IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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すみません、予想以上に長くなったので前後編というか二話に分けた掲載を……後半部分は近日中にあげます


臨海学校二日目~閃光~

 

 

 

 

 角度的に福音の攻撃が見えづらかったこともあるが、それでも自分の注意が明らかに陽太にしか向いていなかったこと。

 事もあろうに攻撃対象の行動から目線どころか意識すら外すという愚行。

 注意散漫な状態で作戦の後先も考えない行動。

 

 そして、それらの自分しでかしたツケの全てを支払ったのが自分自身でなかったことが、シャルの意識を完全にホワイトアウトさせた。

 

「………あっ」

 

 シャルを庇うためにとっさに瞬時加速(イグニッションブースト)を使って何とか庇いに入った陽太であったが、突き放す動作のみで手一杯になってしまい左側頭部(テンプル)にシルバーレイの直撃を受け、マスクとバイザーにヒビが入った状態のままゆっくりと落下していく。その姿をシャルは呆然と見つめるが、攻撃した側の福音は止まることはせず、むしろ現状最強の敵対勢力であるブレイズブレードが仲間を庇って被弾したことを好機と判断し、一気に止めを刺すべくツインバスターライフルの銃口を向け、引き金に指をかけるのであった。

 

「マズイッ!」

 

 そのことにいち早く気が付いたラウラがハイブリッドバスターキャノンを構え、指示と同時に発射して福音の行動を妨害しにかかる。

 

「鈴ッ!」

「わかってるわよ!」

 

 ラウラの砲撃がツインバスターライフル発射寸前だった福音に迫り、仕方なしの発射中断と回避運動を取らせることに成功する。そこへ瞬時に変形した鈴の甲龍・風神が空気を突き破るような加速で福音に突撃し、周囲を飛び回りながら龍咆を連射して陽太に追撃させないように牽制し続けた。

 連射される不可視の衝撃砲の弾幕を福音は際どい動きで回避し、甲龍・風神に反撃のシルバーレイを複数発射するが、自在に稼働するアタックブースターの加速力が作り出す鋭角な軌跡をは中々捉えることができない。更にそこへ両手にビームハンドガンを持ち、SBビットを10基全て出したセシリアが中距離から支援射撃を行ってきたのだ。

 威力こそライフルに比べれば低いものの、連射性に優れたビームハンドガンは回避に優れた福音をすぐさま捉えだす。一撃必殺ではないとはいえ何発もヒットすればその分シールドバリアは削られ行動に制限がかかってくる。すぐさま福音はシルバーレイとマシンキャノンの一斉掃射で反撃を開始し、セシリアはSBビットを目まぐるしく攻守を切り替えながら自身も撃ち合いに参加して両者の間で激しい閃光とスパークが交差する。

 

 一方、落下してしまった陽太を空中で受け止めた一夏と箒は反応が鈍い彼の様子を心配し、必死に声をかけ続けていた。

 

「陽太ッ! 陽太ッ!」

「しっかりしろ! 私達の声は聞こえているのか!!」

「…………ッ」

 

 一瞬、痛みに震えながらも右腕を上げて何とか意識はあることをアピールし、二人をとりあえず安心させる。

 

「はぁ………本気で死んだかと思ったよ」

「身体は動きそうか?」

 

 ため息をつく一夏を他所に箒は陽太の体調を考慮し、動けるのであれば戦線を離脱するように仕向けるのだが、そこへ顔を真っ青にして涙ぐんだシャルがゆっくりと近寄ってくる。

 

「あっ………あ……」

「シャル、今は落ち着け」

 

 先ほど取ったシャルの行動を愚か者と叱りつけたい箒であったが、今、彼女を追い詰めてこれ以上精神を掻き乱すのは逆効果にしかならないと思い、声色を抑えて陽太を連れて二人で前線から離れるよう指示を出す。

 

「シャル、負傷した陽太を連れて戦線を離脱してくれ。これ以上は陽太が無理だ」

「あ………」

「しっかりしろっ!」

 

 声を荒げる箒に一瞬だけ身体を震わせて言葉に従うシャル。一夏もその姿を悲しげに見守りながらも、今は箒の言葉が正しいと思い、黙って彼の身体を預ける。だが、思うように体を動かせない陽太であったが、思考の方は目まぐるしく動き回っていたのだ。

 

「(ブレイズ、保護機能を最大まで上げて出血抑えろ。痛みはいい、根性で耐える)」

『何言ってるんだよ! 今は皆の指示通り怪我の治療ためにいったん戦場から離れて』

「(い・や・だっ! こんなぐらいこの間に比べればなんともない)」

『バカも限度を考えろ! 絶対にそんな指示には従わないからね!』

 

 この期に及んでまだ戦う気なのか、一体全体どこまで負けず嫌いであれば気が済むというのだろうか、相棒して呆れ果てるブレイズであったが、陽太は実は違う部分で今は戦場を離脱できないという予感を抱えていたのだ。

 

「(あのIS、本当にあの程度なのか?)」

『?』

「(いくら操縦者いないからって、楽勝過ぎるだろう。箒が決着つけれないレベルじゃない)」

 

 自分に次ぐ実力を持つ箒が攻めあぐねていたISだと知り、どれほどのものかと思った陽太だったが蓋を開けてみれば攻守ともに『そこそこ』でしかない。バスターライフルの火力だけは脅威だが、それだけのISという印象しかない。シャルの予想外の乱入がなければ速攻で勝負がつく実力差なのだが、逆に陽太はそのことに強い疑念を感じていた。

 米国が威信をかけて制作したISがあの程度なわけはないと。

 

「!?」

 

 陽太が痛む頭を無理やり動かして振り返った。

 先ほど同様、集団戦には不慣れそうな戦い方で何とか三人の攻撃を凌いでいる福音の姿が映る。このままでもなんとか押し切れるかもしれない。傍から見ればそう思えなくもない展開なのだが、三人の戦いを見ていたナターシャが全周波通信で危険を伝えてくるのであった。

 

「時間をかけては駄目! 福音はきっと皆の動きを見切りにかかってる!」

「「「!?」」」

 

 三人がその言葉はどういう意味かと問いかけるよりも早く、福音自らがその真意を伝えるように行動し始める。

 

 巧みな連携で翻弄してくる三機に対して福音はまず全方位にシルバーレイを発射し、セシリアとラウラは各々シールドとバリアで身を守り、鈴は一気に射程距離外まで離脱してみせる。だが連携をとる三機の『間』は確実に開き、そこを突破口とされてしまう。

 最初に狙われたのはセシリアであった。

 

「なっ」

 

 彼女に向かって、福音はマシンキョノンを構える。当然のようにセシリアはそれをシールドで守ろうとするが、構えをフェイントにした福音は発射することなくモーション無しのダッシュによってタックルをもろに受け止めしまうのであった。

 

「きゃああああああっ!?」

「セシリアッ!!」

 

 福音の圧力に押され空中を引きずられるセシリアを助けようとするラウラであったが、両者がくっ付いている状態ではハイブリットバスターキャノンを撃つわけにもいかず躊躇する。その隙を突くように福音は軌道を変えて、セシリアを盾にするように彼女ごとラウラに向かって突撃してくるのだ。

 

「クッ」

 

 近接戦闘に切り替えて助けるしかない。ラウラがプラズマソードを抜くが、そこでなんと福音はビームサーベルを抜き、待ち構えるラウラではなくセシリアを狙うのであった。

 

「させるかっ!」

 

 瞬時加速を使って距離を一瞬で詰めたラウラは間一髪でサーベルを弾くことに成功するが、福音の狙いはまさにそこであった。ラウラとの間合いがなくなった瞬間に急制動をかけることでセシリアは慣性の法則のまま前方へと弾き飛ばされ、ラウラはセシリアを受け止めたがために、一瞬だけ意識を福音から外してしまう。

 

 ―――そしてセシリアの背から見える黒っぽい小さな筒―――

 

「閃光弾(フラッシュバン)!?」

 

 投げられた手榴弾の種類を瞬時に見抜いたラウラであったが、直後に視界の全てを埋め尽くす閃光を塞ぐことは適わない。そしてそれは福音の背後から最高速で突っ込んできていた鈴にも言えたことであった。

 

「目がッ!?」

 

 セシリアを同じく助けに入ろうとした鈴であったが、突然の閃光に目が眩み進路が大きく逸れてしまい、同時に目標であった福音を一瞬見失ってしまうのであった。そしてそこにできた僅かな隙を福音は突いてくる。

 大きく軌道がぶれた鈴にシルバーレイを放ち、途中甲龍のハイパーセンサーがそれを捉えることで自分が攻撃されたことに気が付いた鈴が大きく上昇することでやり過ごそうとするが、的確な回避マニューバが取れず、2,3発光弾が直撃してしまう。

 

「ガハッ!」

 

 変形を解除させられ、空中に放り投げられた鈴に向かって突進した福音は彼女を掴むと、背後で自分を砲撃しようとしていたラウラに向かってまるで物のようにブン投げ、慌ててそれを受け止めたラウラは両手でセシリアと鈴の二人を抱きかかえることになり、防御はおろかロクな回避運動も取れない状態にされてしまう。

 

 ―――ツインバスターモードのバスターライフルの銃口が向けられ・・・―――

 

 当然と言わんばかりに淀みない動きで狙いを定め、福音は容赦なく引き金が引かれた。

 

「!?」

「!?」

「!?」

 

 視界を全て埋め尽くす圧倒的なビームの奔流を前に三人が成す術なく呑み込まれようとする中、そんな彼女たちの前に、白い影が直撃の瞬間に光を引き連れて割って入る。

 

「させるかよぉっ!!」

「一夏ッ!?」

 

 彼女達を守るようにツインドライブを発動させ、フルパワーの零落白夜を用いてツインバスターライフルのビームを『切り裂く』一夏は、鈴の声に答えるかのように叫びながら雪片弐型に渾身の力を込めた。

 

「ウオオオオオオォッ!!」

 

 ―――零落白夜によって真っ二つにされるバスターライフルの粒子―――

 

 二つに分けられたビームが遥か後方で海面に接触して巨大な水柱を作り出す。如何にISを纏っていようとも直撃すれば命が幾つあっても足りないであろう威力を前に、改めてラウラ達は戦慄した。そして空母数隻すら貫けるバスターライフルの一撃から彼女達を守り切った一夏は、そのまま福音に近接戦闘を仕掛ける。

 下段からの斬り上げ、と見せかけてのそこから更に突きへと移行する連携技。篠ノ之流『飛電』と言われる技を用いて福音にダメージを与えようと一夏は間合いに踏み込む。本来は強力な殺傷力を持つ突きを放つのは一夏としては極力避けたいことなのだが、相手が無人機であるというのであれば気兼ねも必要ない。

 だからこそこの技で決める。或いは大ダメージに繋がると思っていたのだが、下段からの斬り上げを回避された瞬間、彼の脳裏にあるイメージが沸き上がる。

 

 ―――攻撃を避けた瞬間の姿が、自分がよく知る人物のイメージと重なる―――

 

「!!」

 

 技を途中で止めることもできない。流れのままに突きに移行した瞬間、福音は体を駒のように回転させて一夏の周囲を回り、勢いを殺さないままの肘鉄で彼の背中を強打する。肺を貫く衝撃に叫び声すらあげれなかった一夏だったが、その動き、反撃手段に覚えがあった。

 

「(前に一度、模擬戦した時の陽太と全く同じ動き!?)」

 

 だとするなら、ここで反撃は終わらない。痛む体を無理やり反転させた一夏が雪片を楯にして振り返ったとき、同時に福音の回し蹴りがガードの上から叩き込まれ、威力に負けて吹っ飛んでしまう。

 

「グッ!?」

 

 体勢が崩れた一夏に福音が続けざまにシルバーレイを放つ中、一夏はツインドライブが起こすエネルギーの余剰放出を利用した障壁をもってその攻撃から自分の身を守る。しかし、ジワジワと障壁が削られていく感触に背筋に嫌な汗が流れる。

 

「(このままじゃ押し切られる! 一か八か強引にもう一度突撃を………だけど)」

 

 陽太の動きを正確に模倣(トレース)できる相手に、強引な一手だけで対抗できるのか? 考えが纏らずに後手回りになってしまう一夏であったが、彼を援護するために箒が福音の背後から二刀をもって斬りかかる。

 

「はああああああっ!」

 

 最短の動きをもっての突き技。だが福音は瞬時に反転し、突きを回避しながら仰け反ると箒の右腕に横から足を絡ませ、軸にしながら自身の身体を回転させつつ逆に頭部を狙い、渾身の蹴りを放とうとする。

 

「!?」

「させるかよっ!」

 

 ―――空中で激突し、静止するブレイズブレードと福音の蹴り―――

 

 箒を庇うために痛む身体を無理やり動かした陽太の右足が福音の蹴りを寸での所で受け止める。拮抗する力と力によって金属同士が削れる甲高い音が響く中、IS同士のハイスピードバトルに旧世代の兵器であるGSをもってナターシャがなんとか介入する。

 

「気を付けてッ! 福音は全IS中、おそらく最も『技巧』に長けているわ! 通常技術ならばすぐさまコピーできてもおかしくない!」

「技巧?」

「(コア同士に優劣はないって話だけど、個々の個性については話は別ってことか!)」

 

 一夏や箒には分かりづらいことだが、コアとの意思疎通を頻繁に行っている陽太には大筋のイメージが伝わってくる。

 ISコアの性格は操縦者のそれに反映されて構築されるというのであれば、当然格闘を好む操縦者の元に格闘技術が優れたコアが生まれたり、射撃寄りや、飛行技術、剣術、防御、様々な得意分野を持つISコアが生まれても不思議ではない。

 そしてナターシャ・ファイルスといえば、現役時代において突出していた物は『技巧』………相手のスキルを瞬時に見抜き、解析し模倣することに長けており、他のヴァルキリーたちの圧倒的な『特化能力』に対して、数々の『技巧』を持って対抗していたと言われている。ならばその専用機がコピー能力を有しているのも理由の説明になる。

 

「チッ! ちょっと張り切りすぎて手の内見せすぎたか」

 

 全員で袋叩きにしておけば良かったかもしれない、とちょっとだけ自分の判断を反省しつつもなんとか事態を打破するために考えを張り巡らせる陽太であったが、その時、相方のブレイズが必死な声で姉にあたる福音に問いかける。

 

『ゴスペル姉さん! お願いッ、私達の声を聴いてッ!』

『!!』

 

 直後、不気味に震え続けていた福音の挙動が止み、彼女が静止する。

 

「………止まった?」

『姉さん!! ゴスペル姉さん!?』

 

 必死な妹の言葉が届いたのか、動きを止めた福音を陽太が警戒しつつ様子を探る。先程から時折操縦者のナターシャや自分のIS(ブレイズ)の声に反応している節があり、他者との繋がり(ネットワーク)から完全に孤立している訳ではないようだ。

 

 ―――声………誰?―――

 

 ―――どこかで聞いたことのある………声―――

 

 ―――とても………とても……懐かしい、『みんな』の声―――

 

 

  ―――仲間を食らう、漆黒の龍ッ!!―――

 

 

『ヴァッ………ナダハァッッ!!』

『姉さんッ!?』

 

 ここにきて福音は両手で頭を抱えると突然苦しみの声をあげ、そして彼女は怒りの咆哮の代わりに、両手に閃光を纏わせるのであった。

 

「えっ? なになにッ?」

「あれは………まさかッ!?」

 

 間の抜けた声を出している陽太とは違い、ナターシャにしてみればまさかとしか言いようのない事態が発生している。だからこそ彼女はそれまで極力福音が被害に及ぶことを恐れていたのだが、一変して声を張り上げる。

 

「早くッ! 福音に攻撃をッ!!」

「なにっ?」

「いいから早く! でないと、『アレ』が撃たれる!!」

 

 彼女が何をそこまで焦っているのか? 閃光が収まり福音がその手にしたものが現れた時、誰もが理解可能なはっきりとした形となっていた。

 

 ―――ツインバスターモードのバスターライフルの銃身に取りつけられた六つのユニット―――

 

 元来大型の銃身をしているツインバスターライフルに、更なる延長ユニットが取り付けられたため、一見した見た目は六枚の花ビラのようにも見受けられる。だがその異形に光が収束され始めると、徐々に大気が不気味な唸り声を上げ、不規則で不気味な発光現象が起こり始める。

 

「ドライツバーク、『ドッペルト』モードッ!!」

「「ド、ドッペルゲンガー?」」

 

 陽太と一夏が明らかに理解できていませんといった表情とボケをかます中、ラウラはナターシャが何を慌てているのかを正確に理解していた。

 

「ドイツ軍内部で開発されていた連装縮退エネルギー照射砲身!?」

「ええそうよっ! だから今ならまだ間に合う。エネルギーチャージが終了する前に!!」

 

 ドライツバーク………直訳するならドイツ語で『三人の小人』と呼ばれる連装ユニット。本来はドイツ軍がかつてアメリカ軍と共同で開発していた大型ビーム砲の開発プロジェクトにおいて試作された物の一つであり、ラウラも実物を拝むのはこれが初めてなのだが、まさかそれを実戦に投入かつ複数のユニットつけてくるとは想像もしていなかっただけに、アメリカ軍が対オーガコアに対して出した答えが『超火力による殲滅』なのだとまざまざと見てとれる。

 

「とりあえずヤバイことだけはわかった!」

「チャージなんてさせるかよ!」

 

 どんな威力かは知らないが、発射される前に問答無用で今度こそ撃墜してしまえばいい。素早く接近する陽太と一夏の二人であったが、突如自身の相棒たちがそれを静止するようにと言い放つ。

 

『待ってッ!』

『マズイッ! ゴスペル!』

『止めて、姉さん!!』

 

「「!!」」

 

 二人が声を聴くと同時に、突如自分のISにスパークが走り、身体が思うように動くことができなくなってしまう。

 

「なんだっ!?」

「コレ………はっ!」

 

 まるでISを通じて感覚がマヒさせられるように、身体が思うように動けなくなる。見かねた箒が二人を助けに接近してくる。

 

「二人と…………があっ!!」

 

 だが、接近した途端今度は紅椿にも同様な現象が起こり、箒も行動不能に陥る。三機の謎の現象を解析するラウラであったが、そのスパークは距離が離れていた自分にも直接襲ってきたのだ。

 

「くううううぅぅぅぅっ!!」

「な、なんですのっ!?」

「う、動けないッ!!」

 

 それはラウラだけではなくセシリアと鈴にも襲い掛かり、二人は攻撃することも防御することもできずに完全に空中で丸裸同然に棒立ち状態となった。そして最後、いまだに立ち直れていないシャルだけが残った中、リーダーである陽太はまずナターシャに話しかける。

 

「GSの腕をシャルに伸ばせ」

「えっ!」

「急げッ!!」

 

 陽太の剣幕に押されたナターシャが指示通りGSを動かしてシャルのほうに右腕を向けると、陽太は続けてシャルに向かって急ぎ指示を出す、

 

「ISを解除して腕に捕まれシャルッ!」

「・・・ヨウタ?」

「早くしろっ!」

 

 余裕の欠片もない言い方は悪いと思うが、シャルまで取り込まれればどうしようもない。身体を震わせながら陽太の言葉通りシャルはGSの手の上に捕まるとその場で即座にISを解除した。そしてシャルの方に特に異常が見受けられないことを確認し、待機状態ならばどうにかできるのかと、危険ながら空中での一時解除と即時展開に移ろうとするが、相棒のブレイズが危険を知らせてくる。

 

『陽太、シールドエネルギーの残量が!』

「(はあっ!?)」

 

 エネルギーのゲインが見る見る減少していくのを見て、福音が自分達のISのエネルギーを吸い上げていること、そしてこのままではエネルギーを吸い尽くされて特大バスターが発射されてしまう。そんな予感が事実だと言わんばかりに、ドッペルトモードのバスターの輝きが加速的に増していくのであった。

 

「まさか、コアネットワークで疑似エネルギーバイパスを形成してエネルギーを吸収しているというの!?」

 

 元来、一機のISからでは発射のためのエネルギーが間に合わないドッペルトモードであるため、この砲を使うためには福音を含めた二小隊のIS達とのエネルギー供給が絶対なのだが、福音に今収束しているエネルギーはすでに臨海寸前に到達しようとしている風に見えた。

 

「幾らなんでも早過ぎる! 近くに大規模ジェネレーターでもない限り、こんな……」

「ジェネレーター?」

 

 陽太がふと隣の一夏に視線を送ったとき、苦悶の表情を浮かべる一夏の両肩でウインウインと絶賛稼働するツインドライブに目が止まり、数秒の間をおいて陽太の脳内で事態が繋がる。

 

「一夏のアホーーーッ! 今すぐツインドライブ止めろ!」

「グッ!?………エッ?」

「お前のが思いっきり吸われてんだよ!」

 

 通常ISの100倍近いエネルギーなど、まさに福音には最高の支援になってしまうではないか。とぼやく暇すら与えられず、閃光の収束が更に膨張し、決壊寸前の堤防の間際のような重圧を感じる。

 

「(こらあかん)」

 

 ISが上手く動かない今、最早発射阻止は不可能だ。そして迷っている時間もない。

 瞬時に決断した陽太は、自身の相棒(IS)にこの場において最も重要だと思えることを叩き付ける。

 

「(ブレイズ!)」

『なに、陽太!?』

「(気合いで都合つけろよ!)」

 

 最新鋭兵器であるISに対して精神論を唱え、スパークに纏わり付かれた状態で陽太は自身の集中力を高め、第三世代ISの特徴であるイメージインターフェイスを最大限利用して、『思考』だけでスラスターを稼働させる。

 

「こっちだ福音ッ!」

「ヨウタッ!!」

 

 目の前で猛スピードで上昇していくブレイズブレードの後を追うように福音が銃口を徐々に上げ、狙いをそちらに向けるのを見たシャルたちは、陽太の考えを理解する。

 

 彼は一人囮になる気なのだ。

 

「ダメェッッッッッ!!」

 

 あのツインバスターライフルすら遥かに凌ぐ砲撃など受ければ、空の帝王であるブレイズブレードとて例外なく一瞬で灰燼に帰すのは明白だ。だがシャルの静止の声も、仲間の身の危険が天秤にかかっている状態の陽太を止めることできない。

 やがてブレイズブレードが福音の直上間近まで上昇した時、全員の身体を縛っていたスパークが止み、閃光が一瞬だけ銃身に飲み込まれる。

 

 次の瞬間放たれるであろう砲撃を前に、誰もが息を飲む中、戦場になっている海上付近の数km沖合にまで接近していた大型客船の看板において、水着姿で双眼鏡で戦場の様子を眺めるアレキサンドラ・リキュールが、隣でISを展開しロングレンジバスターキャノンを構えるフォルゴーレに手信号で発射の指示を出す。

 

「Fire」

「ごっつんこ!」

 

 短く呟き指を縦にすると同時に、彼女の指示を受けたフォルゴーレが砲撃を発射する。

 

 

 ―――福音がトリガーを引いた瞬間、自身を遥かに超える大きさの、直径数十メートルの閃光の『柱』が形成され、天空を穿つプラズマの奔流と化す―――

 ―――同時に、発射の瞬間飛来した砲弾が僅かにバスターライフルを掠り、射軸が一瞬だけ外側に逸れた―――

 

 

 世界中の衛星から映像で確認できるほどの荷電粒子砲が、日本海付近から大気圏を超えて宇宙に向かって放たれ、発射の余波だけで戦闘海域が嵐に襲われた。

 

「ヨウタぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 吹き飛ばされないように必死にGSにしがみ付くシャルであったが、その叫び声は発射の余波に全て飲み込まれてしまう。仲間達も必死に体勢を維持する中、やがて閃光と嵐が徐々に収まっていく。

 雲の全てが吹き飛ばされ、何も遮るもののない青空が広がる中、バスターを構えて静止する福音を皆が見上げ、上空に『何一つ』ないことを認識が追いつき始めると、茫然としていた一夏が徐々に憤怒に染まった表情で呟いた。

 

「…………おま……えぇぇぇっ!!」

 

 零落白夜を発動させ、陽太の『仇』を打とうと斬りかかる一夏であったが、福音が『何か』に引かれるように応戦することなく一夏の一撃を回避して、高速で全く明後日の方向へと飛行していく。

 

「逃がすかよっ!」

「待ちなさいッ!」

 

 その後を追おうとした一夏と鈴であったが、その時ラウラのハイパーセンサーが後方から接近してくる二種類の船舶の存在を感知する。

 一方は、見た目民間の大型客船としか思えない船舶。

 そしてもう一方は、IS内部にあるシリアルに該当する艦隊であった。

 

「!?………米海軍? まだ排他的経済水域だぞここは!」

 

 日本の領海に何故米海軍が? 色々と思考が追いつけないラウラであったが、目下彼女の脳裏にあるのは『陽太の捜索』であった。

 

「二人とも待てっ!」

 

 陽太の戦闘力と生命力『だけ』は信頼に値すると自負している………本当はそれ以外でも信頼に値はしているのだが、とりあえずそれだけは信じているラウラとしては、簡単に反応が見つけられない程度で陽太がおとなしく死んでいるとは断定できないと考えたのだ。

 

「陽太を探すぞ! 必ず何処かで……」

『9時の方向、2km先だ』

 

 その時プライベートチャンネル越しに、とてもとても『忌々しくて』仕方のない声がIS学園の全員の耳を打つ。

 

「この」

「声は」

「なんでよ!」

「どこに」

 

 箒、セシリア、鈴、ラウラがそれぞれ怒りと焦りと恐怖と複雑な感情を抱えたまま周囲を見回す中、一夏の視線が数キロ先の客船の看板を捉えた。

 

 ―――水着姿のままデッキチェアで寝そべって手を振るアレキサンドラ・リキュール―――

 

 戦闘海域だというのに全くそんなことを感じさせないほどバカンスを満喫する暴龍帝の姿に、全員の血圧が急上昇する。

 

「なんか………ふざけんなっ!」

「この非常時にふざけているのか!」

「てかこれ見よがしにその水着着るなッ! 私にケンカ売ってるでしょう!?」

「福音一機でも忙しい時だというのに!!」

「せめて戦う気があるのなら、戦いに赴く格好をしろ!!」

 

 陽太が行方不明だとか戦闘のダメージが溜まっているだとか色々起こって頭がパニックになっているところに、バカンス満喫してますという格好をされてはたまったものではないと憤慨する中、ナターシャが固く下唇を噛みしめながら彼女を睨み付けた。

 

「亡国・・・機業ッ!」

 

 今回の騒動も発端は彼女が太平洋艦隊を壊滅させたことに端を発するのだから、この呑気な姿は相当腹だたしい。そんなナターシャの視線に気が付いたのか、リキュールは一夏達にこう問いかけた。

 

『なるほど、ナターシャ・ファイルスが暴走していたわけではないのだな・・・やはりか。動きが手合わせした時と違ったからおかしいと思っていたのだが』

「何を!」

『それよりも早く陽太君を拾い上げてあげなさい。砲撃の瞬間、神速機動術(バニシング・ドライブ)で逃れたみたいだが、海面に頭部から着水している』

 

 リキュールの言葉を聞き、すぐさまラウラが海面を索敵する中、近づいてくるアメリカ艦隊のことを察知して、彼女はこの場を立ち去ることをIS学園へと告げる。

 

『どうやら米海軍が来たらしい。おそらく上層部のゴタゴタと取引だろう。君達も苦労するな………ではお暇しよう』

「てめぇ、いったい何しに来たんだよ」

『・・・バカンスだが? あと、このあたりの魚は脂が乗って美味いのだ』

 

 嘘か本気かわからない様子で首をかしげるリキュールの姿に、もうどう言えばいいのかわからない一夏が空中で地団駄踏むが、リキュールは先ほどまでとは声のトーンを一変させ、シャルに話しかけた。

 

『小娘』

「!?」

 

 敵意か殺気か………とにかく友好的ではない空気を醸し出すリキュールは、彼女にこう吐き捨てるように言い放つ。

 

『私はお前を少々買い被り過ぎていたようだ。もう興味もない。疾く戦場から消え失せろ』

「なっ………んで、私が貴方に」

『発言を許可した覚えはない』

 

 プレッシャーを伴った言葉がシャルの全てを封じ込める。

 

『戦場で泣くなどナンセンスだ。だがそれ以上に己の役割を忘れ、役割を果たそうとしている者の足を引っ張るなど滅するべき害悪だ』

 

 その言葉がシャルを凍り付かせ心臓を射抜く。

 

『今回の失態の全てはお前にある………まだ何か私を失笑させることができる言い訳でもあるのか?』

 

 今度こそ何も言い返すことができず、項垂れる様子を双眼鏡で確認したリキュールが忌々しそうにため息をついた。

 

『ハァ………早くその小娘を海に放り出して、陽太君を拾い上げに行きなさい』

 

 双眼鏡を外す瞬間、誰にも気づかれることなく小さく舌打ちしたリキュールは、項垂れたシャルの姿がどこか『千冬(親友)』のそれと重なり、苛立ちが更に募るのを隠すようにカクテルを一気飲みする。

 

 やがて客船が霧に包まれるように姿を隠していく中、ラウラのハイパーセンサーが海中から這い出てきた陽太の姿を捉えた。

 

「陽太っ!」

「どこだっ!?」

 

 海上に首だけを出して海面に浮かぶ陽太の元に、皆が集まって彼の無事を喜ぶ中、ただ一人陽太本人が茫然と手を眺めながら、ぽつりとこう呟く。

 

「こりゃ、やべぇな」

 

 ―――真昼間の晴天の下だというに、真っ黒く自分の世界が包まれていた―――

 

 

 

 

 

 





陽太さん、生還したけどまさかのトラブル発生
シャルさん、親方様に凹まされる。

ゴスペルさんの武装は『敗者たちの栄光』から採用しました………アメリカはいつだって考えることがでかくて太い


そして親方様はいつだってマイペース。きっとバカンスって発言は絶対素だ。どんなにスコールさんが忙しくしてたって、そんなの気にしない
あれ? 今回の責任ってもとをただせば誰のせいなんだっけ?(白目)
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