IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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諸事情により投稿が遅れてもうしわけありませんでした!


そして、この話より新章突入!

揺れる世界の余波は、IS学園にも届いております。

ということで、セカン党の諸君! 彼女の登場だ!!




二章・揺れる世界
動き始める世界


 

 

 

 

 

 春の陽気が深まる真昼の空を、今、一機の戦闘機が空気を引き裂き、音を置き去りにした『超音速飛行』で駆け抜けていく。

 

 ―――甲龍・風神(シェンロン・フォンシェン)、最高速度M4.2クリア―――

 

 計測器から聞こえてきたアナウンスと、上空2000mの地点を次々と指定のポイントを通過していくその戦闘機の様子を、地上にいる十数人の人間が固唾を呑んで見守っていた。

 

 世界最大の人民を持つ国である中国において、現状世界では実用化されていない、実戦配置は10年先とも言われている『第三世代』の集大成とも言われている、とあるISのテストに真っ最中なのである。

 そんな偉業を地上で見守る人々の中に、いつものスーツの上着を脱ぎそれを手に持ち、首からIDをぶら下げ、袖を捲くった状態でサングラスを掛けた織斑千冬の姿があった。

 

「………第三世代機、甲龍(シェンロン)の改良機、よくも短期間でここまで形にしたものだな?」

 

 振り返ることなく背後の人物に問いかける千冬。

 

「ウチの技術陣だけじゃ、後100年かかっても鳶を追い抜かすこともできやしないさ。これもそれもヒック………まあ篠ノ之女史万歳ってヤツですよ、ヒッグ……」

 

 千冬の問いかけに答えたのは、同じようにスーツを着ながらも、手に持った酒瓶を豪快に煽ってベロンベロンに酔っ払った妙齢の黒髪の中国人女性であった。

 中国政府関係者のIDを持ちながらも、とても最新鋭ISの実験場の人間とは思えないほどの酒気を帯びた女性から、3m離れても匂ってくるような強烈な匂いに対し、酒好きな千冬すらも眉を細めながら、背後の女性に抗議をする。

 

「もう少し離れろ。お前のその匂い、第一回モンド・グロッソの時よりも強烈になっているぞ」

「ヒッグ………誰かさんに二回戦でボコボコにされた大会のことなんて、覚えてませんよ~~ヒッグ……」

 

 だがその抗議もどこ吹く風よと聞き流されてしまう。

 普通ならこんな状態で仕事をしようものなら大問題にされてしまうところなのだが、如何せん、中国におけるIS開発及び運用に多大な貢献をし、『現役代表』を退いてなお、アドバイザーとして開発局の重鎮に納まっている、この女性だからこそ許される振る舞いなのだ。

 

 とりあえず酒気帯びの件については諦めるしかないと悟った千冬であったが、それよりも遥かに重要な件について聞いてみる。

 

「しかし、本当にいいのか?」

「何がぁ~?」

「中国当局にしても、『アレ』は貴重な実験機だ。それをよく実戦配備させることに上が了承したな」

「まあ、元々上もIS委員会に良い顔したがってた所に、先日のあの『騒ぎ』でしょ?」

 

 先日の『騒ぎ』という単語を聞いた千冬の眉が無意識に釣り上がる。

 

 ―――ハワイ沖にての、亡国機業(ファントム・タスク)によるアメリカ艦隊壊滅テロ―――

 

 アメリカはこの件に関して全力で事実を隠蔽しようとしているが、ネットや他国の諜報機関の間では半ば公式見解と化しており、IS委員会もこの事実に激しく動揺していたのだった。

 対オーガコア戦を想定した軍用ISと、アメリカでもトップクラスの操縦者のみで構成されたIS部隊と、最新鋭の装備を持った艦隊がたった一機のISに壊滅させられたのだ。

 如何にISの謳い文句が単機で大国の軍事力を凌げると言われているといっても、その事実はIS普及前の時代の話であり、ISの研究開発が進んだ現代において、その研究開発が最も盛んなアメリカの軍隊を相手に、たった一機で戦いを挑もうなど正気の沙汰ではない。『普通の』組織の『普通の』ISとその操縦者であればの話だが。

 

「(あの女………)」

 

 千冬の耳にこの事件のことが入ったとき、真っ先に彼女は『あの女(アレキサンドラ・リキュール)』のことが頭に思い浮かんだ。こうやって自分のことを千冬が考えながら悔しがっていることを知れば、嬉しそうに鼻で笑い飛ばしただろうと容易に思い浮かび、余計に腹立たしさが込み上げて来たのだが………。

 

「(皮肉にも、あの女が暴れたおかげで、『対オーガコア部隊』の正式発足の話が驚くほどスムーズに委員会で議論された)」

 

 ハワイ沖でのテロ直後、彼女自らが足を運び、直接提出されたこの『対オーガコア部隊』発足の件は、委員会において、ほぼ満場一致の形で可決されたのだ。最もその実働部隊の隊長に、よりにもよって各地の軍事基地のオーガコアを強奪していたミスターネームレスこと火鳥陽太が選ばれたことについて、流石に理事国の委員達は難色を示し、アメリカやロシアにいたっては血相を変えて『今すぐ更迭しろ』とがなり立てたが、密かに打ち合わせをしていた委員長と千冬はまったくそれに動じず、今まで隠し通していた千冬の体調不良と、陽太によるオーガコア戦闘の記録を見せることで、操縦者としての技量とオーガコア戦闘の経験値の高さを伝え、そして各国共通の「禁止されているオーガコア研究」という脛に傷をチラつかせ、アメリカとロシアの反論を完全に押し潰してしまう。

 アメリカにいたっては、虎の子の部隊と艦隊を、一機のオーガコア搭載機に壊滅させられたという所に、更に保有が禁じられているオーガコアを軍事基地に保管していたことを表沙汰にされては、各国はここぞとばかりに軍事大国を非難し、まさに泣きっ面に蜂な状態にされるのは目に見えていた。

 それは密かにオーガコア搭載機の研究を続けているロシアにしても同じで、ここでゴネて各国から不信感を持たれては、委員会からの強制査察などが入り、面白いことになることはまずない。

 

 他の理事国も面目を潰されたとはいえ、亡国機業の保有するISの恐ろしい性能を実感し、ここにきて危機感を募らせてしまったところに、ブリュンヒルデがもたらした奇策が、唯一の希望のように聞こえ、また篠ノ之束が製作した対オーガコア用ISのデータのフィードバッグという旨味が後押ししたのか、セシリアとラウラの母国であるイギリスとドイツやその他のヨーロッパ諸国、そして、数ヶ月前から急遽完成した『新型ISの運用実験』を行っていたこの中国の賛同を得ることに成功したのだった………もっとも、この中国の事情は他の国とは少々異なっていたようだが………。

 

「(まさか政治が死ぬほど嫌いな束が、直々に中国政府と接触していたとは………)」

 

 もっとも、彼女が行った接触とは、背後でグビグビと湯水のようにアルコール度が高い酒を飲み干している女性に新型ISの設計図を送りつけ、『これを渡す代わりに千冬に必ず協力する』という手前勝手な交換条件だけであった。

 

「(子供の口約束にも劣るぞ………束)」

 

 親友として色眼鏡抜きに見ても、大天才と言える頭脳を持ちながらも、変なところで抜けていると言うか、ちょっと考えればこの女性が約束を守らずに、そのまま新型ISのデータを悪用するとか考えなかったのかと小一時間問い詰めたくなるが、結果的にプラス方向に動いてくれたことと、本人が未だに所在を掴めない事と、何よりも自分の目の回るような忙しい環境に免じて不問にすることにした。

 

「さっきから一人で問答してる世界最強の操縦者さん?」

「現状では嫌味にしか聞こえないが、なんだ?」

 

 と、千冬の思考を中断させた背後の女性は、ほんの少し瞳を細めると、酒気を帯ながらも真剣みのある声で、千冬以外の誰にも聞こえない音量で話しかけてくる。

 

「正直政治のお話は好きじゃないんだけど、今回のアメリカ艦隊壊滅と、IS委員会の動き、それによる世界情勢の流れ………どうしても私はキナ臭いものを感じる。貴女の構想がすんなり通ったこともね」

「それは、私も感じている。正直、不気味なぐらいトントン拍子で話が進んでいることもな」

「気をつけて………私のほうも探りは入れておくよ。だからこの子達のこと、よろしく頼むね」

 

 そして女性は、口元に少しだけ笑みを浮かべながら空を見上げる。

 

 濃い紫色のカラーリングを中心とした装甲に、全体的にシャープな形状ながら、両サイドの人間の肩に当たる部分に非固定浮遊部分(アンチロック・ユニット)が存在し、両足の部分からスラスターがロケットのように吹き出た、戦闘機そのものISが、一瞬で変形を開始する。

 

 ―――戦闘機の先端部分が180度折り返し、中から金色の留め金で止められた艶やかな黒色をしたツインテールが現れる。両サイドの非固定浮遊部分(アンチロック・ユニット)が90度動き、両手両足を広げ、紫色のバイザーで覆われた顔を空にさらしながら、空中で静止するIS―――

 

「確かに預けたよ。第三世代改良機『甲龍・風神(シェンロン・フォンシェン)』と、中国(ウチ)の秘蔵っ子、鳳鈴音(ファン・リンイン)を」

 

 テスト飛行を無事に終了させ、開発陣達に右手でピースをしながら降下してくる鳳鈴音(ファン・リンイン)を、母性を宿して慈しむような目で見つめながら呟いた女性に、千冬もまた、口元に笑みを宿しながら、はっきりとした口調で言い放つ。

 

「ああ………」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 一方、IS学園に入学してから丸一月がたち、またここ2週間ほど目立ったトラブルも起こらず、世界情勢とは裏腹な、平和な空気が戻り始めていたIS学園の第三アリーナにおいて………。

 

「グヌヌヌヌッ! 出ろぉぉぉぉぉっ!! 零落白夜ぁぁぁぁぁぁっ!!」

「……………」

 

 雲一つない青空。スズメが鳴きツバメが華麗に飛び回る、平穏な上空において、白式を展開し、雪片弐型を両手に持ち、必死になって零落白夜を発動させようと叫び倒している一夏と、ブレイズブレードの中からその光景を呆れを通り越して可哀想なものを見るような目で見つめる陽太。

 

「もう少し! もう少しなんだよぉ!! こう………なんだ!? あとちょっとでインスピレーションが働くと言うか!!」

「……………」

 

 必死になっている一夏に見限り、陽太は何も話さず無言のまま地上に向かって降りていく。

 

「えっ!? ちょっと待てよ!」

「悪い。お前に少しでも期待した俺が悪い………だから話しかけんな、織斑弟」

「怒っ………てる?」

「怒りも沸かんわ」

 

 相当呆れている口調の陽太に危機感を覚えた一夏が、涙目で懇願する。

 

「もうちょっと!! もうちょっとだから!!」

「その台詞はもう聞き飽きたわ………ハア…」

 

 一夏が必死に零落白夜を発動させようとする理由(わけ)。それは白式自体のとんでもない『欠陥』が起因していたのだった。

 

 ラウラとの戦闘後、落ち着いた状況で白式の性能を計測しようとした一夏達であったのだが、そこで何故だか白式の二つのコア、『白騎士』と『暮桜』の内、『白騎士』のコアが最低限の稼動数値をした状態で『休眠』状態であることが発覚したのだ。それに伴い、白式が一次移行(ファーストシフト)時に見せていた圧倒的なエネルギーもなくなり、おまけに白式の単一仕様能力(ワンオフスキル)である零落白夜を使用できず、操縦者の意思で使用できるように設定を変更しようとしても、白式がそれを受け付けないでいるのだ。おかげで、現状の白式に出された整備士と陽太達の印象は、『近接しか出来ない欠陥ISに素人が乗った』という最悪なものであった。

 

 一夏はその印象を何とか拭おうとこの2週間、幾度も零落白夜の発動と『白騎士』のコアを稼動させようと必死になっているのだが、その取っ掛かりすら見つけられずに、ずるずると時間だけが過ぎ去っていた。

 

「とりあえず、出撃が掛かったら、お前さんは後方待機か逃げ遅れた民間人やらの誘導な」

「ええっ!?」

「文句言うな。それも立派な仕事だ」

 

 ビシッと指を指して一夏に釘を刺したところに、地上からプライベートチャンネルで陽太に声をかけてくる者たちがいた。

 

『陽太さん!! 私の訓練も見てほしいのですが!?』

『……………』

 

 一人は、ブルーティアーズを纏い、優雅にポーズを決めるセシリア。

 

 そして、もう一人は、チャンネルを開いたにも関わらず一言も喋らないまま無言で陽太を見つめてくるシュバルツ・レーゲンを纏ったラウラであった。

 

「黙ってないで、この『火鳥隊長』様に敬礼の一つでもしたらどうだ、ラウラちゃん?」

『………ちゃんなどつけるな! 私はお前を隊長とも兄弟子とも認めていない!!』

 

 陽太の言葉に猛烈に反発するラウラであったが、初日の頃に比べればずいぶんと棘がなくなった感じがした陽太は、なおも調子に乗ってラウラをからかい始める。

 

「そうツンツンすんなよ。『あのとき』のお前さんは、あんなに可愛かったのにさ」

『そうですわね。『あのとき』のラウラさんは、確かに普段とは考えられないぐらいに可愛らしくあられましたわね!』

「まあ、可愛いと言えば………可愛かったかな?」

『!!!』

 

 陽太、セシリア、一夏の三名に可愛らしいと言われ、頬が最高潮に赤くなったラウラは俯きながら、肩をわなわなと震わせ始める。

 

 三人が言う、『あのとき』。

 それは、ラウラが一夏の零落白夜によって助けられた後、彼女を保健室に運び込んだ時のことであった………。

 

 

 白いカーテンで仕切られた、白いシーツの上に寝かされていたラウラに、意識が戻り始めた。

 

「う、ぁ………」

 

 意識にかかった靄と、体のだるさが思考を鈍らせる中、濃い消毒液の匂いが、今、自分は保健室にいるのだとラウラに教えてくれる。

 

「気がついたか?」

 

 聞き覚えのある声、否、聞き間違えるはずのない声が自分の隣からしたため、ラウラは動かない体で無理に起き上がろうとするが、それを両肩に手を置いて千冬が制止する。

 

「無理ををするな。全身くまなく打撲と軽い肉離れを起こしているそうだ」

 

 全身に走る苦痛と、今のこの状況がラウラの中ではなぜか一致せず、彼女は千冬にすかさず聞いてみた。

 

「何が………起きたのですか?」

「何も覚えていないのか?」

 

 現状、オーガコアを使用し、精神異常を起こした操縦者達はほぼ例外なく植物状態に陥り、その一部の例外達もほとんど人の言葉に反応できないほどの精神崩壊を起こしているため、千冬はラウラもオーガコア使用のショックにより、一部記憶が飛んでいるのだと判断する。

 

「包み隠さずに言おう。お前はオーガコアという特殊なISコアを使用したISを起動させ………錯乱状態に陥り、火鳥達に救出された」

「……………」

「コアのほうは火鳥が無事に回収した。今、目下全力で解析作業に当たっている」

「……………」

「ラウラ………お前は・」

「覚えています」

 

 顔を伏せた状態のラウラがぽつりと言葉を漏らす。

 

「おぼろげですが、覚えています………私は……森の中で………力を欲して………手で触れた瞬間、自分が消えてしまいそうな感覚に襲われて………そして、闇の中でずっと助けを求めていました」

「ラウラ………」

「部分部分ですが、火鳥や織斑一夏の言葉が聞こえていました………なのに、私は……」

「……………」

「申し訳ありません、教官」

 

 伏せた彼女の瞳からこぼれ出した涙が、手の甲にポトポトと落ちていく。

 

「私は………結局、貴方のための何者にもなれませんでした。力にも、家族にも………」

 

 ラウラのその言葉を千冬は何も言わずに、ただ黙って受け止める。

 

 数年前、千冬がドイツでIS操縦の教官を務めていた頃、彼女の元で誰よりも熱心に指導を受けていたラウラは、ある日、訓練の合間の休憩時間に、とあることを言って、千冬を困らせたことがあった。

 

『織斑教官! 教官はどうしてもドイツに帰化するおつもりはないのでしょうか!?』

『何度も言わせるな。私には帰る家があって、家族がある。それを放り出すわけにいかん』

『失礼しました!! でしたら、私が日本に帰化するというのは、どうでしょう!?』

『………一応、理由を聞いておこう』

『ハッ!………教官のおかげで私は部隊一の操縦者になることができました。私はそのご恩を是非返したいのです!!』

『いらん。お前を育てるのが私の仕事だ。私は私の職務を忠実にこなしただけに過ぎん』

 

 何を突然言い出すのだと、呆れ返った千冬であったが、ラウラは瞳を輝かせながら、言葉を続ける。

 

『いえ! これだけはどうしても譲れません!! 私は絶対に、教官にご恩を返したいのです!!』

『いらん』

『いえ!』

『いらんと言ってる』

『いえっ!!』

 

 荒い鼻息をしながら絶対に譲らないといった顔で自分を見つめてくるラウラに、千冬は根負けしたように苦笑する。

 

『仕方のないやつだ………』

『!! では私の意見を聞いてもらえるのですか?』

『それは話が別だ』

『え?………では?』

『そうだな………もし、何か私にあったなら、お前には力になってもらう………かもしれないな』

『絶対になってみせます!!』

 

 絶対に力になってみせると、胸を張りながら断言する小柄なラウラの様子がおかしかったのか、彼女の頭を撫でながら、とあることを聞いてみせる。

 

『日本に帰化するという話だが、苗字はどうする気だ? お前の名前だと、えらく難解な当て字になりそうだが?』 

『はい! その折は、『織斑ラウラ』と名乗らせてもらおうと思います!!』

『………帰化したからといって、好きな苗字を名乗れるわけではないぞ』

『えええっ!!』

 

 本気で驚いた様子のラウラに、知らなかったのかと千冬はあきれながらため息をつく。

 日ごろから千冬を特別に慕ってくれていたようだが、まさか『家族になりたい』とまで言ってくるとは………。

 

『私の家族なりたいのか?』

『えっ!?………い、いえ! そんな大それた事は、決して……その…多少も……ちょっとだけ……』

『………そうだな、私にも少しだけ覚えがある………私も昔……『あの人』が私の親だったらと、ずっと考えていたものだ』

『教官?』

 

 懐かしそうな表情のまま、ラウラの頭を撫で続けた千冬は、徐に手を放すと、彼女に微笑みながら言葉をつむぐ。

 

『あの人の気持ちを、今なら少し理解できる………例え、血の繋がりがなくても、想いが紡いだ絆で結ばれているのなら、それはもう家族と同然なのだろう』

『教官………』

『ラウラ………お前のおかげで、また少し私も勉強することができた。感謝している』

『………はい!!』

 

 

 

「私は………貴方の教えを汚しました!! 貴方の強さを証明しようなど、ただの詭弁です。私は………私はただ、自分が弱いことを誤魔化そうとしていただけで、貴方のことなど・」

「もういい」

「ですがっ!?」

 

 ラウラの嘆きを、自分自身を否定しようとしているラウラの言葉を、今度は千冬が遮る。

 

「間違えないことなど誰にもできない。そして間違えたことそのものを責める権利など誰にもない………お前は確かに間違えた。そこに気がつけたならば、今からそれを悔い改めればそれでいいではないか」

「ですが!?」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

「は、はい!」

 

 いきなり名を呼ばれたラウラは、思わず驚いた顔のまま背筋を伸ばして千冬の顔を見る。

 

「お前は誰だ?」

「私……は………」

 

 次の言葉が出てこず、黙り込んでしまうラウラ。そんな彼女に千冬は、優しい表情と言葉を送った。

 

「ゆっくりとお前になっていけ。迷っても、時に間違っても………それだけは諦めるな」

「………教官」

「それにな、例え間違えても大丈夫だ………なぜなら」

 

 そこで一旦言葉を止めると、すかさず自分の後ろのカーテンを勢い開く。

 

「こいつらがお前を止めてくれる」

「あっ!」

「ヴぁ!」

「いっ!」

「……………」

 

 開かれた白いカーテンの向こう側で、こっそりと聞き耳を立てていた、陽太、一夏、セシリア、そして一人興味なさげな箒の四人は、急に自分達のほうを見つめる千冬と、鳩に豆鉄砲を食らわせたように呆然となっているラウラの視線を受けて、困惑し始める。

 

「い、いやぁ~~、様子見にきたら、えらく盛り上がってたみたいで………」

「隠れるつもりはなかったんだ! ただ、ちょっと話しかけづらくて………」

「そ、そうですわ! 声をかけるタイミングを失ってしまいまして………」

「……………」

 

 無言を貫く箒を除いて、各自言い訳をツラツラと話し出すが、そんな三人を千冬は冷たい視線で射抜きながら、なお呆然となっているラウラに話しかけた。

 

「大方お前の泣き顔を笑い飛ばしにでもきたのだろう。まったく絵に描いたようなガキ共だ。だからこそ、ラウラ………お前が必要だ」

「えっ?」

 

 戸惑うラウラに、千冬はいつもの自信に満ち溢れた笑顔で、彼女に一つの願い事をするのだった。

 

「何時か話した約束を守ってもらいたい、ラウラ」

「教官………?」

「今、私は対オーガコア戦闘を主目的とした部隊の設立を急いでいる。小僧は操縦者としては優秀かもしらんが、中身と行動は見ての通りバカそのものだ。ゆえにお前が必要だ、ラウラ。コイツが立派に『隊長』が出来る様、『副隊長』として導いてやってくれ」

「……………」

「誰がバカだ、コラッ!?」

「コイツの下に付くのは不服かもしれんが、誰にでも頼めることではない………お前だからこそ私は安心して任せられる」

 

 千冬は陽太(バカ)の方を指差しながら、ラウラに頼み込む。

 それを受けたラウラは、しばし沈黙しながらも、段々と千冬の真意を理解し始める。そう千冬は自分を何一つ見捨てていない。

 

 自分を信じ続けていてくれていることに………。

 

「………ハイ、わかりました教官。このラウラ・ボーデヴィッヒ。身命に賭けてその任務、遂行してみせます」

 

 今度は悲しみのためではなかった。

 それが何のためのものか、ラウラには理解できなかったが、とても暖かな「何か」が自分の頬を伝うのを感じながら、彼女はいつも通りの敬礼をしながらの返事をする。

 

「相変わらず堅苦しい物言いと考えだな………だが、お前らしい」

 

 肩を竦めながらも、ラウラのその様子を微笑みながら見つめる千冬は、喉元まで競りあがっていた言葉を自分の胸に仕舞い込む。

 今はまだ、この言葉をいうときではない。そう、いつかもっとふさわしい舞台が来たときに、彼女に送ってやろう。

 

「(ラウラ………立派になったな)」

 

 そんな言葉を心の内に仕舞い込んだ千冬は、いつもの表情に戻ると、背後で若干感動して目元が潤っている一夏とセシリアの方を向くと、彼らにも聞かせる必要がある情報を伝える。

 

「織斑、オルコット。お前達に話しておかねばならないことがある」

「?」

「それは………」

「オルコットに関しては三度遭遇したと思うが、通常とは明らかに性能と特性がことなる特殊なISに関してだ」

「!?」

 

 セシリアが、最も聞いておきたかったことを話そうとする千冬の顔を思わず驚いた様子で見つめた。

 

「これから話す事柄は世界でも最高レベルの最重要機密もいくつか含まれている。だが、特に対オーガコア能力ともいえる単一仕様能力(ワンオフスキル)を持つ白式の操縦者の一夏。お前は知っておかねばならないことだ。だからこそ確認を取っておきたい。これは半端な覚悟では危険が伴う………後悔しないか?」

「!?」

 

 どうやらこれから教えられることが相当な大事であると直感的に理解した一夏とセシリアの背筋が自然と伸ばしながら、千冬をまっすぐ見つめて首を縦に振るう。

 

「後悔しない。皆を守るために、教えてくれ千ね………織斑先生」

「すでに覚悟ならば完了しておりますわ織斑先生。ISの操縦者になると決めた時点で」

 

 まっすぐに見つめながら力強い言葉を返してくる二人に満足したのか、千冬はすでに事情を知っている陽太と箒の二人に視線だけで確認を取り、二人も特に異論はないと無言のまま頷く。

 

 二人への確認を取った千冬は、改めて一夏とセシリア、そしてラウラの方を向くと、今、世界の裏側で起こっている、オーガコアの起こす事件について、丁寧に説明を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 その後、オーガコアとそれに対抗するための部隊設立の話を終えた千冬は、正式に部隊発足をするために翌日からIS委員会本部へと回収されたオーガコアと共に専属医であるカールを連れて旅立ち、陽太達は戦闘経験がまるでない一夏の訓練を重点的に行う日々を過ごしていたのだったが、そんな彼らのゆっくりと流れていた日常は、再び加速的に動き始める。

 

「ようやく、学園に到着か………いや、少し離れるだけで、なんだか無性に懐かしく感じるよ」

「山田君の話では、アイツらは目立って大きな馬鹿なことをしてはいなかったようだ………もっとも、小さな馬鹿は山程やっていたようだが?」

 

 IS学園の職員用の駐車場にクルマを停め、運転席と助手席からそれぞれ出てきたスーツ姿のカールと真耶の報告にゲンナリとしている千冬は、数週間ぶりのIS学園にそれぞれ感想を漏らす。

 

「到着したぞ、鳳鈴音(ファン・リンイン)」

「はい、ありがとうございます。織斑先生」

 

 千冬に丁寧にお礼を言い、クルマの後部座席のドアを開いて、IS学園の制服を身に纏った少女が出てくる。

 小柄な体に不釣り合いなボストンバックを持ち、左右それぞれを高い位置で結び、金色の留め金がよく似合う艶やかな黒色をした肩にかかるかかからないか位の髪が風になびいて揺れていた。

 

「久しぶりの日本ではしゃぎたいかもしれないが、今日からお前もこの学園の生徒だ。ルールを守って行動しろ」

「織斑先生………了解いたしました。先生の貴重なご意見、大切にします!」

 

 またしても丁寧な言葉で返してくる少女に、千冬は若干の違和感と不安を覚えてしまう。

 千冬の記憶にある、活発で負けず嫌いで行動的で、一夏に対してほのかな恋慕の情を持っていた少女は影を潜め、作り笑いと目上の自分に愛想がいい返事を自然と返す少女とのギャップに戸惑いが隠せないのだ。

 

 中国代表候補生にして、対オーガコア部隊の新たなるメンバーとなるべく、日本のIS学園のやってきた、鳳鈴音(ファン・リンイン)。

 

 だが、千冬が感じたその違和感が、大きな騒動になろうとは、最強のブリュンヒルデといえども、このときはまだ知る由もなかった………。

 

 

 

 

 

 




ということで、ついに鈴の登場と相成りました………まあ、半分近くラウラさんの補完話になってしまいましたが。

さて、太陽の翼においての鈴さん、ちょいと本編とは違った仕様になってます。どんな風に違うのかというのは次回以降見ていただくと一目瞭然です。


ではでは、また次回、お楽しみください





メインヒロイン、いつになったら登場させられるのだろうか?

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