IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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さてさて、またしても投稿が遅れて申し訳ありません!

強敵オーガコアとの海上戦は如何なる決着をもたらせるのか?


ではお楽しみください



海上空中戦・後編

 

 

 

 

 

「鈴ッーーー!!」

 

 目の前でオーガコアの攻撃を受け、装甲がボロボロの状態で海中に沈んでいく鈴の姿を見た一夏が彼女の名前を呼びながら絶叫する中、一瞬だけ一夏と同じように我を忘れかけた陽太であったが、コンマ数秒で意識を持ち直すと、数発のプラズマ火球を弾幕にしつつオーガコアを海面から引き剥がしにかかる。

 その攻撃を受けて翼で火球を受け止めるオーガコアであったが、突如自身の翼の内側に何かが割り込んでくるのを感じて全身を総毛立たせる。それは火球を放った瞬間、放った攻撃を追い抜いて海面を前転しながら滑り込んできた陽太が下方から顎に目掛けてプラズマ火炎を纏った両足を突き上げてきたのだった。

 下から突き上げた渾身の蹴りは見事オーガコアの防御を貫き、装甲の一部と共に上空へと吹き飛ばすことに成功する。

 

「(なるほど、どうやら四六時中振動しっぱなしって訳でもないのか。おそらく自壊を防ぐ為か、エネルギーの関係か、インターバルがあるな………)織斑弟ッ!!」

「!?」

「海中に沈んだ中国娘を引き上げて来い! 文句あるか!?」

「い、いやっ!」

 

 陽太の言葉に我を取り戻した一夏は、すぐさま海中に沈んだ鈴を引き上げるために自身も潜水する。それを見送った陽太は、すぐさま上空へと意識を向けた。

 

 陽太の不意打ち染みた攻撃を受けたオーガコアは、多少のダメージを受けた模様だったが、それが返って引き金となったのか、怒りに身を任せて翼の全長を引き伸ばし更に凶々しい様相に変化しており、紅椿を駆る箒のビーム光波を高速で回避すると、出力を増したフォノンメーザーを撃ち返し、目に付くもの全てを亡き者にしようと果敢に挑んでくる。

 

「Fカップ!!」

「その言い方をどうにかしろ!」

「直接刃での攻撃は絶対にするな!! 斬るのも受けるのもビームでコーティングしろ!」

 

 自分の言葉を無視した陽太にムカッ腹が立つ箒であったが、有無を言わさぬ力強さを含んだ言葉に、とりあえず素直に引き下がった箒は、雨月にエネルギーを纏わせた強烈な一撃を、翼で全身を覆いながら突進してくるオーガコアに叩き付け、そしてすぐさま彼の言葉の意味を理解することになった。

 

「!?」

「コイツッ!」

 

 甲高い超音を発しながら、ブレイズブレードのプラズマだけではなく紅椿のビームまで拡散させ始めるオーガコア。しかも今までにはない速度でビームを拡散させて箒を弾き飛ばしたオーガコアは、更にそこから翼での追撃を仕掛ける。

 

 ―――鞭のようにうねりながら箒に襲い掛かる翼―――

 

「クッ!」

 

 ―――それを咄嗟に空割で受け止める箒―――

 

 だが次の瞬間、一瞬でヒビ割れる空割と、彼女の内面を猛烈な振動が襲い掛かり、まるで体の内部を虫に食いつかれている様な激痛と、上下の、左右の、自分がどこに立っているのか、という空間認識を消失し、箒はゆっくりと海面に落下していく。

 

「Fカップ!!」

 

 海面に落下していく箒を寸でのところで受け止める陽太であったが、そんな彼の背後からフォノンメーザーを発射しながら三度突進してくるオーガコア。

 

「チッ!」

 

 間一髪で突進を回避する陽太。だが………。

 

「グッ!?」

 

 攻撃は確かに掠ってもいない。だが紙一重で回避したはずの陽太の三半規管が強烈な異常を起こし、意識が闇に落ちそうになるが、途絶えそうになる意識に渇を入れて、激しい頭痛と嘔吐感に襲われる中本能的にオーガコアから距離を取る。

 おそらくオーガコアの自己進化機能によって、自分の周囲の空気すら振動兵器として使用してきたのだろう。近接戦闘どころか、ヘタに近寄ることすら出来なくなってきた。そもそも箒を担いだままでは不可能だが………そのことを理解したのか、オーガコアがフォノンメーザーを乱射しながら陽太達を追い詰めていく。しかも箒を担いだ状態の陽太よりもオーガコアの方が速いのか、距離を取ったにもかかわらず悠々と差を詰めてくる。

 

「調子に乗りやがって!」

 

 有効な手立てを打ち立てれずに逃げの一手になっている現状に歯痒い思いを抱えながら、陽太はISを横滑りさせてフォノンメーザーを回避し、続けて飛んでくる音子の槍を水柱が上がる中を蛇行しながら回避し続ける。腕の中の箒も意識がはっきりせず、未だに復帰する様子もない。

 

 このままではいずれやられる! 嫌な予感が陽太の背筋に冷たい汗を流させるのだった………。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ―――あれ? 私………?―――

 

 夕日によって紅く染まる海面の中をゆっくりと沈んでいく鈴の意識は、現実と虚構の合間を行ったりきたりして、キラキラと光る幻想的な海上の様子とあいまって、彼女の意識をゆっくりと奪い始める。

 

 ―――あ、そうか。私、このまま死ぬんだ―――

 

 普段ならば笑い話にもしないような『自分の死』という現実を、鈴は冷静に受け止めた。まるでそのことが当たり前に思えてしまって………。

 

 ―――かっこ悪い………何も出来ないままで死ぬなんて―――

 

 潮水である海の中で、海水とは違う種類の液体が鈴の瞳から流れでて、一瞬で海と交じり合う。

 

 ―――なんだ。中途半端な私に相応しい、特になんの奇跡も」起こらないままのエンディング………お似合いだわ―――

 

 心地良かった日本の地を離れて、戻った祖国。

 そして起こった、両親の離婚。

 自分と母から背を向ける父親。

 そしてそのことに反発するように、母親から背を向けてIS操縦者になる自分。

 毎日の厳しい訓練、自分が上がるために他を蹴り落とすのが当たり前になった日常。

 そこで出会った尊敬する国家代表(ひと)。

 

 ―――でも………もういいか―――

 

 諦めを受け入れた鈴の気分は、驚くほどに楽なものになった。

 これ以上無理をして、誰かを騙して、自分を騙して、誰かを傷付けて、自分も傷付いて、そんな日常に戻るよりも、このまま自分が死ぬことを受け入れるほうがずっと楽な気分になれる。

 

 ―――全部中途半端で放り出しちゃうけど………それでもいいじゃない―――

 

 彼女は気がつく。自分は周囲の状況に反発していたけど、それを変えようとはしていないじゃないか。心の表面では良心を痛めるフリをしながら、深い部分ではそれを当たり前のように受け入れている自分がいたのだ。

 

 ―――あ………オーガコアに取り憑かれてた、あの娘―――

 

 自分がしたことが彼女を狂わせたというのであれば、こんなに悲しくて苦しいことはなかった………こんな最低な自分が、ひたむきに努力していた彼女の大事な物を踏み潰して、粉々にしたというのであれば、尚更このまま死ぬことを選んだ方が彼女のためになろう。

 

 ―――ゴメン………私なんかがこの学園に来なきゃ、こんなことにならなかったのにね―――

 

 このまま目を閉じて静かに海の底深くまで沈んでしまえば、もう誰も傷つかないだろうか? それともあの娘が正気に戻ってくれるだろうか? だったとしたら自分の終わりにも少し意味が持てる気がして、ホンの僅かだが喜びの感情が芽生える。

 

 ―――赤い光が、遠…のく………―――

 

 海中深く沈むことで、段々と光の量が減っていく。いや、自分の意識が闇に沈んで行っているだけのか………今の鈴にはその判断すら出来ないでいた。

 

 ―――ああ………私………―――

 

 彼女の意識を繋ぎ止めていた赤い夕陽が徐々に小さくなり、そして………。

 

「ッッッカ野郎ぉぉぉぉっ!!!」

 

 白い閃光と良く知る少年の声が、彼女の『意識(世界)』を染め上げるのだった。

 

「い、一夏!?」

「さっきから聞いてりゃ、好き放題つまんねぇーこと言いやがって!」

「なっ! どこから聞いてたのよ!?」

 

 自分の言葉を聞かれていたことに、萎えかけていた意識が一瞬で覚醒し、そして猛烈な羞恥心が湧き上がった鈴は、とにもかくにも今までの独白をなかったことにしようと大慌てで訂正し始める。

 

「無しッ! 無しにしなさい!! 三秒以内に記憶から消し去れッ!」

 

 それ故に鈴は気が付いていなかった。海中でしかも日光が届かない深さまで落ちているはずなのに、今いる空間が、白い粒子で輝いている不思議な温かさを宿した場所であることにさえ………。

 

「無しになんて出来るかよ!」

「無しにしろ! 私の名誉のために!?」

「死ぬ気マンマンだったくせに名誉もクソあるかよ!」

「!? うぎゃああああっ! ホント、すぐに忘れろ!」

「そんなことどうでもいいんだよ!!」

「私はどうでも良くないのよ!! ああ、もう!! なんでアンタっていっつも妙に間の悪い時に、心の地雷原に笑顔で侵入するような真似してくんのよ!? しかもその後、相手が女とみれば年齢国籍に関係なくなんでかフラグまで立てるしさ!!」

「何の話だよ!?」

 

 『最悪、ホント死にたい』と頭を抱えて苦悩する鈴であったが、そんな彼女の両肩を掴んで、今まで見せたこともないような真剣な表情で鈴に問いかける。

 

「お前、本当にこのまま逃げるのかよ! 何もせずに、それで済ませるのかよ!!」

「!?」

「どうなんだよ! 答えろよ!!」

 

 一夏の問いかけに鈴は答えることができずに目を逸らしてしまう。だがそんな鈴の態度に苛立ったのか一夏は更に強い言葉で詰め寄るのだった。

 

「自分のせいでオーガコアに取り憑かれちまった奴がいるって分かってんだろう!? そんで今もソイツが暴れてて、陽太達が戦ってるんだろ!? それなのにお前は何もしないで自分一人で終わる気なのかよ!?」

「………なさい」

「答えろよ!」

「黙りなさいよ! 何も知らない癖に!!」

 

 だが、鈴から出たのは反省でも謝罪でもない。堪え続けていた涙を流しながら、一夏の両肩を逆に掴み返して、怒鳴り返す。

 

「アンタに何が分かるのよ!」

「鈴………」

「私、一人でずっとやってきた! 一人でずっと頑張ってきた! 訓練も命令もどれ一つ漏らさないように! どんな嫌な目にあっても、認めて貰おうって必死にやってきたのよ!………でもね、そんなの国の上層部には関係なかった。私の代わりなんていくらでもいるからね! 分かる!? 私のやってきたことなんて、私の気持ちなんてどうでもいいってことよ!」

「…………」

「笑えるでしょう!? 我慢して頑張ってればいつか認めて貰えるだなんて本気で信じてたんだよ!? その為なら誰かを蹴落としても仕方ないって、卑怯な真似をいっぱいしてきたんだよ!! その報いがこれよ! どう? 最高に滑稽でしょ! 因果応報って言葉が似合いすぎて私自身、笑えちゃうわ!」

 

 鈴のその泣き笑いしている姿が一夏にはどうしようもなく突き刺さる。

 もし彼女が誰かを傷つけることに慣れ切っていたなら感じなかっただろう。

 傷付けられた方からすれば「だからどうした?」と言い返されるかもしれない。勝手な罪悪感かもしれない………だけど、目の前の自分の幼馴染が選んだことが、何一つ報われないまま、彼女をただ絶望させただけの結果に終わったことが、その報いを彼女自身が終わらせることを望んでいることが、彼にはどうしても許せないのだ。

 

「もう私に関わるな! アンタは………ちゃんとした光の当たる道を歩きなさいよ。千冬さんの跡を継いで、強くて何よりも真っ直ぐに誰かを守るIS操縦者になりなさいよ」

「………わかった」

 

 そう短く言い放つと一夏は清々しい笑顔で彼女に笑いかけた。

 

「じゃあ、まずはお前を守るとするよ、鈴」

「なっ!? ア、アンタ、私の話聞いてなかったの!? 私は関わるなって………」

「鈴」

 

 まだ反論しようとする鈴であったが、一夏の真剣な眼差しによって、頬を真っ赤に染めたまま何も言えなくなってしまう。

 

「俺もさ、IS操縦者になって上手くいかないことばっかりなんだ。操縦なんて陽太には五流の中の五流とか言われるし、ISの構造なんて教科書開いても全く理解できないし………でも、逃げたくないんだ」

「一夏………」

「一度でも逃げたら、もうこの場所に戻ってこれなくなっちまう気がするんだ………だから逃げたくない。俺は絶対に逃げない」

 

 なぜならば、どれだけ逃げても………きっとその先には自分が尊敬している人達の姿は絶対にない。あの二人は、逃げずに戦い抜くことを選んで貫こうとしているのだから………。

 

「だから、逃げるなよ………お前が傷付けてしまった人からも、傷付いちまった自分自身から………」

 

 そういって彼は自分の右手を鈴に差し出して、こう言ってのけた。

 

「俺は友達から手ぐらい差し出せるよ、でもな鈴………立ち上がるのは、いつだって自分自身の力じゃないのか?」

「!?」

 

 その言葉が、鈴の中に燻っていた何かに火を着ける。そして一夏は鈴に向かって最後の一押しとなる言葉を口にした。

 

「俺は行くけど、鈴は『どうする?』」

「………決まってるじゃない!!」

 

 すでに決まりきっていたかのように一夏の手を鈴が掴んだ瞬間、白い粒子に覆われていた空間が四散し、彼らの意識が現実に引き戻されたのだった………。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 肌を刺すような殺気が蔓延する海上を亜音速で飛行する陽太は、己の後方の空間にぴったりと張り付いて離れないオーガコアに苛立ちながら、何度目かになる横滑りを行いフォノンメーザーを回避する陽太。現状、箒を肩に担いだ状態では絶対に上昇は出来ない。彼女を抱えた状態では最高速度を出すことも十分な急加速を行うこともできないゆえに、上昇途中で追いつかれて不利な体勢で背後から攻撃されるのは非常にまずいからだ。

 焦れたオーガコアが更にもう一発発射してくるが、陽太は更に蛇行して回避すると、大幅に曲線を描きながら旋回して海上を疾走する。

 

 そもそも得意な距離の戦闘は中距離から近接への高速離脱戦法であるが、陽太にはそれ以上にこのような広域での高速飛行の方が適正が高く、以前このことを千冬は『ISが無ければ、お前は立派な飛行機乗りになっていた』と褒めたこともあった。そんな陽太の飛行技術にオーガコアは自分の攻撃を掠らせることも出来ずに、まるで空中で地団太を踏む子供のようにイライラしながらフォノンメーザーを乱射するのだった。

 

「(直線には絶対飛ばない)」

 

 最高速度で勝る相手に直線で飛べば必ずやられる。知識としても本能的にもそれを理解している陽太は先ほどから蛇行するような軌道を繰り返しているのだ。

 

「うっ!………火…鳥………」

「しゃべんな。舌噛むぞ」

 

 腕の中の箒の意識が戻ったことを確認した陽太であったが、今すぐ彼女をこの場で手放すことは出来ない。IS学園に引き返せればいいのだが、それをすれば間違いなくオーガコアも彼らを追いかけてくる。そんなことになればせっかくこの海上まで引き剥がしたことが意味を成さなくなるため、陽太は先ほどからこの海域をぐるぐると旋回しながら箒の回復を待っていたのだ。彼女をかばった状態では流石の陽太も攻勢に出ることができないが、彼女が回復してくれさえすれば、フルパワーのフェニックスファイブレードであのオーガコアを撃墜できるかもしれない。

 

「(もっとも………俺が威力を誤れば…)」

 

 自分の匙加減ひとつで命が失われるかもしれない………だが、それをしなければオーガコアは大量の死人を出すことになるだろう。知らず知らずのうちに表情を強張らせた陽太は、腕の中にいる箒に声をかける。

 

「後どれくらいで回復できる?」

「ウッ!………は、早く手を離せ!」

「寝ぼけるな。今は冗談言ってる場合じゃないんだ………冷静な意見を聞いてる」

「………後、2分あれば8割ほど回復させられる」

「2分だな」

 

 主義ではないが、ここは一つ箒への貸しとして逃げに徹してやるかと決断した陽太であったが、その時、オーガコアが予想だにしない新たなる攻撃手段を取ってきた。

 陽太にフォノンメーザーが掠らせることもできないオーガコアは、なんと自分の翼を引きちぎると、ブーメランよろしく、そのままフルスイングで投げつけてきたのだ。

 

「!?」

 

 咄嗟に箒を抱えながらバレルロールして回避するが、そこへ更にもう一枚の翼が飛来し、反射的に脚部のスラスターを全開にして跳躍してその一撃もなんとか避ける陽太。

 

 ―――そこへ放たれるフォノンメーザー―――

 

「火鳥ッ!?」

「痛ッ!!」

 

 射線にいた箒を庇う様に無理やり身体を捻って直撃を避けた陽太であったが、代償として右肩の一部を装甲ごと深く斬り裂かれてしまう。力を入れれば大量の出血と痛みと共に拳に力が入るあたり、神経は繋がっているようだが………。

 

 だが、箒を抱えたままでこれ以上の空戦はできそうもない。出血が激しく、時間がたてば自分も戦闘不能になるのは明白であり、逃げ回ることもできそうもない。ならば取るべき手段は一つ、非常にリスクが大きく、そしてオーガコアか自分か、どちらかの命が高確率で失われてしまうであろう最後の手段。

 覚悟を決めた陽太は箒にぴしゃりと言い放つ。

 

「大きく息を吸え。海中に入ったら浮上せずに潜水してIS学園を目指せ。いいな?」

 

 要約すると『海に放り捨てるから自力で学園まで戻れ』とも取れる言葉であるが、箒はむざむざと敵に背を向けることを了承する女ではなかった。当然のように猛抗議してくる。

 

「キサマッ、 そんな身体で一人で戦う気か!?」

「今のお前よりもマシだ。それにな………」

 

 陽太が一瞬だけ息を呑み、そして目を瞑って、一人の少女のことを思い出す。春風のような優しい声で自分を呼ぶ少女………。

 

 ―――ヨウタッ!―――

 

「………これは俺の仕事だ。『アイツ』を見捨ててまで選んだ、俺の仕事だ」

「………火鳥?」

 

 柄にもなく感傷的になったなと自重すると、箒を海面に放り出すために手の力を緩めようとした時であった。ハイパーセンサーが海中の何かを捉え、陽太と箒、そしてオーガコアすらも一同に海面を凝視する。そしてそこにあった光景はまるで………。

 

 ―――海の中で輝く、白い太陽―――

 

 深い海の底から、海鳴りを引き連れて何かが競りあがってくる。そしてそれが海面を大爆発させて空中に一気に躍り出た。

 

 ―――飛行形態に変形した鈴と、その鈴のISにしがみ付いた一夏―――

 

「一夏ッ!?」

「中華娘ッ!」

 

 二人のいきなりの出現に驚いた陽太と箒を尻目に、鈴と一夏はスピードを緩めることなく上空を駆け巡りながら、作戦を練る。

 

「でっ!? 一夏!? 全身振動兵器になってるアイツ相手に、アンタは何か作戦はないの!?」

「? 振動兵器?」

「アンタ、話聞かずにここまできたんじゃないでしょうね!?」

「振動兵器ってなんなんだよ…?」

「!? とにかく触れられないのよ! 触れたら死んじゃうの!?」

「………え? じゃあ突撃して・」

「砕けるのよ! アイツに当たったら、一方的にアンタが砕けるのよ!」

 

 冴える鈴のツッコミと一夏のボケ………意識を取り戻して、勢い良く海上に飛び出したら、たまたま戦闘区域のど真ん中だったとは二人以外知る由もない。

 

 陽太がもしこの会話を聞いていれば、間違いなく二人を殴りに入っているところである。だが、勢いだけで登場した二人に、希望の手を差し出す者が通信越しに現れる。

 

『鳳さん!? 一夏さん!!』

「セシリア!?」

「え? アンタはISないんじゃ……」

『お二人とも、そのままわたくしを信じて、オーガコアに向かって突進してください!!』

「「!?」」

 

 真剣味のあるセシリアのその言葉。普通に考えれば接触すれば粉々にされかねない相手に『突撃しろ』などと言われても、実行することなどできない………相手への強い『信頼』がなければ………。

 

「「了解!!」」

 

 だが、今の一夏と鈴はセシリアのその言葉を真っ直ぐに信じることのできる、強い『信頼(チカラ)』がある。だからこそ、二人は真っ直ぐにオーガコアへと突っ込んでいく。

 

「バカ! やめろ!?」

 

 一見して、愚かとしか言いようのない二人の行動を止めようと声を張り上げる陽太。それは陽太が『強者』あるがために、未だ陽太が知らない感情(キモチ)からの行動を起こす二人の考えが理解できないがゆえの声であった。

 

「「(セシリアッ!)」」

 

 そんな陽太の声を無視しながら、オーガコアへと突撃する二人。対してオーガコアは、一度沈めた筈の獲物の息の根を今度こそ止めてやろうと、最大出力のフォノンメーザーを放つためにその凶悪な砲口を開く。

 

 それを30km先の狙撃手が狙っていたとは知らずに………。

 

「(開いた!!)」

 

 先ほどから戦闘区域をハイパーセンサーで確認していたセシリアであったが、通信機能が上手く機能せず、陽太への通信ができないまま、いつでも狙撃できる体勢を維持したまま待機していたのだが、通信機能の復旧と同時に、一夏と鈴の復活を確認し、二人へと通信を入れたのだ。

 そして、新たなるブルーティアーズ・トリスタンのガンバイザー越しに確認していたオーガコアの能力を、セシリアは把握し、最適なタイミングで狙撃を行うために鈴たちにあえて敵へと突貫を依頼したのだ。

 

「(このタイミング、そしてお二人の信頼………裏切るわけにはいけませんわ!)」

 

 セシリアが見切ったオーガコアへの最適な、そして仲間への最適な「援護(狙撃)」のタイミング………それは奇しくも、一番最初のオーガコアとの戦闘の時、陽太が彼女に指示したものと同一のものであった。

 つまり、敵の攻撃の瞬間こそが、最大の反撃のチャンス!

 

「………ブルーティアーズ・トリスタン! セシリア・オルコット!!」

 

 汗ばむ指先に力を込め、光と共にその視線が悪魔の顎(あぎと)を射抜く。

 

「目標を射抜きます!!」

 

 ―――夕焼けの空を奔る一条の蒼光!!―――

 

「「「「!?」」」」

 

 遥か彼方、30km先のIS学園の屋上から放たれた蒼い高出力レーザーは、真っ直ぐに空中を駆け、海上で多少の減衰をすることもなく、今にも放たれそうになっていたフォノンメーザーを放つ、オーガコアの『口内』のど真ん中を射抜き、半秒遅れてオーガコアの口内が爆炎を吹き上げる。

 如何にプラズマやビームを拡散させることのできる振動能力とはいえ、物質を振動させるスピードには限界があり、そして物理世界では最速である、秒速30万kmのスピードを持つ『光(レーザー)』のスピードには、拡散させるスピードが追いつかなかったのだ。更にそこへ臨海まで達してたフォノンメーザーのエネルギーまでもが内部爆発を起こし、如何に堅牢な装甲を持つオーガコアとはいえ、相当なダメージを受けてしまい、全体振動を起こすことができない。

 

 そしてその隙を見逃す一夏と鈴でもなかった。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 人型に変形させ、両手に巨大な青龍刀『双天牙月』を構え、間合いを詰めた鈴は、口内をレーザーで焼かれてもがき苦しむオーガコア暴走体に向かって迷うことなく一直線に突っ込んでいく。

 

「アンタ『は』間違えた!」

「!?」

 

 暴走したオーガコアに届くはずもない言葉。だが、それでも鈴は自分のせいで道を踏み外してしまった少女に伝えたい気持ちがあったのだ。

 

「私『も』間違えた! だから………だから、アンタは私『達』が絶対に救ってみせる!!」

「!!」

 

 理解できる状態ではないはずなのにオーガコアの動きが一瞬鈍くなったのは決して気のせいではなのだろう………だからこそ、鈴はこの一瞬に全てを賭けるように、渾身の斬撃をオーガコアにむかって振るってみせた。

 

「はああああああっ!!」

 

 交差する鈴とオーガコア。そしてオーガコアの翼をすれ違いざまに切り裂いた鈴は、背後から続けて詰めてくる相棒の名前を大声で叫ぶ。

 

「一夏ぁぁぁぁぁぁっ!!」

「うおおおおおおっ!!」

 

 雪片弐型を肩に担ぎ、裂帛の気合と共にオーガコアに向かっていく一夏。

 間違えたことを悔やんでいるからこそ、その間違いのせいで今も苦しんでいる少女を救いたいと思う鈴の気持ちを無駄にしたくない一夏もまた、自分の渾身の一撃に全てを賭ける。

 

『展開装甲起動。雪片弐型参式・烈空』

 

 一夏の熱い気持ちに白式が応えたのか、肩に担いだ雪片弐型が瞬時に変形し、いつもの片刃の日本刀のようなフォルムから、両刃のサーベルのようなフォルムに変形する。

 

「な、なんだ一体………って、ええい、ままよ!!」

 

 この土壇場で変形されても、何の効果があるのか確認するヒマもない。半ばヤケクソ気味に叫ぶとオーガコアに向かって刃を振ってみせる。

 

 ―――紅の空を走る白き閃光―――

 

 オーガコアに向かって雪片弐型から放れた白い『飛ぶ』斬撃は、肩口から脇腹の辺りまでオーガコアを切り裂くと、白い光がオーガコアの全身に迸り、ドス黒い装甲に亀裂が入る。

 

「!!」

 

 内部から白い光が溢れ出たと思った次の瞬間、黒い装甲が粉々に砕け散り、中から全裸の少女と紫色に光るオーガコアが飛び出し、海面に向かって堕ちていく。慌てて転進して、海面に落ちていくクラスメートの少女を抱き止める鈴。

 

「………ハアァ…」

 

 若干の憔悴した表情なものの、呼吸は落ち着いているようで一安心した鈴から安堵のため息が漏れる。もしこれで彼女に万一のことがあったならば、それこそ自分は死んでも死に切れない気分になっていた所だったので、緊張してしまったが、どうやら取り越し苦労ですみそうだ。

 

「オーイ! 鈴!! その娘は無事なのかよ~!!」

「うん、アンタのおかげ様……!!」

「グエッ!」

 

 腕の中の少女が裸なのに気がついた鈴は、そうとは知らずに暢気に近寄ってきた一夏が彼女を覗き込もうとした瞬間、彼の顔を掴み上げると『目を閉じろ! てか、アッチに行け!』と理不尽な要求を行う………一夏の顔面にベアクローをかましたまま。見れば箒もその様子に気がついたのか、一夏を引っ張って行こうと彼の首根っこを掴んで『一夏! 貴様、男子でありながら!』とか言い放つ。結果、一夏は首を胴体から引っこ抜かれそうになりながら陽太に助けを呼ぶ。

 

「よ、陽太ァッ~~!!」

「……………」

 

 そんな一夏の問いかけを完全に無視して、陽太は海面に漂うオーガコアを拾い上げると、ようやく一夏の方に振り返る。

 

「……………」

 

 ―――相性の差があったとはいえ、自分が手こずったオーガコアを仲間と連携して倒した一夏―――

 

「……………」

 

 操縦者としては未熟者もいい所のレベル、戦闘者としても半端な覚悟しかない者。

 だが、自分には出来なかったことを、限界を超えることで、仲間を得ることでそれを成していく。

 

「……………」

 

 沈黙したまま知らず知らずのうちに拳に力が入る。陽太自身、何をそんなに気にしているのか、何にそれほどまでに焦っているのか理解できない。

 

 一人でも戦っていけてしまう『天才(強者)』である陽太には、仲間を作ることでしか得ることの出来ない強さが何なのか、理解できずにいたのだった………。

 

 

 

 

 ―――数日後―――

 

 

 

 

「……………」

 

 広い二組の教室に鈴が入ってきた瞬間、生徒達の喧騒はピタリと止み、代わりに遠巻きに彼女に対しての辛辣な言葉が小声でヒソヒソは話され始める。

 

「……………」

 

 もう鈴にとっては、慣れ始めた日常の光景。自分が命令されていたとはいえ、自分の意思でやってしまった以上、この学園にいる間はずっとこの時間が続くものだと思っていたためか、特に表情を崩すことなく、穏やかに受け入れていた。

 

「止めなさいよ………見っとも無い」

「!?」

 

 だが、その日は違っていた。

 クラス中の生徒、鈴も含んだ全員が教室の入り口を凝視すると、オーガコアに取り憑かれ、救出されて以来、数日振りに登校したクラス代表の少女が立っていたのだ。

 

 少女は鞄を持ったままツカツカと歩き出すと、自分の言葉に凍り付いている生徒達の間を通り過ぎ、鈴の隣の自分の席に黙って座ると、鞄から教科書を出して授業の準備をし始める。

 

「………アンタ………」

 

 呆然とその少女を見つめる鈴であったが、そんな鈴の方を振り返ることなく、少女は鈴に話しかける。

 

「私………感謝はしてないわよ」

「!?」

「だけどね、助けてもらったことを何とも思わないほど恩知らずな訳でもないから」

「……………」

 

 鈴がどう返したらいいのか分からずに黙り込んだまま困惑するが、少女は横目でチラリと見ると、表情を崩すことなく言い放つ。

 

「クラス代表、貴方の代わりにしてあげる………」

「!?」

「だけどね、勘違いしないで。今は貴方の代理で代表をするだけ………近い内に実力で貴方を倒して、正式に代表に返り咲くから」

「……………」

「貴方を倒せる算段がつき次第リベンジするから………」

 

 少女の宣戦布告とも取れる言葉であったが、だが鈴には何故かその少女のこの言葉は、ただの慰めの言葉よりもずっと優しいものに思えて、思わず満面の笑みで返事をしてしまう。

 

「うん!」

「……………」

 

 そんな鈴の笑顔に、少女は表情を崩すことなく耳を赤く染めてしまう。

 

「アンタ、見かけによらず、いい奴じゃない!」

「!! 貴方の方こそ、見かけと同じで無礼じゃない」

「それでさ!」

「何よ?」

「アンタ、名前、なんて言うんだけっ?」

 

 少女が机を拳で強打しながら立ち上がると、来た時よりも鼻息を荒くして教室を出て行くのを、鈴は不思議そうな表情で見つめ続けるのだった………。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 フランスの首都、パリにあるフランス最大の空港である『シャルル・ド・ゴール国際空港』において、ピンク色のリボンで金色の髪を纏め、首にオレンジ色の宝石が着いたチェッカーを巻き、薄手のカーディガンと白いワンピースを着た少女が、キャスター付きの大きな旅行用鞄を手に、日本行きの飛行機に搭乗しようとしていた。

 

「IS学園への手続きはもう済ませておいたわ。向こうについたらちゃんと挨拶をするのよ?」

「うん、分かってるよ『おかあさん』!」

「時々でいいから連絡をすること。それ以外はお義母さんは何も言わないから」

 

 その少女の『義母』である、妙齢ながらそれを感じさせない年若さを持つ女性が、少女に搭乗券を渡しながら言いつけるように話し始める。

 

「うん。すっかりいい表情ね。その様子だったら、陽太君は今度こそシャルロットのことほっとけないわ」

「!!」

 

 少女は義母のその言葉に、表情を林檎よりも真っ赤に染めて抗議し始める。

 

「だから! 私とヨウタはそういう関係じゃ………」

「だったらどういう関係? 陽太君が他の子と付き合ってても笑って許せる関係?」

「うううっ………おかあさんの意地悪…」

 

 義母に上手いことやり込められ、口先を尖らせながら抗議するが、そこは生まれてからの年の差か、余裕の表情で受け流されてしまう。だが搭乗時間が差し迫ってくると、意地悪そうな会話から一転、血の繋がらぬ母親は、それでも心の底から目の前の少女を慈しむ表情で、彼女の旅立ちを祝う言葉を義娘に贈るう。

 

「………彼と仲良くね」

「………うん、それじゃあ…」

 

 だが、そんな母娘の暖かいやり取りがなされる中を、男性の声が割って入ってくる。

 

「シャーーーーーーーーールーーーーーーーロッーーーーーートォォォォォッ!!!!!」

「お、お父さん!」

 

 五人のSPに羽交い絞めにされて少女と同色の髪とスーツとネクタイを乱しながらも、それでも彼らを引きずりながら、少女の日本行きを阻止しようとヴィンセント・デュノアは二人に近寄ってくる。

 

「待ちなさい! お父さんはお前の日本行きは認めていないぞ!! てかいうか、絶対に認めてなるものか!!」

「アナタ………ハアァ~」

 

 この一月の間、夫との間で延々と繰り返されている会話に、いい加減うんざりくる妻であるベロニカであったが、それでもヴィンセントは諦める気など毛頭なかった。

 

「IS操縦者になる必要はない! それに陽太君のために日本に行くだと? お父さんは二人の結婚など認めていないぞ!!」

「だからっ、違うって言ってるでしょう!!」

 

 頭に血が昇った状態で思考が暴走している父親に、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして半分涙目に突っ込みを入れる娘であったが、暴走した父親には最早言葉そのものが通用しない。

 

「お前はまだ16歳だろ!? 子供が出来てしまったらどうする気だ!? 彼は定職についていないだろ!! 日本は雇用情勢が今は悪いんだ! そんな状態でお前と子供を育てられる甲斐性が彼にあるわけがない!! お父さんはお前が泣く泣く子育てしながらアルバイトする姿なんぞ見たくないんだぁぁぁぁぁぁ!!」

「お、お父さん!?」

「シャルロット、お前はお父さんがちゃんとこれから生涯面倒を見るから、だからそんな粗雑で乱暴者な男の元になんぞいかんで、お父さんの元にグヘッ!?」

 

 いい加減ウンザリが頂点に来たのか、夫の鳩尾にハンマーのような一撃を叩き込むベロニカ………ちょっとSPたちすらも青ざめるぐらいに容赦がない。

 

「仕事のし過ぎで錯乱しているようですね。車の荷台にでも放り込んでおいてください」

「ハ、ハァ………」

 

 改めて、デュノアの権力構造が妻>娘>社長であることを認識したSP達は、誰一人反論することなく、気を失いながらも『シャル~~、お父さんの元に~~、おのれ小僧~~』とつぶやいているヴィンセントを引きずってその場を退出する。

 

「「ハァ~」」

 

 義母と義娘が同時に溜息をつく中、空港内のアナウンスで彼女が乗る飛行機の搭乗案内が流れる。

 

「それじゃあ、改めて………おかあさん、行ってきます!」

「いってらっしゃい、気をつけてね、シャルロット」

 

 一月前とはうって変わり、意志を宿した瞳をしたシャルロット・デュノアは、義母に別れを告げると、日本行きの飛行機に乗り込む。

 

「ヨウタ………待っててね!」

 

 

 

 

 

 

 




鈴編はこれにて終了です。クラス代表の少女はついに名前が出ないままでしたが、近々名前付きで再登場させますので、ご期待ください。




そして、ついに、ついに!

この小説のメインヒロインがIS学園に!!

諦めが悪い親父でしたが、親父さんは悪くないんです! ただ娘を好き過ぎて、暴走してるだけなんです!www


そして、次回はついに陽太との再会!?

ファンのみんなは「パイルバンカー放り込まれろ」と言われてますが、はてさて、どうなることやら


それでは、次回もご期待ください!!

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