う………
更新が遅れた上に、今回はちょっと話の流れがダメかも…
「まったくまったくまったく………たまったものではありませんわ!!」
IS学園の廊下を思いっきり足音を立てて歩く、栄誉あるイギリス代表候補生であるセシリア・オルコットの機嫌は、この一週間で常に最低に落ち込んでいた。
それもこれも中国の代表候補生の鈴が現れてからである。
自分たちに舐めた口を利く、クラスメートに露骨に喧嘩を売る、男子生徒と教師陣には媚を売って点数を稼ぐ。
そして先日行われたクラス代表を賭けた決闘騒ぎである。あの日、決闘に見事勝利したものの、彼女は興味が失せた途端に代表の座を投げ捨てるような真似をしたため、その噂が学年に留まらず学園中に広まり、鳳鈴音(ファン・リンイン)の評判がついに過去最悪の代表候補生になっただけに飽き足らず、『代表候補生っていう女共は全員お高くとまってる鼻持ちならない奴等』などというレッテルが候補生全員に張られてしまい、廊下を歩くだけでセシリア達、他国の代表候補生までもが陰口を叩かれることも少なくなかった。おかげで小用で廊下を歩くだけで嫌な視線を受けるハメになったセシリアとしては本当にたまったものではない。
たった一人の素行の悪さが全体の評判を落とすなど本来はあってはならないことなのだが、こういった『感情』の問題に関しては、IS学園の少女達も年頃の娘であり、理性では自制しきれない部分が露骨に湧き出てしまった。ましてや代表候補生は同じIS学園の生徒ながら専用機に始まる数々の特権を受けているため、元々水面下で燻っていた不満が爆発した形でもあった。
「私の手元にブルーティアーズがあれば、あんな小娘など、ものの数秒でケチョンケチョンにして差し上げますのに………」
そういって不満そうな表情を浮かべるセシリアは自身の左耳に手を当てる。そこにはいつも肌身離さず取り付けているはずのイヤーカフスは存在していない。例の対オーガコア用ISへの強化改修のために数日前から一時的に千冬に預けているのだ。そうでなければとっくの昔にブチ切れたセシリアと鈴との決闘(タイマン)に発展しているところであった。最も、流石に隊員同士のガチンコにもなると、隊長………は止めない代わりに千冬が割って入ったであろうが………。
「もう………しかし強化改修の方はどのような仕上がりになるのかし・」
ドオンッ!! という凄まじい轟音が校舎を揺らし、周囲にいた生徒達が一斉にパニックになる。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「な、なに? なんなのよ!?」
「また例の暴走IS?」
女生徒達のその言葉に我を取り戻したセシリアは、廊下をダッシュで走り抜け、一目散に屋上へと通じる昇降階段を駆け上がる。
「セシリアッ!」
途中、背後から同じく騒ぎを聞きつけた一夏とラウラ、そして鈴が追いついて来る。ただセシリアとしては鈴の姿はできれば今は拝みたくなかったが………。
「先ほどの轟音、まだ状況は確認できていないがオーガコアの可能性がある! 陽太との連絡は!?」
「駄目だ、プライベート・チャネル(個人間秘匿通信)にも出ない!」
副隊長のラウラが状況確認の連絡を陽太へと繋げようとするが、一夏は白式から通信(連絡を即座に入れれるよう、ラウラとセシリアが付きっ切りで通信手段を叩き込んだ)を陽太に入れるが、一向に彼から返事が返ってこない。
「もしや、陽太さんの身に何か!?」
「この時間、アイツいっつも屋上で昼寝してるからな………ひょっとしたら」
鈴を除いた三人の間に嫌な汗が流れる。陽太の強さを間近に見ている三人としては、よもや陽太が敵に返り討ちにあったなど信じられないし、仮にそうだったとしたら、とても今の自分たちだけでは対処できない。
そんな三人の嫌な考えが渦巻く中、昇降階段を駆け上がった先、屋上へと通じる非常口が見えた時、そこに一人の女生徒が立ち尽くしているのが見え、一夏が思わず声をかける。
「箒?」
「一夏か………ああ、いや…」
箒が明らかに何か動揺しているのを感じた一夏は、ひょっとして屋上がすでにとんでもない事態になっているのではと思い、屋上に飛び出す。
―――デカイ人参が屋上の貯水タンクに突き刺さり、破裂したタンクから吹き出た水が綺麗な虹を作っていた―――
「………はい?」
確かにとんでもない事態………には違いないのだろうが、何だか一夏が想像していたとんでもなさとは違っていたためか、思わず間抜けな声が漏れる。
「なに………アレ?」
「………さあ?」
一夏が箒に問いかけるが、彼女とてアレが何なのか答えられようもない。見れば背後の三人も鳩が豆鉄砲を食らったかのように口をぽか~んと開けて固まっていた。
とりあえず、目の前の人参が何なのかと一夏が半ばあきれながら観察する中、貯水タンクの下のコンクリートの屋上に、〇つ墓村の遺体の如く見事に二本足を天に向かって垂直に伸ばし、上半身がコンクリートの瓦礫に埋れている人物の姿が目に入り、慌てて駆け寄る。
「よ、陽太!?」
「大丈夫ですの!?」
「一夏、引っ張りぬけ!!」
ラウラの号令の元、そばに駆け寄った一夏とセシリアが両足を掴んで、サツマイモの芋づるを抜くかのごとく一気に引っこ抜く。
中から大量の埃をかぶりながらも頭から流血一つ出さずに無傷のままで現れた陽太を、一夏は両肩を揺さ振り、彼の意識を戻そうと必死に呼びかけた。
「陽太っ! おい、陽太!!」
「…………ハッ!?」
閉じられた瞳が開かれ、一瞬だけ寝ぼけたような表情になった陽太は、遅れてきた頭痛のために頭を抱えて蹲る。
「痛ッ!………てか、なんで……俺は昼寝してて………」
段々と痛みと共に覚醒していく意識を手繰り寄せ、陽太が状況を把握しようとした時、徐に貯水タンクに突き刺さった『人参』の一部が『開かれ』、中から階段が自動で降りてきて、屋上にペタリと着地する。
「………間抜け面をして昼寝をしている暇があるのなら、少しは『束様』の役に立とうという気概が貴方にはないのですか?」
「!? その声はっ!?」
巨大な人参みたいなロケットの中から聞こえてきた幼い少女の声とシルエットに、陽太は一瞬で状況を理解し、そして激怒する。
「テメェッ! 俺をその悪趣味ロケットの下敷きにする気だったな!?」
「束様のロケットが下賎の土に汚れないように心掛けただけですから…………チッ、しかしまだ生きているだなんて……」
「ゴルァ!? てめぇ、本音漏れてるぞ、『くー』!!」
陽太の怒鳴り声に皆が困惑する中、姿を現す幼い少女。長い髪に明らかにサイズがあっていない伊達眼鏡をつけ、大人用の白衣を羽織って裾を引き摺りながらスタスタと階段を降り、腕を組みながら陽太を睨み付けたのだった。
「まったく………その汚らわしさはますます磨きが掛かっていますね、火鳥陽太?」
「いちいちフルネームで呼ぶな。てか、今日は何しに来たんだ? 束はどうした? まさか俺の様子を見に来たついでに亡き者にしようなどと企んでるわけじゃないだろうな?」
「貴方の相手などしにきたわけではありません」
陽太の問いかけを短く切って落とすと、目当ての人物を見つけたのかくーは急ぎ足でその人物の前に駆け寄ると、丁寧に服の両裾を広げてお辞儀をしながら挨拶をする。
「お初にお目にかかります、箒様」
「えっ?」
昇降口の前で呆然と立ち尽くしていた箒は、突然の挨拶にどうすればいいのか判らず、困惑しながら目の前の少女に問いかけた。
「お、お前は………やはり」
「はい! 箒様の姉君でいらっしゃる『篠ノ之 束』様にお仕えさせていただいております『くー』でございます。短い期間になりますが、この学園にいる間、何なりとわたくしめにおっしゃってください」
「いや、こちらこそ………よろしく頼む」
おっかなびっくり箒がお辞儀をし返すのを笑顔で見た後、くーは昇降口を上がってくる人物に一瞬だけ鋭い眼差しを向けると、再び丁寧に頭を下げる。
「………お久しぶりでございます。織斑………千冬様」
「久しぶりだな、くー」
いつもの鉄火面で幼い少女を見る千冬と、敵意というほどではないが好意的とは言い難い目で見つめ返すくー。
そんな両者の微妙な空気が気になったのか、一夏が小声で陽太に問いかけてみる。
「な、なあ………さっきから何が起こってるのかさっぱり判らねぇーんだけどさ、あの子と千冬姉って知り合いなの?」
「さあ? 俺は実際に話してるとこ見たことないけど、くーの奴は束に四六時中引っ付いてたし、千冬さんも何度か束のラボに来てたから、顔合わせてても不思議じゃない」
「てか、お前!? 束さんと知り合いだったのか!! 初耳だぞ!!」
「話してなかったか?」
「ない!!」
「………そうだっけ?」
と、暢気に話をしている二人であったが、突然、くーがポケットから彼女の手の平に乗るサイズの小さなボタン付きの装置を取り出し、スイッチを押す。すると装置の先端からレーザーが射出され、屋上に直径3m近い透明な長方形のケースが二つほど現れたのだった。
「千冬様が束様にご要望された物でございます」
「ああ、確かに………」
ISを用いずに量子化と再構築する技術に驚く一同だったが、透明なケースの中に収められていた物を見たとき、千冬とくーを除いた者達は更に驚愕することになる。
「IS!?」
「しかも、これは………」
特に驚いたのはセシリアとラウラであった。なぜならば透明なケースに収められている機体、蒼と黒色のカラーリングに、どことなく自分達のISを髣髴とさせる形状をしていたからである。
「千冬様がお送りになられたデータを元に、束様が機体を一から改修されたのです。もっとも、この機体達には現在コアが内蔵されておりません。それゆえに待機状態にすることができず、このような形で持ってこさせていただきました………千冬様?」
「もうすでにブルーティアーズとシュバルツァ・レーゲンからは、コアの摘出は済んでいる」
「では早速、コアの移送と各機能の接続、そして調整をさせていただきます」
すでに打ち合わせが済んでいたのか、流れるようなやり取りで会話する二人は、陽太と一夏の方を見ると、小さなコンテナほどのサイズもあるケースを運ぶよう指示を出す。
「織斑、火鳥、ISを展開してこの二機を運べ」
「えっ? ああ、わかった!」
「束様の作られたケースですから、核ミサイルを受けても大丈夫な強度を持っていますが、汚されますと私が我慢できないので絶対に落とさないでください」
「注文多いぞ! てか、運ばせるぐらいなら最初からラボの中で出せよ!!」
ぶつぶつと文句を言いながらも一夏と陽太はISを展開し、ケースを持ち上げ、千冬の指示通りに運搬を開始し始めるのだった。
その様子を一通り見ていた千冬は、自分の隣にいるくーに、今は遠い場所にいる親友の現状を聞いていみる。
「くー………束は元気にしているのか?」
「あの御方の健康状態は私が毎日診てますのでその辺りは抜かりありません………身体の状態に関しては…」
「……………」
「正直に申し上げます、千冬様………私は貴女が許し難い」
一瞬だけ表情が更に険しい物に変化したくーは、隠しても隠し切れない怒りの表情で千冬の方に振り返る。
「貴女様は私などよりも遥かにあの御方をご理解していらっしゃるはず! なのに何故、一緒にいてくださらないのですか! 何故あの御方をお独りにされるのですか!?」
「くー………」
「私は許さない………束様を置き去りにされた貴女も、理解せず異端扱いするこの世界も!」
抑えきれない憤りを千冬にぶつけたくーであったが、すぐさま表情を直すと、千冬に頭を下げて自分の振る舞いを反省する。
「………申し訳ありません。出過ぎた事を言ってしまいました」
「いや………お前が本当に束を想っていてくれる事が解った。私の方こそすまない。お前と束に勝手ばかり言ってしまった」
千冬が素直に頭を下げる姿に、くーは意外だったのか、どう対処すればいいのか判らず、あたふたしながら千冬に頭を上げるように懇願した。
「頭を上げてください千冬様!! 私なぞに頭を下げないでください!!」
「そういうわけにはいかない。それにお前は時々自分を卑下し過ぎだ」
「私はあくまでも束様に仕える従者に過ぎません。その分際で、束様の無二のご親友であられる千冬様に頭を下げていただくなどあってはならないのです!」
あくまでも束の従者というポジションを貫こうとするくーは、それだけ言い残すとこの話題を打ち切り、ISコアの換装作業をしようと歩き出す。そんなくーを千冬は口元に微笑を浮かべながら手を高く持ち上げる。
「先に行ってもラボの位置がわかるまい。あとそれと………」
「?」
ゴツンッ!
「痛っ!」
「屋上を荒らした罰だ。機体の改修が済み次第、ここも修理してもらうぞ!」
いつも陽太をぶん殴るのに比べれば遥かに加減した一撃をくーの脳天に叩き込むと、涙目で睨んでくるくーに言い放ち、彼女を案内するように先に歩き出す千冬であった。
☆
ボディの運搬が終わった後、作業を見学したいと言った対オーガコア部隊のメンバーや、整備科の生徒達であったが、
『私一人で大丈夫です! 千冬様以外の方は入室禁止です! 特にどこかの野蛮でガサツでクラッシャーな類人猿もどきなどもっての外です! 箒様も万が一の危険がありますのでご入室はお控えください!』
『誰が類人猿もどきじゃぁ! ボケっ!』
『!! なんという汚らしい口の利き方!!』
『ハッ! テメェの方こそ年上に口の利き方がなってないんだよ! 俺にも敬語使え、敬語をr・』
『黙れ』
『グフッ!』
とのやり取りに、締め出しを食らってしまった………類人猿もどきだけは最後までくーと口論した挙句、千冬に首を180度回されるハメになったが………。
『とりあえずISは素人がいじれるものではないのは周知の事実だ。幸いくーの整備士としての技量は束の折り紙つきだから任せてもいい。ここは私達に任せて、お前達は通常訓練に戻れ。あ、後、この馬鹿は連れて行くように』
そう言われ締め出しを喰らった一行は、ピクピクと痙攣しながら泡を吹いている類人猿もどきを引きずりながら退出する。
地下に建設されたラボからエレベターに乗り込んだ一同であったが、ここまで完全に沈黙を守っていた鈴がおもむろに箒の方を見ると、ニコリと有効そうな笑顔を浮かべて箒に右手を差し出す。
「まさか貴女があの『篠ノ之 束』の妹さんとは思いませんでした~!」
「……………」
少なくとも一夏が見ている範囲で鈴と箒が会話をしているシーンを見たわけではないが、一夏や陽太や教師陣のような口調で話していなかっただろう。しかも箒といえば姉の束のことを話題に出されるのが大嫌いだったハズ。
一人戦慄しながら二人のやり取りを見つめる一夏であったが、差し出された手に対して箒もにこやかな笑顔を作って握手に応じてしまう。ただ目元だけが笑っていないのは誰の目からみてもあきらかであった………。
「火鳥や一夏に取り入った次は私とは、それも中国本国からの指示か?」
「!!」
そんな中で発した箒の言葉は、鈴とセシリアとラウラの表情を瞬時に一変させ、無言のまま引きずられていた陽太であったが一瞬だけピクリと動かし、一夏だけはその手の事情に疎いためか、一人呆けたような表情になってしまったが。
「先日だったか、とある筋から気になる噂話を聞いたんだ………どうやら中国政府は先のアメリカ太平洋艦隊壊滅事件を気に、自国ブランドのISを世界に売り出すのに躍起になっていると………」
「……………」
「一つは世界初となる可変型IS。これはすでに実戦レベルで仕上がっているが、もう一つ目玉となるISの開発が進められている………」
「………やめて」
俯いた鈴の肩が振るえ、そして必死に何かを隠そうとする言葉が彼女が飛び出た。だが、箒は冷めた表情のまま、彼女の隠された部分を一夏にもわかるように置き換えて暴露する。
「もう一つは『男性にも使えるIS』………そのための細かなパーソナルデータを一夏と火鳥から観測するのがお前の任務だ。相違ないな?」
それならば男子二人に露骨に取り入ろうとしたことも説明がつくというもの。息を呑む鈴の態度に箒と他の代表候補生二人は確信を得て、更なる追求をしようとした時、鈴は涙目になりながら一夏に助けを求た。
「一夏っ! 私そんなつもりなんて全然無いよ。一夏、信じて!」
「えっ!?」
「騙されるな一夏。その女はお前の昔なじみであることを理由に選ばれた女だ。それに証拠もある」
有無も言わさぬ迫力で鈴に近寄った箒は彼女の右腕を捻り上げる。するとそこには制服の裾に隠れているが、白い金属状の腕輪が存在し、箒はすぐさまそれを鈴から取り上げ、一夏の前に突き付ける。
「これで一夏の詳細な身体データを採取していたな? ただのアクセサリーだと主張するならこれを整備科の連中に見せればいい。もし違うのならば何も怪しいデータは出てこないはずだからな」
「チッ!」
小さく舌打ちしながら箒を睨み付ける鈴。よもやここまできて取り入ろうとした人間にこうも邪魔されるとは思っておらず、この場を切り抜けるかと思案する。
一方、いきなり始まった鈴への追求に、一夏は思考がついていかず、箒と鈴の間で視線が揺れたまま、何もできずに立ち尽くしてしまう。
「(えっ? なんだよコレ? 鈴が俺と陽太のデータを欲しがってる? だから最近妙に纏わりついてた?)」
鈴の異変の理由が彼女の祖国からの命令だった………文字にすればただそれだけの事柄なのだが、だがどうしてもかつての鈴とのギャップからそのことが一夏には納得できないでいた。昔の彼女ならば無理強いなどされれば即座に強気に拒否して、話を持ちかけてきた人間を蹴り飛ばすぐらいのリアクションを取っていたハズ。
「一体………この2年で何があったんだよ。答えてくれよ鈴!」
「………一夏」
悲鳴に近い声で懇願する一夏の姿と声に、鈴は彼の名前以外の言葉出てこず立ち尽くしてしまうが、タイミングが良いのか悪いのかエレベーターが停止し扉が開くと鈴は一目散に走り去ってしまう。
「あ、お待ちなさい!」
「セシリアッ!………鈴ッ!」
走り去った鈴の後を追うセシリアと一夏。そんな二人の後を見送ったラウラは、床に寝転がっている陽太に冷たい視線を送りながら問いかける。
「狸寝入りもそのぐらいにしろ………お前は追わないのか?」
「………そのセリフ、そっくりそのままお前に返そう」
大分前から気がついていたことを見抜かれたことに内心驚きながら起き上がると、不機嫌そうな面のままラウラを睨み付け、言い放つ。
「大体そういう下っ端連中のゴタゴタをどうにかするのは副隊長のお前の仕事だろうが?}
「ならばお前の仕事とは一体なんだ?」
「俺の仕事? いざという時に備えておくことさ」
首をコキコキと鳴らしながら、ラウラに向かってやる気のなさそうに手を振って歩き出す陽太。
「首イテェから保健室で湿布もらってくる」
「コラッ! 話は終わってないぞ!!」
「あいあ~~い」
「アッ!………どいつもコイツもっ!!!」
スタコラサッサと歩き出す陽太の背後から文句を投げつけるが、全て華麗にスルーされ地団駄を踏むラウラに若干の憐みを覚えながらも特にフォローもせずに歩き出す箒。
しばらく歩いた後、誰もいない渡り廊下に差し掛かった時、彼女は徐に立ち止まり、渡り廊下から見える樹木の方を振り向き、突然一礼をしながら感謝の言葉を投げかける。
「………情報提供ありがとうございます」
『あらぁ~? この距離でバレちゃうだなんて、箒ちゃんも随分成長したわね!』
誰もいないはずの樹木から確かに聞こえる女性の声に、箒は別段驚くことなく対応する。
『暗部の頂点』に君臨する者にかかれば姿を見せずに会話をするぐらいどうということはないのだから………。
「中国政府のやり方には、やはり学園側も警戒しているのでしょうか?」
『う~~ん………中国政府云々よりも、別件のことで今はスパイには敏感になってるのよ』
「別件?」
『これ以上は教えてあげられな~い。でも可愛い箒ちゃんが『お願い、おねえたま(ハート)』ってしてくれたら考えなくも・』
「失礼します、会長」
強制的に会話を打ち切って再び歩き出そうとする箒であったが、そんな彼女に耳に、姿を見せない女性のすすり泣く声が響いてきて、溜息をつきながらもう一度樹木の方に振り返る。
『ううううっ………簪ちゃん!! 箒ちゃんが最近冷たいの!! お姉ちゃんは箒ちゃんのことを実の妹同然に愛しているのに!! ねぇ! お姉ちゃんの愛ってそんなに重たいの!?』
「(本当の所重たいのですが………)私の言葉が過ぎました。どうか許してください……その…『姉さん』」
最後は小声になってしまったが、しっかり聞き取ったのか、声の主は突然元気なって喋り出す。
『フフフッ! 箒ちゃんにお姉ちゃんと言ってもらって元気百倍!!』
「………それは良かったですね」
疲れる。この人のテンションが実の姉に通ずる物があるため、とにかく疲れる………と内心でまたしても溜息が漏れるが、そんな箒に先ほどまでとは打って変わった親愛を込めた声で女性は話しかけた。
『昨日病室に行ったら花が差し替えられたわね………婦長さんから聞いたわよ。毎日簪ちゃんのお見舞いに行って、時間があれば世話をしてるって』
「………差し出がましい真似をしました」
『怒ってるわけじゃないわ。ううん、その事では怒ってないの。感謝してるぐらい………だけどね、箒ちゃん?』
「私は………止まりません」
『………箒ちゃん』
二人の間にはこれだけで全てが伝わる。彼女が自分を心配してくれていることも、それでも箒は止まらない決意をしていることも。
「失礼します。早く授業に出ないと」
『そうね。私も早く帰らないと虚ちゃんにお小言言われちゃうから』
声の主の気配が消えるを感じた箒は、ゆっくりとその場で深呼吸すると、空を見上げながらポツリと心の声を漏らす。
「私は自分ことがいつも第一で、本当にヒドイ人間だよ、簪………」
☆
一方、鈴を追いかけていたセシリアと一夏はとりあえず二手に分かれて探索を続けていた。
一夏と別れたセシリアは、憤慨する心を抑えきれずにまるでそれを周囲に喧伝するかの如く、地面を踏みしめるような足音をたてながら鈴を探し回っていた。
「(信じられませんわ!)」
IS操縦者としても、一人の人間としても誇りを持っているセシリアにしてみれば、鈴のやり方は我慢のならないものである。
周囲の人間に露骨に取り入ろうとしたり、自分よりも劣る者を踏み潰したり、しまいには情に付け込んで一夏を騙して彼のデータを採取していたのだ。なんと誇りのない振る舞いなのだろうか?
「あのような方、IS操縦者にふさわしくありません!」
他国の国家代表候補生だろうがなんだろうが知ったことではない。見つけ次第この学園から追い出してやる! どこまでも真っ直ぐに決意するセシリアの耳に目当ての人物の声が聞こえ、瞳を輝かせる。
居場所は廊下の影、今度こそ逃がさない! と鈴をとっ捕まえようと廊下を曲がり掛けたその時であった………。
「………待ってください! 私、まだやれます!!」
『結果が出せなかった以上、君がIS学園に留まるのはマイナスにしかならない………迎えは明日寄越すから後始末をしておけ』
「ちょ、ちょっと!!」
抑揚のない男性の声で一方的に通信を切られた鈴は、まるで全身の力が抜けたかのようにその場にへたり込み、俯きながらブツブツと独り言を言い出す。
「ハッ………ハハハ……これで終わり……か」
「………」
まるで先ほどまでの鈴とはイメージがかけ離れた声に動揺し、廊下の影に身を隠すセシリア。
「ここまできて………最後はこんな終わりなの?………どうして? どうしてなのよっ!!」
そのうち鈴は廊下を何度も何度も素手で叩き始め、叫ぶ声から嗚咽が混じり始める。
「どうして………どうしてぇ!!」
「鳳さん………」
そんな鈴の姿が見ていられなくなったのか、廊下の影から姿を出すセシリア。鈴のほうはというと、突然姿を現したセシリアの方を見上げると、口元だけをニヤリと引きつらせると、彼女に向かって今までにはない鋭い言葉を投げつける。
「………聞いてたの?」
「………はい」
「いい気味でしょう? 周囲の人間に散々傲慢な振る舞いをした奴が、いとも簡単に切り捨てられて、明日からは晴れてただの小娘に成り下がるんだから」
「……………」
「わかってるわよ。あんた等が私のことを疎ましいって思ってることぐらい。でもね、私はそれでも結果を残さないといけないの、いけなかったの………さっきまではね」
「………鳳さん、私は…」
「気安い同情はするな!!」
鈴の怒鳴り声が響く中、セシリアはしゃがみ込むと鈴に自分のハンカチを差し出して、そして凛とした表情で言葉を紡ぐ。
「私にもわかるように事情を説明していただけませんか? 出来うるならば、どうしてそこまで結果を出すことに拘るのかを………」
「アンタに話してなんか変わるの?」
苦労のくの字も知らないお嬢様が余計なおせっかいを焼いてきた。最初はそう思った鈴であったが、セシリアの次の言葉にその考えを改める。
「ええ、変わりますわよ。だって………」
「だって?」
「この学園では、少しの困難でへこたれるような『甘い』人間の居場所はありません。出来たら貴方の事情を全て知った上で笑い飛ばして差し上げたいと思いまして………」
「へこたれる?………アンタ、ひょっとして私のこと言ってるの?」
「違いまして?」
セシリアのその笑みに怒りが湧き上がり、彼女の襟首を掴み上げる鈴。
「今私の手元にはISがないので、私を叩きのめすチャンスでしてよ?」
「……………」
「やりますか?」
あくまで余裕を崩さないセシリアに、なんだか急に馬鹿らしくなった鈴は手を離すと、彼女に背を向けて歩き出す。
「どうせ今日で終わりだから、全部洗いざらいぶちまけるのも一興ね………話してあげるから場所を変えるわよ?」
「ええ、結構ですわ」
セシリアも了承し、鈴の後を追う。
しばし歩いた後、鈴が話す場所に選んだのは、校舎の屋上であった。
「………いい風ね」
「……………」
潮風に乗った渡り鳥が大空を飛ぶのを見た鈴は、ぽつりぽつりと話し始める。
「………二年前、中国の方に帰った私の家族さ………父親の事業の失敗で離婚しちゃってさ……」
「……………」
「その頃私も一夏と引き離されたり、周囲の環境が変わったりで不安定で……そこに止めの親の離婚が重なって……親権が母親の方に移ったんだけど、毎日私は母親と喧嘩して、私がIS操縦者になるって言った時が一番の大喧嘩に発展したかな?」
「なぜ、ISの操縦者になろうと決められたのですか?」
「そりゃ、ISの操縦者は社会的に優遇されるし、親から自立するならそれが一番手っ取り早いって思ったからよ………それからかな? 母親から勘当同然で家を飛び出して、そのまま候補生『候補』として訓練を始めたのわ」
候補生『候補』という聞き慣れない言葉に首をかしげるセシリアであったが、そんな彼女に鈴は僅かに苦笑しながら説明をしてくれる。
「イギリスは暢気なのね………中国は人口が一番多いのよ? そのせいか候補生を目指す人間の数も多くて、まずは「候補生候補」としての篩(ふるい)をかけられるのよ」
軍属であるIS操縦者になるために、毎日毎日拷問のような訓練を積み、その中で数々の少女たちが合格点に見合わずに切り落とされていくのだ。
「そんな生活が毎日続いてね………それでも私は幸せだったわ。特にあの人に会ったことは奇跡だって思いたいの」
「あの人?」
セシリアの言葉に鈴は頷きながら、今までこの学園では誰にも見せていない、心からの笑顔を浮かべて語る。
「中国の正規代表でね………ある日、たまたま訓練の教官役で来てた所に、私が喧嘩吹っかけたんだけど、まだ候補生でもなかった私と真面目に決闘してくれてね」
「結果は?」
「もうボロ負け。気持ちの良いぐらいにね!………でもね、その人は後で言ってくれたの。『また自分と代表の座を賭けて真剣勝負をしよう』って………だから、私はあの人に追いつきたい。ううん………追いつきたかったのよ」
「鳳さん………」
鈴の密かな目標を聞いたセシリアであったが、そんなセシリアに鈴は自嘲気味の笑顔を浮かべながら、あきらめの言葉をついてしまう。
「でも、それも終わりね。任務を失敗した私は、明日になれば政府から迎えが来て中国に強制送還。候補生の資格も取り上げられて、一般人に逆戻り。もう二度とチャンスは巡ってこないわ」
定時連絡の際に告げられた言葉。どうやら自分の会話はデータ採取用のスキャナーを通して盗聴されていたようで、有無も言い訳も許されずに自分の未来は決定してしまったのだ。
「鳳さん、少し待ってください」
「ん?」
心に掬う絶望の感情に押しつぶされようとしていた鈴であったが、そんな彼女にセシリアはとある事柄を思い出す。
「もしかして………鳳さんはこの学園を去らなくても良いかもしれませんわ」
「あのね………いくらアンタが世間知らずのお嬢様でも、任務に失敗した軍人の扱われ方ぐらい想像が……」
「私の話を聞いてください鳳さん………実は…」
セシリアが思い出したとある事柄。
それを鈴に伝えようとしたときであった………。
「「!!」」
突如、校舎の一角が爆発し、爆風の中から異形が産声を上げて現れたのは………。
もうちょっと話のテンポをメリハリつけたいな………。
さてさて、もう定例となり始めてきたオーガコアとの戦闘です。そして鈴の初出撃!
間に合うか、セシリアとラウラの新型!?
そして空気だぜ男子二名!
あと、箒と話していた声の主は一体何者なんだろー(棒読み)