てか、上手いサブタイ考え付かんなw
鳳鈴音(ファン・リンイン)の転入から早三日。その三日で彼女という人間が一見するとどういう人間か、周囲の女生徒達が判断するには十分な時間であった。
組の方こそ陽太達とは違い、隣の二組に編入することになったが、それがまたしても騒動の火種になる。
「中国から来ました、鳳鈴音(ファン・リンイン)です」
珍しい時期での編入ということもあり、二組の女生徒達はこの中国からの転入生に対し、様々な好奇な目で観察するように鈴を見続ける中、次の発言が彼女のクラスでの立ち位置を決めてしまう。
「あ、なんか地味な人達ばっかりですね。私も一組が良かったな~~~………がっかり」
教室内の女生徒達が凍り付く。隣にいた担任の教師も凍り付く。おそらくこの場に一夏がいれば同じように凍りついただろう。
だが、そんな周囲の状況もお構いなく、鈴は自分の席に着席すると、ニコニコしながら教科書を開き『先生、授業を始めてください』と催促する。我を取り戻した教師が空気を改めるように授業を始めるが、二組の女生徒達の好感度皆無の冷めた雰囲気はとても払拭できるものではなかった。
そして担任が授業を終了させ教室から出て行った後、何人かの女生徒が鈴に一言物申してやろうと席を立ち上がる。
「ちょっと今、時間いいかしら?」
「あ、ごめん。私、貴方達と違って忙しいんだ」
「なっ!?」
「待ちなさいよ!」
鈴の発言に噛み付こうとする女生徒の間をすり抜け、彼女は一目散に教室を飛び出すと一組に飛び込んでいくのが声だけで判断できた。
『一夏ぁ~~! 会いたかったよぉ~!』
『ちょっと鳳さん!? さっき分かれたばっかりでしょうが!?』
『一夏ぁ~~~!!』
『このセシリア・オルコットの話を、少しは聞きなさい!!』
声だけで一組の状況が二組の生徒達にも伝わってくる。聞けば男子生徒の織斑 一夏の幼馴染で、それを口実に事ある毎に彼に擦り寄っているというのだ。しかも、もう一人の男子生徒の火鳥 陽太には下手に出ることで上手く取り入っているとのこと。
男に媚を売り、同姓を明らかに馬鹿にしたかのような態度、これでは誰しもが彼女に嫌悪感が湧き上がっても仕方ない。
「ちょっと調子に乗りすぎだよね」
「ホントよ。自分が代表候補生で専用機持ちだからって、お高く止まってんじゃない?」
「しかも、火鳥君に取り入って、千冬様に点数稼いでるって話じゃない?」
「どうしたら、そんな見境のない真似できるのかしら?」
そんな嫌な噂が音速よりも早く校内を駆け巡り、結果クラス内外問わず、露骨に鈴は女生徒達から煙たがられる存在になってしまったのだった。
「はぁ~~」
そんな噂が広まっていることを三日目にしてようやく知った一夏は、昼休みの中、深い溜息をつきながら机に突っ伏した。
衝撃の再会から三日立っても、鈴のあの様子には慣れることもない一夏は、ひたすら続く鈴の甘えっ子アタックにどうすればいいのか判らず困惑しっぱなしであった。しかも鈴の熱烈アタックには際限がなく、個人的なISの操縦訓練はもちろん、部隊の連携訓練でも、寮に帰っても続いており、しまいには一組の女生徒からも時々苦情が来る始末。
誰かに相談しようにも、箒やセシリアやラウラに彼女の名前を出すだけで、露骨に殺気を放ちながら表情を引き攣らせる為、怖くてそれ以上問いただすこともできない。
陽太にもさり気無く話を振ってみたが、千冬から貰ったIDを眺めながらご満悦層に『言葉の前後にサーを付けながら敬礼して話しかけろ』とか鼻を天高く伸ばしたまま言ってくる姿にイラッときて、相談する気が失せてしまう。
かといって千冬や山田先生に相談しても、教員には非常に利口な態度と言葉で話してしまい、反省させることは出来ない。
「あっ、そうだ………」
こういうときに頼りになるかもしれない人を思い浮かべた一夏は上半身を机から起こすと、周囲に鈴がいないことを確認し、コソコソと教室を抜け出していく。
そして、辿り着いた先、『保健室』と書かれたドアを軽くノックして、中にお目当ての人物がいるのかどうか確認すると………。
「ハイ、どうぞ」
「失礼します、カール先生」
IS学園において貴重な『男』の先生である、カール・テュクスがカップにコーヒーを淹れながら、笑顔で一夏を迎え入れるのだった。
☆
「なるほど、ソイツは大変だな~?」
「人事だと思って軽く言わないでくださいよ、カール先生」
『ハハハッ、すまないすまない』と軽い口調で謝りながら、一夏に淹れたてのコーヒーを渡すカール。湯気と共に立ち昇る鼻孔をくすぐる薫りに一夏は満面の笑みを浮かべながらカップを受け取ると、口をつける。
「!?」
「砂糖二杯とミルク入りで丁度の好みだね?」
「なんで解ったんですか?」
「顔を見るとだいたいの好みがわかるんだ。私の数少ない特技さ………これで妻と千冬を口説いたんだからね?」
カールの何気無い一言にショックを受けた一夏が口に含んだコーヒーを吹き出してしまう。そんな様子を楽しそうに眺めながら、むせながら咳き込んでいる一夏の無言の睨みに、カールは素知らぬ顔で訂正を加えた。
「千冬を口説いたのは冗談だが、妻の事は本当だよ」
「ご結婚されてたんですか?」
「でなければ、こんな少女逹の園に、中年男が単身で保健医なんて出来ないさ。それとも君は私が実は男色家で、君や陽太君を狙っているとか思ってるのかい?」
真剣な表情で咄嗟に距離を取る一夏の姿に苦笑しつつコーヒーに口をつけたカールは、彼に何気無い疑問を投げ掛ける。
「鳳君の事と同じことだよ」
「?……それってどういう意味なんですか?」
「君はこの場に来て私に『彼女の行動を改めさせるにはどうすればいいか?』と相談しに来たんだろう?」
「………はい」
「だから同じさ………今、必要なのは『どうすればいいか?』でなく『何故そうなったのか?』ではないのかい?」
「!?」
「知らなければ対処のしようもない。知ることでその人となりというものも見えてくるはずだ。まずは君がどうするかではなく、彼女がどうしてそういうことをしてくるのか、知るところから始めてみてはどうだい?」
何故だろうか、一夏は目尻に涙が溜まりそうな気持ちでいっぱいになる。
思えば、千冬(あの人)とか陽太(アイツ)とかは突き放す言い方ばかりで、最後の結論はほとんど『自分で考えろ』と、相談をしてもあまり要領が得ないことが多い中、丁寧に自分に諭してくれる大人な雰囲気といい、柔らかい物腰といい、それでいてユーモアも忘れないカールに一夏は尊敬の眼差しを向ける。
「まあ、私の予測できる範囲でいいのなら、少し話をしても………」
そんな一夏に自分が知りうる限りの情報をカールが教えようとした時、突如廊下側から複数の女子生徒の驚く声と怒鳴り声が保健室の中にまで聞こえてきて、一夏とカールは怪訝な表情のままドアを開いて廊下側に顔を出す。
怒り心頭な表情な三人の女子生徒と、そんな三人をニコニコと笑顔で見つめる鈴………また何か鈴がやらかしたと直感した一夏が声をかけた。
「オイ、鈴~~」
「あ、一夏!! もう、探したんだぞコイツ?」
「真剣に似合ってないから止せよ………てか、どうしたんだ?」
自分のほっぺたを人差し指で押してくる鈴をとりあえず放置し、一夏は出来うる限り穏便にこの場を取り持とうと、引き攣ったまま笑顔で鈴を睨み付けている三人に問いかける。
「あ、あのさ、またコイツが何か余計なことを言ったみたいでゴメ・」
「織斑君に謝ってもらっても仕方ないのよ!」
「私達はこの人に頭を下げてほしいの!!」
「貴方は引っ込んでなさい!」
正論だ。何も関係のない自分がいきなり来て頭を下げた所で腹の虫が収まるわけはない、という女子三人の気持ちが痛いほど理解できる一夏であったが、これ以上鈴とクラスメート達の溝が深まるのを黙ってみているのも忍びない。
一夏は思い切って鈴のほうに問いかけてみた。
「お前、また何言ったんだよ?」
「別に~~、ホントのこと言っただけだよ」
「?」
「この人」
いきなり真ん中の女子を指差し、指を指された女子はより一層眉間に皺寄せて鈴を睨む。
「ウチのクラスの代表なんだけど、ぶっちゃけ大した事ないから私に代わりなさいって言ったの」
「なっ!」
「いい加減にして! ちょっと腕に自信があるからって、何でも自分の思い通りになると思ってるの!?」
「別に? 強い人間が代表になる方がいいじゃない?」
「それがふざけてるって言ってるのよ!」
「私、真面目だもん。弱い貴方に代表させるほうがどうかしてると思わない?」
「………貴女ね」
いよいよ女子生徒が血走った眼で握り拳を作り出すのが見えた一夏は、流石にこれは鈴が悪いと判断して頭を下げさせようと真剣な表情で鈴を嗜める。
「鈴、今回はお前が悪い。だからあや・」
「じゃあ勝負する?」
そんな一夏を無視して鈴がとある提案を三人の女子に出す。
「勝負ですって!?」
「そう。貴方達三人と、私と一人で勝負。国家代表候補生で専用機持ちだしさ。それぐらいのハンデはないとね♪」
今度こそそれが引き金になった。パンパンに膨らんだ鈴への不満が一気に爆発し、女子生徒たちを即決させる。
「いいわ! 私が負けたらクラス代表でもなんでもあげるわよ!」
「ただし私達が勝ったら、この学園からアンタ去りなさいよ!」
「絶対に追い出してやる!!」
「ハイハ~イ。では決定ね~」
余裕たっぷりの軽い返事をした鈴がそのままアリーナに向かって歩き出す中、驚愕の事態に置いてけぼりを食らっていた一夏が再起動し、鈴に走って追いつくと、彼女の手を掴んで必死な表情で説得しにかかる。
「オイ! 鈴!!」
「どうしたの一夏?………そんな必死な表情で……あっ」
「?」
「ちょっと待ってよ、一夏………私だって初めてなんだから、そんな、いきなり興奮されても…」
「何を勘違いしてんだよ!!」
頬を紅潮させた鈴が上目遣いで自分を見てくる姿に、一夏はすばやく頭をはたいてツッコミを入れる。叩かれた鈴は頭を摩りながら、さすがに取り繕うことなくジト眼で一夏を軽く睨むのだった。
「どうしたのよ?」
「どうしたのよ? じゃねーよ! お前、本気で三対一で戦う気か?」
「うん、そうよ」
まったく戸惑いも動揺も迷いもない鈴の様子に、一夏は今度こそ天を仰ぐ。
いくら代表候補生で専用機持ちとはいえ、数で上回る相手に本気で勝てると信じているのだろうか? しかも相手の様子から、手加減してくれる可能性など皆無。正面切って本気で鈴を潰しにかかってくることは必至である。しかも負けようものなら鈴がこの学園から追い出されてしまう。こんな重要なことをコンビニに買い物行ってくるかのように軽く決めてしまう鈴の考えが、今の一夏には信じられないのだった。
だが、当の鈴のほうはというと、まったく動揺する素振りも見せず、鼻歌交じりでそんな一夏の様子を面白そうに観察していた。
「もう、心配してもらわなくても結構よ。こういう『扱い』には慣れてるんだから」
「慣れてるって……!!」
そしてその時になって一夏は初めて気がつく。
鈴の表情が先ほどまでとは全然違う、自分が知ってる鈴のものとも違う、厳しい表情をした鈴がそこに立っていた。最近の鈴からは考えられないぐらいの大人びた表情に、言葉を詰まらせた一夏の横を通り過ぎ、アリーナの更衣室に向かう鈴。
別れて二年、自分が知らない場所で、どんな生活を送っていたのだろうか?
カールの言った通り、自分は今の鈴のことをいまだまるで理解できていないことに気がついた一夏は、ただ呆然とその場に立ち尽くしてしまうのだった………。
☆
音速で決定した鈴と二組クラスメートとの変則マッチであったが、まず二つの問題を抱えていた。
決闘の許可、決闘する為の場所の確保。この二つをどうするのか? ひょっとしたらどちらもどうすることもできずに両者が頭を冷やしてくれるのだろうか? そんな淡い期待をしていた一夏であったが、それすらも鈴の『学園での評判』が木っ端微塵にしてくれる。
場所に関して、他のクラスの人間が使用するハズの第四アリーナで行われることが決まった。鳳鈴音(ファン・リンイン)をへこませるため! と二組の女子が発言すると、『よし! やってやれ!』ととても男気溢れた返答と共に快く場所を譲ってくれたのだ。どうやら彼女の悪評はすでに一組、二組だけではなく学年中に広まっているようであった。
そして決闘の許可に関して、なんと二組の担任が立会いの元、行おうということになった。一夏としては『担任ならやめさせろよ!』と思ったのだが、青筋をいくつか作りながら頬をピクピクしつつ鈴を睨む担任の姿に、どうやら数日間で彼女の鈴に対しての印象も最悪なものになっていたことに気がつき、更に頭を抱えることになる。
こんな時に頼りになるハズの千冬が外出中のため捕まらず、一組の副担任の真耶にも頼んでみたが、二組の担任の血走った目元を見た瞬間、『私では力になれそうにありません』と涙目で逆に訴えられた。聞けば普段から度々教師の威厳がないとか真耶に説教をかましているとかいないとか………。
「モグモグ………俺のいない所でそんな事になってたのか」
「………テメェな」
アリーナの観客席において、自分の隣でヤキソバパンを頬張りながら他人事のように言い放つ陽太に、一夏は怒りを隠さずに睨みつけるが、何処吹く風かと一夏の様子を無視し、すでにスタンバイしている三人の女子の様子を見る。
「ほうほう、遠中近と、見事に獲物揃えたな」
空中で浮遊している展開状態のISは、第二世代ISのラファール二機に打鉄が一機。それぞれの武装が、ラファール二機が両手持ちのアサルトライフルとトンファー持ちという取り合わせと、残ったクラス代表の女子生徒が纏った打鉄は、その手に十文字の槍を携えていた。
「ありゃ、本気(マジ)で鳳を潰す気だな」
「なんでそんなのがわかるんだよ?」
「見た通りだろ。トンファー持ちが切り込んで、アサルトライフルで足止めして、トドメに槍で一刺し………忠実(セオリー)に則った戦術だ。やられた側はたまらんがな」
サラッと説明する陽太であったが、聞いた一夏の顔色が明らかに悪くなる。当たり前だ。鈴はこの勝負で負けたらこの学園を去ると宣言しているのだ。そして女子生徒達が手加減してくれる可能性はもはや皆無。ここに来て、やはり止めるべきだったという後悔が一夏に襲い掛かるが、隣にいる陽太は紙パックのコーヒー牛乳をストローで吸いながら、冷静に勝負前からどちらが勝つのか大体の見当をつけていた。
「まあ、それでも鳳が勝つぞ。100%とは言わんが、下手打たないなら大体9割方な」
「へっ?」
「そういやお前はアイツのISのこと知らされてないんだったな………まあ、かく言う俺もスペックデータでしか拝見してないが………来たか」
陽太が女子達とは逆方向の空域を見た。
アリーナのカタパルトから飛び出てくる、濃い紫色のカラーリングの機体………両肩に非固定浮遊砲台と大きな三角のバインダーを付けられ、膝のウイング、四つのアンテナのようなものが付いた紫色のバイザーが特徴的なISを装着したのは、金色の留め金で止められた艶やかな黒色をしたツインテールの少女、鳳鈴音(ファン・リンイン)であった。
三人の少女達は初めて見る鈴の専用機に驚きながらも、不敵な笑みを浮かべる鈴の表情を見た瞬間、闘志を再び燃え上がらせる。
「それが、アンタの専用機?」
「中国が大金注ぎ込んで作った機体なのに残念ね。データもろくに取ることなく本国に送り返されるだなんて」
「どうなの? 謝る気があるのなら、やめてもいいわよ」
女子達の分かり易い挑発。そんな挑発を鼻で笑い飛ばすと、鈴は可愛らしげに首を傾けると三人に向けて高々と言い放つ。
「ごめんなさい。私、貴女達と違って忙しいの。上手に手加減してあげるから、とっとと始めて終わらせましょう?」
『この女(アマ)!!』と三人の無言の言葉が、遥か下の地上にいるハズの一夏にすら聞こえた気がした。
もうこうなると思い残すことはない。容赦なく叩き潰して中国に強制送還してやると意気込んだ女子三人と、余裕シャクシャクな鈴が規定位置まで下がる。
距離5メートル。競技用の正式な試合開始を行うための距離を取った両者。
『それでは両者、試合を開始してください!』
ビーッとブザーが鳴り響き、同時に両者が動いた。
まずはセオリー通りにトンファー持ちが切り込んで、鈴が回避した瞬間に射撃担当が足止めしようとアサルトライフルを構える。
だが、その目論見が一瞬で砕けるのを見た一夏が驚愕し、隣で陽太は冷静に解説を加えるのだった。
「よぉく覚えとけ織斑弟。速度は時に戦術を根幹から破壊する………時があるってな」
濃い紫色のカラーリングを中心とした装甲が変形し、背中の装甲が180度折り返して戦闘機の先端と化し、両サイドの肩に当たる部分に非固定浮遊部分(アンチロック・ユニット)に存在しているバインダーが主翼になり、両足のスラスターは凄まじい勢いで機体を加速させ、トンファー持ちが反応する暇もなく、鈴は一気に相手の射程距離外まで離脱するのだった。
驚愕に固まる女子生徒達であったが、そんな三人の間を、戦闘機形態に変形させたISで鈴はソニックブームを引き連れて通り抜ける。まるで女子生徒を嘲笑うかのように………。
「きゃああああっ!」
衝撃波によって体勢が崩れる三人。幸いにもシールドエネルギーは削られなかったが、鈴は再び遥か遠くまで逃げられてしまう。
そこへアサルトライフル持ちの女子生徒がやぶれかぶれでライフルを同時斉射するが、鈴の動きをまるで捉えることはできず、鈴は悠々と大空を駆け抜けていく。
「しっかり狙いなさいよ!」
「何ですって!?」
一向に掠らせる事もできない女生徒に業を煮やしたクラス代表の女子の言葉に、ライフル持ちの女子が眉間に皺を寄せて抗議する。
「だったら、貴女がなんとかしなさいよ!?」
「貴女が足止めしてくれないと、私の装備じゃどうしようもないじゃない!?」
形勢が不利になった途端に喧嘩を始める三人に、鈴は呆れながら通信を入れる。
『アンタ等、私に喧嘩売っといて、勝手に別の喧嘩し始めるじゃないのよ!!』
「なっ!?」
両肩の非固定浮遊部分(アンチロック・ユニット)の『龍咆』の砲口が開く。それが何なのか判断する暇もなく、トンファー持ちの女子のラファールが被弾する。
「キャアッ!?」
「な、何だよアレ!?」
地上でその光景を見ていた一夏が驚きの声を上げるのも無理がない。気がついた瞬間に、女生徒のラファールの装甲が勝手に弾け飛んだようにしか見えなかったのだから。
何が起こってるのかまるで理解できていない一夏を見かねたのか、陽太がそんな彼に分かり易く説明をしてくれた。
「衝撃砲だな。空間に圧力をかけて、衝撃を砲弾にして飛ばす………当然、飛んでるのが衝撃だから目に見えるわけない」
「………空気鉄砲?」
「正確に言うと違うが、お前にしては悪くない発想だ」
一夏にしては悪くない着眼点である。空気を衝撃の伝達に利用している以上、飛んでいるのは「空気」そのものと考えるのは間違いではない。陽太が珍しく一夏の勘を褒めていたところであったが、上空の勝負は一方的な終局を迎えようとしていた。
鈴のIS『甲龍・風神(シェンロン・フォンシェン)』の衝撃砲は、ISのハイパーセンサーを持ってしても捉える事は難しく、連射されれば逃げることすら困難な代物であったのだ。
すでに三機ともこの僅かな短時間でシールドエネルギーのゲージは一桁に突入し、その表情も先程までの勝気なものは消え失せ、恐怖に引き攣っている。すでに先の見えた勝負であるが故か、それともこれ以上の無駄な恐怖を与えないでおこうという慈悲か、鈴はISを人型に変形させ、両手に大型の青龍刀『双天牙月(そうてんがげつ)』を取り出し、三機をすれ違い様に斬り飛ばし、アリーナの掲示板に高々と『鳳鈴音 WIN!』と表示されたのだった………。
☆
「ええっ~!? クラス代表になっちゃダメなんですか!?」
「違う。代表してもいいけど、部隊の方もサボらない、対オーガコア用の専用機も使わない、って条件が飲めるんなら別に構わないってだけだ」
決闘後、アリーナの観客席に意気揚々とやってきたISスーツ姿の鈴であったが、そこに待ち構えていたのは陽太からの賛辞の言葉ではなく、衝撃の『クラス代表しちゃダメ』発言だったため、思わず裏返った驚きの声をあげてしまった。
「一応、エロ下着代表と織斑弟は代表候補に上がってたが、そういった理由で辞退して、一組は別の人間がクラス代表してる」
「私、聞いてませんよ!」
「聞かれてないからな。まあ、織斑弟に関しては正直、クラス代表なんてしてる暇が一ミリもないのが現状だな」
『なあ、五流の中の三流(ぺーぺーのぺー)?』と鼻で笑い飛ばされて当然面白くない一夏であったが、確かに対オーガコア部隊員となり、毎日をIS操縦やら部隊連携の取り方やらの猛特訓に、元々不足がちの学業のための勉強などもしているため、正直クラス代表等に割く時間はないに等しいのは正解であったため、辛うじて面白くなさそうな表情を作るだけに留める。
「だから鳳も、どうしてもクラス代表したいって言うなら構わないが、この二つの条件は絶対に飲め。てか特に後半は重要だぞ。競技に対オーガコア用ISを使うなんて、カートのレースでF1使うぐらいの暴挙だしな」
「なるほど………わかりました」
陽太の説明に納得してくれたのか、若干残念そうに肩を落とした鈴は、ちょうど自分に向かってバツの悪そうな表情をしたまま近づいてくる三人の女生徒達に気がつき、笑顔のまま近寄っていく。
「あ、あの………」
中央のクラス代表の少女が、複雑な心境ながらも見事自分に打ち勝った鈴にクラス代表の座を明け渡そうと直接口にしようとした時だった。
近寄ってきた鈴は開口一番、信じられないことを口走る。
「あ、やっぱりクラス代表はいいや。貴方達でお願いね!」
「「「……………はぁっ?」」」
「いや~~~、ごめんね! なんか私、条件的になっちゃいけないことになってたみたいで………それ知らなかったの」
その表情、仕草、そしてこの言葉。少女達は理解する。
目の前の少女は、人の心なんてまるで理解できない人間なのだと………。
「アンタ………フザけんじゃないわよっ!!」
「他人の………私達のこと、クラスのこと、何だと思ってるのよ!!」
「特別だから勝手にクラス代表になれて、特別だから勝手に辞めてもいい? いい加減にしなさいよ! 他人の努力とか頑張りとかを笑い者にしたいんなら、他所でやって!」
クラス代表の少女が最後に泣きながらそう言い放つと、三人の少女達は泣きながらその場を走り去ってしまう。
三人がアリーナから飛び出て行くのを見送った後、一夏は真剣な表情で鈴の前に立つと、背後に憤怒のオーラを浮かべたまま、鈴に問いかける。
「………さっきのこと………本気で言ったのか?」
「どうしたの一夏? そんな怒った顔したままじゃ良い男が台無し・」
「そんなことはどうでもいいんだよっ!!」
「一夏………」
ついに声を荒げて、一夏は鈴の両肩を力一杯掴むと、鈴を睨み付けたまま言葉を続けてしまった。
「お前、いつからそんな自分勝手なやつになっちまたんだよ!」
「……………」
「昔のお前は、強引で訳判んないことでよく怒ってたけど、そんな風に誰か傷付けても笑ってる奴じゃなかった!」
感情任せに言葉を鈴にぶつけ、一夏はその場を走り去っていく。彼の背中を無言のまま見送る鈴と、走り去っていった一夏を交互に見つめていた陽太も、しばらく鈴の方を見続けた後、やがて一夏の後を追うようにその場を立ち去ってしまう。
「……………訳判んないか」
後に残された鈴はというと、力が完全に抜け切ったようにその場に座り込むと、両膝を抱え額と合わせながら、誰にも聞こえない声でポツリと呟く。
「…………そうよね。私も訳判んないよ……どうして私、ここでこんな事ばっかりしてるんだろう?」
誰にも言えない本音、誰にも分かってもらえない行動。それらを抱えた本当の姿を誰にも見せられない彼女は、ただ黙ってその場で力無く蹲る事しか出来ずにいるのだった………。
次回、意外な人物が鈴に近寄ることになります。