IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

12 / 127
さて、今回の見所は、

 ・陽太の不器用な決意

 ・原作では定食の漬物にすらなれていないデュノア夫妻の登場

 ・ロリコン来たよ。ロリコン

の三本でお送りしますw



事態、急転

 

 

 

 

 いつも以上に感情を押し殺したような表情の陽太と泣きながらその後に続いて帰ってきたシャルの姿を見たリナは、ただ事ではないと確信しシャルを自分の部屋に招き入れると、店のカウンターに一人座る陽太の前に仁王立ちをすると、彼の胸倉を掴みあげて厳しい視線をぶつけていた。

 

「何をしたんだいっ!! アンタって子は……」

「別に………何も?」

 

 裏街道を生きる人間は必ず過去に何かしらの問題を持っている。リナもそれに違わず、そこらにいるチンピラなんぞ問題にならないぐらいの修羅場を潜ってきていた。それゆえに彼女の怒りをぶつけられれば、大概の男ならば萎縮してしまうのだが、目の前の少年は自分以上に修羅場を潜り抜けてきているだけに、こと、この手の問題に関しては手を焼いていた。

 

「………どうしてシャルが泣いてるんだ!?」

「……………」

「………どうして何も言おうとしないの!!」

 

 だんまりを決め込む陽太に強い怒りを覚え、拳を思わず振り上げたリナは………ゆっくりと、拳を下げ、胸倉を掴んでいた手を離すと、自分と先ほどから目を合わせようとしない陽太の頬に触れると、涙で滲んだ瞳で彼に訴えかけた。

 

「ヨウタ………何があったのか話してくれよ」

「話すことなんか………何も…」

「何がそんなにも辛いんだい?」

 

 突然のその言葉に、胸の内が穿たれた様な感覚を覚える陽太であったが、リナの言葉は容赦なく続く。

 

「アンタと初めて会ったときから、ずっと気になってたんだ。アンタ、時々すごく辛そうな表情することあるよね?」

「何がだよ?」

「幸せそうな人間を見たときさ。最初は僻んでるとか妬んでるとか思ったんだけど、そうじゃなかった……………アンタは幸せそうな人間を見るたびに、何か辛いこと思い出してんだ」

 

 自分がそこまで彼女に見られていたなどと思ってもいなかった陽太は、揺れる瞳でリナを見つめ返す。その瞳がリナには、途方に暮れてどこにもいけなくなった幼子のように見えて、なおさら目の前の少年が哀れに思えて仕方なかった。

 

「教えておくれ………アンタはいったい何に苦しんでるんだい?」

 

 リナのその言葉と共に思い出される、苦く重く、こびり付いて離れない光景………。

 

 ―――自分の腕に抱かれながら謝罪の言葉と共に息を引き取った女性―――

 

「………アンタには関係のないことだ」

「ヨウタッ!?」

 

 ここまで来ると意固地としか言いようのない強固な姿勢でリナを押し退けると、背後から自分を呼び止めようとする声を無視しながら、陽太は夕日が陰る入り口に向かって歩き出す。

 

「リナ………」

「………なんだい?」

 

 入り口で立ち止まった陽太がいつになく真剣な声色で話しかけてきたことに異変を感じたリナは、怪訝な表情のまま彼の顔を見る。太陽が差し込みちょうど逆光になっているために表情が分かりづらいが、その口元がえらく緊張していたことだけは理解できた。

 

 初めて見る陽太のそんな姿に、戸惑いの隠せないリナ。

 

「………頼みたいことがある」

「ソイツは私が聞ける頼みごとかい?」

「なあに………簡単なことさ…」

 

 ちょうど雲に太陽が隠れたのか、光が弱まり表情がはっきりと見えた。

 そこには、優しさと切なさと悲しさと強さを同居させた目で自分を見てくる陽太がいたのだった。

 

「アンタ……ちょっと待ちな!」

「シャルを頼む。アイツ泣き虫なんだ………」

「陽太っ!!」

 

 それだけ言い残すと店から出ていく陽太。彼の後を慌てて追いかけるリナであったが、店から出たときには、すでに彼の姿はどこにもなく、足元には彼の部屋のカギだけが残されていたのだった。

 

 

 高い民家の上を超人的な脚力で疾走しながら、陽太は携帯を手にして束に連絡を入れた。

 

『もすもす~~~!! 三度のご飯よりもようちゃんが大好きな束ちゃんだよ~~!!』

「虫唾が奔る」

『ひ、ひどいっ!!……せっかく私が…』

「長くなるから後にしろ。それよりも頼みたいことがある」

『え?……ようちゃんからお願い!?……なになに!?』

 

 束の話を一方的に打ち切った陽太が神妙な声で自分に頼みこんでくるのを面白そうに聞く束。だがそんな彼女の期待を裏切るように、陽太の口から出た言葉は意外なことであった。

 

「さっき送ってくれたデータに記載されている施設のクラッキングを頼みたい………20分でいい。セキュリティの完全無効化と、痕跡の消去をしてくれ」

『ええ~~!?……ぶぅーぶぅー………あの子絡みのお願いを、束ちゃんが聞かないといけないの~?』

「嫌ならいい……俺もこれからお前の頼みは一切聞かないから、そのつもりで」

『ふみーん!! 今日のようちゃんはだいぶドSだよー!?』

 

 とりあえず口論に打ち勝った陽太は、手元にある携帯のディスプレイに表示されている二人の人物の顔を見る。

 一人は無精ひげを生やしすっかりやつれてしまっているが、本来なら端正な顔立ちのハズの中年の男性と、もう一人はどこか疲れた表情の実年齢よりも若々しい女性。

 

 男の名は、ヴィンセント・デュノア

 女の名は、ベロニカ・デュノア

 

 シャルロット・デュノアの実父と義母の二人であった。

 

「デュノア社のクーデター騒ぎを収束するにはこの二人が必要だ………ついでに、シャルの居場所を確保するにもな…」

『どうしてようちゃんがそこまでしないといけないの?………全然関係なのに?』

「………関係なら大有りだ………」

 

 ―――シャルには暖かい家庭で平和に生きてほしい―――

 

 この願いだけは誰にも譲れないから。

 

「それに俺の記憶が確かなら、この二人は信用できる」

『根拠は?』

 

 陽太が出会ったことがない、人物二人をなぜ彼が信用できるのか?

 束が珍しくもっともな疑問を投げかけてくるが、陽太はそれを力強い言葉で跳ね返す。

 

「シャルの幸せを俺よりも願っている人が、信じている二人だからだ………」

 

 かつて、エルーがシャルにではなく陽太にだけ話聞かせたこと。

 シャルとの再会で思い出した事柄であったが、その時の記憶ははっきりと覚えている。

 そしてエルーが陽太に嘘をついたことは今まで一度もなかったのだ。

 

「俺が信じている人が信じている二人を、俺は信じる………」

『ふ~~~~ん…………私には理解できないな、そういう考え』

 

 束の言葉から温度が消える………陽太の言葉に何かしらの苛立ちを覚えたのか、珍しく素の感情が籠った言葉で束は陽太に言い放つ。

 

『まあ、ようちゃんが今回、私に何を見せてくれるのか、それだけは気になるところだから、協力はしてあげるね』

「………あんがと」

 

 短く感謝の言葉を述べると電話を切り、首から下げているペンダントを取り出す。それは不死鳥を象ったエンブレムが刻まれており、金と赤と白色の装飾が施されていた。

 

「………いくぜ…」

 

 一度だけ深呼吸をすると、陽太は手に向かってそれを掲げ、戦場の相棒であり、己の翼であり、剣であり、ISの生みの母(篠之乃束)をして、『炎の剣を携えた大空の皇帝』の異名を与えられた己がISの名を叫ぶ。

 

「ブレイズブレード!!!」

 

 『猛火の刃(ブレイズブレード)』の名が叫ばれた瞬間、彼の身体を白き甲冑が包み込み、次の瞬間、天空に向かって急上昇していた。

 

「……………」

 

 自分がシャルのためにしてやれること。

 その代償が、彼女と二度と会うことがない人生になることになったとしても………

 

「俺は迷わない………」

 

 一瞬で空気の壁を突き破り、音すら置き去りにした燃え立つ空の皇帝が、一直線に飛翔していく。

 

「俺がしてやれる唯一のことなんだから」

 

 覚悟を決めた炎の翼が速度を緩めることはなかった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 都会の喧騒が嘘のように、ひたすら静寂が広がるパリの郊外にある広い敷地に設けられた一軒家。本来ならこのような場所に住むことはないはずの二人が、向き合い、途方に暮れていた。

 一人は無精ひげを生やしすっかりやつれてしまっているが、本来なら端正な顔立ちのハズの中年の男性と、もう一人はどこか疲れた表情の実年齢よりも若々しい女性。

 

 男の名は、ヴィンセント・デュノア。

 女の名は、ベロニカ・デュノア。

 

 シャルロット・デュノアの実父と義母である。

 

 大会社の社長とその夫人であるこの二人がなぜこのような場所に監禁されているのか?

 

「……………」

 

 ヴィンセントは荒れた手付きでウィスキーを手に取ると、グラスに入れてストレートで一気に飲み干す。ここ最近、彼のアルコールを摂取する量は加速的に増えており、妻であるベロニカが心配して止めるように何度も説得しても一向に聞こうとはしなかった。

 

「アナタ、もうそれぐらいにしてください。このままでは身体を壊しますよ………」

「放っておいてくれないかベロニカ。もう………私は…」

 

 グラスを乱暴にテーブルに置くと、再びウィスキーを入れて飲み干してしまう。

 ベロニカは、やり切れない表情のヴィンセントを見るとどう声をかけたらいいのか戸惑い、それ以上の言葉を書けることができずにいた。

 

 この屋敷に『監禁』されてからというもの、毎日定期的な事後報告の書類のみが送られ、書類にサインだけを求められる。仮にそれを拒否しても、彼らには別段痛くも痒くもない。偽造してしまえばいいだけの話なのだ。

 それでもヴィンセントに一応の報告をするのは、外交的にはいまだヴィンセントはデュノア社の社長であるためであり、そういう意味では未だに生かされているのは何かの目的があるからである。本来ならとっくの昔に殺され、どこかの山中に遺体を捨てられていてもおかしくないというのに………。

 

 外出しようにも、家の中にさえ数人の護衛という名の監視役がおり、外には更なる数の警備員達が四六時中見張っていて、外出や連絡は一切できず、外部に連絡を取って助けを呼ぶことすら出来ずにいた。

 

 食事やその他の扱いは未だにVIP待遇であるが、それすらも嫌味にしか取れない。まるで何も出来ない自分達を嘲笑うかのように………。

 

「こんなに情けない姿で生きなければならないなら、いっその事一思いに殺してほしいぐらいだな………」

「アナタッ!!」

「解っているよ。このままでは死ねない………せめて、シャルだけでも助けなければ…」

 

 叱責するベロニカに苦笑いをしながら、自嘲気味な発言をするヴィンセントが再び、ウィスキーをグラスに入れようとした時であった。

 

 部屋の壁が吹き飛び、室内を一気に煙が覆いつくしたのは………。

 二人が思わず身を縮め周囲を見回す。だが室内には煙と塵が立ち込め一寸先も見えない状況なっている。

 

「キャアアアアーッ!!」

 

 そんな中でベロニカが悲鳴を上げ、ヴィンセントが思わずそちらのほうを振り向くと、『一本角を生やし、二つの緑色の光を放つ純白の巨人』が二人を見下ろしていたのだった。

 あまりのことに我を忘れる二人であったが、突如巨体は二人を抱き抱えると背中の翼を広げて自分が開けた穴からさっさと飛び出してしまう。

 

 途中、警備員たちが騒ぎに気づき上空を飛ぶ巨人に向かって重火器を発砲するが、その銃弾は尽く命中する寸前で炎によって蒸発させられていくのを目の当たりにしたヴィンセントは、驚愕を覚えながらもこの得体の知れない巨人が何なのかに感付いた。

 

「あ、ISなのか?」

 

 兵器メーカーの社長らしく、すぐさま自分達を連れ去っている巨体がISであると理解したヴィンセントが頭部の辺りを見つめる。

 すると、先ほどまで沈黙し続けていた巨体から若い男の声が聞こえてきたのだった。

 

「………少し待て、適当なところで一度降ろすから」

「!!?」

「暴れるな。落ちても拾ってやらんぞ?」

 

 二人にそう言い聞かせると、謎のISはスピードを上げ、一気に数キロの距離を移動するのであった。

 

 屋敷から大分離れ、周囲が木々で覆われた森の中であることを確認したISは直ぐ様着地し、二人を地面に降ろすと直ぐ様ISを待機状態に戻す。

 一瞬の光が止み、白き巨人が消え失せると、そこには随分年若い少年の姿があり、呆気に囚われていたヴィンセントが口を開く。

 

「少年!?………ISを男が動かしているというのか!?」

「……………いろいろ聞きたいことがあるんだろうが、今はそういう時じゃない」

 

 男がISを動かしているという事実に驚愕するヴィンセントを無視し、陽太は森の中にあるあぜ道を歩きだす。

 

「ここからは徒歩で10分ほど歩く。人を背負いながらじゃあステレスモードが使えんからな」

「ま、待ちたまえ!!」

 

 とっとと一人歩きだす陽太をヴィンセントとベロニカは追いかける。

 

「君の名は!」

「名乗るほどのもんじゃない」

「貴方、一体何の目的で私達を?」

「話すほどのことじゃない」

「ふざけてるの!?」

「割と真面目だ」

 

 ベロニカの語尾が熱くなり始めるの感じた陽太は、深いため息を一度つくと陽太はあることを静かに話し始める。

 

「『不器用で頭が固くて融通が利かないけど、本当は誰よりも誠実で勇敢ないい男』」

「?」

「『口下手で思っていることを素直に言えないけど、心が優しくてお人よしないい女』」

「?」

 

 それぞれヴィンセントとベロニカを見てそんな言葉を言った陽太が、次に敵意ではなく何かを懐かしむ眼で二人を見つめる。

 

「………エルーさんが嘘ついているとは思いたくないけど、話に聞いてたとはだいぶ違うな、あんた等……」

「「!!?」」

 

 その人物の名前を出された瞬間、二人は大いに動揺する………その名前を知っているのはシャルを除けば誰もいないはずなのに………。

 

「君はエルーのことを知って………」

「………身の上話はあまり好きじゃないんだがな…」

 

 そんな二人に陽太は、自分が一体どういった存在なのかを簡単に説明するのであった。

 

 

 

 

「なるほど……………」

 

 先ず陽太は嫌々ながらも自分の身の上の説明をし、ヴィンセントとベロニカは少年の正体を知った。

 

 孤児として異国に取り残され、想像を絶する苦汁を舐めさせられ、生きる気力も喜びも知らなかった少年が、シャルロットとエルーの二人に家族というものを教えてもらったこと。

 

 そしてたった一人残った、家族であり幼馴染であるシャルロットの現状を打破しに来たということに。

 解ってしまったがゆえに、ヴィンセントは陽太に頭を下げることしか出来ずにいた。

 

「すまない………君にまでそのような苦労をさせてしまうなどと」

「勘違いするな。断じてお前のための苦労ではない………それにシャルのためでもない。ましてやエルーさんのためでも………俺が望んで手に入れた結果だ」

「いや、それでも………」

「自惚れるな」

 

 ピシャリと言い放つ陽太。赤の他人の同情などは彼がもっとも嫌悪してやまないものの一つであり。なによりも陽太が自身の天衝くプライドを考えれば、そんな安首一つが頭を下げて釣り合うと思って貰っては困る。

 

「俺の話は以上だ………続けてアンタ達の番だぜ」

「ああ…………ところで一つ聞いておきたい。エルーは君に私達のことをどれだけ教えていたのだ」

「さっきの言葉以上のことは何も………そもそもシャルに再会しなかったら確実に忘れてたことだからな」

「そうか………」

 

 ヴィンセントが懐かしさを滲ませながら、胸元からロケットを取り出し、中にある写真に眼をやった。

 

「私と妻のベロニカ………そしてエルーとは高校のクラスメートだった」

 

 ―当時の私はデュノア社の次期後継者、ベロニカも財閥の令嬢という間柄というだけだったんだが、その間になぜか一般家庭出身のエルーが入ってね………三人でよく行動を共にしていた。

 私は勉強やスポーツを誰よりも負けないように努力していたが、こと友人関係についてはからきしでね。ベロニカも言葉が上手い方ではないため、よく対人関係でトラブルを起こしていたよ―

 

 ヴィンセントの言葉に、ベロニカは苦笑しながら言葉を続けた。

 

 ―ええ………私もこの人もよくトラブルを起こしていたけど、そんな時いつもエルーが私達を助けてくれたの。彼女、人見知りをしない気さくな性格だったから、あっという間にいつも私達が起こしたケンカを止めてくれて………その度にエルーに叱られてたわ。

 でも、いつも叱った後に、私達にケーキを奢らせて………『これでチャラだから』って……大学に行ってもその関係は変わらなかったわ。

 いつまでもそんな日々が続くと思っていた………けど、それが突然終わりを迎えてしまった―

 

 そこでベロニカが言葉を止め、眼を伏せて表情を歪ませる。そしてその代わりにヴィンセントが話を続けた。

 

 ―最初のきっかけは、私とベロニカの両親が勝手に私達を許嫁にしたことが始まりだった。当時の私は………エルーと付き合っていて、私は彼女と結婚するつもりでいた。両親の勝手な戯言だと私は取り合わず、ベロニカも私とエルーが付き合っていることに賛成してくれていたんだが………その時、エルーにある異変が起こった―

 

 ヴィンセントが一瞬だけ言葉を詰まらせ、そしてその瞳に堪えようのない悲しみと怒りが湧き上がっていたことにベロニカと陽太も気がついてた。

 

 ―エルーが………妊娠したんだ。私は最初はそのことに気がつかず、能天気に彼女との日々を過ごしていた………今思えば、私はもっと早くに気が付くべきだったのに………-

 

 ―アナタの責任ではありません!!………私がいけなかったんです!

妊娠したことを彼女に相談された私が、不用意に父が経営する産婦人科の病院に通院させたのがいけなかったんです!!………彼女の妊娠が父達の耳に入り、それからというもの彼女はありとあらゆる嫌がらせを父達に受けることになるなんて……-

 

 ―執拗に父達の追求と嫌がらせを受け、心身ともに疲弊していたのに、エルーは私達にはそのことを一切話さず、いつも通りに過ごしていたんだ………私達に話せば、子と親の間で骨肉の争いに発展することを彼女は察してくれていたんだ………だが、妊娠して五か月が過ぎた辺りで、業を煮やした私達の両親はとうとう物理的に彼女を排除しようし始めた―

 

 ―一日のうちに何度も身に覚えのない危険な目にあえば、さすがに私達の眼にも留ってしまい………私達はすぐに真実を知ることができました―

 

 ―私は生まれて初めて怒りに震えた。上流階級の血筋に拘り、人道から外れてまで自分の『孫』を排除しようとする父達のやり方に………吐き気を催したよ―

 

 ―私も同じでした。ヴィンセントには確かに男性としての好意を抱いてはいましたが、ですがエルーはそんな私などよりも遥かにヴィンセントを愛していて、彼のご両親との確執を避けるために自分の命の危険すら笑って許していたのに………そんな彼女をなぜ認められないのかと、私は父達に詰め寄ろうとしました………ですが―

 

 ―エルーにそれは止められたわ。私達が両親と争って何が残る、残るのは眼に見えない憎しみの溝と、そんな中に産み落とされたこの子の未来だけだと………だったら私はそんな中に愛する子をいさせることはできないと………それから数日後だった。彼女は一通の手紙を残して、私達の元を去ってしまった―

 

 ―その手紙には、私とヴィンセントに両親と争うのではなく、解り合うよう務めてくださいと………そして………-

 

 ―『ベロニカは貴方を愛している、彼女を幸せにしてあげてください。私は大丈夫………貴方との想いの絆がもう宿っているのだから………そして出来ればこの子が大きくなった時に、四人で会いましょう』………手紙にはそう書かれてあった―

 

 そこで一端話を止めたヴィンセントが、青空を見上げながら呟く。

 

「だが結局それも叶わなかった………私達が彼女の行方を突き止めたときには、すでに彼女は帰らぬ人になっていた」

「それだけじゃないわ………私が………エルーを失って傷ついていたシャルに………エルーの忘れ形見のあの優しい娘にっ!!」

 

 ベロニカが頭を抱えて涙を流す………抱えきれないほどの後悔と罪悪感で胸がいっぱいになり、それが眼から流れ出たのだ。

 

「シャルが見つかるほんの少し前……………ベロニカは流産したんだ」

「!?」

「恥ずかしい話、私はベロニカと夫婦らしい生活をしたことはほとんどなかった。エルーへの罪悪感と会社経営の責務……いや、ただ仕事に逃げていただけだった。結果、ただでさえエルーへの負い目でいっぱいになっていたベロニカを更に追い詰めることになってしまってね………」

 

 心身の疲弊と流産へのダメージによって、心のバランスを崩したところに、降って湧いたようにもたらされたシャルの存在は、彼女の心の均衡を完全に崩壊させてしまったのだ。

 結果………義母と義娘は、最悪の初対面を迎えてしまう。

 

「それからは以前にも増して輪にかけて仕事に逃げようとしたんだが………そんな様だからこそ、隙が出来ていたんだろう。私はあっさりと罠にハマってしまった」

「…………」

 

 そして物語は現在に繋がる。

 仕事に忙殺されていたが故の隙を突かれ会社の実権を水面下で奪われたヴィンセントとベロニカはこのような場所に監禁されてしまったのだ。

 

「………それだけでこんな辺鄙な処に監禁されてたわけじゃないだろ?」

「そ、それは………」

 

 陽太の厳しい追及を含んだ視線に気がついたヴィンセントは視線をそらし、代わりにベロニカが陽太に質問する。

 

「ヨウタ………くんは、その理由が何なのか解るというの?」

「コイツだ……」

 

 陽太が手持ちの端末を二人に提示し、そこに書かれていた内容を公開する。

 その書かれていた内容を見た瞬間、ヴィンセントの表情は苦いものに変わり、ベロニカは信じられないものを見たような表情で夫を睨みつけた。

 

「『ヴィンセント・デュノアの後継者には娘であるシャルロット・デュノアを指名し、資産及び代表取締役の地位を相続するものとする』………誰かさんのもしもの時の遺言状だ。シャルの自称婚約者殿はこれを見て、やばいと思ったんだろうなオイ?」

 

 彼個人の資産ならばまだ判る。

 だが、大企業であるデュノア社の社長の地位まで譲るというのは、最早娘バカの話では済まされない。強引な身内人事はただでさえ会社に波風を起こしてしまうというのに。

 

「アナタッ!!」

 

 これを見たベロニカは憤慨した。娘への償いのつもりだったのかもしれないが、これは完全に逆効果だ。

 自分達があれほど嫌った上流階級の閉鎖社会の中に、彼女を放りこんでしまうではないか。

 

「……………貧乏な生活を送っていたあの娘に、せめて何かを贈りたかった」

「……………金持ち視点の壮大に盛大に余計なお世話だったな。おかげであんたの娘は籠の鳥だ」

 

 陽太の皮肉に富んだツッコミに表情を歪ませるヴィンセントを見ながら、ベロニカはため息をつく。

 

「ごめんなさい………この人なりの誠意だったのかもしれないけど、これはヤリ過ぎだわ」

「ああ………俺も最初は何かのジョークかと思ったんだけどな」

「クッ………」

 

 自分の行動に対しての容赦の欠片もない評価に項垂れるヴィンセントを冷たい目で見下ろしていたとき、陽太の携帯に明らかに女性の肉声で「じぃ~ごろごろご~じぃ~~♪」というなんとも緊張感のない着信音が鳴り響き、一瞬で勝手に着信音を変えた下手人を判断した陽太が低い声と湧き上がる殺意をこめながら電話に出る。

 

「テメェのそのアンテナみたいなウサ耳引っこ抜いて、もう一度直に頭蓋骨に突っ込むぞ?」

『おおお~~! ようちゃん、ご機嫌アウトロー?』

 

 案の定、彼の神経を逆撫でることが上手い束からであった。本気で額に青筋を浮かべながら、電話口の相手を焼き殺す方法を割りと真面目に考えながら問いかける。

 

『ローテンションなようちゃんがハイテンションになるお知らせがあるんだけど、聞きたい?』

「………手短に話せ」

『うん! 攫われたよ!』

 

 手短過ぎて何のことか最初は理解できなかったが、それが段々と誰のことか理解し始めると、声を荒げながら彼女に問い詰めるのであった。

 

「もう見つかったのか!?」

『う~ん………ようちゃんは完璧に消息の痕跡消してたし、一週間ぐらいは見つからないかと私も思ったけど、案外デュノアもやるもんだね~」

「いくらなんでも早すぎる! 一度直にやりあったが、どう見ても二流の中の一流の集まりだってのに………!?」

 

 デュノア社の人間の能力ならばこの間のやり取りで大体把握はしていた。能力はフランスの陸軍に匹敵するぐらいそこそこ秀でてはいたが、肝心の中身はそれに溺れていて、仮に全社員が襲い掛かってこようとも返り討ちにする自信はある。

 そのために陽太は余裕をもっての行動をしていたのだが、こんなことならば彼女も一緒に連れてくるべきだった。

 

 ならば考えられる可能性は一つしかない。自分や束を出し抜けるほどの能力を持っている者など、この辺りには一つしかない。

 以前から注意していたヨーロッパ圏内において随一の支配能力を持ち、人材の質も量も取り揃えている、闇の組織。

 

「………デュノアの人間じゃない、外部の奴等に手を借りたのか」

『うんうん!………私も今回あんまり興味なかったけど、ちょっとだけ興味沸いてきたかな……』

「………つまり相手は…」

『そう……相手はね!』

 

 その組織の名前は………。

 

「『亡国機業(ファントム・タスク)だ(ね)』」

 

 

 

 

 ―――時間は陽太が出て行った後の数分後まで遡る―――

 

 

 

「……………」

 

 リナに通された部屋のソファの上でぼんやりとしていたシャルは、呆然としながらも心の中で決して見つからない答えを捜し求めていた。

 

「(なんで………どうして急に私を拒絶したの?)」

 

 教会で自分がありがとうと伝えたとき、確かに陽太は静かに、優しく笑ってくれていた。それが何よりも嬉しくて心の中で花が咲いていたのだ。

 なのに、彼が電話に出てしばらく会話していた途端、天国から地獄へ真っ逆さまに叩き落されてしまっていた。

 誰が何のなにを陽太に言ったのだろうか?

 そう考え付くと、段々と電話の相手に腹が立ってきたシャルは、ソファから飛び上がると勢い良くドアを開くと、陽太とリナが二人で話をしているはずの店内に顔を出すのだった。

 

「ヨウタ! リナさん!! ちょっと話が…」

「何考えてんだい! バカヨウタのくせに!!」

 

 その時食堂の入り口の前で大声を張り上げて陽太への文句を言うリナと出くわす。

 

「リナさん?」

「あ゛っ!」

 

 振り返ったリナは『これはまずい』と思い、なんとか誤魔化そうと視線を泳がせながら、壁に立てかけてあったモップを掴むと、一生懸命掃除に勤しんでいるフリをし始める。

 

「ああ忙しい、忙しい!!………もうすぐ開店だってのに・」

「ヨウタに何かあったんですか!?」

 

 だが流石にそんなことに誤魔化されないのか、異常な事態を察知したシャルが彼女の腕にしがみ付いて、必死に問いかけてきた。

 

「ヨウタに何かあったんですね!? 教えてください!!」

「お、落ち着きなよシャル………別にアイツはいつもおかしいのが平常運転みたいな奴だしさ」

「今朝は全然機嫌よくて……でも、教会で電話に出た後急に……それに……なんだか凄く辛そうで…」

「シャル………」

「ヨウタ………帰ってきますよね?」

 

 シャルが感じ取っていた不安………それはなぜだかもう二度とヨウタに会えなくなってしまうような気がしてたまらないものだった。

 

「せっかくまた会えたのに………なのに、なのに…」

 

 震えているのが掴まれた腕から伝わってくる。だがリナにしても先ほどヨウタの口から二度と戻らないととも取れるニュアンスの言葉と、その証拠に置き去られた部屋の鍵の存在がある。

 

「シャル………ヨウタは何かアンタに言ってたかい?」

「……何も言ってくれないんです! 何も………全部、関係ないって……それだけで」

「そう………(ヨウタ!! アンタはなんてバカなんだい!!)」

 

 彼女は心の中で憤慨する。ヨウタの行動に、その言葉に。

 

 シャルにとって自分の存在がどれだけ大きなものなのかまったく理解していないということに。

 シャルにとって自分の存在など軽いものでしかないと思い込んでいることに。

 

 まるで自分はいつ消えてもいい存在だと思い込んでいる、あの少年の考えに………。

 

「………決まりだね、シャル」

「?」

 

 決意を固めたリナは、シャルに言い放つと自分のエプロンを外して外に出ようとする。

 

「アイツを見つけて、一緒にぶん殴ってやるんだよ!」

「………え?」

 

 何で急にそんな話になってしまったのか理解できないシャルであったが、リナはそんな彼女の腕を今度は逆に引っ張っていく。

 

「アイツはね、もうここにも、シャルの前にも帰ってこない気なんだ!」

「えっ!?」

「軽く考えてんだよ……自分のことも、アンタのことも………だから私がみっちり叩き込んでやるんだ。女を悲しませるとどんな目に合うのかって言うことをね!!」

 

 怒り心頭になっているリナの様子を見ていたシャルは、不思議と彼女が亡き母親に似ていることに気がつく。ひょっとしたらヨウタもそう感じていたから、この店に下宿していたのかもしれない。

 

「はい! わかりました!!」

「いい返事だよ! じゃあ会ったらまずは右ストレートでアイツの鼻っ面へし折ってやるんだよ!」

「グ、グーで、殴るんですか?」

 

 なかなか物騒なことを言い出すリナの提案に若干引き気味になるシャルであったたが、その時、店の前に裏通りでは不釣合いのリムジンが5台、二人の逃げ場を奪い去るように停車する。

 

「アレは!」

 

 シャルにはそれがデュノア社のものだとわかり、顔色を変えて周囲を見回す。

 そこにはすでに目の前だけではなく、店の周囲一体を取り囲む数十人の黒服の集団が集められていた。

 

「………なんだい、アンタ等?」

 

 リナも事態を把握したのか、強張った声で黒服の人間達を問い詰めるが、そこへ彼等の人垣を掻き分けるように、細みな長身と高級そうな白いスーツをきっちり着こなし、秘書の女性を連れたオールバックに眼鏡をかけた柔和な笑顔をした青年が現れる。

 

 彼こそジョセフ・デュノア、シャルロットの婚約者であり、水面下で会社の実権を握った野心家でもある。

 

「よかった! 探したんだよシャル!?」

「!!?」

 

 彼が話した瞬間、シャルが怯えながら後ずさるのを見たリナは彼女を護るように一歩前に出た。

 

「見たところ、アンタがこいつ等の親玉なのかい?」

「ああ! 貴方がシャルを『保護』して下さった方ですか!!……ありがとうございます!!」

 

 一見、笑顔で丁寧な対応にも思えるが、リナは目の前の人間が本質的に自分を見下していることが感じ取り、その挨拶を鼻で笑い飛ばす。

 

「保護するのはこれからさ。こんなにも人数を連れてこないと女の子一人迎えに来れない、キモい変態からね?」

「!?」

「キサマッ!」

 

 その台詞を聞いた黒服の一人が怒りながらリナに殴りかかる。

 

「ハンッ!」

 

 だが、その拳を真っ向から受け止め、股間を膝で蹴り飛ばすリナ。

 ドスッという重い音とともに口から泡を吹きながら倒れこみ、地面をのた打つ黒服の男を見下ろしながら、彼女は空手に似た構えを取り、周囲を睨み付けながら言い放つ。

 

「こう見えても、昔は『喧嘩屋リナ』って呼ばれてた時代もあったんだよ?………かかってくるなら、股間の物全部ぶっ潰すわよ、あんた等?」

 

 彼女の宣言に顔を青ざめる黒服一同であったが、ジョセフはそんな彼女を無視し、シャルに微笑みかける。

 

「シャル………ボクは君のためならばなんでもする! だから早く戻ってきてくれないか?」

「………ジョセフ……兄さん…」

「嫌だなシャル………僕たちはもうすぐ結婚するんだよ? 兄さんはないんじゃないかい?」

 

 この間までは、その言葉を聴いても別段心が揺れることもなかったが、今は違う。

 彼の目が、彼の言葉が、彼の気持ちが、自分に触れるたびに生理的嫌悪感に襲われ、逃げ出したくなるのをシャルは感じ取り、一歩引いてしまう。

 それを見たジョセフは、一瞬目を揺らすと、すぐさま口元を引き上げて、段々と余裕のない笑顔に変化させていくのであった。

 

「シャル………お利口だから、こっちにきてくれないか?」

「黙れ変態。シャルがアンタを気持ち悪がってるのがわからないのかい?」

 

だがそれを遮ったのは、シャルではなくリナの辛辣な言葉であった。

 

「申し訳ない、ミス・リナ………これは一族の問題であって、部外者である貴方には残念ながら…」

「黙れクソ変態。私の名前を気安く呼ぶな………ああ~! シャルが気持ち悪がるのが心底理解できるよ。私もアンタを視界に入れてるだけで吐き気がしてくるもの」

「…………」

 

 ピクピクとこめかみが痙攣するジョセフ。笑顔は崩れていないが、そろそろ我慢の限界がきたのか、ふわりとした黒いロングヘアーが良く似合っている二十代前半と思われる女性の秘書に声をかける。

 

「オトヌ!」

「はい、社長……」

 

 女性が一歩前に出て、リナと対峙する。

 

「殺せ」

「仰せのままに……」

 

 感情のない声で返事をする秘書の女性の腕が光を放ち、それが何を意味していたのかフランスの代表候補生のシャルは即座に理解する。

 

「ISの部分展開!? リナさん、逃げて!!」

「もう遅い……」

 

 黄色と黒の装甲をした腕でリナの首を掴んで持ち上げる秘書の女性。その表情は段々と狂気に塗れていく。

 

「グッ!」

 

 よもやISが登場するなどと考えてもいなかったリナは、さしもの喧嘩の腕も通用しない現状を打破しようと頭をフル回転させる。

 

「(マズイ!………ここはシャルだけでも…)」

 

 シャルだけでも逃がそうとするリナであったが、そこへジョセフが割って入ってくる。

 

「オトヌ、やはり殺すのは少し待ってくれたまえ」

「はい?………ですが副社長…」

「なんでも利用価値はあるってことさ」

 

 そしてジョセフは余裕を取り戻して、シャルに問いかける。

 

「シャル……ボクも穏便に済ませたいんだ。利口な君ならわかるだろ?」

「!!?」

 

 シャルの全身が緊張する。ここでもし自分がヘタなことをすれば、リナの命が即座に奪われる………そのことに彼女が気がついていることを承知の上で、ジョセフは嫌らしい笑い方でシャルに話を続ける。

 

「君が自分から来てくれるなら、もうこれ以上何もしない……約束するよ?」

「ほ、ほんとですか?」

「オイオイ、夫になる人間の言葉を信じてくれてもいいじゃないか?」

 

 嫌悪感で思わず表情を歪めるシャルであったが、反論して機嫌を損なうわけにはいかない。

 意を決したシャルはジョセフの元に歩み寄る。

 

「シャ、シャル!?」

「一緒に行きます。だからリナさんを離して!」

「シャル………それは違うだろ?」

 

 ジョセフの物言いに握った拳が震えるが、シャルは落ち着いて言い直す。

 

「家に帰らせていただきます………ですからリナさんを…関係のない人を離してください……ア、アナタ…」

「うん♪」

 

 子供のような笑顔になって、目線をオトヌに送るジョセフ。

 その様子にすっかりやる気が失せたのか、オトヌはリナを店の中に乱暴に放り込む。

音を立てて転がるリナに駆け寄ろうとするシャルであったが、それを黒服の連中が遮ってしまうのであった。

 

「リナさん!!」

 

 心配そうに彼女を見つめるシャルは、すぐさまオトヌを睨み付ける。

 だが、女性秘書はそれを軽く受け流すと無言のまま車の中に入り、ジョセフもその後を追うようにシャルの腕を掴みながら一緒に車の中に入るのであった。

 すぐさま発車したリムジンの広い車内の中、リナの怪我の具合を心配したシャルが進言する。

 

「今すぐ救急車を呼んでください!」

「シャル………」

 

 その言葉を聞いたジョセフは、ヤレヤレと言った表情で彼女に詰め寄ると、シャルの両肩に手を置くと顔を一気に近寄らせる。

 

「ひぃっ!」

 

 その行動にシャルは思わず、平手でジョセフの頬を殴りつけてしまうのであった。

 

 パシィッ!

 

 小気味いい音が車内に鳴り響く。頬を真っ赤に腫らすジョセフと、心底湧き上がる嫌悪感で半泣きになってしまったシャルの間で、僅かな間沈黙が流れる。

 

「………シャルッ!」

「!!」

 

 もう隠すこともなくシャルを睨み付けるジョセフと、そんな彼を真っ向から睨み返すシャルであったが、突如、ジョセフは懐から医療用の注射器を取り出すのであった。

 

「できればこれは使いたくなかったんだけどね………オトヌ」

「はい、社長……」

 

 すぐさまIS使いの秘書はシャルの腕を掴むと、ジョセフの前に差し出し、シャルが余計な行動をする前に、ジョセフは針を刺し、中の液体を注入する。

 チクリッと、鋭い痛みが走る中、急激に体から力が抜けていくシャル。いや、意識ははっきりしているのに、まるで手足に力が入らないのである。

 

「!!………な、なにをしたんですか!?」

「ウチで作った最新型の筋弛緩剤でね。首から下の筋力が赤ん坊並みに落ちるように作られているのさ」

「!?」

「これでようやくゆっくりとできるね、シャルロット……」

 

 わざわざ彼女の名を言い直すと、ジョセフは力が抜けて動けないシャルをまるで人形を抱きしめるように自分の腕の中に入れて、彼女の頬を舐めあげる。

 

「悪い虫にすっかり毒されて………可哀想に……」

「は、離してっ!」

「口の利き方も忘れたのかい?」

 

 ジョセフが自分の顔をシャルのうなじに埋める。

 ようやく手に入った「花嫁(人形)」の存在にいたくご満悦なジョセフに対し、シャルにしてみればこの世のものとは思いたくもない嫌悪感で胸の中がいっぱいであった。

 

「こんな安物の服なんか着てないで、帰ってドレスに着替えよう………大丈夫、今回は下着から靴までボクが選んだものだから、きっと似合うよ」

「………タ…」

「大丈夫………会社も、君も、ボクがちゃんと護っていくよ……これから、永遠に・」

 

 彼女(シャル)の口からジョセフの意識の中に、雑音(ノイズ)が流れ込む。

 

「…ヨウ……タ……助けて…ヨウタ…」

 

 ご満悦なジョセフの脳内に、突然不快な名前が飛び込んでくる。

 それがシャルの口から発せられたものだとわかると、口元を引き攣らせ、シャルの顔を掴んで無理やり振り向かせる。

 

「それが君を連れ去った悪い虫の名前なんだね………いけない子だ、シャル!」

「ヨ、ヨウタに……何をするつもりなんですか!?」

「決まっている……君を誑かした罪をきっちりと償ってもらうってことさ」

 

 邪悪と言ってもいい笑顔でシャルを見下ろすジョセフ。

 彼にしてみれば、少々喧嘩が強いだけの人間なんぞ物の数ではないのだ。

 

 

 

 だが、この時彼は知る由もなかった。

 

 この僅か半日足らずで、彼が築き上げてきた物の全てが瓦解しようなどと………。

 

 それが、その「ヨウタ(悪い虫)」によって引き起こされることになろうとは………。

 

 

 

 そして、すでに彼は炎の皇帝の逆鱗に触れてしまっているなどとは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 にじファンのあとがきでも書きましたが、この『太陽の翼』におけるデュノア夫妻は、普通にいい両親です。シャルのこともちゃんと愛しています。ただヨウタ同様不器用で、どう接すればよかったのかわからなかっただけです。

 さてさて、ロリコンの喉元にいろいろ突き刺さりそうですが、次回はいよいよヨウタが直接デュノア社に乗り込みます


 あと、次回はあとがきにヨウタのプロフィール乗せますね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。