―――午前4時30分 高度8千メートル地点―――
世界最高峰の山脈達の頂上並みの星空が広がり、ほのかに東の空が色づいてきた空の上において、とある二人の男子学生が向き合っていた。
否、正確にはISを展開した一人の男子学生に、見ようによっては何とも情けないものに映るがインナースーツ姿のもう一人がしがみついているという形である。
「さてと………織斑(弟)」
「死ぬっ! てか、さぶっ!! 寒いというよりも痛いッ!」
無論、全身装甲(フルスキン)のISを展開して余裕のある声で話をしているのは陽太。対して真冬の南極よりもなお温度の低い上空にインナー姿で借り出されたのは一夏であった。
それは陽太と同室になった翌日の早朝のことであった。
午前四時を過ぎた当たり、布団の中でぬくぬくと夢の世界に入り浸っていた一夏の頭を小突いて彼を叩き起こしたインナー姿の陽太は、寝ぼけ頭の一夏に有無も言わせずに待機状態のISを持たせ、同じくインナー姿に着替えさせると、外に連れ出したのだ。
春先の夜明け前ということで気温も低く、身震いする寒さにすっかり眠気が吹き飛んだ一夏は不機嫌そうに陽太を見つめるが、マイペースに自分の待機状態のISを手に持った陽太は一言、
「訓練だ」
とだけ言い、ISを展開する。
だが彼の展開状態のISを見た一夏の方はその姿に息を呑んだ。テレビで幾度か空を飛び回る姿も、無論この学園に来てから幾度もISの姿を目にすることはあったが、それらの機体とはフォルムそのものがまったく異なるISを陽太が纏っていたからだ。
白を強調した全身の装甲、各装甲の外周に紅いラインが走らされ、胸に埋め込まれた瑠璃色とエメラルドの宝石、純白マスクと一角獣のような金色のアンテナに深紅のV字のセンサー、目元を深緑のバイザーによって覆い尽くした全身装甲(フルスキン)を持ち、左腕内臓の青色のシールドと二枚一対のスラスターを兼任している白き鋼の翼は大空に羽ばたくように広げられる。
「(違う………俺の知ってるISとは全然…)」
神話の時代の騎士のような姿をしたISを身に纏った陽太の姿に内心見とれてしまう一夏であったが、そんな呆ける彼に陽太が声をかける。
「おい、お前も早くISを展開しろ」
「えっ? て、展開?」
「何をボケてる? ISを展開してこの場で見せてみろって言ってんだ」
陽太のその言葉を聴き、少々考え込んだ一夏は笑顔ではっきりと答える。
「うん。どうやって展開するのかさっぱりわからん!」
「…………テメェ」
このまま頭を持ち上げて、10m先にある池に放り込んでしまおうか、と頭を抑えて考え込む陽太。いくらド素人と言えども、まさか本当にここまで真っ白な状態の奴に専用機を渡した千冬の神経を疑いたくなる。
「(弟可愛さにやったんじゃねぇーだろうな? 何考えてんだ、一体?)」
さて、どうしたものかと思案する陽太。ここで彼自身の人間関係が意外に問題になってくる。
なんせISに関しては、聞けば全て答えてくれる生みの親である束と、操縦者としての第一人者である千冬の二人に揉まれただけに、『自分から教える』という行為を全くしたことがないのだ。
かと言って、張り切って朝早く起きてきて何もしないという訳にはいかないし、何よりも目の前の織斑(弟)に舐められるわけにはいかない。とりあえず先に織斑(弟)のISのデータを拝見することにする。
「オイ、織斑(弟)。腕上げてISをこっちに向けろ」
「うえっ! てか、なんだよ、その呼び名は!」
「イチイチうるせぇんだよ。個体認識できりゃなんだっていいじゃねぇーか」
「そういう問題じゃねぇーだろうが! 俺の名前は織斑い・ち・か・だっ!」
まだブツブツと文句を垂れる一夏であったが、陽太の全身から発している『黙れ』のオーラを感じ取ったのか渋々ながら、言われた通り腕を上げてガントレッドとなっている待機状態のISを陽太に向ける。すると額の光学センサーからレーザーを待機状態のISに当ててスキャニングし、ISコア同士のネットワークを構築する。
これは『コア・ネットワーク』と言われる相互情報交換のためのデータ通信ネットワークを通じての情報照会の一つであり、元々宇宙開発のために生み出されたISの、広大な宇宙空間における相互位置情報交換の一機能である。といっても、本来ならば無許可に専用機のデータ参照などするのは重大な条約違反なのだが、あいにくその手の決まり事をすっぽりと知らない陽太と一夏であった。
だが、バイザーの内部に流れ込んでくる情報の数々に目を通しながら、陽太はすぐさま目の前のISの不審な点の数々に気がつく。
まず、情報の8割近くが閲覧不可の『UNKNOWN』と表示されていること。これは実験機の機密保持としてならば考えられるが、それでもこの多さは異常である。プロテクトの難解さも気にかかる。
そして次に感じた異常さは、コアナンバーの欄が何故か二つあり、その表示に「No.001」と「No.007」と表示されていること。最初は何かの表示の不具合(バグ)かと思ったのだが何度再検索させても表示は変わることはない。つまりはこれが正常な情報であるということ。
そして、最後に表示されている情報。本来ならこれこそ隠しておけばいい情報に思えるのだが、だがまざまざと見せ付けるように表示さている。
―――第四世代IS・白式―――
―――開発者・篠ノ之 束―――
「(第四世代IS?………てか、それの開発はお前が匙投げたんじゃねぇーのか、束?)」
数年前、オーガコアをラボに届けた際に、珍しくうんうん唸っていた束に問いかけた所、彼女は困ったような笑顔をしながら陽太にこう答えたのだ。
『第四世代に標準搭載するため新型システムがどうにも気難し屋さんでね、束ちゃんでもお手上げかも?』
音に聞こえた天災………いや、天才の束ですら開発を難航させていた『あのシステム』を彼女が完成させたとして、わざわざそれを親友の弟のISに搭載させたのだろうか? 疑問ばかりが陽太の脳裏に募る。
今一度一夏を見直す陽太。彼の目の前では朝の寒さに根を上げくしゃみをして鼻水を拭いている一夏の姿が映る。
「………どうやら、俺が思っていた以上にお前もISも厄介者らしいな」
「びぃえくしゅんッ!………て、あにがだよ?」
鼻水すする一夏にあきれて一度だけため息をついた陽太は、一夏を脇に抱えると自分の周囲に薄い炎の膜を作り出す。
「うわっ! い、いきなり何を!?」
「凍死しない程度に熱してやるがあんまり期待するなよ。俺の相棒(IS)の能力(ほのお)は本来こういう使い方するもんじゃねーからな」
「って、どうすんだよ!? この状態で」
「上がるんだ。空に」
その台詞と共に急上昇を開始する陽太。だがこの時の彼はまだ『無許可でのISの飛行厳禁』というルールを知らずにいのだった。
そして話は冒頭に戻る。
☆
「さてと………織斑(弟)」
「死ぬっ! てか、さぶっ!! 寒いというよりも痛いッ!」
薄い炎のフィールドでは明らかに十分な温度を保っていられないのか、肌を刺すような寒さに根を上げる一夏であったが、そんな彼に陽太は素顔の見えないバイザーとマスク越しであるにもかかわらず、それはそれはとっても素敵なドSな笑顔を浮かべていることがよくわかる声で一夏に語りかける。
「これより飛行訓練を開始する。覚悟があろうとなかろうと始めるんで、そこんとこよろしく」
「飛行!? てか俺はまだISの展開のさせ方も………」
「大丈夫、成せば成る」
「何一つ大丈夫じゃねぇーよ! この高さから生身で落ちたら…」
「死んじまうな」
「!!………テメェ、いい加減にしろよ!!」
サラッと言ってのける陽太の傍若無人ぶりにとうとう一夏がキレた。腹立たしいクラスメートが突然自分に訳の判らない特訓をさせ始めたのだ。しかも事情を何一つ話さない陽太の対応にも問題がある。一夏の怒りも最もであった。
「お前の遊びに俺は付き合ってられな・」
「遊び? 何の努力もしないで、誰かを守れるとか『勘違い』してる奴にお遊び呼ばわれされたくないな」
「なっ!」
陽太の若干怒りを込めた言葉に一夏が黙り込んでしまう。
だがそれを合図とするかのように、陽太はあっさりと一夏から手を離し、彼を放り出してしまう。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
上空8千メートルからのロープ無しバンジージャンプ。
ぐんぐんと迫る地面。肌に当たる風の勢いが速度が刻一刻と速まっていることを彼に伝える。
「死ぬっ! 死んじまうううっ!!」
冗談抜きの命の危険が、死に対しての圧倒的恐怖が一夏に襲い掛かる。目から涙が零れて空に上っていく。いや、涙が地面に落ちるよりも早く自分が地面に落ちようとしているのだ。
「ホラ、早くISを展開しろ」
そんな真剣に怯える一夏の隣を並走しながら、陽太はこの期に及んで暢気にISを展開させろと要求してくるのだ。キレた一夏が陽太を怒鳴りつける。
「ふざけんな! 今すぐ助けろよ!!」
「助けたら訓練にならんだろ。ほら5千切ったぞ」
「ヒイィッ!」
「しょうがないな………一回しか言わんぞ」
恐怖に顔を引きつらせる一夏に、ヤレヤレとなりながら陽太は諭すような言葉を一夏に投げかける。
「ISって、一体何なんだ?」
「あ、ああいISは…………宇宙空間を・」
「そんな建前どうでもいいわ」
高度4千メートルを切ったことを確認した陽太は一夏が初めて聞く真剣味のある声で、彼の心の内に響く言葉を言い放つ。
「飛べないお前に、空を飛ぶ『力』を与えてくれるスペシャルな『相棒』だろ? だったらどうすりゃいいのか、お前の『相棒』に聞け」
「!?」
その言葉にハッとした一夏が、手元にあるISに目をやる。白い輝きを放ちながら、今も主となるべき一夏の言葉を待っているかのように、彼に不思議な安心感を与えてくれた。そういえば一夏はこれまでの学園で受けた授業の中で言われたとあることを思い出した。
『ISにはそれぞれ意思があって、貴方達と一緒に成長してくれます』
受けた授業の内容はほとんど覚えていないが、不思議にその言葉だけは脳裏の中にいつまでもあり続けてくれたのだ。
「IS………俺の……IS(相棒)?」
ガントレットに手を置き、意思を込めて名前を呼んでみる。今まで待たせてしまった分を取り戻すかのように、ありったけの思いを込めて………。
「白式ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!」
その時、落下している最中であるにもかかわらず、彼は不思議な二人の女性の声を左右から耳にする。
『よかった………』
白いワンピースを着た長く白い髪をした少女が、柔らかいが何処か陰のある笑顔で自分を見つめてくるのを、不思議そうに見つめ返す一夏であったが、そんな彼の背後からもう一人の女性が声をかけてくる。
『我々の声が届いた……か……』
白い甲冑を纏い、その手に剣を携えた黒い髪の女性。一夏の姉の千冬に似た女性は、哀愁を漂わせた何処か悲しげな笑みを浮かべて話しかけてきた。
『我々の声が届いたということは、君もひょっとしたら………』
『10年前を繰り返すかどうかは、まだ決まっていないよ………だから今は信じよう?』
白いワンピースの少女の言葉に黒い髪の女性は、静かに頷いた。
何を話しているのか、一夏にはまるでわからない。まるで判らないが、でもそれはとても大切なことを話していることだけを一夏は感じ取り、二人に何の話か問いただそうとするが、その時、光が一夏の周囲を覆いつくし始める。
『何のための戦いか………貴方の答え、いつか聞かせてね』
『そして何よりも………』
光が二人を包み込み、二人の姿が光に溶け込んで一つになる。
『貴方の戦いが』
『君の戦いが』
『貴方の大切なものを』
『守るためのものになれるよう……』
『彼女のように……嘆かぬように…』
『大事なものを……奪い去られぬように…』
『私達が力になるから』
『私達が力になるから』
その瞬間、世界にノイズが奔り、荒いテレビ映像のような光景が広がる。
―――魂が引き裂かれたかのような悲鳴を上げる女性―――
―――血に染まる手―――
―――そして……誰かの笑顔…―――
………世界が白に包まれた。
上空千メートル付近にて、白い光を放ちながら降下速度が著しく減速した一夏はゆっくりと体勢を入れ替えて、上空に留まってみせる。全身に鈍い灰色に近い白の鋼を纏って………。自分の体の変化に戸惑いながら、一夏はゆっくりと全身を確認する。
スカイブルーのバイザーと一体化したヘッドパーツと、全身を鈍い灰色に近い白の鋼の装甲が覆い、背中にも同色の金属の翼が広がっており、どこか工業的な凹凸をした自身の展開されたISの姿に戸惑いが隠せないが、それよりも今の一夏には気になって仕方ないことがあった。
先ほど白い光に包まれ、意識が現在に戻る瞬間、ノイズのように一瞬だけ映し出された光景………。
「(あれって………千冬姉?)」
一瞬だけだったが、確かに映ったのは確かに千冬の姿であった。年の頃は今よりも若く、ひょっとしたら今の一夏達と同じ年頃かもしれない。
「(でも……じゃあ、なんで?)」
千冬が慟哭の声を上げていた。聞いている方が悲しくなるような泣き声で誰かを抱いて泣いていた。未だかつて一夏が見たこともないような千冬の姿に、戸惑いが隠せない。
「お、ちゃんと展開できたな……」
そこに陽太がゆっくりと近づいてきたため、一夏の思考はストップしてしまう。我に返ったかのように陽太の方を見る一夏。
「………なあ?」
「ん? ちゃんと展開できたんだから、文句言うなよ」
「その話じゃなくて………って、それも重要だけど!」
だったらなんだ? と言い返してくるように腕組みをして待っている陽太を見ながら、先ほど見た光景を聞くべきかどうか悩む一夏。
「………やっぱりいい」
「なんなんだ、一体? 文句ばっかり言うのかと思えば、いきなり遠慮しやがって? あれか? もっと虐めてほしいとか、そういう性癖の持ち主なのかねキミは?」
「そんなわけねぇーだろうが!! ってか、よくもあんな所から落としやがって! 展開できなきゃ死んでるところだろうが!」
「死んでねぇーから、OK!」
親指立ててグッジョブをする陽太のその姿に腹を立てた一夏が、殴りかかってやろうかとした時、二人のISの通信機のコールが鳴り、二人は何気なしに(一夏は陽太のマネをして)ウィンドを開いてみる。
―――明らかに寝起き一番でキレてる千冬の姿―――
低血圧気味なため朝が弱い千冬さんが、寝癖も直さず自分達に隠しもしないで怒気をぶつけてくる姿に、陽太と一夏は全身の血の気が引いてしまった。
『お前ら………朝の早くから練習熱心だな』
「いや………あの…」
「な、なんだよ……ちょっとISの乗り方教えてやっただけで…」
『ちなみに、ISの飛行には許可が必要だとか、知っていたか、小僧?』
知りませんでした、テヘッ!☆
とか言えたら、どんだけ楽なんだろうか考える陽太であったが、上手い具合に言い訳が思いつかず押し黙ってしまう。千冬の怒りの理由と、自身のこれからの処分を悩み、今すぐ逃げ出そうかとか割と真剣に悩みだす陽太であったが、無論、そんなマネを許す織斑千冬ではなかった。
『降りて来い小僧共。私の安眠の邪魔と報告書の作成による残業を作った罪は世界よりも重いぞ?』
その言葉に真剣にビビッた二人はその後、着地一番でIS展開状態でダイナミック土下座しようとして、それによって土煙を被った千冬に余計にボコボコにされたという………合掌。
☆
―――ヨーロッパ某所―――
薄暗い森林に囲まれた閑静な別荘地の一角にある、一際大きな白い屋敷の広い食堂において、IS学園においてオーガコアとその操縦者を奪取し、なおかつ陽太を意図も容易くねじ伏せたアレキサンドラ・リキュールが、コアの入ったアタッシュケースをとある人物に手渡していた。相変わらず特注の、豊満が過ぎる爆乳が見えそうな胸元が開いた軍事用ジャケットとブーツ。そして二本の刀を持って………。
そのとある人物。豊かな金髪と長身とモデルでも中々いないであろう美貌を携えた赤いスーツの女性………。
「確かに受け取ったわ、リキュール」
「いつも迷惑をかけるよ、スコール」
スコール・ミューゼルという亡国機業(ファントム・タスク)においてリキュールと並ぶ女性幹部であり、私的にも彼女と非常に仲がいい、リキュールの親友である。
いつもニコニコと何を考えているのか誰にも悟られず、他者に知られずこっそり悪巧みをするのが病的に上手い天性の策士であり、組織においても普段は運営のための資金作りや人員収集などの、組織の骨組みを受け持つ人物である。
「さっすがリキュールは仕事が早くて助かるわ~~」
「君の願いとあらば、私も全力を尽くさないと………いつもムチャばかり頼んでいるからね」
「そうよね~~。 それに、貴女のお願いに私が弱いこと知ってて頼んでくるから………そういうところ、ホント意地悪よ、貴女?」
「私が意地悪か、困ったな」
『ご飯食べてく? それとも私?』『迷うな……』とかいう怪しい会話が出始めると、いよいよそんな二人の雰囲気に我慢できなくなってくる者がいた。
『(こ、ん、の、女狐がぁぁぁぁぁぁぁっ!!!)』
無論、護衛としてついてきた竜騎兵(ドラグナー)のフリューゲルとスピアーである。
直立不動で無表情を作りながら、リキュールの背後で鎮座しているフリューゲルは、誰にも悟られないように頭の中で、何度この目の前の女狐(スコール)を八つ裂きにしてやったものか数知れない。
自分が愛して愛して愛して愛して愛してやまない親方様と、あろうことか二人っきりでご飯食べたり、二人っきりでお風呂入って流しあいっこしたり、二人っきりでベッドで一夜をしたり、二人っきりであんなことやこんなことしやがりやがって………と心の中では嫉妬の炎が大炎上を起こしているのだ。
その隣でも、 直立不動で無表情を作りながら、リキュールの背後で鎮座しているスピアーは、誰にも悟られないように頭の中で、何度この目の前の女狐(スコール)を八つ裂きにしてやったものか数知れない。
自分が愛して愛して愛して愛して愛してやまない親方様と、あろうことか二人っきりでデートしたり、二人っきりで旅行に行ったり、二人っきりでお互いの裸を貪り合ったり、二人っきりであんなことやこんなことしやがりやがって………と心の中では嫉妬の炎が大炎上を起こしているのだ。
「ねえ? 今度は私に何してほしい、リキュール?」
『『(今すぐ親方様から離れろ色ボケがッ!)』』
フリューゲルとスピアーが同時に音が鳴るぐらいに握り拳に力を入れたときであった。
いつもみたいにリキュールに色っぽく纏わりついていたスコールが、彼女の微妙な変化に気がつく。
「リキュール………あなた、その脇腹…」
「ああ、気が付かれてしまったか?」
スコールに気が付かれたリキュールは、ジャケットをまくって脇腹を彼女と竜騎兵の二人に見せた。立派な下乳の下、右脇腹の辺りに薄く青紫の筋が通っていたのだ。
「「!!?」」
「安心してくれ、ヒビですんでいる」
「………例のミスターネームレス?」
「ああ、久しぶりだったよ。まさか一撃で脇腹を負傷されようとは………彼は間違いなく本物だ」
ヒビが入った脇腹の怪我を、寧ろ誇らしげに見せ付けるリキュール。怪我の痛みなど彼女には気にするほどのことではない。むしろそれほどの猛者に出会えた幸運の証と思えば記念に取っておきたいぐらいなのだ。
「楽しそうね、リキュール?」
「無論だよ………敵がいなくなって久しい私の前に現れた者。予感がするんだ………私が望んでいた『存在』である、とね」
恍惚とした表情を浮かべるリキュールと、それを嬉しそうに見つめるスコール。
だが、そんな二人とは対照的な二人がいた。
「親方様………少し席を外してもよろしいでしょうか?」
「構わん………週末までスコールと一緒にいる。何かあれば連絡しろ」
「ハッ!」
フリューゲルとスピアーは、リキュールに敬礼をすると、一目散にドアに向かい退室する。
そんな二人の様子の変化に気が付かないぐらいに浮かれているリキュールと、二人がこれからどんなことをしでかそうとしているのか察知したスコールが、面白そうにクスリッとリキュールに微笑む。
「可愛い娘たちね………あの二人?」
「?」
☆
つかつかと屋敷の廊下を歩くフリューゲルとスピアー。その瞳には先ほどまでの嫉妬の炎よりも遥かに濃い、敵意と殺意が込められていた。
「フリューゲル、リューリュクとフォルゴーレに連絡を」
「もうやってるわよ」
普段は仲が極めて悪いながら、目的が一度合致すると、二人はきわめて迅速な連携が取れる所があり、フォルゴーレ辺りにそれをよく、『喧嘩するほど仲がいいんだよね!!』とかからかわれる時がある。
「(カトリヨウタ………)」
「(ミスターネームレス………)」
―――親方様ニ怪我ヲ?―――
竜騎兵としての役割であり、自身の存在理由であり、そして己の全身全霊の戦いの理由………。
「親方様に仇成す者は、何人も許さない………」
「日本に行くぞ………血祭りにあげてやる」
スピアーが犬歯を食いしばり、フリューゲルは携帯で残りの二人に連絡を取る。
彼女達の殺意を沈める唯一の方法………アレキサンドラ・リキュールに手傷を負わせた、火鳥陽太の首を取るために、二人はその手に自身のISを強く握り締めるのであった。
時間をかけた割りにちょっと満足いかない出来かな?w
さて、次回もつづく陽太と一夏の特訓風景。でも、親方様に傷を負わせたおかげで彼女の部下に命を狙われるハメになった陽太の運命はいかに?
そして、一夏が見た映像……これは、物語の根幹を成す物の一つです。その理由とは………また、次回をお楽しみくださいwww