IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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さあ、箒のターンだ!
そして思わぬ形で改変の煽りを受けたあの二人も登場。


更識ファンの皆さん、ごめんなさい



誓いし剣

 

 

 

 

 

 轟ッ!

 

 オーガコアがその巨腕を振るい、箒を叩き潰そうと刃と化した腕を振り下ろす。その攻撃を前進しながら箒は跳躍して避けると、両手に持った二本の刀、『雨月(あまづき)』と『空裂(からわれ)』で同時に斬り上げて、装甲の一部を斬り裂いてみせた。

 本来、『雨月(あまづき)』と『空裂(からわれ)』は二本とも『近接にも対応した射撃兵装』という特異な武装であるが、箒はあえてそのコンセプトを無視し、『エネルギーをコーティングした状態で直接敵オーガコアの装甲を斬り裂く』ことに使用していた。これはシールドバリアの強度とゲージが通常ISとは一線した桁違いのモノを誇るオーガコア相手に独自で研鑚した戦術であり、エネルギーのロスを減らす目的もあった。意味をほとんど生さない射撃をして無駄にエネルギーを消費するよりも、一点に集中して直接叩きつけた方が効果的であり実戦的だと箒は判断したのである。

 

 奇声を上げながら後退するオーガコアであったが、ダメージがほとんどなかったのか、すぐさま前足で箒を牽制するような突きを放つ。その攻撃を思わず上空へと跳躍して回避するが、それを待っていたかのように放たれた強烈な腕の鎌による横薙ぎの攻撃をまともに受けてしまう。

 

「ぐうっ!!」

 

 間一髪で二本の刀での防御に成功するが、敵は箒の6倍以上の巨体とそれ以上の質量を持っているのだ。金属バットで殴り飛ばされたゴムボールのように、上空から弾き飛ばされ、地上を100数十mほど吹き飛ばされながら転がっていく。

 肺の中の空気はすべて吐き出され、激痛のあまり視界が歪む。平衡感覚も何もかもが狂い、自分が上を向いているのか下を向いているのかも理解できない。

 だが、痛む身体と精神に無理やり活を入れた箒が、転がりながら何とか体勢を立て直し、吹き飛ばされた運動慣性で止まらぬ刀を地面に突き立てながら急停止をかけ、痛む首を無理やり上を向けさせる。

 

 ―――上空から自分を押し潰す様に降ってくる巨体―――

 

 それが何か考える間もない。

 上空からその巨体を叩き付けるだけで箒を押し潰せるとオーガコアは思ったのか、彼女の真上から強襲してくる。

 

「調子に乗るなっ!」

 

 そこへ箒はオーガコアのその行動を逆手に取り、紅椿(あかつばき)のスラスターを全開にしながらの突撃(チャージ)を行い、敵に肉薄した。瞬時に左の空裂を逆手に持ち返る箒。

 

「!!」

 

 紅と鈍灰、刀と鎌、人と蟲、修羅と悪鬼………互いの渾身の一撃同士が激突し、空に砕けた刃が舞い上がる。

 

「………篠ノ之流、『鋼砕(たまくだき)』!!」

 

 勝利したのは、決して兵器として操縦者共々異形に墜ちたオーガコアではなく、ISを纏いながらも古の武士(ものふふ)の技を駆使した箒の方であった。

 相手と交差した瞬間、箒は相手の刃ではなく、刃と肩の間にある僅かな間接を二本の刀を突き立てることで見事粉砕してみせたのだ。奇しくもオーガコアの圧倒的質量を逆手に取り、カウンター技で装甲とバリアーが薄い部分を狙い打った形になる。

 

 オーガコアが醜い奇声を上げる中、入れ違うように相手の頭上を取った箒は、そのまま降下し、もう一本の腕に迫り、敵の主戦力を奪いにかかる。

 

「胡蝶蘭!」

 

 両足の装甲が瞬時に変形し、足首の辺りからレーザーブレイドを形成した紅椿は、オーガコアの肩の装甲を難なく斬り裂き、相手を地面に叩き落した。後を追って速攻で勝負をつけようとした。

 

 だが、それが間違いであると箒は思い知らされる。

 敵オーガコアは、自身に向かってくる憎き狩人を八つ裂きにしてやろうと、あろうことか箒に『背』を向けたのだ。

 その行動に一瞬だけ怪訝な表情を浮かべた箒が、敵の狙いに気がついたとき自分の視界を黒い何かが覆い尽くし、彼女を漆黒の濁流が飲み込んでいた。

 

「グッ! こ、これは………!?」

 

 自分に纏わりつくものを振り払い、地面に着地する箒。そしてそんな彼女の周囲に降り立った漆黒の塊たちは、その球体から突如脚を、手と一体化した鎌を、異形の顔を次々生やして彼女の周囲を取り囲む。敵が放ったのは砲撃ではなく、自身の小さな『分身(異形の蟷螂)』達だったのだ。

 ワラワラと夏場の羽虫のように湧き出てくる小型の分体達を睨み付けながら、いったいどうやって生み出しているかと箒が本体を見た時、彼女は絶句する。

 

 いや、腹の底から湧き上がって喉元に溜まったモノに言葉が塞き止められたのだ。

 

 オーガコアの腹の部分から伸びた無数の透明の触手が、周囲に散らばっている大破した戦車に、息絶えた人間の死体を吸収して、腹の中で取り込んでいく。

 オーガコアは自身の欠損の修復と、箒の足止めのための戦力(分体)を生み出すために、自身が破壊して皆殺しにした自衛隊の戦車を利用していたのだ。

 

「貴様ァ………」

 

 ギリッと握り締めた手から鈍い音が鳴り、奥歯を噛み砕く勢いで歯を食いしばる箒。死して尚、その亡骸すら弄ばれている自衛官達の姿を見た箒の理性のリミッターは完全に振り切れる。

 

「この………化け物がぁっ!!」

 

 鬼気迫る表情で周囲を取り巻く分体達に突撃する箒。激情に任せた斬撃は普段の彼女とは正反対の獣の牙のような荒々しさで分体達を斬り裂いていく。そのまま止まらず、回転してさながら舞うような動きで小型の竜巻と化す箒。

 本体と違い、サイズ的に大差がないためか、中心で刀を振り回す箒によって木偶の様に斬り落とされていく分体達であったが、流石にやられてばかりでない。

 数に任せ、周囲から同時に攻撃する者。箒の背後を取って斬り掛かる者。四方八方から迫る敵の攻撃を、箒は両手の刀と両足の胡蝶蘭で捌きながら斬り倒していくが、単純な手数で劣る箒が次第に追い込まれていく。分体のうちの一体の攻撃が箒の右腕を斬り裂き、真っ赤な血を噴出させたのだ。

 

「(くっ! 絶対破壊(アプソリュートブレイク)!? 本体だけではなく分身たちも有しているというのか!?)」

 

 ISの優れた防御性能である『絶対防御』を無視して、操縦者を殺傷できるオーガコア特有の凶悪な能力を分体達までもが所有していることに驚く箒。

 異常な増殖能力に、ISを所有するものにすら容易く致命傷を与えられる攻撃能力と、軍用ISすらも超える防御性能。

 改めて「オーガコア」と呼ばれるこの異形のISの恐ろしさを痛感する箒であったが、膝を折って敗北するわけにはいかない。

 

 更に一撃、左側からきた攻撃を避けきれず、左の太股を切り裂かれてしまうが彼女の闘志はいささかも衰えない。

 

「だからとてっ!」

 

 自身の劣勢を跳ね除ける言葉と共に上空に飛び上がった箒。それを追いかける分体達と、両腕の修繕が終わった異形の蟷螂が巨体を跳躍させようとするが、箒はそこに先手を打つ。

 

「地面に這い蹲れ!」

 

 背中にある紅椿の最大の特徴、『展開装甲』が切り離され、二機のビットと化す。そしてそれと同時に両肩と両脚の装甲が開閉し、それぞれ『展開装甲』の中から多数の『弾頭』が現れる。

 

「散桜刃舞(さんおうじんぶ)!」

 

 箒の掛け声と共に発射された弾頭は、ミサイルのようにオーガコアと分体に襲い掛かると、接触の瞬間、先からレーザーの刃を生み出し、一つ一つがレーザー刀となって、異形の悪鬼達に突き刺さる。

 

「!!!!」

 

 流石にこの攻撃は読めなかったのか、聞きなれない奇声上げ、地面をもがきながら転がるオータコア。なまじサイズが大きかっただけに、体中に針を刺されたように無数の刀が突き刺さっていたためである。見れば分体達も同じように刀が突き刺さり、地面に縫い付けられながらもがき続けている。

 

 そんなもがき苦しむ悪鬼達の群れの真ん中を平然と進む箒は、切っ先をオーガコアに向けると、一切の容赦なく相手にトドメの一撃を放つ構えを取った。

 

「貴様ら悪鬼が人々に害を成すというのなら、私は、剣となって貴様ら害を斬る!」

 

 背中にあったビットが切り離され、左手に持った空裂と一体化して瞬時に刃を変化させ、彼女はその手に身の丈とほぼ同等の大きさの刀を握り締める。

 

「それが篠ノ之箒という…………『剣』の生き様だ!!」

 

 そして頭上に掲げ、言葉と決意と想いと共に一気に振り下ろした。

 

「剣撃飛翔!! 紅牙一閃(こうがいっせん)!!」

 

 空裂が本来持っていた『斬撃そのものをエネルギー刃として放出する』機能を展開装甲で数倍に上昇させ、オーガコア相手にも一撃必殺の威力とする巨大なエネルギーの刀波は、異形の蟷螂に直撃するとその上半身を真っ二つにされ、地面に崩れ落ちる。

 

 だが敵は完全に沈黙したわけではない。コアと操縦者が無事ならば無限に復活する、それもオーガコアの恐ろしさなのだ。

 それを重々承知している箒はすぐさま胴体部分に向かい、二本の刀で装甲を切り裂いた。

 

 ―――オーガコアと白目を剥いて何かをぶつぶつ呟く操縦者の女―――

 

 案の定、上半身にその姿が見られなかった操縦者の女は、装甲の厚い胴体部分にその身を守られていて、まだ息がある。

 

「(この女もオーガコアに取り込まれただけ………だが、お前がここにいた自衛隊(防人)達を殺したことには違いない!!)」

 

 コアと女性。今ならば容易く両方両断することもできる。そんなこの状況が、暗い暗い、想いが箒の胸中を蝕んでいく。

 

「(そうだ! この女はもう廃人になることは確定している! それに何よりも!!)」

 

 先ほどから自分に向かって妖しく輝くオーガコアが、まるで箒を挑発しているようにも見えた。

 

 ――― 斬れ 殺せェ!! そしてお前も私と同じ「人殺し」になれ ―――

 

 箒の心中に聞こえるはずもないそんな声が響いてくる。

 

「(高々兵器如きが何を言っている!? 私は………私は!!)」

 

 迷いながら、心の中を蝕む闇の声を振り払えないまま、彼女は手にした刃を振り下ろし………機体からコアと女性を引き剥がす。

 すると、先ほどまで地面にのた討ち回っていた分体達が一斉にその動きを停止させると、グズグズと溶けて地面にゲルのように広がっていく。

 

「………状況、終了…」

 

 何とか搾り出すようにその言葉を告げた箒に向かって、上空で旋回していた自衛隊のヘリが降りてきた。どうやら戦闘が終わったことを確認し、コアと操縦者と箒を回収しに来たようである。

 

 コアと操縦者の女を渡そうと、箒がヘリに近寄る。だが、その時、またしても先ほどの声が脳裏に響いてきた。

 

 ――― 失望した この半端者が ―――

 

「!!」

 

 驚愕のまま箒は手にあるオーガコアを見つめたが、またしても妖しい輝きが箒を嘲笑うように光る。

 

 ――― 憎しみで刃を振るう癖に、ここぞという時にお前は理性に縋る ―――

「何を………言って…」

 ――― お前が欲しがっている物が目の前にあるというのに、お前は手を伸ばす覚悟がない 弱いからな ―――

「貴様ッ!」

 ――― 無駄だ お前は弱いまま朽ちて逝くだけだ ましてや『仇』など取れはしない そう、お前は弱いからな ―――

「黙れぇ!!」

 

 怒りに任せてコアを地面に叩きつける箒。その様子にヘリの中の自衛官が何か抗議の声を上げるが、箒の耳には一切届きはしない。彼女の目はその怪しく光るコアを睨み付けて離れはしないでいるのだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 自衛隊の駐屯地までヘリによるコアの護送を承った箒は、無事目的地にまで着くと、自衛官の感謝の言葉も早々に打ち切り、IS学園への帰路に着こうとしていた。

 駐屯地にいた将官の一人が、そんな箒を送っていこうという好意を見せたが、彼女はそんな言葉をバッサリ切り捨てる。

 

「私は自衛官ではありません。それに私がもう少し早く着いていれば死なずにすんだ自衛官達も大勢いたはず。ならば私に感謝の言葉を告げるよりも、先に彼らに労いの言葉をかけてください」

 

 それだけ告げると、箒は駐屯地を後にする。

 時間を見ればすっかり夜も更け、今から電車を乗り継いでも途中のどこかの駅で立ち往生することになりそうだ。学園ともかなり距離がある。ISで飛んで帰れればいいのだが、流石に街中を許可なしに飛行すれば、学園と政府の両方から何を言われるかわかったものではない。

 幸い、学園側には外出許可を出している。それにこれは政府からの直接の依頼だ。多少の便宜ぐらいは働いてくれるだろう。

 

 とぼとぼと夜道を30分ほど歩いた箒は、街中のバスターミナルにたどり着く。

 自衛隊の駐屯地が街からさほど離れていないことが幸いしたのか、見れば深夜の高速バスがあることが掲示板で見て取れた。しかもIS学園に続く駅までの直通で、朝方には着ける時間である。

 

「授業………サボらずにすんだな」

 

 安堵のため息を漏らす箒であったが、突如、手足に鋭い痛みが奔った。先ほどの戦闘での負傷である。

 

「流石に痛み止めも限界か………仕方ない」

 

 痛み止めを直接患部に打ち、包帯を巻いていただけの簡素な止血だったためか、薄っすら包帯にも血が滲んでいた。

 箒は痛む体を動かし、バスの停留所まで辿り着くと、鞄と重い身体を待合室のイスの上に座らせる。幸いにも待合室には誰もおらず、傷の処置をするにも好都合であった。

 

「女子高生が、一人で自分の傷を縫っている姿など、見せられないからな………」

 

 箒は鞄の中から医療用のソーイングセットと包帯といくつかの薬品を取り出すと、自分で巻いた包帯を取り、血がにじみ出る患部を消毒し痛み止めの薬品を注射すると、口の中でハンカチをかみ締めると右腕の傷を自ら縫合し始める。

 傷は思っていた以上に深いのか、一合一合糸を通すたびに激痛が走るが、彼女はその強靭な意志で堪え続けた。

 傷を全て縫い終えると、消毒液を掛けて血を拭い去り、傷口が化膿しないよう無菌状態を保つフィルターを張り付け、その上から隠すように新しい包帯を巻き直す。

 そして左脚の太ももにも同様の処置を施し、ようやく傷口の処置を完了させた箒は、玉のような額の汗をタオルで拭うと、痛む身体を起こして自販機でスポーツドリンクを購入し、一気に飲み干す。渇いた喉を潤すために3分の2ほど飲むと急激な空腹を彼女は覚えた。

 

「そういえば、昼間から何も食べていなかったな………」

 

待合室から出て辺りを見回す箒の視界に、駅前のコンビニが目に入る。深夜バスの時間を確認して、後10分ほどしかないことを知った箒は、若干急ぎ足でコンビニに入ると、レジの横に並べてあった棚から、適当におにぎりと菓子パンとサンドイッチを取り、最後にお茶を手に持つとレジで精算して、また急ぎ足で停留所へと向かう。

箒が停留所に着くと同時に深夜バスが姿を現した。

箒は戦闘による疲労と出血による軽い貧血状態でフラフラになりながら、バスに乗り込み、そこで漸く肩の力を抜くように深い深い溜め息をつく箒。途中、バスに乗り込む際に運転手が怪訝な表情を浮かべたが、『IS学園の者です』という言葉と学生証を提示したことで面倒な詰問も受けずに済んだ。

以前ならISに関係することには無意識で毛嫌いしていたはずなのに、今では当たり前のように言える自分の変化に、軽い驚きを覚えながらも、箒は買ってきた夜食に手を伸ばし…………意識を止めてしまう。

 

「………………メロンパン」

 

適当に篭に放り込んだためか、選んだ商品にまで気を回してなかったために、箒は驚きのあまり固まってしまう。そして一分ほどメロンパンを眺めた後、彼女はおもむろに封を開けると一口かじると、再び手元のパンをじっくりと眺め始める。

 

「……………そういえば、最初のおやつもメロンパン半分こだったよな……」

 

 懐かしさに心と視界を滲むのを感じた箒は、袖で眼を拭う。だが、何度拭っても歪んだ視界が元に戻ることはなく、彼女は思わず心の中で自分に向かって微笑んでくれている人物の名前を口にするのであった。

 

「…………簪(かんざし)…」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 一年毎に転校と引越しを繰り返した箒が新しい住居となる家の前で途方に暮れていた。

 今年中学校に上がる箒は、姉である束の失踪と同時に政府から要人保護プログラムなる『監視』の目を受けることになる。それにより、大好きだった両親と幼馴染の姉弟とも引き剥がされ、一年毎に転校と引越しを繰り返すだけの生活をしていたのだ。

 当初は束に対して怒りとも憎しみともつかない暗い気持ちで心の中が一杯になっていたが、それも日が立つことに薄らいでいた。いや、負の感情だけではなく、喜びとか楽しみとか明るい感情も一緒に薄らいでいくのを箒は心の中で感じていたのだ。

 

 自分はそのうち喜びも怒りも哀しみも楽しみもまったく感じることがない人形になるのだろう。

 

 漠然とそのように感じ始めていた箒は、転校先でも進んで友達を作ろうとはしなかった。それどころか他者へと進んで関る事も避けるようになっていた。結果、彼女は誰もいない部屋でも学校の教室の中でも孤独に苛まれる。それでも、そうした耐え難い孤独すらも、いつか何も感じることがなくなるよう願い続けていた。

 

 だが、そのような箒にも転機が訪れる。

 

「……………」

 

 『更識(さらしき)』と古めかしい字で書かれた表札を貼り付けた堂々たる門構え。そして敷地を取り囲むように作られた塀だけでも自分の眼で両端を捉えることができないぐらいに広い。明らかに今まで一人で住まわされていたマンションやアパートとは違う住居である。

 箒は何度も手渡された地図に書かれた住所と目の前の家の住所を照らし合わせるが、ここ以外に考えられない。というかここ以外にこの辺りに家が存在しない。

 

 しばし地図とにらみ合う箒であったが、意を決して目の前のインターホンに手を伸ばす。

 徐々に近づいていく指先、緊張して唾を飲み込む箒………。

 

 5cm、4cm、3cm、2cm、1cm………。

 

 彼女の指がインターホンに後数ミリで触れようとした時………。

 

「こんにちは、篠ノ之箒さんですね」

「ひゃうっ!!」

 

 背後から突然かけられた声にびっくりして振り返ると、そこには眼鏡をかけたセミロングの髪形で癖毛は内側に向いている小柄な少女であった。

 

「ごめん………びっくりさせた?」

「い、いや、すまない。こちらの方こそ突然変な声を出して」

「いえ、お姉ちゃんが出迎えに出たら、もっと変な声を出させてしまったかもしれませんから、良かったです」

「………?」

 

 何のことだ? と箒が聞き返す間もなく、目の前の少女は箒が持ってきたボストンバッグを手に持つと、門の隣の勝手口をくぐり、なにやら愚痴り始める。

 

「もう………お姉ちゃん、やっぱりこんな悪戯して………今日から一緒に住む人に、なんて歓迎をする気?」

 

 なにやらとんでもない歓迎の準備でもしていたのか、ガサゴソと不気味な音をさせながら何かを片付け始める少女。そして約5分ぐらいかけて全て片付け終えると、改めて勝手口から顔を覗かせ、箒を中に案内する。

 

「ごめんなさい箒さん………お姉ちゃんがまた悪戯を沢山仕掛けてたみたいで、念のために勝手口からどうぞ」

 

 抑揚のない声で中に案内された箒は、おっかなびっくり周囲の状況を見回す。

 敷地の中はというと、これ以上ないというぐらい手入れの行き届いた純和風の庭園であり、どこの大名屋敷かと見間違う豪華さである。

 門から歩くこと15分。歩いて15分もかかる敷地の広さに驚いていた箒は、目の前にある屋敷の大きさにさらに絶句した。

 大名屋敷じゃない。ここは将軍様の城か何かか?

 年数が立っていながらも、古びた様子がまるでない木造の家ながら、大きさは体育館と同等………いや、ひょっとするともっと大きいかもしれない。しかも箒には、更に奥のほうに似たような造りと大きさの屋敷が見え、実は今見えているこの家すらも、全体の一部なのかもしれないという事実に戦慄する。

 

「あ、ここ玄関ですから、靴脱いでください」

「す、すまない………いえ、すみませんでした!」

 

 急に話し方を変える箒の様子を不思議そうに見る少女。その時、立派な金縁に玄関の前に仁王立ちする者がいた。

 

 少女に似た髪型と顔立ちでありながら、どことなく奥手そうな印象の少女とは裏腹な活発さと身長とプロポーションをした少女は、腕を組んで仁王立ちしつつ扇子を広げると、箒に大声で何かを言い始める。

 

「よく来たわね、篠ノ之箒ちゃん! 私の名前は・」

「………どいてください『楯無(たてなし)』さん。お話ならまた今度にでも」

 

 楯無、と言われた少女の隣を素通りしようとする少女に対して、楯無はさっきまでの態度はどこへやら、少女の腰に纏わりつくと半泣きで必死に哀願し始める。

 

「お願い、簪ちゃん!! そんな他人行儀な呼び方しないで!! お姉ちゃんっていつもみたいに言ってぇ!! でないとお姉ちゃん死んじゃう~~~!!!」

「どいてください楯無さん………それに私のお姉ちゃんは今日から一緒に住む人に悪戯するような人ではありません」

「ごめんなさい! 反省してます!! もう絶対にそのようなことしません!!! ですから今すぐにでもお姉ちゃんって言ってぇ~~~!!」

 

 自分よりも身長も年も下の少女に必死に懇願する態度に、簪と呼ばれた少女はため息をつくと、姉に対して諭すような口調で話し始める。

 

「もう………ダメだよ。こんなことしちゃ……わかった、お姉ちゃん?」

「うん! わかった!! 簪ちゃん大好きーー!!!」

 

 態度を軟化させた妹に大喜びの姉は、大好きで大好きでたまらない妹の頬っぺたに頬ズリをしつつ、箒に改めて自己紹介し始める。

 

「こんにちは篠ノ之箒ちゃん! 私がこの家の当主である更識楯無! それでこの超絶可愛い私のラブリーシスターが更識簪ちゃん! 今日から一緒によろしくね!」

「………はぁ…」

 

 目が点となった箒が、かろうじて言えたのはたったその一言だけであった………。

 

 

 屋敷の中に通された箒は、とりあえず自分に宛がわれた部屋(どうみても一泊数十万する高級和風旅館の部屋)に手荷物を置くと、簪の部屋に通される。

 迷宮かと思われる屋敷の中で、途中何人かの女中さんとすれ違うが、全員楯無と簪を見るとお辞儀するどころか壁によって道を明ける動作を全員していて、目の前の姉妹がこの家の君主であることを如実に示した証拠でもあった。

 それゆえに、通された簪の部屋もさぞかし凄まじい豪勢さなのだろうと覚悟してただけに、箒は先ほどとは別の意味で目が点になる。

 

 まず中央を陣取る、仮面を被った孤独なサイボーグ戦士一号二号の決めポーズポスター。その隣に、どこかの光の国からやってきた巨大なヒーローを模したソフビ人形が鎮座している。棚にはそれぞれ『〇〇戦隊』を名乗っていた正義のヒーローチームの巨大合体ロボの玩具が飾られ、本棚には本の代わりにDVDがずらりと入れられていた。ご丁寧に観賞用と限定版DVDBOXと分けて。

 更に箒の目には、それらの派生ともなる各種入り乱れのグッズの数々で埋め尽くされた棚があり、それらがポスターとともに本来50畳はあるはずの部屋を圧迫してたのだ。

 

「(なんだ、この異空間は?)」

 

 明らかに、この豪華絢爛な武家屋敷の中においてここだけは異彩というか違和感というか異臭というか、とりあえず言葉では説明しきれない得体の知らないオーラを発していることに気がついた箒は、思わず一歩引いてしまう。

 だが、そんな中でも簪は意気揚々と自分のコレクションの中から何かを選び出していた。

 

「…………箒さん、初心者っぽいから、コレから入ろう………明日はこのシリーズで、来週からは昭和〇イダーシリーズ……」

「(何を来週まで見せられるというのだ!! というか、これは何かの洗脳の儀式か!?)」

 

 畳をひっくり返し、実は下にも収納スペースがあることを地味に見せ付けながら何か嬉しそうに笑っている簪の様子に困惑している箒であったが、ふと、簪が自分を見ていることに気がついた。

 

「………よかった…箒さん、無理してそうだったから…」

「………何のことだ? 私は何も無理などしてはいないぞ」

 

 自分でも驚くほど固い言葉で言い返してしまったことに、少し後悔してしまうが、そんな箒に簪は少しだけ昔話をしだす。

 

「昔々………とある家に二人の姉妹がいました」

「???」

「姉は文武ともに極めて優秀な天才で、人柄も良く、このまま成長すれば歴代最年少で当主になることができるほどの人物。片や妹のほうは全ての能力が並みでしかない凡人で、しかも何処となく暗い性格です………」

 

 鋭い痛みが箒の心に走る。思い出したくもない痛みがぶり返してきた。

 

『流石、天才の妹』

『天才なのは姉の方だけか』

『妹はどうやら出来損ないか』

『お前の姉のせいでこんなことになったんだ』

『天才の妹だからって贔屓されるな』

『お前なんていらない。ほしいのは姉のほうだ』

 

『天才、篠ノ之束の平凡な妹』

 

 どうして? もう何も感じなくなったと思っていたのに、簪の目を見た途端、あの時の痛みが心を締め付けていく。

 箒が目を閉じて顔を伏せ、唇をかみ締めるその姿に、簪も若干陰のある表情で話を続けるのだった。

 

「妹は姉に追い付きたくて、追い付きたくて、必死に努力しました。でも、どう頑張っても姉には敵うことも追い付くこともできません」

「………やめろ」

「ですが、妹はどうしても諦めきれませんでした。だって………そんなお姉ちゃんが自分の自慢で、何よりも大好きだから」

「………黙れ」

「だから、その妹はある日からずっと思い続けています。『自慢のお姉ちゃんみたいになれない自分なんて大嫌いだ』って……」

 

「煩い!! 黙れぇ!!!」

 

 いつの間にか立ち上がった箒が、怒鳴り声を上げながら簪に詰め寄る。

 

「お前に私の何が解る! 私はっ!」

「解るよ………」

 

 静かで穏やかな声でありながら、簪の声色の中に自分への理解と思いやりが込められている事を箒は感じ、思わずたじろいでしまう。

 対して、簪は箒の頬に両手で触れると、かすかに微笑みながらもう一度箒への理解の言葉を彼女に送る。今度こそ孤独な彼女の心に届くようにと………。

 

「解るよ………箒さんが、本当は束さんのこと、大好きだってこと」

 

 その言葉が彼女の孤独な壁を決壊させ、自分の瞳から溢れ出す温かな物が頬を濡らしていく。何度拭っても止めることができない。そしてそんな箒を彼女よりも背の低い少女が抱き締める。

 

「……うっ……う、うぅっ……ご、ごめん………うっ……ひぐっ……」

 

 しゃっくりを上げながら自分の腕の中で泣き続ける箒に、簪は彼女がなぜ更識の家で暮らすことになったのかの経緯を話し始める。

 

 更識の家は代々暗部という要人暗殺や裏の仕事を受け持つ輩に対抗するために生み出された『対暗部用暗部』とも言える特殊な家系であり、そのため今でも日本や各国の政府に太いパイプを持つこと。

 そのためか世界的に有名な人間の動向には敏感であり、そういったことの一環でIS開発者である篠ノ之束の妹、篠ノ之箒の存在を知り、同時に彼女の護衛係をしてほしいと政府が更識に依頼してきたこと。

 そして、同い年の簪は彼女の学友として護衛をするために、彼女の環境について詳細なデータを渡されたが、知れば知るほど自分と似通った彼女の境遇と、現在置かれている箒の環境に我慢できず、『いっそのこと更識の家に一緒に住んでしまったほうが護衛の手間も省ける』と初めて当主である楯無に無理を言ったこと。

 

「ごめんなさい………勝手に箒さんのこと……調べちゃって…」

「いや……もういいんだ。それに、そのおかげで私は自分を理解してくれる人に出会えたんだし…」

「でも……」

「いやいい………ありがとう、簪」

「…………えへへっ」

 

 自分の名前を初めて言われた簪ははにかみながら微笑むが、その時、突如簪が座っている隣の畳が吹き飛び、そこから楯無が必死な形相で簪に飛びついてきた。

 

「だめよ! 箒ちゃん!! 簪ちゃんは貴女のお嫁さんにはできないの! 簪ちゃんは私のお嫁さんに・」

「…………また勝手に床下掘ったの? お姉ちゃん?」

 

 さっきまでの笑みはどこかに消え失せ、絶対零度の無表情に変化した簪は、その表情のまま楯無を睨み付ける。

 

「あの……その………ちょっとだけ心配で…」

「………心配は結構です。ですから部屋から出てってください『楯無』さん」

 

 またしても他人行儀な呼び名を言われ、半泣きで彼女に抱きつこうとする楯無であったが、今度は本気で怒っているのか簪は姉を引きずると部屋から押し出そうとする。部屋と廊下を挟んで力勝負を展開させる妹と姉。

 

「………出ってて」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいッーー!!!」

 

 姉と喧嘩などしたことがない箒は、その光景を不思議そうに見つめながら、どこか心が温まる感じがして、こそばゆい気持ちになりながらも、少しだけ笑顔で見続ける。

 

「………今日から別のお布団だよ、楯無さん」

「ぎゃあああああっ!! それだけは勘弁して簪ちゃん!! お姉ちゃんは寂しすぎると死んじゃうんだよぉっ!!」

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 それからの一年は、瞬く間に過ぎていった。

 途中、二人の幼馴染で代々従者として仕えている布仏姉妹とも知り合い、箒の周囲はにわかに活気付いていた。

 同時に、自身で遠ざけていたISのことについても、自分から関ることになり、更識のパイプを使い、第二世代ISの『打鉄』の操縦者として訓練に励んだ。

 春が過ぎ、夏が過ぎ、途中誕生日を開いてもらい深夜まで宴会騒ぎになったり、更識姉妹と布仏姉妹と箒の五人で海に行き、簪が自分の発育状態に落ち込んでしまったり、秋になり本音が食が進むと馬鹿食いしたツケに、乙女として危機水域に突入してダイエットに励んだり、冬になり、皆で雪合戦をして熱中しすぎたあまり、五人で風邪を引いたり、クリスマスを祝い、初詣を祝い、今まで置き去りにしてしまった幸せを取り戻すように、箒の笑顔は増えていった。

 

 

 

 そして、冬が終わりを迎え、二度目の春を迎えようとした時、彼女の小さな幸せはあっけなく崩れ去る。

 

 

 

「なっ………」

 

 日本政府とロシア政府が極秘に解析を進めていたオーガコアを護衛する依頼を受けた更識の家は、ISの操縦者である楯無と簪、そしてそこに箒が無理やりついていくという形を取った。

 これは更識姉妹に対する箒なりの感謝の証であり、何度も楯無や簪は気にしないでいいと言ってくれたが、箒はがんと聞かず、自分も戦力になると言い切り、護衛に参加する。

 

 だがそこで待っていたのは、箒の『幸せ』の終点と『復讐』の始点であった。

 

 月が隠れ、最後の名残雪がちらつく中に強襲してきた謎の襲撃者たち。

 当時からすでに凄腕の操縦者と知られていた楯無を中心にそれを迎撃した三名であったが、施設から引き離された時、楯無は目の前の敵が陽動であることを察知する。

 

「お姉ちゃん! 私がコアの方を!!」

 

 すぐさま、コアの護衛をするために一人施設内に戻る打鉄を纏った簪であったが、そんな簪に嫌な予感を覚える楯無と箒。

 

「楯無姉さん! 私は簪の援護を!」

「お願い、私もすぐにこっちを片付けていくから!!」

 

 楯無の援護を貰い、箒は全速力でコアの元に……いや簪の元に急ぐ。

 

「急げ、急げ、急げっ!!!」

 

 全速力で機動し、炎に巻かれた施設の中をひたすら飛び続けた箒は、そこで目撃したのだ。

 

 

 ―――全身、黒い装甲で覆ったIS―――

 

 ―――黒い腕で腹を貫かれている簪―――

 

「な………」

 

 何が起こっているのか、最初理解できずにいた。

 だが、黒いISがゴミを捨てるかのように腕から簪を放り出すと、箒の意識は覚醒し…………怒りで視界が真っ赤に染まる。

 

「キィィィィィィィィサァァァァァァァァマァァァァァァァッ!!!!!」

 

 打鉄のブレードを構えて、黒いISの頭部目掛けて突撃する箒。無論、黒いISの頭をぶち抜くつもりで渾身の突きを放つが、あろうことかその攻撃を振り返りもせず、黒いISは突然生えた『黒い腕』であっけなくブレードを砕くと、その手にオーガコアを持ち、施設の天井を砕いて空に飛び去ってしまう。

 

「待てぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 なおも追いかけようとする箒であったが、彼女の残った最後の理性が、床に寝転がる簪の姿を捉える。一瞬だけでも追うかどうか巡考した自分を激しく心の中で罵倒した箒は、すぐさま彼女の元に駆け寄る。

 

「簪ぃ!!」

「………ほ……うき?」

「喋るな! 今すぐ病院にいこう!!」

「………めん…」

「簪?」

「………ご………めん……ね…」

「何を!」

 

 何を言っているんだと言葉を続けようとした箒であったが、簪は最初に出会ったときと同じはにかんだ笑みを浮かべ…………力なくその手が地面に落ちてしまう。

 

「いや………いや……いやあああああああああああっ!!!!」

 

 

 

 

『峠は越えましたが、出血が多く、ショック症状を起こしていました。脳内への酸素不足もあって、これから意識が目覚める可能性は極めて低いものと思われます』

 

 病院でたくさんの管を通され、人工呼吸器を着けられて寝かされている簪を治療した医師のその言葉を聴いた楯無は、涙を堪えてその言葉を冷静に聞き届けていた。

 

 対して、箒は涙も出ない。最初に更識の家に来たときに逆行………いや、彼女が望んでいた人形にでもなったかのように一切の感情が沸き立たなくなった。

 

「(どうして………誰も……私を責めない?)」

 

 楯無も、布仏姉妹も、更識の家の人も、誰もかれも箒を責めなかった。そのことが逆に箒を追い詰めてしまっていることに気がつかずに………。

 

「(どうして……誰か私を責めてくれ。二度と立ち上がれなくなるくらいに、徹底的に粉々にしてくれ………)」

 

 誰も責めない自分。だが絶対に許したくない自分………何も守れず、何一つ報いることもできず、何一つ返すこともできない………自分は楯無から、布仏姉妹から、更識の家の人から、かけがえのない人を守れなかったというのに………。

 

「(私は……許さない………私自身を、絶対に許したりしない!!)」

 

 ならばどうすればいい?

 ならばなにをすればいい?

 

 考え、考え、考え…………そして、ひとつの答えに行き着いた時、それを待っていたかのように、『彼女』は姿を現した。

 

 

「………やあ、お久しぶりほーちゃん。ほーちゃんは今、『力』が欲しくないかい?」

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「!?」

 

 気がついたとき、バスは終着駅に程近い場所を走っていた。

 

「どうやら眠りこけていたのか…………まさかあの頃を夢に見るだなんて…」

 

 朝焼けが見える窓から、空を見上げながら、箒はつくづく心の中で思う。

 

「(辛い時に見る楽しい頃の夢は、さらに今を辛くする)」

 

 それもこれもあのオーガコアによる『囁き』のせいであろうか?

 そんなことを考えているうちに、箒を乗せたバスは終着駅へとたどり着く。

 バスから降り、電車に乗り換えるために駅に向かう箒。この時間ならば、寮にいったん戻って教科書を取りに行く時間の余裕は取れそうである。

 

「………真面目に学校に行く。お前との約束の一つだな、簪」

 

 ここにはいない、病院のベッドの上で、今この時も戦っている親友に、箒は思いを馳せる。

 

「見ててくれ………簪」

 

 ―――篠ノ之箒は、必ずお前を傷つけたあの黒いISを討つ!―――

 ―――黒いISはオーガコアを狙っている! ならば、私がオーガコアを討ち続ければ、いつか奴にたどり着くはずだ!―――

 

「そうだ………何を迷うことがある?」

 

 自分に問いかける様に口にした箒の心の中に、一人の少年の顔が浮かんで消えていく。

 

「もう、何もかも遅い。私は女ではなく………剣になる生き方を選んだのだ」

 

 よもや、IS学園に彼が入学していたなど考えもしていなかった箒は、自分の中でまだそのような感情が残っていたことに驚き、だが、それを自分自身で嘲笑った。

 

「簪の代わりに今度はお前に縋り付こうとしている自分の弱さに嫌気が差す………お前もそう思うだろ、一夏?」

 

 そうだ。この感情は孤独に負けそうになっている自分の甘えだ。

 簪の敵を討つために、他の全てを切り捨てる生き方を選ぶ。それが篠ノ之箒が選んだ道ではなかったのか?

 自分には弱さは必要ない。必要なのは、『悪鬼を屠る剣』となるべき強さのみ………。

 

「篠ノ之箒は一振りの剣…………それだけあればいい………そうだよね、簪?」

 

 

 その問いに、心の中の簪が悲しそうに首を横に振っていることに、今はまだ箒が知ることはなかったのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 




簪ファンのみなさん、ごめんなさいw

だけど、本編見る限り、箒と簪って普通に仲良くできそうなんだよね、境遇的に。

簪ファンの皆さんから苦情が来そうですが、ちゃんとこれから出番ありますんで、今しばらくベッドの上に寝ていることをお許し下さい

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