IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

16 / 127
さて、新章突入!

そして、学園メンバーたちと陽太との初遭遇回です!



一章・空の騎士たちの遭遇記
国立IS学園


 

 

 

 ―――4月某日。国際IS委員会・中央会議室―――

 

 全てのISの運用取り決めと、それに関する制限などを設ける国連直轄機関であり、最強兵器の事実上、統括と管理を行っている、今世界中で最も強大な権力を振るえる場所の一つ、『国際IS委員会』

 

 この季節、この場所において新たなる議題が浮上していた。

 

 中央の巨大3Dモニターに映し出されているのは、先日行われたブレイズブレードとアラクネ・オーガのフランス市街地上空における戦闘であった。

 

「ここまで派手に戦われては、もはや世間に対して隠蔽するのは限界ですぞ?」

「左様………だが、アメリカやヨーロッパ諸国は『オーガコア』の存在の公表はしまい」

 

 モニターを取り囲むように設置された円状のテーブルに、IS連盟の幹部たちが一斉に着席しており、先日行われた戦闘についての議論がなされていた。

 

 無登録ISと奪取されたISでの戦闘。

 

 これだけでも事態はかなり大事なのだが、それ以上に輪をかけて問題にされているのは、アメリカから奪い去られてしまったIS「アラクネ」のコアが、禁断の『オーガ・コア』に挿げ替えられていたということである。

 

 『オーガ・コア(悪鬼の魂)』

 

 正式名称は『オーガ・コア・システム』と言われ、ISの心臓部であり頭脳である中枢部『ISコア』が異常活性化したコアの呼び名であり、常軌を逸したパワーとスピード、再生力を与える未知のシステムで構成されたISコアなのだが、世間に対して未だ公表できない理由とはこれとは別の所にあった。

 

 一つは、オーガ・コアを搭載したISは、ほぼ例外なく暴走事件を起こし、操縦者ごと周囲にある物質を取り込み、自身を異形な形に変質させ、手当たり次第に攻撃し始めるという、兵器としての運用が不可能であるという致命的欠陥。

 もう一つは、IS操縦者にかかる莫大なストレスにあった。

 これはオータムと言われるIS操縦者の性格がやたら攻撃的であったように、オーガコアを搭載したISを使用する操縦者たちは、全員なんらかの精神異常を起こし、最悪精神崩壊まで起こしてしまうのだ。

 

 ある国の実験データによれば、オーガコアを搭載したISは通常機の10倍以上の戦闘力を獲得できると試算した者がいたが、その代わりに生み出されるのは、人間では決して制御できない鋼鉄の怪物へとISと操縦者を変貌させてしまう。

 

 『悪鬼(オーガ)』の異名の通り、悪鬼の如きその異形の力を各国は制御しようと躍起になってはいるが、どの国も未だに実用化のメドが立っていない。

 

 だがしかし………秘密裏にオーガコアの研究を続けている国は後を絶たず、各諸国上層部においては半ば暗黙の了解のような扱いになっていたのだが、先日のフランスでの戦闘で、ある恐るべき仮説が浮上したのだった。

 

 『亡国機業(ファントム・タスク)』

 

 第二次世界大戦のころからその存在が確認されていた闇の組織。

 どの国家にも民族にも依らず、目的も分からず、規模も存在理由すらも分からない正体不明のテロ組織が、限定的とはいえオーガコアの制御に成功しているかもしれないということであった。

 

 つまり、この仮説が事実ならば、通常機を遥かに超える戦闘力を持つIS達を複数所持している亡国機業(ファントム・タスク)に対して、単機で対抗出来うる者が、現在画面に表示されている未登録のIS以外いないということなのだ。

 

 この事実は、IS連盟にとっても重いものであり、それゆえの解決手段として真っ先に上げられた、ISの開発者である『篠ノ之束を重要人物として召集』しようとしたのだが、彼女の行方が一向に掴むことができずにいるのだった。

 また、幹部達の中には「篠ノ之束こそオーガ・コア・システムを作った!」のだと主張する者もおり、全世界規模の大犯罪者として指名手配しろと主張する者もいたことで、委員会の頭をより痛ませる結果となる。

 

 打開策が見えない会議の中、中央の座席に座っている人物は、目を閉じて瞑想するように沈黙を続けていていた。

 

「……………」

 

 だが、この人物は困惑しての瞑想をしているわけではない。

 この状況を打開する、ある秘策を公表するタイミングを狙っているのだ。

 

 その秘策………それは、ここではない極東の島国。日本国が運営している操縦者育成機関『IS学園』において教鞭を振るっている、最強の戦乙女(ブリュンヒルデ)が打ち出した計画であり、それに付随してとある資料を同封して送られてきた。

 

 その秘策………とある人物が大切に暖めている資料。

 

 秘策の名は『対オーガコア用・独立遊撃部隊」

 そして資料の一枚目には、その部隊の隊長として、未登録ISを操る「火鳥 陽太」の名前と写真が記載されていたのだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 一方………。

 

 その重要な計画の立案者と、計画において重要なポジションである隊長となるべき男はといえば………。

 

「久しぶりだな小僧………直に会うのは3年ぶりか?」

「お久しぶりっすな千冬さん。直に会うのは3年ぶりですか…」

 

 よく鍛えられている過肉厚のないボディラインとスラリとした長身に、黒のスーツにタイトスカートを着こなし、狼を思わせる鋭い目をした女性が腕組みしながら目の前の少年を睨みつつ挨拶を交わしていた。

 

 彼女の名前は織斑 千冬。ISの世界では知らぬ人がいない人物である。

 世界最強のブリュンヒルデ、最高のIS操縦者、無敵無敗の武神………彼女を褒め称える言葉は世界に溢れ返っており、何よりも目の前の少年『火鳥 陽太』にとっては、これ以上ない忌々しくも無視できない、彼にISの操縦法のイロハを教えた、世界で唯一の師匠(目の上のタンコブ)なのであった。

 

 白い制服に身を包み口に煙草を咥えているという、明らかに少年課の刑事さんに御用になる気まんまんの陽太はというと、地面にボストンバックと学生鞄をおいて、バツの悪そうな表情で頭をボリボリと掻きつつ、『入学式』に間に合わなかった言い訳を考えていた。

 

「すいませんねお手数をおかけしまして………ちょっと道に迷ったんです」

「………まあ、お前は日本は初めてのはずだからな。いたしかたあるまい……」

「えっ!?、今日は見逃してくれるの!?」

「だがしかしだ………ちなみに聞いておいてやるが、入学式はいつだと思っている?」

「今日のは・」

「入学式は三日前だ小僧」

 

 凍りつく陽太と、凍りついた目で彼を見下ろす千冬………午前10時も過ぎ、日も昇った校門には人っ子一人見かけない。そして二人の間に流れる冷たい時間は、ゆっくりと動き出した。

 

「フランスでの一件は聞いている」

「あっ!………そうそう!! 最近いろいろ忙しくて!」

「フッ………それは大変だったな」

 

 いつになく優しい千冬の態度に、陽太はすっかり緊張の糸が解れ、バックを抱えながら歩き出す。

 

「さああ~~~て、俺が住む寮どこかな~~?」

「それはまた後で説明してやる小僧。今はそれよりもなによりも……」

 

 陽太の肩を掴んで無理やり振り向かせると、彼女は拳を振り上げ………。

 

 ゴンッ! ゴンッ!! ガツゥンッ!!!

 

「グワッ!!」

 

 脳天に三連撃の鉄槌を下すのであった。頭上にタンコブを三段こさらえ、地面で悶絶する陽太。

 

「いっっってぇぇぇぇえっぇぇーーー!!!」

「悪気がなかったということで今日は勘弁してやる。次回からは今の七倍でいくぞ」

「い、今でも十分頭蓋骨が砕けそうなんですが………」

「そうか。あとそれと、だ………」

「ふぇい?」

 

 頭を擦りながら立ち上がった彼に対して、千冬は強烈無比なビンタを陽太の頬に炸裂させる。咥えていた煙草が地面に放り出され、ついでに陽太の体も宙に回せながら、千冬は自身の携帯灰皿に煙草をしまうと、地面の上でのたうつ陽太を心底見下しながら、冷徹な声で警告を発する。

 

「ガキが一丁前にカッコつけようなど千年早い。次は問答無用で没収するから、訓練用のローラー引きながら校内100周させられたくなかったら、せめて自分で残りの煙草を処分しろ?」

「て、てめぇ………」

「文句があるなら相手になってやるぞ、ク・ソ・ガ・キ?」

 

 やると言ったことは絶対にするのが織斑千冬の特徴である。頭のコブを擦りながら、陽太が押し黙るのを確認した千冬は、改めて、彼を迎え入れる言葉を贈るのであった。

 

「IS学園にようこそ火鳥 陽太。我々はお前を歓迎してやらなくもないような気がする」

「なんでそんなに嫌々なんだよ!」

「冗談だ」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「んで?」

「ん?」

「ん?………じゃなくて、なんで俺がIS学園に入学しないといけないんですか!」

 

 生意気な物言いだと頭の上にタンコブを更に一つ追加されながらも、陽太は自分がこの地に呼び招かれた理由を前を歩く千冬に尋ねる。

 

「…………」

 

 雲一つない青空を見上げながら、千冬は静かな面持ちで口を開いた。

 

「捻くれ者の単純思考で猪突猛進の馬鹿弟子な小僧に、最低限の常識と社会におけるコミュニケーションを着けさせたいと思ってな」

「ケンカ売ってんのか、クソババァ………」

 

 ガスッ!!

 

「!!!!ッ←(鼻っ面に裏拳を喰らった)」

「最近、オーガコアを搭載したと思われるISが各地で事件を起こしている。もっともどれも国の上層部がもみ消してはいるが、おそらくそれも遠くない未来に限界に達するだろう」

 

 地面にしゃがみながら、必死に痛みに耐える陽太であったが、これ以上文句を言って痛い目をみたくないと思ったのか、とりあえず話を続ける方向に自分を納得させる。鼻の痛みを堪えながら………。

 

「………で?、それと俺の入学と……」

「包み隠すのは私は嫌いだから、おまえだけには伝えておく………他には他言無用にしろ」

 

 そして千冬は何か面白いことを思いついた子供のような笑顔になって振り返る。だが陽太にしてみればこの上ないほど気持ちの悪いものにそれが映り、思わず後ずさってしまう。

 

 

「お前だけの部隊をこの学園で作れ………お前が隊長になってな」

「はぁっ!?」

 

 何を言ってんだこのババァ、これが世に云う若年性アルツハイマーか!とツッコミを入れようとした陽太の言葉よりも早く、千冬の膝が彼の腹部にめり込んだ。低いうめき声をあげながら崩れ落ちる陽太。

 

「少し見ない間にずいぶんな口のきき方になったな、小僧?」

「あ、頭の中を読むな………」

 

 グフッといううめき声をあげながら蹲る陽太であったが、千冬はそんな教え子を見下ろしながら話を続ける。

 

「嘘でも冗談でもドッキリでもない。ましてやいたずらでもな………これは極めて真面目な話だ」

「こ、国家代表達で組織すりゃいいだろうが………なんでよりにもよって学生で組織させんだよ」

 

 もっともな質問をぶつける陽太に、千冬は深いため息をついて彼の眼を見てその疑問に答えてくれた。

 

「お前の言うとおりだ。本来ならばトップクラスの国家代表で組織せねばならない重要案件なんだが、如何せん諸国のトップどもは事の重大さに気が付いていない。もしものときは国家代表が国の防衛戦力の切り札になることはお前でもわかるだろう?………要は、『我々の切り札を、そんなお遊びに突き合わせるわけにはいかない』ということだ」

「………日和見もそこまでいくと病気だな。取り返しのつかん事態になったらどうなるか考えられんのかよ………」

 

 すでにオーガ・コアの問題は、世界的な危機に発展する気配を見せているというのに、諸外国の上層部は未だに静観するというスタンスを崩さないでいる。仮に表沙汰になった時、彼らの責任問題になるという理由が彼らにブレーキを掛けているのだが………。

 

「まあ、そういうわけで、だ………様々な議論の末、トップクラスの国家代表並みに腕が立ち、且つどの国にも所属しておらず、国家のしがらみにあうことがない、何よりも暇を持て余しているお前に白羽の矢が立ったわけだ………正確には私が矢を打ち込んだんだが……」

「千冬さんがすりゃいいだろうが!! 世界最強のブリュンヒルデなんだろうが!!!」

「お前と一緒にするな。私には日々の職務があるんだ」

「今、事の重大さがうんたんらかんたらって言ったのはアンタじゃないか!!」

「それはそれ、これはこれだ………まあ、お前の報酬としては、私の命令………もとい私の提案を受け入れれば、お前と束が今まで世界中で行った『テロ行為』には目を瞑ってもいいとのお達しだ」

 

 司法取引というわけである。この発言により、千冬の背後にはそれなりに権力を握った者がいることに陽太は気がつく。

 何が提案だ。ただの脅しではないか。

 しかも見ず知らずの一般人を使わず、自分が駄々をこねても取り押さえられる人物でかつ陽太と束に繋がりを持っている千冬が選んできた辺り、人の使い方を心得ている人物だ。

 

「………嫌だね」

「なに?」

 

 だからこそ、陽太はそんな話に乗りたくなかった。

 見ず知らずの人間に使われるなど御免だと、鞄を持ってIS学園を去ろうとする。司法取引など応じずとも、捕まる気などないし、頼まれなくてもオーガ・コアは自分が一つ残らず回収させてもらう。亡国機業(ファントム・タスク)の連中も一人残さず叩きのめす。

 それだけの力が自分にはあり、意志がある。

 それに代表でもない人間なんぞ足手まといにしかならない。オーガ・コアの尋常ならざる性能を前に戦うには、それなりの装備と技量の双方を持っていなければならないのだ。そんな人材と機体がこの学園にあるとはとてもじゃないが信じられない。

 

 そう考えるや否や、背を向けながら立ち上がり、自分の久方ぶりにあった師匠相手に『アバヨ!』と手をプラプラしながらの簡素な別れの挨拶を陽太がした時、千冬はそんな彼の行動をまるで最初から予測していたかのように、陽太の背中にまたしても予想外の言葉を投げかけてくる。

 

「もし……………お前が取引に応じなかった場合………フランス政府にとある人物を重要参考人として『保護』するよう働きかけがあるそうだ」

「!!」

 

 振り返り、驚愕の表情で千冬を見る陽太。

 彼女は些かも表情を崩すことなく、彼にその保護する人物の名前を告げる。

 

「保護する人物の名は……………シャルロット・デュノア」

 

 彼女の名前を口にした瞬間、瞬時に間合いを詰めた陽太が千冬の襟首を掴んで激怒した眼で彼女を至近距離で睨みつけた。

 

 ようやく塞いだと思っていた傷から血がにじみ出て、心の痛みがぶり返してくる。

 だがシャルの存在を千冬が知っていたことも驚きだが、それ以上に千冬が「シャル」を人質に取って自分を脅してくるなどということが、彼の中にある、目の前の人物を尊敬する気持ちを踏みにじる行為であり、激怒させた要因そのものだった。 

 

「……………テメェ…」

「……………返事を聞こうか?」

 

 湧き上がる怒気を押さえられない陽太に対しても、千冬は些かも怯えることなく高圧的な態度を崩すことなく、彼に返事を求める。

 時間にして数十秒………いや、数分だったかもしれない。

 しばし睨みあっていた両者であったが、徐に陽太が手を離して『校舎』に向かって歩き出す。背中から滲み出す『殺気』を無理やり押さえつけながら。

 

「アンタも背後のヤツもぶっ潰す。それまで付き合ってやるよ」

 

 そう言い残し、歩き出す陽太の後姿を見送りながら、彼女はここにはいない親友に珍しく愚痴を漏らすのであった。

 

「お前のせいで私はすっかり悪党だぞ?………このツケは支払ってもらうからな束」

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 そもそも現行の兵器をただの鉄屑に変えてしまうほどの超兵器たるISのもっとも特異な点とはなんであるか?

 

 それは操縦者が原則、全員『女』であるという一点である。

 

 ちなみになぜそうなったのかは未だに解明されていない。

 こればっかりはISの心臓部であるコアを世界で唯一開発できる篠ノ之束に聞いてみるしかない。まあ、まともな返答が返ってくるかはわからないが。

 

 そしてISが日本で日本人によって産み落とされ、その技術が日本で独占されることを恐れた諸外国は、運用協定という名の脅迫状と意義不服申し立てを含めた通称『アラスカ条約』なるものを成立させ、そして超国家機関であり、半ば不可侵な独立国家を思わせる『IS学園』を設立。世界中はこぞってこの学園に優秀な操縦者のタマゴと試作型のISを送り込んでいた。主に自ISのデータ収集と他国のISのデータを求めて………。

 

 そんな中、世界中の人間が驚くニュースが飛び込んでくる。

 

 『今の世界の常識』ではあり得ない、『男のIS操縦者』の存在が発見されたのだ。

 

 その内の一名。

 名前を織斑(おりむら) 一夏(いちか)。名字からして分かるかもしれないが、織斑 千冬のたった一人の弟である。

 

 黙っていればカッコいい言われるであろう少年は、完全にグロッキーな状態でIS学園のとある教室の机の上に突っ伏していた。

 

「…………」

 

 状況を確認するように思考を高速展開してみる。

 自分は私立のある学校を受験しに来て、なぜかその場でISを動かせてしまい、そのあと黒服の人だとか政府の人だとかあと多種多様な人達の四方八方からのマシンガンなような質疑応答のすえ、ISを実際に動かしてのテストを行い、なぜかその相手となった試験官が自爆してしまった末に、このIS学園への入学が決定して、そしてなんだか知れないウチに入学式を終えて早三日。

 

 二時間目が終わった時点で一夏は自分が置かれた状況が、限りなくまずいんじゃないだろうかという結論に行き当たる。

 まず、昨日同じく授業の内容が分からない。はっきり言えばスワヒリ語で英語の説明をされているのと同じ感覚なのだ。何言ってんのかさっぱりわからん。

 

 詰まる所彼は完全なド素人なのだ。

 

 しかも、入学前に手渡されていた入学ガイドと予備知識が書かれたテキストの束を、電話帳と間違って捨ててしまった。姉にはそのことでしこたま殴られたが。

 

 微妙にドジっ子属性を備えた少年、それが織斑 一夏なのである。

 

「限界………」

 

 ばたんきゅ~~と倒れこむ一夏は、チラッと彼は窓側の席に座っている一人の女生徒に助けを求めるような視線を送る。

 そこに座っていたのは整った素顔と容姿を持つポニーテールの美少女、彼の幼馴染である篠ノ之(しののの)箒(ほうき)であった。

 だが彼女はブスッとした不機嫌そうな表情のままあえて一夏の視線を無視し続けている。

 

 おまけにクラスの周囲を見回しても、女子女子女子………男の影など欠片もなく、気軽に話しかけることもできない。

 どうすればいいのか打開策もなく、彼の焦燥感は更に募っていく。

 

 それもこれも、彼を追い詰める事態を彼自身が起こしてしまったのだ。

 

 具体的に言えば、初日のあの日に………。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ちょっと、よろしくて?」

「へ?」

 

 教室で一人参考書………本来なら入学前にみるべきものを、穴が開くかと思わんばかりにガン見していた一夏に声をかける少女がいた。

 

 僅かにロールがかった鮮やかな金髪と白人特有の透き通ったブルーの瞳が釣りあがりながら一夏を射抜く。

 このいかにも『私は高貴の生まれです。下々のそこの人、頭を地面に擦り付けながら私を拝みなさい』というオーラを発している少女の名は、セシリア・オルコット。

 イギリスのIS代表候補生にして入試主席の才女である。

 

「……………」

 

 だが、そんなこと欠片ほども知らない一夏にとってしてみれば、はじめて戦闘機を見た秘境の原住民のような怪訝な表情になって、対応してしまったのは仕方のないことなのかもしれない。

 目の前の少女にはその態度がどうにも癇に障ったようである。

 

「聞いています?お返事は!?」

「あ、ああ。聞いてるけど………何か用か?」

 

 一夏がそう答えると、目の前の女子はかなりわざとらしく声を上げた。

 

「まあ!なんですの、そのお返事?わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

「……………」

 

 押し黙る一夏、彼は正直この手のタイプは苦手であった。

 昨今、ISという超兵器の登場により、女性はかなり優遇されていた。

 ISは原則、女性しか操縦できないとされているため、その優遇のされ方は半端ではなく、逆に男など街中で声を掛けただけで犯罪者扱いされてしまうなどということすら起こる始末。

 ISを使える=IS操縦者は偉い=IS操縦者は原則女性。

 この構図を持って理不尽な横暴を働く女性が少なからず存在することを、一夏は憤りを覚えることがあった。

 姉の千冬は確かに横暴な面があるが、理不尽な行いは………たまにする時もあるが、だが、人間としてやはり間違いは間違いなのだ。

 

「悪いな、俺、君が誰か知らなくて」

 

 それに、今の一夏は膨大なIS関連の知識を短時間で頭の中に叩き込まなければならないうえに、想像もしていなかった姉が担任だったということのほうが100倍ショッキキングだったため、他の人間の自己紹介をすっかり聞き流していたのだ。

 それに朝からずっと無人な隣の席の存在も気になって仕方ない。SHR終了後に姉にそのことを聞いたときには、何も答えないまま仁王立ちして座席に向かって殺気を飛ばしている姉にそれ以上なにも言えずに終わってしまったが………。

 

 よってセシリアに割く意識の度合いが限りなく皆無になっていたのだが、それがいけなかったのかもしれない。

 

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを?」

「あ、質問いいか?」

「ふん、下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

「代表候補生って、何?」

 

 こけた。

 その瞬間クラスメイトの何人かが盛大にこけた。どうやらかなりの人数に聞き耳を立てられていたようだ。

 目の前のセシリアにいたっては、ものすごい剣幕で額に三本ほど血管が浮き出てもおかしくないほどの怒りに燃えていた。

 

「あ、あ、あ………」

「『あ』?」

「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」

「おう。知らん」

「……………………」

 

 胸を張って己の世間知らずを全面的に誇る一夏に、セシリアは怒りが脳内を一周して逆に冷静さを取り戻し、心底頭の痛い返答をしてくれた目の前の一夏に、憐れみすら秘めた深い深い愚痴を話し出す。

 

「信じられません………信じられませんわ!! 極東の島国というのは、ここまで未開の地なのかしら?ここまで文明人の常識が通じないなんて………アレなのでしょうか?実はまだテレビが普及していないとか、ラジオが最新文明機器だとか、そのレベルの…」

「日本は昭和初期から遥かに成長してるよ………それよりも早く座らなくてもいいのか?」

 

 目の前ですでに着席している一夏を見て、怪訝な表情になるセシリア。みれば他の生徒もすでに着席を済ませており、視線をさらに教卓のほうにむけると困った顔の山田先生がこちらを心配そうに見つめていた。彼女だけが授業開始のチャイムに気がついていなかったのだった。

 

「セシリア・オルコット」

 

 そこへ凛とした声でセシリアのフルネームを言う千冬。しかもすでに自分の隣にスタンバっている始末である。

 セシリアが何か言い訳をしようと必死に思考を張り巡らせるが、だが、彼女が何か言う暇もなく、満面な笑みを浮かべた千冬の出席簿がセシリアの頭部を華麗に打ち抜くのであった。

 

 

 

 

 

「ではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 

 三時間目までとは違い、教壇の上には山田ではなく千冬が立っていた。よほど重要なことなのか、同じ教員の山田までノートを取り出してしっかりメモしようと気合いを入れている。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

 ふと、思い出したように千冬が言う。

 クラス代表とは生徒会の開く会議や委員会への出席………いわばクラス長のようなものであり、クラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものである。と山田先生が教師らしい表情で説明してくれたのを聞いた一夏は、とりあえずそのクラス代表には自分は選ばれることはないから安心だ、と暢気に構えていた。

 

「(ISの知識無いし、男の俺が代表ってことは………)」

「はい! 織斑君を推薦します!」

「(そうかそうか、俺以外にもこのクラスに織斑がいるのか…)」

「私もそれがいいと思います!」

 

 暢気にうんうんとうなづく一夏………だったが、ふとあることに気がつく。自分以外に織斑っていたっけ?

 

「では候補者は織斑一夏と………他にはいないのか?自薦他薦は問わんぞ」

「俺!?」

 

 興奮のあまり席から立ち上がる一夏。千冬はそんな一夏を冷たい視線で射抜く。

 

「織斑、邪魔だ。座れ。さて、他にいないようなら無投票当選だぞ?」

「ちょ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな・」

「自薦他薦は問わんと言った。そして他薦された者に拒否権などない。選ばれた以上覚悟をしろ」

「い、いやでも………」

 

 まだ反論を続けようとした一夏を、突然甲高い声が遮った。

 

「待ってください! 納得ができませんわ!!」

 

 救う神が現れた。と感動した一夏が振り返る。

 バンッと机をたたいて立ち上がったセシリアは、感情のまま言葉を続ける。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!」

 

 前言撤回。どうやら彼女は自分を救うつもりはアリの頭ほどもないようだと一夏は心の中で呟く。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

 追加。どうやら自分は人間から猿に格下げされたようである。と心の中で呟く一夏。

 

「いいですか!? クラス代表とは実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 

 興奮冷めやらぬ―――というか、ますますエンジンが暖まってきたセシリアは怒涛の剣幕で言葉を荒げようとするが、その時、それを聞き流していた千冬がボソリと呟いた。

 

「実力だけが基準なら、ここにいないあの小僧(アホタレ)が代表なのだろうが………まあ、アイツはする気はないだろうな」

「そう、実力だけなら小僧(アホタレ)であるわたくしが………って、はい?」

「……………気にするな」

 

 皆が気にかかることを発言しながらも、千冬はセシリアと一夏の双方を交互に見つめると、とある提案をする。

 

「とりあえず織斑、オルコット。お前達は試合をしろ」

「「試合?」」

 

そうだ。と短く言い放つ千冬。決闘でどちらがクラス代表に相応しいか決めろ。という意味であった。

 

「一週間後の月曜の放課後。場所は第三アリーナで行う。両名はそれぞれ準備をしておくように。以上だ!」

 

 「うん」とも「はい」とも「YES」とも言ってないのに勝手に決定してしまった………と嘆く一夏であったが、そこは持ち前のポジティブ精神で乗り切ってみせる。

 

「(一週間あれば基礎ぐらいはマスターできるだろうし、そんなに難しいものでもないだろう。入試の時は一発で動いたし、まあなんとかなるか)」

「逃げたいのであれば構いませんわよ?」

「誰が逃げるか、下手な挑発してくれるんじゃねぇー! 下手なのは自分の国の料理だけにしてろ!」

 

 とりあえず挑発には挑発でかえしてみる一夏。だが、その一言がいけなかったのかもしれない。

 本日最高点の沸点にまで達したセシリアが、鬼の形相で一夏を睨みつける。

 

「言いましたわね! わたくしの祖国を侮辱しましたわね!?いいですわ!!きっちりかっちりみっちりと叩き潰してあげますわよ!」

「やる気がでて結構なことだ………では授業を始める」

 

 両者の話が一応の決着がついたところで、千冬が改めて授業開始の合図をするのであった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 そして今に至るのだが、最早状況はかなり退っ引きならないぐらいに絶望的である。

 さすがに見通しが甘すぎたことにようやく気がついた一夏が、心の中でこの状況を助けてくれる人物を必死に検索してみる………が、唯一の希望はすでに潰えているのだ。

 

「(せめて、誰かコーチでもしてくれたら!)」

 

 ちなみにこの考えのもとに千冬に真っ先に頼みに言ったものの、フェアじゃないと一刀両断されてしまった。そもそも素人対代表候補生という時点で、フェアも何もあったもんじゃない気がするんだけれども…………。 

 

「ちくしょ…………」

 

 このままでは自分はクラスの笑い者になってしまう。それ以上に、男たる者強くあるべし、という自分の信念が負けてしまうことになる。

 一夏が再び机に突っ伏しようとした時、授業の開始を告げるチャイムとともに、教室のドアが開かれ、三人の人間が教室に入ってくる。

 

 自分の受け持つ生徒と変わらないやや低めの身長と、それをより強調するかのようなだぼっとした服装と、サイズが合っておらず若干ずれた黒斑眼鏡をかけているショートヘアの女性、ガチガチに緊張している山田(やまだ)真耶(まや)を先頭に、千冬とそして一人の男子が入ってきたのだった。一夏と同じ年頃の黒髪の少年でありながらも、前を全開にして赤いランニングが丸出しになっており、腕も両方肘の上まで捲り上げられており、今にも爆発しそうなぐらいに攻撃的なオーラが全身から迸っていた。

 

「火鳥、皆に挨拶をしろ」

 

 皆に静寂が漂う中、千冬が言葉を発した時、彼から凄まじい殺気が千冬に向かって放たれた。

 

 ―――炎のような、相手を焼き殺しかねない純正の殺意―――

 

 だがしかし、そこは天下のブリュンヒルデ。常時ならば失神しかねないほどの殺気にも、心拍数一つ上げず、華麗に笑顔で受け流してみせる。

 

 しばらくの沈黙が続く中、おもむろに男子生徒は硬直して身動き一つとれないでいる教室の生徒と副担任に、言い放った。

 

 

 

 

 

「俺の名前は火鳥 陽太だ。……………わかったなら、誰も話し掛けてくるな」

 

 

 

 

 

 教室内が一瞬で凍りついた。

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず、一波乱ある幕開けになった新章。

千冬の真意とは? 対オーガ・コア部隊とは? シャルを本当に人質にしたのか?


そして、姉に殺気全開の陽太と、一夏との初遭遇は!?


 次回は、にじファンでも賛否両論の回です


 


 PS タグを追加します。実はタグの中に今後のネタバレが?



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。