IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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さて、にじファンではもっとも賛否両論だったこの回!

エクストリームブチギレ陽太の明日は!?

影が薄いぜ原作主人公の安否は!?

そして、ハーメルンで投稿の際に、大幅に設定が追加された太陽の翼のもう一人のヒロインさんはいかに!?

では、感想のほう待ってます!



八つ当たり

 

 

 

 陽太の衝撃の自己紹介に凍り付く教室内。かつてここまでコミュニケーションを徹底して拒んだ人間との接し方なぞ知る由もない生徒達は、この謎の不良系男子生徒相手にどういうリアクションを取ればいいのか判断できず、困惑してしまう。

 だが、陽太にしてみれば、隣にいる千冬はかつての恩師ではなく、彼女の言うことを聞くようにと自分に首輪をつけようとしている女であり、周囲の人間は単なる彼女の家畜にしか映っていないのだ。そんな奴等と仲良くできるはずもなく、そして何よりも話しかけられるのも腹立たしいのだ。

 

「火鳥………」

「んだよ?」

「無理に合わせろとは言わんが、一年間共に生活する者たちに向けての挨拶としては、少々『アレ』過ぎるな」

「黙ってろクソッタレ!………一年も仲良しこよしと生活する気なんざ、こっちには更々ねぇーんだよ。なんなら今すぐアンタをぶん殴って退学にでもされてやろうか?」

 

 さすがに見かねた千冬が注意するが、陽太はその言葉を欝としそうに辛辣な言葉で切り捨ててしまう。まるで狼が猟師を威嚇するように、陽太の目には明確な敵意と怒りが浮かんでいた。

 

「貴様っ!、教官に対してその態度は何だ!!」

「?」

 

 そんな陽太の千冬に対して攻撃的な態度に、堂々と文句を言い出す生徒がいた。

 小柄な体型ながら輝くような銀髪は白色に近く、長く腰まで下ろしているというよりも、単に伸ばしっぱなしにしているだけであり、年頃の娘らしく美容院に行くという選択肢もないのだろう。

 その証拠に、左目にされた黒眼帯は、明らかに医療用のものではなく、生粋の傭兵がしそうな頑丈さを優先させたものであり、彼女が発している気配は紛れもない「軍人」そのものであった。

 

 彼女の名はラウラ・ボーデヴィッヒ。

 ドイツの代表候補生であり、千冬に敬愛を超えた一種の信仰心すら抱いている教え子の一人であった。

 

「ラウラ………」

「ハッ!」

「ここでは教官はよせ。そしてこの学園ではおまえは一般生徒だ、私のことは織斑先生と呼べ」

「ハッ!」

「その軍隊口調も………まあ、直せと言ってもそれだけは治らんか……」

「ハッ!」

 

 いちいち丁寧に敬礼をしながら返事をする少女に、微笑み返す千冬であったが、そんな彼女の様子に陽太は侮蔑を多分に含んだ野次を飛ばすのであった。

 

「ほう………随分飼いならしてんじゃねぇーすっか。捨て駒にするために洗脳でもしましたか?」

『!?』

 

 トドメに『立派な飼い犬ちゃんだな』といらぬ言葉までつける始末。

 千冬はまったく表情を変えることがなかったが、その言葉に教室内では陽太に対して若干の反感が生まれ、そしてラウラと今まで事態に着いていけず呆然と事の成り行きを見続けていた一夏を激怒させることになる。

 

「てめぇ!」

「キサマッ!!」

 

 だが憤激して席を立ち上がる一夏とラウラを全く相手にせず二人を無視し、陽太は鞄を無人の席に放り投げると今入ってきたにも関わらず教室を出て行こうとする。

 

「どこへ行く気だ小僧?」

「学園から出てったりしねぇーよ。だがそれ以外は好きにさせてもらう………」

 

 そして千冬の横を素通りして教室を出て行く陽太………普通ならここで千冬のお怒りの一撃でも繰り出される場面なのだが、なぜだか千冬は止める気配すらない。クラス内がその様子に若干どよめいた

 

「一つこの学校に来て判ったことがある………アンタを腐らせるには数年間は十分な時間だったな!」

「……………そうか」

 

 横を通り抜ける際、陽太のその心無いとも取れる言葉に短く力無く返事を返す千冬。

 彼女のそんな姿を見た一夏とラウラは、怒りのあまり後を追いかけようとする。何よりも尊敬する姉であり恩師である彼女を完膚なきまで冒涜する不届き者をそのままには出来るか!と、仲良く教室を飛び出そうとした二人であったが、それを千冬自らが静止する。

 

「お前たちまでどこへ行く気だ?」

「いや………アイツを!」

「そこを退いてください教官!!」

「今は授業中だ。席に着け二人とも!」

 

 強い口調で言われては引き下がるしかなく、すごすごと自分の席に着席する二人。

 クラスの中の空気が全体的に淀んでいる中、千冬はいつも通りの鉄火面のまま教科書を開くとつつがなく授業を開始するのだった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 その後、大したハプニングも無く授業は進み、昼休みを告げるチャイムが鳴ると千冬の口から授業終了の言葉告げられると、生徒達は昼食を取るために席を離れていく。

 一夏もまた同じように教科書をしまって昼食を取ろうと思っていたのだが、そこへ千冬が声をかけてくる。

 

「織斑、少し時間はいいか?」

「あ、千冬ねr・」

 

 思わずいつも通り家族で呼び合う名で返事をする一夏であったが、そこへすかさず千冬の出席簿が飛んでくる。

 

「ぐおぅっ!」

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

 頭を叩かれ痛みでのけぞる一夏の姿を見た千冬は、深い溜息を漏らす。何度も校内では姉と弟ではなく教師と生徒の関係だと言い聞かせたはずなのだが、やはり一夏にはすぐにはそのような対応は無理そうであった。

 

「その分だと、一週間後はオルコットに血達磨にされそうだな」

「そ、それは………」

「………手立てがないわけではない」

 

 そこに千冬から救いの手とも呼べる提案が出てきたのだった。彼女の言葉に一瞬とてもいい笑顔に変化する一夏。

 

「千冬姉が教えてくれんのか!?」

「織斑先生だ、馬鹿者」

「グハッ!」←(二発目)

「落ち着け、織斑………前にも言ったと思うが、教員である私がお前に肩入れするのは不公平だ………だが、他の生徒に教えを乞うのはルール違反ではない。ボーデヴィッヒはどうだ?」

 

 その名前が出た瞬間、一夏は視線を外してバツの悪そうな顔になってしまう。そのことに怪訝な表情を浮かべる千冬。

 

「どうした?」

「いや………その……実は既に頼みに行ったんだけどさ…」

 

 そう、ラウラ・ボーデヴィッヒには初日に頼み込みに行ったのだ。だが………。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 決闘が決まった日の放課後。

 どうするべきか頭を抱える一夏を見兼ねたクラスメートの一人が、ラウラのことを教えてくれたのだった。

 

「ボーデヴィッヒさんってドイツの代表候補生だから、話だけでも聞いてみればどうかしら?」

 

 そいつはありがたい!、早速コーチをして貰おう。そしてあわよくば友達にもなってもらうか!!

 意気揚々と目を閉じ腕を組んで瞑想するように静かに席に座っているラウラに話しかけにいく一夏。

 

「よおっ!」

「……………」

 

 しかし、彼女からは一切の返事が返ってくることがなく、微動だにしない彼女の様子に、一夏は若干の不安を覚え、彼女の肩に手を置く。

 

「ひょっとして………寝てるのか?」

「!!」

 

 だが次の瞬間、肩に触れた一夏の手を勢いよく弾くラウラ。そして彼女は眼をキリッと開くと、鋭い眼光で一夏を睨みつける。

 

「……………『織斑一夏』!!」

「!?………なんで、俺の名前を…」

 

 自分の名前をすでに知られていたことに驚く一夏。だが今朝自己紹介をしたばかりなのを思い出すと、笑顔を取り戻して、ラウラに尚も話しかけ続けるのであった。

 

「そういやHRの時に全員名前を言ってたよな………改めて、俺の名・」

「ふざけるなよ!!」

 

 一夏のそんな様子がいたく気に入らなかったのか、怒り全開で一夏を睨みつけるラウラは席を急に立ち上がると、彼の前に立つ。

 

「???」

「……………」

 

 何をやろうと言うのかさっぱり見当がつかない一夏が首を傾げるが、その態度が尚更の苛立ちを募らせたのか、ラウラの左手を高速で振りぬかせるのであった。

 

 バシンッ!

 

「う?」

「……………」

 

 いきなり、無駄のない平手打ちを喰らって目をぱちくりとする一夏………周囲のクラスメート達も騒ぎに気がついたのか、騒然となる者、呆然とことの成行きを見守る者などが、二人のやり取りを見つめる。

 

「いきなり何しやがる!」

「フンッ!!」

 

 怒る一夏の事を無視しながらラウラは席から鞄を取り出すと、教室から出て行こうとドアの方へと向かう。

 

「おい、ちょっと待てよ!!」

 

 なんで殴られたのかちんぷんかんぶんま状態の一夏がラウラに怒鳴りつけるが、そんな彼に向って鋭い視線しながら振り向くと、腹の底から怒りを込めた言葉を言い放つ。

 

「私は認めない! 貴様があの人の弟であるなど、認めるものか!」

 

 その言葉にありったけの怒りが込められていたこと。なぜ殴られたのか理由がいまいちはっきりしない一夏であったが、それだけははっきりと感じ取っていた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ってことがあってよ………それから話しかけられねぇーんだ」

「………(あの馬鹿め)」

 

 自身が育てた弟子に心の中で悪態をつく千冬。前々から思っていたことであるが、ラウラは自分を崇高に崇めすぎ、自身の視野が狭まっていることに気が付いていないのだ。

 織斑千冬はあくまで一人の人間にしかすぎず、そしてラウラ・ボーデヴィッヒもまた人間でしかない。

 

 だからこそ、『あの出来事』は千冬のミスでしかなく、一夏には何も関係ないというのに………。

 

 ハァともう一度溜息をつくと、千冬は仕方ないと呟くと突然人差し指を上に差す。その行動に何の意味があるのだろうと首をかしげる一夏に、彼女はニヤッとした表情で彼にもう一つの提案をする。

 

「ならば仕方ない………よし、今ならばおそらく屋上の貯水タンクの上にいるだろう」

「はっ?」

「だからお前に指導できる人間がもう一人いる………そいつに頼みに行けと言っているんだ」

「だから、それって誰のことだよ?」

 

 嫌な予感を覚える一夏であったが、次の瞬間、彼の名前が出てきたのに驚きと嫌悪感が湧き立ち、思わず千冬の正気を疑ってしまう。

 

「決まっているだろう………火鳥 陽太だ」

「!!?………ア、アイツ!?」

 

一夏にしてみれば、ラウラよりも尚話しかけたくはない人物の名前を出され、顔をしかめる。

 

「嫌だ! てか絶対ムリッ!」

「なぜ?」

「そ、それは………」

「奴は強い………おそらくは既に・・・に匹敵するだろう」

「えっ?」

 

 肝心な部分を聞き逃し、もう一度聞きなおそうする一夏であったが、その瞬間、千冬の手が彼の顔をガシッと掴み、万力の如き力で締め上げてくる。その痛みに仰け反る一夏。

 

「イダダダダダダダッ!! く、食い込んでる!!」

「ごちゃごちゃ言ってないで早く頼みに行け………それが今のお前の『役目』だ」

「だ、だけどよ!」

 

 姉である千冬をあそこまで馬鹿にした男に、頭を下げられるかという反発心がある。それ抜きにしても先程の態度を思い出す限り、とても自分から話しかけたいタイプの人間ではない。

 そんな一夏の心境を見抜いているのか、それとも最初から気にしていないのか、千冬は手を離すと腕を組んで、毅然とした態度で言い放つ。

 

「今のお前はあらゆる意味で皆から遅れているのだ。ならば四の五の言っている暇などないはずだぞ?」

「うっ………」

「まだごたごた言うのであれば、口の会話から、拳を使った対話に切り替えてやっても構わんぞ?」

 

 ポキポキと拳を鳴らす千冬の姿を見た一夏は、即座に背筋を伸ばして敬礼すると、全速力で教室から走りだしてしまう。

 その後ろ姿を見送りながら、彼女は振り返ると、先程から『話しかけてこよう』としているポニーテールの少女に視線を向ける。

 

「どうした、篠ノ之?」

「あ、あの………申し訳ありません織斑先生!」

 

 一夏と違い、違和感抜きに先生と呼べる少女に微笑み返すと、千冬は箒との話を続ける。

 

「面倒ならば自分が見る………そう言いたかったのか?」

「あ! いえ!!………そのようなことはありません!!」

 

 それだけ言い残すと、そそくさと教室を出て行こうとする箒に対し、千冬は思い出したかのように世間話を始める。

 

「少し前に教員の間で話題になっていたぞ………日本の代表候補生の内定を取り消したそうだな」

「!!」

 

 半ば決まっていた候補生の地位を自分から破棄したことを知られていたことに、箒は驚きの表情を隠せずにいた。

 

「これでもIS学園の教師だからな。その手の話題には敏感なんだ」

「………そうなのですか」

「……………姉の名前で決まった地位はそんなに気に入らんか?」

「……………違います」

 

 声のトーンを落としながらもはっきりと返事を返した少女は、力強く覚悟を決めた瞳で、千冬を見返し、はっきりと宣言する。

 

「私の名前は表舞台には必要ないだけです。私はあくまでも悪鬼を斬り裂く『剣』………栄華や名声など不釣合いなだけです」

「………二年前の『あの事故』……その話も聞いている………だがまさか、束がお前にそんなことまでさせていたなど…」

「姉さんは関係ない!!」

 

 つい怒鳴り返してしまったことに、罪悪感を覚えた箒は深く頭を下げる。

 自分の『親友の妹』であるこの娘は、幼きころから永遠と付き纏う『篠ノ之 束』という名前に振り回されている者の一人なのだ。

 何をやっても、比較対象に姉が飛び出し、常に評価はそちらの方を高くする。

 『さすが篠ノ之束の妹だ』『篠ノ之束の妹なのだから』『篠ノ之束の妹ならば』『やはり姉の方が優秀か』………世間にとって篠ノ之 箒という存在は常に、束の影でしかないのだ。

 

 そしてそんな少女が選んだ道は、更に険しく過酷なものであった。その過酷な道の全容を知っているだけに、尚更千冬は箒の行く末を危惧している。

 まるで死に急いでいるようだ、と………。

 

「本来なら、『今のお前』の役目は私がするべきことなのだが………」

「織斑先生は関係ありませんよ………総ては篠ノ之 箒が選んだ道。ですが……」

「………小僧がそんなに気になるのか?」

 

 思わず言い当てられて、若干驚いた箒であったが、すぐさま自嘲気味の笑顔を浮かべると、千冬に問いかけるのであった。 

 

「………あの男………姉さんが選んだ男『火鳥 陽太』………天才(姉)が認める天賦の防人(操縦者)にして、私よりも早く『悪鬼』を狩る役目に選ばれた男……」

 

 箒が陽太の存在について知っていたことに、僅かに驚く千冬。よもや束が陽太のことを彼女に伝えているとは………。

 だが、箒から滲み出ている感情は、一夏とは違う意味で彼に対しての嫌悪感が含まれていた。

 

「姉さんが話していましたよ………あの男がいれば安心だと」

「……………」

「さぞ優秀なのでしょうね………私と違って」

 

 何年も直に会っていない姉の行動に対して、箒は自分よりも陽太を選んだと思っているのだろうか?

 

「織斑先生も、そう思っているのでしょう?………だからあの男の行動に口出ししないのでは?」

「篠ノ之………私をそんな人間だと思っているのか?」

 

 厭味が含まれた語尾に、千冬が僅かな怒気を込めて箒を戒める。その様子に気押される箒。

 

「まあいい………だが、早く追いかけた方がいいぞ?」

「はい?」

「今の火鳥と織斑が落ち着いて話し合えるわけがない………間違いなく喧嘩に発展するだろう。いや、喧嘩になればいいがな?」

 

 そのセリフに顔色を変えてその場を走りだす箒。そんな箒の後ろ姿を見つめ、自分で煽っておきながら、千冬は二人の揉め事にあえて首を突っ込まぬことを決めていた。

 

 今、彼らに必要なのは、問題なのだ。ぶつかり合わずに心と心が向き合うことなど有り得はしない。

 

 自分が幼き日より見てきた弟と少年………真逆の人生を歩んできた二人の少年。

 互いにないものを持ち合う彼らだからこそ、馴れ合いではない、本物の親友同士になれるのではないのだろうか?

 

 密かな期待と、『役目を押し付けた』負い目のせめぎ合いを隠すように、厳しい視線を彼女は、教室から見える窓にむけるのだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「そ〜ら〜は、あおい〜な、おおき〜いな〜………と」

 

 一方、絶賛授業ボイコット中の陽太は屋上の貯水タンクの上で昼寝を決め込むことにした。時々雲が掛かるが今日は一日中晴れの様相であり、気温もまずまず………こんな日に屋内にいるのは、彼の性分が許さないのだ。

 

「………っくしょ!」

 

 腹が立ってしかたない。

 そもそも、学生生活など今さら自分には必要ないというのに、しかも本命の対オーガコア部隊を学生で作れ? 素人同然のおもちゃの兵隊ではないか!!

 言うことが聞けないならば、シャルを人質にとるぞ? 

 

 ふざけるな、という怒りと、そんなセコい真似を口に出したことはないが尊敬する師匠の千冬が、よりにもよって自分にしてこようとは……。

 裏切られたという気持ちで、胸が一杯になり、彼は思わず貯水タンクを思いっきり殴りつけ、その振動は、タンクを大いに震わせた。

 

「おわっ!」

 

 そこに誰かの驚く声が聞こえてきたかと思えば、何かが地面に落ちたような音も聞こえてきたため、陽太は不機嫌そうな表情でタンクの上から屋上の様子を覗き込む。

 

「いてててぇ………」

 

 タンクに登っている最中に下に落っこちたのか、腰を擦りながら寝転がっている一夏の姿があった。

 

「…………何してんだ、お前?」

 

 不機嫌そうな表情を崩さないまま、さして興味なさげに陽太が一夏に話かけると、一夏は腕を振り上げ、抗議の声をあげる。

 

「てめぇがいきなりびびらせるから、ビックリして落っちまったんだよ!」

「……………」

 

 しばし無言で一夏を見下ろしていた陽太であったが、おもむろに興味が失せたかのように引っ込むと、ポケットからタバコを取り出し、火を着け煙を吹かすと、再び寝転がって昼寝をしようと、瞼を閉じる。

 

「ちょっと待てよ! てか寝るな! 話聞け! そしてなによりも煙草吸うんじゃねぇ! お前学生だろうが!!」

「…………黙れ。そして海外では15歳から喫煙は義務化されている」

 

 

 若干、怒気を孕んだ低い声で言い放たれ、怖じ気づきそうになる一夏であったが、直ぐ様気を取り直して、努めて明るい感じで話しかけた。

 

「嘘付け! そんな法律あるならこの世は喫煙者パラダイス……って、いや、そんなのはどうでもよくて………あのさ、俺の名前は織斑一夏。そんで早速で悪いんだけど火鳥にISの操縦の仕方を教えてほしいんだ!」

「………織斑?」

「そうそう!………千冬姉……じゃなかった、織斑先生に聞いたんだけど、火鳥って凄腕なんだろ!、だからさ……」

 

 一人で話を続ける一夏を無視し、陽太はいきなり起き上がると、貯水タンクの上から飛び降りる。3m近い高さを飛び降りたにも拘らず、まるで紙飛行機が着陸したようにふわりと屋上に着地する姿を見た一夏は、一瞬だけだが見とれてしまったのだった。

 鳥みたいに様になっている、と………。

 

「あ、いや、待てよ!」

 

 だが、自分が何を頼みにきたのかを思い出し、一夏は急いで貯水タンクを降りると、歩く陽太を追い抜き、彼の前に回り込む。

 

「頼む! この通りだ!!」

「……………」

「俺、誰かを守れるぐらいに強くなりたいんだ! 同じ男の火鳥なら判ってくれるよな!!」

「…………そうか、確かに判ったよ」

 

 その言葉は、了解の意味だと思い、一夏は喜びの笑みを浮かべて顔をあげる。そして陽太も満面の笑みを浮かべて………。

 

「だけどな…………俺は最初に言ったぞ、話しかけるなと」

 

 いきなり陽太の拳が一夏の腹部にめり込む。げふう、と一夏は前のめりになるが、そこへ陽太が容赦のない膝を顎にぶちこんで、彼の上半身を無理やりのけぞらせた。

 

「おっと………寝るにはまだ早いぜ、ボク?」

 

 言うと同時に、一夏の襟を掴むと、彼の顔面目掛けてヘッドバッドをかまし、ぶふう!と唸りながら、鼻血を吹き出して、一夏は地面に崩れ落ちてしまった。

 

「わかったなら、二度と俺に声をかけてくるな」

 

 床に寝転がってしまった一夏に吐き捨てるように言い放つと、興味が失せたかのように屋上を後にしよう歩き出す…………筈だった。

 

「お…………オイ、待てよ」

 

 鼻血を袖で拭いながら起き上がる一夏。流石に頭にきたのか、拳を握り締め、腹に溜まった怒りが吹き出しそうな表情で睨み付ける。

 対する陽太は、火の着いたタバコのカスを落とすと、再度咥えなおして、一夏を見下すような笑みで挑発してみせる。

 

「ほう……頑丈だな」

「よくもやりやがったな! 人が下手に出てりゃいい気になりやがって!!」

「頼んでもないのに下手に出られてもこっちが困る。まあ、アレだ」

「?」

「お前………才能無さそうだから、てっとり早く、根性がひん曲がって挙句に腐り果てちまった、お前の自慢の『お姉ちゃん』に守ってもらうほうが、無難じゃない?」

「!!」

 

 その一言が引き金になり、今度は一夏のほうが気合の入った大声を上げながら陽太に殴りかかる。

 ISのコーチだとか、仲良くなろうとか、もうそんなこと関係ない。こんなにムカついたのは初めてであり、そしてこんなにも腹立たしい気持ちになったのも初めての一夏は、自分を常に守ってくれていた尊敬する『姉』の名誉を守るために、この腹立たしいクソ馬鹿野郎をぶっ飛ばそうとフルスイングで拳を放つ。

 彼のムカつく顔をぶん殴ろうと拳を振り抜くが、紙一重でそれを避けられ、二撃、三撃と大振りのパンチを繰り出すが、そのすべてを余裕綽々と避けられてしまう。

 頭に血が昇ったままでなおも果敢に殴りかかってみる一夏であったが、陽太は気合の入った一夏の拳を難なく受け止めると、同時に彼の足を払い、勢いをそのまま投げに利用して、彼を屋上のコンクリートの上に叩き付けた。

 

「がはっ!」

 

 肺の中にある空気が衝撃で全部排出され、代わりの空気を吸い込もうとした矢先、一夏の鳩尾に強烈な何かがめり込み、声にならない激痛が全身に走る。

 陽太は冷徹な表情で彼を見下ろしながら、一夏の腹をつま先で蹴り続ける。実力が違う。場数が違う。そして相手に対して遠慮の仕方も全く違う。

 一夏にしても、幼少時には多少の武術の心得も千冬から伝授されているが、陽太のそれは卓越した才能と身体能力を実戦で鍛え磨きぬいた、本物の『牙』なのだ。

 一撃、二撃、三撃と重い音が屋上に響く中、まったくもって一方的な陽太の一夏に対する暴力を止める声が屋上に響き渡った。

 

「やめろぉっーー!!」

 

 ドアを勢いよく開け、箒が二人の間に割って入ってくる。

 うずくまり咳き込み一夏を庇うように両手を広げて立ち塞がると、まるで親の敵を見つけたかのような鋭い眼で陽太を睨み付けながら、彼女は吠えた。

 

「キサマッ!!………一夏になんてことを!?」

「……………」

 

 いきなり乱入してきた箒に面食らったのか、驚きの表情を浮かべて立ち尽くす陽太。

 

「ガハッ! ゴホッ!」

 

 その時、腹を抱えたままなんとか立ち上がろうとする一夏の姿を見た箒は、彼を労るように寄り添う。

 

「一夏、大丈夫か! 今すぐ保健室に行こう」

「ほ……うき?」

 

 学園に入学して以来口も聞いてくれなかった幼馴染が突然、自分を心配して優しい言葉を掛けてくれたことに目を丸くする一夏。対してそんな箒の姿が、故郷の『大切な女の子』とダブって見えた陽太は、あまりにも耐え難く映り、彼は二人に背を向けると屋上の入り口に向かって歩き出そうとする。

 

「貴様のような狼藉者が、なぜ防人(操縦者)に選ばれたというのだ!?」

「何の話かわからんな」

 

 敵意を込めた眼で陽太を睨む箒であったが、そんな彼女を押し退け、一夏が立ち上がって陽太に追い縋ろうとする。

 

 

「待て…………待てよ、テメェ!」

 

 そして、一方的にやられて謝罪もないままに済ませられるかと、一夏が憤りながらなんとか陽太を振り向かせようと叫んだ。

 

「…………織斑 一夏」

「?」

「テメェには才能はない。そうやって守られてるのがお似合いだな」

「!!」

 

 足を止め、振り返った陽太が発した言葉が、深く一夏に突き刺さる。

 

 あまりに立場と考え方が違いすぎ、まるで深い谷底の両岸同士にいるような二人の少年………。

 

 そして彼(陽太)は再び歩きだすと、今度こそ振り返ることなく、屋上を後にするのだった。 

 

 

 

 

 陽太が屋上から階段で下の階に降りる途中、腕を組んだまま無言で壁に寄り添うラウラと遭遇する。

 

「……………」

「……………火鳥」

 

 ラウラを無視して通りすぎようとする陽太であったが、ラウラはそんな彼にむしろ友好的な笑みを浮かべ話しかける。

 

「教官を非難したことは言語道断で許しがたいことではあるが、だがこの学園には浮わついたメスと腹立たしい男しかいないと思っていたが、どうやら貴様は少しばかり認めることができそうだな」

「…………黙ってろ」

 

 陽太の口から出た言葉に若干ながら眉をつり上げるラウラであったが、すぐさま平常心を取り戻すと、直ぐ様彼を追い抜き、通りすぎ様に嫌みとも友好的とも取れる言葉を言い残す。

 

「強さの絶対基準は『力』………お前ならば理解できているはずだ」

 

 陽太にそれだけを言い残すと、ラウラは振り返ることなくその場を後にする。

 

 一人取り残された陽太であったが、彼の脳裏には、ラウラの言葉ではなく、先ほど一夏に暴力を振るっていた時に、危険を省みずに割って入ってきた箒の姿がこびりついて離れずにいた。

 

 ―――重なる箒とシャルの姿―――

 

 あの場にシャルがいれば、あんな姿をさらしていた自分をどう思うのだろう?

 責めるのか、失望するのか、それとも、悲しんで、また泣くのだろうか?

 

「何を………何をしてるんだ、こんなところで……」

 

 シャルに嘘を付いて、シャルを置き去りにした結果が、記憶にもない母国である東の島国に押し込められた挙げ句に、素人に八つ当たりの暴力を振るう始末…………。

 

 

 行き場のない怒りと苛立ちを込めた拳を握り締め、陽太は誰もいない階段で一人立ち尽くすことしか出来ずにいたのだった………。

 

 

 

 

 

 




 すごいぜ! 陽太(どいつ)も女子達(こいつ)も厨二だらけだ!

 さて、今回設定が大幅に手直しされた箒さん。どうやら話からしてすでに『オーガ・コア』についてご存知な感じ?

 そして口調が原作よりもだいぶ武士になってきた箒さん。

 ちなみに彼女のISは魔改造度Sレベルで、原作箒が大好き!!という人がいらっしゃったら、先に謝っておきます

 大変申し訳ない! だが後悔してない!! 俺は!!www
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