これだから、私の会社はブラック企業にノミネートされるんだよ!
と、では本編に全く関係のない愚痴はこのあたりにして、続きをご覧ください
煌びやかな宮殿における一室で、両親によって手を引かれてやってきた少女は、目の前にいる人物に深々と頭を下げた。
『はじめまして、セシリア・オルコットでございますわ!』
小さな淑女(リトル・レディ)がスカートの両裾を指先で掴み、丁寧にお辞儀する姿に愛らしさを覚えた『王国の君主』は、にこやかに挨拶で迎え入れる。
『ええ。初めましてね………会いたかったわ、セシリア』
父や母よりも二回り以上の年配者は、日差しを受ける椅子に座りながら、セシリアを見つめていた。
長い年月を生きてきた者だけが持ち得る、気品と高い徳を含んだ佇まい。後光を背負ったかのような雰囲気は、生まれてこの方出会ったこともない高貴な血筋をセシリアの無意識に悟らせる。気後れしてしまい、挨拶したまではいいがその状態で固まってしまったセシリアを見て、付き添いの父母は心配になって話題を口にしようとするが、手を挙げてそれをやんわりと止めた女性は、テーブルに置いてあったお菓子の入った籠を手に持つと、先ほどまでの威厳のある雰囲気が形を潜め、急に砕けた空気で彼女に話しかけてきた。
『貴女が来てくれると聞いて、久しぶりにスフレを焼いてみたのよ? 一緒に食べてくれないかしら?』
『……………』
にこやかな笑顔は目の前の少女を本当に歓迎しているもので、それがセシリアにも伝わったのか、彼女も砕けた笑みを浮かべ、両親の予想を遥かに超える一言を口にさせる。
『はい、お婆様!』
―――凍り付くオルコット夫妻―――
『あらあら、嬉しいわ。お婆様だなんて!?』
後に、IS学園に入学する直前に謁見したとき、当時のように『お婆様』と呼んでほしいと、熱心にセシリアにお願いしていたことを思い出し、彼女を困惑させるのである。
そう、英国女王『エリザベス』は、公共の場に移る威厳のある姿と、もう一つ、歳不相応な茶目っ気にあふれた英国淑女の一面を併せ持った、そんなセシリアにとって大切な『主君』なのである。
☆
夏真っ盛りな7月も終わりに差し掛かったある日のこと。
当然のように毎日行われる対オーガコア部隊の訓練は、連日苛烈を極めており、皆は実戦さながらに修練に励む。
「そこっ!」
―――ビームハンドガンによる、連続中距離射撃を行うセシリア―――
蒼いカラーに染められたブルーティアーズ・トリスタンが地表面を滑るように移動しながら、黒いカラーの機体、ラウラのシュヴァルツェ・ソルダートを攻撃し続ける。
「チッ!」
小さく舌打ちしながら、ラウラは右腕に最小限のAIRを展開しつつ、ビームを弾きながら返す手でワイヤーソードを二基射出し、同時に両脚部のビームキャノンを展開、砲撃をセシリアの足元に打ち込み、セシリアの動きを牽制して抑制しつつ、巻き上がった粉塵によってワイヤーソードの軌道を隠してしまう。
次の一手が来る。セシリアは思考を張り巡らせると同時にSBビットを展開し左手のハンドガンをしまい、バルカンモードのスターライト・アルテミスを構えた。
「ハァッ!」
二基のワイヤーソードと一緒に、両腕からプラズマソードを構えて突撃してきたラウラを迎え撃つ。複雑な軌道を描きながら襲い掛かるワイヤーソードをSBビットは受け止め、ほかのビットがビームで撃ち落としにかかるが、ワイヤーソードは生物のように弧を描いてビームを回避していく。互いの機体に搭載された補助OSが攻撃と防御を巧みに行ってくれている証拠である。
そして残った本人同士は、バルカンの弾幕で引き撃ちしながらバックダッシュを行うセシリアと、巧みに弾幕を回避しながら追撃を仕掛けるラウラという図式となっていた。
「(間合いを詰められては一気に持っていかれる)近寄らせませんわ!」
「近距離戦闘はしたくないと、透けて見えるぞセシリアッ!!」
多少の被弾を覚悟の上で、右手に最小限のAIRを展開しながら真っ直ぐ突貫してくる。それはさせまいと右手のハンドガンも総員して弾幕を張るが、突如、ラウラはワイヤーソードを引き戻し、それを盾とすることでビームの弾幕を回避しきり、セシリアの懐に潜り込むことに成功した。
「(捉えたッ!)」
「そう簡単にッ!」
だが、懐に潜り込まれれば容易い相手と侮ってもらっては困る、と言わんばかりにセシリアは左のスターライトを投げ捨てると、ハンドガンを抜き、両手持ちでインファイトを仕掛ける。
まずはラウラの右での突き。それをハンドガンで受け止め、左からの薙ぎ払いも防ぎ、周囲のビットで狙い撃ちしようとするが、ラウラの次の行動は彼女の予想を超えるものであった。
―――鼻先が触れかねない距離で展開されるハイブリッドバスターキャノン―――
「なっ!」
ラウラの最大火力を、いきなりこの場で放とうというのか? 撃てば自分も巻き込まれるだろうに………だが、あまりの出来事にセシリアは驚き、咄嗟にその場から退いてしまう。
「………フェイントだ」
「!?」
ラウラの余裕溢れる声に、己の失策を勘付くが、時すでに遅し。新たに放たれたワイヤーブレードでグルグル巻きにされ、見ればビットたちも同じように巻き取られ、身動きが取れない状態にされてしまっていた。
「全てのビットを出していればまだ反撃の余地もあったのだろうが、私の行動を警戒して二基しか出さなかったことが仇になったな」
「ぐっ!?」
捕縛された上に、反撃の手段がないのでは勝ちようがない。ラウラの言う通り、ワイヤーでグルグル巻きにされてはビットをパージすることが叶わず、キャノンを構えたラウラ相手では三連装小型ミサイルを出しても撃墜は余裕だろう。
「………こ、この場の負けは認めますわ」
「……状況終了」
見苦しい真似はせずに素直に負けを認めるセシリアであったが、その表情にはやはり苦々しい物がまざまざと見て取れた。
「はぁああっ!!」
「せいやぁっ!!」
そして射撃戦闘を展開していたセシリアとラウラとは対照的に、箒と鈴が二本の刀と二本の青龍刀を激突させていた。
剣速と技術と技の豊富さを誇る箒と、威力とリーチと剣戟だけではなく至近距離からの龍咆や内臓腕部レーザーサブマシンガンによる射撃などを織り交ぜてくる鈴との互角の戦いは、激しさを増していく。
鍔迫り合いの状態からその場から退いた鈴を追撃するように、箒は間髪入れずに両刃の長剣を形成し柄同士を連結させて高速で回転させて突撃した。エネルギーの炎を纏った『風輪火斬』を繰り出し、斬りかかってきた箒に対して、鈴はその場から反転しながらコマのように一回転し、遠心力を上乗せした双天牙月で迎撃し、結果、甲高い音を上げて青龍刀が鈴の手から吹き飛ばされてしまう。
それを勝機と思ったのか箒が更にもう一撃加えようとするが、すぐさま鈴は両腕のレーザーサブマシンガンで銃撃し、箒はその場で刀を回転させて防御を余儀なくされてしまい、今度は鈴がサブウェポンのビームサーベルを抜き放って斬りこんでくる。
「せいっ! ていッ! ハッ!」
中国拳法を織り交ぜた斬撃は、日本の古流剣術を学んだ箒にも見切り辛く、捌くので精一杯の後手回りに追い込まれしまった。しかも鈴は斬撃だけではなく、蹴りや肘打ちの打撃も織り交ぜてくるものだから段々と被弾の数も多くなっていく。幸いに打撃では中々シールドエネルギーのゲージは減らせないのだが、その時の衝撃が仇となって、他の武器による攻撃につなげられてしまってはたまらない。
「だからとてっ!!」
「!?」
しかし、箒も押されっぱなしでいるわけでもない。鈴が繰り出したビームサーベルの一撃を、右足のビームブレイドで弾き飛ばすと、今度は怒涛の連撃で鈴を追い込んでいく。連続の突き技からの袈裟斬り、そしてトドメと言わんばかりの右の唐竹割り。それら全てを回避しつくした鈴はカウンターでビームサーベルを振るい、箒も負けじと両刀で迎え撃つ。
―――弾ける空気と衝撃波―――
「箒も鈴も、最近すごく調子よさそうだね」
その様子を目にしていたシャルロットがしみじみと感想を述べる中、彼女の足元に蹲っていた一夏は恨めしそうに彼女を見上げて、嘆願する。
「も、もう一度!?」
「ダメだよ。一対一の模擬戦は一日一回。時間よりも回数よりも内容。時間が余れば自分で振り返って反省………部隊の規則でしょ?」
その成長によって接近戦が得意な箒や鈴との戦いは驚異的に食い下がれる一夏であったのだが、射撃と回避が得意な上に、全距離を対応できるシャルロットとの戦いは特に苦手としており、本日も全くいいところなしでシールドエネルギーを0にされ、ノックアウトされたのだった。近接戦闘に持ち込もうにも、一定距離を取りながら射撃を打ち続けるシャルの得意技の前には、全く成す術無く完封され、遠距離攻撃は全て防がれ、ツインドライブでパワー勝負に打って出ては回避され、今はこうして地面に蹲っていることに、自分自身泣きそうになるぐらいの情けなさを一夏は感じていた。
陽太や千冬の目から見れば、如何に驚異的な成長を遂げていても経験不足は否めず、特に不測の事態に対しての対応力はまだまだ未完成であると言われるだろうが、どちらかといえばひらめき型のタイプであるのだから、それなりに場数を踏ませれば、徐々にだが頭角は現れだす。それが現状の二人の隠された見解であった。
結局、その後、激しさを増す箒と鈴の二人の戦いは、時間制限からのドローという形で落ち着くのである。
☆
「しっかし、アンタも中々やるわね~?」
「………何がだ?」
訓練後の更衣室横のシャワールームにおいて、席を隣にした鈴が温水を浴びる箒に何げなく話しかけてきたのだ。
「ISよ」
「ん?」
「こうして手合わせしてみると、やっぱりアンタはそこいらの奴等とは格が違うわ。『篠ノ之束の妹』さん?」
割と今更のような話題を振ってきた鈴に対して、怪訝な表情となる箒であったが、そんな彼女に鈴は出会ったばかりのころを思い出しながら話を続けるのであった。
「出会ったときはさ、『この女、なんて鼻持ちならないんだろう』って内心では思ってたのよ。愛想無いし、私のことは露骨に嫌ってたし」
「………出会った時のことなら、お前だって問題があっただろ?」
「ハハッ………でも、よく考えたら、アンタがあの時、私の正体バラさなかったら、ここにはいなかったのよね」
箒が自分の正体をバラしたときは絶望に染まったものだが、結果として今はこの仲間たちと一緒に戦える喜びを感じる居場所を手に入れたのだ。そう考えると、鈴としては箒のことを怒ったらいいのか感謝したらいいのか分からなくってしまい、結果として彼女の顔を見て吹き出してしまう。
「………何が可笑しい?」
「おかしくない、おかしくない………てかアンタ、最近『篠ノ之 束』の名前出されても、怒らなくなったわよね?」
さっき嫌味のつもりでサラッと言ってしまったのだが、箒はそれを自然と受け流し、別段気に留める様子もない。
少なくとも鈴の目から見た姉妹のやり取りを見る限り、『実は内緒で和解しました』とかいう流れになるはずもないことだけは予想できたのだが、箒の様子はやはり以前とは違っていたのだった。
「………いや、最近思うのだ」
「ん?」
「私は、あの人に怒りを感じるほどに、あの人のことを知っているのかと」
姉と両親の仲が絶望的に悪いことは子供ながらに察してはいたが、しかし、姉の知られざる話を聞かされると、それは単に姉がISを開発したことが引き金になっているとも思えない。それに、恩師のことであれほど取り乱す姉の姿を見たとき、彼女はひそかに動揺していたのだ。
「幼い頃から、私はあの人とほとんどまともに会話をした記憶がない。父は姉にどう接したらいいのかわからない様子だったし、母は全身であの人のことを見ないようにしていたし、それでも我慢できないときはヒステリックに叫んでいた時もあった」
少なくとも自分に対して邪険に接したことは一度もなかったと思う。むしろいつもニコニコ笑いながら自分を見てくれていたが、両親の態度を目の当たりにして、知らず知らずのうちに距離を置いていたのだ。そしてそのうちにISを開発したことによる一家の離散、自分はたらい回しの目にあい、最後に二人っきりで再会したときは簪が意識不明になった時だった。
「あの時の私は、簪の敵討ちとオーガコアへの怒りだけで頭が一杯だったから、正直、姉がどんな顔をしていたのか全く覚えていないんだ」
言葉はいつも通り、どこか人を小馬鹿にしたようなものだったが、果たして表情はどんなものだったのか? ひょっとしたら、実は自分が想像しているものとは違うものなんじゃないのか?
そう考えると、箒は自分は今まで何をしていたのかと、自問自答し始めたのだ。
「今は怒りよりも戸惑いが大きくて………駄目だな私は。すぐにその場の状況に流されしまって」
「………そんなことはないんじゃない?」
例え感情的に目の前のことに対して動いてしまっても、その後に色眼鏡無しにちゃんと相手のことまで考えられることは人間として美徳のはずなのに、どうしてこうやって後ろめたく考え出す箒の姿は、鈴にはどこか面白く映るのであった。
「(最近は色々あって、フォロー役やらせられる時が多かったけど)」
―――目の前で面白いおもちゃを発見―――
―――即時に弄り倒すことにする―――
普段は自分で人間の屑呼ばわりする陽太と発想がどこか似ている。と隊内のみんなに思われているということに一人気が付いていない鈴は、頭を抱えて悩みだした箒の背後から抱き着いてしまう。
「(とりあえず手付として可愛らしい悲鳴を上げなさい!)ていっ!」
「ひゃいっ!」
―――弾力と柔らかさが二律背反した大きな塊な何かの感触―――
手から伝わってきた情報が脳内で光速で駆け巡り、鈴は正確な処理を行った後に、ゆっくりと手を離すとハイライトが消えうせた瞳で、箒を改めて見つめる。
「な、何をするんだ!? 無礼者!!」
「……………無礼者はアンタの方よ。返してよ……私の乙女のプライドを」
「????」
勝手に玩具にした人物から半泣きで見返されて、余計に混乱する箒であった…………彼女に罪はない、とだけは断言しておこう。
乙女心をブロークンされた鈴は、怒り心頭で体中を泡だらけにしだす中、外から何やらシャルが大声を張り上げているのが聞こえてきた。
『どうしたの二人とも!?』
『みんな、どろんこ~~』
『…………酷い目にあった。てか、たんぽぽはいい加減、その駄犬に乗っかってタックルしてくるな!?』
何やら話し合っている三人であったが、やがてシャワールームに泥だらけに笑顔な全裸のたんぽぽと、ため息をつきながらバスタオル姿のシャルロットが入室してくる。
「もう………駄目だよたんぽぽ。ポチに無理なお願いしちゃ?」
「でも、ポチはすごくはやいんだ!」
キャッキャッと興奮しているたんぽぽの様子を不審に思った鈴が、シャルに問いかける。
「陽太の声も聞こえてたけど、何を一体やったの?」
「ん?」
鈴に問いかけられ、シャワーから適度な温かさになるように温度を調節しながら温水を出していたシャルはシレッと答える。
「たんぽぽとクロとシロを乗せたまま、ポチが陽太の背中に時速45kmぐらいで激突したんだって。それで、踏ん張れなくて昨日の通り雨でできた泥濘に全員突っ込んだと」
「………アイツも大概ギャグみたいな耐久値してるわよね」
※時速40kmで物体が激突した場合、大体重量の30倍の衝撃が掛かると言われています。ちなみにポチの体重は90kg弱である。
「ま、まあ………鍛えてるだろうし」
「アイツのあのツルハシ特訓は、娘の無邪気な愛情タックルを受け止めるためだと思うと、ちょっと可哀そうにも思えてくるけど………」
不満を口にはするけど毎日頑張っているだけに、確かに少しもの悲しくなるシャルロットであった。
しかし、そんな義母の哀愁など知る由もないたんぽぽは、箒の元まで行くと彼女に体を洗うようにお願いするのであった。
「箒お姉ちゃん、たんぽぽをあらってください!」
「ん」
母親役のシャルを除いて、その実は一番たんぽぽの面倒を見ているのは箒であったためか、自然と彼女を頼ることが多いたんぽぽと、それを意図せず自然に受け入れる箒は、その場にしゃがみ込み、彼女の身体の泥を落としながら穏やかな声で言い聞かせる。
「髪に付いた泥を洗い流すから、いつもように我慢できるか?」
「あいっ!」
そういって、思いっきり目を閉じて耳に指を突っ込んで水が入るのを防ぎながら、気合を入れて待ち構える幼女相手に、自然と苦笑してしまう箒は、彼女が嫌がらないように注意しながらゆっくり泥を洗い流しながら、シャンプーをしてあげる。
「もう少しの辛抱だぞ」
「!」
首を縦に振って健気に返事するたんぽぽを見て、慌てず丁寧に迅速にシャンプーを洗い流してあげた箒は、水分を含んだ髪の毛をタオルで丁寧に拭ってあげるのであった。
「よし、いいぞ」
「ぷはぁー!」
瞳を大きく開いて奇麗になった解放感に酔いしれるたんぽぽであったが、その時彼女は自分の目の前でプルプルと震える大きな二つの水蜜桃の存在に気が付く。
「…………」
注意深くそれを観察するたんぽぽは、視線を次に無言で先ほどから湯にあたり続けていたセシリアへと向け、次にシロを上機嫌に洗っているシャルロットへとずらしていく。
「…………」
そして視線はやがてラウラから鈴へと向き、彼女は最後に鈴を指さしながら箒へと問いかけるのであった。
「箒お姉ちゃん」
「ん? どうしたのだ?」
タオルを泡立たせながら、たんぽぽの身体を洗おうとしていた箒であったが、幼い少女はそんな箒に核砲弾のような質問を直撃させた。
「どうして鈴お姉ちゃん、オッパイちいさいの? かわいそうだよ」
―――ょぅι゛ょ の 無 垢 な 質 問 が 乙 女 の ハ ー ト に 直 撃 ―――
「!!?」
物凄い形相でシャワーノズルを握り潰した鈴が、シャワー室の壁に額をめり込ましてしまう姿をたんぽぽ以外が注目する中、彼女は真剣に憐みの表情で箒に訴え続ける。
「ラウラお姉ちゃんもちいさいけど、鈴お姉ちゃんよりもおおきいよ! それに箒お姉ちゃんがすんごいおおきい! だけど鈴お姉ちゃんはすんごくちいさい、そんなのかわいそうだよ!」
哀れみの表情すら浮かべるたんぽぽと、鈴が壁に額が現在進行形で陥没を続ける中、箒は必死に言葉を紡いで塞き止めにかかる。
「ま、待て。たんぽぽ! 女性の胸の大きさとは、一概に統一されているものではなくてな…」
「ヨウタパパいってたもん! 『おとこはかおみてせいかくみておっぱいみるんだぞ!』って」
「(あの馬鹿がぁぁっ!)」
どんな顔して言ったかまではっきりと脳内でイメージできるだけに、風呂から上がったら真っ先に天誅をくれてやろうと思う箒である。
「のほほんちゃんも真耶ちゃんもちー先生もおおきいのに、鈴お姉ちゃん『だけ』ちいさいなんて………どうしたらおおきくなるの?」
微妙に思考が可哀そうからどうすればいいのかと勝手に移行し始めたたんぽぽは、瞳を輝かせて瞳が点になっていたシャルロットにも問いかけた。
「どうしたらいいの、ママ!?」
「えっ? あっ………そ、そもそも、おっぱいは赤ちゃんに吸ってもらうためのもので、決して男の人の……その……せ、性的なもののためでは………」
「せいてき?」
なにそれ? と首を傾げる義娘相手に、言葉を選んで説明できない自分の語力の無さを悔いながらも、どうしたらいいのかわからないシャルは、思わず余計なことを口走てしまう。
「お、女の人のおっぱいは………母乳を出すものであって」
「ぼにゅう………しってる! あかちゃんがすうミルクなんだよね!」
「そ、そうだよ」
「じゃあ、ママもぼにゅうでるの!? たんぽぽ、すいたい!」
瞳を輝かせて飛びかかろうとするたんぽぽの姿に危機感を覚えたシャルは、とっさに左腕で自分の胸元をガードすると、思わず残った右手で箒を指さしてしまう。
「(は、初めては……ヨr)マ、ママよりも大きいよ!」
「シャルッ!」
まさかの裏切りに、抗議の声を上げようとする箒であったが、目の前ににじり寄るたんぽぽに恐れをなし、彼女も思わず口走ってしまった。
「(は、初めては……一r)わ、私よりも………!!」
―――指差されるは、イギリス社交界の一凛の薔薇(自称)―――
「はあぁ~!?」
まさかここで味方の造反を食らうとは思ってもみなかったセシリアは、にじり寄ってくる幼女の存在に気が付き、慌てて静止しようと声を張り上げた。
「お、お待ちなさい、たんぽぽさん!? わ、わたしは貴族としての決まりがありまして、初めてはちゃんと婚姻の契りを交わした相手ときまっていて」
「おっぱい………じゅるる~」
聞いちゃいねぇ、この幼女。
そして尚も言葉を続けようとするセシリアであったが、我慢を知らない誇り高き現代のちびっ子の前には虚しい抵抗であった。
「おっぱいーーー!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
―――うぅ、はぁ、あ、あ、あぁん!んぁーいぃー!ああぁぁっ!くぅ!あっ、あっ、気持ち………っ! はぁんんんんんぃぃぃぃんん、ぃぃぃ、はぁっ! んぃぃぃぃぃ! こ、こんな……こんなはしたないこと………ひぁぁぁ! んんぃぃぃ! にゃあん! はふ、あん! きゅうううん♥♥♥ アッ♥ンンーッ♥♥そ、そんなにされたらぁぁっ♥♥♥アアッ♥♥ち、乳房がぁっ♥♥乳房がぁぁっ!!―――
一心不乱に母乳を求める幼女と、はしたないと自ら思いながらも嬌声上げちゃうお嬢様の当事者二人を除き、その光景を見ていた誰もが顔を真っ赤にし、口を開いたまま硬直してしまう。いち早く止めに行かないといけないことは頭の片隅で理解しておきながらも、こんなピンク色の喘ぎ声をあげるセシリアに対して喜怒哀楽のどれにも属しない謎の感情が湧き出てしまい、しばし放置してしまう。
―――ポンッ! とワインの栓を開くような音がシャワー室に鳴り響く―――
「ん………おっぱいからミルクでないよ~、ママァ~!」
一人気が付いていないたんぽぽが無邪気に困惑する中、完全に純情な乙女としては晒してはいけない表情でアヘがってしまっているセシリアをどう介抱するべきか、気が付いた後にどうフォローを入れるべきか、まだまだこの方面には全面的に疎い対オーガコア部隊女性陣であった。
☆
日本某所・国際空港
日本国内に限らず、諸外国へ経由するために利用する東アジア最大の国際空港のロビーにおいて、日本の暑さに驚きながらもどこかそれすらも楽しんでさえいる、一人の貴婦人がいた。
年齢は既に還暦を超えて久しく、もう若い頃のように振舞うことはないが、上品な出で立ちと身なりの良さ、そして老いすら楽しむことを信条としている『英国』の血が、不思議と彼女を輝かせて見せていた。
「申し訳ございません。少々手続きと行きのタクシーを捕まえるのに手間取ってしまいまして」
そんな彼女に声をかけた妙齢の女性。結い上げられた金糸の髪を宝石の付いたバレッタで止めた、スーツ姿の女性は、キャリーケースを引きながら貴婦人に話しかける。
「アラアラ………こういう手続きが苦手だったなんて。書類仕事は得意分野じゃ、なかったかしら?」
「そうは言われましても………今回、一般人に紛れ込むなんてことを思いつかれたため、出国手続きが強行軍になってしまって、こちらのほうの準備が未完了だったんですよ?」
今頃、内閣府が大露わになってますよ。と女性の小言もそよ風のように受け流し、老婦人は柔和な笑顔を浮かべ、悪戯が成功したかのように楽しそうにする老婦人に若干呆れ返る女性であったが、すぐさま表情を切り替えると、早速出発することを彼女に告げるのであった。
「では、陛………」
―――人差し指を口に当てて、『今日はその呼び方はしないでね』とジェスチャーを送る―――
「申し訳ありません『エリザベス奥様』。では、まいりましょう」
「はい。それでは参りましょうか、『ジーナスさん』」
見た目は、年老いた夫人とその付き人。実際には年齢差こそあるけど仲の良い友人のような二人が空港を後にし、目的地である二人の縁の深い少女、セシリア・オルコットが在籍しているIS学園へと向かうのであった。
このおばあちゃん、どこのエリザベスさんなのか………なのか……。
次回、いよいよ女王……じゃなく、お婆様とセシリアさんの対面となります