ナンパか?妙なマネをしたら私のマグナムで…』
クロードは懐に手を入れて、いつでもどてらを殺せる準備をする
どてらは決して窓の方を見ずに、クロードのことを聞く
『アンタ気づいてたの?でもなんで私の身内だって…』
『貴女と楽がちらちら見てたから知り合いなんだろうけど、集英組の人間っぽくないから貴女側の人間かなって…』
むしろ何故他の皆はあのメガネに気付かないのだろうか
どてらには疑問でならなかった
『まああれだ、ほんの一瞬でも楽の監視ができないように話しかけただけだから、深い意味はないよ』
そういってどてらは千棘のもとを立ち去り、次は宮本のもとへ行く
『なにかしら?どてら君』
声をかける前に先制を取られる
別に用というほどのものはない
ただ、千棘だけに話しかけるとクロードに目をつけられて今後の人生が危ういので、誰にでも話しかける男だという印象を植え付けたかっただけである
ついでというわけではないが、楽と千棘のことを話す
『まさかとは思うけど、るりちゃんは信じてないよね?あのカップルのこと』
『奇遇ね、貴方も信じてないのね』
どうやら杞憂だったようだ
やはりこの子はめざとい、あらためて感心するどてらであった
ちなみにこの馴れ馴れしい呼び方は、集の影響である
最初はその呼び方を止めるように言っていたが、聞いてくれないのでもう気にしないことにしている
楽が小咲のことを好きなのは大体の人が感づいている
楽がどれだけ小咲のことが好きか、それは身近にいる宮本とどてらがよく知っている
故に千棘と付き合い出したのは腑に落ちない、小咲を諦めたにしたって手が早すぎる
そもそも2人の仲は険悪だったはず
宮本とどてらが自分達の話をしているとはつゆしらず、二人はどてらに指示された場所でカップルのことで話し合っていた
当初、楽は【もし小野寺にだけ本当のことを話したら、それは告白みたいなもんじゃね?】と小咲に話すのを躊躇していたが、どてらがお膳立てしてくれた以上は逃げるわけにいかないと勇気を振り絞り、小咲に全てを包み隠さず話した
その勢いで告白するのもありだったが、楽は【小野寺は他人に言いふらしたりしないと思ったから話した】と言って逃げに走ってしまった
突拍子もない話だったが、偽物の恋人だと知り心から小咲は安堵する
小咲の誤解はとけたが、高校を卒業するまでラブラブカップルとして振る舞うことが義務付けられてしまった楽と千棘
モテない男達からの妬みと、恋バナ大好きの女子達の歓喜の声が交差するこのクラスで二人はやっていけるのか
3年間やり通せるか、それとも途中でボロが出てしまうのか
はたまた本当の恋人になってしまうのか
どう転ぶかはまだまだわからないが、受難の日々であることは間違いないだろう