IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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続・親方様暴れ回です。

後書きにて、これから設定を少しづつ載せていこうと思います!

では、お楽しみください。






降り立つ暴君

 

 

「………」

 

 ギリィッ

 

悔しさで歯軋りする音が響く。

アリーナのセキュリティールームに設けられたモニターを厳しい表情で見つめていた千冬が顔を伏せた。

 

『なら、セシリア・オルコットはどうなんだ!?………俺が助けに行かなかったら死んでたんだぞ!?』

『結果論だろうが!!………俺が見捨てるとか考えなかったのか!』

『そういうことかよ………アンタにかかれば、俺も、コイツも、誰も彼も、全部、コマか?………替えが聞く、自分の都合で動かすためのもんなのか?』

 

 陽太の怒りが千冬の胸に、深く、深く突き刺さった。

 そう、怒っているのだ。

 あやふやなことで人命が危ぶんだ事態を、陽太が怒っているのだ。

 

 いつだったか………自分は彼に言って聞かせたことがあった。

 

 ―――失われていい命などは存在しない―――

 

 自分のことを蔑ろにする少年を思っての言葉だった。だが時は過ぎ、その言葉を思わぬ形で裏切ってしまった。

 

 自分が利用されたことよりも、陽太は目の前の命の危険を千冬が放置したことを真剣に怒っている。それは陽太が口ではどう言おうが千冬のことを信じたがっている何よりの証拠なのだ。

 

 自分を鍛えた女性は、決して命を見捨てたりしない………と。

 

 だが、そんな彼の信頼を、口にこそ出されたことは一度もない彼の恩義を、自分は最も彼が嫌悪し、そして自分すらも忌み嫌う形で踏みにじり、そしてこれからもそれをし続けようとしている。

 

 それもこれも、全て『コレ』のせいで………。

 

 胸の『古傷』が鈍く痛んだ。

 己の中に巣食う黒い黒い澱んだ気持ちの塊全てを、胸の辺りで拳の中にギュっと握り潰そうとする千冬。

 

そんな彼女を、一緒にセキュリティールームにいた山田真耶が心配そうに見つめていた。

 

「!?………新しい反応?……四つも!?」

 

 レーダーに映った新しいISの反応で我に返った真耶が、キーボードを高速でタッチして、モニターにその新しいISの所有者の姿を映し出す。

 

「なっ!!」

「お、織斑先生?」

 

 その様子をモニターで見つめていた真耶は、隣にいた千冬の驚愕の表情に驚いていた。彼女を驚かせたのは、新しい4つのISではなく、その操縦者たちを従者として従えさせている女性。

 

 彼女達が見つめる先に、夕日を背に獰猛で残忍な笑みを浮かべる女。腰まで届くプラチナの髪の毛、焼けた肌色、真紅の眼光、黒いジャケットとブーツ、二本の刀。そして、隠すことなく見せ付けるような額から臍の辺りまでの斬り傷………。

 

「マズイッ!」

 

 叫ぶや否や、千冬は自分を制止する真耶の声を無視し、セキュリティールームから飛び出し、急いで現場に向かう。

 

 予測はしていたが、だがいくらなんでも早すぎる!!

 

 

 

 ☆

 

 

 

 二本の刀を抜刀したリキュールが、陽太に向かって斬りこんで来る。

 従者のISが上空20m近い場所をに浮遊していたことを考えると、普通ならば全身骨折の大惨事になりかねない行為だが、四人の配下達は止める気配すらない。

 

「!!?」

 

 今まで感じたことがないタイプの殺気をぶつけられ、棒立ち状態になっていた陽太であったが、己が身の危険を感じた本能が間一髪のところで回避行動を取らせ、その場を飛び退かせる。

 

 振り下ろされたその一撃は、地面を『爆発』させて、直径2m近いクレーターを作ってしまう。そのあまりの威力に陽太はおろか、一緒に遭遇していたセシリアすら、顔を引きつらせた。

 

 上空から着地し、地面にしゃがみ込んでいたリキュールがゆっくりと起き上がる。

 

「!………セシリア・オルコット!!」

「!?」

 

 目の前の呪縛からいち早く解き放たれた陽太が、オーガコアと気を失った操縦者の女性を抱かかえると、セシリアのほうに差し出す。

 

「早くこいつ等連れて、この場から去れ!」

「で、ですが…」

「口論してる場合じゃない!!」

 

 先ほどオーガコア搭載ISと戦闘をしていたときよりも、遥かに余裕のない声で怒鳴りつける。

 全身から噴出す汗と荒い呼吸が、陽太が感じ取っている異常事態を物語っていた。

 この目の前の女が何者なのかということはわからないが、何か尋常ではない化け物染みた実力者なのは間違いない。

 自分ひとりならばまだしも、セシリアを庇いながらの戦闘をする余裕など、今の陽太にもないのだった。

 

「(初めて感じるタイプの気配………見てるだけで潰されそうになる威圧感とそれでいてどこにも逃げ場を与えない圧迫感………ふざけやがって………てか、あの乳のサイズは何だ!?………明らかに三桁超えてるぞ!)」

「………それは困るな」

 

 だが、動き出そうとしていた陽太とセシリアにリキュールが待ったをかける。

 

「「!?」」

 

 刀を二本とも地面に突き刺し、ユラリと立ち上がったかと思えば………瞬きする間に二人の視界から忽然と消え失せたリキュール。

 

「オーガコアと操縦者の回収は私が承った仕事なんだ………勝手に持っていかれては困るのだよ」

「「(背後っ!?)」」

 

 一瞬で二人の背後を取るリキュール。実戦経験がないとはいえ代表候補生の地位を貰っているセシリアと、幾多のオーガコアとの戦いを繰り広げている経験豊富な自分の背後を易々と取れるこの女の底知れない実力に、嫌な汗がいよいよ滝のように噴出す陽太。

 だが、彼はこの事態に対しても、その従来の負けず嫌いと天衝くプライドが目の前(後ろ)の敵から逃げ出すことを拒んでしまう。何よりもいきなり逃げの手を打ってもすぐさま追いつかれるのは目に見えている。

 

「『勝手に持っていかれては困る』………だと?」

「ああ………だが、その仕事のおかげでこの学園に来る口実と、君との出逢いに恵まれたわけだ。むしろ私としては………」

「………勝手ほざいてんのはどっちだっ!?」

 

 振り返ると同時に、右拳を渾身の力で、背後にいるリキュールに叩きつける陽太。女相手にしかも顔面目掛けてぶん殴るのは気が引けるが、今は気にしている場合ではない。きっと………。

 普段ならば、このまま打ち抜かれた女が派手に吹っ飛んでいく場面なのだが、今日はまったく違う結果になった。

 陽太の動きにも遅れることなく、リキュールは高速で自分に迫ってくる物体をあっさり自身の右手で受け止める。

 

 ―――弾ける空気と衝撃―――

 

「!!?」

「良い拳だ………威力も速度も申し分なし。だが少々気持ちが先行しすぎているな。体重を乗せることに気が行き過ぎて、オープンスタンスになりすぎているよ。それでは連打の際に構え直す隙ができてしまうのではないのかな?」

「てめぇ!?」

 

 まるで意に介することもなく、陽太のパンチの解説までするリキュールに、腹の底から湧き上がる怒りに振るえる陽太。

 

「だが、こうやって直に対峙してみるとやはりそこいらの連中とはモノが違うね………君の映像を見たときから、その天性のセンスは感じていたが、今の君は更に輝かしく見える。日々刻一刻と成長している証なのかな?」

「グッ………クッ…」

 

 ギリギリミシミシと骨が軋む嫌な音が鳴りながら、余裕の笑みで観察するリキュールと、全身から汗を掻きながら彼女を睨みつける陽太。

 

 だが、その拮抗は次第に陽太の側から崩れていく。リキュールに握られている手が、固めたはずの拳が次第に解かれていくのだ。彼女の持つ信じられない握力に、陽太は拳を引くこともできずにいたのだった。

 陽太の拳が完全に崩れ去ったのを確認したリキュールは、素早く持ち直すと、完全な『握手』をする体勢にお互いの右手を持っていく。

 

「では改めて………私の名前はアレキサンドラ・リキュール。よろしく頼むよ、ミスターネームレス?」

 

 温厚な笑みを浮かべて、陽太との『握手』を楽しむリキュール。だが対して陽太は一瞬だけ俯くと………。

 

「………ッざけんなぁっ!!」

 

 相手に見下されたという事実によって、一瞬で沸点を振り切った陽太は自分を掴むリキュールの腕を逆に握り返すと外側に反らし、足払いをしてリキュールを投げ飛ばそうとする。

 だが、リキュールは腕を外側に反らされた瞬間に地面を蹴り、腕を中心に回転するような動きで陽太の側頭部目掛け、膝蹴りを繰り出していた。間一髪、その動きに反応してギリギリのところを紙一重で避けてみせる陽太。しかし、回避のために相手の腕を離してしまい、陽太は当然追撃が来るものだと思い、歯を食い縛ってそれに備えるのだった。

 

 だがリキュールが行った行動は打撃による追撃ではなく、『自分が上手』にいるという余裕の笑みを浮かべて自分へ手招きする『挑発』であったのだ。

 普段ならそんな見え透いた挑発に乗るような…………陽太ではあるが、今日の彼はこと更に冷静さに欠けていた。

 

 それが若さゆえのものなのか、それとも己が密かに感じ取っている『感情』を打ち消すための行動なのだろうか? 無謀ともいえる突撃をして、さながら『閃光』と言える速度で拳を連続で打ち出す。

 一撃ではなく連撃、複数の高速フェイントも付加した超高速連撃。これならば目の前の女は反応も出来ずに沈む。

 

「!?」

 

 が、常人ならば腕が分裂でもしなければ繰り出せない速度の攻撃を前に、あろうことかその打ち出された無数の打撃をリキュールは『全て』手の平で受け切ってみせる。それはつまり、彼女の反応速度は陽太のものと比べ、まったく劣っていないということのなのだ。

 

「素晴らしい攻撃だったが、残念なことに私には全弾見えている………あっ、かといって自分を卑下してはならないよ。私以外の人間なら間違いなく君の予定通り、木偶同然に君の打撃で地面に這い蹲っているはずだからね?」

「馬鹿にすんなよっ!!」

 

 憤怒の表情で、リキュールの手を無理やり引き剥がすと、彼女に向かって激高と共に渾身の中段蹴りをリキュールの脇腹目掛けて放つ。

 人が車に跳ねられたような重い『ドスンッ!』という音と、突風のような風圧を発生させた蹴りであったにも関わらず、リキュールは表情を全く崩すことなく、振り上げた脚で受け止めてしまう。

 

「………これも素晴らしい。才能一つで習得できる蹴りではない…………極限の修練の跡が見れる良い蹴りだ」

「だからっ!」

 

 受け止められた状態のまま、更にそこから霞むような速度で連続して蹴りを放つ陽太。

 

「見下した様なツラをやめろぉっ!!」

「(三段蹴り―――確かに疾い)」

 

 頭部と腹部と臀部に『ほぼ』同時に放たれる蹴りの軌跡は、常人では脚が一気に2本増えたように見えたであろう。

 

「だけど、間合いが近すぎて威力が乗せきれていないね。おまけに………」

「!!」

 

 その蹴りすら、彼女は余裕で打ち払いながら、最後の一撃を振り払うとカウンターで、体勢が崩れた陽太に打ち下ろしの拳を陽太の顔面目掛けて放つのだった。

 

「この様に捌かれてしまっては、手痛いダメージを負ってしまうのではないのかな!?」

「!!」

 

 蹴りを返され、バランスが崩れた陽太の顔面に漆黒の鉄槌を下そうとするリキュール。だが、陽太の口元には、してやったりと言わんばかりの笑みが浮かんでいた。

 

『!!!』

「(狙い通り!)」

 

 その場にいたリキュールの従者たちが、見取れていたセシリアが、そしてリキュールが、驚愕の表情を浮かべた。

 振り下ろされた鉄槌は、陽太の右手に受け止めれている………あえて無理な体勢になり、相手に攻撃を誘導させ、打ち終わりの隙を作ったのだ。

 

 陽太の左の拳に力が奔る。狙いは打ち下ろし直後に出来る隙………右脇腹!

 

「!!」

「(…………最高だ)」

 

 体勢を入れ替えるように踏み込んで、左の拳を自身の脇腹に突き立てようとする陽太の姿に、リキュールは一瞬、見惚れていた。

 

 間違いない………彼は、織斑千冬以来の『本物』だ!!

 

 

「!!」

 

 左の拳をリキュールの脇腹に打ち込んだ陽太であったが、すぐさま異変に気がつく。

 

「(なんだ………コイツ!?)」

 

 拳から伝わってくるイメージが人体のそれとはかけ離れすぎている。

 

「(ふざけるな…………オイ!?)」

 

 誰に聞き返すことも出来ないでいる陽太であったが、彼の脳裏に浮び上がったイメージ。相手の骨を砕くものでも、ましてや筋肉を打ち抜くものでもない。

 それはまるで、リキュールの体が『巨大な岩』のような感覚を伝えてくる。しかもそれは単純なコンクリートの塊などという柔な代物ではない。

 例えるならば、悠久の時の中を、幾千もの嵐に曝され、光沢すら放つほどに磨かれた天然の巨石のようなイメージ。

 

「………私が先ほど言った悪点を、一瞬で妙点に変える、そのセンス………堪らないな」

 

 自分の上から発せられるリキュールの言葉に、陽太は反応しながらも、いつもの減らず口を叩く事が出来ずにいた。

 

 いや………正確には、口を動かす余裕すら奪われていたのだ。

 そして彼は辛うじて動かすことが出来る瞳を上げて、リキュールの今の表情を確認する。

 

「………挨拶だけで済ますつもりでいたというのに………これはもう………堪らない!!」

 

 どう説明するべきだったのだろうか?

 それを例えるのならば、まったくイメージが異なる物同士を混ぜ合わせたかのような表情………まるで長年恋焦がれていた恋人に再会できた少女のように、可憐に頬を染めながらも、そのルビーのように紅い瞳は爛々と燃え立つような熱気を孕み、『人間』のものから、完全に別の生き物の物へと変化していた。

 

 ―――それは、神話に語られる………神すら喰らう、最強の闘争生物―――『竜』のように―――

 

 金縛りにあったかのように動けずにいる陽太を見下ろしながら、彼女はその手を陽太に伸ばした。

 

「(ヤバイヤバイヤバイヤバイ!! 動け動け動け動け!!!)」

 

 全身の筋繊維が脱力したかのように力が入らない。だが、反して脳内は自分に迫ってくるリキュールの手をしっかりと見つめている。

 まるでこれでは、死ぬ間際に見る走馬灯ではないか?

 

 初めて感じるその感覚に、陽太が戸惑いを隠せずにいる間も、リキュールの手が、指が、慄き震える陽太の瞳に迫る。

 そして彼女の人差し指が、迷う事無く陽太の瞳に触れかかった瞬間………リキュールが突如飛び退いた。

 

 

 ―――そしてコンマ一秒後にリキュールの頭があった場所を高速で通過する小刀―――

 

 

 10m近くを超人的な跳躍力で飛び退いたリキュールは、すぐさま二本の刀の前に回転しながら降り立つと、突き刺さった刀を抜いて正面に構える。

 

 直後、甲高い金属音が鳴り響き、辺りが一瞬の静寂に包まれた。

 

「………やあ、織斑千冬」

「………まさか、お前が生きているとはな…」

 

 リキュールに刀を持って斬りかかった人影、それはまごう事なき千冬である。

 千冬の手に握られた刀を二本の刀を構え、十字受けするリキュールに、千冬が強い敵意を持った眼で睨みつけた。

 

「あの程度で殺されてやれるほど、私のお前への想い………脆弱でも貧弱でもないぞ?」

 

 そんな千冬の反応が実に楽しいのか、リキュールは自分についた額から臍の辺りまでの斬り傷を彼女に誇るように魅せ付ける。

 

「まあ、見てくれ………お前が私に付けた、この傷………今では私のお気に入りなんだ」

「クッ!………その傷の復讐をしに来たというのか!?」

 

 かつての宿敵が、己の雪辱を果たしにきた。

 そう考えていた千冬であったが、だが、それは彼女の大いなる思い違いであった。

 その証拠に、リキュールは、『復讐?』と意外そうな表情になると、突然、大声で笑い出してしまう。

 

「クックックッ………ハハハハハッハハハハハハッ!!! 」

「?」

「キャハハハハハハッ、イヒヒヒヒッ………これは傑作だ!」

 

 千冬を見るリキュールの眼………その眼に今宿っているのは、決して復讐などという暗い感情から出たものではない。

 

 ―――その眼に込められた、混じり気のない、純粋な狂喜―――

 

 

「下だっ!」

 

 考えるよりも早く、千冬はバックステップしてその場を退く。同時に千冬のスーツをリキュールの刃が切り裂いたのだった。

 いつの間にか、十字受けを解いていたリキュールが、刃を返して斬り上げたのだ。

 思わぬ方向から来た声によって、自分がホンのわずかな間、集中力が鈍っていたことに気がついた千冬。

 

「ボサッとするなよ!!」

 

 弟子である陽太の声に、助けられるとは………だが、懐かしむ余裕は今の千冬にもない。

 

 斬り上げた刃を今度は返し、両方の刃を水平にすると、双手の突きを繰り出すリキュール。後方に退いては追い詰められると思い、千冬は左斜め前に飛び込みながら、刀で刀を捌き、リキュールをいなす。

激しく火花を散らしながら互いに絡み合いながら飛び退く両者であったが、すぐさま異変が起こる。

 

「………!?」

「?」

 

 左手を離して、胸元を掴む千冬の仕草を見たリキュールが、不審な面持ちになる。

 

「貴様………まさかっ!?」

「!!」

 

 何かに気がついたリキュールが、表情を歪ませながら、嵐のような連撃を繰り出してきた。

 それを捌きつつ、少しずつ後退する千冬の姿に、陽太も僅かに違和感を覚えた。

 

「(………なんで、あんなに消極的なんだよ?)」

 

 いつもの千冬ならば、敵の攻撃を捌いてすぐさま反撃の一撃でもくれてやるものを………。

 何かの作戦か? だが、千冬の表情からは、いつもの余裕が全く感じられず、明らかに本当に押されている様子に見える。

 

「まさか………そうなのか!!」

 

 両の刃を振りかぶり、上段から振り下ろすリキュール。

 大きな隙が出来るその攻撃を、当然、陽太はチャンスだと思い、千冬が回避するものだと信じていた。

 

だが………。

 

「!?」

「なんで!?」

 

 一瞬、表情を歪ませた千冬は、あろうことかその攻撃を正面から受け止めようとする。

 だが、怪物的な膂力を持つリキュールが放った双撃は、いとも容易く千冬の刀をへし折り、彼女を吹き飛ばしてしまう。

 

「ガハッ!」

 

 吹き飛ばされ、大の字で地面に寝転がる千冬。そしてリキュールは止めを刺すように一足飛びで彼女の上に飛び掛ると、無情の刃を振り下ろす。

 

「織斑先生!」

「千冬さん!!!」

 

 ………セシリアと陽太の声が重なった。

 

 

「……………」

「……………貴様ッ!?」

 

 苛立ちながら振り下ろしたリキュールの刃………それは、千冬の首のすぐ横に左右から挟み込むように地面に突き立てられていた。

 先ほどまでの余裕の表情から一変し、抑えきれない怒りを千冬にぶつけるように、リキュールは地面に倒れる千冬のスーツに手をかけると、上着を左右から一気に破り捨てる。

 

「………お前っ!?」

「やはり………そういうことなのか………」

 

 スーツはおろか、下着まで丸見えになり、羞恥心に頬を染める千冬であったが、すぐさまその気持ちが消え失せる。

 

「織斑 千冬ーーーーー!!!!!」

 

 なぜならば、自分を見下ろすリキュールの怒りと失望と悲しみに満ちていて、それが一体何を意味しているのか彼女にも理解できたからだ。

 

 ほかの人間の角度では見えないが、千冬の胸元に確かに刻まれている10cmほどの長さの刀傷。

 

 かつて、自分が………アレキサンドラ・リキュールが、織斑千冬に付けたその傷が何を意味しているのかは、リキュール自身には一番理解できたのだ。

 

「なんということだ…………よりにもよって……」

 

 突然のリキュールの変化に付いていけないギャラリーであったが、突如、そこに疾風のごとき速さで、リキュール目掛けて突っ込んでくるISが現れた。

 

「教官から、今すぐ離れろぉっー!!」

 

 漆黒の装甲と長大なレールガンを背負う、銀髪の隻眼………ドイツが誇る最新鋭機『シュヴァルツェア・レーゲン(漆黒の雨)』を纏うラウラ・ボーデヴィッヒである。

 腕部からプラズマ手刀を出力し、己の敬愛する教官を地に這わせている賊を八つ裂きにしてやろう果敢に突撃を行うラウラであったが、対して千冬は全力で声を張り上げた。

 

「逃げろぉっ!、ラウラーーーー!!!」

 

 ラウラはまったく理解できていない。

 アレキサンドラ・リキュールという女が如何に異端の化け物であるかということに。そしてリキュールは、己の邪魔をする者を生かしておくような甘い女ではない。

 この女が興味を持つのは、自身と同等かそれ以上の強者か、いずれそのような存在に成長する素質を持つ者だけである。

 

 今のラウラなど、呼吸をするが如く逆に八つ裂きにするであろう。

 

 だがそこに、ラウラの突進をプラズマ手刀ごと死神が使うような鎌で受け止める者がいた。

 

「お前ごときが親方様に斬り掛かろうだなんて………分を弁えなさい」

 

 全身を灰色のカラーリングをした装甲で覆いながら、漆黒のバイザーと黄色のビームを発振する巨大な死神の鎌を持ち、腰部のスタビライザーも小型にしており、どうやら機動性重視のISを装備した、他の三人よりも絶望的な胸のサイズな、金髪のツインテールの少女であった。

 

「どけっ!」

「アンタね………生意気よ」

 

 ラウラを完全に見下した声を発すると同時に、鎌を回転させてプラズマ手刀を弾き、返す手でラウラの腹部を鎌の柄で強打する。

 ゴフッ! という声で吹き飛ぶラウラを見ながら、少女は鎌を構え、高々と自己紹介を始める。

 

「最強にして至高のIS操縦者、アレキサンドラ・リキュールに仕える竜騎兵(ドラグナー)の筆頭、フリューゲル!!………覚えておきなさい、虫ケラ共。私に命令していいのは親方様だけなのよ」

「フリューゲルッ!!」

 

 そんな少女を問い詰めるように降り立った、左右非対称のオレンジの装甲と、背部にロケットブースターを装備したISを展開しているショートヘアの長身の少女がフリューゲルの胸倉を掴み上げた。

 

「キサマッ!!………親方様の右腕の私を差し置いて、何が筆頭だ!?」

「右腕?………一億歩譲って、親方様の右手の爪の垢が限界の貴方が、何の寝言言ってるの?」

 

 そのセリフを聞いた瞬間、オレンジのバイザー越しにも、カッと目が見開いたのが判るほどに激怒したスピアーと呼ばれた少女は、右手に巨大なドリルのようなランスを呼び出し、フリューゲルを睨み付けながら吐き捨てるように言い放つ。

 

「先に貴様から風穴を開けてやっても構わんのだぞ、この発育不良が!」

「その手の言葉は言うなって前にも言ったわよね?………物覚えの悪い脳ミソにも届くように、耳の穴をもう一つ増設してあげようかしら、この脳筋?」

 

 二人の間に火花が飛び散っているのはきっと見間違いではあるまい。

 互いに獲物を持ち合って、敵である陽太達をほったらかしで喧嘩をおっぱ始めようとする二人であったが、それを遮る声が二人の脳裏を貫く。

 

「フリューゲル、スピアー、黙れ」

「お、親方様!………だってスピアーがr」

「親方様の御名を汚すこのフリューゲルを成敗させてr」

「黙れ」

「「はっ!」」

 

 千冬を地面に押し倒していたリキュールが二度『黙れ』と言っただけで、喧嘩を止めて、すぐさま直立不動の姿勢で敬礼をする二人。よく訓練が行き届いた軍用犬を髣髴とさせる光景である。

 対して、地面に押し倒されたままの千冬は、リキュールを睨み付けながら、彼女に問いかける。

 

「どうした………止めを刺さないのか!?」

「トドメ?………形だけのスクラップに成り果てた『今』の貴様に、そんなものが必要なのか?」

 

 その言葉を聴いた瞬間、千冬が驚愕と屈辱に震えるが、リキュールは心底見下した目で彼女を一瞥するだけに留まった。

 ゆっくりと起き上がり、二本の刀を手に取ると、そのまま千冬に背を向けて歩き出すリキュール。

 

「興が冷めた………帰るぞ」

 

 鞘に刀を仕舞いながら、オーガコアと操縦者に目をやるリキュールに、セシリアがISを展開して割って入ろうとする。

 

「お待ちなさい!!………貴女方をこのまま行かせるわけには・」

「待つのは貴女の方ではないでしょうか?」

「私もリューちんに賛成☆」

 

 セシリアが一瞬、リキュールに集中した瞬間を見計らうように、紫色の装甲をした眼鏡を掛けたISの操縦者と、緑色の装甲をした四人の少女たちの中で最も胸の発育が進んでいる脳天気そうな声をしたIS操縦者の少女が、レーザーサーベルと実弾式のハンドキャノンをセシリアに左右から突きつけながら、下手な動きを取らさないように警告を発する。

 

 代表候補生の自分が一瞬でこうもヤスヤスと間合いへの進入を許すとは………冷たい汗がセシリアから流れる。隙を見つけて反撃に転じようにも、この二人は比較的温厚そうなイメージを与えながらも、操縦者としては有望なのか、セシリア相手にもまったく隙を見せることはないのだ。

 

「…………リューリュク」

「はい♪ 親方様!」

 

 嬉しそうに返事をした紫のIS操縦者の少女は、オーガコアと操縦者の女を手に抱えると、先に上空へと舞い上がっていく。

 もう用事は済んだとばかり、この場から去ろうとするリキュール一行であったが、そこに陽太が待ったを掛けた。

 

「オラ、ちょっと待てや、コラ!!」

「………何かな?」

 

 フリューゲルとスピアーが一歩前に出て陽太に対応しようとするが、それをリキュールが手を上げて静止する。

 先ほどから静かにしていた陽太であったが、さすがにこのまま大人しく返してやれるほど、彼は人間ができていない。

 と言うよりも、舐められたまま返すなど、彼には死よりも屈辱的なことに思えるのだ。

 

「人の存在素通りして、勝手に千冬さんと喧嘩始めて、勝手に納得して勝手に人の獲物もって帰ろうとは、どういう神経してんだオイ?」

「………ミスターネームレス…」

 

 そんな陽太の姿を見たリキュールは、先ほどまでのやる気が失せた表情から一変、心底楽しいものを見る目に変化しながら、陽太の心理状況を、この場の全員にバラしてしまう。

 

「そんなに殺気立って、『怯えなくていい』………今日はこれ以上私は何もしないよ」

 

 その言葉を聴いた瞬間、陽太から『ブチッ』という音が聞こえ、彼が犬歯を剥き出しにして、全身から凄まじい闘気を放つ。

 

「誰が………」

 

 ユラリ、と体を揺らしながら、前屈みになると………突然、陽太の足元が爆発した。

 

 

「ビビっただとぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 セシリアはおろか、ISを展開している竜騎兵たちですら、その速度は驚愕に値したであろう神速のスピードでリキュールの目前まで、一気に踏み込む陽太。そして、その速度をそのまま破壊力に転換した拳でリキュールに殴りかかる。

 

 尋常ならざるそのスピードに、千冬すら驚いた中、リキュール一人は違っていた。

 

 彼女は、心底、喜びに打ち震えたのだ。

 ああ………なんて愛おしい才能だろうか。彼ならば、自分を『凌駕』できる。

 そして、失ってしまった『強敵』に成り得てくれる。

 

「火鳥 陽太君!!」

「!!?」

 

 初めて彼の名前を口にするリキュール。

 そして陽太の渾身の右拳と、リキュールの左の拳が激突し、空間が震えるような振動が周囲に響き渡ると、そのまま二人の拳がお互いに弾き飛ばされた。

 

 そこから先に動いたのはリキュールであった。

 いや、もっと正確言えば、全体重を込めていた拳を弾かれた為に、陽太の身体は僅かに空中に浮き、身 動きが取れない状態になっていたのだ。

 

「今日は!!」

 

 リキュールが追い討ちを仕掛けようと跳躍する。そして左とは違う、桁違いの殺気を込めて振るわれた右の剛拳。

 

「ちっ!!」

「フンッッ!!!」

 

 自分の腕で十字受けする陽太だったが、恐るべきリキュールの剛力はガードした彼の身体ごと数メートル空中にカチ上げてしまった。

 

「これでぇッ!」

「(コイツッ!!)」

 

 空中で生身の状態では体勢を立て直す隙もない。そこに陽太の腹部にリキュールは強烈な剛拳の鉄鎚を振り下ろす。

 

「ゴハァッ!!」

「…………仕舞いだよ、陽太君」

 

 口から大量の吐血をしながら、凄まじい轟音とともに出来たクレーターに陽太がめり込み、ピクリとも動かなくなってしまう。圧倒的な力で陽太が地面に沈められ、千冬もセシリアも発する言葉が見当たらず、僅かに口を痙攣させるだけであった。

 

「彼ならば二時間で目を覚ますだろう………起きたら伝えておいてくれ」

 

 地面に大の字で横たわる陽太を見下ろし、彼女は妖艶に微笑みながら、言い残す。

 

「『次はISを使って死合う。君とならば楽しい死合が出来そうだ』………とね」

 

 それだけ言い残し、凍り付く学園一同を残し、リキュールは無言でフォルゴーレの肩を掴む。捕まれたフォルゴーレは花が咲いたように微笑み、他三人はあからさまに不機嫌そうにフォルゴーレを睨み付けた。

 これは竜騎兵達だけの暗黙の了解で、リキュールに肩を掴まれた者は、愛してやまない親方様を抱いて移動出来る権利を得るのだ。

 腕と脚を交差に組みながらお姫様だっこされるリキュールを抱きしめ、『にぱー』と、至福の表情をしながら飛び立つフォルゴーレ。その背後で、小声で荷物になっているコアと操縦者を押し付けあう三人も後に続く。

 

「くっ…………貴様ら!」

 

 だが、ラウラだけは自分達に突き付けられた敗北を認められず、レールカノンを構えて、リキュール達を撃ち落とそうとする。自身の失態も、千冬への乱暴狼藉も許せるものではない。ましてや、目の前へで見せられた人間離れした陽太の動きを、更に化け物染みた動きで上回ってみせたリキュールに、ラウラは知らず知らずのうちに恐怖を感じ取っていたのだ。

 

 だが、そこへ千冬が制止するように彼女の肩を掴んだ。

 

「ラウラ、止せ………我々の敗けだ」

「ですが、教官!?」

「見逃されたんだ…………理解しろ」

 

 自分の肩を掴む千冬の手が奮えているのを感じ、ラウラは渋々とレールカノンを下ろした。

 あのまま続けていれば、どちらに分があっただろうか?

 

 それはこの場にいる全員が嫌と言うほど感じていることだった。

 

「…………あの女…」

 

 千冬は自身への不甲斐なさと地面に這わされた屈辱と、何よりも陽太を止められなかった悔いによって思わず奥歯で歯軋りする。

 

 生きていることは、知っていた。

 以前よりも実力を上げていることも、予測していた。

 

「(だが、この差はあまりにも理不尽だ!!)」

 

 

 かつての強敵に、今の自分では歯が立たない。それが嫌というほど思い知らされる。その理由は一つだけだ。

 込み上げてくる悔しさに、思わず古傷である胸の傷に痣がつくほど爪を突き立てる千冬。

 

「(………このままではいかん!………この現状を打破できるのは、やはりお前達だけなのか?)」

 

 もどかしい気持ちでいっぱいになりながら、千冬はセシリアに介抱されている陽太を抱き上げ、そして、本来ならば決して認めたくなかった『IS学園』への入学をしてきた、自分の実の弟に思い馳せるのだった。

 

 

 

 

 




 オリジナル設定・①

 『オーガ・コア』

・正式名称は『オーガ・コア・システム』。異常活性化されたISコアのことであり、これを搭載するISは、非オーガコア(以下OC)機を遥かに凌駕する戦闘力を発揮する。

 ・非OC機よりも10倍近い出力を生み出す
 ・絶対防御を無視する絶対破壊(アプソリュート・ブレイク)なる特殊機能を標準装備
 ・防御力、機動力、再生能力、ともに非OC機とは比較にならないほど高い

と、凄まじいメリットを持つ反面、

 ・操縦者に多大なストレスを与える
 ・上記のことが進行すると操縦者を取り込む
 ・そして必ず暴走し、操縦者を憑り殺す。よしんば生きていても廃人にしてしまう。

という、兵器としての致命的欠陥(デメリット)を抱えており、各国もOCの実用化に頭を抱えているのが現状。

だが、亡国機業はOCの段階的制御に成功しており、それによって各国を凌ぐIS関連の技術を保有していると思われ、これが世界中の首脳部に危機感を募らせている。

ちなみにこのOCはアラスカ条約に記載されている「467個」のコアにはカウントされておらず、実際の総数は不明。このことは各国のトップシークレットとして口外はタブーとされている。

ちなみに、『製作者は不明』とされているが、ISコアの製作が出来るのはただ一人……つまりは………?
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