IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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うまいことサブタイトルが思いつかん。

そして今回はかなり短い印象がありますが、切り方がわからんかったのがいかんかったかな?




少女と家族が始めた日常~早朝~

 

 

 

 

 ―――海の向こうからやってきた不思議な少女、『たんぽぽ』との共同生活を行うことになって早数日―――

 

 ―――IS学園に流れる時間は少女の歩みと共に、穏やかな感覚を刻み続けていた―――

 

 

 

 

 シパシパした目を何度も擦り、ゆっくりと少女は上半身を起こす。

 

「・・・・・・・」

 

 午前7時にセットされた目覚まし時計がけたたましく鳴り響き、すでに高くなった日差しが差し込む部屋のベッドの上で、寝ぼけた表情で起きあがった幼き少女・・・たんぽぽは、しばし茫然としながらゆっくりと周囲を見ますのであった。

 

「・・・きゅう~~~」

 

 隣のベッドで未だに夢の世界に入り浸るのほほんの姿を見て、少女はやがてベッドの上でゆっくり立ち上がると、そのままベッドから小ジャンプで降り立ち、再び隣のベッドによじ登ってのほほんの身体を揺さぶる。

 

「のほほんちゃん、あさ。おきる」

「みゅにゃ~~~」

「のほほんちゃん、あさ。おきる」

「あと9時間~~」

 

 夕方まで寝るつもりか、と相方の箒がいればドヤして起こす場面なのだが、あいにく彼女は対オーガコア部隊の朝練に出ているために早朝からすでに部屋を後にしているのだ。

 

 たんぽぽと皆が呼ぶ少女を当面面倒を見ることになったIS学園としては、当初のメンツとして陽太達がローテーションして子守をする、という考えがあったのだが、やはり彼らは対オーガコア部隊という大役がある以上そちらをおろさかにするわけにもいかず、一日のうちの特定の時間帯は有志によって彼女の世話をするという形をとっているのだった。

 幸い、二日に一度は陽太かシャルの元で一緒に眠るようにしていればグズる様子もないようなので、先日は箒と一緒に眠ったのだが・・・どうも同室のパートナーは幼女よりも寝起きが悪いことを失念したのか。

 

「のほほんちゃん、あさ。おきる」

 

 三度声を掛けても起きる様子がない子守役を見て、しばし食い入るようにその寝顔を見つめていたたんぽぽであったが、やがて彼女は小さなその手を上にあげると・・・。

 

 ―――結構な勢いで、のほほんの眉間と目の間を強打する―――

 

 バッチコーン、と鋭い音が響く中、完全に無防備で殴られたために痛みで悶えるのほほんは強制的に夢の世界から現実世界に引き戻された。

 

「おっ、おっ、おぐっ!」

「のほほんちゃん、おきた」

 

 ベッドの上でのたうち回るのほほんを冷静に解説したたんぽぽは、涙目で起き上がったのほほん相手にきちんと頭を下げて挨拶する。

 

「………おはようございます」

「お、おはようたんぽぽちゃん………して、こ、この暴力的(バイオレンス)な起こし方は誰に習ったのかな………?」

「ばいおれんす?」

 

 首を傾げるたんぽぽの様子を見ながら、「よーよーか、デュノっちか、もしくはほーちゃんか」と連想しつづけるのであった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 洗面所で、急遽作った椅子(陽太作)の上に立ったたんぽぽといっしょにのほほんは歯を磨き、顔を洗い、寝起きのためか髪の毛が爆発している自分とたんぽぽの髪の毛を交互に梳かしていると、部屋をノックする人物が現れる。

 

「のほほん~!」

 

 彼女と仲の良い相川と他数名の一組のクラスメートである。夏休みということもあって帰郷している生徒もいる中、相川達は変わらずに滞在する組であったのだ。

 

「鍵なら開いてるよ~」

「あいあい~っ!」

 

 勝手知る我が家という感じで部屋に入ってきた相川達は、洗面所で髪を梳く二人を見つけて持ってきた服を差し出しながら挨拶する。

 

「たんぽぽちゃんも、おはよう♪」

「おはよう~」

「でも、のほほんが時間通りに起きてるなんて珍しいわね。てっきりまだ寝てるのかと思ったのに」

 

 相川からのツッコミに、頭を掻きながらのほほんがどう答えようか迷う中、たんぽぽはそんなのほほんの気を知らないのか知ってて言っているのか正直に答える。

 

「のほほんちゃん、ねてた。たんぽぽ、おこした」

「えっ? たんぽぽちゃん、自分で起きたの? しかものほほんを起こしてくれたの?」

「ジリジリなってた。なってたら、おきる」

「でっ? なんで、のほほんは顔に紅葉作ってるの?」

 

 顔に小さな紅葉を咲かせている様子を疑問に思った女生徒の問いかけに、冷や汗を流しながら頭をかくのほほんの姿にすべてを悟る相川であった。

 

「偉いっ! もう、君はのほほんを超えたのだ、たんぽぽちゃん」

「えらい?」

「そう! のほほんなんて未だに一人で起きられずに、篠ノ之さんの手を借りないと遅刻三昧だってのに!?」

「それはちょっと酷い~~! 私だってちゃんとほーちゃんがいない時でも、遅刻してないもん~」

「篠ノ之さんの代わりに、私達が来なかったら夢の中にいるのがのほほんでしょうが!?」

 

 朝に弱い。というか行動を起こすのに時間がかかる自分の弱点をバラされて憤慨するのほほんであったが、彼女に付き合って遅刻しては、相川達を待っているのが千冬の出席簿アタックであるのだ。陽太なら殴られ慣れたで済ませるレベルだが、常人では頭蓋骨が粉砕するかのような激痛に襲われたまったものではない。

 

「じゃあ、今度のほほんをおこすのは、たんぽぽちゃんのお仕事ってことで?」

「えっ? いや、それはちょっと・・・」

「たんぽぽの、しごと?」

 

 今一つわかっていない内に有耶無耶にしてしまおうと、のほほんはせっせとたんぽぽの着替えにかかる。

 

「今日もデュノっちが選んでくれたご洋服だよ~」

「本日は白いカットソーと、花柄のショートパンツだね」

 

 シャルの選んだ服のセンスを誉めながら着替えさせる女子たちは、最後にたんぽぽのチャームポイントであるツーサイドアップの髪型にしてあげ、最後にたんぽぽの花が付いたゴムバンドで髪を結んであげる。

 

「よし、完成っ!」

「うん。可愛いよ、たんぽぽちゃん!」

「かわいい?」

 

 小首を傾げて尋ねる少女の仕草が愛らしかったのか、のほほんは彼女を抱きしめながら腕の中のたんぽぽを褒めちぎる。

 

「そりゃ勿論! これならたんぽぽちゃんのシャルロットママも陽太パパも、メロメロのラブラブだよ~♪」

「めろめろ?」

 

 言葉の意味はよくわからんが、とにかく何かは伝わったようだ。しばし考え込んだたんぽぽは、やがて思い切った様子で皆に聞いてみる。

 

「しつもん」

「お、なんだい。たんぽぽちゃん?」

 

 手を挙げて『質問』という仕草。これは未だにわからないことが多いたんぽぽが困らないよう、知りたいことがあったら周りの大人に対してしなさい。というシャルの教えであった。

 

「えほんでよんだ。ママは、いちばんだいすきな『おんなのひと』。のこと」

「うんうん」

「パパは、いちばんだいすきな『おとこのひと』。のこと?」

「お、たんぽぽちゃん、ちゃんと分かってる!!」

「シャルロットは、おんなのひと。ヨウタは、おとこのひと」

「うんうん♪」

 

 指折り数えながら、この数日間で教えられたことや教わったことを思い出し、彼女はようやく理解できたのか頬を染めながら叫ぼうとする。

 

「だから、モグッ」

 

 しかし、その第一声をのほほんが口を押えて遮ってしまう。

 なぜそんなことをする。と非難するような周囲の視線を受けながらも、のほほんは笑顔を崩すことなく笑って言ってみせるのであった。

 

「よし、たんぽぽちゃんの第一声は、やっぱり直接二人に聞かせてあげないとね♪」

 

 いたずら好きな笑顔を見た相川達が、それもそうかと顔を見合わせる中、理解したのかしていないのかわからないながらも、従順に頷くたんぽぽであった。

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 ―――鍔迫り合いから互いに押し合って間合いを開き、目にも止まらぬスピードで踏み込んだ一夏の斬撃を、箒は裂帛の気合で受け止める―――

 

 上段からの打ち下ろしを回避して側面から反撃しようとした箒であったが、予想を大きく上回る一夏の踏み込みの速さと打ち下ろしの剣速に圧倒され、箒は防御を余儀なくされる。

 

「(威力が以前より上がっていることはわかっていたが………驚くのは、この踏み込みの速さっ!!)」

 

 剣の腕とセンスは幼い頃からの付き合いがある箒はよく存じている。実際に彼の才能は認めているし、中学時代のブランクがあったものの、最近ではようやくその差も埋まったと思い始めていたのだが、驚かされるのは距離を詰めてくるこのダッシュ力である。

 片手では受け切れない。そう判断した箒が右手に持った空裂を返して雪片弐型を弾き、間合いを空けようと後退した所、バックする紅椿よりも早く白式が詰め寄ってくる。しかも踏み込みと斬撃が一体化した動きは箒に反撃の隙を与えず、どんどん後手を余儀なくされる。攻撃の威力の高さと回転が速すぎるために、捌き防ぐのが箒をもってしてもやっとなのだ。

 単純に考えて二刀を持つ箒の手数が一刀の一夏に劣ることなどはあり得ないのだが、その差を埋めているもう一つの要因が技の威力である。

 本来は大きく予備動作が必要な威力のある斬撃なのだが、一夏は陽太との一対一の実戦訓練の末に、間合いを詰めるダッシュと斬撃を繰り出す動作をほぼ同時に行えるようになっており、結果として近接戦闘で陽太に次ぐ実力者である箒すらも圧倒する戦闘スタイルをほぼ完成させつつあった。

 

「はあっ!!」

「ちぃっ!?」

 

 振り下ろしの一撃をなんとか回避した箒が反転しながら繰り出した斬撃と、その動きを先読みしていた一夏の切り返しの一撃が交差し、互いの喉元と目前で刃を突きつけあう結果となる。

 

「…………数か月かかって、これでようやく引き分けかよ」

「…………本当に大したものだ。油断はなかったつもりだったのに」

 

 刃を引いて戦闘モードから日常へと切り替えて、二人は検討しあう。この数か月でようやくまともな勝負が成立するようになったとはいえ、幼馴染の少女が未だに力をセーブしながら自分に合わせてくれていることを理解し、自分はまだ出発点に立っただけなのだと自覚する一夏と、チームメイトであり密かに想いを寄せる少年の成長を素直に喜ぶべきなのか、それとも操縦者としてのキャリアからライバルとして悔しがるべきなのか、複雑な心境な箒ははにかむ様に微笑むだけであった。

 

「ちっ」

「くっ」

 

 離れた場所で二人の訓練の様子を遠目で見ていた鈴とセシリアから口鳴らしが飛ぶのは、きっと複雑な乙女心によるものなのだろう。なんせ気になる男子とライバルである女子が、剣戟の果てになんだかいい雰囲気になっているのだ。本来なら自分がやってあげたいところだというのに、そこを空気を読めなかったのか、読んだ上で邪魔したのか隊長がこう訓示したのだ。

 

 

『一夏の相手は当分の間、箒を中心にシャルとラウラで。鈴とセシリアは防御系を中心に。お前ら、戦い方もそうだけど、いろんな意味で攻撃に全振りし過ぎ』

 

 納得しなかったのは二人だけで、周囲の人間は苦笑しつつも『そうだよね~』と内心で納得したのは言うまでもない。

 

 一方、実戦訓練を行う組とは別に、シャルとラウラは機体の整備に余念がない。

 元来、複雑な機構を備えている対オーガコア用ISの中でも、とりわけ合体機構を持つシャルのヴィエルジェと大型強襲用モジュール(ブーゲンビリア)を使用するソルダートは繊細な部分が多く、日頃からのOSチェックが欠かせない。いざという時に不備が出ては、それだけで戦闘中に重大な支障を起こしてしまうのだ。

 ゆえに定期的に奈良橋主任技師の元、整備課の有志数名と共に一緒に機体のチェックを行った二人であったが、それもすべて終了して整備陣に感謝の言葉を述べると、整備室から日の元へと歩みだすのであった。

 

「朝一チェックも終わったし、皆と一緒に朝ご飯かな?」

「今日の午後からの予定はどうする、シャル?」

 

 ラウラに尋ねられたシャルはというと、『うーん』と唸りながらも大体のところは決めているのであった。

 

「私は今日は、たんぽぽと一緒に・・・」

 

 纏まった空き時間なのだから、今日一日はゆっくりとあの幼子の相手をしたい。そう思っていたシャルであったが、突如自分の足に誰かが抱き着く感触を覚えて思わず振り返る。

 

「キャアッ!?」

「………きゃあ?」

 

 暖かな体温と柔らかな感触で自分の足を掴んだ者がたんぽぽであったことに、一瞬だけ驚いたシャルであったが、やがて聞こえてきた幼い声に正体を悟り、笑顔で振りむく。

 

「たんぽぽっ!」

「……………」

 

 普段着に着せ替えられ、朝食を一緒に取るためにたんぽぽが本音達と一緒に迎えに来たのだ。見ればあとを追いかけてくるお世話係達の姿があった。幼女らしからぬ機動力と陽太の気配察知すらすり抜けるステルス性によって、気が付いたら置いて行かれたのだろう。いや、一番の原因は対暗部組織の本家仕えとは思えない本音の足の遅さなのかもしれないが。

 

「た、たんぽぽちゃーん!」

「ぜぇーぜぇー………やっと追いつけた」

「たんぽぽちゃん、足速ッ。ってか、のほほんはもっと速く走りなさいよ」

 

 本音を引きずるように連れてきたためにすっかりバテた相川達と、朝一番から朝食抜きでダッシュしたために体力ゲージがゼロになり、完全にグロッキーな本音を尻目に、シャルをずっと見つめていたたんぽぽが、本音の方に振り返り、何かを求めるような視線を送る。

 

「ぜぇーぜぇーぜぇー………い、いいよ。たんぽぽちゃん」

 

 当然その視線に気が付いていた本音が、最後の体力を振り絞ってサムズアップを送ると、ツーサイドアップにされた髪の毛をピコピコと揺らせながら、たんぽぽはシャルロットに笑顔でこう呼びかけた。

 

 

「…………シャルロットママッ! おはよー!」

「はい、おはよ…………うえっ!?」

 

 物凄く気になる単語が出たような気がしたシャルが、驚きのままにしゃがみこんでたんぽぽの両肩に手をかける。

 

「い、いいいいま………た、たんぽぽは」

「………シャルロットママ?」

 

 やっぱり気のせいじゃないッ!

 ある意味恐れていた、期待していた、薄々自分でそう呼ばれたら嬉しいなぁって考えていた、その単語で呼ばれたことに、心の準備が追い付かないシャルロットは、まさか人を揶揄うために呼ばせているのかと、本音を睨みつける。

 しかし、睨まれた本音はというと、特に気を悪くする様子もなく、察した上でシャルに事情を簡潔に説明する。

 

「ちゃんと自分で考えて、たんぽぽちゃんは二人のことを『パパ』『ママ』って思ってたんだよ。ねー?」

「………ねー!」

 

 本音を真似た返事をする腕の中のたんぽぽに、まだ気持ちがグルグルして落ち着けない表情でシャルはもう一度問いかける。

 

「私が貴方のママで………本当にいいの?」

「????」

 

 首を傾げ、なぜそんな風に問いかけられているのか理解できないといった表情をするたんぽぽに、シャルはどう伝えるべきか考え込む。別にこの場だけのこと、それともしばらくの間だけのこと、ということにすることもできるのだが、どうしてもそれは不誠実が過ぎる気がして、でもはっきりとこの子の『ママ』になれる決意が持てていない今、自分がこの子の『ママ』だと宣言するのもまた違った気がしたのだ。

 本当はどうしたいのか、もう決まっているのに、どうしても踏み出せないもどかしさを胸に持ったシャルロットであったが、たんぽぽはそんな彼女の気持ちを知っていたのか、小さな手で母親になってほしい少女の手を握り締めて笑顔で告げる。

 

 

「たんぽぽ、シャルロットママがいい!」

 

 

 文字通り『花が咲いた様な笑顔』を浮かべた少女を見て、シャルが抱いた感情はもうただの可愛いなどという次元ではなかった。

 

 

「………ありがとうね」

 

 

 胸に広がるのは燃え上がるような陽太への恋心ではない。静かに、でも大きく波紋のように広がっていく暖かな想いだった。

 

 

「そうだよ………私が貴方の、シャルロット『ママ』だよ」

 

 

 目じりに涙が溜まってしまう。嬉しいはずなのに、胸が締め付けられて苦しくなってしまう。数日前に出会ったばかりのはずの子なのに、もうこんなにも愛おしいと思えてしまえて、思わず抱き上げて彼女のほっぺたにキスを何度も送ってしまった。

 

「ママ?」

「シャルロットママのママがね、教えてくれたんだ。『本当に大事な人にはキスをしてあげなさい』って」

 

 実母がいつも自分や陽太にしていたのは、きっとこんな気持ちだったからなんだろう。

 ただ、そこで笑っていてくれることがこんなにも嬉しいと思える子に巡り合えたんだから、あんなにも毎日が楽しそうだったのか。

 

「じゃあ、たんぽぽもする」

「あっ」

 

 今、教えてもらったばっかりの親愛の証である『キス』を今度は自分にしてくれたたんぽぽに、更に愛おしさと可愛らしさが募るシャルは、ほっぺたを擦り合わせながら叫ぶように告げる。

 

「たんぽぽ、大好きだよ♪」

「だいすき?……………たんぽぽもだいすきっ!」

 

「朝からヤケにテンション高けぇな」

 

 シャルとたんぽぽが振り返る先に、泥だらけで上半身裸の陽太がツルハシを肩に担いで歩いてくる。一見、どこかで本当に道路工事に従事していたのかと思う有様だが、これでも最新鋭のISのための訓練をした後なのだから不思議なものである。

 二人の仲が良さそうな様子を若干呆れたような表情で眺めていたのは、きっと朝っぱらから抱き合っていることに関してなのだろうが、何をそんなに嬉しそうにしているのかまではわからず、頭に若干の疑問符を浮かべながらも二人のすぐ近くにあった手洗い場で、芝生の水やりのために使っていたシャワーホースを使い頭から水をかぶって泥を洗い落とす。

 

「ヨウタッ!?」

「滝のごとく汗かいたからこれで丁度良い」

 

 朝とはいえ、夏場の野外の気温は高い。ましてやひたすらに身体に負担をかける筋肉トレーニングの後ということで、本当に全身から汗を書いていた陽太にしてみれば熱いシャワーよりも水のほうが丁度よい塩梅なのだ。

 

「もうっ・・・ちょっと待って」

 

 慌ててシャルは整備室の中に駆け込むと、自分用に宛がわれたロッカーからタオルを取り出して戻ってくる。

 

「風邪をひいても知らないからね」

「俺はこの程度で風邪は引かんよ」

「ヨウタパパ、きもちいい?」

 

 一通り泥を洗い落とし、シャルからタオルを受け取り顔を拭いていた陽太にたんぽぽが足元で彼のズボンを引っ張る中、水滴がボトボト彼女の顔に降り注ぐのもお構いなく頭をぬぐいながら答える。

 

「気持ちいいぞ~。なんなら、たんぽぽもするか?」

「するっ!」

「しませんっ!」

 

 間違いなくたんぽぽでは風邪を引くとわかっていたシャルによって水浴びは止められてしまうが、濡れ髪を拭き終わったぐらいになって陽太はようやくあることに気が付く。

 

「……………たんぽぽ君。君、今俺のことなんて呼んだ?」

「……………ヨウタパパ」

 

 当然、といった感じで答えてくるたんぽぽの様子に、疲弊しきった老人のように震えながら陽太は無言でシャルを見つめる。

 瞳だけで『まさか、シャルが言わせているのか?』と問いかけられ、顔を真っ赤にしながらもシャルは説明するのであった。

 

「わ、わたしは、もう、ちゃんと覚悟を決めたよ」

 

 自分がこれからは母親になるのだ。というシャルの意思を垣間見た陽太はというと、物凄い高速回転し始めた頭を抱えるようにゆっくりとしゃがみ込み、沈黙してしまう。

 シャルが母親になる。ということは、当然もう一人の保護者である自分は父親にならねばならないのだろう。だが当然、10代の若い身でそんなことするなんて今の今まで想像もしていなかったことであり、いきなり突き付けられても、『了解した』とはすぐに言えそうもない。てか、家庭を持つとか自分はきっと向いていないのではないのか?

 ショックのあまり固まってしまった陽太であったが、そんな陽太をたんぽぽが心配そうにのぞき込んでくる。

 

「……………ヨウタパパ?」

 

 大人の世界の難しい理屈が理解出来る訳はないたんぽぽは、陽太の表情の変化を見て考えではなく感覚で、自分が受け入れてもらえないのかもしれないと感じ取っていた。言葉の数そのものがまだ少ない幼子ということが、逆に周囲の感情の流れを敏感に感じ取れる要因にもなっているのだろう。

 

「……………」

 

 黙って少女の表情を見つめていた陽太にもそのことが伝わったようだ。

 思えば、彼もまたフランスの地においてシャルと彼女の実母に拾われるまで、周囲の人間の感情にビクビクと怯え続ける毎日を送っていたのだから、今の少女がいかに不安なのかも理解するのは難しくはない。

 だからこそ、そんなたんぽぽを安心させるように陽太は彼女の頭を撫でながら笑顔で答える。

 

「………腹減ったな。朝飯食いに行くか」

「!!」

 

 歯をむき出しにして笑う陽太の笑顔を受け、たんぽぽは彼を真似るように歯をむき出しにして笑って見せる。

 

「くいにいくかっ!」

「うし、俺達は先に行くぞ、シャルロット『ママ』っ!!」

 

 そしてたんぽぽを抱き上げるとそのまま肩車をしてとっとと歩き出していく。急に目線が高くなって驚くたんぽぽであってか、見上げるように彼女を見つめた陽太と目が合うと、やがてにこりと微笑みながら高くなった世界を楽しそうに見つめるのであった。

 

「たかいたかーいっ!」

「そうだろそうだろ」

「あっち、たてものっ! あっちも、たてものぉっ!」

「建物ばっかじゃないか………その内、ここよりも高い建物がある場所、たくさん連れてってやるよ」

「ホントッ!? おでかけっ!?」

「そう。お出かけだ」

 

 ちゃんと約束されて嬉しさのあまり両手を広げて興奮するたんぽぽと、そんなたんぽぽを落とさないように両足を必死に掴む陽太の背中を見ながら、シャルは二人のやり取りに心が温かくなるのを感じ、嬉しさが隠せないで後を追いかけるのであった。

 

「じゃあ、シャルロットママも一緒にお出掛けしようかな? その時は交通費と食事代とお土産代とその他一切合切、全部ヨウタ持ちでね?」

「ブフッ!?」

「どうしたのパパ?」

「嬉しさのあまり吹き出しちゃったんだってさ。よかったね、ヨウタパパ?」

「ビタ一文いくないっ!? 状況でいじめるとか、姑息だぞ!? シャルは」

「こそく?」

「教育に良くない言葉は教えないでください、ね?」

「うし、たんぽぽ。『男女平等に割り勘』って言葉を覚えるんだぞ」

 

 セコイ言葉をさっそく教えようとしている時点で、威厳もへったくれもない新米パパに苦笑するシャルロットママ。そして二人の言い争いを聞きながら、おそらく言葉の意味はわからないけどそれでも楽しそうにしているたんぽぽの三人を見つめ、ラウラとのほほん達は、目の前で生まれた新しい『家族』の姿に、嬉しさとむず痒さを覚えるのであった。 

 

 

 

 

 

 

 




続きは早期にうpしたい所存です
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