さあ、陽太VSオーガコアとの第二ラウンド!
そして、IS学園に未曾有の「脅威」が降り立ちます
ではお楽しみください。
―――陽太がオーガコア搭載ISとの戦闘を始めたとほぼ同時刻・都内某所―――
豪華な調度品が並べられたとても静かな最上階のスィートルームの一室から、シャワーの音が聞こえてくる。
この部屋を借りるに当たって、『彼女』は部屋どころかその階全てを貸し切っていた。
それは彼女がうざったいホテルにいる人間とのやり取りを避けたいためだ。
全てを揃えるには軽く億を超えるであろう部屋の調度品の中においても、並ぶものがないほどに彼女の肢体は『芸術』と呼べるほどに完成されたものであった。
女性にしてはかなり大きめの肩幅に、限りなくマッチョに近い筋肉質で焼けた肌色をしていながら極め細やかさを失っておらず、腰まで伸びた溶かされた白金(プラチナ)そのもの髪は高貴なる輝きを放ち、180を超える女性としては相当な長身に、サイズ的には三ケタともいわれる言語道断の爆乳は、見る者の瞳を捉えて離さないであろう。
胸のサイズに反比例するように徹底的に鍛えられたウエストはモデル顔負けの細さを誇りながらも、三つに割れた腹筋が逞しさを見せ、張りのある尻の下から延びる美脚は、見ようによっては官能的に思えるが、むしろ一種の野生動物を感じられるしなやかさと力強さを同居させる印象を与えるものがあった。
そして彼女を見れば誰もが真っ先に目に付いてしまうだろう、眉間からへその辺り伸びた一筋の刀傷………『部下』から何度も傷を消すための整形手術を勧められても、彼女はそれをすべて鼻で笑い飛ばしていた。
なぜならば、この傷は彼女にとって、忘れることができない『宿敵(おもいびと)』との絆の証なのだから………。
暖かいお湯を全身で浴びる中、何かの気配を察知したのか、振り返りもせずに彼女が背後の何かに向かって突然話し出す。
「何の用だい?」
そこにあったのは空中に投影されたディスプレイ、そして彼女にいつもお勧めの『仕事』の依頼をもってっきてくれる『女性』のシルエットであった。
『入浴中に失礼♪………少々急ぎの御用時なのよ♪』
「そういうのであれば、『それなり』の用件なのだろうね?」
プラチナの髪の毛の合間から真紅の眼光が見え隠れする。
それは前途で述べたように、人間というにはあまりに獰猛で、野生の猛獣すらも怯えさせる、伝説の『神獣(そんざい)』を思わせる鋭い眼光で、正面から見られれば大抵の人間は腰を抜かして何も話せなくなるだろう。
『あら、今日は徹夜明け? それとも二日酔いなのかしら?』
「私としてはいつも通りのつもりなんだが………?」
『そうなの?………で~~~も、そんな不機嫌な貴女を一発で上機嫌にしちゃう、魔法の依頼があるのよ♪』
「………それはそれは」
画面の向こうの女性がおどけた口調での話し方をする。相手によっては馬鹿にしていると取られかねないものなのだが、人間的な趣向が案外似通っているためか、彼女もそれが嫌いではなかった。
『先日脱走して現在も捜索中のオーガコア被験体が、どうやってか知らないけれどIS学園に進入したみたいなの………アナタ達でコアの回収をお願いできないかしら?』
「……………」
彼女の話を聞いても、返事もせずにただシャワーから出る温水が流れる音だけが浴室に響く。
だが、それだけで十分であった。数年来の友人である人物には、彼女がなんという返事を返してくるか手に取るようにりかいしているのだから。
『それじゃ、回収できたら連絡してね♪………後でコア搬送用の迎えを寄越すわ♪』
ウインクした後それだけ言い残すと一方的に通信を切る女性。
後には無言でシャワーに打たれる中、ノズルを閉めてシャワーを終えると、体をタオルで拭くこともなく、濡れたままの姿で浴室から出て行ってしまう。
前髪から水滴が落ちる中、寝室と思われる部屋に入ると、そこにはキングサイズのベッドが堂々と部屋の中心に置かれており、そのベッドの上には、幸せそうな笑顔を浮かべながら眠る、四人の少女達がいた。
発育と背の方は不足しているが美しい顔立ちと均整の取れた肢体を輝かせている美少女や、十代にしては高い背をしたボーイッシュな少女、銀髪の三つ編みのが特徴的であるが前者二人よりも女の子らしい体付きをした少女、そして四人の中では明らかに規格外の大きさを持った巨乳を持ちながらも涎を垂らしながらムニャムニャ寝言を言っている少女。
そんな四人の美しい少女達が、全裸のままでシーツにくるまれながら寝息を立てているのだった。
だが、そんな気持ちの良さそうに天使の寝顔をしている少女達を一瞥すると、立てかけてあった刀剣を手に取り………一気に床に向かって振り下ろした。
「起きろ」
短い言葉と、キンッという鋭い鍔鳴りに、四人の少女はベッドの上から飛び起きる。
「はっ!」
「お、親方様?」
「ふぇっ?」
「ごはんがごはんがすすむくん~~~むにゃ…」
若干一名が未だ夢の世界にいったままだが、そんな少女達を見下ろしながら、女性は言い放つ。
「フリューゲル、スピアー、リューリュク、フォルゴーレ………出掛けるぞ」
圧倒的な高みから言い放たれた威厳を含んだ言葉は、彼女達に異論を挟ませることはなく、すぐさま四人が身支度を整えるのだった。
☆
セシリアの前で、普段の日常とはかけ離れた光景が繰り広げられ、呆然とそれを見続ける。
鋼鉄の外骨格を持った蛇に似た動きで百足の化け物と、炎を剣に纏わせて天空を縦横無尽に飛び回る白鋼の騎士との闘いは続いていたのだった。
獲物を狩るのを邪魔されたことなのか、それとも不意打ちで直撃した炎のことなのか、はたまたその両方か、もはや人間の発する言葉ではない奇声を上げながら胴体(尻尾?)の部分を振り上げる百足のIS。それを見た陽太は、恐れもせずに真正面から突撃する。百足のISは振り上げた胴体部部を、横殴りに、射程圏内に飛び込んできたブレイズブレードの横っ面目掛けて叩きつける。
ごおっ、と鋼の塊が空を切った。
ブレイズブレードは百足の頭上を取る。
振り上げたフレイムソードを、身体ごとぐるりと一回転させながら逆さまに振り下ろす。跳躍の勢いと回転力を合わせた強力な斬撃であった。
だからこそ、それが百足の足の部分で止められた瞬間、陽太の顔がマスクの中で驚愕と驚嘆に引き歪んだ。百足のISは懇親の一撃を躱され体勢を崩していたというのに、超高速で頭上を取ったブレイズブレードの神速の一撃を見事に防いだのだ。そして陽太が着地する瞬間を狙い、目の前の敵を肉と屑鉄の塊にしようと身体から生やした無数の鋼鉄の足を槍のように延ばして、突き刺そうとする。
その槍と化した足を、陽太は横っ飛びで避けるが、百足のISは陽太の全身を穴だらけにしようとでもいうのか、無数に伸ばした足を次々と繰り出して、彼を追い詰める。その攻撃を、見ていたセシリアが惚れ惚れするような華麗な空中回避機動(空のワルツ)でかすらせもしない陽太は、いったん間合いを開く。
現状の接近戦では少々前足がうっとおしい。ならば中距離の射撃戦でケリをつけてやろうと、フレイムソードを一旦仕舞い、両手にヴォルケーノを構築して、銃口を正面に構えた。
そのとき、百足のISが胴体の人間であれば背中に当たる部分にある砲門を開いた。それを見た陽太が嫌な予感を覚えるが、無論、敵である目の前のISは待ってはくれない。
砲門から出るのが、実弾か、ビームか、と逡巡する陽太に対して、百足が放ったのは『黄色い塊』であった。それが一瞬、何か理解できなかった陽太であったが、すぐさまその危険性を察知すると、その場を飛び退く。
次の瞬間、陽太がそれまでいた場所に『黄色い塊』が降り注ぎ、凄まじい音と嫌な匂いをさせながら地面を溶解させてしまう。
「………強酸」
おそらくISの装甲すら例外にしない、見たことがないほどの強い溶解液を吐き出されたのだ。ある意味ビームよりも厄介な代物だと内心毒づく陽太に、百足のISは溶解液を連射してくる。
「チッ!」
上等だと陽太もヴォルケーノを撃ち返してみるが、弾丸は溶解液に接触した瞬間に飲み込まれてしまう。おそらく触れただけで蒸発させられてしまったのだ。
相殺にも持ち込めない現状では、撃ち合いでは不利だと判断し、低空をスケートで氷のリングを滑るように滑空しながら、溶解液を回避する陽太。だが、百足のISは今度は全身に溶解液の砲門を開き、人型では不可能なくねる動きで、溶解液の雨を周囲に撒き散らす。
すぐさま周囲にある建物やら木々やらが派手に溶け出す中、陽太がある事実を思い出して振り返った。
―――腰を抜かしたままの、金髪の女生徒―――
どこかに身を隠せ! と叫ぶよりも早く、溶解液の塊が彼女目掛けて降り注ぐ。
「あっ………」
自身に向かってくる強酸の塊が視界一杯に広がった時、ようやく自身の危険に気がついたセシリアであったが、そんな彼女をすぐさま白い疾風が連れ去り、間一髪で骨も残さず溶かされるという事態は回避された。
「馬っ鹿やろうがっ!!!」
「す、すみません!」
怒声が響き渡る。
腰を抜かせて立ち上がれずにいたセシリアを、瞬時加速(イグニション・ブースト)で助け出した陽太から発せられた言葉に、彼女は普段の強気な態度を引っ込めさせ、しおらしい少女のような声で返事をする。
「!!」
「きゃあっ!」
そんな二人に対して、百足のISは溶解液の集中砲火をぶつけてくる。
先ほどまでならばその攻撃を回避し、カウンターで斬り込みにかかる陽太であったが、今は腕の中にセシリアがいる。
生身の彼女では、ブレイズブレードの高機動に耐える所か、良くて気絶、悪ければ骨が折れる重体になってしまう。小さく舌打ちした陽太は、仕方ないと手を突き出し、炎の壁を生み出して溶解液を遮断するのだった。だが蒸気を上げながら蒸発する溶解液であったが、徐々に放たれる量が多くなってくる。
「チッ!………こんなザコ相手に…」
「あ、あの………」
「取り込み中だ!!」
「も、申し訳ありません!!」
腕の中で申し訳なさそうにするセシリアの姿を見た陽太は、もう一度だけ小さくため息をつくと、頭に上った血を、僅かに下げるように心掛け、彼女の話を聞こうとする。
「………なんだ?」
「ふぇ?」
「だから、さっきは何を俺に言おうとしたんだって聞いてんだ」
「あ、あのですね…………助けていただき、どうも……」
「まだ助かってない。誰かさんのおかげで絶賛ピンチの真っ最中だ」
「なっ!」
陽太にしてみれば、だいぶ冷静に受け応えをしたつもりだったのだが、今の返答はまずかった。
「アナタッ! なんなんですかその態度は!?」
「はぁっ?」
「このセシリア・オルコットが謝罪をしているというのに、その乱暴かつ粗暴な返答がありますか!?」
「知るか! てかお前、さっきまでと態度違いすぎるぞ!!」
「あ、あれは………」
モゴモゴと言葉を飲み込むセシリアであったが、突如身体がぐらりと傾き、驚いて振り返る。
溶解液の量が更に激しくなり、蒸発させきれなくなった数量の水滴が彼女に降り注ごうとしたのだが、それを陽太は背を盾にする事で防いだのだ。
「!!!」
「アナタッ!?」
ブレイズブレードの装甲は、通常のISとは違い、取り込まれたプラズマエネルギーによってコーティングを受けているため、軽量ながら強度の方でも折り紙つきなのだが、溶解液の強力さはそれを上回っていた。
嫌な音と匂いをさせながら、背中に激痛が走る陽太。どうやらシールドバリアーを無視しての溶解現象を起こしているようだ。
「(オーガコア特有の『絶対破壊攻撃(アプソリュート・ブレイク)』か………)」
オーガコアを搭載されたISには共通して、通常のISではまず発現しない、とある特殊攻撃を発現させる。
その名は『絶対破壊攻撃(アブソリュート・ブレイク)』
ISが通常自身と操縦者を守るために展開しているシールドバリアと、緊急時に操縦者を守るために発動させる『絶対防御』と呼ばれる二つの機能を無視して、致命傷を操縦者に与えることができる攻撃手段を、オーガコア搭載ISは標準装備されているのだ。
それゆえに、通常のIS操縦者ではまずオーガコアに勝つことは出来ない。出来るとするならば世界中でも一握りの猛者のみとされている。
「大丈夫なのですか!?」
「黙ってろ………」
「………私のことならば心配はいりませんわ!!」
「?」
呻き声を上げずとも、陽太が自分を守るために怪我を負っていることを知ったセシリアは、すぐさま待機状態のISを陽太に見せる。自分も戦えるということをアピールするために。
「わたくしが今から、この醜い化け物を成敗・」
「………いらんことするな。おまえじゃこいつ等には勝てん」
だが、セシリアの申し出を陽太は言い終えるよりも早く却下する。その言葉に、プライドが傷ついたのか表情を歪ませるセシリア。だがそんな彼女に陽太は更に追撃を加えるように、言葉を続ける。
「どうせソイツは競技用のISだろ? 軍用でもトップクラスのISでしか勝てないような相手に、お前じゃ大して役に立たん」
「何をおっしゃってるのですか!!」
「事実だ。それにさっきまでビビッてたような奴のいうことを信じられるか」
陽太の一言に言葉を詰まらせるセシリア。恐怖を感じていたという事実を悟られていたということに、言い知れぬ羞恥心を覚え、現役国家代表候補生であるにも係わらず、約立たずの烙印を押されたことに強い憤りを感じたセシリアは、陽太の腕に抱かれながも、無理矢理ISを展開する。
「貴方の見識がいかに狭い物なのか、わたくしがこの場で証明して差し上げますわ!!」
「ちょっ、バカッ!」
蒼色を強調したカラーリングに、特徴的なフィン・アーマーを四枚背に従え、王国騎士のような気高さと、全長2mを超えるライフルを手に持ったIS―<ブルーティアーズ>を纏ったセシリアが、陽太の腕の中から飛び出る。陽太も腕からセシリアが無理やり飛び出したことで、守勢か解き放たれ、炎の出力を一気に上昇させ、溶解液を爆発させる。
爆発の中から、弾かれる様に左右別々に飛び出した二人であったが、セシリアは背部に装備されている四基のBT(ブルーティアーズ)を射出する。
重力を無視するように複雑な軌道を描いて百足のISに向かって飛来したビットは、高出力の青いレーザーを連射し、おぞましいオーガコアのISを蜂の巣にしようと弾幕を張った。
「これでぇっ!」
「ダメだ………」
セシリアが勝ち鬨の声を上げようとするが、それを陽太は瞬時に駄目だしを出してしまう。その声に不満の言葉を出そうとするセシリアであったが、その言葉のとおり、敵ISは悠然とレーザーの雨を無視して二人のほうににじり寄ってきた。
「なっ!」
「競技用じゃあ、やっぱパワー不足かっ!」
自分のISの武装が通じないわけがない。そう過信するセシリアは、ならばと手に持っている全長2mを超える大型レーザーライフル『スターライトmkⅢ』を、敵の頭部に連射する。だが、その攻撃も装甲に届く前に、シールドバリアーの前に弾き返されてしまう。
競技用のISにはレギュレーションによって、シールドバリアーの強度と数値を一定に設けられている。無論、これはISバトルの公平を期すためのものであるのだが、目の前のISには非常識な出力を発揮するオーガコアを軍用のISに搭載しているのだ。
ルール内での最大戦力を発揮するようにセッティングされたセシリアのISでは、端からルールを無視して作られているオーガコア搭載ISには、ノールールの実戦(殺し合い)では太刀打ちできないのは自明の理だった。
「呆けるなっ!」
「は、ハイッ!」
陽太の鋭い声で我に返ったセシリアがその場を飛びのくと、すぐさま溶解液が先ほどまでセシリアがいた場所を通過する。
もし彼の言葉がなければ、強力な酸性を持つあの溶解液でISごと自分は骨まで溶かされていたかもしれないと、背筋が凍りつくセシリア。
そこへ続けざまに脚部を伸縮させて二人を狙う敵IS。二人はその攻撃を間合いを開き、空中を蛇行するような動きで回避し続ける。
「………私の力は…」
「…………」
悔しそうに奥歯をかみ締めるセシリア。自負が強いだけに、この事実は彼女に強いショックを与えていた。
対して陽太は、自分のISが通用しないという事実に項垂れるセシリアの方を見ながら、ポツリと彼女に向かってつぶやいた。
「気にするな…………それでいいんだ」
「へっ?」
「競技用と軍用では求められているものがまるで違う。スポーツ格闘技が「命懸け」じゃないから真剣じゃないと、殺し屋が馬鹿にするようなもんだ………比べること自体がナンセンスだってことに気がつけ」
「は、はぁっ?」
何をトンチンカンなことを突然言い出すんだこの男は?………と、疑問符で頭の中が埋められそうになった瞬間、セシリア目掛けて無数の溶解液の塊が放たれる。
「!!」
数の多さに苦戦しながら全てを回避しようするセシリアであったが、四発放たれた溶解液をギリギリ避けたところに、その攻撃の軌道に隠されていた五発目が襲い掛かる。
避けるには絶望的、受けることは端からできない。
一瞬にして、死の恐怖と後悔が頭の中を駆け巡ろうする。
だが、そんな彼女を守るように、紅蓮の真紅が盾となって、黄色い悪魔の毒液を遮断する。
「集中力を切らすな。それとも俺の邪魔になりたいからここにいんのか?」
「なっ!………あ、貴方という方はっ!?」
ヴォルケーノから放たれたプラズマ火球が前方で弾け、溶解液を一瞬で蒸発させたのだ。
セシリアが無事なのを確認した陽太は、今度こそ主導権を握るために、ヴォルケーノからプラズマ火球をマシンガンのように連射する。
それに気がついた敵ISも、溶解液でその全てを叩き落そうと全身の砲門から放ち、空中で火球と溶解液が激突して、周囲の環境に悪そうな煙と嫌な匂いが一気に立ち込める。
「チッ!………汁っ気の多い女だな。男の俺にぶっかけるのが好きなのか!?」
「ちょっとっ! 貴方、な、何を………下品にもほどがありますわ!!」
陽太の下ネタ満載のコメントに、顔を真っ赤にして抗議するセシリアであった、そこに陽太が真剣な声でとある相談をしてくる。
「オイ、そこのコロネ頭」
「コ、コロネ?」
「わからんのならクロワッサンでも、バッハでもいい」
「どういう意味でして!!!」
自慢の髪型を馬鹿にしているということだけは理解できたのか、憤激して陽太に詰め寄るセシリア。
「今は戦闘中だ」
「ええっ! その通りですわ!! ならばなおさら私の名前をしっかり言ってくれませんこと!!」
「名前知らんのだが………」
「セ・シ・リ・ア!!………セシリア・オルコットですわ!!」
「セシリア!!」
「!!………は……はう」
名前を知らんというと怒ったり、名前を言ってみれば突然頬を赤に染めてもじもじしだしたり、何がしたいんだこの女は? という疑問を胸のうちに秘めた陽太が、ようやく本題を切り出す。
「このままだと、この学園を焦土と化すぐらいに派手な攻撃せんと決着を着けれそうにない。そこで相談だ………」
「そ、相談?」
陽太からすぐさま、決着のための提案がなされる。
「………ということだ」
「なるほど……それならば…」
「できるのか? できないのか!?」
陽太の強気な口調に、今度は強気な笑みを浮かべて、セシリアは誇り高い、いつもの彼女の笑みで答える。
「楽勝ですわ!!」
「なら、即実行だ!!」
弾けるように、陽太が上昇し、セシリアが地面に降り立つ。
その動きに、一瞬、敵のISが標的に迷うように動きを鈍らせたところに、陽太が左腕の多目的防御楯(タクティカルガードナー)から三発のグレネードを発射する。
それは、すぐさま敵ISの前方で破裂すると、黒い特殊な粒子を分布する。それはISのセンサー類を著しく阻害するもので、オーガコアと一体と化している敵ISにしてみれば、突如目と耳と鼻を鈍らされたという強い不快感を感じて、暴れのた打ち回るのだった。
だが、それこそ二人の狙い。地上に降り立ったセシリアは、四基のビットを射出して、自身の周囲に浮遊させる。
「(いいか、さっきお前がアイツのバリアが貫通できなかったのは、単純にレーザーの出力が足りなかっただけだ………だけど、この状況じゃISのリミッターを解除している時間がない。だったら手は一つだ………)」
―――出力が足りないのならば、『足せばいい』だけだ―――
浮遊するビットと手に持ったスターライトの照準を一点に絞る。
今のセシリアでは、ビットと高機動やライフルでの攻撃などの両立はできない。そう、『両立』ができないのだ。
「だけど………足を止めたこの状態ならば……」
セシリアでもできる、唯一のライフルとビットの同時攻撃。つまり現状の彼女の最大威力での攻撃。
「そして、狙いは!」
「(向こうが勝手に開いてくれる)」
煙幕(チャフ)によるセンサー障害がある程度回復したのか、のろのろとした動きでセシリアを見つけた敵ISは、溶解液の砲門を彼女に向ける………そう、『砲門を不用意に』彼女に向けたのだ。
「狙い通りでしてよ、ホワイト・ナイツ!(白の騎士殿)」
「ぶちかませっ!」
騎士としてはいささか乱暴気味な口調で、セシリアに発射のタイミイングを告げる陽太。
「『蒼穹輪舞(ロンド・オブ・サジタリウス)』、セシリア・オルコット!! 狙い撃ちます!!」
―――悪魔の毒液を放つ砲門に、蒼い五本の光の矢が同時に突き刺さる!!―――
砲門から、溶解液が放たれる瞬間………敵のISのバリアーが手薄になる瞬間を、セシリアの精密射撃が狙い撃ったのだ。レーザーと溶解液………早撃ちをして先に着弾するのはどちらかは言わずともわかるであろう。
如何に強固な装甲をしていようとも、内部構造までは手が行き届いてはいない。そこに高出力レーザーによる集中砲火。しかも砲門内部では、溶解液がレーザーで加熱され、融爆し、大穴を穿つ。
ISの苦痛の声か、それとも自我を失ってもなお感じた痛みか………操縦者から人間とは思えない呻き声があがる中、陽太は、ようやくできた隙を見逃さずに、一気にフィニッシュを決めにいく。
「フェニックス・ファイ・ブレェードッ!!」
フレイムソードによって倍化されたプラズマ火炎を纏った炎の不死鳥が、青き射手姫が穿った穴から飛び込み、長い胴体を炎で貫きながら、一気に頭部から飛び出し、直後、毒液を撒き散らしていた悪魔の龍虫が、爆発を起こして木っ端微塵となる。
炎の残滓を振り払いながら、セシリアの前に着地する陽太。その手に意識を失った操縦者と、怪しく光るオーガコアを手に持って………。
☆
「さて………」
互いにISを解除して、素顔を見せ合う陽太とセシリア。そしてそこにきて、セシリアはようやく目の前の男が、自分のクラスに転入してきた男であったと気がつく。
朝の段階では、彼女は彼に大した興味もなく、話を受け流していたために、陽太が起こした諍いというものにも頓着していなかったために、声のほうも記憶に留めていなかったのだ。
そう考えると、なんだか急に気恥ずかしくなって、指をもじもじと絡ませて、しおらしく上目遣いで陽太を見つめるセシリア。
そんな彼女を、陽太は、じっと見つめながら、肝心なことを言い放つ。
「まあ………自慢するしないは本人の自由だからいいけど………お目見えですよ、レディー?」
「へぇ………きゃあああああああああっ!!」
ようやく自分の制服の前が破かれており、ブラジャーが丸見えであることに気がついて、両腕で隠してへたり込む。
若干、腕の隙間から、絶妙な大きさの谷間が見え隠れする中、ため息をついて陽太は自分の上着を脱ぎ、彼女に被せるのだった。
「あの………その……」
「気にするな。それよりも…だ」
ポケットから携帯を取り出して、電話をし始める陽太。
セシリアに背を向ける陽太。だが、その時彼女は、赤いランニングの隙間から真新しい火傷の跡を見つける。
間違いない、先ほどの戦闘で、彼が自分を守るために背を盾にしていたときにできた傷跡である。
「あのっ! その背中の傷・」
「ババァッ!!」
電話に向かって突然怒鳴り散らす陽太にびっくりするセシリアであったが、陽太はそんなことに気を回している場合ではなかった。
陽太が激怒している相手…………その相手とは、無論、千冬であった。
『だから言っているだろう………『見事だった』とな』
「戦闘中に誰も見かけんと思ってたら………テメェ、モニターで見物決め込んでやがったな」
『オーガコア相手には一人で戦う………お前が言い出したことだろ?』
「!!……そういうことじゃねぇーよ!!」
戦闘中に、セシリア以外の人間を見かけなかったのは変だと考えていた陽太であったが、やはり早い段階で千冬が手回しをしていたのだ。
ならばこそ、陽太にはどうしても許せないことがあった。
「なら、セシリア・オルコットはどうなんだ!?………俺が助けに行かなかったら死んでたんだぞ!?」
『だが死んでいない』
「結果論だろうが!!………俺が見捨てるとか考えなかったのか!」
『………そのときは………そのときだ』
「!!?」
その言葉に、陽太の怒りは頂点に達する………かつての恩師である女性が、自分に戦い方を教えてくれたはずの女性が、陽太の中で崩れさった。
そんなあやふやな事で、セシリアが死んだかもしれない事実を、この女は平然と切り捨てるというのか!?
「そういうことかよ………アンタにかかれば、俺も、コイツも、誰も彼も、全部、コマか?………替えが聞く、自分の都合で動かすためのもんなのか?」
『……………』
「ちょっと待ってろ!! 直でブチ殺しにいってやる!!」
陽太が、携帯を乱暴にきって、今すぐ千冬に殴り込みに言ってやろうとしたときだった。
―――全身がまるで巨大な生物の顎の中にいるような気配―――
彼の鍛えられた天性の勘が、『それ』の存在に感づき、驚愕に表情を歪ませながら、振り返った。
「ほう………これはこれは…」
四機がそれぞれ違う色と武装をしているが、すぐさまそれが同型のISであると気がつくが、それよりも陽太が驚愕しているのは、そのうちの一機………短いボーイッシュな髪型をしている操縦者のISにしがみ付いている女性であった。
「君がこの学園に来ているとは………私が来ることを予知していたのか? それとも『彼女』には今日という日すらも予定調和なのか………どちらにしろ、私には願ったり叶ったりだ」
その女性から放たれている、『巨大な生物』のような闘気………その禍々しさに、陽太が凍りついたのだ。
抽象的な表現、つまり炎だとか氷だとか刃だとかそいう類のものではない。
もっと圧倒的で、禍々しくて、重苦しくて、粘着質で、それでいて自分を離して逃がさない威圧感(プレッシャー)を持ち、存在しているだけで大気が震えながら歪んでいるかのような錯覚を覚える。
とても人間が放っている気配とは思えない。猛獣でもない。鬼や悪魔といってもまだ足りない。
「………初めまして、ミスターネームレス!!………私の名前は、アレキサンドラ・リキュール!!」
自己紹介を始めた、白金の髪の女は、陽太目掛けて飛び降りる。そしてアレキサンドラ・リキュールは、彼女の力を的確に感じている、目の前の『獲物』に興奮を抑えることができないでいる。
「突然ですまないが………私と一緒に超えてくれないか……生死の一線を!!」
『暴龍帝(タイラント・ドラグーン)』の通り名を持った『純血の暴力』が、無双の牙を剥き出しに陽太に襲い掛かるのだった………。
皆が大好き、親方様登場回です。
なんでか彼女が出ると、にじファンのときはPVが跳ね上がるという現象がおきてました。
この小説の主人公は一夏と陽太なんだからね!www
真の主人公登場(笑)とか言わない!!wwww