IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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ようやく一夏が主人公だって証明できる話だよw



WHITE TWIN DRIVE IGNITION

 

 

 

 

 

「くっ!」

 

 アリーナの外壁にまで吹き飛ばされた陽太であったが、ガード自体は間に合っていたため、ISに損傷もなく、軽い脳震盪を起こしつつも瓦礫を吹き飛ばして立ち上がった。

 

「あのドイツ娘めが」

 

 反応が少しでも遅れてまともに受けたら、『痛い』ではすまない威力の攻撃をしてきたラウラに毒付きながら陽太はむち打ちになりそうなぐらいに痛む首をさする。

 

「人の行為に対して不意打ちで返答するだなんて、誰に教育されやがった?」

 

 ああ、俺の師匠か。と一人ノリツッコミをしつつ痛む頭を抑え、アリーナの中の様子を確認し、すぐさま驚愕する。

 

 一夏とセシリアを守りつつ、二本の刀でラウラの攻撃を回避する箒、そして何かを叫んでいる一夏とそれを取り押さえながら一夏を後方に下げようとするセシリア。

 

 だが問題なのは今のラウラの姿である。明らかにどこかで見たことがあるISのフォルム、しかも四本腕から炎を出して箒を攻撃しているのだ。

 ブレイズブレードの能力を取り込んで、千冬の姿に上乗せしたオーガコアの怒涛の攻めに圧倒される三人の姿を見た瞬間、陽太は叫びながら飛び掛っていた。

 

「人様の姿を勝手にパクるなっ!!」

 

 

 

 千冬の剣技に、陽太の能力を上乗せしたラウラの攻撃は熾烈を極め、しかも四本の腕にそれぞれが携えた雪片のコピーを振るう猛攻を、箒は守勢に回りながら背後にいる二人をも守るという極めて難しい状況に追い込まれていた。

 陽太の言った通り、ラウラの剣技は千冬のそれに到達しているものではなく、技量自体は自分の方が上であると断言できるものの、劣化されども千冬であると言える剣戟の威力に、今度はブレイズブレードの炎までもが上乗せされているのだ。こっちのほうは比べれるほどに陽太のことを知っていないため断言しきれないが、それでも侮れない威力を持っている。

 

「チッ!」

 

 剣速が速い上に一撃が重く、受けた刀から伝わってくる衝撃で手がだんだん痺れてくる。しかも後ろに一夏とセシリアがいる以上距離を取って態勢を立て直すわけにもいかない。だがこのままではいずれ押し切られる。そんなジリ貧の状況が容赦なく箒を追い詰めていく。

 

「だからとてっ!!」

 

 逃げ場などはなく、端から逃げるつもりなどない。押し切られそうになっていた状況を、気合と闘争心の二つを織り込んだ二刀の渾身の一撃でラウラを押し返すと、箒は後ろにいる二人に声だけで退去を命ずる。

 

「2人とも、早くここから離れろ!」

「そんなこと!」

「出来るわけないだろうがっ!!」

 

 セシリアと一夏が猛烈な抗議の声を上げるが、振り返った鋭い箒の眼力と無言の圧力が遮ってしまう。そんな息を呑む二人を置き去りにして、オーガコアと一体化したラウラに突撃した箒は、一足飛びで彼女の眼前に躍り出ると空中で両脚のレーザブレイドを展開し、両脚の回し蹴りでラウラに斬り込んでみせる。しかし続けざまに放った高速連撃であったが、千冬の姿を真似たラウラは四本の腕で簡単に弾き返してしまった。

 

「まだまだッ!!」

 

 だが箒の攻撃はこの程度では終わらない。レーザーブレイドが弾かれたならばと、両手に持った刀を力一杯振るって縦に斬り付ける。

 箒のその一撃を正面から受け、仰け反るラウラに、箒が至近距離から渾身の必殺技を放とうと構えるが、そんな箒よりも早く紅蓮の炎の塊がラウラに襲い掛かり、彼女をアリーナの内壁にまで吹き飛ばしてしまった。

 

「火鳥か!?」

「俺抜きで盛り上がってんじゃねぇーぞ!!」

 

 アリーナの外壁から、箒の隣に降り立った陽太は、すぐさま彼女の方を見ると脇に下がるように言い放つ。

 

「邪魔だ。後ろにいる二人の御守に戻れ」

「私に指図するな! 貴様の方こそ脇に引っ込んでいろ!!」

 

 険悪な雰囲気で互いに睨みあう二人であったが、すぐさま正面で動き出したラウラの気配を察知し、意識の大部分をそちらに向けつつ、必要な情報を互いに聞きあう。

 

「気をつけろ。お前の能力を取り込んだ上に、ベースである千冬さんの剣技は、ますます本物に近づきつつある」

「気をつけるのはお前の方だよ。ビビったなら引っ込んで・」

 

 陽太が話し終わるより先に、立ち上がったラウラは全身から紫の炎を噴出させ、四本の雪片でプラズマ火球を形成すると陽太と箒に投げつけてきたのだった。すぐさま陽太は両手に持ったヴォルケーノから真紅のプラズマ火球を放ち、プラズマ火球同士の激突によってアリーナ内部で凄まじい爆発が起こる。

 爆発によって巻き上がった砂塵と、轟音を伴った爆風が陽太と箒の視界からラウラを覆い隠してしまい、2人はラウラを見失うのだった。

 

「(奴は!!)」

「(何処だ?)」

 

 周囲の気配を注意深く探る二人。そこに箒の紅椿が特異な熱源をハイパーセンサーで捉える。

 

「そこだ!」

 

 箒が敵に反撃の隙を与えないよう、背中のビットを兼任しているスラスターと両肩両脚から『散桜刃舞(さんおうじんぶ)』が放たれ、針鼠の針のような数のレーザー刃のミサイルが、反応にあったラウラに襲い掛かった。

 

「オイッ! いくらなんでやり過ぎだろうが!!」

「相手はオーガコアに取り憑かれている。容赦してはこちらがやられてしまう!!」

 

 この数の攻撃を正面から受けては、いくらオーガコアのシールドバリアが堅牢なものであろうとも致命傷に成りかねない。そんな攻撃を容赦なく放つ箒を辞めさせようとした陽太であったが、すぐさま異変に気がつく。

 

 ―――刃が直撃しているにも関わらず、激突音が響いてこない―――

 

「しまったっ!?」

 

 自分の失策に気がついた陽太はヴォルケーノからプラズマ火球を放ち、ラウラを攻撃すると同時に舞い上がった砂塵を吹き飛ばしてみる。

 放たれた攻撃は確かにラウラと思しきモノに直撃するが、すぐさま砕け、爆風が砂塵を吹き飛ばしたとき、その『正体』を陽太と箒はようやく思い知るのだった。

 

 ―――中身が何もない、変異体の姿をした紫の炎―――

 

 舞い上がった砂塵を利用して、炎だけを残してラウラが姿を眩ませた事を理解した陽太は、背筋に走った悪寒に従うまま、後方にいるであろう二人に、ブライペートチャンネルを使って怒鳴りつけていた。

 

「二人とも、今すぐ逃げろぉっ!!」

 

 

 舞い上がった砂塵で視界が遮られたアリーナ内部において、未だISのハイパーセンサーの索敵の仕方なぞ理解できていない一夏を守るように、セシリアはライフルを両手に持ちながら周囲の状況を注意深く観察していた。

 通算これで三度目となるオーガコアとの戦闘遭遇になるセシリアは、そろそろ陽太達が戦っているオーガコアと呼ばれるISの特異性に独自に気がつき始めていた。

 

「(圧倒的な攻撃力と防御力に機動力、そして絶対防御を無視した特殊機能と、何よりも異常な形態変化と操縦者の精神異常の数々)」

 

 既存のISの常識から逸脱したオーガコアの恐ろしさに、戦慄するセシリア。しかも陽太達は以前から『戦っていた』と言っている。これはつまり自分が遭遇した数以上のオーガコアが、密かに世界中に溢れているという事なのだ。

 普段ならばそんなオカルト話と一蹴する所なのだが、生憎すでに彼女は三度もそのオカルト話と遭遇してしまっている。むしろ信じるなという方が無理である。

 

「(もし、これほどのISを一カ国が占有しようものなら、今の世界の秩序は完全に崩壊してしまいますわ!!)」

 

 考えただけでも恐ろしいことであるが、これほどの戦闘力のISを複数用意すれば、如何に軍用ISを複数保有する大国といえども抗し切れはしないだろう。それは、かつて世界を激震させた『白騎士事件』以上のショックが世界を襲うということなのだ。

 いや、そんなものではすまないかもしれない。

 

「世界の終焉だなんて、笑えない冗談ですわね」

「何の話だよ?」

 

 緊迫した状況にも関わらず、そんな暢気な質問をしてくれる背後の東洋人の少年に、セシリアはげんなりとした表情で振り返りながら叱り付けてみる。

 

「この状況で、あなたは何を暢気に・」

「?」

 

 振り返ったセシリアが自分のほうを見て驚愕の表情で固まってしまったことに、一夏は暢気に首を傾げてしまう。だがそこへ、ISのプライベートチャンネルから、陽太の怒鳴り声が一夏の鼓膜を直撃した。

 

『二人とも、今すぐ逃げろぉっ!!』

 

 三半規管が麻痺しそうになる大声で叫ばれ、その場から飛び上がりそうになる一夏であったが、彼はその時ようやく気がついた。

 自分の背後に立つ黒い影の存在に。

 

「!?」

「危ないっ!!」

 

 舞い上がる砂塵の中を密かに接近し、いつの間にか自分達の背後まで回り込んでいたラウラの凶刃が、棒立ちの一夏に襲い掛かるが、寸でのところをセシリアが一夏にタックルを決めつつ回避する。

 

「おわっ!」

「クッ!」

 

 勢い余ってアリーナの内部まで転がり落ちてしまった二人であったが、後頭部を強打した以外に目立った痛みもなく、一夏はすぐさま起き上がると自分の上に被さっているセシリアに声をかけた。

 

「ありがとう、助かったぜセシリア!」

「……………」

「セシリア?」

 

 自分の上から一向に動こうとしないセシリアに違和感を覚える一夏。いつもならこういう場合セシリアならば『貴族が下々の方を助けるのは当然のことですわ!』とか言って立ち上がりながら指差す場面だというのに、今の彼女は小さな呻き声だけしかあげていないのだ。

 

「(呻き声?)」

 

 セシリアのそんな異変を確かめるべく、彼女の肩に手を置いた時、一夏は異変の原因を理解する。

 

「オイッ!! セシリアッ!!」

 

 肩口から背中にかけて斜めに斬り裂かれた装甲から真っ赤な血が溢れていたのだ。その傷口を目にした一夏が目の色を変えてセシリアに呼びかけ続ける。

 

「オイッ! しっかりしろよ!」

「………んとに、ちゃんと……聞こえていますわよ」

 

 青白くなった顔色で、それでも気丈に振舞おうとセシリアは一夏に返事をすると動かない体を無理やり動かし、ライフルを構えながらゆっくりと自分に近づいてくるラウラに銃口を向けるセシリア。

 そんな彼女の姿にいても立ってもいられなくなった一夏が、セシリアの前に立ち、彼女に言い放つ。

 

「怪我してんだろうが! ジッとしてろ!」

「向こうはこちらの都合なんて考えられてませんわよ」

「!! だったら!」

 

 セシリアが戦えないのは一目瞭然、ならば戦うのは一夏(自分)の役割だ。と意気込んだ一夏は白式が唯一展開可能の武装、1m60cmほどの長さを誇る近接ブレードを呼び出すと、四本の刀を持って悠然と近寄ってくるラウラに正面から斬りかかる。

 

「お待ちなさいっ!」

「うおおぉっ!!」

 

 制止するセシリアを振り切り、真正面から渾身の縦一文字の唐竹割りを放つ一夏であったが、フェイントもない馬鹿正直な一撃はあっさりとラウラによって受け止められてしまう。

 

「それみなさい!!」

 

 予想通り過ぎる攻撃にも、その攻撃を受け止められて馬鹿正直に驚いている様子にも、二重の意味であきれつつ、一夏を助けるために援護射撃の構えを取るが、出血のせいで照準がブレて狙いが定まらない。

 

 やられる!! 

 

 セシリアも一夏も覚悟して息を呑む中、直接刃を交えた一夏に呑み、不思議な声が直接脳裏に響き、自然とその声に耳ではなく、『心』を傾ける一夏。

 

 ………ケテ。

 ………ダレカ………タスケテ。

 

「!!」

 

 圧倒的な感情の濁流に飲み込まれ、すぐさま聞こえなくなった声に驚いた一夏は、今すぐ自分に振り下ろされそうになっている刃への反応が遅れてしまう。

 一夏のブレードを弾いたラウラは、四本の凶刃を突きの姿勢に構え直し、彼の四肢目掛けて解き放つ。オーガコア特有の『絶対破壊(アブソリュート・ブレイク)』の前では、通常ISのシールドバリアなどベニヤ板のように貫かれるのがオチである。

 

「しまったっ!」

 

 敵の攻撃を察知するタイミングが遅れた一夏は逃げる時間もなく、援護をしようとしているセシリアも四本同時に放たれた刃を止める術を持たない。万事休すか。成す術がなくなった二人が諦めかけたその時、砂塵を突き抜けて左右から烈火と疾風がラウラに襲い掛かった。

 

「陽太! 箒!!」

 

 炎を纏ったフレイムソードを振り下ろす陽太と、空裂と雨月を斜め下からラウラの頭部目掛けて放った箒の同時奇襲に、目の前の一夏を突き放すために放った四本の刃を途中で止めて左右からの攻撃を受け止めるラウラ。

 自分達の攻撃を受け止められたことにも大した動揺を見せない陽太は、一瞬の隙を突いて目標から外れた一夏を『蹴り飛ばし』、すぐさま離脱する。

 

「グフッ!」

 

 ラウラの鋭い斬撃の間合いから離脱させるためといえ、相当乱暴な方法で一夏を後退させる陽太。たぶん実力も考えずに突っ込んだお仕置きも兼ねた一撃なのだろう。腹部を思いっきり蹴り飛ばされて転がっていく一夏の首根っこを掴み、そして出血のせいで動けなくなっているセシリアを脇腹に抱えると、ラウラとすぐさま斬り結んでいる箒の方をむく。

 

「死ぬなよ!」

「誰にものを言っている!!」

 

 短いやり取りをして、すぐさま二人をこのアリーナから離脱させようとする陽太であったが、血相を変えた一夏が暴れながら彼の手から抜け出してしまったのだ。

 

「コラッ! 素人はもう下がれ!!」

「ダメだ! アイツ、助けを求めてる!!」

「あ、あんっ?」

 

 てっきり蹴り飛ばしたことに文句をつけてくるものだと思い込んでいたため、一夏の思わぬ言葉に面を食らう陽太。そんな彼の様子にも気がつかないぐらいに必死になっている一夏は再びラウラに向かって行こうとしたのだ。だがそれは彼の首を掴んだ陽太の手によって阻まれてしまう。

 

「放せよっ!」

「無理だ。アイツが助けを求めようが求めまいが、今お前が行ったところで、もうどうすることもできない」

「!?」

 

 自分の力不足をここでも思い知らされ、悔しさのあまりに音が鳴るぐらいに歯軋りをする一夏。が、ここで簡単に引いて諦めることはできない。なぜなら目の前で、今、助けを求めている声があるのだから。だが、静かに語る陽太の言葉は一夏のそんな気持ちを容赦なく引き裂くものであった。

 

「じゃあ、お前ならどうにかできるのか?」

「……………どの道、オーガコアに取り憑かれた以上、アイツの末路は決まっている」

「それって………」

「オーガコアは操縦者の精神と深い部分でリンクしてる。それを無理やり引き剥がすわけだから、良くて精神障害を残すか、普通に廃人になるか………あるいは…」

 

 その先は聞かなくても一夏にも理解できる。だからこそ呆然となり、そして自分の中にある『想い』がマグマのように噴き上がり、声を張りあがらせていた。

 

「そんなの、絶対にダメだっ!!!」

 

 目の前で苦しんでいる者を、助けを求めている者を、諦めて、手放すなんて絶対にできない。 

 いつだって自分に強さを示し続けてきたくれた、たった一人の家族は、一夏に諦めろだなんて教えたことは一度だってない。

 言葉にしなくても、その背中で語り続けてくれていたのを、一夏は理解していた。

 

 『諦めるな 最後まで信じろ』

 

 多くの事を語ってくれる人ではなかったけど、その『無言のメッセージ』だけはしっかりと受け取っている。

 

「(目の前のラウラを救う力が………俺は欲しいっ!!)」

 

 助けを呼ぶラウラを救うための力を一夏が望んだ時、彼の意識が急激に白い光に包まれていくのだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 白い光で目の前が全てが覆われたかと思うと、次の瞬間、一夏を除く全ての存在がモノクロの灰色と化して動きが止まってしまう。陽太も、セシリアも、戦っている箒やラウラも、世界すらも。

 

「な、なんだよ、これ?」

『さあ、約束の時だよ』

『聞かせてくれ。君の答えを』

 

 何が何なのか頭が混乱する一夏であったが、背後から聞こえてきた声に振り返ってみる。

 そこにいたのは、かつて空の上で出会った『白いワンピースを着た長く白い髪をした少女』と『白い甲冑を纏った手に剣を携えた黒い髪の女性』であった。

 全てが停止した世界において、少女と女性は一夏のそばに歩いてくると、一夏の瞳をジッと見て、彼の出す答えを静かに聴こうとする。

 

「こ、答え?」

 

 一夏は、目の前の二人が何者なのか、問い返すこともできずにいたが、ふと、あの時少女が口にしていた言葉を思い出す。

 

 ―――何のための戦いか………貴方の答え、いつか聞かせてね―――

 

 二人はあの時一夏が答えることのできなかった言葉を、今聞こうとしているのだ。

 

『まだ、答えは出ていない?』

『それでも私達は構わない………例え君がまだ迷いの中にいようとも、君を守りたいという気持ちは揺るぎはしないから』

 

 二人が自分に何を聞きたいのか、何を求めているのか、その問いかけはいったい何なのか、一夏が思いつくものは一つだけだった。それはかつて、陽太が自分に聞いてきた問い。

 

 ―――勝負を制するのは技術じゃない。ISの性能だけでもない。『ココ』だ―――

 

 自分の胸に手を当て、彼は静かに瞳を閉じる。そして今、自分の中で確かに存在している、戦う為の『理由』を少女と女性に、瞳を開いて真っ直ぐに彼女達を見つめながら、言葉に想いを乗せて二人に送ってみせる。

 

「………助けたい」

 

 少女の瞳が優しく笑う。

 

「目の前で『現在』苦しんでいる奴を助けることができる力が欲しい」

 

 女性の微笑が更に温かいものになる。

 

「でも、俺は弱くて………千冬姉や陽太や箒……」

 

 一夏の拳が悔しさで握り締められるが、それでも諦めきれない気持ちが、彼の瞳を前に向けさせ続ける。

 

「いや多分、このIS学園で一番弱いと思うけど、それでも苦しんでる誰かを、助けて、守ることができる自分になりたい! そんな自分に変わりたい!! だから、俺は強くなりたい!!!」

 

 揺るがない。諦められないその気持ちをしっかりと聞き届けた女性と少女は、それぞれ一夏の左手と右手を握ると、初めてここで自分達の自己紹介を始める。

 

「コアナンバー001 『白騎士』」

「コアナンバー007 『暮桜』」

 

 二人が急速に白い光に包まれ始めると、止まっていた世界に色が戻り、時間が再び動き出す。

 

 

「「私達『白式』は、現在(今)この場を以って、操縦者『織斑 一夏』を正式な『主(マスター)』と認めます!!」」

 

 

 

 

 ―――白い光が爆発し、世界を包み込んだ―――

 

 

 

 日本某所 マンション15階

 

「これ……は…」

 

 自室において、密かに亡国機業が占有している衛星から送られてくる映像で、IS学園内部の戦況をモニターしていたジークは、突然の映像のブラックアウトに面を食らっていた。何度回線を復旧させようとしても繋がないのだ。

 ならば他の回線はと繋いで見ても同じこと。違う衛星からの映像も同様な結果となり、IS学園内部にクラッキングして手に入れた監視モニターも全て同じく画面が見れず、彼は完全に内部の状況を盗み見ることができずにいた。

 

「チッ!」

 

 あの男の操縦者から白い光が放たれたかと思えば、次の瞬間、映像がブラックアウト。おそらくIS学園周辺での映像機器は全て同様な状況になっているはず。

 

「こんなマネができる奴といえば………」

 

 心当たりは一人いる。そしておそらくその心当たりは、意図的にこの状況を自分に見せないようにしているということも。

 

「まさか………あのISがそうなのか?」

 

 ジーク・キサラギが戦う理由の総て。

 この間は取るに足らない雑魚だと思い込んでいた、あのISこそがそうなのか?

 

 湧き上がる疑念と苛立つ気持ちを必死に抑えながら、ジークは定期連絡を入れてきている潜入員(スパイ)の報告を今か今かと待ち続けるのだった。

 

 

 

 

 圧倒的な光の奔流の中で、一夏は自身に起こった変化に気がついた。

 

 ―――フォーマットとフィッティングが終了しました。確認ボタンを押してください―――

 

 意識に直接データが送り込まれてきたとき、目の前に現れるウインドウ。訳もわからずにその確認のボタンを押すと、更なる量のデータが流れ込んでくる。

 

「(いや、正確には整理されてるんだ)」

 

 感覚的にそれがわかった一夏。

 そして『初期化(フォーマット)と『最適化(フィッティング)』が終了したと同時に光の奔流が収まっていく。

 

「一次移行(ファーストシフト)!? まさか、今まで初期設定だけの機体でおられましたの?」

 

 驚きの声を上げるセシリアであったが、自身の体の異変にも気がつく。痛んでしかなかった背中の傷から痛みが消えており、出血も収まっていたのだ。

 

 先ほどまで意識が無くなりそうになっていた自分の体の変化に驚愕しているセシリアを尻目に、隣の陽太は一夏のISの変化に驚いていた。

 

 白式の全身の装甲にも変化を起こし、スカイブルーのバイザーと一体化したヘッドパーツと全身を鈍い灰色に近い白の鋼の装甲は、純白の鋼に色を変え、今まではどこか工業的な凹凸が見受けられていたのに、それが消え去り、滑らかな曲線とシャープなラインが特徴的な中世の鎧を思わせるデザインに変化していた。

 その中でも特異な形状をしているのは、両肩に着いた圧倒的な光の奔流を放っているショルダーアーマーで、その白い光が何のか、一早く陽太が気がつく。

 

「コアが発生させてるエネルギー? だけど、このべらぼーな生成量は一体………」

 

 長いこと色々なISを見続けてきた陽太でも、これほどのエネルギーを生み出す機体など見たことはない。たとえそれがオーガコアであっとしてもである。

 

 そして一夏は、自分の変化と先ほどの会話の意味をようやく理解し、二人の存在に心の底から感謝の言葉を漏していた。

 

「白式………ありがとう」

 

 少女と女性のそれぞれが握ってくれた手の温もりが今もちゃんと残っている。先ほどまでのやり取りは夢でも幻でもない。

 その温もりを拳に込めた一夏は、改めてラウラの方を向く。

 

 先ほどまで斬り結んでいた箒とラウラであったが、突如爆発したかのようにアリーナを埋め尽くした白い光に動きを止め、呆然と一夏を見つめていたのだ。

 

「箒………後は俺に任せてくれ」

「えっ?」

 

 力強い瞳と言葉に、我を忘れていた箒にそう告げると、一夏はラウラ目掛けて突撃をする。

 

 両肩のアーマーが後方にスライドし、爆発的な光の粒子を放出して背中のウイングにあるスラスターと

連動し、爆発的な加速でラウラに迫った。

 対してラウラも、一次移行(ファーストシフト)を完了させた新たなる敵勢力を迎え撃つべく、四本の雪片から紫のプラズマ火球を連続発射してきた。

 

「にゃろっ!」

 

 驚いた陽太がヴォルケーノで援護をしようとするが、それよりも早く一夏が自分の刃でプラズマ火球を切り裂いて、『消滅』させてしまうのだった。

 

「今のはっ!?」

 

 陽太が驚くのも無理はない。敵の攻撃を切り裂いただけでも素人の一夏にしては中々驚異的なものであるのだが、プラズマを『消滅』させたとなると話は変わってくる。オーガコアの攻撃を『消滅』させることがきる武装など彼は聞いたことがないから。

 

 対して一夏も、あまりにあっさりラウラの攻撃を迎撃できたことに驚愕するように、自分の手に握られているブレードに目をやる。

 先程までの実体剣の姿をしていた名無しの近接ブレードの姿は完全に消え失せ、一夏に握られていた一振りの刃は、刀身が白いビームとなった新たなる姿をしていたのだ。

 

『近接展開ブレード、雪片弐型』

 

 一夏の脳裏に、騎士の姿をした女性(白騎士)の声が響いてくる。

 

『そしてこれが私達の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)である、零落白夜』

 

 続けて白いワンピース(暮桜)の声も聞こえた。

 

『この零落白夜は、オーガコアのリンクを強制的に初期化することができる』

「うえっ?」

『精神障害も廃人にもましてや死なせることもないってことだよ♪』

 

 白騎士の説明が理解できなかった一夏にわかりやすく補足してくれる暮桜に感謝の念をもちつつ、更に聞かされた内容の幸運さに、興奮が抑えきれずに一夏は笑いながら雪片弐型を構え直す。

 

「つまりは、こいつならアイツを助けられるってことだな!!」

 

 先程と同じ、上段からの唐竹割り。

 さっきは簡単に弾き返されてしまったが、今度はそういうわけにはいかない。なぜならこの刃には、一夏の、白騎士の、暮桜の想いが込められている。ラウラを救うんだという気持ちがありったけ込められているのだ。無様に弾かれる訳にはいかない。

 

 そして四本の刀を構えて、受け止めようとする構えをみせるラウラに、一夏は真っ向から挑む。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!! 返事しなくていいから、聞けっ!!」

 

 それは誰に対する助けを呼ぶ声だったのか一夏にはわからなかったが、助けを呼ぶラウラに彼は思いのたけをぶちまける。

 

「助けてやるから………これが終わったら、千冬姉に一緒に謝りに行くぞ!!!」

「!?」

 

 千冬の名前を聞いて、ホンの僅かだが動揺したラウラに、一夏は真っ向から白い閃光の刃を振り下ろす。

 雪片と雪片弐型。同じ系譜で産み落とされた兄弟刀が激突し、激しいスパークを生み出すが、四本の雪片に亀裂が生じるのが見えた一夏は、白式のスラスターから爆発的な光の奔流が生み出し、それをそのまま斬撃の威力に変換させる。

 

「うおおおおおおっ!!!」

 

 一夏の渾身の気合と共に砕かれた四本の雪片、そして白い閃光に斬り裂かれた黒き悪夢。

 

 雪片弐型によって真っ二つにされたオーガコア変異体から、生身に傷一つ負っていないラウラと初期化されたオーガコアが放り出され、ラウラをあわてて受け止める一夏。

 そんな一夏の背後では、地面を転がっていくオーガコアを拾い上げた陽太が、なんとも言いがたい気分でラウラを揺すりながら声をかける一夏の様子を見続けていた。

 

「(なんやかんやで、結局アイツに美味しい所全部持ってかれたが………だが、アイツのISとあの単一仕様能力(ワンオフアビリティ)、なんで千冬さんがコイツにこれだけの機体渡したのかちょっと理解に苦しむが………初めから、コイツも対オーガコア部隊に入れるさせるつもりだったのか?)」

 

 一夏の白式の能力は、凶悪なまでの悪鬼殺し(オーガキラー)である。そしてそんな機体を一夏に預けた千冬の真意が解りかねずにいた。

 

「だけど………」

 

 一夏に揺さぶられていたラウラであったが、彼が彼女の口元に耳を当てると、何かとても安らかそうな寝息を立てていることに気がつき、ラウラを見ていた一夏とセシリアが一気に脱力してしまう。

 どうやら心配されていた後遺症の方も、現状では心配いらなさそうであった。

 

「バカのおかげで、しょうもない結末で終わらずに済んだ事だけは良しとしてやるか………」 

 

 大した活躍もできなかったな、と皮肉りながら、陽太は空を見上げながらながら、戦闘の終了を告げるように、ため息をついのだった。

 

 

 

 

 

 





 圧倒的な性能をみせた白式。

 だが一方で、深い闇の底、もう一つのISが眠りから覚めてしまいます。


では、次回もお楽しみにしていてくださいね
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