さあ、バトル編の後編
天才・陽太の実力は!?
そして、明かされる第三の?
本編をお楽しみください
日本でIS学園メンバーと部下達が本格的な武力衝突を起こそうとしていた頃、ある意味元凶を作ったとも言える亡国機業(ファントム・タスク)の幹部であるアレキサンドラ・リキュールと、同僚であり部下に嫌がらせ気味の仕事を押し付けたスコール・ミューゼルは、ヨーロッパでも五指に入ると言われる格式高き超・高級フレンチ店でディナーを優雅に食していた。
女尊男卑が蔓延する現代においても、その揺るがぬ看板で未だに根強い人気を誇るその店においても、二人の美女がテーブルに向き合いながら食する姿は、有名な芸術家が丹精込めて描いた絵画にも劣らぬ不可思議なオーラを放っていた。
女性にしては長身で豊かな金髪と抜群の美貌を誇り、背中の開いたワインレッドのドレスが似合うスコールと、そんなスコールすら上回る身長をし、いつもの軍用コートとズボンではなく、はち切れそうな爆乳が今にも見えそうな胸元が大胆に開いた黒いドレスを着たプラチナの長髪を持つリキュールの二人は、店内外において、男性は愚か同姓の女性すら声をかける隙がないほどのオーラを放ち、一挙手一投足がギャラリー達の溜息をつかせてしまう。
見ようによってはかなり周囲がうっとおしい状況ながら、まったくそんなことをまったく気にしていない二人であったが、メインディッシュである子牛のヒレ肉の赤ワイン煮にリキュールがナイフを入れた時、無邪気な子供のような笑顔を浮かべたスコールの方から話しかけてくる。
「でも、貴女も悪い人ね。部下のお嬢様達の独断専行を許しちゃうなんて?」
「アイツ等にもいい勉強になる………『真の天才(本物)』が一体どういうものなのかを知れる、良いチャンスだ」
「陽太君………だったけ? 噂のミスターネームレスは?」
「オータムの件で、ひょっとしたら君は彼に悪感情を持っているのかい?」
部下であり、親愛なる『恋人』であるオータムをフルボッコにした上、今も外傷と精神的ダメージのためにベッドの上で寝たきりにさせるほどの怪我を負わせた陽太に、スコールは憎しみを抱いているのだろうか? だが、それを彼女自ら『笑顔』で否定する。
「フフフッ………むしろ今は興味深々よ! 私のリキュールを虜にしちゃうような子に、私、是非とも会ってみたいもの」
「すぐに会えるさ………それに…」
今度はリキュールが不敵な笑みを浮かべ、スコールに問いかけ返す。
「『彼』にフリューゲル達を迎えに行かせた所を見ると、君の中でも陽太君はやはり高評価なんだね………」
「あら? 何の事かしら?」
とぼけた表情でワインを飲むスコールを、リキュールは目を細めながら楽しげに見る。
「彼………『ジーク・キサラギ』を行かせた以上、陽太君の実力は幹部(ジェネラル)級である。なまじ雑魚が束になっても彼には勝てはしない………だからこそ確かめる必要がある。彼を敵として抹殺するか、それとも亡国機業(ファントム・タスク)に引き入れるか? 『七人の率いる者(ジェネラル)の・ライダー(騎乗者)』のスコールの胸の内はこんな所かな?」
「フフフッ………『七人の率いる者(ジェネラル)の・バーサーカー(狂戦士)』のリキュールさんのご意見はどうなのかしら?」
質問に質問を返されたリキュールはというと、一瞬だけ驚を突かれたような表情を浮かべると、すぐさま無言のままいつものマグマのような熱気を孕んだ獰猛な笑顔で応える。そんなリキュールの顔を見たスコールは、大変にご満悦そうな笑みを浮かべると、そんな笑顔とは裏腹な非常な言葉を口にするのだった。
「ウチのジークに殺される程度の存在なら、私達には必要ないの。私達に必要なのは………そうきっと、リキュール………貴女が探し求める『異端の存在』なのだから………ね?」
☆
握った打鉄のブレードを水平に構え直した一夏は、陽太に向かって全力全速での渾身の突撃を敢行する。
生まれて初めて感じた怒り、屈辱、そしてまだ実体が掴めずにいるその根底にある感情に突き動かされるように放った突きであったが、陽太はそれをあろうことか銃剣の刃と銃口の間に挟みこんで、受け止める。
「はいはい~~……残念でした」
「なにぃ!」
捻転。火花を散らしながら滑る刃を一瞬で捻り上げ、甲高い音と共にブレードが砕け散った………一瞬だけ呆然となった一夏であったが、すぐさま彼の視界が180度天地逆転してしまう。
陽太は呆然と一瞬呆けた一夏の胴体の装甲の隙間に手を突っ込むと、そのまま彼を地面に叩きつけたのだ。衝撃と激痛が全身を奔り、酸素が失われ呼吸が止まってしまうが、一息つく間も一夏には与えらず、すぐさま彼の眼中が、振りかざされた銃剣に吸い付いた。
全身装甲(フルスキン)であるため、彼の顔もマスクに覆われて表情を伺うことができないでいたが、その二つの翡翠のバイザーから、不気味な光が放たれた時、一夏は全身を凍りつかせてしまう………『コイツ、俺を刺し殺すつもりだ』と……。
「………」
それを肯定するように、無言で一欠けらの迷いなく殺気を込めた一撃が一夏に振り下ろされ………。
「………お前は戦闘の最中に物を考えすぎる上に、簡単に逆上し過ぎだ。一番カモられるタイプだな」
一夏の頬スレスレを通過した刃が地面に突き刺さるのだった。
先程までの凍り付くような殺気が嘘のように、銃剣を地面から引き抜いた陽太はライフルのマガジンを引き抜くと、残弾の確認をしつつ『弾って後で請求されないよな?』とかぼやき出す。まるで今さっきまでの戦闘が嘘のような振る舞いである。
対して一夏の方はというと、何が起こったのか、何で自分は全身が震えるほどの恐怖を感じていたのか、止まった思考を動かすように、起き上がると陽太のほうを無意識に見つめてしまう。
そんな一夏の視線に気がついた陽太が、未だに何が起こったのか理解し切れていない一夏の様子を茶化すような声で話しかけきた。
「………お前、ひょっとして、小便チビるぐらいにびびったのか?」
「!!?」
その一言で、一夏は完全に理解する。今の今まで、自分は目の前の陽太の手の平の上で踊らされていたのだと。理解したからこそ、一夏は顔を真っ赤にして陽太に抗議する。
「ビビってねぇーよ! てか、今までのは一体何なんだよ!!」
「何って………訓練するって言ったじゃん」
「く、訓練!? いきなり斬りかかるのが!? 銃弾で人を蜂の巣にしようとするのが!?」
「うん。普通に訓練だよ」
「ふざけんなっ!」
「ふざけてなんかねぇーよ。俺は実に真面目に訓練してやったぞ?」
かなり普通に返してくる辺り、陽太なりに本気で訓練していたつもりらしい………他の生徒が見ていれば間違いなく本気で一夏を殺しにいっていたようにしか見えないが。
「大体、俺が本気出したら、テメェーなんかゼロコンマ数秒で挽肉だべ?」
「なにぃっ!?」
「ま、冗談は兎も角だ。お前さんに一つ聞きたいことがあるんだが………」
「な、なんだよ?」
急に声に真剣味が篭った陽太の問いかけにたじろぐ一夏。だが彼の動揺を知ってか知らずか、陽太の言葉は一夏の『甘い思い込み』を木っ端微塵にしてしまう。
「お前、本当にあの金髪縦ロールに勝てると思ってるのか?」
「な、なんだよ! お前が訓練すれば、ホンの僅かでも勝てるかもしれないって言い出したんだろうが!?」
「じゃあ、俺が現れずに特訓もしなかったら、どうしてたんだよ?」
「そ、それは………他の誰かに……」
「言っとくぞ……IS舐めんな、ド素人」
「!?」
陽太の怒りを込めた言葉に、一夏は息と唾を飲み込む。その様子が更に気に入らなかったのか、陽太は一夏の見識の甘さをわかりやすく、且つ反論できない言葉でぶつけるのだった。
「自分のケツを自分で拭けない奴、最初から誰かに頼りっきり、そんな奴が喧嘩なんかするな。自分(テメェー)で自分(テメェー)の道をどうにかする気のないんなら、今すぐIS操縦者なんか辞めちまえ」
「なっ!」
「それにな………少なくとも金髪縦ロールはこの学園に来るまで、アイツなりの時間の中で操縦者になるための訓練を積んでるんだ。何も努力してないお前と違ってな………判るか、お前はまだ『何も努力していないんだ』………なんで、そんなお前がどうにかできるだなんて考えに行き着くんだよ?」
「そ、それは………それに、勝負自体、千冬姉が勝手に…」
「言い訳か?」
どこまでも冷めた陽太の言葉、それは一夏に対して状況への言い訳は許さない厳しい視線と言葉を発した陽太は、そんな彼の胸に指先を置くと、陽太自身がIS操縦者としてもっとも大事なことだと思っている考えを話し出す。
「………勝負を制するのは技術じゃない。ISの性能だけでもない。『ココ』だ………」
左手の人差し指を一夏の胸に置いたまま、自分の胸に親指を突きつける陽太。
彼は決して『ココ』とは何のことかは答えない。それが何なのか具体的な言葉を一切口にしない。なぜならば………。
「俺が一番最初に千冬さんに教わったことだ………あの人も、俺に答えを教えてくれなかった。たぶん、自分で突き止めろってことなんだろう」
「千冬姉………」
他人から教えられた、自分が知らない姉の一面を知り、一夏は不思議な気持ちになりながら陽太の方を呆然と見つめる。半信半疑だった姉と少年の師弟関係であったが、それが嘘ではなく本当のことなんだと、今のやり取りで理解できたからなのかもしれない。
「さあ~~って、特訓のようないじめもこのぐらいにして………?」
先ほどまでのシリアスな声とは一変して、気の抜けた声を出してサラッと冗談を言う陽太。背後で一夏がワンテンポ遅れて『やっぱりいじめだったのかよ!!』と大声でツッコミを言い放っているが、陽太はその鋭敏な感覚で学園内で起こっている僅かな違和感に気がつく。
何気ない平和な学園の空気の中に漂う、僅かな殺気………すぐさま陽太は、通信回線を開いて千冬に確認を取ろうとするが、回線を開いた途端に不快な雑音(ノイズ)と複数の人間の声が入り混じった言葉が飛び交ってくる。
「(回線がジャミングを受けてる?)」
一般的な公共施設ではない、IS学園の回線は先進国の軍事基地に匹敵するセキュリティーがなされているはず。
それをあっさりと破ってくる侵入者の存在を陽太は確認するため、上空100mほどに一気に上昇する。そして周囲をハイパーセンサーの高感度カメラで索敵し始めた。
「………見つけた」
敵は四人。陽太に屈辱を与えた亡国機業(ファントム・タスク)のアレキサンドラ・リキュールに従っていた四人だ。しかも今、金髪ロールと初日に色々自分に絡んできた銀髪の眼帯少女とどうやら交戦中のようである。
「向こうさんから来てくれるとは、ついてるな」
彼の中で忘れたくても忘れられない、自分を上から見下ろしていた不敵な笑みが心の中で蘇り、知らず知らずの内に拳を握り締める陽太。与えられた借りをきっかり10倍にして返してやると決意し、陽太は自分の後を追って上昇してくる一夏の方を見ずに、簡単に指示を出す。
「おーい! いきなり飛び上がって、一体どうした・」
「お前はどっかに避難してろ。できるなら千冬さんのところに行け」
短く言い残すと、矢のような速度で飛翔し、複数の光点が交差する場所に向かう陽太。対して置いてけぼり喰らった一夏は、いきなり何が始まったのか理解できず、呆然となる。
「………って!?」
いきなり千冬姉の所に行けと言われても………頭を掻きながら迷う一夏であったが、彼のISの方は陽太が向かった場所の情報を一夏に的確に伝えてくる。
『複数のISの反応を確認。交戦状態です。うち四機はコアネットワークに未登録………現状、予測ではコアの反応からオーガコア搭載機だと思われます』
「???」
一夏にはほとんど何を言っているのか理解できないでいたが、どうやら学園内部でIS同士の戦闘があり、陽太がそこへ向かった………とりあえずそれだけは理解できた一夏は、どうするかと迷う。陽太の指示に従うか、それとも………。
「………でも、今、俺には戦う為の力(IS)がある」
そうだ。自分は今、ISの操縦者であり、ISを身に纏っているのだ。ならば自分でも何かできることがあるのではないのか?
それが彼の確信なのか過信なのか、この場で指摘する者はいない。冷静に現状の自分を分析して的確な行動を取るための経験も一夏にはない。それゆえに、一夏は陽太の指示を無視して、その戦場に行くことを決めるのだった。
「………俺だって……できるはずだ!!」
すでに見えなくなった陽太の後を追うように、機体を飛翔させる一夏。
このとき、彼は知る由もなかった………本物の実戦と、その実戦においてなお圧倒的な輝きを放つ、本物の操縦者とはいかほどの存在であるのかを………。
☆
施設の屋上に降り立った陽太は、臨戦態勢で自分に得物を構える竜騎兵(ドラグナー)の少女達を一切見ることなく、センサーで周囲を『恐ろしく注意深く』観察し続ける。だが一向に自分がココに来た目的である人物の姿の影も形も見受けられず、イラつく気持ちをとりあえず無理やり押さえつけながら、冷えた声でとりあえず目に付いたフォルゴーレに投げかける。
「オイ………そこのロリ巨乳」
「………私?」
獲物のハンドキャノンを構えながら、自分に話しかけてきた陽太に律儀に返事するフォルゴーレ。そんな彼女に、全身から滲み出る苛立ちを抑えながら陽太は質問する。
「お前らの恐竜女は、どうした?」
「きょうりゅうおんな?」
首を傾げるフォルゴーレの態度に苛立ったように、とても短気であることに定評のある陽太が声を荒げて怒鳴りつける。
「お前らの上司のことだよ! どこにいるんだって聞いてんだぁっ!!」
「キャウッ!………怒鳴んなくたって……んとね、親方様はいないよ」
「はあっ?」
「んとね………親方様に内緒で、皆で来たんだよ! フリちんとスピちんが、親方様にいいとこ見せようって、勝手に出てきたの!」
「「フォルゴーレェッ!!」」
『勝手に本当のこと喋るな!』という思いからフリューゲルとスピアーはフォルゴーレを怒鳴りつけ、再び怒鳴りつけられた彼女は『ひゃうっ!』と首を引っ込めてしまう。そしてそんな三人のやり取りを見つめたまま、『私………何も言われずに無理やり連れてこられたんですけど、案の定そういうことでしたか………』と遠い目で何かに対して溜息を付く。
とりあえずフォルゴーレによって若干緊張感が削がれた感があるが、フリューゲルは態々ビームサイズをカッコ良く振り回し、キリッとした表情で切っ先を陽太の方に突きつけながら、目を瞑り流暢に宣戦布告を行う。
「ま、まあいいわ………それよりも、火鳥陽太!! 親方様の御体に傷をつけるという愚行。我ら親方様をお守りする竜騎兵(ドラグナー)の名に懸けて看過することができはしない!! 命を差し出して、償いをしなさい!」
「そうだ! 償いをしろ!!」
カッ!と目を見開いて宣言するフリューゲル。隣にいるスピアーも何か言おうとしたが、いい言葉が思い浮かばず、結局最後の部分を真似ただけであったが………。
だが、渾身のドヤ顔と共に言い放った言葉の受け取り手である陽太はというと、そんな二人を完全に無視して、地面に倒れ伏せるセシリアとラウラの元に駆け寄っていた。
「随分と派手にヤラれたな、お二人さん?」
陽太の率直な言葉に、気恥ずかしさと負けん気が化学反応を起こし、二人の少女の闘志が再び燃え上がり、動かぬ体を無理やり動かしながら、陽太よりも前に出ようとするセシリアとラウラ。
「クッ!………ま、まだ負けたわけではありませんわ!」
「そうだ! 貴様の方こそ引っ込んでいろ! 英国もだ! 後は私一人で十分だ!」
そんなボロボロな状態で、なお負けを認めない代表候補生の二人の姿に、陽太は面白そうな声で腹を抱えて突然笑い出す。それはこの学園にきて、初めてといっていい純粋な笑い声であった。
「ブッ! ハッハッハッハッハッハッ!! そんだけやられてまだ負けてないか! クックックッ………いいな、お前ら。俺はそういうの嫌いじゃないぞ?」
「!?……笑わないでいただけます!?」
「な、何が可笑しい!」
自分達を馬鹿にされたと感じた二人の少女の反応に、陽太はますます笑い声を上げる。だが、それは彼が二人を馬鹿にするためではない。三度の飯よりも喧嘩が好きな陽太にしてみれば、負けることよりも諦めることを拒絶する少女達の姿は、本当に純粋に好感が持てる態度だ。
今度の模擬戦で一夏とセシリアのどっちを応援してやるか、ちょっと真剣に迷いそうになる陽太であったが、すぐさま背後から高速で近寄ってくる気配に反応し、振り返ることなく手に持ったアサルトライフルを肩に担いだままの曲芸射撃を行う。
「(わ、私をむ、無視!?)」
カッコつけた手前、余計に滑稽さが目立つフリューゲル。隣で同じポーズように頬を真っ赤にしながら固まるスピアーはともかく、自分を見ないようにしながらちょっと肩を震わせているリューリュクの態度がいたく癇に障ったのか、火鳥陽太の首を取った後にマジでシメテやろうと思いつつ、彼女は瞬時加速(イグニションブースト)を使用し、陽太の真後ろから襲い掛かる。
「(死ねっ!)」
手加減など一切ない本気の一撃で首を跳ね飛ばそうとする中、突如陽太が振り返ることなく自分を『見ず』にアサルトライフルで攻撃してくる。恐ろしく正確な銃撃………咄嗟に左腕のガントレッドを楯代わりにしながら、急制動をかけ、銃弾を弾きつつ軌道をずらしてなんとか回避してみせた。
「(こいつ!?)」
完全に死角からの不意打ちだったはずなのに、逆に自分の不意をついてくる陽太の動きに驚くフリューゲルを尻目に、陽太は尚振り返らないままセシリアとラウラとの会話を続ける。
「よし、決めた。お前達二人は仮決定だ」
「?………なんのお話を……って、あの方達との戦いに集中なさい!」
「余裕を見せていられるのも今のうちだけだぞ! アイツらが本気になればお前など!?」
余裕を見せる陽太の態度に危機感を募らせる二人だったが、当の陽太は至極軽い感じでセシリアとラウラの頭を交互に撫でながら、二人に安心させるように言葉をかける。
「ちょいと待ってろ。すぐに終わらせてくる」
「あっ!」
「バカが!!」
「安心してそこで見てろ………お前たちの『隊長様』の実力をな……」
それだけ言い残すと、陽太は鼻歌交じりの軽い歩きで右手に持ったアサルトライフルを遊ばさせつつ、それぞれ獲物を構えて、陽太の一挙手一投足に全神経を尖らせる竜騎兵(ドラグナー)達の輪の中に自ら入っていく。敵に包囲されたのであればいざ知らず、自分から敵の輪の中に入っていく陽太の様子にセシリア達はハラハラしっぱなしである。
周囲を取り囲む竜騎兵(ドラグナー)達も、完全に自分たちを舐めきっている陽太の様子に、怒りが湧き上がり、スピアーにいたってはそのランスの先端をすでに陽太の頭部に向けている。
対して陽太は、相手のISの様子を注意深く観察していた。センサーの反応から明らかにオーガコアを搭載した機体なのだが、オーガコア特有の機体の異形化や操縦者への精神異常などを起こしている様子がない。これはいくつものオーガコア搭載機を見てきた陽太も初めて見るケースである。
「………お前らのIS。何かコアそのものに特別なリミッターを施してるのか?………とりあえずIS置いて帰るってんなら、見逃してやるぞ?」
『!?』
陽太のその言葉に、周囲の竜騎兵(ドラグナー)達の顔色が変わる。彼女達も曲がりなりにも多くの実戦を重ねた、敬愛してやまないアレキサンドラ・リキュールの師事を得た一流の戦士である自負があるのだ。そんな彼女達を四人同時に相手にして、尚この男は自分が負けることを想像もしていない。
その事が伝わったのか、温厚なリューリュクやフォルゴーレすらも陽太に対して強い敵意を向けながら、リューリュクは手に持ったアサルトライフルを、フォルゴーレは背中のバスターキャノンを構えた。
四人の殺気と敵意をぶつけられ、張り詰める空気………だが、目の前の男はなおも崩すことのない、余裕さで四人に言い放つ。
「俺はお前らの上司以外に興味ないんだ………弱い者いじめも嫌いだし、早くISを置いて帰りたまえ、『雑魚』共?」
清清しいぐらいに高みに立って言い放った言葉が、四人に引き金を弾かせる。フリューゲルがビームサイズを肩に担ぎ、スピアーがランスを構えながら前屈みになり、リューリュクがライフルの銃口を陽太の背中に向け、フォルゴーレがその砲撃を放とうとバイザー内部で照準をロックする。ある意味予想通りの竜騎兵達のリアクションに、陽太はやれやれといった感じで右手に持ったアサルトライフルを反転させて、脇に抱え込む。
「………ちょっくらお仕置きするかな?」
慣れない空中機動なため、陽太よりもだいぶ遅れること現場に到着した一夏は、四機に取り囲まれる陽太と、ボロボロの状態にされているセシリアとラウラの姿を目にし、心中に怒りが湧き上がる。セシリアとは数日後に決闘する相手だし、ラウラも初日にいきなり殴ってくるし、陽太なんか説明不要なぐらいに自分を弄んでくる。
それでも数日を共にした仲であり、不思議と一夏の中には親近感が沸いてきていた。だからこそ、戦えないセシリアとラウラの代わりに、一人で敵に取り囲まれている陽太を援護しようと一夏は叫びながら急降下する。
「陽太!!」
だが皮肉にもそれが引き金になったかのように竜騎兵(ドラグナー)達は一斉に動き出そうとする。
先手を取ったのは無論竜騎兵(ドラグナー)であり、最大火力を持つフォルゴーレのバスターキャノンであった。最大の火力で陽太を砲撃し、回避した所をスピアーのランスで串刺しにする。仮にそれも避けたとしてもフリューゲルの追撃とリューリュクのサポートからは逃れることはできない。四人は目配り一つで打ち合わせを行い、即時に決行した………だが………。
「!!?」
放たれた砲撃が陽太に着弾………することなく、スピアーに直撃し、彼女を吹き飛ばす。
「なっ!?」
周囲にいる竜騎兵(ドラグナー)は勿論、一夏もセシリアもラウラも何が起こったのか理解できず呆然となる。砲弾は確かに陽太に向かって放たれており、フォルゴーレがスピアーを誤射したというものではない。
では、何が起こったのか…………それを最初に理解したのはラウラであった。
砲弾を受けて吹き飛ぶスピアーの姿から、何が起こったのかと目を最初の位置に戻したとき、彼女が見たのは『空中で何かを蹴った』格好を取っている陽太だった。そしてラウラはその姿から、彼が何をしたのか予想する………おおよそ信じられないことではあるが。
「(まさか………あの男、超音速で飛来した砲弾を蹴り一発で弾道を逸らして敵に当てたのか!?)」
奇しくもラウラが予想したとおり、陽太は最初に自分が狙われた瞬間、ワンテンポ早くその場からジャンプすると、自身に向かって放たれたバスターキャノンの砲弾を、プラズマ火炎でコーティングした蹴りを砲弾の先端に当てて、砲弾を『迎撃』するのではなく、砲弾の軌道をずらして誤射させたのだ。
そして超音速の速度域の神技を披露した陽太の動きは、それだけでは止まらない。
脇に銃身を抱えた状態親指でトリガーを引き、あろうことかそのままライフルを発砲する陽太。その弾丸は正確無比に硬直していたリューリュクのライフルを撃ち抜き、今度はリューリュクも吹き飛ばす。
「きゃあああああっ!!」
「リュっちん!!?」
吹き飛ぶリューリュクを心配して一瞬だけそちらに視線を逸らしたフォルゴーレだったが、すぐさま己の失策に気がつく。敬愛する親方様から『何があろうとも敵から目を離すな』とキツく言われていることを思い出し、その視線を再び陽太に戻した時、彼はすでに眼前にまで迫っていた。
「!?」
「遅い」
リューリュクを撃ち抜いた後、着地すると同時に再びその場から跳躍した陽太は、一足飛びでフォルゴーレの眼前にまで迫ると、片方の足で彼女の持つハンドキャノンを押さえつけ、もう片方の足で下からバスターキャノンの砲身を凄まじい威力の蹴りで片方を吹き飛ばしてしまう。
「くっ!」
キャノンを片方吹き飛ばされ、転倒するフォルゴーレを見ながら、陽太はそこから素早く反転すると、超速の銃剣による突きを、人知れず背後にまで迫っていたフリューゲルへと放つ。
「!?」
銀色の刃と黄緑の刃が交差し………天空を舞うビームサイズのビーム発振機。自分が信頼する獲物を真っ二つにされ、呆然となるフリューゲルであったが、そんな彼女の腹に強烈なボディブローを叩き込まれ、フリューゲルは木々を薙ぎ払いながら吹き飛んでいく。
「なっ………」
「ウソ………」
「これが………」
時間にして一秒少々の、ホンの僅かな間に目にも止まらぬ速さで竜騎兵(ドラグナー)の四人を戦闘不能に追い込んだ陽太を、信じられないものを見るような目で見つめる一夏達………。
「これが………火鳥 陽太……さん?」
自分が出会ってきた男性の誰とも違う、力強い輝きを放つ姿に心の中で火が着いたように熱い気持ちが溢れ出すセシリア………。
「ふざけるな………よ」
自分が今まで信じてきた物の全てを踏みにじられたかのような屈辱が湧き上がり、心の中でどす黒い何かが満ちていくような感覚に襲われるラウラ………。
「………陽太」
自分が今まで見てきた憧れ………織斑千冬とは違う。でもそれと同じく、目指したい、辿り着きたい。そんな気持ちに満ちていき、彼の背中から目が離せなくなる一夏。
そんなIS学園のメンバーに強い感情を与えた陽太の戦いぶりは、敵対していた竜騎兵(ドラグナー)達にも強い衝撃を与えていた。
「(勝てない………)」
木々の中に倒れこんでいたフリューゲルは、手合わせしたからこそ感じ取ってしまった。陽太は自分達が敬愛するアレキサンドラ・リキュールと同種の、『異端』であると。
深遠のような底無しの強さ………実力差が測れないほどの高みの差。今更ながらそれを理解させられる。
なぜリキュールが彼のことを『敵』と言ったのかと………。
「だが………」
勝てないまでも一矢報いて死なねば、それこそリキュールに顔向けできない。ましてや他の三人を逃がすための殿を務めないといけない。
衝撃でまだ痛む全身を無理やり起こして、再び戦いに行こうとしたとき………フリューゲルの視界を黒い影が覆い尽くすのだった。
「!?」
とりあえず全員のしたことだし、セシリア達を医務室に運ぶか、と竜騎兵(ドラグナー)達に背を向けた時、異変を感じた陽太が、周囲を見回し、異変が何なのかを悟る。
「……………」
まだ異変に気がついていない上空の一夏目掛けて突撃する陽太。
「なっ!」
急な陽太の行動に問いかける暇もなく慌てる一夏に、陽太は思いっきり飛び蹴りを放つ。
「グフッ!」
『俺が何をした!?』と思いながらも仰け反る一夏であったが、その直後、彼が先ほどまでいた場所を『蒼いビーム』が駆け抜けた。
何事かとセシリア達が周囲を見回す中、陽太は50mほど離れた学園施設の建物の屋上目掛け銃撃する。直後、何か空気のような物が歪み、飛び上がったのだ。
「………新手か」
飛び上がった『何か』………全身のカラーリングは蒼を強調としたものでありながら、各所に白い色も混じっている蒼いバイザーと手にビームライフルと一角獣を描いたシールドを持ち、背中に特徴的なウイングと、行動時間を延長させるためのプロペラタンクを二本装備した機体が陽太と睨み合っていた。
「…………」
だが陽太が気になったのは機体よりも、むしろその操縦者である。黒い髪に肌の色は日本人であることを示した黄色人種の女性なのだが、どこかで見覚えがある顔の輪郭………だが、そんな陽太の疑問を気にする間にも、謎の新手は彼に攻撃を仕掛けてくる。
―――背中から切り離され、自在に動き回る八つの自立稼動兵器―――
「あれは!……BT兵器!?」
自身が操作する物なだけに、陽太に襲い掛かる八つの存在の正体を即座に見抜くセシリア。しかもそれを操作する操縦者は、自分が操作する限界の六つを超える八つのビットを操りながら、手に持ったビームライフルで陽太に射撃を仕掛けてきているのだ。
高速の空戦を展開する二機、だが陽太の周囲を取り囲んでいたビットが一つ落とされたことで状況が一変する。相手の動きをすでに見切ったと言わんばかりに、陽太はビットが放つビームの間隙をぬぐい、謎のISに近距離戦闘を仕掛ける。銃剣の切っ先が謎のISの顔の付近を通過し、僅かにシールドエネルギーを減少させると、プライドが傷付いたと言わんばかりに、ライフルを量子化し、手にビームサーベルを持ち直し、陽太と斬り結ぶ謎のIS。
ビームと白刃が煌びやかな光を見せ合いながらぶつかり合うが、徐々に陽太の速度について来れなくなってきた謎のISが押され始める。劣勢により歪んだ表情を見ながら、陽太は怒涛の勢いで斬撃の嵐を繰り出し、ついに敵のビームサーベルを手元から弾き飛ばしてしまう。
「腕は悪くないが、相手見てから喧嘩売れよ!」
トドメの一撃を放つために斬撃から刺突に切り替える陽太。対して、驚愕した表情のまま固まる女性………よりも幼い少女。
誰もがこの戦いの勝者は陽太だ………そう確信した時……。
「!?」
「!?………ジーク!?」
陽太の握ったアサルトライフルを銃剣ごと木っ端微塵にし、蒼いISを庇うように陽太と謎のISの両者の間に割って入ってきた全身黒のISが現れたのだった。
☆
「ウチのジークに殺される程度の存在なら、私達には必要ないの。私達に必要なのは………そうきっと、リキュール………貴女が探し求める『異端の存在』なのだから………ね?」
そんな残酷な言葉を吐いたスコールを、リキュールは更に面白そうな笑みで見返しつつ、彼女に問いかける。
「陽太君は決して負けはしないよ………それにジーク君が彼と戦ってくれるというのは実に理想的な流れだしね……」
テーブルにおいてあったヴィンテージ物の赤ワインを優雅に飲み干したリキュールのグラスに、スコールが新たにワインを注いでいく。
「二人が戦うことで、二人は更に高い領域に昇ることができる………そんな二人と私が殺しあうんだ。こんなにも楽しみな事はないよ」
「………あら? 陽太君だけじゃなく、ウチのジークにまで唾をつけるだなんて、貴女本当に悪い人ね」
殺し合いは楽しいこと。そんな狂気に満ちたセリフを平然と吐くリキュールを咎めもしないスコール。二人はお互いの思惑が上手くいくことを疑いもせずにいるのだ。
そんな中、リキュールは注がれたワインをグラスの中で遊ばせながら、陽太とジークの二人の戦いについてスコールとこう語る。
「それにしても………ウチのジーク君と陽太君…どっちが強いと思う?」
「さあね………なんせ陽太君とジーク君………二人とも戦いの天才だ。そして実力は伯仲………同等な者同士だ。本気を出し合えば、どちらか死ぬか、あるいは両方死ぬか、間違いなく命を削りあう死闘になる」
そう語るリキュールは、真っ赤に染まったワインをいつまでも眺める。
まるで、それが自分に対して生贄に捧げられる陽太の血であるかのように、彼女は赤いワインを丹念に恍惚とした笑みで味わいながら飲み干すのだった。
部下に仕事させながら自分達は優雅にお食事タイムなお二方w
一夏に操縦者としての心得を説きながら、フリューゲルたちを瞬殺する天才・陽太
そしてついに登場する『第三の男性操縦者・ジーク・キサラギ』
名前を聞いて判った方もいらっしゃる人もいるかもしれませんが、この第三の男性操縦者は、個人的なお付き合いをさせてもらってます、このサイトでも投稿されているオブライエンさんの小説、『IS【Three Heroes ~白・黒・灰~】』の主人公、ジーク・キサラギの設定を流用させてもらってます。無論、許可はもらってますよw
もしできたなら、そちらの方も一緒にご覧ください。
では、また次回をお楽しみに