IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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皆さん、明けましておめでとうございます。今年も亀更新が続きますが、太陽の翼の方を、一つよろしくお願いたします。



おかしい………予定では三が日中にうp出来るはずだったのに………。

これもそれも………ヴァイオレット・エヴァーガーデン面白かったのがいけないんや。ヴァイオレットちゃんの成長見守り隊(有志求む)の活動が忙しく………。




もう一つ言い訳………車のキー、家の鍵、会社のロッカーキー一式落しました(涙)
この時期二万円の出費痛すぎ(涙


では、物語の方をお楽しみください(鬱)



臨海学校二日目~再戦~

 

 

 

「・・・ダメだ」

 

 看板で鉛色の曇り空を眺めていた陽太は、探しに来たラウラ達に無理やり会議室まで引っ張られると作戦の内容を報告され、首を横に振って速攻で却下を出すのであった。

 現状戦力が心許ない上に、先ほどまで精神状態が不安定だったシャルを最前列に立たせるなど心配過ぎる陽太であるが、当然のようにほかのメンバーから非難の声が上がってくる。

 

「じゃあどうすんのよ! 福音が転進してこっちに向かってんのよ!?」

「俺がフロントアタッカー※1すればいいだけだろうが」

「バカぬかすな! 今のお前の状況を考えてみろ。そちらのほうこそ非常識この上ない」

 

 いまだに物の輪郭すらはっきりと捉えられない状態なのに、陽太はISを纏って出撃し、あろうことか一番前に立とうとしているのだ。鈴とラウラが真っ先にダメ出しをするのだが、納得いってないという陽太はシャルにもう一度問いただす。

 

「シャルッ! ということでおとなしくお前が下がれ!」

 

 と、シャルの方を見て話したつもりが、思いっきり壁に向かって叫んでいることに気が付いていないのは愛嬌として皆ツッコミを控える。

 一方、先ほどからずっと黙り続けていたシャルは、そんな陽太に向かって彼の素直に頭を下げるという行為に出た。

 

「・・・・・・ごめんなさい」

「!!」

 

 シャルに謝罪することなぞすでに日常茶判事になっているが、逆に謝罪されるということは実は数えるほどもない陽太にとって驚愕の事態なのだが、そんな驚きよりも自分の手をつかむシャルが震えていたことに気が付く。

 

「・・・シャル?」

「ホントは知ってたよ」

 

 ずっと背中を見つめ続けていたのだから、本当はもっと早くに気が付いていた。

 いつもいつも、自分が陽太の力になりたいって言いながら、本当は自分は陽太に守って貰ってばかりだったことを。

 いつも何も言わずに真っ先にシャルを、仲間を守るために我が身を盾にする陽太の行動を。

 頑なな程、我儘なんて一切言わずに、もしもの時は自分を犠牲にできてしまう陽太の勇気を。

 

「弱くて卑怯者な私でごめんなさい、ヨウタ」

「!?」

「また自分の気持ちだけを押し付けちゃったね」

 

 自分を卑下した言葉を口にしたシャルに対して憤慨するヨウタであったが、そんなヨウタの口元をシャルは優しく人差し指だけで塞ぎ、彼の反論を封じるのであった。

 

「だから今度こそ変わりたい。変わることを怯えずにいたい。だから今日だけはこの我儘を貫かせて」

 

 それはいつもの強い気持ちが宿っているときのシャルの声のようにも聞こえた。だが今日のはそれだけではなく、大人びた艶っぽいものさえ感じられ、目が見えづらい陽太を声だけでドギマギとさせてしまう。

 

「(な、なんかシャルさんにエロボイスが混ざったかのような………いかんいかん)だからってな!」

「安心しろ陽太。私も同時に立つ」

 

 助け舟のつもりでシャルの言葉に賛同するラウラであったが、陽太にしてみればこういう時こそ自分の意見に賛同してシャルの意見を却下しろよと憤りが隠せず、彼女の声がした方………運悪く一夏の方を睨み付け、『えっ!? 俺、このタイミングで怒られるの!?』とただでさえ後方待機を命じられて凹んでいた彼の瞳に涙を滲ませるのであった。

 そして頃合いを見計らい、パンッとよく響く合掌で皆の注目を集めたナターシャが、『ほぼ』全員の同意を貰ったということで話を前へと進める。

 

「それじゃあ作戦の概要を説明します」

「!?」

 

 だがほとんど話したことのない部外者が、いつの間にかまとめ役となって話を進めていくこの流れに反感を覚えた陽太は、相手がどんな存在だったのかを彼岸の彼方に追いやって禁断の言葉を口にする。

 

「話勝手に進めんな、ババァッ!」

「・・・・・」

 

 凄く良い笑顔を浮かべた状態で停止した妙齢の人妻軍人は、くるりと身体を真っすぐ不用意な発言をした少年の方に向けると、彼に接近して拳を握り締めてブー垂れる彼の手を握り締めるのであった。

 

「『お姉さん』」

「?」

「『お姉さん』・・・っよ?」

 

 『ねえ? わかった?』と華の咲いた笑顔を浮かべながら首をかしげて見せるが、あいにく目が不自由な状態ではそれも一切通じず、機嫌の悪い表情のまままたしてもタブーを口にした。

 

「んだよババァ」

「・・・・」

「いい加減手をぉぉぉぉおおおうおうおうっっ!?」

 

 手を離せ、と言いかけた少年の掌に指を二本ほど突き立て、経穴(ツボ)を刺激し頭の先から爪先の先まで突き抜けた激痛を走らせることで完全に動きを封じ込めてしまう。

 

「千冬直伝の『骨子術』という技らしいわ。なんでも言うことを聞かない悪い子をお仕置きするには最適な技らしくて」

「をぉおぅおおぉぅおおっ!!」

 

 痛みで悶えるが手を放すこともできずに首を必死に振り回しながら何とか抜け出そうと足掻くが、技から脱出することができず悲痛な叫び声を上げ続けるのみ。そして笑顔を浮かべたままナターシャはほかのメンバー達を見て、問いかけた。

 

「お姉さんの言うこと、皆聞き分け良く聞いてくれる………よねっ!?」

 

 ―――一瞬だけ見えた刃よりも鋭い瞳―――

 

「「「「「「イエス、マムッ!」」」」」」

「をををぅをおぉおぅおおぉぅおおっ!!」

 

 全員が敬礼をもって返事してくれたことを逆らえばこうなるぞ、と実力行使で一瞬で理解させ、群れのリーダーの座を手に入れたナターシャは、陽太から手を放すとすでに興味を失くしたかのような振る舞いで話を進める。

 

「現在、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は進路をこちらに再び転身させ、接近してきています。我が艦隊はこの行動に対し、対オーガコア部隊と連携して対処する所存です」

「(女だけ殴り放題なのに俺は緊急時以外女殴っちゃダメとか、理不尽だよエルーさん)」

 

 床に蹲り、亡き義母と交わした約束が最近ちょっと理不尽じゃないのかなと、一生懸命涙を流さないように我慢しながら真剣に悩む少年を尻目に話は進む。

 

「つきましては、対オーガコア部隊のIS二機が前面でゴスペルと交戦、残りの二機が遊撃し、他のISは艦隊の護衛に当たってもらいます」

 

 GSや他の機動兵器は出すだけ福音の良い的にしかならない。少数精鋭で戦うという当初の作戦をそのまま引き継ぐ形を取ったのだが、本来はいつも最前線で近接戦闘を仕掛ける三機がそろって第一線に参加できないというのは、対オーガコア部隊としても初めての経験であり、前線で戦うシャルとラウラの表情にも自然と力が入る。

 

「艦隊は進路そのままで前進。まず福音に対して対IS用の攪乱幕で先制し、続けざまにミサイルによる波状攻撃を仕掛けて福音の足と、ビーム攻撃を封じ込めにかかります。前線のIS操縦者のみんな、攻撃中10分間は光学兵装の威力が著しく減衰するわ。肝に銘じて」

「ハイ」

「ハッ」

 

 ナターシャは次に後方待機を決定されている一夏と箒を見て、彼女たちにももしもの事態に備えるように進言する。

 

「貴方達二人は今回は後方で艦隊護衛に回ってもらいますが、仮に前線で何か起こったとき、前線組が突破されてしまう事態になったとき………わかっているわね?」

「任せてくれ!」

「その時は、水際で必ず防人ってみせます!」

 

 二人の力強い返事に満足したのか、彼女も笑顔で頷く中、遊撃手として戦場をかけるセシリアと鈴のコンビが必要な装備をチェックしていた。

 

「実弾の貸し出し、ありがとうございます」

「本来の弾と違うから少々弾道のタイムラグがあるけど………ごめんなさい、満足に訓練もさせずに」

「セシリアなら心配いらないわ。なんせ専用機が調整が全部終わってない状態で30㎞の狙撃に成功する女なんだから!」

 

 光学兵装ではない甲龍の衝撃砲は攪乱幕に威力を削がれることがないため、今回大きく力になるとわかっている鈴に力が籠り、スターライト・アルテミスの実弾換装を終えたセシリアがマガジンをセットして互いに頷きあう。

 

「そして、隊長さんは今日は空母の司令場でバックアップ要員として待機してください。目が見えなくてもエールは送れるわね?」

「応援で腹が膨れるか!」

 

 が、最後まで納得しない陽太は、ナターシャにやはり作戦の変更をするようゴネるのであった。

 

「目が見えないぐらい丁度いいハンデだ! これぐらい、どうにかできないなら『あの女』に勝てるように」

「わかったような事を言うな!」

 

 彼女の真剣な怒声が陽太の反論を一声で封じ込めてしまう。

 

「戦果だけ言えば、私は貴方と違い負けた側の人間。だから偉そうに言えない。だけど今の貴方は明らかに間違ってる」

「な、なにが・・・」

「『あの女』みたいになりたいの!?」

 

 はっきりとしたその口調は、陽太が現状抱えてしまっていた問題点をズバリ指摘した。

 

「さっきから聞いてれば二言目に『あの女』『あの女』と・・・『あの女』みたいにあらゆることを力で捻じ伏せる存在になりたいの、貴方は?」

「!?」

「違うでしょう! 千冬が何のために命懸けで貴方にそれを伝えたの? 貴方だけじゃない、貴方の仲間全てに行動で言ってみせたんだしょう? 『力だけが全て』になっては絶対にいけないと」

 

 ナターシャの鋭い指摘は少なからず陽太に二の句を続かせるのを完全に抑え込んでしまう。彼自身、意識して彼女のように振る舞おうなど考えたことなどない。と断言して言いたいのだが、彼女の言葉を聞き、思い返しみると不思議と『あの女』とずっと口にしていたような気がしてきた。

 

「グ………ヌッ」

「今日はいい機会よ。これは仲間だけを戦わせるのではない」

 

 ナターシャの掌が陽太の頭を優しく撫で、母性に満ちた声でこう諭してくれる。

 

「普段、仲間が貴方に預けている信頼を今日は貴方が皆に預けなさい。それは決して仲間だけを戦わせている行為ではないのだから」

 

 こう言われてはもう陽太に反論する材料がない。内心ではすでに仕方ないという考えは持っているのだが、頑固が古代の超金属製と言われているこの男がおいそれと認めることができず、徐に自分の両頬っぺを持つと………。

 

「ぎににににににっ・・・」

 

 思いっきり引っ張って、必死に叫びたいのを耐え忍んでいた。これには仲間達も心の中でそれぞれツッコミを入れる。

 

「(納得してないのが丸分かりなぐらいにめっちゃ耐えてる!)」

「(『認めたくない』が頭の中でグルグル回っているな)」

「(それでも自分から反論を取りやめましたわ!)」

「(おお、天上天下唯我独尊スタンドプレイ大好き男が)」

「(せ、成長しました教官! ついに陽太が『待て』を覚えました!)」

「(・・・皆が酷い)」

 

 仲間達の心の声が聞こえたような気がしたシャルの視線を受けた仲間達であったが、(ちょっとだけ)成長した陽太の姿に(ごく僅かに)感動して、終ぞ気が付くことはなかったのであった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

会議室にて話が纏まったのを見計らったかのように、福音が艦隊を射程圏内に捉え、なおも速度を上げて接近してくるとの報告を受け、対オーガコア部隊のIS達が次々と発進していく。

 それを空母の指令所で見送るナターシャと、不機嫌そうに耳の穴をほじる陽太の間にモヤモヤとした空気が立ち込めていたのだが、鉛色の空を睨んでいた艦隊司令官のファイルス『提督』はため息をつきながら二人の間に割って入るのであった。

 

「やはりIS操縦者っていうのは好きになれそうにないな。いつだって面倒な騒ぎの中心にいやがる」

「・・・・・・」

「あ゛あ゛ぁんっ?」

 

 いきなり割って入って来て何言ってやがる? と陽太の血圧が上がる中、提督はまるでそんな様子を気にすることもなく、とある昔話を二人に聞かせるのであった。

 

「これと似た光景は10年前にも見たことがある。最もあの時、当初は船の整備中で陸(おか)にあがっていたから、仲間をただ見送っただけだがな」

「・・・・・」

 

 何の話か分からない陽太が首をかしげるが、そんな陽太を提督は複雑な表情で見つめつつ話を進める。

 

「『白騎士事件』」

「「!?」」

「軍から戒厳令を敷かれ、作戦に従事した者は口外を絶対に禁じられたあの事件・・・・・・俺は事件が起こった場所の増援として、整備が終わった船を最速で進ませていたんだが、やがて『花』が咲いた空を見た」

 

 今でも忘れない。

 あれほど不思議な光景は、あれほど美しい空に咲いた『花』を、ほとんど部外者のような自分が唯一目撃したあの光景は、おそらく死ぬまで忘れることはないであろう。

 

「亡国の英雄殿の噂は長く軍人をしてりゃ嫌でも聞かされる。海軍の将校の何人かは新米のころ『彼女』に鍛えられた者も何人かいた・・・・・・最も、事件のあと漏れなく全員退役してしまったがな」

「退役?・・・なんで?」

 

 陽太の問いかけに、何を思ったのか。提督は帽子を深々と被り直しながらポツリとこうつぶやく。

 

「『希望は潰えた』『人類は取り返しのつかない過ちを犯した』『人は自分で破滅の戸口に飛び込んだ』・・・誰もが口を揃えて似たようなことを抜かしやがる」

 

 英雄がどのような人物で、どのようないきさつがあったのかは知らないが、ファイルス提督にしてみればそれを理由に帽子を脱ぐ行為は許しがたかったのだろう。

 

「腑抜けどもが」

 

 守るべき『モノ』とは死者のことではない。死に逝く者たちがそれでも希望を託し、命を懸けて守ろうとしたものであろう。

 彼の者が真の英雄であるのなら、未来に『繋いで』いこうと戦い続けていたのであれば、後に残った者がするのは絶望し座することではない。見っとも無いと言われてでも生きて繋ぐことではないのか。

 年寄りが若者に教えることが諦めることなどとあってなるものか。

 

「(好きになれるはずもないだろうが。いざ戦いになれば年寄りはこうやって後ろから祈りながら僅かな援護ぐらいしかしてやれねぇんだからな)」

 

 総じて若者しか纏えないIS同士の戦いになれば、自分達はほぼ案山子同然だ。

 近代の戦争が作り上げた兵器を用いた戦術を、国力を顧みた戦略を、ISはそれだけで完全に覆してしまった。

 質を高め数を揃えて行う近代の戦争を行う旧来の軍人たちの前で、それらを根こそぎ破壊するIS達は少数精鋭で決闘によって雌雄を決してしまう。これではまるで神話やおとぎ話に出てくる英傑同士の戦いではないのだろうか?

 

「おかげでどいつもこいつもスタンドプレーを平気で行いやがる」

「「・・・・・」」

 

 涼し気な表情で受け流すナターシャと陽太に冷たい視線を送るファイルス提督の耳に、通信士から福音の距離が作戦開始領域に差し掛かっていることを告げられた。

 

「ゴスペル接近、距離8000!」

「・・・ふむ」

 

 帽子を深く被り直した提督が作戦開始の合図を送る。

 

「これより作戦を開始する! 攪乱幕展開」

 

 艦長の号令と共に発射されたミサイルが周辺に満遍なくばら撒かれ、同時に広範囲の爆発を起こす。これにより極小の金属片が周囲にばら撒かれ、レーザーやビームなどの光学兵器を撃った場合にそれらと反発作用を起こし著しく減衰、あるいは無効化されてしまうのだ。

 

「各機作戦行動開始。ヴィエルジェ、ソルダート、前進!」

 

 作戦開始の合図と共に福音に向かって飛翔するシャルの右手には、すでに愛銃と化している複合型65口径アサルトカノン『ハウリング』を、左腕には予備のマルチシールドを装備していたが、背部の装備が大きく変更されていた。

 標準装備となっているウエポンラックを兼ね揃えた自立稼動兵装『ディスタン』、砲撃戦用の『ワイルドウィーゼル』、高機動パックの『ル・シャスール』、その他のガトリングなど、数々のパッケージ(換装装備)を用意されていたラファール・ヴィエルジェが持つ装備の中でも諸々の事情で開発が難航しており、ここ数日でようやく調整が終了したばかりの新型パッケージ『エトワル・ガニアン』を装備し、ぶっつけ本番の実戦に赴いた。

 大型の計四つからなる砲門のようなユニットに、淡いグリーン色の特殊クリスタル素材が施され、二基のスタスターユニットからなるバックパックを背負い飛翔する、そんなシャルが背後から全速で追いかけてくる相棒の少女の名を叫ぶ。

 

「ラウラッ!」

「応とも!」

 

 少女らしからぬ勇ましい掛け声で答えたラウラは、秘密兵器が現場に到着したことをハイパーセンサーに告げられ、満面の笑みを浮かべた。

 

「よく来た!」

 

 ―――全長にして6m、全幅は4mほど―――

 ―――戦闘機と呼ぶ形状をしてはいるが、通常のそれとは大きく異なり小さな主翼だけを持ち、代わりに大出力のブースターを取り付け―――

 ―――黒光りするボディはおそらくシュヴァルツェア・ソルダートに合わせたものなのだろう―――

 ―――鋼鉄のボディに外見だけでも、二挺のガトリング砲、小型ビームキャノンなどが見てとれ―――

 ―――アメリカの企業が『GSの小型化』と『高機能化』という矛盾した問題を解決するために開発したはいいが、エネルギーと放熱の問題が解決できずにお蔵入りとなった試作ジェネレーターを搭載し―――

 ―――その他諸々の兵装を搭載した、最早換装装備(パッケージ)とは言えなくなった『ISを核とする機動兵器』―――

 

「いくぞ『ブーゲンビリア』!」

 

 花言葉で『情熱』を意味する、おそらく周囲の人間が是非とも改善してほしいこれを作った製作者の情熱とやらを皮肉った(かもしれない)名を持つ機動兵器はラウラの呼びかけと同時に変形を開始し、相対速度をラウラと合わせながらドッキングを果たした。

 

 ―――大きさでいえば小型のGSに迫るほどのフォルム―――

 ―――武骨な左右非対称の武器腕―――

 ―――肩と脚部に搭載されたミサイルポッド―――

 

 対オーガコア部隊のISの中でも一番の大きさを誇るソルダートを完全に中に嵌まり込む形となり、ISを纏ったラウラが更に機動兵器を纏ったかのような様相となり、ほかのメンバー機と比べても二回り以上の大きな状態となった。

 

「シュヴァルツェア・ソルダート・ブーゲンビリア、目標を撃墜する!」

 

 ハイパーセンサーが捉えた機影・・・銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に向かって突撃したラウラは、当然こちらの存在にも気が付いてた福音が先制のバスターライフルを放った。

 

「甘いッ」

 

 だが攪乱幕の影響で威力が大幅に減衰され、ラウラに届く前に空中に四散してしまう。

 機械的な反応しか取れなかった福音が事態を把握するために、現場の状態を再検索しようとラウラ相手に距離を取ろうとするが、そんな隙を逃がすものかと網膜に表示されたディスプレイを操作し、両腕にいくつか搭載されている武器を選択、80口径バズーカを選択して右腕から立て続けに連射する。

 光学兵装と違い、一切減衰することなく敵機を攻撃できる実体弾頭を相手に回避し、両肩のマシンキャノンで迎撃する福音であったが、更にそこへラウラは追撃の一手を放った。

 

「(中佐の言葉が正しいのであれば、現在の福音は無補給での戦闘を継続し、シールドエネルギーも限界に近付きつつある。さらにマシンキャノンの残量もおそらく三割もない)………ならば、これで!」

 

 右肩に搭載されたブロックが開口し、コンテナを射出する。

 ノロノロと空中を飛翔するコンテナであったが、バズーカの弾を全て回避した福音との距離が近付いた瞬間、それは突然『炸裂』した。

 

 ―――コンテナから四方八方に飛び出すマイクロミサイルの群れ―――

 

 対複数戦闘を想定して作られた多弾頭ミサイルの群れの全てが福音一機に牙を向いて襲い掛かる。シルバーレイを展開して迎撃しようとするが、攪乱幕の影響か十分な数の形成ができず、福音は高速飛行でミサイルの群れを引き連れながらの迎撃に移るのであった。だがその行動はラウラの予測の範疇内、彼女は両方の腰に収納されていたガトリングを競り上げ、福音の進路にばら撒くように振りまくと高速飛行の妨害を行う。

 銃撃とミサイルの面制圧をいくつか喰らい、ふらつきながらも飛行し続ける福音にラウラはトドメの一撃を撃ち込もうと再度のコンテナミサイルを撃ち込もうとするが、福音はその進路を上でも右でも左でもなく………『唯一』攪乱幕が届かない場所へと向けるのであった。

 

「なにっ!?」

 

 ―――スラスター全開で海面に向かって急降下する福音―――

 

「ラウラッ!」

 

 シャルの焦りの言葉を聞いたラウラは彼女同様に福音の意図に気が付き、後を追いかける。

 

「セシリアッ!」

「くっ!」

 

 飛行形態の甲龍の上に乗りながら実弾での支援狙撃を行うセシリアであったが、急降下する福音の速度が速すぎて捉えることができず、そのまま福音は水柱を上げながら海中に沈んでいったのであった。

 すぐさま後を追おうとするセシリア達であったが、現状の彼女達には水中戦で有効になる武装は搭載されていない。だがそれは福音とて同様のこと。ビーム主体の福音の装備は実弾換装されている対オーガコア部隊のIS達よりも更に輪をかけて水中は鬼門のはず。

 

「(水中のビーム兵器の使用は不可能。いくらこちらの攻撃から逃れるためでも、そこにいる限り我々には

向こうも攻撃できないというのに)」

 

 ラウラが福音の不可解な行動の理由を思案するとき、突然シャルが進路を180度反転させて来た道を全速力で逆走し始めたのだった。

 

「シャルっ!? 何処にッ!!」

 

 シャルの行動の意図が分からずに目を白黒とさせる鈴やセシリアとは違い一瞬だけ呆けてしまうが、すぐさまシャルの意図を理解して全速力で後を追いかける。

 

「セシリア、鈴ッ!? 引き返せ!」

「えっ?」

「ちょっと、説明」

「時間がない!」

 

 焦ったラウラの声に突き動かされ鈴も進路を反転させる中、ラウラは操縦者がいない状態でありながらどうしてここまで福音が戦術的に優れた着眼点を持てるのかとぼやきたくなる。

 唯一今のラウラが大火力の使用ができない場所を襲うなどということを考えつけるのかと。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「福音、反応ロスト!?」

「撃墜できたのか?」

 

 海中に沈んだ福音の行方を追いかける指令所が慌ただしく動く中、戦闘の様子を詳しく見ることができない今の陽太は苛立ちながら隣に立つナターシャに問いかけた。

 

「っで? どうなったの? 勝ったの? 負けたの?」

「少し静かにしなさい………おかしいわ?」

 

 モニターから見ていた福音の様子に正規操縦者のナターシャが疑問符を投げかける。

 状況と火力に圧倒されあわや撃墜間近だったのは間違いないが、しかし福音のシールドエネルギーは確かに残っており、飛行状態を保ったまま海中に自分から突っ込んだのだ。あれは明らかに撃墜された訳ではない。

 

「(攪乱幕を嫌がった? 実弾火力に圧倒されたから退避した? 反撃ができない海中に?)」

 

 どれも自分が取ったことのない戦術であり、自分と経験値を共にしてきた福音が選択することではない。何かがおかしい、ナターシャが福音の索敵を急がせようとしたとき、陽太の背筋を『悪寒』が駆け抜ける。

 

「取り舵! 急速反転!!」

「!?」

 

 陽太が指令所全てに血相を向かって叫ぶ。

 

「い、いきなり何を…」

「面舵でもいい、とりあえずこっから今すぐ離れろ!」

 

 オペレーターに怒鳴り込む陽太の様子に、最初にナターシャが、半歩遅れて提督が気が付く。

 

「彼の指示に従いなさい!」

「機関最だ…」

「待ってください!」

 

 ソナーを監視していたオペレーターの緊迫した声が皆を一瞬で静寂に包まれる。

 

「何か……海中から高速で接近して…」

「福音だ! 魚雷の発射は!?」

「とても間に合わない!」

「チッ!?」

 

 専用の装備をしてないにも関わらず、米軍が現行で使用する魚雷を上回る速度を出す福音に舌を巻く暇もなく、陽太は通信士を呼びかけ、彼のマイクを無理やりひったくると艦隊を護衛している一夏と箒に呼び掛けた。

 

「福音が海面から出てくるぞ!」

「「!?」」

 

 福音の行動の理由………自分の攻撃力を封じる攪乱幕と、実弾火力で圧倒する今のラウラ。この二つを同時に封じる手段。

 そのために取った行動が水中から密やかに艦隊の中心に近づくこと。そしてもう一つは………。

 

「一夏ッ!」

「くるッ!」

 

 水中が一瞬盛り上がり、大きな水飛沫と共に飛び出てきた福音は、すでに両手にツインバスターライフル・ドライツバークを装備していた。そして海上にいる一夏と箒と同程度の高度まで飛び上がると、射線に艦隊を置きながら発射体制に入ったのだ。

 

「まずい!」

「撃たせるか!!」

 

 一夏がツインドライブから零落白夜を発動させ箒が二刀をもって突撃をかけようするが、それこそが福音の狙いなのだと二人は気が付いていなかった。

 

「バカ・」

 

 それがフェイントであると一夏に伝える暇すら今の陽太にはない。そもそも二人もすでに知っていたはずのこと。福音にはドライツバークを放つエネルギーなどどこにも残されていなかったということを………。

 だが、さっき見せられたあの威力に戦慄してしまい、二人とも『撃たせてはならない』という意識が先行して、その事実を忘れてしまっていたのだ。

 

 ―――瞬時加速で先ずは一夏に接近し、彼の振り下ろした斬撃を掻い潜りながら雪片を持つ手を握り締める―――

 

「なっ!」

『ツインドライブ解除しろ一夏ッ!』

 

 一夏に急いで指示を出す陽太であったが、時すでに遅く………。

 

「うわああああああああっ!!」

 

 激しいスパークと共に急速にエネルギーが吸収されていく。慌ててツインドライブを解除するが、すでにISを上手く動かすことができず、どんどんシールドエネルギーのゲージが下がっていく。

 

「一夏ッ!」

 

 福音から一夏を引き剥がそうとする箒であったが、距離が近すぎたのが災いし、一夏同様にスパークに襲われ、紅椿も白式同様にどんどんとエネルギーが吸収されながら完全に動きを封じ込められた。

 

「ち、くしょうぉぉぉぉっ!!」

「がああああああっ!!」

 

 身動きが取れない二機から悠々とエネルギーを吸収する福音は、徐々に活力を取り戻していくのが手に取るようにわかる。

 二機のISのシールドエネルギーをほぼ吸い尽くし、二人がほとんど身動きが取れなくなっている所に、シャルとラウラがたどり着く。

 

「キ、サマァァッ!」

 

 仲間がやられたことに激高したラウラはブーゲンビリアに装備されている武器腕をすぐさま変更し、巨大なメカアームにすると、それをアンカー付きのロケットパンチとして左右同時に発射する。

 本来は巨大プラズマソードを出力させるための兵装なのだが、他にもマニュピレーターがついており敵の捕縛という応用した使い方もできる。さらに今回は捕われた仲間を救出するという目的も加わっていた。

 ラウラのブーゲンビリアには警戒しているのか、福音は二機を空中に放り投げるとツインバスターライフルを再び両手に持って発射体制を取る。慌ててアンカーで二人を受け止めると巻き取りながら機体を急上昇させて艦隊を砲撃の射線から逃がす。

 

「まずいですわ!」

 

 セシリアの支援狙撃がそんなラウラの窮地を救うように立て続けに放たれ、発射体制だった福音もそれを受けて一時発射を中断し、回避に専念する。だが射線には常に艦隊があり、下手に放って戦艦に直撃させるわけにはいかず、それでなくても接近しすぎてはエネルギーを奪われてしまう。具体的にどれほどの距離にならなければあの吸収機能が使えるのかまだ見当もつかないが、今の距離からエネルギーを奪われる様子はなく、鈴とセシリアの二人は心理的プレッシャーを与えられ上手く接近することができずにいたのであった。

 

「二人とも、しっかりしろ!」

「………福音は?」

「済まない………無駄に相手にエネルギーを」

 

 口調はしっかりとしているが、戦闘に参加できるほどのエネルギーはなく、紅椿の力で回復はできるのだが、近接重視の二機では再び取り込まれるリスクが高すぎる。

 また常に艦隊を背に向ける福音相手だと、超火力の今のラウラでは被害を及ぼしかねない。接近戦を挑むと二人の二の舞になりかねず、せっかくの新型兵器を上手く運用する手段を失ってしまった。

 

「クッ………戦い方がココまで上手いとは」

 

 思わず褒めたくなるほど福音の動きは戦術的なのだが、敵として相手にするとここまで厄介になると、反ってそれが疎ましい。どうすべきかと思案する中、福音はシルバーベルを連続展開して発射してくる。

 

「させるか!」

 

 ブーゲンビリアのジェネレーターと合わせて強化されたAIRを機体全周に張ってその攻撃を受け止めようとしたラウラであったが、福音の目的はそこではなかった。

 

「!?」

「まさかっ!!」

 

 ――――艦隊の各所に降り注ぐシルバーレイ―――

 

「艦隊に攻撃するだと!?」

 

 自分達に向けられた攻撃。そう思い込んでいたラウラであったが、福音は艦隊に対して容赦なく銀の雨を降り注がせる。

 だがその全てが奇妙なぐらいに、艦隊のある一点だけに絞られていた。

 

「被害状況の確認を!?」

「艦隊のほぼ全艦に被弾………ですが」

 

 一瞬言い淀むオペレーターの様子に、提督は異変を感じる。

 

「どうした!?」

「ハッ!………じ、人的被害、現在報告されていません。機関部の異常報告なし………ミサイル発射管のみ、全艦大破と」

 

 福音の攻撃は艦隊の攻撃力だけを奪い、それ以外の部分に一切の被害を与えなかった。結論だけを述べられ、首を傾げる指令上の中において、IS操縦者の二人だけは違った物の考えたをしていた。

 

「………決着を、着けたい?」

「………そうね」

 

 福音の行動の真意が、まるで『決闘の邪魔をされたくない』と言わんばかりに感じられたのだ。これには二人も驚きが隠せない。

 一見ただ無秩序に暴走しているだけと思われた今回の福音の行動にも、何かの意図があるのではないのか?

 

 何か訴えてくるものがあるのではないのかと、考え込む二人が天空を黙って見つめる中………福音は再び、ツインバスターライフルを構える。

 

「そう何度も好きにさせてたまるか!」

 

 福音にのみ追尾するようにセットしたミサイルを放とうとするが、一瞬だけ福音が速かったのかツインバスターライフルの閃光が放たれ、それがラウラに迫る。

 

「クッ!」

 

 当然その攻撃をAIRで受け止めようとするラウラであったが、突如、その前に二つの物体が飛来し、緑色のフィールドを展開して、極大ビームをすべて受け止めてみせるのであった。

 

「これはッ!」

 

 ラウラが見つめる中、ゆっくりと彼女の前にシャルが降り立った………四つのビットを従えて。

 

「………ラウラは今は下がって。近接戦闘は私がするから」

 

 唯一この中であの時エネルギーを吸収されなかったIS、ラファールヴィエルジェを持つシャルだけがこの場で今の福音に接近戦を挑める。

 だがそのことはラウラにもわかっているが、彼女一人に任せるのは危険が過ぎると思い、副隊長としてではなく、友を心配する少女の声が先に出てしまった。

 

「だが危険だ! 一人で行くな!」

 

 そんなラウラの言葉を聞き、彼女はにこりと微笑みながら振り返ると、爽やかな笑顔を浮かべたままこう言い返す。

 

「大丈夫。私はいつだって………一人じゃない!」

 

 右手にアサルトライフル、左腕に楯を装備したまま手にはレーザーソードを持ち、戦乙女が果敢に銀の戦天使に戦いを挑みかかる。

 そんなシャルの心意気に答えたのか、福音も右腕にツインバスターライフルを持ち、左手にビームサーベルを構えると、斬りかかってきたシャルの一撃を受け止め、空中で激しいスパークを巻き起こした。

 

 何度も何度も斬り結びながら、福音を見つめるシャルは、今までとは違う様子で目の前のISに問いかける。

 

「どうして!? 貴方は何を求めているの!?」

『・・・・・」

「答えて、ゴスペル!」

 

 そんなシャルの様子を見ながら、IS内部の意識下において………膝を抱えた女性は、ゆっくりと瞳を開き、ポツリとつぶやくのであった。

 

 

 

「…………私は……皆を………守らなきゃ」

 

 

 

 

 

 




※1………この場合、最先方として福音と格闘するポジション。一番危険度が高い場所のこと


ふう………さて、皆さん。ラウラさんが立派なMAになりまして(違ッ

デンドロビウムいいよね! 邪魔するザクなんざコンテナミサイルの餌食じゃボケッ!

そしても一つお待ちかねのシャルの新型パッケージ。訳すると元ネタがわかると思います(ただちょっとだけ文法上の問題で直訳すると意味が分からないかもしれないけど)


さあ次回はいよいよ福音とのバトルのクライマックス。
このISの暴走の理由はいったい何だったのか? それがついに明かされます

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